390 章皮膚の良性腫瘍 2. 脂腺腺腫 sebaceous adenoma 中高年の顔面, 頭皮に好発する黄色調の結節および腫瘤. 病 理組織学的に脂腺分化を示す良性腫瘍である. 3. 脂腺腫 ( 脂腺上皮腫 ) sebaceoma(sebaceous epithelioma) 図.11 脂腺腫 (sebaceoma) 顔面や頭皮に生じるドーム状あるいは有茎性の結節 ( 図.11). 黄色調を呈することもある. 病理組織学的に, 基底細胞様の腫瘍細胞の増殖を認める. 未分化な細胞がみられるなか, 一部で脂腺細胞や導管への分化を認める. D. 汗腺系腫瘍 sweat gland tumors 1. エクリン汗囊腫 eccrine hidrocystoma 顔面に単発, ときに多発する, 直径 2 3 mm の常色 青色調の半透明小結節 ( 図.12). 多発する症例では夏季に増加, 冬季に減少する傾向がある. エクリン汗腺の真皮内汗管が拡張, 囊腫化したものと考えられる ( 図.13). 断頭分泌はみられない. 針で穿刺すると汗の貯留が確認される. 図.12 エクリン汗囊腫 (eccrine hidrocystoma) 2. 汗管腫 syringoma 症状エクリン汗腺の真皮内汗管が限局性に増殖した結果, 直径 1 3 mm 大の正常皮膚色の扁平隆起性および小丘疹が多発する. 眼瞼部に好発し, 体幹に播種状に認められることや融合傾向を示すこともある ( 図.14). 女性に多く, 汗の分泌量が増加する思春期に目立つ. 自覚症状はないが, 自然消退することもほとんどない.17 章 p.311 の MEMO も参照. 図.13 エクリン汗囊腫の病理組織像 病理所見真皮上 中層に, 大小の管腔構造と索状構造がみられる. 管腔の一端に, 短い尾のような上皮索をつける特徴的な像 オタマジャクシ様 (tadpole-like) またはコンマ状 (comma tail) を呈する. 管腔は 2 層の壁細胞からなり, 周囲に結合組織の増殖をみる ( 図.15).
D. 汗腺系腫瘍 391 a b c d e 図.14 汗管腫 (syringoma) a 2 5 mm b c d e 鑑別診断 ぞくりゅうろうそう臨床的に顔面播種性粟粒性狼瘡, 稗粒腫, 血管線維腫, エク リン汗囊腫などとの鑑別を要する. 治療自覚症状がなく悪性化もないため通常治療は必要としない. 整容的に問題がある場合は, 炭酸ガスレーザー療法や凍結療法, ケミカルピーリングなどが行われる. 図.15 汗管腫の病理組織像 汗腺由来の腺腫の分類
392 章皮膚の良性腫瘍 3. エクリン汗孔腫 eccrine poroma a 定義 症状エクリン汗腺の汗管導管部の外側細胞が増殖したものであり, その一部は汗管内腔細胞, さらに汗管分泌部細胞に分化する. 広基性または有茎性の小結節で, 暗赤色で易出血性を示すのが特徴であるが, とくに足底や手掌に好発する ( 図.16). b 図.16 エクリン汗孔腫 (eccrine poroma) a b 病理所見連続性に表皮から真皮内へ腫瘍細胞 (poroid cell) の増殖巣を認め, その中では好酸性の細胞が小管腔を形成する クチクラ細胞 (cuticular cell), 図.17. 腫瘍細胞は多量のグリコーゲンを含む. 治療 まれに悪性化 エクリン汗孔癌 (eccrine porocarcinoma,22 章 p.436 参照 ) するため外科的に切除する. 4. エクリンらせん腺腫 eccrine spiradenoma エクリン汗腺の真皮内導管および腺細胞への分化を示す良性腫瘍である. 顔面, 頸部, 体幹, 上肢に単発する直径 1 2 cm の境界明瞭な硬い皮内および皮下結節. 表面は正常皮膚色または青色で, 自発痛や圧痛を伴うことが特徴である ( 図.18). 病理組織学的には, 大型明調細胞と小型暗調細胞が柵状および塊状に増殖し, 管腔構造を形成する. 図.17 エクリン汗孔腫の病理組織像 5. 乳頭状エクリン腺腫 papillary eccrine adenoma 四肢に好発し, 直径 1 3 cm 大の小結節が単発する. 病理組織学的に, 種々の大きさの囊腫構造と, 上皮細胞の内腔への乳頭状増殖を認める. 断頭分泌はみられない. エクリン汗管に分化する良性腫瘍と考えられているが, 管状アポクリン腺腫 ( 後述参照 ) との異同について議論が続いている. 図.18 エクリンらせん腺腫 (eccrine spiradenoma) 6. 結節性汗腺腫 nodular hidradenoma 顔面, 頭部に好発する単発性の皮内結節. 腫瘍細胞は, 暗調で細長い核をもつ紡錘形細胞と, 円形の核をもつ澄明細胞とが種々の割合で存在する. 後者が目立つものを澄明細胞汗腺腫 (clear cell hidradenoma) と呼ぶ. エクリンないしアポクリン系
