金融庁の税制改正要望について(1)

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公共債の税金について Q 公共債の利子に対する税金はどのようになっていますか? 平成 28 年 1 月 1 日以後に個人のお客様が支払いを受ける国債や地方債などの特定公社債 ( 注 1) の利子については 申告分離課税の対象となります なお 利子の支払いを受ける際に源泉徴収 ( 注 2) された税金

1 各調整方式の比較 前提 : 法人実効税率 % 金融所得の税率 20% ( 配当軽課の場合の配当分の法人税率は 30%) 比較のポイント 適用税率 法人税率か所得税率か 金融所得課税一元化にマッチするか( 税率 損益通算 ) 簡素な制度か 特定口座への対応はか 法人の税負担は軽減されるか

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[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

iii. 源泉徴収選択口座への受入れ源泉徴収ありを選択した特定口座 ( 以下 源泉徴収選択口座 といいます ) が開設されている金融商品取引業者等 ( 証券会社等 ) に対して 源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書 を提出することにより 上場株式等の配当等を源泉徴収選択口座に受け入れることができま

(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

経 [2] 証券投資信託の償還 解約等の取扱い 平成 20 年度税制改正によって 株式投資信託等の終了 一部の解約等により交付を受ける金銭の額 ( 公募株式投資信託等は全額 公募株式投資信託等以外は一定の金額 ) は 譲渡所得等に係る収入金額とみなすこととされてきました これが平成 25 年度税制改

(ⅲ) 源泉徴収選択口座への受入れ 源泉徴収ありを選択した特定口座 ( 以下 源泉徴収選択口座 といいます ) が開設されている金融商品取引業者等 ( 証券会社等 ) に対して 源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書 を提出することにより 上場株式等の配当等を源泉徴収選択口座に受け入れることができま

6 課税上の取扱い日本の居住者又は日本法人である投資主及び投資法人に関する課税上の一般的な取扱いは 下記のとおりです なお 税法等の改正 税務当局等による解釈 運用の変更により 以下の内容は変更されることがあります また 個々の投資主の固有の事情によっては異なる取扱いが行われることがあります (1)

1 1. 課税の非対称性 問題 1 年をまたぐ同一の金融商品 ( 区分 ) 内の譲渡損益を通算できない問題 問題 2 同一商品で 異なる所得区分から損失を控除できない問題 問題 3 異なる金融商品間 および他の所得間で損失を控除できない問題

投資法人の資本の払戻 し直前の税務上の資本 金等の額 投資法人の資本の払戻し 直前の発行済投資口総数 投資法人の資本の払戻し総額 * 一定割合 = 投資法人の税務上の前期末純資産価額 ( 注 3) ( 小数第 3 位未満を切上げ ) ( 注 2) 譲渡収入の金額 = 資本の払戻し額 -みなし配当金額

1 どちらかをご選択特定口座と客さま般口座の特定口座の概要 特定口座とは 個人のお客さまが公募株式投資信託を換金され利益が出た場合は 原則 確定申告が必要ですが お客さまの確定申告にかかる負担を軽減させるべく当金庫が納税の代行などを行う制度として 特定口座 があります 特定口座 をご利用いただくこと

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1: とは 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの ( 青色事業専従者等に該当する者を除く ) のうち 合計所得金額 ( 2) が 38 万円以下である者 2: 合計所得金額とは 総所得金額 ( 3) と分離短期譲渡所得 分離長期譲渡所得 申告分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額 申告分

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2. 改正の趣旨 背景給与所得控除 公的年金等控除から基礎控除へ 10 万円シフトすることにより 配偶者控除等の所得控除について 控除対象となる配偶者や扶養親族の適用範囲に影響を及ぼさないようにするため 各種所得控除の基準となる配偶者や扶養親族の合計所得金額が調整される 具体的には 配偶者控除 配偶

特定口座一般口座株式等の譲渡 売却などが該当 ) による所得は 申告分離課税の対象となっており 原則として お客さまによる譲渡損益の計算や申告納税の手続きが必要です 特定口座には これらの事務負担を軽減する機能があります 特定口座の機能 上場株式等の譲渡損益の計算 管理を行います 特定口座内に保管す

49 年 12 月 31 日までの間 源泉徴収される配当等の額に係るの額に対して 2.1% の税率により復興 特別が源泉徴収されます b. 出資等減少分配に係る税務個人投資主が本投資法人から受取る利益を超える金銭の分配 ( 分割型分割及び株式分配並びに組織変更による場合を除く 以下本 1において同じ

