特集 特集 ウクライナ危機後のウクライナ危機後の NIS 経済 NIS 経済 Research Report 2014 年の総括 ロシア NIS 経済研究所嘱託研究員坂口泉 はじめに本稿では NIS 諸国のうちウクライナ ベラルーシ カザフスタン ウズベキスタンの4ヵ国を取り上げ それぞれの乗用車市場の現状と今後の見通しを紹介する 特に ウクライナ市場に関しては 政情不安とグリブナ安が及ぼした影響に着目しながら その状況を紹介したい また ベラルーシ市場とカザフスタン市場に関してはロシア ルーブル安が及ぼした影響に留意しながら その現状と今後の展望を紹介する そして ウズベキスタンに関しては 同国唯一の乗用車メーカーであるGMウズベキスタンと市場の特殊性に焦点をあてながら その現状を紹介する 1. ウクライナ (1) 市場の状況概況ウクライナの新車市場の規模は ピーク時の2008 年には62 万台以上に達していたが その後は経済状況の悪化の影響を受け低迷が続き 2013 年の販売台数は前年比 10.2% 減の 21 万 3,322 台にとどまった いくつかのメーカーが在庫一掃セールに踏み切った関係で2014 年に入ってから新車市場の状況は一時的に好転し 1 月 2 月と2ヵ月連続で前年同月の数字を上回ったが 政情不安の影響でグリブナ安 が急激に進行しグリブナ建ての自動車の販売価格が急上昇したことや 内戦の影響でウクライナ東部の一部地域で自動車販売が事実上停止されたことなどが影響し 3 月以降は輸入車を中心に極端な販売不振が続き 通年の販売台数は前年比 54.5% 減の9 万 7,020 台にとどまった 1) ( 図表 1) 図表 1 ウクライナの新車乗用車販売台数 ( 単位万台 ) 70 62.3 60 54.2 50 40 37.1 30 26.5 20.7 23.8 21.3 20 16.2 16.3 9.7 10 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 ( 出所 )ASMホールディング 2015 年に入ってからも 政情不安を背景とするグリブナ安に歯止めがかからず ( グリブナ建ての ) 自動車の価格の高騰が続いている関係で販売の不振はさらに深刻化しており 1~3 月期の販売台数は前年同期を76% も下回る8,800 14
Research Report 台にすぎなかった (Autoconsulting 発表の数字 ) ウクライナの自動車販売関係者の多くは このような極端な不振が1 年を通し続くとみており たとえば プジョー シトロエン ウクライナ社のシブラカ社長は 2015 年のウクライナの新車販売台数は5 万 5,000 台程度にとどまる と予測している また BDオートシティーのトカチェンコ社長は IMFからの金融支援の獲得 ならびに ウクライナ東部の戦闘の沈静化が現実のものとなったとしても 2015 年の新車販売台数は5 万 ~7 万台にとどまるだろう それらが現実のものとならなかった場合は 数字はそれよりもさらに悪化するだろう と予測している (autoconsulting.ua 2015.3.3) その他 一部では 販売の不振は2016 年も続くとの見方も出始めており ある外国メーカーのディストリビューターは 今後 グリブナのレートが安定したとしても 市場が回復するまでには1 年半 ~2 年の時間が必要になるであろう との見解を示している (autoconsulting.ua 2015.1.29) ブランド別販売動向ウクライナの乗用車市場では伝統的に低価格車を主力とするブランドが圧倒的な強みを発揮していたが グリブナ安が急激に進み ( グリブナ建ての ) 販売価格が急上昇した関係で価格に敏感な低価格車の購買層の多くが新車市場から退出したこともあって 2014 年は比較的高価なモデルを主力とするブランドの健闘ぶりが目立った その結果 市場規模が大幅に縮小したにもかかわらず 新車 1 台当たりの外貨建ての販売価格の平均値の方は前年の約 1 万 8,000ユーロから2 万ユーロ強にまで上昇した 比較的高価なモデルを主力とするブランドの中でも特に好調だったのはトヨタで ブランド別販売台数ランキングのトップの座を獲得することに成功した ( 前年の2013 年は4 位 ) 2 位には3 年ほど前から急激にウクライナ市場でのプレゼンスを強化している中国の Geelyが入ったが ( 前年は3 位 ) それを可能にした要因としては 1 複数の新モデルを市場に投入したこと 2 自動車ローンの金利の一部を Geely 側が負担するという措置を講じたこと 3 販売店の数を増やしたこと といったことが考えられる 国産メーカー AvtoZAZ( ザポロジエ自動車工場 ) は低価格車の人気低迷の影響を受け苦戦をし 順位を前年の2 位から3 位に落とした 前年 1 位だった現代は 主力モデルであるロシア製のアクセント ( ロシアではソラリスというモデル名で生産 販売されている ) の輸入が困難になったことが響き販売台数を大幅に落とし 4 位にまで順位を落とした ちなみに 同じ企業グループに属する起亜も前年の5 位から10 位に大きく順位を落としたが その主因もまた ロシア製の主力モデル ( リオ スポーテージ等 ) の輸入が困難になったことにあると推測される VWの場合も 現代や起亜と同じように 主力のロシア製低価格車 ( ポロ セダン ) の輸入が困難になった関係で販売台数を大きく落としたが ライバル他社がそれよりもさらに大幅に販売台数を減少させた関係で 順位そのものは前年の8 位から5 位に上昇した 6 位以下で目立ったのは中 高価格帯のモデルを主力とする日本ブランドの堅調ぶりであった 多くのブランドが販売の減少幅をウクライナ市場の平均値 ( 54.5%) よりも小さく抑え 順位を上げることに成功した たとえば マツダは前年の21 位から12 位に スズキは27 位から23 位に スバルは28 位から25 位にそれぞれ順位を上げることに成功した その他 プレミアムブランドの堅調ぶりも目立ち メルセデスベンツは前年の19 位から16 位に アウディは22 位から17 位にそれぞれ順位を上げた 15
特集 ウクライナ危機後の NIS 経済 図表 2 ウクライナの新車乗用車市場のブランド別販売台数 ( 単位台 ) ブランド名 2013 2014 増減率台数シェア台数シェア (%) トヨタ 15,436 7.2% 10,296 10.6% 33.3 Geely 16,436 7.7% 9,365 9.7% 43.0 ZAZ 17,709 8.3% 7,908 8.2% 55.3 現代 18,001 8.4% 5,511 5.7% 69.4 VW 12,851 6.0% 5,419 5.6% 57.8 ルノー 11,307 5.3% 5,256 5.4% 53.5 シュコダ 12,285 5.8% 5,219 5.4% 57.5 日産 11,327 5.3% 4,753 4.9% 58.0 フォード 10,721 5.0% 4,506 4.6% 58.0 起亜 13,224 6.2% 3,770 3.9% 71.5 LADA 9,162 4.3% 2,531 2.6% 72.4 マツダ 2,632 1.2% 2,440 2.5% 7.3 三菱自動車 5,298 2.5% 2,193 2.3% 58.6 プジョー 4,752 2.2% 2,154 2.2% 54.7 大宇 2,636 1.2% 2,053 2.1% 22.1 メルセデスベンツ 3,260 1.5% 1,703 1.8% 47.8 アウディ 2,542 1.2% 1,657 1.7% 34.8 ボグダン 3,936 1.8% 1,615 1.7% 59.0 双竜 3,371 1.6% 1,583 1.6% 53.0 シトロエン 4,047 1.9% 1,543 1.6% 61.9 ホンダ 3,502 1.6% 1,360 1.4% 61.2 スズキ 1,763 0.8% 1,344 1.4% 23.8 スバル 1,543 0.7% 1,206 1.2% 21.8 レクサス 1,527 0.7% 862 0.9% 43.5 その他 24,054 11.3% 10,773 11.1% 55.2 合計 213,322 100% 97,020 100% 54.5 ( 出所 )ASM ホールディング 16
