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シリーズ 2 試験体名 鉄骨形状 (mm) 表 - 試験体一覧 ( 実験条件 ) コンクリート圧縮強度 c B (N/mm 2 ) パラメータ No. 基本形状 ( ずれ止めなし ) No.2 スタッドジベル ( 本 ) H- 5 No.3 28.2 孔あきジベル ( 中央 個 ) No. 孔あきジベル ( 材軸方向直列 2 個 ) No.5 孔あきジベル ( 材軸方向並列 2 個 ) N- 基本形状 ( ずれ止めなし ) 29. S- H- 5 スタッドジベル H- 29.8 孔あきジベル N-5 基本形状 ( ずれ止めなし ) S-5 H- 5 6.5 9 3.9 スタッドジベル H-5 孔あきジベル 鋼材 表 -2 使用材料の機械的性質 t (mm) y (N/mm 2 ) u (N/mm 2 ) E (kn/mm 2 ) (%) 降伏比 H- 5 フランジ 5 3 2.6.7 (SS) ウェブ 382 75 29 32..8 H- 5 6.5 9 フランジ 9 3 67 23 37..67 (SS) ウェブ 6.5 336 82 27 37..7 t: 板厚 y : 降伏点 u : 引張強度 E: ヤング係数 伸び 5 5 5 5 82 75575 5φ 5φ 5φ 22 5 5 275 225 5 22 28 5φ 5 5 5 25 5φ 5 22 28 5φ 3 No. No.2 No.3 No. No.5 図 -2 シリーズ の試験体形状 図 -3 スタッドの形状 試験体は, ずれ止め要素をつけない基準試験体と, 一般的なずれ止め方法として利用するスタッドを設けたもの, さらに提案する孔あきジベルを設けた試験体で, 計 5 体を製作した ( 表 - および図 - 2 参照 ) シリーズ2の実験では, 機械的なずれ止めの有無が梁材の弾塑性挙動に及ぼす影響を調べるために, 梁の曲げせん断実験を行った シリーズ2の試験体の識別記号を A-Bの2つの識別記号で表し,AはH 形鋼とコンクリートとの一体化を図るためのずれ止め方法で,N: 基本形状 ( ずれ止めなし ),S: スタッド,H: 孔あきジベルの3 種類とし,B は H 形鋼のフランジ幅 (mmと 5mm) の2 種類の計 6 体とした ( 表 - および図 - 参照 ) またフランジ幅がmmの試験体のずれ止め要素は, 鉄骨の圧縮応力をコンクリートに伝達できるかどうかを調べるため に, コンクリートが圧縮を受ける片側のみに設けている 一方, フランジ幅が5mmの試験体は, ずれ止めがコンクリートのひび割れ性状に及ぼす影響を調べるためにコンクリートが引張を受ける片側のみに, ずれ止め要素を設けている シリーズ,2 の試験体ともに, コンクリートの打設はたて打ちとしている 表 -に各試験体のコンクリートの圧縮強度, 表 -2に鋼材の力学的性質を示す 試験体に使用した材料は, 鋼材をSSとし, コンクリートは早強セメントを使用し, 最大粗骨材寸法を 5mm とした スタッドの形状 ( 図 - 3 参照 ) および孔径 5mmは全試験体共通である シリーズ2 では, 鉄骨とコンクリート間の付着強度がないものと考え,S 断面の累加強度を発揮させるために鉄骨からコンクリートへ伝えるべき圧縮力を伝達させる

2,6,, 5 2,6 STUD3φL @ STUD3φ L @5 N- 試験体 N-5 試験体 * スタッド計 6 本 * スタッド計 2 本 5 S- 試験体 S-5 試験体 2 2,6 孔 5φ @5 孔 5φ @225 5φ * 孔計 箇所 * 孔計 箇所 5φ 5 2 孔中心線 H- 試験体 H-5 試験体 孔中心線 * : コンクリート 図 - シリーズ 2 の試験体形状 N N 載荷板 変位計 ( 計 点 ) コンクリートフランジ ウェブ フランジ 5 6 55 試験体 ローラー 変位計 ( 計 点 ) ローラー 変位計 ( 計 点 ) 2 シリーズ の試験体 図 -5 シリーズ2の試験体各シリーズの加力装置および測定装置 ことを考慮して設計した 各ずれ止め要素の設計は, 以下のように行っている 孔あきジベル試験体は, スタッド試験体との比較を行うために, 各種合成構造設計指針同解説 ) に規定されているスタッドの 本当たりのせん断耐力 ( 