エポキシ樹脂塗装鉄筋 ステンレス鉄筋 丸屋 * 剛 1 はじめにコンクリート構造物の耐久性を向上させる補強鋼材として, エポキシ樹脂塗装鉄筋とステンレス鉄筋を紹介する いずれも, 土木学会において設計, 施工に関する技術が基準化されているものであり, これら鉄筋の極めて高い耐食性を発揮させることにより, 厳しい腐食性環境下で供用されるコンクリート構造物の耐久性の大幅な向上が期待でき, また, 社会基盤構造物の長期的な維持管理費を大幅に低減させライフサイクルコスト (LCC) の最小化を実現することも可能な材料である 2 エポキシ樹脂塗装鉄筋エポキシ樹脂塗装鉄筋とは, 静電粉体塗装法を用いてエポキシ樹脂塗装を施した鉄筋である 塗装方法には, 静電気を利用した静電粉体塗装法や被塗物を加熱した状態で粉体塗料の流動層に入れ粉体塗料を融着させる流動浸せき法などがあるが, エポキシ樹脂塗装の方法として防食性を確保でき, 形状による制約の回避と多数の鉄筋を効率よく塗装することができる静電粉体塗装法によったものが に示すエポキシ樹脂塗装鉄筋である 我が国でエポキシ樹脂塗装鉄筋が初めて基準化されたのは,1983 年に日本協会 ( 以下,JCI と略記 ) から出された 海洋コンクリート構造物の防食指針 ( 案 ) であり, 第 2 種防食方法 ( コンクリートのみで対処する以外の防食方法 ) の一つとして挙げられている その後,1984 年には日本道路協会の 道路橋の塩害対策指針 ( 案 ) に取入れられ,1986 年には土木学会の エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いる鉄筋コンクリートの 設計施工指針 ( 案 ),1991 年には JCI の 海洋コンクリート構造物の防食指針 ( 案 ) 改訂版,23 年には土木学会の エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いる鉄筋コンクリートの設計施工指針 改訂版 ( 以下, エポキシ樹脂鉄筋指針と略記 ) として基準化されている 海外では,1981 年に ASTM,199 年に BS,1999 年に ISO が制定された このように国内外で基準化が進められた中, アメリカのフロリダ州で建設されたエポキシ樹脂塗装鉄筋を使用した橋脚に, 施工後 1 年足らずで著しい劣化が生じたためエポキシ樹脂塗装鉄筋の使用が禁止されたこともある 劣化の生じた原因は, エポキシ樹脂塗装前の処理が不十分で塗膜の密着性が悪かったこと, 施工時の塗膜のはがれや長期的な屋外放置による紫外線劣化, およびコンクリートの品質が悪かったことなどである しかし, 星野らは, 長期間の海洋暴露実験によりエポキシ樹脂塗装鉄筋が耐久的な材料であることを明らかにしており 1), 我が国におけるエポキシ樹脂塗装鉄筋の品質に問題のないことを再認識させる結果となった に 1981 年から 29 年までのエポキシ樹脂塗装鉄筋の使用目的別総使用実績を, に構造物の種類 2 184 56( 化学的侵食, 結防止対策, その ) 2 423 2 942 合計 93 329 85 22 塩害対策地 筋の腐食対策 鉄筋耐久性化学的侵食 結防止対策その 2 111 2 29 5 715 23 96 1 1 7 669 合計 93 329 5 619 橋梁上部橋梁下部桟橋トン ル 岸コンクリート その * / 大成建設 技術センター ( 正会員 ) 78
工事件数 12 1 8 6 4 2 2 22 24 26 28 21 年度 土木建築合計 発注量 ( ) 1 8 6 4 2 土木建築合計 2 22 24 26 28 21 年度 2) 2) 2) 名称 外観 ピンホール 塗膜厚 耐衝撃性 曲げ加工性付着強度耐食性硬化度 ごとの総使用実績を示す また, にエポキシ樹脂塗 装鉄筋を使用した工事件数の推移を, にエポキシ 樹脂塗装鉄筋の発注量の推移を示す 24 年以降工事 1 件当りの発注量が大きく減少したことで, 図のような傾 向となっている, および には塩 害対策として使用された桟橋と橋梁の施工例をそれぞれ示した エポキシ樹脂塗装鉄筋の品質はエポキシ樹脂鉄筋指針 2) では, に示す土木学会規準 JSCE E 12 エポキシ樹脂塗装鉄筋の品質規格 に適合しているものとされており, 塗膜の外観, 塗膜厚, ピンホール, 耐衝撃性, 