Research Report 以上ご紹介したのは販売台数によるランキングであるが ウクライナの調査会社 Autoconsulting が発表している2014 年の金額ベースのブランド別販売ランキングによれば 2 億 9,620 万ユーロの販売を記録したトヨタがトップの座を獲得したことになっている 以下 メルセデスベンツ (1 億 1,810 万ユーロ ) VW(1 億 1,300 万ユーロ ) 現代(8,600 万ユーロ ) ランドローバー(8,490 万ユーロ ) シュコダ (8,410 万ユーロ ) アウディ(8,210 万ユーロ ) 日産 (8,170 万ユーロ ) Geely(7,750 万ユーロ ) フォード (6,820 万ユーロ ) と続いており プレミアムブランドのプレゼンスが強いことがわかる モデル別販売動向 2013 年と2014 年の乗用車のモデル別販売ランキングを比較してみても 比較的高価な車のプレゼンス強化の傾向が見て取れる たとえば 2013 年には低価格車が 上位 10 位までを独占していたものが 2014 年のランキングでは7~10 位を比較的価格の高い 4モデルが占めている その他 2013 年と2014 年の主要な相違点としては 2013 年にベスト10 に入っていたロシア製の低価格 3モデル ( 現代アクセント 起亜リオ VWポロ ) が ロシアとウクライナの関係悪化の影響を受け 2014 年には圏外となったという点を指摘することができる 一方 2013 年と2014 年の共通点としては 国産車 (2013 年は6モデル 2014 年は7モデルがベスト10に入っている ) のプレゼンスが強いという点をあげることができる 2014 年のウクライナ市場で最も人気が高かった小型商用車 (LCV) はフィアットのDoblo で 944 台の販売を記録することに成功した 以下 ルノー Dokker(689 台 ) VW Caddy(432 台 ) GAZ3302(394 台 ) VW Transporter(378 台 ) と続いている 図表 3 ウクライナ新車乗用車市場のモデル別販売台数 ( 単位台 ) 2013 年 2014 年 順位 モデル名 販売台数 順位 モデル名 販売台数 1 ZAZセンス 6,611 1 ZAZセンス 3,291 2 現代アクセント 5,611 2 Geely Emgrand 3,152 3 Geely CK 4,961 3 ルノー ロガン 2,680 4 Geely Emgrand EC7 4,673 4 ZAZ VIDA 2,186 5 Geely MK 4,600 5 ZAZラノス 2,096 6 起亜リオ 4,563 6 Geely CK 2,082 7 ルノー ロガン 4,495 7 トヨタ カローラ 2,079 8 VWポロ 4,486 8 トヨタRAV4 1,896 9 ZAZ VIDA 4,027 9 シュコダ ラピッド 1,820 10 ZAZラノス 3,947 10 シュコダ オクタヴィア 1,809 ( 出所 ) ウクルアフトプロム 17
特集 ウクライナ危機後の NIS 経済 (2) 特別関税とリサイクル税の導入 見直し特別関税の導入 WTO 加盟に伴い ウクライナでは2008 年 5 月中旬より移行期間が設けられることなく 新車の輸入関税率が25% から 10% に一挙に引き下げられた しかし 乗用車市場の状況が悪化し始めた2008 年秋ごろから ウクライナの国内メーカーが新車の輸入関税率を引き上げることを求めるロビー活動を開始した このロビー活動は奏功し 2009 年 3 月 6 日から6ヵ月間 新車に対し23% の暫定輸入関税率が適用されることとなった ただ 国内メーカー側の狙い通り新車の輸入はこの間ほぼ全面的にストップしたものの 景気の悪さもあいまって そのことが乗用車の国内生産の活性化につながることはなかった 国内メーカー側は 2009 年 9 月以降も23% の関税率の適用を継続することを要望していたが WTOによる是正勧告もあり再び10% の関税率が適用されることとなった 暫定輸入関税率失効後もウクライナの国内メーカーは執拗にロビー活動を続けていたが その結果 2011 年夏になり 省庁間貿易委員会 ( 担当省庁は経済発展 商業省 ) が 1,000~ 1,500ccの車については33.4% 1,500~2,200cc の車については47% の特別関税を最長で4 年間導入することを視野に入れた特別調査を開始するという事態が生じた その後 この特別調査に関する情報はほとんど出ていなかったが 2013 年 3 月中旬になり省庁間貿易委員会は 2013 年 4 月 15 日より3 年間 1,000~1,500ccのガソリン車には6.46% 1,500~2,200ccのガソリン車には12.95% の特別関税 ( 追加関税 ) をそれぞれ課すことを公式発表した ( ヴェードモスチ 紙 2013.3.15) 2) リサイクル税の導入 2013 年 7 月初旬にウクライナの最高会議は 1リサイクル税をウクライナから輸入される車にも課すという方針を 打ち出したロシアに対抗すること 2 中古車の輸入量をさらに減らすこと 3ウクライナ国内でのCKD 方式での車の生産 ( 組立てラインの他に 塗装 溶接ラインを装備した生産施設での生産 ) を促進することなどを目的として 輸入車にリサイクル税を課すことを規定した法案 税法典とリサイクル税に関する複数の法規の変更について を採択した その後 8 月初旬に当時のヤヌコーヴィチ大統領が法案に署名し 9 月 1 日より輸入車にリサイクル税が課せられることが決定した 乗用車の基本税額は5,500グリブナに設定され それに排気量により異なる係数 ( 新車の場合は0.86~5.5 中古車の場合は5.3~19.25) を乗じることにより最終的な税額が導き出されることになった また トラックとバスの場合は基本税額が1 万 1,000グリブナで それに総重量により異なる係数 ( 新車の場合は0.5~2.9 中古車の場合は0.88~11.8) を乗じることにより最終的な税額が導き出されることとなった 特別関税とリサイクル税の見直し特別関税もリサイクル税も輸入車の価格の高騰につながり 一般市民や輸入業者には不評であったため ウクライナ政府は2013 年秋ごろよりそれらを廃止する方向での検討を開始した そして 特別関税に関しては 2014 年 2 月になり省庁間貿易委員会が 2014 年 4 月 14 日よりそれまでの税率の3 分の2に軽減し さらに2015 年 4 月からは (2014 年 4 月 14 日以前の水準の )3 分の 1に軽減すること を発表した また リサイクル税に関しては 2014 年 4 月初旬にウクライナ最高会議がその廃止を決定した しかし ほぼ同時期にウクライナ最高会議が新車の物品税を2014 年 4 月 1 日より倍にすることを規定した法律を採択したことや グリブナ安が急激に進んだことなどが影響し 特別関税の軽減措置とリサイクル税の廃止措置 18
Research Report が実施された後も 輸入車のグリブナ建ての販売価格は高騰し続けた たとえば 大宇のマチスの場合 2014 年 2 月時点では5 万 5,000グリブナで購入できたものが 2015 年 1 月時点では 10 万グリブナ以上を出さないと購入ができなくなっていた また 同じ大宇のジェントラの場合も 2014 年 2 月時点で9 万 9,000グリブナ ~であった販売価格が 2015 年 1 月時点では21 万 6,000グリブナに達していた (3) ウクライナの主要乗用車メーカーウクライナの乗用車生産部門は1990 年代後半から2001 年ごろまで輸入中古車の攻勢に苦しみ瀕死の状態にあったが 中古車の輸入関税率が大幅に引き上げられたことなどもあって 2002 年ごろから急激に活性化し 2008 年には生産台数が40 万台を突破した ( 図表 4) しかし 2009 年に入り経済危機の影響が色濃く出始め 同年の生産台数は2002~2003 年の水準にまで落ち込んだ その後 生産の低迷は現在に至るまで続いているが 特に2014 年夏以降は不振の度合いが危機的な様相を示し始めており 7~ 12 月期の生産台数はわずか3,380 台にとどまった (1~6 月期の生産台数は前年同期比 34.7% 増の2 万 2,561 台と比較的好調であった ) その結果 2014 年の通年の数字も前年比 43.3% 減の 2 万 5,941 台にとどまることになった 危機的状況は2015 年に入ってからも続いており 第 1 四半期の生産台数は前年同期比 96.1% 減のわずか535 台にすぎなかった 存亡の危機に直面しているといっても過言ではないウクライナの主要な乗用車メーカーの概要は以下の通りとなっている ( 各メーカーの生産台数は図表 5に示してある ) 45 40 35 図表 4 ウクライナの乗用車生産台数の推移 38.0 40.6 ( 単位万台 ) 30 26.7 25 20 17.4 19.2 15 9.8 10 6.4 7.5 9.8 7.0 4.4 4.6 5 1.7 2.6 2.6 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 ( 出所 )2000~2008 年はウクライナ統計国家委員会 2008~2014 年は ASM ホールディング 19