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2 2 上場株式等 の範囲の拡大 上場株式等には 上場株式 上場投資信託の受益権 (ETF) 上場不動産投資法人の投資口 (REIT) 公募株式等証券投資信託の受益権が含まれていた 今回の租税特別措置法の改正により 発行者の情報が一般に公開され その商品内容を入手することが容易に可能な公社債を 上場

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概要 平成 27 年までと平成 28 年以後の証券税制の比較 平成 27 年までは 上場株式等 と 公社債等 の税制上の取扱いが異なっています 平成 28 年以後は 金融所得課税の一体化 により 上場株式等 と 公社債等 の税制上の取扱いが統一されます 平成 27 年まで 上場株式等 上場株式 公募


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~ この操作の手引きをご利用になる前に ~ この操作の手引きでは 確定申告書の作成方法を説明しています 操作を始める前に 以下の内容をご確認ください 共通の操作の手引きの確認入力方法やデータ保存 読込方法などを説明した ( 共通 )e-tax で送信するための準備編 又は ( 共通 ) 書面提出 (

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投資主が受け取る配当等の額については 原則どおり配当等の額を受け取る際に20%( 所得税 )( 平成 25 年 1 月 1 日から平成 49 年 12 月 31 日までは復興特別所得税とあわせて20.42%) の税率により源泉徴収された後 総合課税の対象となります ( ロ ) 出資等減少分配に係る税

費用並びに当該一般事務受託者 当該資産保管会社及び当該資産運用会社が立て替えた立替金の遅延利息又は損害金の請求があった場合は かかる遅延利息又は損害金を負担します 前記に加え 本投資法人は 原則として以下に掲げる費用を負担するものとし その詳細については 当該一般事務受託者 当該資産保管会社又は当該

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( 注 3) 大口個人投資主 ( 配当基準日において発行済投資口総数の 3% 以上を保有 ) が 1 回に受け取る配当金額が 5 万円超 (6 か月決算換算 ) の場合には 必ず総合課税による確定申告を行う必要があります ( この場合には申告分離課税は 選択できません ) c. 源泉徴収選択口座への

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( 注 3) その他の少額上場株式等の非課税口座制度の詳細については 証券会社等の金融商品取引業者等にお問い合わせ下さ い b. 利益を超える金銭の分配に係る税務個人投資主が本投資法人から受取る利益を超える金銭の分配 ( 平成 27 年 4 月 1 日以後開始事業年度に係る利益を超える金銭の分配につ

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土地建物等の譲渡損失は 同じ年の他の土地建物等の譲渡益から差し引くことができます 差し引き後に残った譲渡益については 下記の < 計算式 2> の計算を行います なお 譲渡益から引ききれずに残ってしまった譲渡損失は 原則として 土地建物等の譲渡所得以外のその年の所得から差し引くこと ( 損益通算 )

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以下本人の給与収入速報 平成 29 年度税制改正解説所得課税 ~ 配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し 2 配偶者の給与収入が 万円超 15 万円以下の場合の改正案の控除額及び改正前後の影響について 配偶者特別控除 配偶者の給与収入 万円超 15 万円 15 万円以上 11 万円 11 万円以上 1

