Microsoft Word - RM最前線 doc

Similar documents
浸水深 自宅の状況による避難基準 河川沿いの家屋平屋建て 2 階建て以上 浸水深 3m 以上 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難 浸水深 50 cm ~3m 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難上階に垂直避難 浸水深 50 cm未満 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難 自宅に待

<4D F736F F D B4C8ED294AD955C8E9197BF E894A8AFA8B7982D191E495978AFA82C982A882AF82E996688DD091D490A882CC8BAD89BB82C982C282A282C4816A48502E646F63>

奈良県ライフライン 情報共有発信マニュアル 第 3.3 版 平成 24 年 7 月 奈良県ライフライン防災対策連絡会

目次 はじめに P3 1 災害 緊急の範囲 P3 2 時間と場所を考慮した対応の必要性 P3 3 時間ごとの対応 P4 4 場所ごとの対応 P5 5 デジタルサイネージの提供コンテンツ P6 6 緊急時を意識したデジタルサイネージシステム P6 7 情報の切替 復帰の条件 P7 8 緊急運用体制 P

<ハード対策の実態 > また ハード対策についてみると 防災設備として必要性が高いとされている非常用電源 電話不通時の代替通信機能 燃料備蓄が整備されている 道の駅 は 宮城など3 県内 57 駅のうち それぞれ45.6%(26 駅 ) 22.8%(13 駅 ) 17.5%(10 駅 ) といずれも

<4D F736F F F696E74202D F093EF8A6D95DB8C7689E681768DEC90AC82CC8EE888F882AB2E B8CDD8AB B83685D>

id5-通信局.indd

(案)

第 1 章実施計画の適用について 1. 実施計画の位置づけ (1) この 南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画 に基づく宮崎県実施計画 ( 以下 実施計画 という ) は 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法 ( 平成 14 年法律第 92 号 以下 特措法 と

~BCP から BCM へ ~ 静岡県事業継続計画モデルプラン ( 第 3 版 ) の概要 静岡県経済産業部

試行の概要 試行の目的石狩川滝川地区水害タイムライン ( 試行用完成版 ) を試行的に運用することにより 対応行動や実施手順を確認するとともに 運用結果を検証し 同タイムラインを精査することを目的とする 試行の概要 実施時期 : 平成 29 年出水期 (8 月 ~10 月ごろ ) 実施場所 : 各主

あおぞら彩時記 2017 第 5 号今号の話題 トリオ : 地方勤務の先輩記者からの質問です 気象庁は今年度 (H 29 年度 )7 月 4 日から これまで発表していた土砂災害警戒判定メッシュ情報に加え 浸水害や洪水害の危険度の高まりが一目で分かる 危険度分布 の提供を開始したというのは本当ですか

事業継続計画(BCP)作成用調査ワークシート

別添 中防災第 1 1 号 平成 29 年 5 月 31 日 各指定行政機関の長各指定公共機関の代表殿 中央防災会議会長 ( 内閣総理大臣 ) 安倍晋三 梅雨期及び台風期における防災態勢の強化について 貴殿におかれては 日頃から各般の施策を通じて災害対策の推進に御尽力をいただいているところであるが

Microsoft Word - 03.【参考】新旧対照表(中防災).docx

試行の概要 試行の目的石狩川滝川地区水害タイムライン ( 試行用完成版 ) を試行的に運用することにより 対応行動や実施手順を確認するとともに 運用結果を検証し 同タイムラインを精査することを目的とする 試行の概要 実施時期 : 平成 30 年出水期 (8 月 ~10 月ごろ ) 実施場所 : 各主

気象庁 札幌管区気象台 資料 -6 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 平成 29 年度防災気象情報の改善 5 日先までの 警報級の可能性 について 危険度を色分けした時系列で分かりやすく提供 大雨警報 ( 浸水害 )