特集 ウクライナ危機後の NIS 経済 図表 5 ウクライナ主要メーカー別乗用車生産台数 ( 単位台 ) メーカー名 2010 2011 2012 2013 2014 AvtoZAZ 42,336 59,355 39,917 19,257 12,779 ボグダン 19,190 20,240 12,034 5,958 1,999 KrASZ 6,341 6,329 3,180 9,049 7,514 ユーロカー 7,464 11,656 14,556 11,494 3,649 合計 75,331 97,580 69,687 45,758 25,941 ( 出所 )ASMホールディング ウクルアフト 1969 年に設立された会社で AvtoZAZ イリチョフスクの自動車組立工場 ( 年間生産能力 4 万台 現在はAvtoZAZの支部という位置づけになっている ) 多数の自動車部品工場 200 近くのサービスセンター等を傘下におさめている AvtoZAZでは かつて複数のオリジナルモデルが生産されていたが 乗用車に関しては 2007 年にタヴリアというモデルの生産が中止されたのを皮切りに 2010 年末までにすべてのオリジナルモデルの生産が中止された 2014 年時点では シボレーのラノス ラノスをベースとするZAZセンス ZAZチャンス 3) 旧型のシボレー アベオをベースとするZAZ VIDA 中国のCheryのA13をベースとするZAZ Forzaが生産されていたが 国内販売の不振とロシアへの輸出台数の大幅減少の影響を受け7 月と8 月に生産を休止することを余儀なくされたことが響き 通年の生産台数は前年比 33.6% 減の 1 万 2,779 台にとどまった その結果 業績も悪化し 2014 年の最終損益は29 億グリブナの赤字となった (2013 年は261 万ルーブルの黒字を出すことに成功していた ) ボグダン企業グループ ウクルプロムインヴェスト 4) の総帥であったポロシェンコ現ウクライナ大統領 ( 現在は 同氏の父親がウクル プロムインヴェストの総帥となっている模様 ) と同氏のビジネスパートナーであったスヴィナルチュクが2005 年に設立した会社だが ポロシェンコはボグダンの業績が悪化した2009 年に保有する同社の株式をすべてスヴィナルチュクに売却しており 現時点ではスヴィナルチュクがボグダンの株式の100% を保有している ( ただし 今もスヴィナルチュクとポロシェンコ一族は良好な関係にあるといわれている ) ボグダンは 第 1 自動車工場 ( 旧ルツク自動車工場 ) 第 2 自動車工場 第 3 自動車工場を傘下におさめているが それらの工場の現状は以下の通りである 第 1 自動車工場はソ連時代から存在する工場で 元々はオリジナルの小型 SUVを生産していた ボグダンの傘下に入った2000 年ごろからロシアのUAZ( ウリヤノフスク自動車工場 ) と LADAのモデルのSKD 方式での生産 ( 組立てラインだけを装備した生産施設での生産 ) を開始し その後現代車と起亜車のSKD 生産も開始した さらに 2005 年からはバスとトロリーバスの生産も開始した 2007 年時点の同工場での乗用車の生産台数は5 万 3,919 台で ブランド別の内訳は起亜車が1 万 7,990 台 現代車が1 万 6,348 台 LADA 車が1 万 9,581 台となっていた 2008 年 6 月に下記の第 2 工場が稼動を開始した後 第 1 工場では乗用車の生産が中止され 20
Research Report 現在はバスとトロリーバスだけが生産されている ( 年間生産能力は8,000 台だが 2014 年のバス生産台数はわずか64 台にとどまった ) 第 2 自動車工場は2008 年 6 月より稼動を開始した年間生産能力 10 万台以上の新しい工場で チェルカッスィに所在する 同工場では LADA2110をベースとしたボグダン ブランドのモデルの生産が行われていたが ( その他 一時は LADA 車や起亜車の生産も行われていた ) ロシアとの関係悪化の影響を受け 2014 年秋に生産が中止された その関係で 通年の生産台数は1,999 台にとどまった ボグダンの幹部によれば 同工場の採算ラインは年産 6 万台ということなので 現時点では同工場の操業は完全に赤字ということになる ちなみに 2013 年時点では中国のLifanとJACのモデルの SKD 方式での生産を第 2 工場で開始するという計画も浮上していたが 市場の状況が悪化したため 実現には至らなかったようである 第 3 自動車工場も2008 年 9 月から稼動を開始した新しい工場で やはりチェルカッスィに所在する 年間生産能力 1 万 5,000 台の同工場では いすゞの小型および中型トラック 現代のトラック等のSKD 方式での生産が行われている ロシアのASMホールディング発表の数字によれば 2014 年の同工場でのトラックの生産台数は122 台となっている この数字から判断して 同工場の操業も赤字なのではないかと推察される 非公開株式会社 ユーロカー オレグ ボヤリンという人物が率いる持ち株会社 アトル ホールディング の傘下に入っている会社 同社が保有する工場は 2001 年にドイツのVWの技術支援を受けて完成した近代的な工場で スロバキアおよびハンガリーとの国境近くのザカルパチエ州ソロモノヴォ村の自由経済ゾーン ザカルパチエ に所在する 同工場では 2001 年末にシュコダ車の試験生産が開始され 2002 年春から量産に移行した その後 一時 VW 車やセアト車の生産も行われていたが 2010 年からはシュコダのモデルしか生産されておらず 2014 年には オクタヴィア ファビアFL イエティ スペルブ ラピッドが合計で 3,649 台生産された AIS( アフトインヴェストストロイ ) 国会議員のドミトリー スヴャタシとワシーリー ポリャコフが事実上のオーナーだとされている企業グループで KrASZ( クレメンチュグ自動車組立工場 ) の他 UAZをはじめとするロシアの複数のブランド 双竜 Geely 等の輸入 販売会社や シトロエン アウディ 現代 シボレー ルノーの販売会社などを傘下におさめている KrASZでは かつては LADA GAZ UAZ 中国のGreat Wall FAW 等の車が生産されていたが 2014 年上半期の時点ではGeelyのモデル (CK2 MK2 等 ) と双竜のモデル (Actyon Kyron Rexton 等 ) だけが生産されていた ( いずれも SKD 方式での生産 ) 生産台数は2004 年から 2008 年までは2 万台前後で推移していたが 2009 年に3,738 台にまで激減し それ以降 2010 年 :6,341 台 2011 年 :6,329 台 2012 年 :3,180 台 2013 年 :9,049 台と低迷が続いていた 2014 年は年前半の販売が非常に好調だったこともあって 1~7 月期の生産台数は前年同期の約 3 倍に達した しかし 7 月ごろから販売が急激に落ち込んだことを受け8 月から年末まで生産が中止されたため 通年の生産台数は結局 前年の数字を約 1,500 台下回る7,500 台強にとどまった ちなみに KrAZの親会社のAISはGeely と双竜に関しては当面輸入モデルだけを販売する意向を表明しており 2015 年に入ってからもそれらのブランドのモデルの現地生産は中止されたままとなっている 21
