2016 年 9 月 27 日三重大学大学院セミナー 一生使える! 今だからこそ, 今一度学び直す 肺炎 三重大学大学院名張地域医療学講座 名張市立病院総合診療科 谷崎隆太郎
肺炎て, なんですか
感染症診療の原則 1 患者背景 たったの 5 つ! 2 問題の臓器 3 原因微生物 4 適切な治療 5 適切な経過観察
主な細菌 肺炎球菌 インフルエンザ菌 モラキセラ グラム染色 染まる BIG 3 マイコプラズマ クラミドフィラ レジオネラ グラム染色 染まらない BIG 3
肺炎球菌 グラム陽性球菌 グラム陰性桿菌 インフルエンザ菌 グラム染色染まる BIG 3 グラム陰性球菌 モラキセラ
イケてる痰 イケてない痰 IKT IKNT 食物残渣
IKT IKNT 弱拡大
IKT IKNT 強拡大
痰を適切に検査するためには 早朝起床時の痰がベスト. 唾液成分でない, 膿性の部分 (IKT) を提出する. 吸引しても咽頭部の唾液しか吸引できないことがある. 採取後は冷蔵保存. グラム染色だけならこんな痰でも OK. むしろ, 余分な唾液成分がティッシュ に吸収されてラッキー.
感染症診療の原則 1 患者背景 たったの 5 つ! 2 問題の臓器 3 原因微生物 4 適切な治療 5 適切な経過観察
ペニシリンG アンピシリン 肺炎球菌 グラム陽性球菌 グラム陰性桿菌 インフルエンザ菌 第 3 世代セフェム グラム染色染まる BIG 3 グラム陰性球菌 モラキセラ β ラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン
菌名 PCG ABPC 肺炎球菌モラキセラインフルエンザ桿菌 PSSP PRSP BL (-) BL (+) BL (-) BL (+) PBP 変異 ABPC/SBT CTM CTRX CTX PCG: ペニシリンG,ABPC: アンピシリン,ABPC/SBT: アンピシリン スルバクタム CTM (2 nd ): セフォチアム,CTRX (3 rd ): セフトリアキソン,CTX (3 rd ): セフォタキシム PSSP: ペニシリン感受性肺炎球菌,PRSP: ペニシリン耐性肺炎球菌 BL: β ラクタマーゼ,PBP: ペニシリン結合タンパク
CTRX が選択される感染症 CTMのスペクトラム+PRSP, BLNAR 市中肺炎 細菌性髄膜炎 淋菌感染症 ( 尿道炎など ) など
セフトリアキソンのイイところ 市中肺炎だけでなく, 髄液移行性が良いので市中細菌性髄膜炎のエンピリック治療としても使える!! ほとんどの腸内細菌に効くので市中尿路感染症にも使える!! 1 日 1 回投与でOK!! ほぼ肝代謝なので腎機能障害があっても用量調整が不要!!
肺炎はすべて CTRX で良いのでは?
