被ばくと甲状腺癌 量 が大事です RIセンター 放射線医学講座放射線部 楫靖 ykaji@dokkyomed.ac.jp ( わかりにくいこと 相談があれば メールでご連絡ください )
単位について 1 Gy ( グレイ ) の放射線を吸収したとき 体内で生じる影響の量を 1 Sv( シーベルト ) 両者は別物だが 混乱を避けるために 今回の 講演の被ばく線量の単位は Sv で統一する
甲状腺被ばく 患者 通常時 医療 研究 医療従事者 事故 災害時 チェルノブイリ事故 福島原発事故
甲状腺被ばく 患者 通常時 医療 研究 医療従事者 事故 災害時 チェルノブイリ事故 福島原発事故
医療従事者 例 )IVR 術者 ( カテ検査 )
なぜ被ばくするか?
空気中を放射線がガスの様に浮いて広がる??? ポータブル撮影 周囲には散乱線が広がるが 2m 離れると大丈夫 散乱線は体の表面にぶつかって生じる
( 日循ガイドライン図 28B) 水晶体 防護眼鏡 (0.07mmPb) 甲状腺 甲状腺プロテクタ (0.25mmPb) 散乱線による被ばく 防護具をつけない時 1 Dose Unit
心カテ検査 1 回あたり被ばく線量 Health Phys. 69: 261-264, 1995 水晶体 : 0.1mSv 以下 0.04mSv 水晶体の等価線量限度 150mSv/ 年よりもかなり小さい 甲状腺 : 0.1mSv 以下 防護具により 0.01mSv 甲状腺癌を引き起こす被曝線量にはほど遠い値 装着により 違和感 汗をかしかし 防護眼鏡をすることで きやすい などデメリット血液が目に入ることを防止透視中に顔を近づけないなど 距離を確保する十分な配慮ができるなら 必ずしも必須ではない
医療を受ける 患者被ばく
X 線写真 CT RI 検査 ( シンチ ) 放射線治療 ( 外照射と内用療法 )
医療被ばく 核医学検査 ( シンチグラフィ ) による被ばく線量 北里大学病院放射線部 Hp より
医療被ばく 放射性ヨウ素内用治療 京都医療科学大学学長 ( 群馬大学放射線診断核医学前教授 ) 遠藤啓吾先生
放射性物質 ヨウ素 -131 を 100 億ベクレル以上 これは今から 26 年前 甲状腺がんの手術と 肺への転移 の治療のために 私がある女子高校生に 3 回にわたって投 与した放射線量です このヨウ素 -131 だけでなく 同様に今回の原発事故で大気 中に放出されているセシウム -137 ストロンチウム -90 などの 放射性物質やその関連物質は 病院では患者の治療に使 われているのです 当然 人体への影響もかなり研究されて います 10,000,000,000 Bq = 10,000 MBq 放射性物質の量の単位
特にヨウ素 -131は 50 年以上前からバセドウ病 甲状腺がんを代表とした甲状腺などの病気の治療に カプセル剤として投与されています ヨウ素 -131の出す放射線の作用で 狙った細胞に強く障害を与えようと 病気の部分にできるだけ多く集まるように工夫しながら大量に投与します ( 中略 ) バセドウ病は ヨウ素 -131を服用して2ヶ月くらいで治ります 冒頭でご紹介した女子高校生のように 甲状腺がんの肺転移の治療の場合は それよりもさらに大量の投与で 治癒を目指します
--- 今回の事故以来 テレビで解説をする機会が増えた結果 先日思わぬお手紙をいただきました まさにその 26 年前の高校生の御両親からの近況報告でした テレビで 昔とお変わりないお姿を拝見しました 当時 16 才で高校生だった娘は 甲状腺がんの肺転移で 親にとって希望のない毎日でした しかし 治療していただき その後結婚 出産 このほど その子供が高校生となりました 娘は 今も会社員として仕事しながら 幸せに暮らしています がんを克服した自分達の娘が伴侶を得て 高校生になった孫と幸せに生活している祖父母の喜びが 目に浮かびま
医療被ばく 医療における 甲状腺被ばくの 影響は?