防災業務計画 株式会社ローソン

1 BCM BCM BCM BCM BCM BCMS

(溶け込み)大阪事務所BCP【実施要領】

<4D F736F F F696E74202D E9197BF817C A96688DD081458CB88DD082CC8DA18CE382CC8EE682E DD2E >

<4D F736F F D20967B95B681698DC58F498D D8E968C888DD A2E646F63>

東日本大震災における施設の被災 3 東北地方太平洋沖地震の浸水範囲とハザードマップの比較 4

九州における 道の駅 に関する調査 - 災害時の避難者への対応を中心としてー ( 計画概要 ) 調査の背景等 道の駅 は 平成 16 年 10 月の新潟県中越地震 23 年 3 月の東日本大震災において 被災者の避難場所 被災情報等の発信や被災地救援のための様々な支援の拠点として活用されたことなどか

平成 29 年 7 月 20 日滝川タイムライン検討会気象台資料 気象庁札幌管区気象台 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 大雨警報 ( 浸水害 ) 洪水警報の基準改正 表面雨量指数の活用による大雨警報 ( 浸水害 )

資料 -3 事業継続ガイドラインの改定について 平成 25 年 7 月 24 日内閣府 ( 防災担当 ) 普及啓発 連携担当

第8章 災害復旧計画

1. 災害の発生を未然に防止するため 防災事務に従事する者の安全確保にも留意した上で 職員の参集や災害対策本部の設置等適切な災害即応態勢の確保を図り 関係機関との緊密な連携の下に 特に以下の取組について万全を期すること 1 危険箇所等の巡視 点検の徹底河川等の氾濫 がけ崩れ 土石流等災害発生のおそれ

「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書

防災 減災への民間情報の活用の必要性 東日本大震災において 明らかになった課題 従来の情報収集の取組 職員による現地調査 報道機関からの情報 通報 検知器 ( センサー ) 課題 対応できる人員の限界 小さな地域に関する情報の不足 紙情報が多い 情報の整理 管理が困難 設備 維持費用が大きい 上記課

資料 2-3 超大規模防火対象物等における自衛消防活動に係る訓練の充実強化方策 ( 案 ) 平成 30 年 10 月 31 日 事務局

平成 30 年度年法律第 57 号 ) 等により 要配慮者利用施設は 避難確保計画等の自然災害に関する計画 ( 以下 災害計画 という ) を作成することとなっており 災害計画の作成を促進するため 貴殿におかれても必要な支援に努められたい また 市町村が行う避難勧告等の発令に関する各種取組への積極的

資料1 第3回災害救助に関する実務検討会における意見に対する回答

アンケート調査の概要 目的東南海 南海地震発生時の業務継続について 四国内の各市町村における取り組み状況や課題等を把握し 今後の地域防災力の強化に資することを目的としてアンケート調査を実施 実施時期平成 21 年 11 月 回答数 徳島県 24 市町村 香川県 17 市町 愛媛県 20 市町 高知県

Microsoft Word - RM最前線 訓練.doc

布 ) の提供を開始するとともに 国民に対し分かりやすい説明を行い普及に努めること 図った 複数地震の同時発生時においても緊急地震速報の精度を維持するための手法を導入するとともに 緊急地震速報の迅速化を進める 特に 日本海溝沿いで発生する地震については 緊急地震速報 ( 予報 ) の第 1 報を発表

Ⅰ. はじめに はじめに 調査プロジェクトの一環として 外部会場を利用した実査 ( 会場調査 CLT やグループインタビュー等 ) の実施時における 台風 地震 火災その他の災害に対する対応の指針として ここに JMRA 外部会場における調査時の緊急時対応ガイドライン を定める 当ガイドラインは 調

PowerPoint プレゼンテーション

目次 1. はじめに 1 2. 協議会の構成 2 3. 目的 3 4. 概ね5 年間で実施する取組 4 5. フォローアップ 8

中核給油所 小口燃料配送拠点における災害対応ガイドライン 都道府県石油組合用 資源エネルギー庁石油流通課 平成 25 年 6 月

L アラート ( 災害情報共有システム ) の概要 1 情報発信 情報伝達 地域住民 市町村 災害時の避難勧告 指示 お知らせ等 収集 フォーマット変換 配信 テレビ事業者 システム接続 ケーブル地上波 デジタル TV データ放送など ( テキストで表示 ) 情報閲覧 入力 防災情報 お知らせ等 都

