特定社会保険労務士 行政書士津田豊事務所 定年退職後 (60 歳以降 ) の雇用継続制度 関連法令と基礎的実務 特定社会保険労務士津田豊 2011/04/21 定年退職後に再雇用として働き続けてもらうことは 従前から行われている しかし 年金の支給開始年齢が引き上げられることに伴い 定年退職後の雇用継続措置を義務とされるに至っている こうした義務化に対し その根拠となる法令及び求められる諸手続きについて認識把握しておくことが必要である
定年退職後 (60 歳以降 ) の雇用継続制度 1 関連する法令 1 雇用対策法第 10 条 ( 募集及び採用における年齢にかかわりない均等な機会の確保 ) 2 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第 8 条 ( 定年を定める場合の年齢 ) 第 9 条 ( 高年齢者雇用確保措置 ) 3 雇用保険法第 10 条第 6 項第 1 号 ( 高年齢雇用継続給付 ) 4 厚生年金保険法附則第 8 条 ( 老齢厚生年金の特例 ) 第 11 条 ( 被保険者であるときの支給停止 ) 第 11 条の6( 高年齢雇用継続給付との調整 ) 5 労働基準法第 2 条 ( 労働条件の決定 ) 第 3 条 ( 均等待遇 ) 第 15 条 ( 労働条件の明示 ) 6 労働契約法第 4 条 ( 労働契約の内容の理解の促進 ) 7 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第 6 条 ( 労働条件に関する文書の交付等 ) 2 定年年齢を60 歳以上とすることの義務化と65 歳までの雇用確保措置上記 12の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づき 定年制を 60 歳以上とすることの義務化と65 歳までの雇用確保措置について 平成 18 年 4 月 1 日から施行されています (1) 定年を定める場合の年齢事業主が雇用する労働者の定年を定める場合 定年年齢を 60 歳を下回ることとすることはできません ただし 高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については この限りではありません (2) 高年齢者雇用確保措置 65 歳未満の定年の定めをしている事業主は 雇用する高年齢者の 65 歳までの安定した雇用を確保するため 次に掲げるいずれかの措置を講じなければなりません 1 当該定年の引き上げ 2 雇用継続制度 ( 現に雇用している高年齢者が希望するときは 当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度 ) の導入 3 当該定年の定めの廃止 2
なお 2 の雇用継続制度については 現在経過措置として 64 歳まで継続すること が義務とされていますが 上記 14 による老齢厚生年金の定額部分の支給が廃止され る平成 25 年 4 月 1 日以降は 65 歳までの雇用確保措置が義務となります (3) 高年齢者雇用継続措置の趣旨高年齢者雇用確保措置の趣旨は 労働者の意欲と能力に応じ 継続して働き続けることができる職場環境を整備することとされます すなわち 確保すべき雇用の形態は 必ずしも労働者の希望に合致した職種 労働条件による雇用を求めているものではなく 常用雇用のみならず 短時間勤務や隔日勤務など 多様な雇用形態を含むものとされます 実際に民間企業の約 9 割は 一律定年制を定めており 定年後は継続雇用制度のうち多様な雇用形態が可能な 再雇用 ( 嘱託 ) 制度 を導入している企業が約 8 割を占めています なお 法が求めているのは 定年の引き上げまたは廃止 あるいは 継続雇用制度 のいずれかの雇用確保措置の義務化であって 個々の労働者の 65 歳までの雇用確保の義務を課したものではありません ただし 現に雇用している高年齢者が定年後の就業を希望するときは 当該高年齢者を勤務延長や再雇用をすることなどの措置によって雇用を継続するようにしなければならないものとされています したがって 企業が必要としない者であっても 高年齢者が希望するときは雇用をしなければならないこととなります 3 募集及び採用における年齢にかかわりない均等な機会の確保雇用対策法第 10 条において 事業主は 同法施行規則第 1 条の3 第 1 項各号 ( 年齢制限することが認められる場合 ) に該当しないときは 