医療被ばく 通常の画像検査では 人への影響が生じる 被ばく線量に達しない
医療被ばく 放射線治療で 甲状腺が含まれる場合 甲状腺機能低下症
医療被ばく 放射線照射による甲状腺機能低下 甲状腺全体へ 40 45 Gy 照射された悪性リンパ腫 174 例において,2 年以内に 77 例 (44%) に TSH 値の上昇 1) 全頸部への 20 40 Gy 照射後の 62 例中 29 例 (47%) に TSH 値の上昇 2) 全頸部照射例の約 40%, 特に 40 Gy 以上の場合は, 約 50% が照射後 3 年以内に TSH 値の上昇 3) 1) J. Clin. Endocrinol. Metab., 32, 833 841 (1971) 2) Cancer,47, 2704 2711 (1981) 3) Gan no rinsho, 33, 1146 1150 (1987)
医療被ばく 放射線量が多いと発がんあり 昔は白癬を放射線治療していた Healthy Phys. 2003; 85:404-8 1940-59 年頭皮白癬のため 1-15 歳の小児で頭頸部にX 線照射甲状腺腫瘍 ( 良性 悪性 ) の発生照射群 : コントロール群 = 15:2
研究者
RI を用いた実験 放射性ヨウ素の取扱い 不手際で吸引事故あり 甲状腺癌? 心配? 被ばくの影響を考えるとき 量 が大事 実験では kbq 単位の量 ( 医療では MBq 単位の量を体内投与 )
甲状腺被ばく 患者 通常時 医療 研究 医療従事者 事故 災害時 チェルノブイリ事故 福島原発事故
チェルノブイリ チェルノブイリ 原発事故 1986 年 4 月 26 日
チェルノブイリ 事故後 30 日間 食品制限なし
放射性物質による外部被ばくと内部被ばく 放射性プルーム 内部被ばく経口摂取吸入 原発事故 外部被ばく
チェルノブイリ 甲状腺に蓄積した 放射性ヨウ素の 90% が飲食物由来
チェルノブイリ 小児甲状腺癌患者の被ばく線量 0.05-5.7 Sv = 50-5700 msv
チェルノブイリ事故での小児甲状腺がんの発生数 ( どの位の線量で発症するのだろうか?) 被ばく線量が多い地区ほど癌の発生も多い ベラルーシ ゴメリ地区の子供の甲状腺被ばく ~2000mSv 事故による避難民 12 万人の甲状腺への平均線量 (1986 年 )490mSv クルーガ州の甲状腺ヨウ素 131 被ばく量の中間値 ( 子供 ) 30mSv
チェルノブイリ 甲状腺癌罹患数は? 亡くなった人は?
ウクライナ ベラルーシ ロシアの一部 強汚染地域 14 歳以下で 5127 人 18 歳以下で 6848 人 甲状腺癌 ( 男性 5-6 倍 女性 8-10 倍 ) 死亡 15 人 被ばく時の年齢が高いほど発がんまでに時間かかる 小さな子供から先に癌が発見された
ベラルーシ小児で 483 名甲状腺癌 被ばく時年齢と診断時年齢 被ばく時の年齢 診断時の年齢 年齢 癌になった人 :50% が 3 歳までに被ばく 75% が 9 歳以降診断 CANCER March 15, 2000 / Volume 88 / 1470-1476
福島 福島原発事故 2011 年 3 月 11 日
福島 事故後 飲食物制限あり
福島 初期内部被ばくが高いと思われた地域の子供 (0-15 歳 )1150 人 高くても数十 msv(~35) 6-11 msv 3-6 msv 11-35 msv 3 未満 msv スクリーニングデータによる予測 2011 年発表
福島 福島県民健康調査会議資料 ( 独 ) 放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター栗原治先生
福島 50-100mSv には及ばない
食品安全委員会 HP
福島 甲状腺癌の発生 は?
