婦人科疾患で どんな病気が多いか ( 上 ) 日本海員掖済会門司病院 婦人科部長木原郁夫 女性は 最近平均寿命が著しく延びたことから 更年期以降に約 30 年 ( 人生の約 3 分の 1) を過ごすことになりました しかし この時期は ホルモンの変化によるさまざまな不具合 癌やその他の身体的疾患 家庭環境や職場環境からのストレス 体力の低下等により 大きく影響をうける時期でもあります 一旦健康を損ねると 家庭内での影響は大きいし その程度によっては 将来の生活設計に大きな影響を持つこともあります 前もってある程度の知識があれば 避けられる病気もあるし 苦痛を最小限におさえながら過ごすこともできます まず 更年期頃に起こりやすい疾患を知って 健康な生活を送るための参考にしましょう A 症状が見える病気 ( 出血 腹部腫瘤 尿もれ 腹痛等 ) 子宮筋腫 子宮にできる腫瘤で 大きさの差はあるが 3-4 人 に1 人は持っている 大きくなった場合や月経が多く て貧血になる場合に 治療を要する 子宮内膜症 子宮や卵巣が腫大したり 月経痛が強くなる 症状 は 筋腫に似ている 子宮頚癌 子宮頚部 ( 子宮の下の方 ) の癌 ふつう子宮癌検診と 言われているのは 子宮頚癌の癌検診のこと 子宮体癌 子宮体部 ( 子宮の上の方 ) の癌 閉経前後から増加す る 子宮頚癌の検診では 子宮体癌までは分からないことがある 卵 巣 癌 子宮の両側にある卵巣の癌 お腹の中にあるので 症状が出にくい 他の部位に転移して 初めて気付くことが多い 頚癌の検診だけでは分からないことがある 尿 失 禁 くしゃみ等で 頻繁に尿がもれる 骨粗鬆症 骨がもろくなる 若い人にもみられることがある 初期では検査でなければ分からない
B 症状が見えない病気 ( 頭痛 めまい 肩こり 関節痛 のぼせ 発汗等 ) 更年期障害 婦人科 心身症不安神経症うつ病等心療内科または精神科 この 4つの疾患は似ている部分も多く いずれも 自律神経失調症状と精神症状を伴います 自律神経失調症状とは 頭痛 めまい 肩こり 関節痛 のぼせ 発汗等 よく不定愁訴ともいわれるものです 精神症状では 不安感や意欲低下 自信喪失などが多いようです このような症状があり 程度がひどいために 日常生活に影響が出るようであれば 病的な状態と考えられるので 治療が好ましいでしょう 症状があるだけで あまり気にならないのであれば まだ病気ではないと判断し 経過をみてよいでしょう 症状が強ければ たぶん 内科か婦人科を受診することになると思いますが 精神症状が強いようなら内科または心療内科へ 自律神経症状が強いようなら婦人科へと考えてもよいかもしれません 場合によっては 受診時の診察で あらためて適当な診療科へ紹介となるかもしれません 更年期障害の場合 他の 3つの疾患と合併していることもあり 両方の科で同時に治療を進めることもあります
婦人科疾患でどんな病気が多いか ( 下 ) 日本海員掖済会門司病院 婦人科部長木原郁夫 前回は婦人科疾患でどんな病気が多いかについてお話しましたが 今回は症状が 出たらどう対処するか ならないためにどうするかについて お話いたします A 症状が見える病気 ( 出血 腹部腫瘤 尿もれ 腹痛等 ) 子宮筋腫 子宮内膜症の場合 月経の量が増えてきた場合 2 時間以内で 生理用品を交換しなければならないほどになると 貧血を起こしている可能性があります 尿が近くて 下腹部に硬い 腫瘤のため 膀胱が圧迫されて尿が近くなったのかも感じがするしれません 下腹部に硬い腫瘤がふれる にぎりこぶしより大きい筋腫があるかもしれません こんな時は 婦人科を受診して下さい なんとか閉経までもちこめば 手術を免 れることもできるので 症状の程度によっては 体の負担を軽減しながら経過を観 ていくこともできる疾患です 子宮頚癌 子宮体癌の場合 月経以外の出血で気付くこともありますが まったく症状がなく かなり進行してしまうことも多い疾患です 子宮頚癌の場合 前癌状態から進行癌になるまで数年を要するので 毎年癌検診を受けることで 癌になる前に治療することができます 2 年間検診を受けないと 運が悪い場合 癌を見のがすこともあるかもしれません 毎年 癌検診を受けた方が安心です 子宮体癌は 見つけにくい癌です 市民検診で 子宮頚癌の検査が異常なくても 月経以外の出血等気になることがあれば 婦人科の受診を勧めます 卵巣癌の場合 卵巣癌ができても しばらくは大きくなるだけで 全く症状が出ず ほとんどは