D. 汗腺系腫瘍 393 の分化を示す良性腫瘍と考えられている. ときに悪性化することがあり, 悪性結節性汗腺腫 (malignant nodular hidradenoma) と呼ばれる. 7. 皮膚混合腫瘍 mixed tumor of the skin 同義語 : 軟骨様汗管腫 (chondroid syringoma) 青壮年の顔面 ( 上口唇, 鼻, 頭部 ) に好発する, 比較的硬い皮内結節ないし皮下結節 ( 図.19). 下部は可動性を有することが多い.1 2 層の壁細胞で囲まれた管状構造をとる上皮性組織と, 粘液様および軟骨様の間葉系組織とが混在してみられることが特徴である. 断頭分泌や毛包系, 脂肪細胞への分化がみられることもある. エクリンおよびアポクリン汗器官由来の良性腫瘍とみなされる. まれに癌化する. 8. アポクリン汗囊腫 apocrine hidrocystoma アポクリン汗器官系腫瘍. 中年以降の眼囲, 顔面, 耳, 頭皮部に単発するドーム状に隆起する透明ないし青色調で直径数 mm 2 cm の小結節. 真皮内に巨大な囊腫構造を認め, アポクリン分泌を示す 1 層の円柱状細胞とその外側に位置する筋上皮細胞から構成される. 通常自覚症状はない. 患者が希望すれば外科的切除を行う. 図.19 皮膚混合腫瘍 (mixed tumor of the skin) 9. 円柱腫 cylindroma 日本人にはほとんどみられない. 思春期の頭部などに,1 10 cm 大で半球状ないしは軽度有茎性, 正常皮膚色 褐色の腫瘤が通常多発する ( 図.20). 頭部全体を侵し, ターバンを巻いているような外観を呈することがある ターバン腫瘍 (turban tumor). まれに単発例も認める. 多発型は常染色体優性遺伝を示し, 多発性家族性毛包上皮腫 (p.387 参照 ) と同様に CYLD1 遺伝子の異常が同定されている. 汗腺系への分化を示す腫瘍細胞の集塊が, 巣状にジグソーパズルのように配置する. まれに悪性化し, 悪性円柱腫と呼ばれる. 図.20 円柱腫 (cylindroma) 10. 乳頭状汗腺腫 hidradenoma papilliferum 女性の外陰部に好発するドーム状の小結節で, びらんや出血を伴いやすい. 肉芽組織に類似する. 病理組織学的にはアポクリン分泌像を示す腺上皮細胞の密な乳頭状増殖をみる. アポク
394 章皮膚の良性腫瘍 リン汗腺腫瘍の代表例. 11. 乳頭状汗管囊胞腺腫 syringocystadenoma papilliferum 図. 乳頭状汗管囊胞腺腫 (syriogocystadenoma papilliferum) 小児の頭部や顔面に好発する疣状結節で, 表面は紅色で, ときにびらんを伴う ( 図.). アポクリン汗器官性過誤腫で, 脂腺母斑に続発することが多い. 病理組織学的には内腔側に高円柱状細胞, 外側に立方体状細胞の 2 層の管状構造を示し, 間質には著明な形質細胞浸潤を伴う ( 図.22). 12. 管状アポクリン腺腫 tubular apocrine adenoma 多くは頭部に好発し, 脂腺母斑から生じることもある. 直径 1 2 cm の正常皮膚色 褐色の結節. 病理組織学的には, 乳頭状エクリン腺腫 (p.392 参照 ) と同様に多数の小囊腫と乳頭状の上皮増殖がみられるが, 断頭分泌の像を伴う. 13. 乳頭部腺腫 adenoma of the nipple 同義語 :erosive adenomatosis of the nipple 乳頭に生じる良性の腫瘍. びらんや滲出液を伴う場合が多く, ぺージェット 乳房 Paget 病や乳管癌との鑑別を要する. 病理組織学的には密 な乳頭状増殖を伴う管腔構造がみられ, 断頭分泌が観察される. 乳頭部の乳管由来の良性腫瘍である. 治療は外科的切除であり, 取り残しがあると再発する. 図.22 乳頭状汗管囊胞腺腫の病理組織像