Microsoft PowerPoint - 参考資料 各種情報掲載HPの情報共有

資料1-4気象庁資料

東京事務所版 BCP 実施要領目次応急頁 < 第 1グループ> 直ちに実施する業務 1 事務所における死傷者の救護や搬送 応急救護を行う一時的な救護スペースの設置 運営 備蓄の設置 医療機関への搬送 1 2 事務所に緊急避難してきた県民や旅行者等への対応 避難 一次避難スペースの運営 指定避難所への

<4D F736F F D208AC888D F8DEC90AC B838B814089F090E095D A>

1. 背景等 (1) 背景等 (2) 目的 体制 2. 実証の概要 (1) 実証 Ⅰ ー 1 : 防災クラウド情報システム構築 (2) 実証 Ⅰ ー 2 : データ連携等標準仕様案の作成 (3) 実証 Ⅱ : 災害対策標準化に対応した事例の作成 ( 内閣府の災害対策標準化ガイドラインの構成イメージ

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

<89C88CA B28DB88C8B89CA955C8F4390B394C E786C73782E786C73>

< F2D E968CCC8DD08A5191CE8DF495D281458D718BF38DD0>

Microsoft Word - BCP-form

<8D4C95F182B582F182BF E30382E30352E696E6464>

P6-25

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF C E08A748AAF965B817A966B92A9914E82C982E682E9837E B94AD8ECB8E9688C482D682CC91CE899E82C982C282A282C42E B8CDD8AB B83685D>

別紙 1 防災訓練結果報告の概要 1. 訓練の目的本訓練は 核物質管理センター六ヶ所保障措置センター原子力事業者防災業務計画第 2 章第 5 節第 2 項 防災訓練 に基づき 原子力災害を想定した総合訓練を実施することで 原子力防災組織が有効に機能することを確認する 訓練後は訓練モニターの評価結果

第 3 回災害対策本部会議の開催 ( 災害発生から 2 日後 ) ここからが BCP! 取引先などの状況把握 業務への影響詳細分析 業務継続の優先順位判断 災害対策本部事務局 (CMT -Crisis Management Team-) の業務と役割 緊急参集 被害状況の把握 災害対策本部立ち上げ

H28秋_24地方税財源

各部会の活動状況予定200505

<323091E693F18FCD208E96914F959C8BBB82CC8EE F DF82E98FE382C582CC8AEE967B934982C88D6C82A695FB2D322E786477>

資料1 受援計画策定ガイドラインの構成イメージ

(3) 設備復旧対策事例 ~ 基地局及びエントランス回線通信事業者各社で取り組んだ主な基地局あるいはネットワーク設備復旧対策としては 光ファイバー 衛星回線 無線 ( マイクロ ) 回線の活用による伝送路の復旧や 山頂などへの大ゾーン方式 ( 複数の基地局によるサービスエリアを1つの大きなゾーンとし

Microsoft PowerPoint - 04-検討プロセス及び検討体制

大規模災害等に備えたバックアップや通信回線の考慮 庁舎内への保存等の構成について示すこと 1.5. 事業継続 事業者もしくは構成企業 製品製造元等の破綻等により サービスの継続が困難となった場合において それぞれのパターン毎に 具体的な対策を示すこと 事業者の破綻時には第三者へサービスの提供を引き継

(1) 当該団体が法人格を有しているか 又は法人格のない任意の団体のうち次の1~2の要件を全て満たすもの 1 代表者の定めがあること 2 団体としての意思決定の方法 事務処理及び会計処理の方法 並びに責任者等を明確にした規約その他の規定が定められていること (2) 関係市町村との協議体制を構築してい

PowerPoint プレゼンテーション

1 検査の背景 我が国の防災の基本法として災害対策基本法 ( 昭和 36 年法律第 223 号 ) が制定されている 同法によれば 内閣府に中央防災会議を置くとされ 同会議は 災害予防 災害応急対策及び災害復旧の基本となる防災基本計画の作成 その実施の推進 防災に関する重要事項の審議をそれぞれ行うな

