食道癌手術さて 食道は文字どおり口 咽頭から胃まで をつなぐ管状の器官でまさに食物を運ぶ道です そして縦隔と呼ばれる背骨の前方の狭い領域にあり 大動脈 心臓そして気管などと密に接しています さらに 気管とは私たちの身体が構成される過程で同じところから発生し 非常に密な関係にあります さらに発生の当初

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H26大腸がん

頭頚部がん1部[ ].indd

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1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

3. 本事業の詳細 3.1. 運営形態手術 治療に関する情報の登録は, 本事業に参加する施設の診療科でおこなわれます. 登録されたデータは一般社団法人 National Clinical Database ( 以下,NCD) 図 1 参照 がとりまとめます.NCD は下記の学会 専門医制度と連携して


は関連する学会 専門医制度と連携しており, 今後さらに拡大していきます. 日本外科学会 ( 外科専門医 ) 日本消化器外科学会 ( 消化器外科専門医 ) 消化器外科領域については, 以下の学会が 消化器外科データベース関連学会協議会 を組織して,NCD と連携する : 日本消化器外科学会, 日本肝胆

消化器センター

「             」  説明および同意書


094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

資料1_事業実施計画書

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1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( / ) 上記外来の名称 ストマ外来 対象となるストーマの種類 コロストーマとウロストーマ 4 大腸がん 腎がん 膀胱がん ストーマ管理 ( 腎ろう, 膀胱ろう含む ) ろう孔管理 (PEG 含む ) 尿失禁の管理 ストーマ外

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Vol 夏号 最先端の腹腔鏡下鼠径 ヘルニア修復術を導入 認定資格 日本外科学会専門医 日本消化器外科学会指導医 専門医 消化器がん外科治療認定医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 外科医長 渡邉 卓哉 東海中央病院では 3月から腹腔鏡下鼠径ヘルニ ア修復術を導入し この手術方法を

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま 放っておかないでください な

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

食道がん

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

2. 予定術式とその内容 予定術式 : 腹腔鏡補助下幽門側胃切除術 手術の内容 あなたの癌は胃の出口に近いところにあるため 充分に切除するためには十 二指腸の一部を含め胃の 2/3 もしくは 3/4 をとる必要があります 手術は全身麻酔 (+ 硬膜外麻酔 ) の下に行います 上腹部に約 25cm の

遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

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づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

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院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

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限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

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付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房 全体

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

基礎知識 1. 食道について 食道は のど ( 咽頭 ) と胃の間をつなぐ管状の臓器で 部位によって 頸部食道 胸部食道 腹部食道と呼ばれています ( 図 1 左 ) 食道は体の中心部にあり 気管 心臓 大動脈や肺などの臓器や背骨に囲まれています 食道の周囲にはリンパ節があります 食道の壁は 内側か

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1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

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はじめに 近年 がんに対する治療の進歩によって 多くの患者さんが がん を克服することができるようになっています しかし がん治療の内容によっては 造精機能 ( 精子をつくる機能のことです ) が低下し 妊娠しにくくなったり 妊娠できなくなることがあります また 手術の内容によっては術後に性交障害を

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付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房

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「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

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付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

腹腔鏡補助下膀胱全摘除術の説明と同意 (2) 回腸導管小腸 ( 回腸 ) の一部を 導管として使う方法です 腸の蠕動運動を利用して尿を体外へ出します 尿はストーマから流れているため パウチという尿を溜める装具を皮膚に張りつけておく必要があります 手術手技が比較的簡単であることと合併症が少

平成 29 年度九段坂病院病院指標 年齢階級別退院患者数 年代 10 代未満 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代以上 総計 平成 29 年度 ,034 平成 28 年度 -

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

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付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

BD( 寛解導入 ) 皮下注療法について お薬の名前と治療のスケジュール ( 副作用の状況を考慮して 抗がん剤の影響が強く残っていると考えられる場合は 次回の治療開始を延期することがあります ) 薬の名前作用めやすの時間 1 日目

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皮膚は角層も真皮も共に分厚くて 体重を支えて 物理的刺激に耐えられる構造になっていますが 通常の遊離植皮では そのような踵の皮膚本来の役割を十分に果たすことはできません そこで 踵の皮膚の機能を再現するための工夫を考えました それは アキレス腱部の皮膚など 踵に隣接した皮膚を脂肪組織も含めて移動させ

福島県のがん死亡の年次推移 福島県におけるがん死亡数は 女とも増加傾向にある ( 表 12) 一方 は 女とも減少傾向にあり 全国とほとんど同じ傾向にある 2012 年の全のを全国と比較すると 性では高く 女性では低くなっている 別にみると 性では膵臓 女性では大腸 膵臓 子宮でわずかな増加がみられ

