資料 1 技術 技能の喪失 低下が運用支援へ与える影響 平成 21 年 11 月 5 日防衛省航空幕僚監部
我が国の戦闘機運用の特質 戦闘機の特質 航空優勢を達成するための航空防衛力の中核であり 戦闘の勝敗を決する要素 超音速飛行 高機動等 高い性能発揮を要求 火器管制 電子戦 射出座席等独自の機能を装備 戦闘機技術 高度で広範多岐にわたる装備品により能力を総合発揮 先端技術が使用されていることから急速に陳腐化 我が国の戦闘機運用の特質 特に周囲を海に囲まれた我が国の地理的特性から戦闘機の能力発揮は重要 領空侵犯に対して 24 時間 365 日即時適切な措置を講ずる 我が国は必要最小限の基盤的な防衛力を保有 地理的特性及び基地周辺環境から航空事故が与える影響は大 1
戦闘機の運用支援上の重視事項 戦闘機の運用支援上の重視事項 戦闘力の最大発揮 高い安全性 戦闘機の質的優位の確保 保有戦力の最大発揮 飛行安全の確保は航空自衛隊が任務を遂行する上で大前提 量的 質的 高可動率の維持 戦闘機の能力向上 安全性の確保 2
戦闘機の運用支援における国内生産技術基盤の必要性 航空自衛隊の後方支援のうち 高度な技術 技能を要するものは民間会社に依存戦闘機の運用支援上 以下の活動を国内生産技術基盤が支援 高可動率の維持 非可動機の早期修復部隊の能力を超える修理等における技術支援及び修理等の実施 信頼性の向上 ( 戦闘機が非可動になることを防止 ) 機体 装備品の信頼性を向上させるために必要な技術支援及び改善 改修の実施 戦闘機の能力向上 技術の進歩 運用環境の変化等に戦闘機の能力が適応するよう 空自の要求する内容 ペースで能力向上を実施するための検討及び機体 装備品に適用させる改修の実施 安全性の確保 空自における運用継続可否の判断のための迅速な技術支援 事故の未然防止のための検討及び改修の実施 3
国内生産技術基盤の戦闘機運用支援の事例 ( 高可動率の維持 1) 空自の能力を超える修理に対する技術支援 F-15 不具合の特定における技術支援 部隊の修理や整備等において TO( マニュアル ) の範囲を超える事象が発生した場合 国内会社に技術質問を行う 部隊において 機体左後方からの異音 が発生したが故障の特定をできないことから国内会社に技術支援を依頼した 国内会社の技術部門のみでは特定できなかったが 製造の経験を有し構造を熟知した熟練工の助言により 機体構造部とインテークの間隙 ( テフロン シール ) を振動源と特定し機体修復が可能となった 戦闘機生産に係る製造プロセス設定技術 機能試験手順の設定技術 空自の能力を超える修理の実施 F-15 パイロン取り付け部の修理 部隊において空自の能力を超える修理作業が発生し 機体が飛行できない等 空自基地での修復を要する場合 国内に基盤を有していることで 空自の要求に応じ迅速な対応を可能とし 航空機を早期に可動状態へ修復することが可能となる 部隊において主翼のパイロン取り付け部にき裂を発見したが 空自の整備 能力を超えることから 国内会社の技能者が空自基地において修復した 戦闘機生産に関わる機械加工技術 2 テフロン シール ( エンジン空気取り入れ口部 ) 7 7w パイロン ( 外装物を懸吊する装置 ) 取り付け部 4
国内生産技術基盤の戦闘機運用支援の事例 ( 高可動率の維持 2) 空自の能力を超える信頼性向上に対する技術検討 F-4 キャノピの脱落対策 空自の能力を超えた信頼性対策は 高い技術力を有する国内会社で技術検討を行う F-4 のキャノピがロック不完全により飛行中不時落下する事例が連続した 国内会社が製造を通じ得た技術 技能を保有していたことから 日本独自にロック機構改善を実施することができ 不時落下の対策を講ずることができた キャノピ 戦闘機生産に係るキャノピ取付 調整技能 安定的な部品供給 レーダーの部品枯渇対策 レーダー等アビオニクス機器には多くの電子部品が使用されているが 部品の生産中止等が発生すると 代替部品を使用するためのハードウエアの設計変更等が必要となる 国内の保有技術により 耐環境性 機能 性能 及び互換性を確保した設計変更等を行い 部品の生産中止による可動率の低下を防止することができた ロック機構 APAR 技術 ( システムインテグレーション技術 ) APAR:Active Phased Array Rader 耐環境電子回路設計技術 5