中央防災会議会長(内閣総理大臣)による「梅雨期及び台風期における防災態勢の強化について」の通知について

目次 1 降雨時に土砂災害の危険性を知りたい 土砂災害危険度メッシュ図を見る 5 スネークライン図を見る 6 土砂災害危険度判定図を見る 7 雨量解析値を見る 8 土砂災害警戒情報の発表状況を見る 9 2 土砂災害のおそれが高い地域 ( 土砂災害危険箇所 ) を調べたい 土砂災害危険箇所情報を見る

続報を伝達しますので 引き続き屋内に避難していて下さい 弾道ミサイルが日本の上空を通過した場合には 他に追尾しているミサイルやミサイルから分離した落下物が我が国の領土 領海に落下する可能性が無いことを確認した後 弾道ミサイルが通過した旨の情報をお知らせします ((2)2) 引き続き屋内に避難する必要

スライド 1

Microsoft Word - 02.H28秋 重点提言本文【合本】1110.doc

燕市 ICT 部門の業務継続計画 < 初動版 > ー概要版ー 燕市

reference3

品質マニュアル(サンプル)|株式会社ハピネックス

介護保険施設等における利用者の安全確保及び非常災害時の体制整備の強化・徹底について

気象庁技術報告第134号表紙#.indd

SABO_97.pdf

<4D F736F F D DEC90AC82CC82B782B782DF816982A982C882AA82ED94C5816A976C8EAE95D220446F776E6C6F61642E646F63>

大雪警報発表時の対応暴風警報等と異なり 大雪の場合は大雪警報が解除された後も積雪の状況により登園が困難になることも想定されるため 各園の判断で臨時休園等の措置をとります その際 幼稚園敷地内の適切な場所を観測地点として その場所の積雪量が一定基準 ( 大雪警報に準じて20センチメートル程度 ) に達

2-2 需要予測モデルの全体構造交通需要予測の方法としては,1950 年代より四段階推定法が開発され, 広く実務的に適用されてきた 四段階推定法とは, 以下の4つの手順によって交通需要を予測する方法である 四段階推定法将来人口を出発点に, 1 発生集中交通量 ( 交通が, どこで発生し, どこへ集中

~ 二次的な被害を防止する ~ 第 6 節 1 図 御嶽山における降灰後の土石流に関するシミュレーション計算結果 平成 26 年 9 月の御嶽山噴火後 土砂災害防止法に基づく緊急調査が国土交通省により実施され 降灰後の土石流に関するシミュレーション結果が公表された これにより関係市町村は

Microsoft Word - RM最前線 doc

津波警報等の留意事項津波警報等の利用にあたっては 以下の点に留意する必要があります 沿岸に近い海域で大きな地震が発生した場合 津波警報等の発表が津波の襲来に間に合わない場合があります 沿岸部で大きな揺れを感じた場合は 津波警報等の発表を待たず 直ちに避難行動を起こす必要があります 津波警報等は 最新

2014年度_三木地区概要

( 社会福祉施設用作成例 ) (4) 施設管理者は, 緊急時連絡網により職員に連絡を取りましょう (5) 施設管理者は, 入所者の人数や, 避難に必要な車両や資機材等を確認し, 人員の派遣等が必要な場合は, 市 ( 町 ) 災害対策本部に要請してください (6) 避難先で使用する物資, 資機材等を準

1 首都直下地震の概要想定震度分布 (23 区を中心として震度 6 強の想定 ) 首都直下地震 想定震度分布 出典 : 中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ 首都直下地震の被害想定と対策について ( 最終報告 ) ( 平成 25 年 12 月 ) 2

各府省からの第 1 次回答 1. 災害対策は 災害対策基本法に規定されているとおり 基礎的な地方公共団体である市町村による第一義的な応急対応と 市町村を包括する広域的な地方公共団体である都道府県による関係機関間の総合調整を前提としている を活用してもなお対応できず 人命又は財産の保護のため必要がある

