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NAVIGATION & SOLUTION Web 田中渚子 CONTENTS Ⅰ Ⅱ Ⅲ Web Ⅳ NRI Ⅴ NRI Ⅵ 要約 1 スマートフォンの普及に伴い さまざまなデジタル広告のメニューが開発されており 効果指標も多様化している 特に動画広告は 商品の認知やブランディングを目的として出稿される場合が多い 2 しかし デジタル広告はWeb 行動データを用いた効果指標が多く 意識の変化や態度の変容を捉えにくいという課題がある 取得できるデータがマスメディア広告と大きく異なる場合が多く 横断的に評価する手法は発展途上である 3 野村総合研究所 (NRI) では デジタル広告の効果測定の課題を解決するために Web 行動データに シングルソースでのアンケート調査を連携させた NRI デジタルパネル の提供を開始した 本論文では PCとスマートフォンを横断したクロスデバイスでの効果測定事例や 広告認知や購入意向など 生活者の態度変容を加味した分析事例について紹介する 4 また NRIデジタルパネル で取得したデジタル広告の接触データは マスメディア広告向けのシングルソースデータとも連携しており マスとデジタルを横断した分析にも対応している Web 行動データに加え 生活者の意識や属性 さらに マスメディア広告の接触状況を把握できるシングルソースデータを活用した分析事例について紹介する 74 知的資産創造 /2017 年 9 月号

Ⅰ ブランディングを目的としたデジタル広告の増加 スマートフォンやソーシャルメディア 動 画サイトなどの普及により 若年層を中心に生活者のメディア接触状況は複雑化している 野村総合研究所 (NRI) のインサイトシグナル調査注を基に テレビの視聴時間と各種インターネットサービスの利用頻度を比較すると次のようになる M1 層 (20 34 歳男性 ) では テレビの視聴時間が 1 週間に 1 時間以下の割合は22.6% で M3 層 (50 59 歳男性 ) の6.5% の 3 倍以上である ところが 代表的な動画サイトYouTubeの利用状況を見ると ほぼ毎日利用する層は26.7% と M3 層の18.6% より高い 特に若年層のメディア接点においては インターネットが重要であることが分かる 当然 企業の広告戦略上 テレビCMに加えデジタル広告への取り組みも不可欠となってくる インターネット利用のデバイスとしてパソコンが主流だった時代は Webブラウザを介して閲覧する大手ポータルサイトやニュースサイトの バナー広告 検索ワードに連動して表示される リスティング広告 がデジタル広告の中心であった 当時 企業の広告戦略の中でテレビCMとデジタル広告を組み合わせる場合 テレビCMで製品の認知を獲得し バナー広告や検索広告で自社サイトに誘導し そこで詳細な情報を訴求することにより刈り取る という役割分担が主流だった しかし スマートフォンが浸透すると 生活者は外出中の隙間時間でもインターネットに接続できるようになった また Webブラウザ以外の多様なアプリを介した接続も盛 んになり ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアや YouTubeなどの動画サイトの利用率も増している ソーシャルメディアや動画サイトには広告が動画として出稿されることも多く その結果 デジタル広告が従来のテレビCMのように 製品の認知やブランディングに使われるようにもなってきている このようにデジタル広告は 刈り取り目的だけではなく 製品の認知も含めたブランディングにも用いられる事例が多くなっているのである Ⅱ 旧来型のデジタル広告の評価手法の限界 デジタル広告は 元来その多くが 刈り取り すなわちダイレクトレスポンスを目的としていた 主な効果指標としては バナー広告をクリックし 広告主のページに流入した割合を示す クリック率 や Webサイトを通じて資料請求や商品購入を行った割合を示す コンバージョン率 などが挙げられる このようにデジタル広告では Web 行動データに基づいた効果指標が重視されるため 費用対効果の可視化や最適化に対する要求が高くなった こうしたデジタル広告の評価手法としては クリック率やコンバージョン率に加え アトリビューション というものがある パソコンでインターネットを利用した場合 アクセスログの解析ツールや測定ツールなどの利用により 生活者がどのような広告に接触し コンバージョンに至ったかを捕捉できる アトリビューションとは コンバージョ 新しい Web 行動データの取得によるマス デジタル横断型の広告効果測定 75

