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Transcription:

平成 21 年 4 月 15 日筑波大学 メタボリックシンドロームを改善するために必要な 減量目標値を明らかに 発表者筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻助教中田由夫 ( 次世代医療研究開発 教育統合センター JA 茨城県厚生連生活習慣病学寄附講座 ) ポイントこのたび 筑波大学 大学院人間総合科学研究科の研究グループ ( 田中喜代次スポーツ医学専攻教授 中田由夫疾患制御医学専攻助教 ) は メタボリックシンドロームを改善するためには 体重の 8~13% の減量が必要であることを明らかにしました 概要一般に 体重の 5~10% の減量をすることで 肥満と関係する症状が改善することが知られていました しかし メタボリックシンドロームを改善するために 具体的にどの程度の減量が必要なのかを 日本人を対象とした研究によって明らかにした例はこれまでありませんでした 本研究グループでは 1999 年から 2006 年にわたって 563 名の女性に対して 3 ヶ月間の減量指導をおこなってきました その中で肥満の判定基準となっている BMI( ボディマスインデックス ) が 25 以上 40 未満であり かつメタボリックシンドロームの構成因子である腹部肥満 脂質異常 高血圧 高血糖の 4 つの因子のうち 少なくとも 1 つの因子を保有する 323 名を対象として 3 ヶ月間でメタボリックシンドロームの構成因子が標準範囲内まで改善するために どのくらいの減量が必要なのかを検討しました その結果 少なくとも 1 つのメタボリックシンドローム構成因子を改善するためには体重の 8% 以上の減量 腹部肥満や高血糖を改善するためには 13% 以上の減量が必要であることが明らかになりました したがって 体重 70kg の女性の場合 6~9kg の減量がメタボリックシンドローム改善のための目標値になるといえます この研究成果は 4 月 5 日発行のプリベンティブ メディシン (Preventive Medicine)4 月号の電子版に掲載されました 1

研究の背景メタボリックシンドロームは 心筋梗塞などの循環器疾患や 2 型糖尿病の罹患率 あるいは死亡率を高めることが知られています その改善のためには カロリー制限と運動を組み合わせた減量が一般的に勧められており 体重の 5~10% の減量をすることで 肥満と関係する症状が改善することが知られています しかし メタボリックシンドロームを改善するために 具体的にどの程度の減量が必要なのかを明らかにした研究はこれまであまりありませんでした 日本においては メタボリックシンドロームに対して独自の規準を設け その規準に基づく保健指導がおこなわれています メタボリックシンドロームの構成因子は腹部肥満 ( 内臓脂肪面積または腹囲で評価 ) 脂質異常( 中性脂肪または HDL コレステロールで評価 ) 高血圧( 収縮期血圧または拡張期血圧で評価 ) 高血糖( 空腹時血糖で評価 ) の 4 つであり これらの構成因子を改善するために どの程度の減量が必要なのかを日本人を対象とした研究データに基づき検討することが重要と考えられました また 減量目標値を設定する上で 年齢や体重などの初期条件もあわせて考慮する必要性が考えられました 研究の経緯本研究グループでは 1999 年から 2006 年にわたって茨城県および千葉県在住の 563 名の女性に対して 3 ヶ月間の減量指導をおこなってきました この研究参加者の中で 肥満の判定基準となっている BMI( ボディマスインデックス ) が 25 以上 40 未満であり かつメタボリックシンドロームの構成因子である腹部肥満 脂質異常 高血圧 高血糖の 4 つの因子のうち 少なくとも 1 つの因子を保有する 323 名を本研究の解析対象としました ( 図 1) 評価項目は 3 ヶ月間の減量でメタボリックシンドロームの各構成因子が標準範囲内まで改善したかどうかとし その成功率を高める条件として 閉経 年齢 BMI 減量プログラムとしての運動併用の有無 体重の減少率に着目し CART 分析という統計手法を用いて探索的に検討しました なお 本研究は文部科学省科学研究費補助金および 21 世紀 COE プログラムの補助を受け 筑波大学 TARA プロジェクトの一環としておこなわれたものです 563 名ベースライン測定 240 名除外 BMI < 25 kg/m 2 (130 名 ) BMI > 40 kg/m 2 (3 名 ) メタボリックシンドロームの構成因子をもたない (82 名 ) 評価が十分でない (25 名 ) 323 名非ランダム割付 118 名食事制限のみ 205 名食事制限 + 運動 図 1 参加者のフロー図 2