曲げ加工性, コンクリートとの付着強度, 耐食性, 塗膜硬化性の各項目が規定されている エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いる最大の長所である耐食性を活用する設計に当たって, 構造物の耐久性を塩化物イオンの侵入に伴う鋼材腐食に関する照査により確認する必要がある コンクリート中への塩化物イオンの侵入により鉄筋の腐食が開始する時期は, 鋼材位置における塩化物イオン濃度が鋼材の腐食発生限界塩化物イオン濃度を超えた時点であるので, エポキシ樹脂塗装鉄筋を使用した場合には, 塗膜の塩化物イオンに対する遮へい効果を定量化して同様の考えでその時点を計算することにしている 2) 具体的には, エポキシ樹脂塗装鉄筋の素地鋼材表面における塩化物イオン濃度を式 ( 1 ) で計算し, 鋼材の腐食発生限界塩化物イオン濃度と安全係数を考慮して照査する 式 ( 1 ) は塗膜を塩化物イオンの移動に関してはコンクリートのかぶりに換算する形となっている æ æ c cep Cd = cl C - e f 1 æ ööö γ 1 + 2 t Dd Dep d ø ø ø ( 1 ) C : コンクリート表面における想定塩化物イオン濃度 (kg/m 3 ) 2) 品質 塗膜が均一でたれ, 突起, 異物付着の著しいものがないこと D 19 以下 5 個 /m 以下 D 22 以上 8 個 /m 以下 22±4 μm で, かつその範囲を超える頻度が 1% 以下 撃芯が直接当たった部分の周囲で塗膜の破砕, 割れ, はく離および浮きがないこと 5 本曲げ加工した後, クラック発生率が 2% 以下 塗装鉄筋の最大付着応力度が無塗装鉄筋の 85% 以上 平均発錆面積率が 5% 以下であること 塗膜に傷が付かないこと c : かぶりの期待値 (mm) c ep : エポキシ樹脂塗膜の厚さの期待値 (mm), 一般に, JSCE E 12 エポキシ樹脂塗装鉄筋の品質規格 において規定する塗膜厚の中心値 (22 μm) Vol. 49, No. 5, 211. 5 79
D epd : エポキシ樹脂塗膜内での塩化物イオンに対する拡散係数の設計用値 (cm 2 / 年 ), 一般に,2 1-6 cm 2 / 年 t : 塩化物イオンの侵入に対する耐用年数 ( 年 ), 一般に, 式 ( 1 ) で評価する鋼材位置における塩化物イオン濃度に対しては, 耐用年数 1 年を上限 γ cl : 鋼材位置における塩化物イオン濃度の設計値 C d のばらつきを考慮した安全係数, 一般に 1 3 としてよい ただし, 高流動コンクリートを用いる場合には,1 1 D d : 塩化物イオンに対するコンクリートの設計拡散係数 (cm 2 / 年 ) ここで, エポキシ樹脂塗膜内における塩化物イオンの見掛けの拡散係数の設計用値 2 1-6 cm 2 / 年は, エポキシ樹脂は紫外線により劣化すること, 品質規格で 1 m あたり 5 個までのピンホールを許容していること, 有害な損傷が確実にすべて補修されることを完全には保証できないことなどから決められた値であり, 全く欠陥のないエポキシ樹脂内であればさらに小さな値と考えられる なお, に無塗装鉄筋とエポキシ樹脂塗装鉄筋を用いた場合の素地鋼材表面における塩化物イオン濃度の試算例 ( 飛沫帯である C =13 kg/m 3 において, 高炉セメント B 種を用い, 水セメント比を 45% とした場合 ) をかぶりごとに示す エポキシ樹脂塗膜がいかに塩分浸透抵抗性を有しているかがよくわかる エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いた設計上の最大の注意点は, 無塗装の異形鉄筋と比較してコンクリートとの付着 特性が異なることである すなわち, エポキシ樹脂塗装鉄筋の付着強度の特性値 f bok を, 式 ( 2 ) に示すように圧縮強度の特性値 f' ck( 設計基準強度 ) に基づいて無塗装異形鉄筋に対して求められた値の 85% とすることである f bok =.23f'ck 2/3 (f bok 3.5 N/mm 2 ) ( 2 ) 付着強度が小さくなることは, 曲げひび割れ幅の算定でも考慮する必要がある 静的曲げ載荷試験における無塗装鉄筋を用いた場合との比較によれば, 最大ひび割れ幅の増加は 1% 程度であることから, 式 ( 3 ) に示すように鋼材の表面形状がひび割れ幅に及ぼす影響を表す係数 k 1 を 1 1 として曲げひび割れ幅 w を算定する w = 1 1 k1k2k3 4c + 7 ( c - ϕ) e/ ε c d { }[ + ] ( 3 ) k 1 : 鋼材の表面形状がひび割れ幅に及ぼす影響を表す係数で 1 1( 無塗装鉄筋では 1 1, 普通丸鋼および PC 鋼材では 1 3) k 2 : コンクリートの品質がひび割れに及ぼす影響を表す係数 k 3 : 引張鋼材の段数の影響を表す係数このように, エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いた場合, 無塗装鉄筋よりひび割れ幅は 1% 増加するので, 鉄筋応力度が同一の場合を想定すると, 無塗装鉄筋を用いたものはひび割れ幅の限界値を満足し, エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いたものがひび割れ幅の限界値を超える場合がある しかし, エポキシ樹脂塗装鉄筋の耐食性を考慮して, ひび割れ幅の限界値も無塗装鉄筋を用いた値より 1% 割り増してよいので限界値を満足することとなる 鉄筋位置における塩化物イオン濃度 (kg/m 3 ) 1 8 1 6 1 4 1 2 1 8 6 4 2 16 mm 17 mm 18 mm 19 mm 無塗装鉄筋 2 4 6 8 1 12 年数 鉄筋位置における塩化物イオン濃度 (kg/m 3 ) 1 8 1 6 1 4 1 2 1 8 6 4 2 5 mm 6 mm 7 mm 8 mm エポキシ鉄筋 2 4 6 8 1 12 年数 3) 3 ステンレス鉄筋ステンレス鉄筋とは,28 年 3 月制定の JIS G 4322 鉄筋コンクリート用ステンレス異形棒鋼 に規定された異形棒鋼で, 普通鉄筋と同様の形状を有するようにステンレス鋼 ( クロムを 1 5% 以上かつ鉄を 5% 以上含有している鉄鋼材料 ) から熱間圧延によって製造されたものである に示すように, 鋼材の化学成分から 3) 種類の記号定義強度区分 SUS 34 SD SUS 316 SD SUS 41 SD JIS G 4322 に規定された規格を満足するオーステナイト系のステンレス鉄筋 JIS G 4322 に規定された規格を満足するオーステナイト系のステンレス鉄筋 JIS G 4322 に規定された規格を満足するフェライト系またはマルテンサイト系のステンレス鉄筋 降伏強度 MPa 引張強度 MPa 295 A 295 44 295 B 295 44 345 345 49 39 39 56 295 A 295 44 295 B 295 44 345 345 49 39 39 56 295 A 295 44 295 B 295 44 345 345 49 39 39 56 相当鋼種 SUS 34( オーステナイト系 ) SUS 34 N 2( オーステナイト系 ) SUS 316( オーステナイト系 ) SUS 316 N( オーステナイト系 ) SUS 41 L( フェライト系 ) SUS 41( マルテンサイト系 ) 8
SUS 34 SD,SUS 316 SD,SUS 41 SD の 3 種類が規定されており,SUS 34 SD の鋼種には,SUS 34 および窒素を添加した SUS 34 N 2 が,SUS 316 SD の鋼種には SUS 316 および窒素を添加した SUS 316 N がある SUS 41 SD の鋼種には,SUS 41 および炭素含有量の少ない SUS 41 L がある また,28 年 8 月に土木学会で ステンレス鉄筋を用いるコンクリート構造物の設計施工指針 ( 案 ) が制定されており, 今後実用に向けて実績を増やしていく段階にある はステンレス鉄筋の外観を示したものである 製造工程において, 酸化スケールおよび Cr 欠乏層の除去などのため酸洗処理を行うが, この処理により写真に示すような銀色を示す 海外においては, コンクリート構造物におけるステンレス鉄筋も LCC の優位性が認識され規格の整備が進み, 海岸 海洋構造物等において多くの施工例がある ~ には国内の施工事例を示した ステンレス鉄筋を用いる最大の長所である耐食性を活用する設計に当たって, 構造物の耐久性を塩化物イオンの侵入に伴う鋼材腐食に関する照査により確認する必要がある 