コンクリート構造物のひび割れ と劣化について

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建設材料 鋼 コンクリート れんが 木材 2

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コンクリートの性質第 13 回 各種コンクリート 暑中 寒中コンクリート 高強度コンクリート 高流動コンクリート 水中コンクリート ポーラスコンクリート 繊維補強コンクリート 耐久性 中性化 塩害 凍害 暑中コンクリート 日平均気温が 25 以上では 暑中コンクリートとして施工しなければならない 注

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3. リチウムイオン内部圧入による ASR 膨張抑制効果 本章の目的 ASR 劣化コンクリートにリチウムイオンを内部圧入 ASR 膨張を抑制することができるか? そのときの必要リチウムイオン量は? 4

3-1 2 修繕工事の実態 ( ヒアリング ) 計画修繕は 定期点検等で明らかになった建物の劣化の補修のため 調査 診断 修繕計画の作成 工事の実施へと 区分所有者の合意を形成しつつ 進められる 当勉強会で実施したヒアリングより 管理会社による点検 定期点検は 1 回 / 年の頻度で行っている 目視

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16 コンクリートの配合設計と品質管理コンクリートの順に小さくなっていく よって, 強度が大きいからといってセメントペーストやモルタルで大きい構造物を作ろうとしても, 収縮クラックが発生するために健全な構造物を作ることはできない 骨材は, コンクリートの収縮を低減させ, クラックの少ない構造物を造る

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コンクリート構造物のひび割れ と劣化 その対策について 岡山大学名誉教授 阪田憲次 1

インフラをめぐる状況 少子高齢化 人口減少 人材難 低経済成長 地球温暖化 異常気象と災害の巨大化 社会基盤の老朽化 長寿命化 維持管理 補修 補強 更新 廃棄 東日本大震災と南海トラフ地震 想定外 減災 国土強靭化 2

人口動態 総人口 若年層人口 高齢者人口 生産年齢人口 14 歳以下 65 歳以上 15~64 歳 2014 年 1 億 2,714 万人 1,633 万人 3,237 万人 7,843 万人 割合 (%) 100% 12.8% 25.5% 61.7% 2050 年 9,708 万人 939 万人 3,768 万人 5,001 万人 割合 (%) 100% 9.7% 38.8% 51.5% 3

地球温暖化 4

東日本大震災からの教訓 想定外災害は次に起こる災害によって凌駕される 減災 設計におけるフェイルセーフ化 被災しても人命が失われないことを最重視する 5

南海トラフ巨大地震 (2012 年 8 月 29 日の想定 ) (2013 年 3 月 18 日の想定 ) マグニチュード :9.1 震度 6 強以上 :24 府県 239 市区町村 震度 7:10 県 151 市区町村 20m 以上の津波 :8 都県 高知県黒潮町 :34m, 8 分 死者 ( 風の強い冬の深夜 ):32.3 万人 全壊焼失建物数 :238 万 6 千棟 経済的被害 :230 兆 3 千億円 (GDP の 42%) 国土強靭化 ( ストックの議論であり フローの視点で 論じてはならない ) 6

インフラの老朽化と維持管理 荒廃するアメリカ 1981 年 :Pat Choate 博士アメリカの公共施設への投資の縮小のため欠陥橋梁が占める割合が45% に上る状況に警鐘を鳴らした 60~75: ヴェトナム戦争傷病兵の為の社会福祉予算 7

橋梁の劣化状況 8

( 国土交通省 HP) 9

( 国土交通省 HP) 10

コンクリート構造物の劣化と耐久性 コンクリート構造物の劣化には 特別の劣化作用による早期劣化と時間とともに老化する経年劣化とがある 耐久性とは 時間の経過に伴うコンクリートおよびコンクリート構造物の性能低下 ( 経年劣化 ) に対する抵抗性を意味する 耐久性とは 種々の劣化作用 ( 早期劣化 ) に抵抗し 長期にわたって使用に耐える性質である 11

コンクリート構造物の劣化とその原因 12

コンクリートのひび割れと劣化 コンクリートおよびコ ンクリート構造物の劣化とひび割れとは密接に関係する ひび割れはその原因に よって特徴がほぼ決まっており ひび割れから劣化の原因を推測できる ひび割れは劣化 耐久性低下の前兆となる コンクリートの劣化と補修のわかる本 セメントジャーナル社 13