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Legal and Tax Report 2008 年 8 月 29 日全 7 頁金融庁の税制改正要望について (1) 少額投資非課税制度 高齢者非課税制度の導入を提案 制度調査部吉井一洋 [ 要約 ] 2008 年 8 月 29 日に 金融庁は平成 21 年度税制改正要望を公表した 要望の柱は 日本版 ISA( 少額投資非課税制度 ) と高齢者非課税制度の導入である これらは投資を促進する効果は期待できる ただし 前者については導入に時間がかかると思われる 後者は限度額を超過した場合に申告事務が生じることや国民健康保険料等の増加につながるという点を解決することはできない また 新証券税制の簡素化にはつながらない 10% 税率の限度額を撤廃して申告不要の制度を 2009 年 2010 年においても維持し その間に 一体化や配当二重課税の調整を念頭に税制改正の議論をすすめることも視野に入れるべきではないかと思われる 1. 金融庁の税制改正要望の概略 2008 年 8 月 29 日に金融庁は 平成 21 年度税制改正の要望を公表した 要望の中心は下記の二点である 日本版 ISA( 小口の継続的長期投資非課税制度 ) 英国のISA(Individual Savings Account) を参考に 年間拠出額 100 万円までの株式 株式投資信託について配当 分配金を非課税とする 拠出期間は 10 年間 ( 拠出限度額累計は 1,000 万円 ) とする 高齢者投資非課税制度の導入 高齢者の上場株式等の配当について年間 100 万円を非課税 譲渡益について年間 500 万円まで非課税とする 上記の非課税措置は 少なくとも 2009 年 2010 年の 2 年間は継続する 限度額までの金額については 国民健康保険料等の計算のベースに含めないこととする 源泉徴収は 10% のままで 限度額以下の投資家は確定申告により還付を受ける方法を想定している模様である 2.2008 年度税制改正で導入された新証券税制の問題点 2008 年 4 月 30 日に成立した 2008 年税制改正法 ( 所得税法等の一部を改正する法律 地方税法等の一部を改正する法律 等 ) により 2009 年以降導入される新証券税制の概要は 6 ページ図表 5 7 ページ図表 6 のとおりである 新証券税制は配当 譲渡益の税率について原則 20% とし 平成 21 年 22 年に限り 配当については年間 100 万円 譲渡益は年間 500 万円まで 10% 税率を維持するというもので 株式会社大和総研八重洲オフィス 104-0031 東京都中央区京橋一丁目 2 番 1 号大和八重洲ビルこのレポートは 投資の参考となる情報提供を目的としたもので 投資勧誘を意図するものではありません 投資の決定はご自身の判断と責任でなされますようお願い申し上げます 記載された意見や予測等は作成時点のものであり 正確性 完全性を保証するものではなく 今後予告なく変更されることがあります 内容に関する一切の権利は大和総研にあります 事前の了承なく複製または転送等を行わないようお願いします 本レポートご利用に際しては 最終ページの記載もご覧ください 株式レーティング記号は 今後 6ヶ月程度のパフォーマンスがTOPIXの騰落率と比べて 1=15% 以上上回る 2=5%~15% 上回る 3=±5% 未満 4=5%~15% 下回る 5=15% 以上下回る と判断したものです

2 / 7 ある 限度額は 1 口座ではなく 全ての口座を対象としている したがって 全ての口座を合算して 100 万円 500 万円という限度額を超えないか見る必要がある 源泉徴収税率は 10% なので 限度額を超えた場合 不足分を確定申告により納付する必要がある その際には 限度額とは異なる課税配当金額 課税譲渡所得を計算して 超過部分のみ 20% の税率を適用して税額を算出する 配当 譲渡益 図表 1 2008 年の証券税制と 2009 年 2010 年の新証券税制の比較 2008 年 2009 年 2010 年 10% 源泉徴収で納税完了 年間受取配当等が 100 万円超なら ( 申告不要 ) 確定申告で追加納税が必要 ( 申告事務の発生 ) 課税配当所得が 100 万円以下の部分は税率 10% 100 万円超の部分は税率 20% 10% 源泉徴収で納税完了 年間譲渡所得等が 500 万円超なら ( 源泉徴収口座の場合 ) 確定申告で追加納税が必要 ( 申告事務の発生 ) 課税譲渡所得が 500 万円以下の部分は税率 10% 500 万円超の部分は税率 20% 特定口座年間取引報告書 特定口座年間取引報告書の提出必須に の税務当局への提出不要 この税制に関しては 次のような点が問題となっている 1 仕組みが非常に複雑で 個人投資家は理解できないし 証券会社の営業員も十分な説明はできない 2100 万円 500 万円の限度額を超過した場合に 確定申告が必要となり 税負担が増加する以外に 以下の問題が生じる 個人投資家本人による限度額管理 ( 複数の口座の合算 ) が必要となる 制度を十分に理解していないため 限度額を超過しても申告せず 意識しないままに脱税してしまっているような個人投資家が増加する可能性がある 確定申告により合計所得金額が増加し 個人投資家が意識していなかった負担増が生じてしまう 配偶者控除( 1) 扶養控除( 2) 住宅ローン控除( 3) の適用が受けられなくなる可能性がある 国民健康保険料 後期高齢者医療制度の保険料が増加する( 4) 1 配偶者の合計所得金額が 38 万円超の場合適用不可 2 扶養親族の合計所得金額が 38 万円超の場合は適用不可 3 合計所得金額 3,000 万円超の年は適用不可 4 詳細は 新証券税制による税 社会保険料の負担増の試算 (2008 年 8 月 21 日是枝俊吾 ) 参照 例えば 国民健康保険料の場合 地方自治体ごとに計算方法が異なる 確定申告した所得をベースに保険料を算出する自治体 (A 方式 ) や 申告所得に基づき算出した住民税額をベースに保険料を算出する自治体 (B 方式 ) の場合は 配当や譲渡益を確定申告することにより保険料が増加する 配当が 100 万円を超えた場合の増え方を見ると図表のように急増する