成果の内容本研究対象の 323 名の女性のうち 309 名が減量前後の評価を受けました 体重減少率は平均で 11.9% (8.2 kg) であり 309 名中 225 名が少なくとも 1 つのメタボリックシンドローム構成因子を標準範囲内まで改善することに成功しました ( 成功率 72.8%) この成功率を高める条件を検討したところ 体重減少率が 8.1% 以上であった 250 名中 199 名が改善に成功していた ( 成功率 80.9%) のに対し 体重減少率が 8.9% 未満であった 59 名の中では 26 名しか改善に成功していませんでした ( 成功率 44.1%) ( 図 2) また 腹部肥満に着目すると 腹部肥満であった 203 名中 標準範囲内まで改善したのは 117 名でした ( 成功率 57.6%) この成功率を高める条件としては 体重減少率が 13.0% 以上であると 82 名中 65 名が改善に成功しました ( 成功率 79.3%) が 13.0% 未満であると 121 名中 52 名の成功にとどまりました ( 成功率 43.0%)( 図 3) 高血糖の改善についても 13.2% の減量によって成功率が高まりましたが ( 図 4) 高血圧の改善については 体重減少率よりも初期条件としての年齢が成功率を高めることに寄与し ( 図 5) メタボリックシンドロームそのもの あるいは脂質異常の改善については 成功率を高める条件は明らかにはなりませんでした 309 名中 225 名 ( 成功率 72.8%) 体重減少率 8.1% 250 名中 199 名 ( 成功率 79.6%) <8.1% 59 名中 26 名 ( 成功率 44.1%) BMI 25.85 kg/m 2 >25.85 kg/m 2 40 名中 37 名 ( 成功率 92.5%) 210 名中 162 名 ( 成功率 77.1%) 図 2 メタボリックシンドローム構成因子の改善成功率 3

203 名中 117 名 ( 成功率 57.6%) 体重減少率 13.0% 82 名中 65 名 ( 成功率 79.3%) 年齢 <13.0% 121 名中 52 名 ( 成功率 43.0%) BMI 52.5 歳 >52.5 歳 26.89 kg/m 2 >26.89 kg/m 2 42 名中 41 名 ( 成功率 97.6%) 40 名中 24 名 ( 成功率 60.0%) 31 名中 24 名 ( 成功率 77.4%) 90 名中 28 名 ( 成功率 31.1%) 図 3 腹部肥満の改善成功率 57 名中 34 名 ( 成功率 59.6%) 体重減少率 13.2% 15 名中 14 名 ( 成功率 93.3%) <13.2% 42 名中 20 名 ( 成功率 47.6%) 図 4 高血糖の改善成功率 4

240 名中 113 名 ( 成功率 47.1%) 年齢 41.5 歳 35 名中 26 名 ( 成功率 74.3%) >41.5 歳 205 名中 87 名 ( 成功率 42.4%) 減量プログラム 食事制限のみ 79 名中 23 名 ( 成功率 29.1%) 食事制限 + 運動 126 名中 64 名 ( 成功率 50.8%) 図 5 高血圧の改善成功率 今後の予定本研究により 3 ヶ月間という比較的短期間の減量期間でメタボリックシンドロームを改善するためには 体重の 8~13% の減量が必要であることが明らかになりました これは 体重 70kg であれば 6 ~9kg の減量に相当します 今後は このような減量効果を上げるための より経済的 効率的なプログラムを開発し その減量効果を科学的に検証することが課題となります なお 本研究グループでは これまでの研究成果に基づき スマートダイエットシステムという減量教育プログラムを開発し 大学発ベンチャー企業である株式会社 THFにおいて 2005 年より事業展開しています この事業を通して より多くの国民の適正な体重管理に寄与したいと考えています また 発表者 ( 中田由夫 ) が所属している次世代医療研究開発 教育統合センターでは 生活習慣病の予防や健康教育指導者の養成を目指しており 発表者は当センターの疾病予防 ライフスタイル研究部門担当として 疾病予防対策を研究開発する臨床疫学体制の構築に従事しています 当センター内には JA 茨城県厚生連生活習慣病学寄附講座が設置されており 当講座での臨床疫学研究 減量プログラムにおける資料提供と集団型減量支援の効果検証のためのランダム化比較試験 が水戸協同病院を実施場所として 2009 年 3 月より開始されています この研究プロジェクトでは 200 名の肥満者を 1 回の講演型動機付け支援 1 回の講演型動機付け支援と資料提供 1 回の講演型動機付け支援と資料提供と 6 ヶ月間の集団型減量支援の 3 群にランダムに割り付けることにより 6 ヶ月間の減量効果と 2 年間の体重維持効果を比較検討することを目的としています 用語の解説 CART 分析 : 二進木分析 決定木分析とも呼ばれる探索的統計手法のひとつです データの特徴を数式で表すのではなく 分割することで明らかにしようとする方法です 本研究では メタボリックシンドロームの各構成因子が標準範囲内まで改善したかどうかについて 最大の改善が見られるような分割の仕方を統計プログラムによって自動検出させました 5