式 () を参照 ) と同程度となるように孔の径を5mmと設定し, 孔の数を決定した なお, 孔あきジベルの耐力は, ドイツの Leonhaldt 5) らが提案している孔あき鋼板のずれ止めとしての設計式より算出した この設計式は, 実験から得られた結果を元に, コンクリートが破壊する場合と鋼材が破壊する場合に対しての設計式が提案されている 本研究では, コンクリートの破壊が先行する設計式 ( 式 (2) を参照 ) を用いた ) スタッドコネクタの 本当たりのせん断耐力 q. 5 a F E () S S ここで, q : スタッドコネクタのせん断耐力, S S a : ス タッドコネクタの軸部断面積, F : コンクリートの圧縮 強度, E : コンクリートのヤング係数 孔あきジベルの 個当たりのせん断耐力 5) 2 R (2). d R.6 2. ここで, R : 孔あきジベルのせん断耐力, d : 孔径, R : コンクリートの圧縮強度 2.2 載荷方法および載荷プログラム各シリーズの載荷方法及び測定方法を図 - 5 に示す シリーズ,2ともに, 荷重 Nは5kNアムスラー型試験機の計測器により測定した シリーズ の試験体は, 鉛直荷重による一方向単調増加押抜き試験を行った 鉛直方向変位は, 試験体の四隅にそれぞれ設置した 本の変位計で測定した値の平均値とした シリーズ 2 の載荷方法は, 両端をローラー支持し, 等曲げ区間 2mmを有する中央 2 点集中荷重でピンを介して載荷した 鉛直方向変位は, 梁試験体の中央部に設置した 本の変位計で測定した値の平均値とした 載荷は, 中央部材角 R を.5,.,.5,2.,3.(%) とし各

部材角で2 回繰返す漸増載荷プログラムとした曲げせん断試験を行った 部材角 Rは, 梁試験体の中央の載荷点の平均鉛直変位を材長 mmで除した値で制御した コンクリートのずれ量を測定するために 本の変位計を梁端部に設置した 実験載荷中に各除荷点及び荷重がとなる時点毎にコンクリートのひび割れ幅を測定した なお, ひび割れ幅はクラックスケールを用い, 読み取り測定した 3. シリーズの実験結果とその考察 3. 荷重 - 変形関係図 -6に荷重 Nと鉛直変位 ( 以下ずれ量と表記 ) の関係を示す また, 表 -3に各試験体の最大荷重と最大荷重時のずれ量を示すとともに, 各試験体のずれ止め要素のせん断耐力の計算値 (No.2は式(),No.3,,5は式(2) より, 算出 ) を示す 最大荷重は, 図中に示す をとった なお, 図 -6に示しているNo.2の挙動は, 孔 個当たりの耐力と比較するためにスタッド 本が負担した耐力を 本当たりに換算した結果であり, 下記の式 (3) により算出した N ) N ( ) N ( ) ( ) (3) 2 ( 2 N N ( 2 N ( ここで, ) : 各変形時におけるNo.2 試験体 ( スタッ ド 本 ) が負担した耐力, ): 各変形時におけるNo. 試験体 ( ずれ止めなし ) が負担した耐力, N ): 各変形 時におけるNo.2 試験体 ( スタッド 本 ) が負担した耐力 3.2 ウェブに孔を設けることによる付着特性の効果表 -3の実験結果より, 中央に孔を 個設けたNo.3 試験体は,No. 試験体 ( ずれ止めなし ) の最大付着強度を下回っており, 孔あきジベルはずれ止めとしての効果がない 2 ( ように思われる しかし, 図 - 6(a) より No. 試験体は早期に最大耐力に達した後, 急激な耐力低下が見られた それに対して No.3 試験体は緩やかに低下し, 変位約 5mm 以降は一定の耐力を維持したまま変形が進んだ この結果から, 基準試験体 ( ずれ止めなし ) に比べ孔あきジベルを設けることにより大変形時での付着強度の保持を期待できるが,No.3 試験体の最大荷重は式 (2) より求めた計算値より低い結果であった これは, 試験体製作時の過程で型枠の脱型時に振動を与えているため, 鉄骨とコンクリートの間の付着強度が喪失していることが考えられる 実験終了時,No.3,,5 試験体 ( 孔あきジベル ) のコンクリート外面のひび割れは見られなかったが, ウェブ面とコンクリートの間に肌別れが生じていた 実験後, 鉄骨とコンクリートを分離して確認したところ, ウェブに設けた孔付近でせん断破壊が確認された 孔の個数による影響について表 -3より,No.3 試験体 ( 中央に孔を 個 ) の最大耐力に比べ,No. 