3 / 7 図表 2 年間配当と国民健康保険料 70 60 国徳島市 (A 方式 ) 保東京 23 区 (B 方式 ) 50 横浜市 (C 方式 ) 年間 40 保険 30 料(万 20 円)10 0 0 50 100 150 200 250 300 350 400 年間配当 ( 万円 ) 詳細は 新証券税制による税 社会保険料の負担増の試算 (2008 年 8 月 21 日是枝俊吾 ) 参照 3. 金融庁提案による影響 (1) 高齢者投資非課税制度の導入 高齢者に対する配当年 100 万円 譲渡益年 500 万円の非課税措置は 貯蓄から株式や投資信託への資金シフトを促すという観点からは望ましいが 限度額超過などにより確定申告が必要となった場合に 申告事務負担や社会保険料が増加するという問題点を完全に解消することはできない 新証券税制の複雑さを緩和することもできない 金融庁では 10% で源泉徴収し 非課税の適用を受ける場合には申告により還付する方法を考えている模様である 国民健康保険料等の増加問題に対応するために 限度額までの金額については 国民健康保険料等の計算のベースに含めないこととしている この案では 限度額を超えようが超えまいが申告事務負担が生じる 限度額を超過した場合には 想定していなかった国民健康保険料等が増加するという問題も残る 申告事務負担が生じ 想定外の国民健康保険料等の負担が増加するという新証券税制の問題点は解決できないし 新証券税制の簡素化にはつながらない 新証券税制を一旦棚上げにし 2 年間 ( あるいは1 年間 ) は限度額無しに 10% 税率を適用して申告不要とした上で その間に 今後の税制のあり方を検討していくことも考える必要があるのではないか

4 / 7 (2) 日本版 ISA( 小口の継続的長期投資非課税制度 ) 小口の投資非課税制度として 日本版 ISAのような拠出額をベースに非課税枠を設定する方法による場合 次のような理由から導入に時間がかかる可能性が高い 日本版 401(k) など 拠出額で管理している既存の年金型貯蓄との整理統合が問題となる可能性があること 配当や譲渡益というフローの所得で限度額を設定する高齢者投資非課税制度とは別の仕組みの限度額管理システムが必要となること ISA 口座で出し入れした場合の限度額の取扱いも問題となる 50 万円拠出して 10 万円引き出した後に 60 万円預け入れた場合 ネットでは 100 万円預け入れたことになるが 制度の趣旨から言えば後から預け入れた 60 万円のうち非課税扱いとなるのは 50 万円になると思われる 複数の証券会社や銀行等で口座を開設して限度額を管理することは困難で基本的に1 人 1 口座となり 顧客の囲い込みにつながるおそれもある 金融庁の案では 非課税とする対象を配当に限定しているが 譲渡益も非課税とすべきである 同じ株式から生じる所得のうち配当は非課税 譲渡益は課税としたのでは 仕組みが複雑になり 使い勝手が悪くなる ISA 口座で譲渡損が生じた場合 譲渡損を非課税の配当から控除したのでは 投資家にとって不利になり 他の口座の譲渡益との損益通算が必要になる 限度額の累計が 1000 万円というのも少ない 定年退職後 20 年から 25 年 ゆとりのある生活をすることを考えれば 2000 万円程度の金融資産は欲しい 少額投資非課税制度としては 専用の非課税特定口座を設け 申告が不要な形にするのが望まれる 限度額は拠出額ではなく 高齢者投資優遇制度の管理方法との整合性を考え 当該口座の運用益について年間 50 万円 あるいは 100 万円まで非課税とし 超過額について源泉徴収で納税を完了する制度にした方が 導入に時間もかからないし 申告事務負担増や社会保険料の増加を防ぐことができるのではないかと思われる 図表 3 非課税専用口座イメージ図 A 金融機関 ( 少額投資非課税口座 ) A 金融機関 ( 課税口座 ) B 金融機関 ( 課税口座 ) 投資信託 公社債 株式 運用益 50 万円 50 万円超 運用益 運用益 非課税 源泉徴収のみ 本則で課税 ( 源泉徴収あり )

