スタッフのための透析装置 ~ 知っておきたい基礎知識 ~ アラームに強くなろう! 上野綾子
アラームに強くなろう! 透析室の環境 各アラームの原因と対処法 透析中の事故の事例 アラームが鳴らない事例 ポイント
透析室の環境 多くの透析施設では一度に多人数の患者を治療しているため 比較的単一な操作を同時に多数の患者に行なう このような環境下では 慣れが生じやすく 確認が遅れがちで危険の発見が見落とされる可能性がある
透析装置のアラーム 透析装置のアラームは 患者の状態や回路の状態を知らせるための手助けである アラームの原因の危険度は様々であり 確認が遅れると生命にかかわる可能性がある よって アラームの意味を理解することは 大変重要で患者の安全を守ることにつながる
代表的なアラームの種類 静脈圧上限 下限アラーム静脈圧が上下限の設定範囲を超えたときに発生する 気泡アラーム回路にセットした気泡検出器に気泡が通過すると発生する TMP 上限 下限アラーム静脈圧と透析液圧の差が上下限設定範囲を超えたときに発生する 透析液アラーム ( 濃度 温度 液圧など ) 漏血アラーム 停電アラーム など
静脈圧上限アラーム 1 静脈側ドリップチャンバドリップチャンバ下部下部の回路の折れ ねじれ 2 返血側留置針の位置 3 静脈側ドリップチャンバドリップチャンバの凝血
静脈圧上限アラーム (1) 静脈側ドリップチャンバ下部の回路の折れ ねじれ確認点 : 回路に折れがないか確認する 対処法 : 折れ ねじれを直し 回路の位置を変える 横を向いた時に折れたりすることがある 返血側留置針の位置確認点 : 留置針の先に痛みや漏れがないか 極端に腕が屈曲していないか等を確認する 対処法 : 特に問題がないのに頻回に鳴るようであれば 位置や固定を見直す もし漏れがある場合はポンプを止め 別の場所に穿刺しなおし 再開する
静脈圧上限アラーム (2) 静脈側ドリップチャンバの凝血確認点 : 抗凝固剤の量が不足していることが主な原因であるが 脱血不良などで頻回にポンプが止まっていた時も凝血しやすい 静脈側ドリップチャンバの色が黒くなっていて 返血側留置針側に問題がなければ 静脈側ドリップチャンバ内の凝血を疑う 対処法 : 静脈側回路を交換する
静脈側回路交換法 (1 例 ) 1 2 3 1. ポンプを止め ダイアライザーを反転し ダイアライザーの入り口部分をクランプする 2. ダイアライザーの出口を外し 落差で返血する ( 返血出来ない時は破棄 ) 3. 新しく静脈側回路をプライミングし 取り付ける 4. クランプを外し ポンプを回す
静脈圧下限アラーム 1 回路や留置針留置針の脱落 2 血圧低下 ( 脱血不良 ) 3 脱血不良 4 静脈側ドリップチャンバドリップチャンバ入り口までの回路回路の折れ ねじれ
回路や留置針の脱落 第 71 回大阪透析研究会大阪府臨床工学技士会共催セミナー 静脈圧下限アラーム (1) 確認点 : 回路の接続部やヘパリンライン 針先などから出血がないか確認する 対処法 : 回路は ロック式にすると脱落の危険が少なくなる 脱落を発見したときは 他のスタッフに声を掛けると同時に出血の有無を確認する 出血がある場合は出血部位 箇所を確認し それ以上の出血を防ぐ そのまま透析が出来る場合は再開する
脱落を発見したときの対処法 (1 例 ) 1. 患者側と透析装置側に分かれて対処する 2. 患者側は出血箇所を確認し それが血管であった場合は すぐに止血をする 透析装置側は回路が凝固しないよう 再循環させたり 返血したりする 3. 血圧 心電図モニタを装着し バイタルサインをチェックする 4. 失血量があまりにも多く 意識レベルの低下を認めた場合はすぐに補液などの処置が必要である 医師に報告し 輸血 透析続行の指示を仰ぐ 日頃からスタッフ間で対処方法を話し合っておき いざという時に対処できるようしましょう
血圧低下 第 71 回大阪透析研究会大阪府臨床工学技士会共催セミナー 静脈圧下限アラーム (2) 確認点 : 血圧が低下し 循環不全が起こると 留置針のある血管の血流も低下する 必然的に脱血不良になり 静脈圧が低下する 声掛けなどで意識があるか確認し 血圧を測定する 対処法 : 透析を止める 除水を止める 何度も呼びかける 足を挙上する 補液するなど 血圧が上がれば透析を再開し こまめに血圧を測り 安定して透析が出来ていることを確認する