どこかに転移して初めて気付くことが多い癌です お腹に多量の腹水がたまっても ほとんどの人は 太っただけと思って放置しています 卵巣が約 7センチメートル程度まで腫大したら 良性腫瘍に見えても手術で摘出し 癌細胞がないか調べるのが一般的です 初期で見つけるためには 定期的に癌検診を受ける以外に方法はないようです 尿失禁の場合 病状によって 体操や排尿訓練で改善できることもあります 改善しなければ 薬に頼るか 程度によっては手術となることもあります 骨粗鬆症の場合 20 才を過ぎると 骨は次第にもろくなってきます 特に 激しいスポーツなどで長期間月経が停止した場合や閉経後は 急激に骨がもろくなってきます 年とともにゆっくりと骨がもろくなる場合は 活動量も減ってくるため 骨折の機会は減ってきますが 若い時に急激に骨粗鬆症が進行すると ひどい骨折を起こし その後の人生に大きな影響を与えます 予防のためには 適度な運動と日光浴 カルシウムの摂取が必要です 健康フェア等で 無料で骨塩量の検査をしていることも多いので 機会をみつけて検査を受けてみてはどうでしょうか いずれにしても 定期的に癌検診を受けることが 間違いないでしょう 1 年に 1 回の癌検診は 特に異常のない人が 異常を見つけるために行う検査です 気に なることがあれば その時に受診して 適切な指示を受けてください B 症状が見えない病気 ( 頭痛 めまい 肩こり 関節痛 のぼせ 発汗等 ) 更年期障害の場合 治療の方法としては ホルモン療法 漢方治療 抗不安薬 精神療法等を 症状に応じて使います 女性ホルモンの低下によって起こる疾患なので ホルモン剤または漢方薬が中心となります あくまでも 症状が強ければ治療した方がよい疾患で あまり気にならなければ治療の必要はありません
心身症の場合 精神的なストレスで 様々な不定愁訴や その他の病的身体的症状が現れてきます 胃潰瘍なども 心身症の症状として起こることがあります 自分の本音を抑えて 他人に無理に合わせることで 精神的肉体的に破綻した状態と考えてよいでしょう 気の持ちようだけでは 決して治りません なるべく早く 適切な治療を受けて下さい 現代人にもっとも多い病気です 症状が目に見えないだけに 自分でも病院に行くのをためらうことも多いし 他の人も実際より症状を軽く見ていることが多いようです 気付いた時には 食事も食べられない 食事の味も分からない 不安で外出できない きつくて動けない等重症化していることもあります ここまで悪くなると 治るのに数年を要することも多いです 40 才頃になると体力も低下し 精神的にも疲れがたまってきます まだまだできると思っても 体は拒否反応を出していることも多いのです がんこな肩こり 頭痛 ふらつき 原因不明の腹痛 お腹がいつもはった感じ 喉のつまった感じ等が 初期の症状で多いようです たびたびこんな症状がでるようなら いつも無理して人に合わせていないか いつも仕事や家庭で頑張りすぎていないか 言いたいことがあるのに我慢して 自分が犠牲になっていないか ちょっと考えてみて下さい 仕事を一生懸命するのも 家族のために頑張るのも 大事なことですが まず 健康であることが第一です あれも これも しなければと思っても すべてをかたづけることは まず不可能です ひとつ頑張ったら ひとつ手を抜きましょう 疲れを残さずに ゆっくりと頑張っていきましょう