試験体 ( 材軸方向に直列に孔を2 個 ) は約.5 倍,No.5 試験体 ( 材軸方向に並列に孔を2 個 ) は約 2. 倍の耐力上昇が見られた 孔の個数が増えることで耐力が上昇した理由は以下のことによる No. 試験体 ( ずれ止めなし ) の付着機構は, 鋼とコンクリートの表面接着力と摩擦抵抗の両者によるが, いったん滑りが生じてからは摩擦抵抗のみとなる それに対してNo.3,,5 試験体 ( 孔あきジベル ) の付着機構は, 接着力と摩擦力の他にウェブに孔を設けた切り欠き部から孔に詰ったコンクリートを押す支圧応力が付着抵 表 -3 シリーズの実験結果 試験体名 ずれ止め要素 最大荷重 N max (kn) N max 時ずれ量 (mm) 計算値 (kn) No. なし 6.8 ( 基準値 ).53 - No.2 スタッド 2.6 ( 本分 ).75 q s =56.8 ( 本分 ) No.3 孔 ( 中央 個 ) 3. 2. R =5.5 ( 個分 ) No. 孔 ( 直列 2 個 ) 63.3 2.95 2R =9 (2 個分 ) No.5 孔 ( 並列 2 個 ) 86.7 2.75 2R =9 (2 個分 ) 5 No.2( 本分 ) 5 No. 5 No.3 5 No.5 No. (mm) (mm) 5 5 2 25 3 35 5 5 2 25 3 35 (a) No.,2,3 試験体 (b) No.,5 試験体 図 -6 シリーズ 各試験体の荷重 - 変形関係

抗の大半を担っていることによるものと考えられる 孔の位置による影響について図 -6(b) より,No. 試験体 ( 直列 2 個 ) とNo.5 試験体 ( 並列 2 個 ) にあけた孔の個数は同じであるが, 孔を設ける位置の違いにより, 荷重 - 変形関係は異なる挙動を示した No.5 試験体は初期に最大耐力を発揮した後, 緩やかに耐力が低下し実験を終了した それに対して,No. 試験体は最大荷重に達した後, 一定の耐力を維持し, 変位約 5mmを越えた当たりから再び耐力が上昇する挙動が見られた その後, 変位約 2mm で初期の最大荷重を上回り, 実験終了時には,No.5 試験体の最大耐力に近い値まで耐力は上昇した 孔の位置によって付着に対する効果に違いが生じた要因は, 二点考えられる 一つは, 材軸方向に直列に設けた 2 個の孔 (No. 試験体 ) は, 滑りの小さい範囲では片方の孔あきジベルのみ抵抗し, 滑りが大きくなるにつれてもう一方の孔あきジベルも抵抗する それ対して, 並列に設けた2 個の孔 (No.5 試験体 ) は, 滑りが小さい範囲から両方の孔あきジベルで抵抗する 二つ目は,No.5 試験体は早期にウェブ面とコンクリートの間に肌別れが生じ, 付着面積が少なくなることにより,No.3, 試験体と違う挙動になったものと考えられる No.5 試験体のみ大きな隙間が生じた現象は未解明で, 今後の検討課題である 以上の結果から, 孔の個数や位置をバランスよく設けることで更なる付着強度の増大が十分に期待できる 3.3 スタッドを設けることによる付着特性の効果 No.2 試験体のスタッドのずれ止め効果は, 表 -3と図 -6(a) から見てわかるように他の試験体に比べて非常に耐力も高く, 一度耐力が低下した後も再び耐力が上昇していることから極めて性能が良いように思える No.2 試験体の最大荷重は,() 式で算出したスタッド 本当たりのせん断耐力の計算値とNo. 試験体の最大荷重値を足し合わせた値に近い結果であった しかし,No.2 試験体は他の試験体に比べ, 初期の段階から.3mmを超えるコンクリートのひび割れが発生し, 実験終了時にはコンクリートが剥落しスタッドが見える程の破壊状況であったことから使用性, 耐久性に不安が残る結果となった 実験終了時のコンクリートの破壊状況を, 写真 -に示す なお,No.2 試験体を除く各試験体のコンクリートの破壊状況は, 特に外面のひび割れはなく, ほとんど変わらないためNo. 試験体の写真を例として示す. シリーズ2の実験結果とその考察. 