Enterococcus 基本的にすべての セフェムは無効! anaerobe Streptococcus Enterobacteriacece 基本的にすべての β ラクタム系は無効! P. aeruginosa マイコプラズマ クラミドフィラ レジオネラ ( 国立国際医療研究センター忽那賢志先生より拝借 )
肺炎球菌 インフルエンザ菌 モラキセラ 主な細菌 ペニシリン系, セフェム系, カルバペネム系は 効かない グラム染色染まる マイコプラズマ クラミドフィラ レジオネラ マクロライド テトラサイクリン グラム染色 染まらない フルオロキノロン
セフトリアキソンの害 ( 例 ) Clostridium difficile 感染症を起こしやすい. 胆石や胆泥を形成して胆嚢炎を起こしうる. もともと AmpC を持っている菌に使うと, 使っている途中で耐性を誘導する. Antimicrob Agents Chemother 2008;52:995-1000 Enterobacter, Serratia, Citrobacter, Providencia, Morganella など
主な細菌 肺炎球菌 インフルエンザ菌 モラキセラ グラム染色 染まる マイコプラズマ クラミドフィラ レジオネラ グラム染色 染まらない BIG 3
肺炎診療の極意 1 可能な限り原因微生物を 詰める努力をする
とはいえ N Engl J Med 2015;373:45-27 画像検査で肺炎と診断された 2320 人. 年齢中央値 57 歳 血液培養, 尿中抗原,PCRを97% の人に施行 原因微生物が判明したのは全体の 38 % ウイルス 23%, 細菌 11%, ウイルス+ 細菌の両方 3%, 真菌 1%. < 内訳 > ライノウイルス 9%, インフルエンザウイルス 6%, 肺炎球菌 5%, ヒトメタニューモウイルス 4%, RS ウイルス 3%, パラインフルエンザウイルス 3%
事実というものは存在しない 存在するのは解釈だけである フリードリヒ ニーチェ
感染症診療の原則 1 患者背景 たったの 5 つ! 2 問題の臓器 3 原因微生物 4 適切な治療 5 適切な経過観察
例えば 78 歳女性, 発熱, 咳, 痰,SpO2 低下 喀痰グラム染色でグラム陽性双球菌 尿中肺炎球菌抗原 (+) PGG で治療開始
経過 体温 38.5 38.4 38.3 38.2 38.1 38 37.9 37.8 治療開始 PCG 300 万単位 q4h 翌日 WBC 18,900 16,500 Hb 16.7 13.0 Plt 15.2 12.3 CRP 1.7 18.5 酸素流量 (L/min) 10 9.5 9 8.5 8 7.5
経過 体温 38.5 38.4 38.3 38.2 38.1 38 37.9 37.8 治療開始 PCG 300 万単位 q4h 翌日 WBC 18,900 16,500 まだ熱あるし,CRP とか高いし, Hb 16.7 13.0 Plt 15.2 12.3 本当に良くなってるのか?? CRP 1.7 18.5 酸素流量 (L/min) 10 9.5 9 8.5 8 7.5
経過観察に使用する指標 全身 見た目の元気さ発熱食欲意識, 脈拍 ADL 白血球 CRP 局所 呼吸困難呼吸回数 咳の回数 痰の量 色呼吸音の異常痰グラム染色 PaO2, SpO2 胸部 Xp 浸潤影
経過観察に使用する指標 全身 見た目の元気さ 心不全でも 発熱 食欲 認められる 意識, 脈拍 局所所見は ADL? 白血球 CRP 局所 呼吸困難呼吸回数 咳の回数 痰の量 色呼吸音の異常痰グラム染色 PaO2, SpO2 胸部 Xp 浸潤影
経過観察に使用する指標 ( 通常は ) 全身 痰のグラム染色で菌が 見た目の元気さ 見えないこと 以外の所 心不全でも 発熱 見は肺炎と心不全では 食欲 認められる 意識, 脈拍 かなり似ています. 局所所見は ADL? 白血球 もちろん, 起座呼吸, 座位での頸静脈 CRP 怒張, 心拡大,III 音聴取などは肺炎では あまり見られず, 心不全を示唆します 局所 呼吸困難呼吸回数 咳の回数 痰の量 色呼吸音の異常痰グラム染色 PaO2, SpO2 胸部 Xp 浸潤影
肺炎 ( 通常は ) 全身 痰のグラム染色で菌が 見た目の元気さ 見えないこと 以外の所 発熱 食欲 意識, 脈拍 ADL 白血球 CRP 呼吸困難 呼吸回数 というわけで, 肺炎と心不全の鑑別にも 局所 咳の回数 グラム染色は有用です! 見は肺炎と心不全では かなり似ています. もちろん, 起座呼吸, 座位での頸静脈 怒張, 心拡大,III 音聴取などは肺炎では あまり見られず, 心不全を示唆します 痰の量 色 ( もちろんグラム染色の感度の限界もありますが ) 呼吸音の異常 痰グラム染色 PaO2 / SpO2 胸部 Xp 浸潤影
全身の指標がすべて良くなっていれば たいてい患者も良くなっている. ただし, 多くの場合に局所の指標の方がよ り迅速で鋭敏である 谷崎隆太郎
肺炎診療の極意 2 治療効果は 局所の指標で判定すべし
肺炎が良くならない場合 何を考える?