特集 ウクライナ危機後の NIS 経済 2. ベラルーシ (1) 新車市場の状況概況まず過去の経緯から振り返ると 2013 年の正規ディーラー経由の新車販売は非常に好調で 通年の数字は前年比 39.5% 増の2 万 8,810 台に達した ( 小型商用車を含めた数字 ) 2013 年のベラルーシの経済状況が突出してよかったわけでもなく 同年の新車市場の好調さを牽引した要因は正直よくわからないが 考えられうる要因としては 1 付加価値税が事実上値上がりした関係で 5) 2012 年は車の買い控え現象が生じたが そのことと関連する繰越需要が2013 年に顕在化した可能性 2 秋ごろから 2014 年にリサイクル税が導入されるとの情報が出始め駆け込み需要が生じた ( リサイクル税は2014 年 3 月に導入された ) 3VWポロ セダン ルノー サンデロ ルノー ダスターといったロシア製の低価格外国ブランド車の販売台数が急激に伸び そのことが市場全体の活性化につながった 等を挙げることができる その根拠は不明だが 2013 年末時点では ( 正規ディーラー経由の ) 新車販売の好調さは続き 2014 年の数字は乗用車だけで3 万 3,000~3 万 5,000 台に達する との見方が業界内では優勢となっていた 6) 実際 2014 年秋までは好調な状態が続いていたが 10 月半ばごろから正規ディーラー経由の新車の販売台数が急激に落ち込み 小型商用車分を含めた通年の数字は前年比 2.6% 増の2 万 9,552 台 ( 乗用車が 2 万 5,044 台 小型商用車が4,508 台 ) にとどまった 秋口から正規ディーラー経由の新車販売台数が落ち込んだ理由は ロシアでルーブル安が急激に進行したことを受け ベラルーシの運び屋によりロシアから並行輸入される車の数が急増したことにある その背景には ベラルーシ ルーブルのレートが比較的安定していたため ロシア ルーブルに対して強くなり ロ シアで車を購入しベラルーシで転売すると大幅な利益を得ることができるようになったという事情が存在した 一説によれば 10 月から 12 月末までに ロシアから合計で2 万台以上の新車が運び屋によりベラルーシに持ち込まれたといわれている ( 中古車を含めると12 月だけで5 万台近くの車がロシアから持ち込まれたとの説も存在する ) ロシアから運び屋により持ち込まれた新車の販売価格は正規ディーラーが設定した価格よりも安かったため非常によく売れたが ( 一説によれば 12 月にベラルーシで登録された新車の8 割が並行輸入車だったといわれている ) 市場全体からみれば それは需要の先取りとほぼ同義であった 実際 その反動で 2015 年に入ってから ( 正規ディーラー経由の ) 新車販売台数はさらに大幅に落ち込んでおり 1 月の数字は前年同月の数字を22.4% 下回った 各ディーラーは 運び屋が扇動した2014 年 10 月から12 月までの新車購買意欲の異常な高まりの反動は2015 年末まで続くと見ており 通年の販売台数は前年を20~30% 程度下回ると予測している ブランド別販売状況 2014 年の新車乗用車ブランド別販売ランキングでトップに立ったのはサンデロとダスターの売れ行きが好調であったルノーで 前年比 22.5% 増の4,048 台の販売を記録した VWはベラルーシで根強い人気を誇っており 常にトップの座を争っているが 2014 年の販売台数は前年比 6.4% 減の2,738 台にとどまり 2 位の座に甘んじることとなった 3 位には 主力モデルのリオの販売が好調で前年比 12.9% 増の2,438 台の販売を記録した起亜が入った 2012 年の時点でトップであったロシアのLADAは ルノーやVWの低価格車の攻勢を受け年々プレゼンスを低下させており 2014 年の販売台数は前年比 31% 減の1,869 台にとど 22
Research Report まった その結果 順位も前年の3 位から4 位に下降した 以下 10 位までの顔ぶれは 日産 :1,866 台 Geely:1,841 台 シュコダ :1,504 台 トヨタ : 1,452 台 現代 :920 台 アウディ :566 台となっている トヨタと日産以外の日本メーカーでは 三菱自動車が13 位に (454 台 ) スズキが16 位に (432 台 ) マツダが19 位に (304 台 ) それぞれ入っている 新車小型商用車ブランド別販売ランキングでトップに立ったのは価格の安さを武器に安定した人気を誇るロシアのGAZ( ゴーリキー自動車工場 ) で 2014 年には1,947 台の販売を記録した ( 小型商用車市場におけるシェアは 43.19%) 以下 VW:894 台 (19.83%) UAZ: 526 台 (11.67%) ルノー:452 台 (10.03%) プジョー :241 台 (5.35%) フォード:238 台 (5.28%) シトロエン:70(1.55%) トヨタ: 52 台 (1.15%) メルセデスベンツ:51 台 (1.13%) と続いている モデル別販売動向ベラルーシでも他の CIS 諸国同様に低価格乗用車の人気が高く 2014 年に最もよく売れたモデルはVWのロシア製低価格車 ポロ セダン であった ( 販売台数は2,247 台 ) 以下 2 位から15 位までの顔ぶれを見てみても 起亜リオ :1,438 台 ルノー サンデロ :1,317 台 Geely SC7:1,238 台 ルノー ダスター :1,153 台 日産アルメーラ :852 台 ルノー ロガン :830 台 LADA2121:619 台 LADAラルグス :607 台 現代アクセント : 592 台 シュコダ オクタヴィア :534 台 起亜スポーテージ :501 台 日産キャシュカイ :456 台 Geely Emgrand X7:453 台となっており やはりロシア製の低価格車のプレゼンスが圧倒的に強いことがわかる 車体タイプ別の状況を見ると Bセグメントカーの人気が最も高くそのシェアは41.5% に 達した 最も人気の高いBセグメントカーは VWポロ セダンであるが その他 起亜リオ ルノー サンデロ 日産アルメーラ (Cセグメントに分類されることもある ) ルノー ロガン シュコダ ラピッド LADAラルグス 現代アクセント等の人気も高くなっている Bセグメントカーに次いで人気が高かったのはSUVで そのシェアは32.6% であった 最も人気の高いSUVはルノー ダスターであるが その他 LADA2121 起亜スポーテージ 日産キャシュカイ Geely Emgrand X7 シボレー NIVA トヨタRAV4 UAZパトリオット 日産ジューク スズキSX4 三菱 ASX VWティグアン 三菱アウトランダー トヨタ ランドクルーザープラド トヨタ ハイランダー等の人気も高くなっている Cセグメントカーの人気も安定しており そのシェアは17.0% となっている ベラルーシで人気の高いCセグメントカーとしては Geely SC7 シュコダ オクタヴィア トヨタ カローラ プジョー 408 シトロエンC4 起亜シード フォード フォーカス ルノー メガーヌ ルノー フルエンス オペル アストラ等の名を挙げることができる ちなみに 他のCIS 諸国同様にベラルーシでもAセグメントカーの人気は低く 大宇マチス以外のモデルはほとんど売れておらず ( マチスの2014 年の販売台数は255 台であった ) そのシェアは1.7% と非常に小さくなっている (2) 生産の状況ベラルーシではトラックおよびバスの生産部門は比較的発達しており MAZ( ミンスク自動車工場 ) の他 MAKT( ミンスク トレーラーヘッド工場 ) BelAZ( ベラルーシ自動車工場 ) MOAZ( モギリョフ自動車工場 :BelAZの支社という位置づけになっている ) 等の複数のメーカーがトラックもしくはバスの生産を行 23
