平成 29 年度 既設洪水吐撤去跡に築造した新設堤体の安全性について 当麻ダムの試験湛水結果報告 旭川開発建設部旭川農業事務所第 1 工事課 山王萌菊池裕貴今西智幸 1. はじめに 国営総合農地防災事業 とうま地区 では 流域内の開発等に起因する洪水流出形態の変化に対応するため 当麻ダムの洪水吐を移設 改修し洪水流下能力を増強した 改修にあたり 堤体に隣接する既設洪水吐を撤去し その跡に既設堤体と連続した新設堤体を築造した 平成 28 年度に新設堤体が完成し 平成 29 年 4 月から 5 月にかけて かんがい用水を供給しながら試験湛水を実施し 堤体及び基礎地盤の遮水性や挙動を検証し安全性を確認した 本報では この結果について報告する キーワード : 洪水吐改修 供用中ダム 試験湛水 本地区は 北海道中央北部の当麻町に位置し 上川盆地を流れる石狩川水系牛朱別川及びその支流当麻川流域に拓けた農業地帯である ( 図 -1.1) 当麻ダム 図 -1.2 各施設のレイアウト 2. 新設 既設堤体接合部について 図 -1.1 当麻ダム位置図 (Google マップを引用 ) 当麻ダムは 旭川市の北東約 20km 地点に築造された農業用の中心遮水ゾーン型フィルダムで 堤高 21.30m 堤頂長 242.40m 堤体積 200 千 m 3 有効貯水量 3,039 千 m 3 を有し ( 改修後の諸元 ) 水田 553 haの用水源である ダム流域内の開発などによる洪水流出形態の変化に対応するため 洪水吐の洪水流下能力を増強する目的で 平成 19 年度から洪水吐の改修 それに伴う堤体の造成 管理設備の新設工事等を行った ( 図 -1.2) これらの主要工種は平成 28 年度中に完了し 平成 29 年 4 月から 5 月にかけて堤体新設部に対する試験湛水を実施した 本報では この試験湛水結果について報告する 既設洪水吐の撤去に伴い造成された新設堤体は堤高 はがねど 7.80m を有し 既設堤体と同様 中心部から順に 鋼土だきどさやど 抱土 鞘土 の3ゾーンで構成される ( 図 -2.1) ただし 新設堤体では鋼土と抱土を同一材料からなる遮水性ゾーンとして施工した 新旧堤体の接合面においては 盛立て材料が確実に接合されていないと浸透経路の発生を招くことになるため 図 -2.1 新設堤体のゾーニング
図 -3.1 試験湛水実績図 平成 28 年度に既設堤体と新設堤体が接合された抱土ゾーンにおいて調査ボーリングを実施し 接合面の調査を行った 図 -2.2に示すように 調査ボーリングのコア観察結果からは 新旧堤体接合面における 材料の分離 は認められなかった また 境界面を含む透水試験結果により得られた透水係数 ( = 2.11 10 ) は 新設堤体盛立時の品質管理試験結果 ( = 2.63 10 ) と既設堤体抱土の現場透水試験結果 ( = 5.46 10 ) の中間程度の値となっており 止水性が確保されていると判断した 図 -2.2 新旧堤体接合面付近の詳細コア写真 3. 試験湛水の概要 当麻ダムの試験湛水は 過去 17 ヶ年の観測データに基づき策定された試験湛水計画に沿って進められた 試験湛水計画では 新設部の堤体基礎地盤標高となる EL.207.00m に貯水位が到達した日から 水位上昇 水位保持 水位下降を経て 再び EL.207.00m に貯水位が低下するまで 平水年で 4/17~5/21 までの 35 日間を予定していた ( 図 -3.1 黒線部 ) 実績としては 3 月中の流入が例年と比較して極端に少なく 渇水年相当になる見通しであったが 4 月に入ってから急激に雪融けが進んだことで水位が上昇し 4/10~5/22 の 43 日間で試験湛水が完了した ( 図 -3.1 赤線部 ) また 計画では 水位の上昇下降制限速度のほか 試験湛水開始水位 (EL.207.00m) で 2 日間 浸透待機水位 (EL.208.00m) で 4 日間 常時満水位 (EL.211.00m) で 7 日間以上と 3 段階の水位保持期間を設けていた 水位上昇は 計画 0.50m/ 日に対して実績 0.28~0.38m/ 日 下降は計画 0.30m/ 日に対して実績 0.30m/ 日となり 水位上昇はやや遅かったものの 調整不能な流入や急激な水位変化等は発生せず完了した 水位保持期間については試験湛水開始水位と浸透待機水位を計画どおりに行い 常時満水位は 9 日間保持した 試験湛水期間はかんがい期間と重なっており 試験中もダムの水をかんがい用水として供給する必要があったことから 常時満水位の保持期間により供給量を調節することとし 土地改良区と相談の上実施した 4. 堤体等挙動の監視結果 (1) 監視項目試験湛水中における堤体等の監視は 主に浸透水量
