はじめに 小脳梗塞と運動学習 今回 右小脳梗塞を呈し 運動失調 測定障害など一般的な小脳症状が生じていないにも関わらず歩行時にふらつき 右側の障害物に衝突してしまう症例を担当した 小脳障害では運動学習が障害されるが 知識について理解に乏しかった 平成 28 年 9 月 26 日 佐藤病院リハビリテーション科 理学療法士石川拓磨 小脳の機能 大脳小脳 ( 小脳半球 ) 脊髄小脳 ( 小脳虫部 ) 入力出力主な機能 大脳皮質運動の情報 脊髄 ( 筋 腱などから ) 意識できない深部感覚 前庭小脳 前庭神経 ( 片葉小節葉 ) ( 内耳からの ) 頭の動き 傾き 大脳皮質 脊髄 意識できない深部感覚とは筋紡錘や腱紡錘 ( ゴルジ腱器官 ) から伝えられる感覚 ( 脊髄小脳路 ) 筋紡錘 筋長の情報腱紡錘 張力の情報 四肢の動きの調節 運動の開始 企画 タイミング ( 主に四肢の ) 協調運動 滑らかな発語 体幹の動きの調節 姿勢の保持 歩行の調節 脊髄体の平衡 眼球運動系の核眼球運動の調節 (Ⅲ Ⅳ Ⅵ) 小脳の運動制御 区分位置入力小脳核出力機能 前庭小脳 片葉小節葉前庭感覚 前庭神経外側核 前庭神経核群 前庭脊髄路 姿勢と平衡の維持 脊髄小脳 ( 内側要素 ) 脊髄小脳 ( 外側要素 ) 虫部 脊髄小脳路前庭感覚 室頂核 前庭神経核群網様体 中間半球 脊髄小脳路 中位核 赤核 視床の前腹側核と 外側腹側核 大脳小脳 外側半球 橋小脳路 歯状核 視床の前腹側核と 外側腹側核 赤核 内側脳幹下行路運動遂行中の体幹筋と近位筋の制御 皮質脊髄路赤核脊髄路運動遂行中の遠位筋の制御 一次運動皮質と運動前皮質複雑な運動の計画 開始 タイミング制御に重要 大脳小脳 ( 小脳半球 ) 運動の開始 企画 タイミングを調節大脳皮質領域 橋核 中小脳脚 小脳半球 ( 外側部のプルキンエ細胞 ) 歯状核 赤核小細胞部 ( 視床 VL 核 ) 下オリーブ核へ同側性投射 赤核オリーブ核 非運動性機能にも関わる小脳後葉の障害 ( 小脳性認知情動症候群 ) 行動目的の遂行と達成に重要な実行機能, 抽象的な推理, 視空間の推理, 作業記憶に障害, 感情鈍麻, 人格変容 大脳小脳の歩行時の役割 小脳半球にて大脳皮質からの入力を受け 歯状核を経て視床を経由し大脳皮質へ出力する機能連結 フィードフォワード制御を行う 歩行運動の学習における予測的制御において重要な機能を担う 1
症例紹介 現病歴 4 月 22 日昼食を摂取し その後嘔吐し横になり休んでいたが症状改善しないため職場の人に連れられ車で来院 降車した際転倒し右眼瞼部に切創 MRI にて右小脳梗塞と診断になり入院 既往歴 右足趾 1 2 趾離断 ( 交通事故による ) 右鎖骨骨折服薬エリキュース メトリジン 評価 ➀ 著名な筋力低下 運動麻痺無し ROM 下肢 体幹著名な可動域制限なし 筋緊張赤 : 高緊張青 : 低緊張 眼振 (-) 右足趾 1 2 趾欠損 (MP 関節以降切断 ) 評価 2 四肢運動失調鼻指鼻試験 (-) 膝打ち試験 ( 速度を上げると右側にてリズム不規則 ) 足趾手指試験 (-) 踵膝試験 (-) 向う脛叩打試験 (-) 測定異常過回内試験 (-) 線引き試験 (-) 反復拮抗運動不能手回内 回外検査 (-) Foot Pat(-) 運動分解 (-) 立位姿勢 右足部回外位 内側縦アーチ 下腿前傾位 股関節伸展位 骨盤前方 sway 腰椎前湾 体幹右側屈 伸展位 右肩甲帯下制 歩行 一般的な小脳障害による症状 1 右足部の荷重点の軌跡 小脳性運動失調 小脳は多くの感覚情報を並列的に処理して 運動をスムーズかつ正確に行うことに寄与している 運動失調とは 随意運動における空間的 時間的な秩序や配列が失われた状態 と定義される 体幹運動失調 と 四肢の協調運動障害 がある 2