労働者の募集及び採用についてその年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない と規定されています また 同法施行規則第 1 条の3 第 2 項では 事業主は 労働者の募集及び採用に当たっては 労働者がその年齢に関わりなく その有する能力を有効に発揮することができる職業を選択することを容易にするため 職務の内容 職務を遂行するために必要とされる労働者の適正 能力 経験 技能の程度その他労働者が応募するに当たり求められる事項をできる限り明示するものとする としています 労働基準法においては 年齢によって労働条件について差別的取扱をすることは禁止されていませんが 雇用の入口となる 労働者の募集及び採用 については 雇用対策法により 年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない こととなります 3
4 65 歳までの雇用確保策について定年制を定めている企業では 就業規則において 60 歳定年制 (60 歳に満たない定年制は無効とされる ) を定めているところですが 前記 2のとおり 雇用確保措置としての定めておかなければなりません 企業にとって 60 歳定年後も現役と同様に同じ職場で働き続けてほしいと考えられる者については良いのですが 老齢厚生年金の支給開始年齢の繰り下げに伴い 法律によって65 歳までの雇用維持を義務づけられることは 大きな負担ともなりかねません しかし 一方で今後の少子高齢化の急速な進展を考えると 女性と高年齢者 に人材を求めて行く必要もあると考えます (1) 要員管理と総額人件費管理終身雇用制が崩れてきたとはいえ 従来は定年退職による不足要員は学卒者の新規採用あるいは中途採用で充足してきたところです これに比較し 定年退職者を後 5 年間雇用するとなると 定年退職時の賃金のまま再雇用することは 人件費もかさみ ほとんど不可能です また 企業が必要ないと判断した者であっても 定年退職者が希望した場合には 再雇用しなければなりません 再雇用後の職務をどうするか 他の従業員の昇進 昇格との関係においても 重要な問題となります したがって 再雇用後の職務内容 再雇用者の適正 能力 経験 技能の程度に応じて個別に賃金を決めていくことが必要と考えます 賃金水準の目安の一つとして 再雇用後の基本給を定年退職時の一定水準 (60% あるいは70% とするなど ) とするなどのほか 新規学卒者の水準とし 役職ポストに応じた ( 必要とされる知識経験を有し活用し得る等を考慮 ) 諸手当を加味した賃金設定とするなどの考え方もあります (2) 多様な雇用形態の選択再雇用者によっては 自分のライフプランとの関係でフルタイムの勤務を希望せず ゆとりをもった働き方を希望する方もいらっしゃいます 本人の希望と企業として求める能力を勘案して 多様な働き方ができる職場環境をつくることも欠かせない視点です (3) 高年齢者雇用継続給付と老齢厚生年金との関係高年齢雇用継続給付も老齢厚生年金も個人の権利に属するものであり 事業主の立場からとやかく言うことではありませんが 企業が支払う賃金によってその支給が変更することとなります 4
高年齢雇用継続給付について言えば 再雇用後の賃金が 60 歳到達時の賃金の 61% のときに支給額が最大となるようです 再雇用後の賃金を決めるもう一つの目 安と言えます 5 労働者の視点による60 歳以降の働き方高年齢雇用継続給付と特別支給の老齢厚生年金の受給権を有する場合 これらの給付額は勤務先から受ける賃金との関係によって変動することとなります どのような働き方をするかは 60 歳以降のライフプランにとって重要な選択です (1) 高年齢雇用継続給付 60 歳以上 65 歳未満の雇用保険の被保険者であって 被保険者期間が 5 年以上である方が 60 歳到達時点に比べて各暦月の賃金額が75% 未満に低下した状態で働いているときに支給されます 高年齢雇用継続給付の受給権については 被保険者期間が 5 年以上必要となることから 少なくとも55 歳以降は雇用保険の被保険者であることが求められます 万が一 失業の状態になっても 失業給付を受けることなく再就職しないと 高年齢雇用継続給付の受給権は得られません (2) 特別支給の老齢厚生年金 65 歳からの老齢基礎年金の受給資格期間を満たし かつ 厚生年金保険の被保険者期間が1 年以上ある方が 老齢基礎年金の繰り上げ支給を受けていないときに 60 歳から65 歳未満の期間について 支給されます ただし 