荷重変形関係図 -7に実験結果より得た各試験体の荷重変形履歴包絡曲線 ( 但し, 各部材角における繰り返し載荷の 回目の最大荷重を結んだ曲線とする ) を示し, 表 - に耐力の実験値及び計算値を示す なお, 計算値は曲げ応力の一番大きい加力点の危険断面で, 断面が一般化累加強度を発揮するときの耐力とした 表 - シリーズ 2 の実験結果 試験体名ずれ止め要素実験値 (kn) 計算値 (kn) 実験値 / 計算値 No.2 試験体 No. 試験体写真 - コンクリートの破壊形状 N- なし 6.9. 7 S- スタッド 8..8 H- 孔 8..8 N-5 なし 39.2.3 377 S-5 スタッド 7.3.8 H-5 孔 39.2 36.9 * H-とH-5は, ウェブに開けた孔の断面欠損を考慮した計算値を示す 5 5 (mm) 2 3 (a) N,S,H- 試験体 (b) N,S,H-5 試験体 図 -7 N- S- H- 5 シリーズ 2 各試験体の荷重変形履歴包絡曲線 2 N-5 S-5 H-5 (mm) 2 3

3 残留 3 残留 3 残留 除荷 除荷 除荷.5.5.5.5.5.5.5.5 2 2.5 3.5.5 2 2.5 3.5.5 2 2.5 3 N- 試験体 S- 試験体 H- 試験体 3 残留 3 残留 3 残留 除荷 除荷 除荷.5.5.5.5.5.5.5.5 2 2.5 3.5.5 2 2.5 3.5.5 2 2.5 3 N-5 試験体 S-5 試験体 H-5 試験体 図 -8 シリーズ 2 各変形時の最大ひび割れ幅.2 曲げ性状の効果表 - より試験体の最大耐力は, 全ての試験体において計算耐力の. 倍程度であった 実験結果より, 機械的なずれ止めのないN-,N5 試験体が計算耐力を発揮していること, さらに図 -7より, ずれ量がmm 程度までの各剛性が等しいことから, 本研究で計画した試験体は, ずれ止め要素の有無に関わらず鉄骨とコンクリートの一体化が図れていたと考えられる.3 コンクリートの曲げひび割れ幅図 - 8 に各変形段階での除荷点および荷重が の時のコンクリートのひび割れ幅を示す それぞれ, 除荷点ひび割れ幅および残留ひび割れ幅と称する これらの値は試験体の左右の側面で測定した曲げひび割れ幅の最も大きなひび割れ幅とした 図 -8 中の凡例に示す,2の数字は繰り返し載荷の 回目と2 回目を示したものである フランジ幅がmmの試験体に関して, 部材角 % 時の残留ひび割れ幅に注目するとS- 試験体のみがひび割れ幅.5mmを越えているが, それ以降に大きな差異はなかった フランジ幅が5mmの試験体はN,H-5に比べ,S-5は部材角.5% を越えた辺りからひび割れ幅が急激に大きくなっていることが確認できる 以上のことから, シリーズの試験結果同様にスタッドは, 孔あきジベルに比べコンクリートのひび割れに影響を与えたことが分かる の増大が見込まれる 2) 付着実験より, 孔あきジベルの効果は確認できるが, 孔あけ位置, 個数を含め, 強度算定法について検討の余地がある 3) 曲げせん断実験より, 鉄骨フランジ間に挟まれたコンクリートの付着強度は大きく, 本実験で行った試験体寸法では, ずれ止めが無くても十分付着強度が確保されていたものと考えられる 今後, せん断スパン比を実験変数にとり, さらに孔あきジベルを用いたS 梁の性状を調べていく 参考文献 ) 日本建築学会 : 鉄骨鉄筋コンクリート構造計算規準 同解説,958. 第 版 2) 日本建築学会 : 鉄骨鉄筋コンクリート構造計算規準 同解説,975. 第 3 版 3) 平陽兵, 天野玲子, 大塚一雄 : 孔あき鋼板ジベルの疲労特性, コンクリート工学年次論文報告集, vol9,no.2,pp53-58,997.6 ) 日本建築学会 : 各種合成構造設計指針同解説, 985.2 5) Leonhaldt,F et al:neues vorteilhaftes Verbundmittel fur Stahlverbund-Tragwerke mit hoher Dauerfestigkeit,Betonund Stahlbetonbau,Heft Dec.987 5. まとめ ) H 形鋼フランジ間にコンクリートを充填したS 部材は, ウェブに孔あきジベルを形成することで, 付着性能 謝辞本研究は, 平成 9,2 年度科学研究費補助金 ( 基盤研究 () 研究代表者 : 堺純一 ) 及び, 日本鉄鋼連盟 鋼とコンクリートの複合化 WG ( 主査 : 南宏一 ) の援助を受けた