ンの直前に接触した広告に加え それ以前の広告接触も併せて間接的な効果や貢献度をそれぞれの広告に配分する考え方を指す この考え方は 主に有料のインターネット広告の貢献度を分析するものとして捉えられてきた それが次第に バナー広告や検索広告だけでなく ソーシャルメディアや自然検索など 有料媒体以外からのコンバージョンも加味した分析が求められるようになった その結果 アトリビューション分析は 有料の広告施策に限らず デジタル上のさまざまなチャネルを考慮した分析へと広がっていった しかし ブランディング目的のデジタル広告の場合 前述のようにWeb 行動データを用いた評価手法にはいくつかの課題がある 1 点目は 効果指標上の課題である クリックやコンバージョンなどのWeb 行動データは ダイレクトレスポンスの効果指標としては優れている しかし 商品の認知やブランドイメージの向上など 行動データに表れにくい意識の変化や態度の変容の指標としては扱いにくい 2 点目は 広告でリーチ ( 接触 ) できた属性の評価がしにくいという課題である デジタル広告のターゲティングで活用される属性情報は 多くがWeb 行動データから推計されている たとえば 女性 を指定して配信した場合でも 実際に分析できるのは 女性向けのWebサイトの閲覧者 であり 男性も含まれている可能性がある デジタル広告では 配信先の性別や年代 商品カテゴリへの関心度は 前述のような推計データを基にしたものがほとんどである ブランディング目的の広告施策の場合 ターゲットの把握 は重要だ ターゲットにどの程度リーチできたのか ターゲットでどの程度効果があったのか正確に把握できないと 次の戦略を立てにくい Ⅲ Web 行動データ アンケート調査のシングルソースデータ 従来型のデジタル広告効果測定における課題を解決するためには Web 行動データだけでは取得できない生活者の意識に関する効果指標 つまり購買より前段階にある商品認知や検討といった指標を アンケート調査を通じて把握する必要がある そのためには シングルソースでのアンケート調査が有効である シングルソース調査とは テレビや新聞 Webサイトなどのメディアについて 広告出稿の前後で特定の商品の購入意向を把握する調査方法である シングルソース調査を活用すれば Web 行動データでは可視化しづらい 商品の認知や購入意向といった意識データを取得することができる また シングルソース調査では 性別や年齢などの基本属性をはじめ 消費価値観やライフスタイルなど 生活する上での意識についてのデータを取得することも可能である デジタル広告が可能にするWeb 行動データに基づくターゲティングと アンケート調査による正確な属性を組み合わせることで より深いセグメント分析が可能になる Web 行動データとアンケート調査両者の長所を活かしながら ブランディング目的のデジタル広告を適切に評価し 最適化することが可能になる 76 知的資産創造 /2017 年 9 月号

Ⅳ デジタル広告の評価課題を解決する NRI デジタルパネル NRIでは マスメディアを中心に調査するシングルソースデータに加え 2017 年 4 月から デジタル広告を対象としたシングルソースデータである NRIデジタルパネル の提供を開始した NRIデジタルパネル は Web 行動データを取得した同一の対象者について 出稿の前後で商品の購入意向を調査できる 具体的には 第三者配信サービスなどの計測タグによって取得したデジタル広告のアクセスログと 調査モニターの会員 IDを Cookie 情報で連携させることでシングルソース化している Cookie 情報はWebブラウザに対して付与されるIDで 生活者が明示的に会員登録などをしなくてもブラウザ使用時にパソコンやスマートフォンに記録される WebブラウザでWebサイトを移動したり ブラウザを閉じたりしても Cookie 情報として行動履歴が記録されることとなる Cookie 情報は