一般的な小脳障害による症状 2 一般的な小脳障害による症状 3 四肢の協調運動障害 測定障害身体の一部を随意的に目的物に近づけようとした場合に測定の誤りが生じる測定過大 測定過小など 運動の分解二関節以上を用いる運動は円滑に行えず 筋収縮のタイミングに異常がみられる 交互反復運動障害運動方向 パターンの変換時に拙劣さがみられ 特に素早い返還運動を要求と顕著となる 四肢の協調運動障害続き 終末時動揺目標の近くで四肢が動揺し直線的に進まなくなる 企図振戦との鑑別が必要 共同運動障害日常生活における行為はいくつかの運動が組み合わさって行われるが筋収縮のタイミングがずれたり 運動分解 測定異常などがあったりすると異常な運動がみられる 時間測定障害運動の興奮の遅れであり 動作の開始や完成に遅れがみられる 一般的な小脳障害による症状 4 筋緊張の低下 γ および α 運動ニューロンの活動の抑制や拮抗筋群の反射抑制が遅いことが原因と推察されている 過回内試験や振り子試験などで確認できる 筋緊張低下のため 運動の遅れや筋の脱力などをきたすと同時に 関節の中間位での固定などに影響し 運動の自由度を減少させることになる 眼振 小脳は正確な眼球運動を行わせ 固視の安定性を高めて合目的的な運動の遂行に関与している 水平眼振 垂直性眼振 注視眼振などがみられることがあり 視覚情報に影響を及ぼし 運動や動作の障害となる 構音障害 発語に働く筋の運動の測定障害 筋緊張の低下 反復運動 拮抗運動不全により構音障害が生じる 発話のリズム 強さが乱れ スピードが遅く 各音節が途切れ途切れになる 一般的な小脳障害による症状 5 姿勢保持および動作障害 視覚系 前庭系 固有感覚の情報などの入力が障害され なおかつ平衡を維持するために必要なそれらの情報の統合がなされないと空間に自己定位できなくなり 姿勢保持の障害が生じる 動作の機能障害として 運動の大きさや方向の測定障害 運動の開始と停止の遅れ 運動の連続性と円滑性の障害 共同運動障害などがあり 複雑な運動の組み合わせである歩行では これらの症状が顕著に現れる 問題点 ➀ 歩行時のふらつき 右 Tst にて足底の荷重点が外側に残る 右内側縦アーチ 交互反復運動障害 右 Mst~Tst にかけての体幹動揺 四肢の筋緊張の低さ 右肩下がり 足関節を用いたバランス戦略の低下 距骨下関節回外位 右広背筋 Tone 体幹を用いたバランス戦略優位 右 1 2 趾の欠損 リハを進めたが 運動失調 測定障害は認められないが歩行時ふらつき また右側の障害物に当たることがある 障害物があることは分かっていて ギリギリをよけたつもりが当たってしまった フィードフォワード制御ができていない? リハビリを進めても なかなか姿勢制御を変えられない 運動学習にも問題? 3
運動学習 運動学習戦略 知覚を手掛かりとして運動を目的合うようにコントロールする能力である運動技能が向上していくプロセス 運動学習の種類 ➀ 適応学習身体が環境との相互作用を繰り返し行うことで認知される感覚情報と運動情報間に整合性を表現する内部モデルを獲得する 2 連続学習連続的な運動の中から順序の知識を獲得する ➀ 教師無し学習明確な基準がない状態で課題を繰り返し記憶を生成し記憶と実際の結果を結合していく学習過程 2 強化学習報酬予測誤差情報によりその運動が強化される学習過程 3 教師あり学習比較照合する基準があり意図した運動 ( 予測 ) と実際にした運動結果の誤差により修正しながら学習していく過程 内部モデル生成 