特集 ウクライナ危機後の NIS 経済 っている 2014 年のベラルーシのトラックの生産台数は前年比 33.3% 減の1 万 2,187 台 ( うち 1 万 528 台がMAZで生産された ) バスは30.8% 減の1,453 台となっている 乗用車部門では ベラルーシ 英国合弁企業 ユニゾン ( 旧フォード ユニオン ) 7) および ベラルーシのBelAZと中国のGeelyの合弁企業であるBelGeがSKD 方式での生産を行っている ユニゾンでは2006 年よりイランのホドロ社のサマンドというプジョー 405をベースとしたモデルのSKDが開始されているが 2014 年時点ではその他に プジョー 301 プジョー 3008 中国のZotye のZ300のSKDも行われていた ただ どのモデルも少量生産にとどまっており 2014 年の生産台数は4モデル合計で217 台にすぎなかった BelGeはボリソフの アフトギドロウシリチェリ という工場の敷地内に建設した年間生産能力 3 万台の組立工場において中国のGeely 車のSKD 方式での生産を2013 年より開始しており 2014 年にはSC7 EX7 LC CROSSの3モデルを合計で9,133 台生産した ( そのうちの約 7,000 台がロシアとカザフスタンに輸出された ) その他 BelGeはボリソフとジョジノの境界付近に確保した約 120haの敷地に 溶接ラインと塗装ラインを装備した年間生産能力 12 万台の新工場を建設することも計画しており 2015 年中にも工事が開始される見込みになっている 新工場の建設は2 段階に分け実施される予定で 1 期工事分 ( 年間生産能力 6 万台 / 年 ) は2017 年までに 2 期工事分は2019 年以降にそれぞれ完成することになっている 3. カザフスタンの乗用車市場 (1) 新車市場の状況概況カザフスタンの自動車市場ではつい最近まで中古車のプレゼンスが非常に強く新 車の販売台数は低迷していたが 個人に適用される中古車の輸入関税率が2011 年 7 月 1 日以降大幅に引き上げられたことを契機に 市場での中古車のプレゼンスが低下する一方で 新車の販売台数が急激に増加し 2011 年時点で4 万 5,302 台だったものが 2013 年には16 万 5,730 台に達した ( カザフスタン自動車ビジネス協会発表の商用車を含む数字 : 図表 6) 図表 6 カザフスタン新車販売台数の推移 ( 単位万台 ) 18 16.6 16.4 16 14 12 10 9.8 8 6 4.5 4 3.3 1.9 2 0.8 1.3 2.3 1.6 2.2 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 * 小型商用車含む ( 出所 ) カザフスタン自動車ビジネス協会 2014 年に入ってからもしばらくは販売の好調さが続き 第 1 四半期の販売台数は前年同期を23% 上回る3 万 1,213 台に達したが 2 月 11 日に実施されたカザフスタンの通貨 テンゲ の切り下げ 8) の影響を受け 輸入車を中心に価格が上昇し 切り下げ前に輸入された車の在庫が切れた4 月以降は販売が低迷するようになった それでも 8 月ごろまではほぼ前年同月並みの水準を維持していたが 1 秋口から石油の国際価格が急落したこと ( 周知の通り カザフスタンはロシアに次ぐ旧ソ連諸国第 2 位の産油国である ) 2 不良債権問題に起因する流動性不足の影響で多くの銀行が自動車ローンの貸し出し条件を厳格化したこと 3ロシア ルーブル安の急激な進行に伴いテンゲがルー 24
Research Report ブルに対し強くなったことを受け カザフスタンの人々がロシアに出向き同地の自動車販売店で新車を購入するケースが急増したこと ( 秋以降 中古車を含めると5 万台以上の車が個人によりロシアから持ち込まれたといわれている ) などが逆風となり 9) 10 月から12 月までの 3ヵ月連続で月間販売台数が前年同月の数字を10% 以上も下回るという状況が続いた その結果 2014 年通年の販売台数は前年比 1.31% 減の16 万 3,561 台にとどまった ( うち 15 万 1,424 台が乗用車であった ) 2015 年に入ってからも販売の不振は続いており 1~2 月期の販売台数は前年同期比 23% 減の1 万 7,016 台にとどまった 販売価格差 ( もともと 同一のモデルを比較した場合 カザフスタンの販売店のドル建ての販売価格の方がロシアの販売店のそれよりも高かったが ルーブル安の影響でその傾向がさらに強まった ) が原因でロシアの自動車販売店に客を奪われるという状況や自動車ローンの利用が難しいといった状況は当面続くとみられており カザフスタン自動車ビジネス協会は2015 年の新車販売台数は前年を30~40% 下回るとの予測を行っている (365info.kz 2015.2.23) ブランド別販売動向カザフスタンの新車市場 ( 乗用車市場 ) では 数年にわたりLADA が販売台数トップの座に君臨している 2009 年こそ経済危機の直撃を受け販売台数が前年の約 3 分の1まで落ち込んだが 2010 年は年初から遠い外国から輸入される車の関税率が引き上げられたため 無関税で輸入されるLADA 車の価格競争力が強まり 販売台数が前年比 41.1% 増の5,058 台にまで回復した 2011 年夏以降はライバルである輸入中古車のプレゼンスの急激な低下という要因が加わった関係で LADA 車の販売の伸びはさらに加速し 2013 年の販売台数は前年比 63.6% 増の5 万 7,478 台に 達した 人気モデル サマラ の生産が中止されたことなどが響き2014 年の数字は前年比 21.4% 減の4 万 5,162 台にとどまったが ブランド別販売ランキング1 位の座を死守することには成功した 2 位には リオとスポーテージの販売が好調で 前年比で48.7% も販売台数を伸ばした韓国の起亜が食い込んだ 3 位には 前年比 14% 増の1 万 3,961 台の販売を記録した韓国の現代が入った 同社の主力はロシア製のアクセント ( ロシアでの名称はソラリス ) で 全体の約 7 割を占めた 4 位には 以前よりカザフスタンで安定した人気を維持しているトヨタが食い込んだ なお トヨタは販売台数の点では1 位のLADAに大きく水をあけられているが 高価格帯のモデルを主力としている関係で販売額は同社の方が大きく 2014 年の数字は2 位のLADAよりも約 8,000 万ドル多い6 億 618 万ドルであった ( カザフスタン自動車ビジネス協会発表の数字 ) 10) 5 位には NIVA やクルーズを主力とするシボレーが前年比 17.2% 増の1 万 1,764 台の販売を記録して食い込んだ 2013 年時点で2 位であったGMウズベキスタン ( ブランド名は大宇 ) は カザフスタンの車の安全基準が厳格化された関係で 2014 年 1 月 1 日より主力の低価格車 ネクシア と マチス の販売が困難となったことの影響を受け 順位を6 位まで落とした 7 位以下に目を転じると ルノー (7 位 ) シュコダ (9 位 ) VW(10 位 ) といった カザフスタンもしくはその他の旧ソ連諸国で生産されている低価格車を主力とするメーカーが目立つが 日本メーカーも健闘しており 8 位に日産が 13 位に三菱自動車がそれぞれ入っている その他 日本ブランドでは 16 位にスバル 18 位にレクサス 19 位にホンダ 22 位にスズキ 25 位にマツダがそれぞれ入っている 25