あくまでWebブラウザに対してIDが付与されるため 個人情報とは紐づかない また 生活者がWebブラウザ上でCookie 情報を削除することもできるため 匿名性を維持した IDとされている 匿名性を維持しつつWebサイトを横断して行動データを取得できるという特性から Cookie 情報はデジタル広告におけるターゲティング広告や広告効果測定に活用されている しかし Webブラウザによっては プライバシーやセキュリティの観点から Cookie 情報の取得を制限している場合がある たと えば iphoneに標準搭載されているwebブラウザのsafariでは アクセスしているWeb サイト以外の第三者がCookie 情報を取得できないことが多い Web 行動データを取得できないと ターゲティング配信や広告効果測定に活用することもできない 調査パネルとのCookie 連携の際は 工夫が必要だ また Cookieはブラウザごとに付与されるため 一人のユーザーがパソコンとスマートフォンそれぞれのブラウザを利用した場合 それを同一人物として認識することはできない NRIの調査では 20 50 代の男女の過半数がパソコンとスマートフォンの両方を日常的に利用しているという結果を得ている つまり デジタル広告を評価する際 パソコンとスマートフォンそれぞれで分断されたデータソースを用いても 正しい効果測定をしたとはいえないこととなる 従って デジタル広告では 複数の機器に跨った利用も捕捉する クロスデバイス対応 が求められる NRIデジタルパネル が依頼をしている調査モニターについては パソコンとスマートフォンの利用状況を聴取し パソコンとスマートフォンの両方のCookieを取得している そのため いずれのWebブラウザを利用して広告接触しても その回数を正確に捕捉することが可能である また アンケート調査とWeb 行動データを連携させる方法としては Cookieを用いた媒体側の出稿データの取得以外に 調査モニター側のアクセスログを取得するという方法もある 調査モニターに対し インターネット接続時に特定の設定を依頼することで 調査モニターのインターネット利用状況を アプリやブラウザを横断し アクセスログとし 新しい Web 行動データの取得によるマス デジタル横断型の広告効果測定 77

て取得できるようにしている ただし このようなネットワーク技術を活用したWeb 行動データの取得には課題がある アプリやブラウザを横断した 広範な Web 行動データの取得は プライバシーの観点から調査モニターの参加障壁が高く 参加者が集まりにくい可能性がある また スマートフォンのアプリによっては設定が困難で Web 行動データを取得できない 現段階では ネットワーク技術を活用した Web 行動データとアンケート調査の連携は課題が多いため NRIデジタルパネル では Cookie 情報によるWeb 行動データを活用している NRIデジタルパネル を用いることで デジタル広告の接触データをクロスデバイスで取得し アンケート調査を組み合わせた効果を測定することができる Ⅴ NRI デジタルパネル で分かったデジタル広告の問題点 この章では NRIデジタルパネル を用いたデジタル広告の効果測定事例を紹介したい この事例は テレビCMや交通広告などのマスプロモーションと ほぼ同一の広告素材で動画広告を出稿していた食品企業のものである 動画広告は 2 媒体に出稿されており パソ 図 1 媒体別の広告配信デバイス割合 A B 53.4 30.6 12.4 3.6 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0.4 79.0 16.8 3.8 コンとスマートフォン タブレット端末に配信されている 図 1 は 動画広告の配信数におけるデバイス情報の内訳である 媒体 Aではパソコン53.4% スマートフォン30.6% 媒体 Bではパソコン79.0% スマートフォン16.8% となっている 同じ動画広告であっても 媒体 Aはスマートフォンの割合が 3 割を占めるが 媒体 Bはパソコンの割合が大半を占める 特に媒体 Aはパソコン スマートフォン タブレット端末の 3 種類のデバイスに対して配信されているため デバイスを分断したデータソースを用いても 正しい効果測定をしたとはいえないだろう NRIデジタルパネル