スライド 1

Microsoft Word 最終【資料-4】.docx

のような事象でさえ わずか数分前の警告によって生命を救えることもある リスクの発生を定期的に再検討することが重要である たとえば 気候変動やその他の変化の結果として極端な気象現象 ( 暴風雨 熱波 野火など ) の発生頻度や激しさが高まる可能性があり 新たな地球物理学的データやその他のデータによって

Microsoft Word - RM最前線2015-5(高潮最終版).doc

各省庁等における業務継続計画に係る取組状況調査 調査の目的 各省庁等における現在の業務継続計画に係る取組状況を把握し 東日本大震災等を受けた 今後の業務継続計画の改善策を検討するための資料とする 調査の対象 中央省庁業務継続連絡調整会議構成機関 オブザーバー機関 29 機関 構成員 :23 機関内閣

3.[ トップ画面 ] データ放送連携トップ画面 トップ画面には ゆめネットデータ放送と連携した情報が表示されます " メニュー部分を左右に移動させると様々な情報メニューが表示されます " 情報メニューをタップすると内容が表示されます " データ放送以外の情報は 下部のタブメニューをタップすると他の

ISO9001:2015規格要求事項解説テキスト(サンプル) 株式会社ハピネックス提供資料

目次 4. 組織 4.1 組織及びその状況の理解 利害関係者のニーズ 適用範囲 環境活動の仕組み 3 5. リーダーシップ 5.1 経営者の責務 環境方針 役割 責任及び権限 5 6. 計画 6.1 リスクへの取り組み 環境目標

PowerPoint プレゼンテーション

宮城県総合防災情報システム(MIDORI)

( 参考資料 ) 緊急速報メールを活用した 洪水情報のプッシュ型配信 国土交通省四国地方整備局松山河川国道事務所平成 29 年 3 月

大塚製薬(株)佐賀工場

< F31302D B98CF092CA82CC88C091532E6A7464>

<4D F736F F F696E74202D208E518D6C8E9197BF325F94F093EF8AA98D CC94AD97DF82CC94BB92668AEE8F8082C98AD682B782E992B28DB88C8B89CA2E B8CDD8AB B83685D>

Transcription:

2014 No.24 災害時におけるタイムライン ( 事前対応計画 ) の導入 近年 特に都市部において これまで経験したことがないような 記録的な大雨や それに伴う浸水等の水災害が発生している 大型台風や集中豪雨等が相次ぐ我が国の現状に鑑み 国土交通省は 2014 年中を目途に水災害対策について 日本型タイムライン ( 事前対応計画 ) の導入を計画している タイムラインとは 事前にある程度被害の発生が見通せるリスクについて 被害の発生を前提に時間軸に沿った防災行動を策定しておくことである タイムライン先進国である米国では 2012 年のハリケーン サンディ発生時に各地で多くの被害が出たが ニュージャージー州等ではタイムラインに基づき対応した結果 被害を縮小することに成功したという事例がある 本稿では タイムラインという新しい考え方について解説するとともに 企業の初動対応 事業継続における活用を検討する 1. タイムラインの概要と米国における活用 (1) タイムラインとはタイムラインとは 事前にある程度被害の発生が見通せるリスクに対して 予め関係機関が実施すべき対策を時系列でプログラム化した計画を指す 米国では 米国大気海洋局 (NOAA) のハリケーン等の予報をもとに 浸水等の被害の発生を前提として 水災害発生の数日前から連邦 州の各機関が予め決められた手順で一斉に防災行動を行っている なお 作成されたタイムラインは 災害が発生するたびに現実のフェーズと比較検証され 改善されるものである 例えば大型台風による高潮等の大規模水災害は 地震 津波 ゲリラ豪雨等と異なり 数日前から事前にある程度予測が可能な災害である このような災害に対しては 関係機関が互いに協力して被害の発生を前提とした対応策を事前に整備し いざという時に実行に移すことによって 被害を最小化することが可能となる つまり 従来の 被害を出さないための対応 に加え 被害が出ることを前提とした対応 という 2 つの備えを用意することになる 図表 1 タイムラインが有効と考えられる自然災害リスク ( 弊社作成 ) 事前にある程度見通し がつく自然災害 ( 概ね1 日以上 ) 大型台風 ( それによる高潮 洪水等含む ) 遠隔地で発生した地震による津波 豪雪 タイムラインが有効と考えられるリスク 突発的に発生する自然災害 地震 ( それによる津波含む ) ゲリラ豪雨 ( それによる洪水等含む ) 噴火 竜巻 落雷 雹 異常気象 自然災害以外でも 新型インフルエンザの大流行 計画停電の実施 正規に当局に届けられたデモ 等 事前 に見通しがつくリスクは他にも考えられる 1