具体的には, ステンレス鉄筋の鋼材表面における塩化物イオン濃度を式 ( 4 ) で計算し, 鋼材の腐食発生限界塩化物イオン濃度と安全係数を考慮して照査する ここで, 腐食発生限界塩化物イオン濃度 C lim の推奨値についてはステンレス鉄筋の種類ごとに に示すように定められている 注意すべき点は, ステンレス鉄筋の腐食限界塩化物イオン濃度は ph の影響を受けることであり, 中性化の影響がステンレス鉄筋に及ぶ場合にはこの値をそのまま用いることは危険である 表 3 に示されている値は鋼材周辺が中性化していないときの値 である æ cd Cd = cl C æ - e f ç 1 öö γ 1 2 D t ø ø d ( 4 ) また, ステンレス鉄筋は普通鉄筋に比べて耐食性がきわめて高く, ひび割れから塩分等の腐食促進物質が侵入しても簡単には腐食しないため, 鋼材腐食を抑制する観点からは, 普通鉄筋のようにコンクリートのひび割れ幅を小さく抑える必要はない しかしながら, ひび割れ幅が過大となることにより海水がコンクリート内部の鉄筋に直接触れるような場合では, ステンレス鉄筋に腐食が生じる可能性が大きくなる 以上から, 鋼材腐食に対するひび割れ幅の限界値は のように定められている なお, 一般に異種金属が接触することにより腐食が進行するものとされているが, 普通鉄筋の腐食発生限界塩化物イオン濃度といわれる 1 2 kg/m 3 の塩化物イオンを混入したコンクリート中で, ステンレス鉄筋と普通鉄筋を接触させ, オートクレーブ等によって促進試験を行った 3) 試験結果によると, 普通鉄筋とステンレス鉄筋が接触したことによる普通鉄筋に対するステンレス鉄筋の腐食促進の影響は見られなかった したがって, ステンレス 3) ステンレス鉄筋の種類 腐食発生限界塩化物イオン濃度の推奨値 kg/m 3 SUS 34 SD 15 SUS 316 SD 24 SUS 41 SD 9 3) ステンレス鉄筋の種類 SUS 34 SD SUS 316 SD SUS 41 SD ひび割れ幅の限界値 (c はかぶり mm) 5 mm 5 mm 5 c あるいは 5 mm のいずれか小さい値 Vol. 49, No. 5, 211. 5 81
f d f d =f d ε-ε =f d = ε = ε ε ε ε a 増分型バイリニアモデル b バイリニアモデル SUS 41 SD 295 SUS 41 SD 295 以外 3) 鉄筋と普通鉄筋が接触する場合においては, その位置における普通鉄筋の耐久性照査を示方書 [ 設計編 ] に基づいて行い, これを満足していれば, 両者を接触させても耐久性上大きな問題にならないと考えてよいとされている ステンレス鉄筋の応力 ひずみ曲線は鋼種や強度特性などによって異なり, 一般には明確な降伏点を示さずに塑性化する材料の特性を有している ステンレス鉄筋が塑性化を示す応力度は, 通常の場合, 降伏強度の 8% 程度以上である ステンレス鉄筋の引張試験から得られた結果によると,SUS 41 SD 295 は, 弾性範囲を超えるとひずみ硬化を生じて応力を増加させる挙動が顕著であることから, に示すように (a) の増分型バイリ ニアモデルの応力 ひずみ曲線とされている SUS 41 SD 295 以外は, 普通鉄筋に近い降伏棚を有するような挙動に近似できることから,(b) のバイリニアモデルの応力 ひずみ曲線を一般に用いてよい 4 まとめ 本稿ではエポキシ樹脂塗装鉄筋とステンレス鉄筋を用いたコンクリート構造物の相互の性能比較は行わなかった それぞれが長所, 短所を有しており, それらの比較検討やライフサイクルコスト評価に基づき適材適所に適用した耐久的な構造物を設計 構築することは, 技術者の技量に委ねられている 1) 星野富夫 魚本健人 小林一輔 :15 年間の海洋暴露実験を行ったエポキシ樹脂塗装鉄筋コンクリート梁の耐久性と防食効果, 土木学会論文集,No.592/V 39,pp.17~12,1998. 5 2) 土木学会 : エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いる鉄筋コンクリートの設計施工指針 [ 改訂版 ], コンクリートライブラリー,No.112,23. 11 3) 土木学会 : ステンレス鉄筋を用いるコンクリート構造物の設計施工指針 ( 案 ), コンクリートライブラリー,No.13,28. 9 82