フィードフォワード制御による歩行パターンの修正 教師なし学習 ➀ あらかじめ出力すべき明確な基準がない 課題を繰り返すことでその記憶と実際の結果を結合していく相関学習 何に注意を向けるべきか どのように注意を配分すべきか どの記憶を使いシミュレーションすべきかといった作業記憶のプロセスを含む ワーキングメモリ イメージ想起も含まれる 海馬 前頭前野 頭頂葉 運動前野 補足運動野が関わる 教師なし学習 2 海馬記憶の固定前頭前野情報の一時的保存 注意 行動の保存 目標設定 行動企画 カテゴリ化 結果の評価頭頂葉身体座標と外部座標を用いて 身体と運動の現在の情報と記憶を保持運動前野小脳と頭頂葉の関係から適応学習に関わり 道具を操作するオープンスキルに関わる補足運動野外部環境の影響を受けずに記憶に基づいて運動を学習する際に働く 強化学習 報酬を最大化するように行動の価値を学習 ドーパミン作動系 報酬予測 実際の報酬 正の強化 シナプス伝達効率 実際の報酬 負の強化 学習性無力感 側坐核 線条体 偏桃体 前頭前野が関わる 強化学習 =( 予測された報酬 - 実際の報酬 ) 教師あり学習 ➀ 意図した運動が基準となり その基準と結果を比較することで学習 学習初期小脳プルキンエ細胞は大脳皮質から意図を伝達する苔状繊維 平行繊維と誤差信号を伝達する登上繊維からの情報を統合 調節する その情報を大脳に伝達 ( 大脳小脳連関 ) 新たな運動戦略フィードバック誤差学習 学習後期誤差学習によって形成された最適な運動記憶を小脳核に保存 この情報を一次運動野に送り運動指令を調整 運動の自動化 内部モデルの形成 フィードフォワード制御 4
教師あり学習 2 内部モデル形成に必要な情報 一次運動野から筋収縮の程度に関する情報 腹側運動前野からの運動空間に関する情報内部モデルの種類 運動指令がどのような運動を引き起こすか 順モデル小脳と下頭頂小葉の関わり 動作を行いたいときにどのような運動指令を出せばよいか 逆モデル小脳と上頭頂小葉の関わり 小脳だけでなく頭頂葉の活動も重要 症例では フィードバック情報の調整不十分 フィードフォワード制御の破綻 内部モデル 現在の身体機能にそくした姿勢制御能力の獲得 つまり 現在の身体機能にそくした内部モデルの形成 問題点 2 運動療法 ➀ 歩行時のふらつき フィードバックの情報調整不十分 大脳皮質からの外界情報の伝達障害 歯状核 ( 小脳半球 ) の障害 最適な運動指令の保存 文献より 小脳損傷患者の学習速度は遅いが学習量は健常者と変わらない 時間はかかるが学習は可能 情報の難易度に配慮 徐々に情報量を多くする 単関節 多関節運動 ゆっくりした運動 速い運動聴覚からのフィードバックも随時行う フィードフォワード制御の破綻 内部モデルの形成 運動療法 2 立位比較 ベッド上での足関節底背屈 距骨下関節回内外運動 バランスボードを用いた足関節バランス練習 バランスディスクを用いた足関節バランス練習 バランスディスクに足を置いたままスタンス練習 Etc 5
最終歩行 結果 立位姿勢に大きな変化は見られなかったが 足関節でのバランス練習 スタンス練習を段階的に行うことで 足関節での制御が可能となり歩容に変化が見られた 障害物や外乱に対しても ぶつかることはなくなりフィードフォワード制御が可能になったと考える おわりに 今までなんとなく運動学習を意識し リハビリを行っていたがそのメカニズムについて理解ができていなかった 運動学習のプロセスを考慮した介入を行っていきたい 結局姿勢を変えることができなかった 運動学習といっても自然治癒 廃用によるものも考えられる ご清聴ありがとうございました 6