タイムラインは このように被害の発生が事前にある程度見通せるリスクに対しては有効な手法となり得る ( 図表 1) なお 突発的な地震やゲリラ豪雨等のような リスク出現から被害発生までのリードタイムが極めて短いリスクについてはタイムラインの活用が難しく 従来の初動対応マニュアル等による対応が求められる なお このタイムラインでは 災害発生時を ゼロ アワー と呼び ゼロ アワーまでに住民はもちろん行政当局や消防機関等全ての人員の避難を完了させることが目標とされている (2) ハリケーン サンディでのタイムラインの活用 2012 年に発生したハリケーン サンディは 世界の政治 経済の中心であるニューヨークを直撃し 大都市圏災害としては大規模なものとなった 沿岸部では ハリケーンから人命 資産を守るハード対策が充実していなかったために家屋が損壊し 地下空間への浸水によって交通機関が麻痺する等 都市機能や金融等の経済中枢機能に甚大な影響が発生した このような中でも タイムラインの活用によって被害を縮小することができた事例がある 例えば ニューヨーク市の地下鉄は 乗客に事前予告したうえでハリケーン サンディの上陸 1 日前に運行を停止した これにより 地下施設等に浸水被害は生じたものの 運行中に浸水するという混乱を招くことなく 人的被害も生じなかった また 最短 2 日で一部区間の運行が再開され 長期間に亘る影響は生じなかった ニュージャージー州等では タイムラインをはじめとしたソフト対策を充実させていたことが功を奏し 上陸の 36 時間前に州知事がタイムラインに従って住民に避難を呼びかけ 住民が早期に避難した結果 人的被害の最小化に繋がったと評価されている ( 図表 2) 図表 2 ニュージャージー州のハリケーン用タイムライン 出典 : 国土交通省資料 (http://www.mlit.go.jp/river/kokusai/disaster/america/taiou_ref3.pdf) より弊社作成 2

2. 国土交通省による日本型タイムライン導入の検討経緯 (1) 米国ハリケーン サンディに関する現地調査団ハリケーン サンディの接近時にニューヨーク市やニュージャージー州が実践したタイムラインは 大型台風や都市水災害のリスクが高い我が国でも注目されつつある 2012 年には 国土交通省と防災関連学会から成る 米国ハリケーン サンディに関する現地調査団 が現地の被害状況と教訓を収集するために渡米し 関係機関にヒアリング調査等を実施した この調査団は 2013 年 10 月に 緊急メッセージ と題した最終報告書を国土交通大臣に提出した この中では 米国における教訓等を活用しつつ 日本の実情にあったタイムラインの策定 活用を進め 大規模水災害に関する防災 減災対策を推進することが基本的な方向性として提言されている (2) 防災行動計画ワーキンググループ中間とりまとめ前述の現地調査団の提言を受け 2013 年 1 月に設置された 国土交通省 水災害に関する防災 減災対策本部 の 防災行動計画ワーキンググループ (WG) においてタイムラインの導入を検討することとなった 同 WGは 2014 年 4 月に中間とりまとめを発表し 2014 年度中に国が管轄する河川における水災害対策に絞って タイムラインを試行的に導入する方針を打ち出した なお 中間とりまとめの議論の中では 日本型タイムラインのモデルも示されている ( 図表 3) 図表 3 大規模水災害に関するタイムライン ( 防災行動計画 ) の流れ ( 抜粋 ) 出典 : 国土交通省 水災害に関する防災 減災対策本部会議 ( 第 2 回 ) 資料 (http://www.mlit.go.jp/common/001037393.pdf) 2014 年 3