脱血不良 第 71 回大阪透析研究会大阪府臨床工学技士会共催セミナー 静脈圧下限アラーム (3) 確認点 : ピローが十分膨らんでいるか 静脈側ドリップチャンバが陰圧になっていないか確認する 対処法 : 脱血側留置針の位置や向きを変えてみる 透析ごとに脱血不良になる場合は血管不全の問題も考えられる 静脈側ドリップチャンバ入り口までの回路の折れ 確認点 : 脱血側回路から静脈側ドリップチャンバ入り口までの回路に折れがないか確認する 対処法 : 透析中に薬剤をポートからショットするときや横を向いた時に折れていることがある
気泡アラーム 1 留置針の緩み 脱落脱落 脱血不良 2 回路接続部の亀裂 3 輸液回路からのからの空気空気混入 4 静脈圧ラインラインやフィルタフィルタの外れ
気泡アラーム (1) 動脈側気泡検出器に気泡が混入 確認点 : 留置針の緩み 脱落がないか 脱血不良がないか 回路接続部に亀裂が入っていないか 輸液回路からの空気混入がないか確認する 静脈側気泡検出器に気泡が混入 確認点 : 上記に加え 静脈圧ラインや静脈圧フィルタの緩みや外れがないか確認する
気泡アラーム (2) 対処法 : 血液回路の気泡検出器と連動しているクランプ部より下部を遮断し 回路を取り外す 中の気泡を完全に除去すると共に空気混入の原因を取り除き 透析を再開する 原則的に静脈側気泡検出器静脈側気泡検出器よりより下部下部ではでは 注射 輸液輸液 採血等採血等はしない
TMP アラーム TMP( 膜間圧力差 ) とは? 透析液血液膜 透析液膜 血液と透析液の圧のバランスを 表したもの 血液側の平均圧と 透析液側の平均圧の差 PBi PBo PDo PDi TMP = PBi + PBo PDi + P 2 2 Do 1) 臨床工学技士標準テキスト第 1 版 P364 より 実際は 静脈圧と除水制御含む透析液圧で計算されている
TMP 上限アラーム 1 返血側回路の折れ ねじれ 凝血 2 ダイアライザー内部内部の凝固 ( 過剰な除水 ) P TMP = + P 2 P + Bi Bo Di P 2 Do
TMP 上限アラーム 返血側回路の折れ ねじれ 凝血確認点 : ダイアライザー出口から下部の回路に折れ ねじれ 凝血がないか確認する ダイアライザー内部の凝固 ( 過剰な除水 ) 確認点 : 抗凝固剤が不足していないかや 脱血不良などで頻回に透析がストップしていなかったか確認します 透析が出来ない場合は ダイアライザー又は回路全てを交換する また ECUM などで血流量を下げていて なおかつ除水速度が速いと 過濃縮による人災の可能性もあるので注意が必要である 除水速度は血流量の 30% 以内が望ましい
TMP 下限アラーム P TMP = + P 2 P + Bi Bo Di P 2 Do 1 ダイアライザー入り口までの回路の折れ ねじれ
TMP 下限アラーム ダイアライザー入り口までの回路の折れ ねじれ 確認点 : 透析液の逃げ道が無くなったときの警報 動脈側回路に折れ ねじれがないか確認する 透析液側の圧が高くなればくなれば患者側患者側に透析液透析液が流入流入する可能性もあるのでもあるので 透析液清浄化透析液清浄化は通常通常の透析透析でもでも重要です
重篤な事故の内容 1. 抜針事故 25.3% 2. 回路遮断 16.1% 3. 除水ミス 13.5% 4. 空気混入 10.5% 5. 穿刺ミス 7.8% 6. 投薬ミス 6.5% 7. 透析液異常 5.1% 8. 透析中断 中止 4.3% 9. 転落 転倒 2.7% 10. 止血操作ミス 1.9% 11. 院内感染 0.8% 12. その他 3.8% 透析医療におけるにおける医療事故医療事故と災害対策災害対策マニュアル第一版 P.20 より一部抜粋
重篤な事故とアラーム 抜針事故 静脈圧下限アラーム 気泡アラーム ( 脱血側留置針 ) 回路遮断 静脈圧上限 下限アラーム 空気混入 気泡アラーム