図 -4.1 浸透水量観測履歴図 ( 新設堤体 ) 図 -4.2 貯水位 - 浸透水量相関図 ( 新設堤体 ) 図 -4.3 観測機器配置平面図 間隙水圧 ( 浸潤線 ) 表面変位の 3 項目により行い 浸透水量と間隙水圧の観測データは 1 回 /hr の頻度で自動収集 表面変位は 1 回 / 日の手動計測を行った 各計器の挙動について以下に評価する 主断面 (2) 浸透水量浸透水量は 既設堤体ドレーン 1 系統のほか 新設堤体ドレーン 1 系統 洪水吐ドレーン 2 系統でも計測を行った 図 -4.1 に気象観測データと合わせ 新設堤体浸透水量の観測履歴図を 図 -4.2 に貯水位と浸透水量の相関図を示す 浸透水量は 試験湛水開始前及び大雨時には若干の反応を示したものの 試験湛水期間中はほぼ流量がなく 常時満水位到達後も浸透水は観測されなかったことから 遮水性は確保されていると評価した 浸透水量が観測されなかった原因としては 想定される浸透量が 0.308L/min と少ないことに加え 後述する残留間隙水圧の影響による堤内水位の上昇抑制により 堤内の浸透水が定常状態にならなかったことなどが挙げられる 図 -4.4 観測機器配置断面図 ( 主断面 ) 図 -4.5 観測機器配置断面図 ( 副断面 ) 副断面
図 -4.6 間隙水圧観測履歴図 図 -4.7 間隙水圧分布図 ( 新設堤体 ) (3) 間隙水圧本ダムでは 盛立時の残留間隙水圧の変化及び湛水中の堤内浸潤線を把握する目的で 新設堤体の最大断面である主断面の基盤内 4 箇所 盛土内 6 箇所 既設堤体との境界面に設定した副断面の盛土内 2 箇所で間隙水圧計を計測した ( 図 -4.3~4.5) なお 新設堤体では 鋼土と抱土を同一材料の遮水性ゾーンとしているため 堤体内では P-7 のみ透水性ゾ ーンである鞘土に存在する 間隙水圧計の観測履歴図を図 -4.6 に 新設堤体内の間隙水圧分布を図 -4.7 に示す 基礎地盤の上流側に位置する P-1 や P-2a は 新設堤体の基礎地盤標高に水位が到達した 4 月 10 日以降 貯水圧に追従して反応し その後やや遅れて下流側の P-2b が反応している この遅れは ダム軸で施工したカーテングラウチングによる止水効果であり 基盤の浸透状況について 挙動に問題はないと判断した
図 -4.8 表面変位観測履歴図 一方 鋼土 抱土内に設置した計器については 盛立時の残留間隙水圧が消散途中であるため 定常浸透流状態の間隙水圧分布とはなっていないが 貯水圧に応じて 基礎地盤直上に配置した P-4 P-5 は水圧の増加 それ以外の P-6 P-8~11 は 消散速度の低下が認められる 下流鞘土内に設置した P-7 は 融雪や降雨の影響による微少な変動に留まる 堤内 特に遮水性ゾーンでは 定常での浸透状況を把握することはできなかったが 下流側鞘土 ( 透水性ゾーン ) で水位が観測されなかったことから 止水機能を十分に有する堤体であると評価した (5) 総合評価 1 ヶ月半程度と短い試験湛水期間であったが 貯水位の上昇下降に連動しない特異的な挙動や管理基準値の超過等はなく 堤体の安全性を確認することができた また この間に大雨や地震は発生せず 監視レベルの移行 ( 通常体制 警戒体制 ) もなく試験湛水が完了した 今回の試験湛水時には 堤体の盛立作業に伴う残留間隙水圧の消散が完了していなかったことから 堤内の定常状態での浸潤線が確認できなかった このため 残留間隙水圧の消散が完了 ( 平成 31 年と推測 ) した段階で 他の計器と併せて評価を行う必要がある (4) 表面変位新設堤体の天端 1 箇所 (D1) 下流斜面中腹 1 箇所 (D2) で表面変位を計測した ( 図 -4.4) 図 -4.8 に示す履歴図のとおり 鉛直方向で最大 6mm の浮上 上下流方向では下流側に最大 4.7mm の変位を記録したが 貯水位に連動しない特異な変位や 累積変位は認められなかった これらは管理基準値 ( 鉛直方向で 25mm 上下流方向 左右岸方向で 10mm) に対しても十分な余裕があるため 挙動に問題はないと評価した 5. おわりに 本ダムの改修工事は 平成 19 年度から 11 ヶ年の期間をかけて行われてきた その集大成として実施された本試験湛水は かんがい用水の供給と並行して行われたため 各施設の安全性確保はもちろんのこと 流入量 流出量の調整が重要であった 本報が 供用中における改修ダムでの試験湛水実施の参考になれば幸いである