3. タイムラインの導入 (1) 導入のメリットこれまでのリスクマネジメントあるいは防災対策にタイムラインの要素を取り込むことによって 具体的に何が変わるのだろうか 国交省 学会の合同調査団がまとめた報告書等によると タイムラインを導入することで期待できるメリットは 以下の 3 点である 事前の いつ 誰が 何を 等を厳密に時系列で定めることによって 1. 先を見越した対応ができる 2. 確認漏れを防ぐことができる 3. 関係組織間の対応のバラツキを防ぐことができる (2) 導入時の注意点 a. いつ を明確にする企業の初動対応マニュアルや公共部門の防災業務計画 地域防災計画等では 誰が 何を 実施するのかは明確に記載されているが いつ については具体的な記述がなかったり 災害の発生規模 範囲に応じて判断する としか記述されなかったりすることが多い そのため 事態の推移に応じて初動対応を実施しようとしても 自部門の意思決定とそれに必要な情報を収集する作業で手一杯となり 関係部門との連携が遅れがちになってしまう タイムラインを導入する際には いつ という時間を軸に 誰が 何を どのように といった計画書の一般的な構成要素を満たすことが必須である b. 関係者間の連携を重視するタイムラインにおいては 時間を軸とした関係者との連携がポイントとなる 例えば 大型台風のピークが数時間後に会社周辺に達するという状況の時 管理者は帰宅指示を出すか出さないかの判断を求められることになる 当該管理者が意思決定をするためには 気象や周辺交通事情に関する情報を収集 分析し 管理者が判断しやすいように評価結果を伝える役割の担当部門が必要である 多くの場合は 台風に関する情報を収集する部門 ( 総務部等 ) 意思決定をする部門 ( 拠点長クラス ) 意思決定された情報を伝達する部門( 安否確認システム等を使った一斉連絡をする場合 IT 情報部門 ) 等に分かれる このような三者による情報収集 意思決定 情報伝達というプロセスでは 情報収集部門は いつの時点 の情報を集約して意思決定者に報告するのか 意思決定者は いつまでに 判断を下して情報伝達部門に指示するのか 情報伝達部門は関係者連絡のために いつまでに 意思決定者の判断が必要なのか等 三者間によるすり合わせ作業が事前に十分行われる必要がある 公共部門を考えてみると 水災害時の関係主体としては 国 都道府県 市町村 各種公益事 4

業体 ( 水道 電気 ガス等 ) 一般企業 学校 報道機関等と多くの機関が関係するが 地域防災計画等でその関係性まで記述している例は少ない 災害発生前の段階における防災対応を充実させて被害の最小化を図るためには 一部の主体のみが対応を早めても効果は出ない そのため全ての関係する主体にタイムラインの策定 活用を働きかけ いつ 何を の部分について関係者間の密な連携が必要になる c. 空振り や 防災行動の早期実施 を許容する大規模水災害の警報等が発表されたにも関わらず 結果的には予測されたような深刻な事態には至らないケースも多い しかしながら タイムラインに沿った各種指示 対応は経営層による判断であり 組織として 空振り の可能性があることは前提として認識しておかなければならない 経営層としては 結果的に大きな被害が発生しなかった場合の空振りリスク あるいはそれに伴う経済的 時間的損失を意識しすぎるあまり タイムラインに沿った早期の防災行動を実行することに委縮してしまうといった事態は避けなければならない このため 企業がタイムラインを導入する場合は 平時の段階からタイムラインの実施の意義をリスクマネジメント教育等の機会を通じて従業員に浸透させなければならない さらに 重大な災害の発生が予測される場合には 災害発生前の段階から緊急事態であることを社内に宣言し 従業員全員がタイムラインに沿った対応を実施するように求め 被害の最小化のためには一定の経済的損失を許容する必要がある 4. 企業の初動対応 事業継続におけるタイムラインの活用 (1) 大型台風等を対象とする初動対応マニュアル 事業継続計画を補完するツールとしてタイムラインの考え方は 事前予測が可能な災害を対象とする初動対応 事業継続活動のうち 災害発生前の活動計画を充実させる際に参考となる ( 図表 4) この考え方は 日本の企業におけるリスクマネジメントにも 重要な示唆を与えている 事前に被害の発生が予測できる災害に対しては 初動対応マニュアルにおいて 災害発生前から従業員の安全確保のための対応や設備の被害抑止策を実施していくことが求められている また 事業継続計画 (BCP) においても 災害発生前から段階的に事業を縮小したり 別場所での業務に切り替えたりするなどの対応が求められている 大型台風の場合であれば ピーク到達前に利害関係者や行政と調整し 従業員に帰宅指示を出すかどうか 事業を中断するかどうか等について予め手順等を定めておくことで 事前の安全確保活動を一歩先に進めることが可能になる 5