アラームが鳴らない危険例 (1) 抗凝固剤注入ラインからシリンジが外れて出血していたが 静脈圧アラームが鳴らなかった例 原因 : 抗凝固剤注入ラインのように極めて細いラインからゆっくり と出血している場合 静脈圧アラームが鳴らないことがあ る 留置針が脱落していたが 静脈圧アラームが鳴らなかった例 原因 : 留置針が脱落していたが 固定テープに引っかかり 圧が 保たれていた場合 静脈圧アラームが鳴らないことがある
アラームが鳴らない危険例 (2) 気泡検出器を通過する気泡原因 : 脱血不良があり 回路内が陰圧になっているとき 細かい気泡が発生する 大きい気泡がセンサー部を通ると気泡アラームが鳴るが 細かい気泡が回路の壁を伝うように流れると 気泡検出器で検出できない場合がある 透析液が止まったまま体外循環を行なっていた 原因 : 留置針の位置の不良などで準備モードで処置をしていて うっかり透析再開のボタンを押し忘れていた時 透析モードに入っていないとアラームを出す機械でない場合 気付かないことがある
アラームに強くなるポイント 回路はねじれが無いよう接続 固定する * 回路がねじれていては 屈曲する危険が高まる また 回路がきれいに取り付けられていれば 異常に気付きやすい 適正値を知る * 例えば 留置カテーテル 自己血管内シャント 人工血管内シャントでは静脈圧の適正範囲は違う 脱血不良や静脈圧上昇に気がつかないと 回路内凝固や再循環といったことにつながります 危険な治療だということを認知する * 体外循環は危険な治療だということを再認識し スタッフだけでなく 患者自身にもエラー検出に参加してもらう工夫をする
アラームが鳴らない事例には アラームには検出できる限界がある 事故の情報を収集して 共有しましょう 患者の様子を観察する 針先 顔色 声かけ etc 分かりやすくする 針先は常に見えるようにしておく 等 人間がチェックする 機械で検出できないのであれば 人間が気付くしかありません チェック表やチェックするタイミングなどを工夫し 定時チェック以外にも確認することが大切です
ご清聴ありがとうございました
お知らせ これらのスライドは大阪府臨床工学技士会のホームページに掲載されております http://www.osakace.com www.osakace.com/ 大阪府臨床工学技士会では 10 月 5 日に急性血液浄化セミナーを開催します また その他勉強会のお知らせなどもホームページに掲載しておりますので ぜひ一度ご覧ください
おまけ 1 透析液濃度アラーム 透析液濃度が設定範囲を超えたときに発生する 透析液濃度が高い場合 症状 : 口渇 血圧上昇 頭痛 痙攣 意識障害など 透析液濃度が低い場合 症状 : 頭痛 血圧低下 悪心嘔吐 意識障害 痙攣発 作 溶血 溶血による頭痛 背部痛 胸内苦悶など
おまけ 2 透析液濃度アラーム 透析液濃度異常確認点 : 透析液供給装置 水処理装置の異常 A 液 B 液の取り間違い 消毒液の残存 個人機であれば原液注入チューブの折れや RO 水供給配管の折れなど対処法 : 透析液を止め ( 準備モード等 ) 透析液濃度を実測する その後 原因と考えられる点を解決する 消毒液が残存している場合 透析を停止し カプラを外して 完全に洗い流す 復帰が難しいようであれば 透析を中断し 必要に応じて代替装置で透析を行なう
おまけ 3 参考文献 透析ナースの Step Up! 透析機器のエラー & トラブル解決ブック 山家俊彦 2007/3/20 第 1 版第 1 刷 株式会社メディカ出版 ナースの日常の? をスッキリ解決! 透析機器のギモン 100 アンサーブック 山家俊彦 2007/6/20 第 2 刷 株式会社メディカ出版 Clinical Engineering Vol.15 No.6 2004 株式会社秀潤社 医療機器使用者のための警報装置 ( アラーム ) ガイドライン 平成 13 年 ~ 14 年度厚生労働科学研究 医療用具の警報装置の現状と問題点の調査研究 に関する調査 研究班 第 1 版 腎と透析 Vol.64 No.5 May.2008 東京医学社