では パソコンとスマートフォン タブレット端末のCookie 情報をクロスデバイスでシングルソース化した 3 万人の調査パネルを構築している 本事例の動画広告の接触回数について示したのが 図 2 である 媒体 Aと媒体 Bを横断した接触回数分布を見ると 20 回以上の接触者が1.4% となっており 200 回以上の接触者も22 人いた 総配信数に占める20 回以上接触者への配信数は 44.4% となっており 非効率な出稿に陥っていることが分かった また 媒体 Aと媒体 Bの接触者の重複を見ると 媒体 Bの接触者 145 人のうち 66.9% にあたる97 人が媒体 Aにも接触していることが分かった 媒体 Bに出稿してもほとんどリーチは拡大していないことになり リーチの観点でも非効率な出稿であることが分かった デジタル広告は アドネットワークやDSP などの事業者を通じて 複数のWebサイトに一括配信できる仕組みになっている 従って この事例のように複数の事業者を通じて InsightSignal 78 知的資産創造 /2017 年 9 月号

図 2 動画広告のクロスデバイスでの接触回数分布 5 4 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 InsightSignal 同じユーザーに配信したり 同じユーザーに何度も配信したりと 非効率な出稿に陥りがちである それを避けるには 1 人のユーザーについて媒体や事業者を横断した総接触回数を集計する必要がある また デジタル広告は価値のあるユーザーに本当に接触できたのか 不明瞭な部分もある ページの最下部に広告が表示され 実際にはユーザーが広告を見ていなくても 表示回数としては 1 回として計測される 表示回数だけでなく 接触回数と広告認知の関係も評価する必要があるだろう 図 3 は ある動画広告の接触回数別の広告認知率を示したものである 本事例は バナー広告のスペースの中で動画が再生されるインバナー形式の動画広告の事例である 配信先のデバイスはパソコンに限定されており 動画は広告の表示と同時に自動再生される 音声は 広告を表示したデフォルトの状態ではオフとなっている この事例では 接触回数の定義について 再生 と 視聴 の 2 種類を考慮してい る 動画広告では 媒体や広告メニューによって定義は異なるものの 動画の視聴時間に応じてさまざまな指標を計測できる 本事例の場合 動画広告を 1 秒でも再生した場合を 再生 動画を最後まで視聴完了した場合を 視聴 と定義した 図 3 を見ると 接触回数を 再生 回数で定義した場合 回数が高まっても広告の認知率は微増にとどまり 6 % 程度で頭打ちになっている 接触回数を 視聴 で定義した場合 5 回程度の接触まで回数ごとに広告認知率が高まっている この結果から 広告認知率を高めていくには 1 秒以上の 再生 回数ではなく 最後まで見終わった 視聴 回数を重ねなければいけないことが分かる なお この事例については NRI デジタルパネル とは別にシングルソース調査を行っている ほとんど同一の広告素材を用いたテレビCMについても 接触回数別の広告認知率を取得しており 5 回接触者での広告認知率は約 10% 程度 10 回接触者では約 20% であった 動画広告の場合は接触回数を重ねて 新しい Web 行動データの取得によるマス デジタル横断型の広告効果測定 79

図 3 接触回数あたりの広告認知率 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 InsightSignal も10% に届いていないため 大きく差が開いていることが分かる このように 同じ素材を使用したとしても テレビCMとデジタル広告では生活者の視聴実態も異なり 接触者あたりの広告認知率も異なる 動画広告は テレビCMのリーチを補う手段として活用されることも多いが テレビCMと動画広告を比較する際は 接触回数だけで評価するべきではない 広告認知率も加味しながら 1 回接触あたりの価値を判断することが重要だ Ⅵ マス デジタルを横断した広告全体の最適化 前章では クロスデバイスによるWeb 行動データとアンケート調査を組み合わせることで デジタル広告の接触率や接触回数における課題が明らかになった しかし