福島 甲状腺検査について 福島県災害対策本部 (H23 年時の計画 ) 具体的な対象と方法 対象 : 震災時 0 歳から18 歳の全県民 ( 県外避難者を含む ) 方法 : 甲状腺超音波検査を実施し 結節性病変を認めた場合は 福島県立医科大学附属病院等の二次検査施設において穿刺吸引細胞診や採血 尿検査を行います H23 年度第 3 回福島県 県民健康管理調査 検討委員会
福島 計画 甲状腺検査について 福島県災害対策本部 (H23 年時の計画 ) (1) 先行検査 : 平成 23 年 10 月より 平成 26 年 3 月までに対象の全県民に検査を行います 今回の被ばくの影響と関係が薄い病変のチェック (2) 本格検査 : 平成 26 年 4 月からは2 年ごとに検査を行います 20 歳以降は5 年ごとに健診を行い 生涯にわたり県民の健康を見守る H23 年度第 3 回福島県 県民健康管理調査 検討委員会
福島 H23-25 年度甲状腺検査 ( 先行 ) 途中経過 H25 年 12 月現在対象者 :33 万 3 千人 受診者 :26 万 9 千人 (80.8%) 二次検査対象者 :1800 人弱 悪性 悪性疑い 75 例 ( 手術 34 例 内 1 例良性 ) 男 28 例 : 女 47 例 居住地は原発近辺のみではない年齢震災当時 6-18 歳 ( 平均 14 歳 ) 腫瘍径 5.2-40.5mm ( 平均 14.3mm)
追加情報 2014 年 5 月 19 日 75 人 89 人
福島 年齢や居住地による相関関係が見られず チェル ノブイリ事故では 4,5 年後の増加が確認されている ことから 被ばくの影響とは考えにくい との見解 チェルノブイリの教訓からは年齢ほど癌多い ( 原発からの ) 距離ほど癌多い ( 被ばく線量に関係 ) 例甲状腺癌発生数 年齢 距離
福島 2014 年 3 月 28 日
弘前 甲府 長崎 ( 幼 小 中 高 ) 対象者数約 60 倍 現在までに健康調査で発見された福島の甲状腺癌症例は 被ばくとの関連は薄い と解釈出来る
臨床癌 なぜ 多くの癌が発見されたのか 症状 診察で発見 小児甲状腺癌頻度 100 万人に 1 人 発がん増殖増大周囲浸潤転移 ラテント癌 無症状の段階で画像で検出 100 万人に 300 人? 時間 ( 年齢 )
潜伏癌 ( ラテント癌 ): 剖検や ( 癌の存在を疑っていない ) 手術などで偶然に発見された癌 ( 癌としての症状 徴候なし ) 様々な理由で剖検された方をみると 生前には甲状腺の異常が見つからなかった人の約 20% 程度に 1 センチ以下の甲状腺癌が見つかります 前立腺も同様で 何の症状もない方の 20-30% 程度に前立腺癌が見つかります こうした癌は 生前には症状もなく 見つからない癌であり 潜伏癌と呼ばれています 顕微鏡でみると明らかに癌なのですが 体内では眠っているかのようにおとなしくしています これに対して 症状のある癌を臨床癌という言葉で表現することがあります
まとめ 甲状腺は放射線に対する感受性が高い臓器で癌化もある 量を考えた上で 不必要な被ばくを防ぐ 甲状腺癌に対しては 逆に放射線を用いた治療をすることがある
まとめ 甲状腺癌はラテント癌として振る舞うことあり 無症状である時期に超音波検査で癌が発見された場合 ラテント癌を見ている可能性もある 福島原発事故の影響で ( 予測される被ばく線量は低いものの ) 甲状腺癌が増えるとすればこれからなので 注意深く見守る