特集 ウクライナ危機後の NIS 経済 図表 7 カザフスタンブランド別新車販売台数 ( 単位台 ) ブランド名 2013 2014 増減率台数シェア台数シェア (%) LADA 57,478 34.7% 45,162 27.6% 21.4 起亜 11,913 7.2% 17,709 10.8% 48.7 現代 12,250 7.4% 13,961 8.5% 14.0 トヨタ 12,132 7.3% 12,455 7.6% 2.7 シボレー 10,041 6.1% 11,764 7.2% 17.2 大宇 13,371 8.1% 11,118 6.8% 16.8 ルノー 4,921 3.0% 8,173 5.0% 66.1 日産 6,392 3.9% 5,759 3.5% 9.9 シュコダ 4,703 2.8% 5,573 3.4% 18.5 VW 2,491 1.5% 4,054 2.5% 62.7 双竜 3,800 2.3% 2,248 1.4% 40.8 Geely 0 0.0% 2,182 1.3% - 三菱自動車 3,477 2.1% 2,050 1.3% 41.0 UAZ 1,668 1.0% 1,906 1.2% 14.3 プジョー 238 0.1% 1,111 0.7% 366.8 スバル 1,192 0.7% 1,033 0.6% 13.3 ZAZ 3,180 1.9% 1,007 0.6% 68.3 レクサス 1,237 0.7% 882 0.5% 28.7 ホンダ 534 0.3% 425 0.3% 20.4 メルセデスベンツ 374 0.2% 420 0.3% 12.3 その他 14,338 8.7% 14,569 8.9% 1.6 合計 165,730 100% 163,561 100% 1.3 ( 出所 ) カザフスタン自動車ビジネス協会 なお 日本ブランドの場合 モデルの価格が全般的に高いので 販売額によるランキングの順位が台数ベースの順位を上回るケースが多くなっており 上位 15 位以内にトヨタの他 日 産 (6 位 2014 年の販売額は1 億 7,305 万ドル ) レクサス (11 位 9,929 万ドル ) 三菱自動車(14 位 7,306 万ドル ) の3ブランドが入っている カザフスタンの商用車市場 (2014 年の市場規 26
Research Report 模は前年比 1% 増の1 万 2,137 台 : 但し この数字にはKAMAZの販売台数は含まれていない ) では 低価格を武器とするロシアのGAZと UAZが圧倒的な強さを発揮しており 2014 年には順に6,987 台と2,497 台の販売を記録した カザフスタンの商用車市場におけるその他の主要なプレーヤーとしては 中国のFAW(2014 年の販売台数は836 台 ) 現代(520 台 ) DAF(346 台 ) IVECO(294 台 ) スカニア(140 台 ) 等の名前を挙げることができる モデル別販売動向 2014 年のモデル別の販売台数は図表 8の通りだが この表からもわかる通り ロシア ウズベキスタン ウクライナおよびカザフスタンで生産されている低価格車が市場の核を形成している その一方で 日本ブランドのセダンやSUVの人気も根強く トヨタのカムリ ランドクルーザープラド カローラ (24 位 ) 日産アルメーラ(25 位 ) などが上位に食い込んでいる 車体タイプ別の状況をみると 最も人気が高いのはBセグメントカーで 全体の48.34% を占める 以下 SUV:26.56% Cセグメントカー : 17.78% Eセグメントカー :2.61% 等となっている 他のCIS 諸国同様カザフスタンでもAセグメントカーの人気は低く そのシェアは 1.48% にとどまっている 価格帯別の販売状況を見ると 最も人気が高いのは1 万 ~1 万 5,000ドルの価格帯のモデルで 全体の33% を占めている 以下 1 万 5,000 ~2 万ドル :25% 2 万 5,000~4 万ドル :14% 2 万 ~2 万 5,000ドル :11% 1 万ドル未満 : 8% 4 万 ~8 万ドル :6% 8 万ドル以上 : 3% となっている 輸入の状況新車の最大の輸入相手国はロシアで 2014 年にカザフスタンの正規ディーラーはロシアから合計で9 万 1,277 台の新車 ( 外 国ブランド車を含む ) を輸入した 以下 日本 : 1 万 4,314 台 ウズベキスタン :1 万 3,707 台 英国 :6,015 台 韓国 :4,528 台 トルコ :1,922 台 タイ :1,099 台と続いている 図表 8 カザフスタンモデル別新車販売台数 ( 単位台 ) ブランド名 2014 増減率台数 (%) LADAプリオラ 15,382 ±0 LADAグランタ 12,006 2 現代アクセント 10,113 3 起亜リオ 8,290 3 LADAラルグス 6,881 3 大宇ジェントラ 5,009 - LADAカリーナ 4,731 37 大宇ネクシア 4,635 5 ルノー ダスター 4,558 2 LADA4 4 3,895 5 VWポロ 3,375 6 シュコダ ラピッド 3,333 12 シボレー NIVA 3,260 1 起亜スポーテージ 3,223 8 トヨタ カムリ 3,071 5 シボレー クルーズ 2,733 7 トヨタ ランドクルーザープラド 2,339 1 LADAサマラ 2,256 16 起亜セラト 2,205 ±0 現代エラントラ 1,808 5 * 大宇ジェントラは 2014 年より販売開始 ( 出所 ) カザフスタン自動車ビジネス協会 主要都市別販売状況 2014 年に新車乗用車の販売台数が最も多かった都市はアルマトィで 全体の約 25% に相当する約 38,000 台が売れた 同市で最もよく売れたモデルは 現代のアクセントで 販売台数は約 3,000 台に達した 以下 LADAプリオラ : 約 1,800 台 起亜リオ : 約 1,700 台 LADAグランタ : 約 1,500 台 VWポロ : 27
特集 ウクライナ危機後の NIS 経済 約 1,300 台と続いている 日本車では トヨタ カムリ トヨタ ランドクルーザープラド 日産アルメーラ トヨタ カローラ 日産キャシュカイ 日産ジューク トヨタ ランドクルーザー 200 トヨタRAV4の人気が高く 同市のランキングの20 位以内に入っている 2 番目に販売台数が多かったのはアスタナで 市場規模はほぼ前年並みの2 万 6,238 台であった 人気の高いモデルはアルマトィとほぼ同じで 1 位 : 現代アクセント (1,866 台 ) 2 位 : 起亜リオ (1,827 台 ) 3 位 :LADAプリオラ (1,720) 4 位 :LADAグランタ(1,328 台 ) 5 位 : ルノー ダスター (1,186 台 ) など 3 番目に販売台数が多かったのはアティラウで 前年比 9% 減の1 万 893 台の販売を記録した 同市でもやはりLADAのプリオラとグランタの人気が高くなっており 1 位と2 位を占めた ( 販売台数は順に1,373 台と1,273 台 ) 以下 起亜リオ (895 台 ) 現代アクセント(741 台 ) LADAラルグス (586 台 ) と続いている 4 番目に販売台数が多かった都市はシムケントであったが (2014 年の新車乗用車の販売台数は9,561 台 ) 同市で最も人気が高かったモデルは大宇のネクシアで1,405 台の販売を記録した 以下 LADAプリオラ (1,389 台 ) 大宇ジェントラ (1,285 台 ) 現代アクセント(822 台 ) LADAグランタ (464 台 ) と続いている (2) 生産の状況現在カザフスタンではアジア アフト アグロマシホールディング サリアルカ アフトプロムの3 社が乗用車の現地生産を行っているが それら3 社の概要は以下の通りとなっている アジア アフトカザフスタン最大の自動車販売会社であるBIPEK-Avto 傘下のメーカーで 2002 年よりウスチカメノゴルスク市に所在す る設計生産能力 4 万 5,000 台 / 年の工場で現地生産を開始した 当初はLADAの1モデル (4 4) だけを生産していたが その後生産モデルを大幅に増やし 2014 年の段階では4 4の他に 起亜の13モデル ( ソレント セラト スポーテージ等 ) シボレーの6モデル( キャプティバ アベオ クルーズ等 ) シュコダの4モデル ( ラピッド オクタヴィア イエティ等 ) をSKD 方式で生産していた アジア アフトの年間生産台数に占める各ブランドのシェアは 起亜 :41.0% シュコダ:22.3% シボレー: 22.2% LADA:14.5% となっている (2014 年時点 ) 生産台数の方は 2007 年 :6,000 台強 2009 年 : 1,000 台弱 2010 年 :3,099 台 2011 年 :7,326 台と伸び悩んでいたが 2012 年は市場の急激な拡大という追い風を受け前年比 125.4% 増の1 万 6,513 台を記録することに成功した 2013 年も急激な拡大フェーズが続き 生産台数は前年比 87.8% 増の3 万 1,005 台に達したが 2014 年はシボレー車とLADA 車の生産が不振であったことが響き 前年比 7.1% 減の2 万 8,803 台にとどまった アジア アフトは現時点ではSKD 方式での生産しか行っていないが CKD 方式での生産への移行を視野に入れ 戦略的パートナーである AvtoVAZ およびカザフスタンの政府系企業 Eptic と共同で プレス 塗装 溶接の各ラインを装備した新工場の建設プロジェクトに取り組んでいる 1 期工事は2017 年に完成し 年産 6 万台規模でLADAのベスタとXRAYなどの生産が開始される予定となっている さらに 2020 年ごろには2 期工事が完成し 生産能力が 12 万台 / 年に達する見込みとなっている 2 期工事の完成後に生産モデルを増やすことが検討されており ルノーおよび日産のモデルが生産される可能性もあるとされている 新工場で生産される車はカザフスタン国内で販売され 28