厚生年金保険の被保険者であるときは 総報酬月額相当額 ( 標準報酬月額とその月以前の1 年間の標準賞与額の総額の12 分の1とを合算した額 ) と基本月額 ( 老齢厚生年金の額の12 分の1) との合計額が28 万円以上の場合には その額に応じて支給停止されることとなっています さらに 上記 (1) 高年齢雇用継続給付の支給を受けている場合は 原則として標準報酬額の6% が支給停止となります (3) フルタイム勤務以外の雇用形態雇用保険の被保険者資格の要件は 1 週間の所定労働時間が20 時間以上 31 日以上の雇用見込みがあることとなります 一方 厚生年金保険の被保険者資格の要件は 1 日または1 週間の所定労働時間と 1か月の所定労働日数がともに その事業所で同種の業務に従事しているフルタイム勤務の従業員のおおむね4 分の3 以上であることとされています 5
雇用保険の被保険者資格の要件の方が緩やかですので パートタイム勤務について は雇用保険の被保険者となるが 厚生年金保険の被保険者とならない場合もあり得ま す 例えば 1 日 8 時間 1 週 5 日勤務の事業所において 1 日 7 時間 1 週 3 日勤務のパートタイムでの雇用継続とする場合 雇用保険の被保険者となりますが 厚生年金保険の被保険者とはなりません この場合 高年齢雇用継続給付については 60 歳以降の各暦月の賃金が60 歳到達時点の賃金の75% 未満であれば 支給対象となります また 厚生年金保険の被保険者とはならないため 老齢厚生年金については支給停止となりません 6 雇用継続を行う際の手続き (1) 労働条件通知書の交付定年退職後の再雇用は 今までとは別の新たな労働契約となります 雇用契約書や労働条件通知書により 新たな労働条件を書面により明示することが必要です また 労働条件が一般の従業員の方とは異なる場合は 就業規則等についても 別規程としておくことが望ましいと考えます ( 就業規則の効力は 個別の労働契約に優先することとなります ) (2) 高年齢雇用継続給付の受給資格確認と 60 歳到達時の賃金登録 1 雇用保険被保険者 60 歳到達時等賃金証明書 2 高年齢雇用継続給付受給資格確認票 高年齢雇用継続給付支給申請書 ( 初回 ) 60 歳到達時の賃金登録は 60 歳到達時 (60 歳の誕生日の前日 ) において 被保険者であった期間が通算して5 年以上ある場合に受給資格が発生します 被保険者であった期間が通算して5 年未満の場合には 60 歳以降に被保険者期間が通算して5 年を満たした時点で再度 受給資格確認の手続きを行います 事業所での被保険者資格取得が55 歳以降の場合でも 前職の被保険者であった期間が通算できるか否か 事前にハローワークで確認をし 60 歳到達時等の年月日以降に手続きを行っておくと無駄な手続きが省けます 確認資料として最低限 年齢が確認できる資料 ( 住民票記載事項証明書 運転免許証など ) と賃金台帳が必要となります この受給資格確認は ( 初回 ) 高年齢雇用継続給付支給申請書と同時に行うときは 6
最初に支給を受けようとする支給月の初日から起算して4か月以内に行うこととなります なお 60 歳以降賃金の低下を考えていない場合でも 向こう 5 年間のうちに何が起こるか分からないため 賃金登録は必ず行っておくことが必要です (3) 高年齢雇用継続給付支給申請 1 高年齢雇用継続給付支給申請書 (2 回め以降 ) 2 回め以降の申請は 原則として2か月ごとに行います 支給対象月に支払われた賃金額が 受給資格確認通知書 または 高年齢雇用継続給付支給決定通知書 に印字されている 賃金月額 75% 以上の場合は 申請しても不支給になりますので省略できます なお 事業主がこの支給申請を行うにあたっては 労使協定の締結が必要です (4) 健康保険 厚生年金保険の資格喪失と取得 1 健康保険 厚生年金保険被保険者資格喪失届 2 健康保険 厚生年金保険被保険者資格取得届 定年退職後 1 日の空白もなく再雇用された場合は 原則として被保険者資格は継続されます 再雇用に伴う賃金の変動と在職老齢年金の調整とを即応させるため 特例として 60 歳以上 65 歳までの定年に限って 同日得喪 が認められています 賃金が大幅に変わることなく 再雇用後も標準報酬月額に変更が生じない場合は 手続きの必要はありません なお 同日得喪の年月日は 雇用保険のように 60 歳到達時ではなく 就業規則に定められた定年退職日の翌日となります また 確認資料として就業規則の写しが必要となります 7