ブランディング目的のデジタル広告を評価する際の最大の課題は 従来のマス メディア広告と統合した分析の方法にある NRIでは NRIデジタルパネル とは別に マス広告向けのシングルソースデータを収集している NRIデジタルパネル で取得したデジタル広告の接触データは マス広告向けのシングルソースデータとも連携している マス広告向けとデジタル広告向けの 2 つのシングルソースデータを組み合わせて活用することで マスとデジタルを横断した分析が可能となる たとえば 第 Ⅴ 章で紹介した NRIデジタルパネル のWeb 行動データは 前日までの日ごとのデータの取得が可能だ さらに 従来のマス広告向けのシングルソースデータで取得しているテレビCM 出稿データと組み合わせることで クロスメディアでの接触率や 総接触回数を日次で確認できるようになる デジタル広告の場合 Webの管理画面から 簡単に配信数や配信先の設定を変更することができる 広告の配信中であっても細かい調整が可能なため テレビCMも含めた広告全体の接触率や接触回数を最適化することができる また 接触率や接触回数のほかに 効果指標の観点でもマス広告とデジタル広告はメディアを横断した広告戦略が必要だ マス広告向けとデジタル広告向けの 2 つのシングルソースデータを組み合わせることで テレビCMとデジタル広告とのクロスメディア分析はもちろん 交通広告や新聞広告 店頭での商品視認も含め 広告戦略全体を俯瞰して効果を把握することが可能となる 図 4 は 食品会社に関してテレビCMと交通広告 動画広告の効果について それぞれが重なった場合の購入意向への効果を示した 80 知的資産創造 /2017 年 9 月号

ものである 広告接触後の購入意向と接触前の購入意向の差分を取ると テレビCMのみに接触した人 ( 以下 A) は+1.5ポイント 交通広告のみに接触した人 ( 以下 B) は+1.4ポイント 動画広告のみに接触した人 ( 以下 C) は+4.3ポイントとなっている それぞれのメディアに対して重複して接触している層では すべて購入意向への効果が+7.0ポイント以上となっており 単体接触のA B Cよりも高いため 今回の施策ではクロスメディアの相乗効果があったといえる また 複数のメディアで目標とする効果指標が異なる場合も クロスメディアでの効果検証を行うことで適切な効果指標の設定が可能になる テレビCMとデジタル広告で 異なる効果指標を設けた事例もある あるサービス会社で 新サービスの訴求をテレビCMで行い バナー広告やリスティング広告でキャンペーンサイトに誘導し 内容の理解を深めるという施策を行った クロスメディアでの効果検証を行ったところ テレビにしか触れていない層ではサービスの名称認知は高まったが内容の理解までは高まらなかった しかし テレビとキャンペーンサイトの両方に接触した層では 名称認知とともに 内容理解の指標も高まっていた この事例では マス広告で名称認知を高め デジタル広告で内容の理解を深めるという広告戦略が妥当であることを確認することができた デジタル広告は 本論文で紹介した動画広告以外に 内容理解を目的とするタイアップの記事広告や 情報の拡散を目的とするSNS 図 4 購入意向に対するクロスメディアでの広告効果 広告など さまざまなデジタル広告のメニューが開発されており 効果指標も多様化している 生活者とメディアの接点が複雑になり デジタル広告に求められる役割が多様化する現在 マス広告とデジタル広告を統合的に俯瞰し 企業は 広告全体を最適化する必要がある そのためには Web 行動データだけではなく 生活者の意識や属性 マス広告の接触状況を把握できるシングルソースデータを活用しながら 日々仮説と検証を繰り返していくことが必要だ 注 メディア接触と購入意向 購入実態をシングルソースで調査し マーケティング施策の効果測定を行う NRIのサービス 著者 1.0 N 1,596 1.4 N 690 広告 7.5 N 227 CM 1.5 N 631 10.6 N 11 7.1 N 24 12.5 N 32 InsightSignal 田中渚子 ( たなかみぎわ ) インサイトシグナル事業部副主任コンサルタント専門は広告効果測定 マーケティングデータ分析など 4.3 N 45 動画広告 新しい Web 行動データの取得によるマス デジタル横断型の広告効果測定 81