Research Report る他 ロシアのシベリア地方や他の中央アジア諸国等に輸出される見込みとなっている 現在の計画では 2020 年時点で生産される12 万台のうち半分以上がロシアに輸出される予定となっている ( 国内市場への供給量は4~5 万台程度になる見込み ) なお アジア アフトは2010 年 6 月に工業アセンブリ措置に関する協定をカザフスタン政府との間で締結しており (auto.gazeta.kz 2010.6.29) 上記の新工場建設プロジェクトは同措置の適用を受けた上で実施される予定となっている 当該の協定ではローカルコンテンツ30% の達成が義務付けられているので 新工場の周辺に複数の部品工場が建設され 2017 年ころより生産が開始される見込みs アグロマシホールディング 2009 年 12 月に アグロマシホールディング カザフスタン社 自動車販売会社 Allur Auto および 韓国の自動車メーカー 双竜 の 3 社は アグロマシホールディングが保有するコスタナイのディーゼル エンジン工場に1,600 万ドル以上を投下して年間生産能力 2 万 5,000 台の乗用車組立ラインを設置し 双竜のSUV4モデル (Kyron Acyton Acyton Sports Rexton) のSKD 方式の生産を開始するという計画を発表した ( エクスペルト カザフスタン 誌 2011.1.31) そして 2010 年 8 月より試験生産が開始され 年末までに合計で77 台の双竜車が組立てられた 当初の計画では2011 年には 約 1,500 台が生産されることになっていたが 実際の生産台数は 869 台にとどまった 2012 年からは 双竜車の他にウクライナのZAZチャンスのSKD 方式での生産も開始され 同年の生産台数は2,581 台に達した さらに 2013 年は春からZAZ VIDA の生産が 夏からプジョーの複数のモデル (301 3008 508 等 ) の生産がそれぞれSKD 方式で開始され ZAZ 双竜 プジョーの3ブランド合 計で前年の倍以上の6,464 台生産された 2014 年の生産台数については情報を入手できなかったが 夏にZAZ 車の生産が中止されたことが影響し 前年の数字を下回った可能性が高い アグロマシホールディングは政情不安が続くウクライナのZAZのモデルのかわりに 中国のGeelyの5モデルの生産を開始することを 2014 年秋に発表し 現時点ではSKD 方式でそれらのモデルの生産を行っているが 早ければ 2015 年秋にもCKD 方式での生産に移行する予定となっている サリアルカ アフトプロム日本のトヨタは 2013 年 2 月に コスタナイのサリアルカ アフトプロム ( 上記のコスタナイ自動車工場の主要株主であるAllur Autoと政府系企業であるサリアルカの合弁企業 ) で2014 年春からSUV フォーチュナー のCKD 方式での生産を開始するという計画を発表した 生産は2014 年 6 月より開始されているが ( 工場の生産能力は3,000 台 / 年 ) 生産されるフォーチュナーは当面すべてカザフスタン国内で販売される予定となっている 4. ウズベキスタン (1) 生産の状況ウズベキスタン唯一の乗用車メーカーであるGMウズベキスタンは 1996 年にウズベキスタンの ウズアフトサノアト ( ウズベキスタン自動車協会 ) と韓国の大宇自動車の対等出資で設立された ( 当時の名称はUZ-Daewoo) 大宇破綻後はウズアフトサノアトが大宇側のシェアを買い取り株式の100% を保有していたが 2007 年末にGMがそのうちの25% を買い取るという形で新会社 GMウズベキスタン が設立され現在に至っている GMウズベキスタンの自動車組立工場 ( 年間生産能力 25 万台 ) はア 29
特集 ウクライナ危機後の NIS 経済 クサイ市に所在するが その周辺には合弁の部品工場が20 以上存在し 組立工場に部品を供給している モデルによりローカルコンテンツの値は異なるが 一部のモデルでは6~8 割程度に達している 残りの部品は輸入されているが その多くにつき特恵的な輸入関税率が適用されている GMウズベキスタンの生産台数は2003 年までは3~5 万台前後で推移していたが 2004 年以降に生産台数が急激に増加し始め 2009 年にはついに年産 20 万台を突破した その後も高い生産水準が維持されており 2014 年にはほぼ前年並みの24 万 5,660 台が生産された 生産されるモデルの数も年々増加しており2014 年には合計で9モデルが生産されたが (6モデルが CKD 方式で 3モデルがSKD 方式で生産されている ) 最も生産台数が多かったのはコバルトで その値は6 万 1,189 台に達した 以下 ネクシア :5 万 8,751 台 ラセッティ ( ジェントラ ):4 万 6,734 台 スパーク :2 万 9,226 台 ダマス :2 万 790 台 マチス :1 万 8,377 台となっている ( いずれもCKD 方式の生産 ) その他 エピカ キャプティバ マリブの3モデルが合計で1 万 593 台 SKD 方式で生産された (2) 輸出の状況ウズベキスタン政府はGMウズベキスタンの自動車を貴重な外貨獲得源と位置付けており 国内販売よりも輸出を重視している ( 輸出の約 8 割はロシア向け ) その関係で GMウズベキスタンで生産されるモデルの輸出価格は国内価格よりも低く設定されている たとえば 2014 年 3 月時点でのネクシアのロシアでの販売価格は約 8,000ドル~となっていたが 国内価格の方は2013 年末時点で1 万 7,000ドル近くに達していた また マチスもロシアでの販売価格が7,000ドル~であるのに対し 国内での販売価格は1 万 800ドルに達していた ただ 破格の安値にもかかわらず GMウズベキスタンのモデルの外国市場での人気は低迷し始めており 2014 年の輸出台数は前年比 39.2% 減の5 万 5,207 台にとどまった (ASMホールディング発表の数字 ) 主力モデル別の状況を見ると 陳腐化の傾向が顕著であるマチスの落ち込みが最も大きく 輸出台数は前年比 61.8% 減の7,735 台にとどまった また 同様に陳腐化の傾向が強いネクシアの輸出も不振で 前年比 55.4% 減の1 万 3,712 台となった さらに 2012 年に生産が開始されたばかりのコバルトの輸出も早くも不振に陥っており 2014 年の輸出台数は前年比 61.6% 減の9,904 台にとどまった 主力モデルの中で唯一輸出が好調だったのは新型ラセッティで ( 外国ではジェントラというモデル名で販売されている ) 輸出台数は前年比 138.5% 増の2 万 2,903 台に達した (3) 国内市場の状況ウズベキスタンではGMウズベキスタンを保護するために極端に高い輸入関税率が導入されている 排気量 2,000ccの新車を例にとれば 関税額は通関価格の20%+1cc 当たり2ドルに設定されている ( ドル建て部分の値は排気量により異なっており 最大で3ドル /ccに達する ) その他 物品税 付加価値税 通関手数料を支払う必要があり 実質の関税率は 100% を超えてしまう 中古車にも同様の関税が課せられることになっており ( 中古車の関税率は30%+1cc 当たり3ドル ) いわゆる 遠い外国 製の乗用車を輸入することは極めて困難となっている 政府間協定に従い ロシアの LADAの車だけは無関税で輸入できることになっているが ( ロシア製の外国ブランド車は高い輸入関税率の対象となっている模様 ) LADAの輸入業者による決済用の外貨購入額を制限するといった措置をウズベキスタン政府が講じている関係で LADA 車の輸入も少量 30