ひび割れの原因 分類 項目 原因 セメント 異常凝結 膨張 水和熱 材料 骨材 含有鉱物 泥分 反応性骨材 コンクリート 沈下 ブリージング 乾燥収縮 練混ぜ 運搬 長時間の練混ぜ 圧送および運搬時の加水 打込み 締固め 不十分な締固め 打継ぎ処理の不良 施工 養生 初期養生不良 ( 乾燥 凍結 ) 硬化前の振動 鉄筋工 配筋の乱れ かぶりの不足 型枠工 型枠のはらみ 支保工の沈下 温度 湿度変化 火災 凍結融解 部材両面の温度 湿度差 環境 化学物質 酸 塩類の化学作用 有害物質の侵入 中性化 塩化物イオン ( 鉄筋腐食 ) 外力 オーバーロード ( 地震 積載荷重 ) 構造 外力 基礎 地盤 構造物の不同沈下 設計 断面 鉄筋不足 14

水和熱による温度ひび割れ 内部拘束 外部拘束 15

収縮ひび割れ 乾燥収縮が ベースコンクリート等に拘束され それによって発生する引張応力によりひび割れが発生する 等間隔で 拘束面より垂直に発生する ベースコンクリート ベースコンクリート 16

型枠及び地盤に起因するひび割れ 17

アルカリ骨材反応 アルカリ シリカ反応 (NaOH or KOH) + シリカ鉱物 シリカゲルアルカリ反応性鉱物シリカゲル + 水 膨張 ひび割れ アルカリシリカ反応の条件 1 反応性鉱物 ( クリストバライト オパール等 ) を含む骨材が存在する 2 コンクリート内部のアルカリ度がある限度値以上になる 3 十分な水分が供給される 18

アルカリ骨材反応によるひび割れ たがいに120 度をなして発達する3 本足のひび割れ (3 legged Cracking) となる ただ 配筋状態や鉄筋量によってはこのような特徴がない場合もある ひび割れ幅はきわめて大きく 著しい劣化を引き起こす恐れがある 19

反応性骨材を使用するときの対策 1 低アルカリセメントを使用する 2 単位セメント量を小さくする 3 高炉セメントやフライアッシュセメントを使用する 4コンクリート中のアルカリ総量を 3.0 kg/m 3 以下とする 5 外部からの水の浸入を遮断する 6コンクリートが十分に乾燥するまでコンクリート表面を被覆しない 20

ペシマム ( 最悪 ) 値 ペシマム値 6 5 膨張量 4 3 2 ペシマム値 1 0 20 40 60 80 100 混合率 21

鉄筋の腐食による劣化 鉄筋が腐食すると その体積はもとの約 2.5 倍に膨張し その膨張圧によってかぶりコンクリ - トにひび割れを生じさせ 剥離を引き起こさせる その原因としては コンクリートの中性化と塩化物イオンのコンクリート中への侵入が考えられる 22

中性化 ( 炭酸化 ) Ca(OH)2 + CO2 CaCO3 + H2O ph = 12.5 ph = 8.5 フェノールフタレィン 1% アルコール溶液噴霧で赤紫色を呈する部分は中性化していない 中性化深さ = γ α t 中性化速度係数 ; α = 3.57 + 9.0 (W/B) 温度が高いほど 湿度が低いほど 中性化は速くなる 23

塩化物イオンによる鉄筋腐食 24

海洋構造物の環境と鉄筋腐食 常時大気中 ( 酸素 ) HWL 飛沫帯 ( 酸素 水 ) 潮汐帯 ( 酸素 水 ) LWL 常時水面下 ( 水 ) 25

鉄筋腐食の防止対策 緻密なコンクリートとする 1 水セメント比の低減 2 高炉スラグ微粉末等の混和材の添加 3 入念な施工 鉄筋の防錆対策 1 亜鉛メッキ鉄筋 エポキシ樹脂塗装鉄筋 2 防水処理 ( 床板 ) 3 電気化学的防食 かぶりの増加( 設計 ) 26

MgSO4 + Ca(OH)2 + 2H2O 硫酸塩 耐硫酸塩性 CaSO4 2H2O + Mg(OH)2 石膏 3CaO Al2O3 + 6H2O 3CaO Al2O3 6H20 アルミン酸 3 石灰 ; アルミネート相 ( クリンカーを構成している化合物 ) 3CaO Al2O3 6H2O + 3(CaSO4 2H2O) + 20H2O 3CaO Al2O3 3CaSO4 32H2O エトリンガイト ( セメントバチルス ) エトリンガイトの生成はきわめて大きい体積膨張を引き起こし コンクリートに膨張性のひび割れを生じさせ 組織が緩み 崩壊が進行する 27

凍害 ( 凍結融解作用 ) 大気 エントラップトエアー :0.2~2.0% 100μm 以上 ( 気泡間隔係数 :400~700 μm) 氷結圧 エントレインドエアー :3~6%, 数 μm~100 μm ( 気泡間隔係数 :150~200 μm) 氷結圧により コンクリートは表面からスケーリングを起こし ぼろぼろになる ひび割れは亀甲状を示し 放射状に入る 28