PowerPoint プレゼンテーション

日本の方が多い 表 2 は日本の癌罹患数の多い順の第 7 位までの部位とそれに対応する米国の数値と日 米比を示す 赤字と青字の意味は表 1 と同じである 表 2: 部位別の癌罹患数 : 日 米比較日 / 米 0.43 部位 罹患数 ( 日 ) (2002)( 人 ) 罹患数 ( 米 ) 罹患数比日本

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

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ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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医療に対するわたしの希望 思いが自分でうまく伝えられなくなった時に医療が必要になった場合 以下のことを希望 します お名前日付年月日 変更 更新日 1. わたしの医療について 以下の情報を参照してください かかりつけ医療機関 1 名称 : 担当医 : 電話番号 : かかりつけ医療機関 2 名称 :

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2009年8月17日

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抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

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Transcription:

2015 年 9 月 16 日放送 胸腔鏡で食道癌手術後の肺炎は激減した 大阪市立大学大学院 消化器外科教授 大杉 治司 本日は食道癌手術における肺炎についてお話しいたします 食道癌は他の消化器癌に 比べて治療成績が悪く また術後の肺炎が高頻度で発生します 食道癌の疫学まず 食道癌とは 本邦では年間 2 万人強の人に発生が認められ 全体としては 11 番目に多い癌です 女性 1 に対し男性 6 と 男性に多いのがと特徴です 発がんの危険因子は喫煙と飲酒です 喫煙で 3.9 倍 飲酒で 4.5 倍との報告もありますし 喫煙と飲酒は相乗的に作用し 喫煙 飲酒の両方をする人はどちらもしない人の 29 倍の発がんリスクがあるとする報告もあります 逆に野菜 果物がこれらのリスクを低下させる作用があります 食道癌手術を受ける人は概ね年間 5,000 人で 本邦は世界中で最も食道癌が早期なうちに発見されている国です おそらく開業医院でも内視鏡が行われるなど内視鏡の普及が大きな理由と思われます

食道癌手術さて 食道は文字どおり口 咽頭から胃まで をつなぐ管状の器官でまさに食物を運ぶ道です そして縦隔と呼ばれる背骨の前方の狭い領域にあり 大動脈 心臓そして気管などと密に接しています さらに 気管とは私たちの身体が構成される過程で同じところから発生し 非常に密な関係にあります さらに発生の当初 短かった食道は引き延ばされるために 一見食べ物を運ぶだけの単純な構造に見えますが 非常に特徴的な形態を示します 食道癌はいっしょに切除することが困難な周囲臓器に浸潤しやすく さらに先程述べましたようにその発生の特徴からリンパの流れが非常に複雑で 胸の中は勿論 腹部や頚部のリンパ節に広く 早期の段階から転移が始まります 食道癌手術では癌を含む食道を切除することと 転移を起こし易いリンパ節を首から腹部まで広く取り出す いわゆる拡大郭清が必要になります 本邦ではこの概念が 1980 年代の後半から受け入れられ 頚部 胸部 腹部の広い範囲からリンパ節をとる手術が標準として行われています しかし このような手術が標準とされているのは本邦だけで 海外では未だにわれわれがその以前に行っていた限局したリンパ節切除しか行われていません 種々の理由によりますが 欧米では手術後の致命的な合併症が高い頻度で発生するのが要因と思われます 本邦の食道癌の術後の在院死亡率は概ね 3% 強です 胃癌や大腸癌に比べると高い値ですが 欧米と比較するとこれでも半分以下で世界でも最も安全に食道癌手術が行われている国です ところがこの在院死亡率は施設問の差が明らかで 経験の多い施設は少ない施設より低い死亡率で手術が行われています これは統計による結果で 個々にデータをみますと 経験の少なくても安全に手術を行っている施設は多くありますので 治療を受ける際には担当医師に成績を確認されるのがよいと思います また 術後の生存率 癌が再発しない率は諸外国と比べて非常に高値です すなわちわが国は世界で最も安全に有効な食道癌手術が行われており 他の追随を許していないのが現況です