関連情報 筑波大学次世代医療研究開発 教育統合センター http://www.md.tsukuba.ac.jp/creil/ 平成 16~18 年度文部科学省科学研究費補助金 ( 萌芽研究 ) 個体差が減量幅に与える影響を考慮したオーダーメイド減量プログラムの開発研究代表者 : 田中喜代次 平成 14~18 年度文部科学省 21 世紀 COE プログラム健康 スポーツ科学研究の推進プログラム研究代表者 : 西平賀昭 http://www.taiiku.tsukuba.ac.jp/coe/index.html 平成 16~18 年度筑波大学先端学際領域研究センター (TARA) プロジェクト 総合人間科学研究アスペクトオーダーメイド減量プログラムの開発研究代表者 : 田中喜代次 株式会社 THF http://thfweb.jp/ 減量プログラムにおける資料提供と集団型減量支援の効果検証のためのランダム化比較試験 UMIN 試験 ID:UMIN000001259 責任研究者 : 中田由夫実施責任組織 :JA 茨城県厚生連生活習慣病学寄附講座 https://center.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr.cgi?function=brows&action=brows&recptno= R000001520&type=summary&language=J 6

メタボリックシンドロームを改善するために必要な減量目標値を明らかに 筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻助教中田由夫 ( 次世代医療研究開発 教育統合センター JA 茨城県厚生連生活習慣病学寄附講座 ) 1 ポイント このたび 筑波大学 大学院人間総合科学研究科の研究グループは メタボリックシンドロームを改善するためには 体重の8~13% の減量が必要であることを明らかにしました ( 田中喜代次スポーツ医学専攻教授 中田由夫疾患制御医学専攻助教 ) この研究成果は プリベンティブ メディシン (Preventive Medicine)4 月号に掲載されました 2 1

研究の背景 体重の 5~10% の減量が肥満と関係する症状 ( 心筋梗塞などの循環器疾患や 2 型糖尿病など ) の改善に必要 メタボリックシンドロームを改善するために 具体的にどの程度の減量が必要なのかを 日本人を対象とした研究によって明らかにした例はない 3 研究の目的 メタボリックシンドロームの構成因子 ( 腹部肥満 脂質異常 高血圧 高血糖 ) を改善するために どの程度の減量が必要なのかを日本人を対象とした研究データに基づき検討すること 減量目標値を設定する上で 年齢や体重などの初期条件もあわせて考慮すること 4 2

研究の方法 本研究グループでは 1999 年から 2006 年にわたって 563 名の女性に対して 3 ヶ月間の減量指導をおこなってきた その中で以下の 2 条件を満たす 323 名を対象として 3 ヶ月間でメタボリックシンドロームの構成因子が標準範囲内まで改善するために どのくらいの減量が必要なのかを検討した 肥満の判定基準となっている BMI が 25 以上 40 未満 メタボリックシンドロームの構成因子である腹部肥満 脂質異常 高血圧 高血糖の 4 つの因子のうち 少なくとも 1 つの因子を保有する 5 図 1 参加者のフロー図 563 名ベースライン測定 240 名除外 BMI < 25 kg/m 2 (130 名 ) BMI > 40 kg/m 2 (3 名 ) メタボリックシンドロームの構成因子をもたない (82 名 ) 評価が十分でない (25 名 ) 323 名非ランダム割付 118 名食事制限のみ 205 名食事制限 + 運動 6 3