Research Report にとどまっている その他 輸入車に関しては 国産車と比較して車検が通り難いという噂も存在する 以上のような事情が存在するため 同国の新車市場における輸入車 ( その大半がLADA 車 ) のシェアは5~6% 程度で 残りはすべてGM ウズベキスタン社の車により占められている ASMホールディングのデータによれば 2014 年のGMウズベキスタンの国内販売台数は16 万 5,172 台とされているが その数字を信じれば 同年のウズベキスタンの新車市場の規模は 17 万台強だったということになる しかし ウズベキスタンの新車乗用車に対する実際の需要はそれよりも大きく GMウズベキスタン製の新車を購入するには通常 1 年もしくはそれ以上待つ必要があるといわれている また 順番待ちをせずに新車を購入したければ 販売店に対し 追加料金 を支払う必要があるといわれている 11) もっとも 追加料金 を支払っても多少は待たされるので それよりも急ぐ客は中古車市場で1~2 年落ちの中古車を購入することが多くなっている このため ウズベキスタンでは1~2 年落ちの中古車の価格が新車の正規販売価格 ( 追加料金 を考慮しない価格 ) を上回ることが珍しくないといわれている もっとも 2014 年後半ごろから 以上のような状況に変化がみられるようになっている GMウズベキスタンのモデルの外国市場での販売が不振なため 国内市場に供給される同社の新車の台数が増加傾向にあることや 以前と比較すると新車に対する需要が減少していることなどもあって 新車の順番待ちの期間がかなり顕著に短縮されつつあるのだ その結果 中古車の価格も下落傾向にあり 新車価格を上回るケースはほとんどなくなっているといわれている ちなみに ウズベキスタンでは新車の購入規 則も特異なものとなっており GMウズベキスタン製の新車を購入する際には 原則的に 銀行に決済用の口座を開設し販売価格の85% に相当する資金を振り込むことが必要となっている その約 1 年後に新車を獲得できるわけだが その間に新車価格が上昇した場合は その分を追加で当該の口座に振り込むことが必要となっている おわりに一時急激な伸びを示し日本企業にも注目されていたウクライナ市場だが リーマンショック以降 市場規模の縮小傾向に歯止めがかかっておらず 2014 年の新車販売台数はついに10 万の大台を割ってしまった 政情不安を背景とする販売不振からの脱却の兆しは全く見えておらず 2015 年も市場の縮小傾向が続くのは確実とみられている 政情不安が長期化するようなことがあれば ウクライナの乗用車市場ならびに自動車産業は文字通り壊滅的な打撃を受けることになるかもしれない そのような状況であるから 少なくとも当面はウクライナ市場に多くを期待することはできないであろう 幸い今のところ中高価格帯のモデルの販売は比較的安定しているので 日本メーカーの場合は そのブランド力を活かし利幅の大きな中高価格帯のモデルを少量であっても確実に販売するという戦略をとることが最適な対応策となるかもしれない ベラルーシの乗用車市場は安定しているものの市場規模は3 万台未満と小さく 同国の経済状況を勘案すると 今後 劇的に拡大する可能性も低い したがって 日本メーカーの同市場への関心は全般的に低いと判断されるが 関税同盟に加盟している国なので ロシアで現地生産しているモデルの販売先として一応視野にいれておくべきであろう その他 もし BelGeの現地生産プロジェクトが成功すれば 31
特集 ウクライナ危機後の NIS 経済 ロシアの低価格車市場にも影響が及ぶ可能性があるので 当該プロジェクトの動向にも注目する必要があるだろう カザフスタンの2014 年の新車販売台数は16 万台以上に達したが これは 旧ソ連諸国の中ではロシアに次ぐ事実上 2 番目の数字である ( ウズベキスタン市場は特殊すぎて比較の対象とはなり難い ) 同国も産油国であるため経済状況が悪化しており 2015 年は市場規模がかなり大幅に縮小する可能性が高いとみられているが ウクライナの凋落振りが著しいので 恐らく 今後も旧ソ連諸国第 2 位の座は維持し続けるであろう ただ カザフスタンの石油生産量が伸び悩んでいることを勘案すると 油価が回復し高値で安定するという状況が再現されない限り 同国市場がかつてのような勢いを取り戻す可能性は低いと判断される その他 同国市場に関し筆者が注目しているのは 今のところ24% にとどまっているSUVの市場シェアが今後どの程度伸びるのかという点である カザフスタンの人々の購買力が上昇し 中高価格帯のSUVの市場でのプレゼンスが強まれば 同国市場の日本メーカーにとっての魅力はさらに高まることになるであろう ウズベキスタンの自動車市場は非常に特殊なので 現時点では日本メーカーにとっての魅力は乏しいといえるが 同国は人口が多く潜在的なポテンシャルが大きな市場であるし 正常化の兆しもわずかとはいえ見え始めているので その動向を注意深くウォッチする必要があるのではなかろうか 注 1)ASM ホールディング以外の調査機関も乗用車の販売台数の数字を発表しているが それらの数字の間には微妙な差異が存在する たとえば ウクライナの調査機関 Autoconsulting によれば 2014 年の新車市場の規模は前年比 54% 減の 9 万 2,400 台だったとされている 2) この特別関税の導入は 輸入車の価格の高騰という現象の他 課税対象から外されたディーゼル車のプレゼンスの強化という現象も生んだ 調査会社 Autoconsulting によれば 2013 年 3 月の時点で 14% 程度であったディーゼル車の市場シェアが 6 月には 20% を超え さらに 2014 年上半期には 30% 近くに達した ちなみに ディーゼル車の他に 排気量 1,000cc 未満の車と 2,200cc を超える車も特別関税の対象外となったが 該当するモデルの販売台数が顕著に伸びることはなかった 3)ZAZ チャンスは センスの輸出仕様車である 4) 自動車部品生産部門 ( ウクルアフトザプチャスチという会社が統括 ) 農業部門 ( アグロプロドインヴェスト社が統括 ) 造船 機械製造部門 ( レーニンスカヤ クズニャ社が統括 ) 製菓部門 (ROSHEN 社が統括 ) 等で構成されている 5) すなわち それまで車の小売価格と卸売価格の差額分 ( つまり 小売店の利益分 ) だけが付加価値税 ( 税率は 20%) の課税対象となっていたものが 車の小売価格全体が課税対象になった その結果 車購入時の消費者の負担額は 16~ 20% 増加した 6) 多くのディーラーが この 3 万 3,000~3 万 5,000 台という強気の市場予測を信じ仕入れを行ったため 2015 年初頭時点での 2014 年製の車の在庫はベラルーシ全体で 1 万台を超えていた 7) フォード ユニオンでは 1997 年春よりフォード トランジットとエスコートの生産が開始されたが 販売の伸び悩みなどもあり 2001 年にフォードはこのプロジェクトから撤退した 8) カザフスタン中央銀行は 2014 年 2 月 11 日に 自国通貨テンゲの対ドル為替レートを 10 日時点より約 20% 安い 1 ドル = 約 185 テンゲに切り下げると発表した 9) その他 ロシアのマンションやアパートを購入するカザフスタン人も多かったといわれている これは 本来であればカザフスタンの自動車市場に投下されたかもしれない資金が ロシアの不動産市場に流出したことを意味し カザフスタンの自動車市場に否定的影響を及ぼした可能性が考えられる 10)3 位以下の顔ぶれは 起亜 :4 億 2,285 万ドル 現代 :2 億 9,713 万ドル シボレー :2 億 4,438 万ドル 日産 :1 億 7,305 万ドル ルノー :1 億 4,643 万ドル GAZ:1 億 2,830 万ドル シュコダ :1 億 2,046 万ドル 大宇 :1 億 1,742 万ドルとなっている 11) ウズベキスタンの自動車販売店のマージンは平均で 2% 程度にすぎないが この 追加料金 のおかげでどの販売店も巨額の利益をあげているといわれている 32