食道癌手術と肺炎しかし それでも食道癌手術後は何らかの合併症が半数以上の患者さんに見られます このうち 最も重要なのが肺炎です 食道癌手術のように侵襲の大きな手術の後では致命的となる場合が多くあります まず 原因として患者さんの術前の状態があげられます 食道癌の患者さんの多くは長期間の喫煙など 既に呼吸器の障害を合併している方が多く見られます 食道の通過障害に起因する低栄養状態にあります また 治療成績向上のために現在では術前に抗がん薬による治療が行われますが この副作用として免疫低下が起こります これに対して抗がん薬治療の聞に 免疫力を向上させるような栄養管理が行われています また 術前の口腔ケアも重要で 1 日 5 回の歯磨きで肺炎発生をおさえるのに有効でした 特に重要なのが手術そのものの影響です 原則的に食道癌手術では右胸部の切開 上腹部の切開と頚部の手術操作が必要です 手術侵襲として大きいだけでなく 胸部と上腹部の切開は患者さんの術後の呼吸運動を強く制限します 肺は丁度風船のように空気が出たり入ったりして呼吸していますが 手術中は右肺に空気が入らない状態 虚脱させた状態になります これは術後の痰の増加や 肺に空気が入らない無気肺という状態を惹起します さらに強い影響を与えるのは気管や気管支の周囲のリンパ節の切除です 治療成績を上げるために リンパ節をひとつずつとるのでは無く 重要臓器を残して転移のリスクのあるリンパ節を出来るだけ一塊にとります これは食道癌再発を低下させる非常に重要な手技で 本邦の食道外科医の腕の見せ所でもあります また 欧米では行えない技術です でも この結果 気管や気管支への血流の低下などから痰を出しにくい状態が生まれます さらに生理的な咳反射が術後の一時期 ほぼ消失します 従って患者さんは痰が多くなる時期に咳反射が無くなり 手術創のために有効な咳が出来ない状態が強いられます また 声帯を動かす反回神経と言う神経があります 神経は脳から出ますが この神経は最終の目的地である喉頭に達するまでに 右は腕に向かい 鎖骨の下を走る鎖骨下動脈をくるりと周ります 左はさらに胸の中までおりて大動脈をくるりと回ってのどに向かいます この神経の周囲に最も転移を受けやすいリンパ節があります 神経を大事に温存しても 一時的にでも概ね 10 から 20% の頻度で麻痺が起こります この神経麻痺は声門の閉鎖障害を起こし 有効な咳が出来ないだけでなく 気管内に流れ込む誤嚥を引き起こします 勿論 術後は予防的に有効な抗菌剤を短期間使用します 予防処置として術前に呼吸運動のリハビリを行いますし 術後も早期離床を促すことにより呼吸運動の改善を図っています 胸腔鏡手術手術手技の改善としては 胸腔鏡手術があります この手技は 1992 年に英国で発表されました 本邦では 1995 年より開始されました 私達も 1995 年より開始し これまで約 20 年間にわたって 600 名の患者さんにこの手術を行ってきました 胸部の創を小

さくしてテレビカメラを入れて手術を行います 勿論 創が小さいぶん患者さんの負担は軽減します しかし 胸の中やお腹の中でしなければならない事は同じです 手術に占める割合が決して多くないので 胸やお腹の傷を小さくした恩恵はあまり多くありません 時に患者さんが誤解されるような夢の手術ではありません しかし 創の負担を軽減できるのは確かです 胸腔鏡手術では当然手は入りません 先程も述べましたように食道は胸の中の非常に狭い 厳しいところにあります われわれがこの手術を開始した当初は胸腔鏡で行って良いのかとの厳しい批判がありました 20 年の経験を積んでもやはりこの指摘は正しいと思っています しかし 胸腔鏡手術ではカメラが胸の中に入っていって映像技術の進歩も相俟って非常に鮮明で拡大した術野をみることが出来ます われわれは普段 通常の手術における裸眼に比べて 5 から 10 倍に拡大した視野で手術を行っています この結果 神経線維の 1 本 1 本を確認して手術が出来るようになっています この結果 人体解剖に沿って手術を行うため いわゆる切離が減少し 出血も減り 手術時間も短縮しました 術後の呼吸機能も開胸手術に比べて良くなりました 術後 3 か月の時点で開胸手術では肺活量が術前より 22% 減少しましたが 胸腔鏡手術では 15% 以下でした また 肺活量は有意に早く回復します この結果 肺炎の頻度を 5% に減少させることができました 我々の成績を振り返ってみますとやはり一定の手技の習熟が必要でした 手術に時間が不必要に長くかかりますと 胸腔鏡の利点が得られません 私も含めて多くの研究報告では胸腔鏡は術後の肺合併症軽減に有効な手段であるとされてきました しかし 近年英国の症例集計を基にした報告では 胸腔鏡手術は有効ではありませんでした 本邦では 2012 年より外科学会主導で手術症例の集積が行われています このデータを基にした解析では同じく胸腔鏡手術は有効ではありませんでした この二つの報告は重要なことを述べています すなわち 胸腔鏡手術の全てをおしなべてみるとその有効性が不明瞭になるということです 有効と報告した研究はすべて手技に習熟した外科医が行った結果で ある意味当然かも知れ

ません しかし 手技に習熟すれば胸腔鏡手術は術後肺炎を減少させる有効な手段であ ります 日本食道学会は食道癌治療の施設認定と食道外科専門医の認定を行いホームページに掲載しています また 日本内視鏡外科学会は内視鏡外科技術認定を行い同じく掲載しています どちらも非常にハードルの高い認定制度です 食道癌手術を受けられる際には有効な低侵襲手術の一つの指標になると思います 食道癌手術をより安全により有効に行うための解決すべき問題がわれわれ臨床家にもまだ山積みされて残っています