解析方法 本研究対象の 323 名の女性のうち 309 名が減量前後の評価を受けた 体重減少率は平均で 11.9%(8.2 kg) 309 名中 225 名が少なくとも 1 つのメタボリックシンドローム構成因子を標準範囲内まで改善することに成功 ( 成功率 72.8%) 目的変数 : 各メタボリックシンドローム構成因子の改善成功率 説明変数 : 閉経 年齢 BMI 減量プログラムとしての運動併用の有無 体重の減少率 統計手法 :CART 分析 7 図 2 メタボリックシンドローム構成因子の改善成功率 309 名中 225 名 ( 成功率 72.8%) 体重減少率 8.1% 250 名中 199 名 ( 成功率 79.6%) <8.1% 59 名中 26 名 ( 成功率 44.1%) BMI 25.85 kg/m 2 >25.85 kg/m 2 40 名中 37 名 ( 成功率 92.5%) 210 名中 162 名 ( 成功率 77.1%) 8 4

図 3 腹部肥満の改善成功率 203 名中 117 名 ( 成功率 57.6%) 体重減少率 13.0% 82 名中 65 名 ( 成功率 79.3%) 年齢 <13.0% 121 名中 52 名 ( 成功率 43.0%) BMI 52.5 歳 >52.5 歳 26.89 kg/m 2 >26.89 kg/m 2 42 名中 41 名 ( 成功率 97.6%) 40 名中 24 名 ( 成功率 60.0%) 31 名中 24 名 ( 成功率 77.4%) 90 名中 28 名 ( 成功率 31.1%) 9 図 4 高血糖の改善成功率 57 名中 34 名 ( 成功率 59.6%) 体重減少率 13.2% 15 名中 14 名 ( 成功率 93.3%) <13.2% 42 名中 20 名 ( 成功率 47.6%) 10 5

図 5 高血圧の改善成功率 240 名中 113 名 ( 成功率 47.1%) 年齢 41.5 歳 35 名中 26 名 ( 成功率 74.3%) >41.5 歳 205 名中 87 名 ( 成功率 42.4%) 減量プログラム 食事制限のみ 79 名中 23 名 ( 成功率 29.1%) 食事制限 + 運動 126 名中 64 名 ( 成功率 50.8%) 11 メタボリックシンドロームの構成因子を標準範囲内まで改善するための条件 目的変数少なくとも1つの構成因子腹部肥満脂質異常高血圧高血糖メタボリックシンドローム 第 1 条件 8.1% 以上の減量 13.0% 以上の減量 年齢 41.5 歳以下 13.2% 以上の減量 12 6

結論と今後の課題 本研究により 3ヶ月間という比較的短期間の減量期間でメタボリックシンドロームを改善するためには 体重の8~13% の減量が必要であることが明らかになりました これは 体重 70kgであれば6~9kgの減量に相当します 今後は このような減量効果を上げるための より経済的 効率的なプログラムを開発し その減量効果を科学的に検証することが課題となります 13 研究成果の事業展開 本研究グループでは これまでの研究成果に基づき スマートダイエットシステムという減量教育プログラムを開発し 大学発ベンチャー企業である株式会社 THFにおいて 2005 年より事業展開しています ( 代表取締役社長 : 田中喜代次教授 ) この事業を通して より多くの国民の適正な体重管理に寄与したいと考えています 14 7

現在進行中の研究課題 (2009 年 3 月開始 ) 減量プログラムにおける資料提供と集団型減量支援の効果検証のためのランダム化比較試験 UMIN 試験 ID:UMIN000001259 責任研究者 : 中田由夫 実施責任組織 :JA 茨城県厚生連生活習慣病学寄附講座 実施場所 : 水戸協同病院 ( 茨城県水戸市 ) 15 8