国内生産技術基盤の戦闘機運用支援の事例 ( 戦闘機の能力向上 ) 戦闘機の能力向上 F-15 新規装備品の搭載 脅威航空機及びミサイルの性能向上 電波 / 赤外線妨害の激化等に伴い 限られた戦力で生存性を高め脅威に有効に対処するためには近接戦闘能力に優れたミサイル及び誘導システム ( 射撃不可能であった範囲への射撃 ) が必要となった 国内のシステムインテグレーション技術を活かし F-15HDU 及び国産短距離ミサイル (A AM-5) を機体に搭載した HDU:Helmet Display Unit 国内のシステムインテグレーション技術及び火器管制ソフトウェア技術等を活用し AAM -5 と機体間の信号処理の大部分を HDU 側に持たさせることにより 機体側のセントラル コンピュータを大改修することなく搭載した M.I 目標方位測定装置との連接 HDU 側 処理部 機体側 セントラル コンピュータ ( 適用した技術 技能の例 ) 戦闘機に係るシステム インテグレーション技術 AAM-5 F-2 国産中距離ミサイル (AAM-4) の搭載 敵戦闘機の脅威下においても各種攻撃任務の達成率を向上させるため 打ちっ放し性の優れたアクティブ レーダー誘導方式のミサイルの搭載とミサイルの能力を最大発揮させるためのレーダーの能力向上が必要になった 国内のシステムインテグレーション技術を活かし AAM-4 を F-2 へ搭載可能とするとともに F-2 の限られたスペースにミサイル指令送信装置を搭載した 独自開発経験を活かしたレーダーの改修により AAM-4 性能の最大発揮に必要な探知領域の拡大等が可能になった AAM-4 の搭載 ミサイルランチャーの改修 OFP の改修等 OFP:Operational Flight Program ( 適用した技術 技能の例 ) 戦闘機に係るシステム インテグレーション技術 APAR 技術 APAR:Active Phased Array Rader ソフトウェア技術 ( レーダー信号処理技術 ) 低ノイス 励振受信機技術 探知領域の拡大等 信号処理器等の改修 ソフトウェアの改修 レータ ーの高出力化 国産レーダー 指令送信装置 ( 機首 ) 6
国内生産技術基盤の戦闘機運用支援の事例 ( 安全性の確保 ) 飛行停止の要否の判断のための技術検討 米国 F-15 墜落に伴う飛行停止への対応 米空軍における F-15 の墜落に伴い米空軍が飛行停止した 空自の F-15 についても同様の事例が発生する可能性が否定できないことから 全機の飛行停止措置をとった 米空軍における事故の情報は 規則上原則非公開であることから 空自への事故調査結果の提供は限定的であったが 国内のシステムインテグレーション技術により 不具合発生のメカニズムを推定するとともに 国産開発で培った き裂進展解析技術 を用い強度上の影響度を計算し 点検項目 要領を設定した その結果空自 F-15 の飛行停止期間を約 2 週間とすることができた ( 米国の飛行停止は約 4 ヶ月継続した ) 戦闘機に係るシステム インテグレーション技術 点検箇所 ( コクピット機体構造部 ) 安全性確保のための技術検討 F-15 エンジン タービンブレードの点検要領 間隔の設定 エンジンのタービンブレードが飛散する不具合が発生した 当該不具合は 飛行安全に直結することから 再発を防止するための措置が必要であった 国内で培われた技術により 我が国独自の点検要領及び点検間隔を設定し 米国のような部品の一斉交換も回避することにより 安全性を確保しつつ 高い可動率を維持することができた エンジンのシステムインテグレーション技術 タービンブレード 7
運用支援に影響を及ぼす国内の生産技術基盤の考え方 戦闘機を構成する全システムのうち 高可動率の維持 戦闘機の能力向上 安全性の確保に不可欠な部位を整理する 整理した部位に関する技術 技能が国内に維持されなければ 空自戦闘機の運用支援に影響を及ぼすと考えられる 部位に関する整理の考え方 ( イメージ ) は以下のとおり サブシステム 機体全体の システムインテグレーション 整理の考え方 機体全体の システムインテグレーション 装備品機整理の考え方武装系統体構造 可動率は戦闘機の全システムの影響を受けるが この中でも特に機体は代替性を有しないことから 機体構造 機体全体のシステムインテグレーションに係わる生産技術基盤は不可欠 戦闘機の能力向上 安全性の確保 装備品 機体構造高可動率の維持 戦闘機を構成する全システム 戦闘機の能力 安全に係わる装備品の生産技術基盤は不可欠 運用支援に影響を及ぼす部位 8
運用支援に影響を及ぼす装備品の抽出方法 1 2 3 戦闘機の戦闘能力に係わる装備品を抽出 ( 戦闘機の能力向上に係わる装備品を包含 ) FMEAまたはFME(C)A 1 の危険分類 Ⅱ 2 以上の装備品を抽出 ( 安全性に係わる装備品を包含 ) 12で抽出した装備品をサブシステムの構成品に集約 1 FME(C)A の概要 FME(C)A(Failure Mode & Effects,(Criticality) Analysis) は 故障モードと影響の解析 といわれ信頼性解析の有力な手段として 1964 年頃米国グラマン社から普及してきたものである システム内の部品に故障モードが発生したと仮定して 全体システムや使用者に与える影響を解析して設計上の必要な対策を探求するのがその目的である 2 危険分類 危険分類 安全性への影響 Ⅰ Catastrophic 死亡システム喪失 Ⅱ Critical 重傷システム大破 Ⅲ Marginal Ⅳ Negligible 軽傷 なし システム小破 なし (MIL-STD-882/1629 による ) 9