図表 4 事前予測が困難 可能な災害における初動対応 事業継続活動の時間軸イメージ ( 弊社作成 ) 初動対応マニュアル と 事業継続計画 (BCP) を分けて策定している企業 団体における例 大きな被害の発生が予測される場合 対策本部の設置や安否情報の収集体制の確認 事業継続の判断等 初動対応マニュアルやBCPに記載されている事項の一部については 災害発生前から順次発動させていくことになる この点は 原則として災害発生後からしか対応することができない地震等の突発的なリスクとは状況が異なる 例えば 大型台風を対象とした初動対応の場合 台風のピーク到達後に移動しようとしても交通等の混乱もあり身動きが取れない事態も想定されるため ピーク到達前に帰宅指示等を出し 早めに行動を開始する必要がある このように 事前に被害の発生が予測される災害に対しては 災害発生後の対応を念頭に置きながら災害発生前の対応事項を定めなければならない いつ 誰が 何を どのように 対応するのかを明確にするタイムラインの考え方を導入することによって 特に災害発生前に実施すべきことについて企業内の共通認識を促進することとなる なお 災害発生後についても 発生後 時間で現時点での安否確認結果を報告する 時間後には取引先と代替拠点への物流ルートの確認を行う 等 時系列で定めることができる事項は少なからずある しかし 災害による被害の大きさ 周辺環境の状況等はケース バイ ケースであるため 災害発生前ほど明確に いつ を定められる事項は多くはない よって 災害発生後 6

については 従来通り事態の推移に合わせて適時 適切な対応を行っていくことが求められる部 分が多い (2) 訓練による検証企業は 災害時の対応計画を策定しておくだけでなく その計画に問題点がないかを検証して常に改善を実施することが求められている 特に 手順やマニュアル類は訓練によって検証するのが鉄則であり タイムラインに沿った訓練等の実施が必要である 例えば 時間後に非常に大きな勢力の台風が上陸する という想定で 予め定められたタイムラインに沿って 帰宅指示にかかる判断や情報伝達の手順の確認等の災害発生前の初動対応を 机上訓練によって確認することが効果的であろう また 近隣の行政等に対して予め警報や気象情報等の発信基準 体制について確認しておき 行政からは いつ どのような 情報が入ってくるのかを把握し 最新の状況を自社のタイムラインに反映させておくことも有効である 5. 最後に災害時において 人命の安全や資産の保全 重要業務の継続等を確保して 被害を最小化することはリスクマネジメントの究極の目的といえる 企業においては 地震等の災害発生直後の初動対応を確認する訓練や 重要業務を継続するための事業継続計画の策定は進んできつつある これらに加えて 水災害等の事前にある程度発生の見通しが立つリスクに対しては 本稿で解説したタイムラインのような新しい概念や手法を取り入れて対応力の向上を目指すことも視野に入れていただきたい [2014 年 8 月 18 日発行 ] http://www.tokiorisk.co.jp/ http://www.tokiorisk.co.jp/ ビジネスリスク事業部グローバルリスクグループ 100-0005 東京都千代田区丸の内 1-2-1 東京海上日動ビル新館 8 階 Tel.03-5288-6556 Fax.03-5288-6625 7