地震 津波による損傷 地震の揺れによる損傷 津波による損傷 29

コンクリート構造物の劣化対策 事前対策 : 設計段階における耐久性の 考慮 : 耐久設計 供用期間中における対策 : 維持管理 ( 点 検 劣化度の判定 ) 事後対策 : 補修 補強 更新 廃棄 30

耐久性の照査 設計の段階で耐久性を保証する 予測式 コンクリートの配合条件等 ( 安全係数 )X( 劣化現象の設計値 ) ( 制限値 ) 実験 実績 31

中性化の照査 構造物係数 :1.0( 重要構造物 1.1) 中性化に対する耐用年数 ( 年 ) γ i y d y lim <1.0 中性化深さの設計値 =γ cb α d t α k β e γ c 鋼材腐食発生限界深さ =C-C k C: かぶりの期待値 : 設計かぶり C k : 中性化残り通常環境 10mm 塩分環境下 10~25mm とするのがよい α k : 中性化速度係数の特性値 β e : 環境作用の程度を表す係数 γ c : コンクリートの材料係数 32

各種係数等予測値 中性化速度係数 :αp = 3.57 + 9.0 W/B 塩化物イオンに対する拡散係数 : 普通ポルト ; log Dp = -3.9(W/C) 2 + 7.2(W/C) - 2.5 高炉 シリカ ; log Dp = -3.0(W/C) 2 + 5.4(W/C) - 2.2 相対動弾性係数 : 試験 JIS A 1148(A 法 ) で求めてよい 最大 W/C を表で与える 耐化学的侵食性 : 最大 W/C を表で与える コンクリートの透水係数 : 試験で求める log Kp = 4.3(W/C) - 12.5 33

ひび割れ幅に対する照査 ひび割れ幅の算定:w =l(εs εc) w : ひび割れ幅 l: ひび割れ間隔 εs : ひび割れ間における鉄筋の平均ひずみ εc : コンクリート表面の平均ひずみ ( 乾燥収縮 ) w w a ( 許容ひび割れ幅 ) c: かぶり 34

水和熱によるひび割れ発生に対する照査 I cr (t) γ cr I cr (t): ひび割れ指数 I cr (t)=f tk (t)/σ t (t) f tk (t): 材齢 (t) におけるコンクリート引張強度の特性値 σ t (t): 材齢 (t) におけるコンクリート最大引張応力度 解析により算出 γ cr : ひび割れ発生危険度および ひび割れ指数の精度に関わる安全係数 一般に 1.0~1.8 としてよい. ひび割れを防止したい場合 :1.75 以上 ひび割れの発生をできるだけ制限 したい場合 :1.45 以上 ひび割れの発生を許容するが ひび割れ幅が過大にならないように 制限したい場合 :1.0 以上 35

水セメント比の最大値と最小かぶりの標準値 下表に示すコンクリートの水セメント比とかぶりを満足し かつひび割れ幅が 前に示した許容ひび割れ幅を超えなければ コンクリートの中性化 塩害 凍害および化学的浸食に対する耐久性照査に合格したものと考えてよい 36

コンクリート構造物のメンテナンス コンクリート構造物 ( インフラ ) の長寿命化 メンテナンスの時代 * メンテナンスマネジメントシステムの構築 1) データベース カルテの整備 2) 予防保全 ( 劣化が進む前に こまめに補修して長寿命化を図る 更新投資額の削減と維持管理費の増加 : アセットマネジメントで評価 ) 3) メンテナンス技術の開発 劣化度検査の頻度 検査箇所およびその方法 37

コンクリート構造物のメンテナンス ( 続 ) 劣化度の判定 ( 診断の標準化 ) 劣化度に応じた補修あるいは補強の程度と方法 * 社会構造および環境変化に応じたメンテナンスの高度化 高機能化 人口減少 ( インフラの廃棄 or 更新 ) 異常気象 ( ゲリラ豪雨に対応する貯水量の増加 ) * メンテナンスを担う人材の育成と資格認定 1~2 週間程度の技術講習会受講者を検査員に認定する ( 既存資格の活用 シニアの活用 ) * 財源の確保 ( 道路特定財源等 ) 38

ライフサイクルの中に位置づけた維持管理 施工 供用 設計 維持管理 廃棄 更新 補修 補強 検査 評価 39

むすび ひび割れは コンクリートの有する欠点の一つであり コンクリート構造物の劣化と密接に関係する コンクリートのひび割れには 有害なものとそうでない避けられないものとがあることを理解すべきである 有害なひび割れを避け コンクリート構造物の適切な維持管理によって その長寿命化を図ることが求められている 40