5 / 7 4. 中長期的な税制の姿 中長期的には 金融所得一体化の方向で検討が行われると思われるが その際にも単に税率を 20% のそろえるだけでは中立性はとれない 配当は利子とは異なり法人段階で課税され 個人段階で課税される二重課税の問題がある 個人の段階での配当税率を 20% に引き上げると 法人 個人を含めたトータルの税率は 利子が 20% なのに対し 配当は 52% となり非常に不利になる 譲渡益も同様である 一体化の際には 非課税制度とは別に 例えば 配当 ( できれば譲渡損益も ) については2 分の 1 だけを課税対象にする等の二重課税調整措置を設ける必要がある 2 分の 1 課税と併せて支払配当への法人税率を 30% にすれば トータルの税率を 37% まで軽減できる 図表 4 利子所得に比べ二重課税で不利な株式所得 法人 個人段階の二重課税 ( 税率を 20% に揃えた場合 ) 法人課税 40% 所得課税 20% トータルの税率手取り 利子 100 0 ( 損金算入 ) 20 (100 20%) 20% 80 配当 100 40 (100 40%) 12 (60 20%) 52% 48 参考内部留保 100 40 (100 40%) 12 ( 譲渡益課税 ) (60 20%) 52% 48

6 / 7 図表 5 上場株式等の配当等の課税方法 税率 (2008 年度改正税法 ) 2009 年 2010 年 2011 年以降 源泉徴収税率 10% 1 20% 2 年間受取配当が 100 3 万円以下の場合 4 課税方法は以下の選択 申告不要( 実質 10% 1 源泉分離課税 ) 申告分離課税( 税率 10% 1 ) 総合課税( 累進税率 ) 6 課税方法は以下の選択 申告不要( 実質 20% 2 源泉分離課税 ) 申告分離課税 年間受取配当が 100 3 万円超の場合 5 課税方法は以下の選択 申告分離課税 総合課税( 累進税率 ) ( 税率 20% 2 ) 総合課税 ( 累進税率 ) 100 万円以下の部分申告分離課税を選択した場合の税率は 10% 1 100 万円超の部分 申告分離課税を選択した場合の税率は 20% 2 譲渡損との損益通算 申告分離課税を選択した場合にのみ可能 特定口座 7 での受取 不可 可年間受取配当 100 万円超の場 可確定申告を選択可能 合 3 は 確定申告が必要 特定口座 7 での損益通算 不可 可 ( 以下の場合は申告分離課税の選択が条件 3 年間受取配当 100 万円超 可 ( 確定申告をした場合は 申告分離課税の選択が条件 ) 年間受取配当 100 万円以下で確定申告した場合 ) 7 特定口座での損益通算後の配当に対する源泉徴収税率 - 10% 1 20% 2 配当控除 総合課税の場合にのみ可能 ( 国内上場株式等に限る ) 1 所得税 7% 個人住民税 3% 2 所得税 15% 個人住民税 5% 3 他の口座で上場株式等の配当等を受け取っている場合は これと合算した金額による 同一の支払者 からの年間の支払金額が 1 万円以下のもの 即ち 年間の支払金額が1 万円以下の銘柄等の配当等 ( 少 額配当等 ) を除く 8 ページ (4)100 万円の上限金額の考え方 を参照のこと 4 申告不要は配当等の支払ごとに選択できる 源泉徴収付の特定口座の場合は 特定口座ごとに 少額 配当等と少額配当等以外の配当の別に申告不要を選択できる 申告分離課税か総合課税かは 申告し た上場株式等の配当等全体での選択となる 5 少額配当等については申告不要の選択が可能である 6 申告不要は配当等の支払ごと ( 源泉徴収付の特定口座の場合は 特定口座ごと ) に選択できる 申告 分離課税か総合課税かは 申告した上場株式等の配当等全体での選択となる 少額配当等とそれ以外

7 / 7 の一般配当等の区分はなくなる 7 源泉徴収付の特定口座 図表 6 上場株式等の譲渡益の課税方法 税率 (2008 年度改正税法 ) 年間の譲渡益が 500 万円以下の部分 2009 年 2010 年 2011 年以降 申告分離課税 ( 税率 10% 1 ) 申告分離課税 ( 税率 20% 2 ) 年間の譲渡益が 申告分離課税 ( 税率 20% 2 ) 500 万円超の部分 譲渡損の配当との損 配当についても申告分離課税を選択した場合にのみ可能 益通算 3 年間の繰越控除可能 ( 翌年以降 3 年間の譲渡益 配当との損益通算可能 ) 特定口座 3 での配当 - 可 との損益通算 特定口座 3 の源泉徴 10% 1 20% 2 収税率 1 所得税 7% 個人住民税 3% 2 所得税 15% 個人住民税 5% 3 源泉徴収付の特定口座 ( 出所 ) 金融庁