感染症が良くならないときに まず考えること 最初の診断が違う可能性 ( 臓器 and/or 微生物 ) ドレナージやデブリドマンが必要な病態である可能性 そもそも自然経過である可能性
Nonresolving pneumonia1 ( 治療しても レントゲン画像が 良くならない肺炎 ) 1 肺炎球菌肺炎 20-30% の患者では胸部 X 線での異常が 1 週間以上残存する. 2 レジオネラ肺炎 臨床所見に数日遅れて胸部 X 線所見が改善 3 マイコプラズマ肺炎 2-4 週間程度, 胸部 X 線の異常が残存 4 クラミドフィラ肺炎 50% が 4 週間以内に改善 5 実は耐性菌だった Up To Date
Nonresolving pneumonia2 1 結核 Up To Date 2 真菌 ( 特にアスペルギルス, ヒストプラズマ, コクシジオイデス, クリプトコッカス ) 1 放線菌 ( ノカルジア, アクチノミセス ) 4 悪性腫瘍 ( 肺癌, 悪性リンパ腫 ) 5 その他の炎症性疾患 ( 器質化肺炎, 好酸球性肺炎, 特発性間質性肺炎, 膠原病肺, 肺胞蛋白症, 薬剤性肺炎, サルコイドーシスなど ) 6 心血管系が原因 ( 肺塞栓症, 心原性肺水腫 )
呼吸器症状 + 胸部 X 線の異常 = 肺炎? 肺炎 = 感染症?
ケース 1 69 歳男性 2 日前からの発熱 本日, 呼吸困難が出現し たため近医より紹介. 体温 38.8 SpO2: 85% (nasal 2L)
< 痰培養 > Streptococcus pneumoniae
受診当日 治療開始翌日
治療前 4 時間後 16 時間後
ケース 2 85 歳女性 4-5 日前から食欲低下, 咳, 寒気. 発熱あり SpO2: 95% (room air)
< 痰培養 > Haemophilus influenzae
ケース 3 63 歳男性 2 週間前から力が入らない. 悪性リンパ腫の診断で本日他院に入院予定だったが, 朝まで待てず深夜にER 受診. 肺炎の診断でCTRXが開始された. ( 痰グラム染色なし ) 体温 36.3 SpO2: 97%(room air)
2 日後 < 血液培養 > Cryptococcus neoformans
参考 < 髄液墨汁染色 > Cryptococcus neoformans
ケース 4 89 歳女性 2 週間前から繰り返す38 台の発熱. 1ヶ月前にレボフロキサシン投与にて解熱した肺炎の既往あり ( 抗酸菌痰塗抹 培養 1 回陰性,PCR-TB 陰性 ). 体温 36.8,SpO2: 92% (room air)
胸部単純 CT 抗酸菌痰塗抹 1+( 蛍光法 ) PCR-TB 陽性 ( 後に判明 ) 痰培養 :Mycobacterium tuberculosis
ケース 5 79 歳女性 肺炎の診断で2 週間前からレボフロキサシンを内服中. 浸潤影が改善しないため入院. 体温 36.7,SpO2: 99% (room air) 初診時から低下なし 血清クレアチニン正常範囲内, 尿潜血陽性, 尿蛋白陽性
胸部単純 CT panca 224 U/ml 腎生検 : 半月体形成あり < 診断 > 顕微鏡的多発血管炎
ケース 6 85 歳女性 4 日前からの呼吸困難. 本日胸痛が出現し, 胸部 X 線で 左胸水貯留が疑われ受診. ほぼ寝たきり. 体温 37.2,SpO2: 94% (room air)
< 診断 > 肺塞栓症 胸部造影 CT
肺炎診療の極意 3 肺に影がある = 細菌性肺炎 ではない 肺に影がある = 抗菌薬投与 でもない
やっぱり基本中の基本である 問診 身体診察 + グラム染色が の画像検査であることを 一生 忘れないことが大切
肺炎診療のまとめ 可能な限り原因微生物を詰める努力をし, 抗菌薬は 想定された微生物に応じて選択すべし! 治療効果は局所の指標で判定すべし! 画像所見が良くならないときは,Nonresolving pneumonia という概念を思い出すべし! レントゲンの異常 = 細菌性肺炎とは限らないので, しっかりと鑑別診断を挙げるべし!