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による虫体数の減少に起因するものではないと考えられた. 足蹠浸潤細胞を解析したところ, その殆どは好中球であり,CARD9 欠損マウスでは浸潤細胞数の著しい減少が認められた. さらに,CARD9 欠損マウスの足蹠炎症組織では, 好中球走化性因子である IL-1 や MIP-2 の発現低下が観察された. 従って,CARD9 を介する自然免疫活性化機構は, 感染初期における炎症の大きさをコントロールしていると考えられた. 以上より,CARD9 が媒介すると考えられている何らかの ITAM 受容体が, 自然免疫系による原虫の感知に関与している可能性が示唆された. 今後はこの受容体の同定を試みていく予定である. 図 1. CARD9 欠損マウスを用いたリーシュマニア感染試験. a. 野生型 (WT) および CARD9 欠損マウス (Card9 -/- ) 由来の骨髄由来樹状細胞を in vitro にて L. major 原虫に感染させ,2 日後の培養上精中の TNF-α の産生量を測定した.b.WT コントロール,CARD9 欠損マウス, および Balb/c マウスの足蹠皮下に 5x10 6 の L. major を接種し, 足蹠の腫脹をモニターした.*p<0.05, ***p<0.005 2. 自己免疫疾患における CARD9 シグナルの役割 1コラーゲン誘導性関節炎 (CIA) の発症率, スコアとも WT コントロールに比べ CARD9 欠損マウスは著しく減少し, 関節への細胞浸潤や骨破壊も殆ど起こらないことが判った ( 図 2 a-e). 2CARD9 欠損マウスは, 実験的自己免疫性脳脊髄炎 (EAE) の発症率が著しく減少し, スコア, 脱髄の状態など, 全てにおいて軽減することが判った ( 図 3 a,b). 3CARD9 欠損マウスはデキストラン硫酸ナトリウム (DSS) 投与によって誘導される大腸炎による体重減少が有意に軽減し ( 図 4 a),wt で見られる明らかな大腸の潰瘍も殆ど観察されなかった ( 図 4 b). 12に関しては,MOG ペプチドあるいはコラーゲン免疫後の所属リンパ節での Th17 の初期分化が CARD9 欠損マウスでは著しく減少することが観察され, この Th17 分化の減少が疾患の誘導に耐性となる原因である可能性が考えられた ( 図 2 f,3 c).3 に関しては, 炎症局所での IL-23 や IL-17A の産生が著しく抑えられていたことから ( 図 4 c), やはり Th17 の分化誘導不全が原因であると考えられたが, 詳細なメカニズムについては検討中である. 2

以上より,CARD9 を介するシグナル経路が自己免疫疾患の発症や病態に重要な役割を演じていることが示唆された.CARD9 の欠損はあらゆる炎症反応を抑えることから, 共通の重要な炎症促進機構に CARD9 が関わっていることが予想された. 今後 はまず, その機構が ITAM を介したものであるか否かを明らかにしていく予定である. 図 2. CARD9 欠損マウスはコラーゲン誘導関節炎 (CIA) に耐性である. TypeII コラーゲンを完全フロイントアジュバントと共に WT および CARD9 欠損マウスの皮下に接種し,3 週間後同様の免疫 (boost) をした後の関節炎の発症と病態を観察した.a.CIA の発症率.b.CIA の重症度のスコア.c.CIA 誘導後 (Day21) の足蹠腫脹の外観.d.CIA 誘導後の足蹠の病理像 (H&E 染色 )e. レントゲン写真 ( 矢印は骨破壊の顕著な部位,KO では見られない.).f. コラーゲン免疫後の所属リンパ節での Th17 分化の比較. リンパ節より CD4T 細胞を単離し,TypeII コラーゲン (CII) をパルスした WT 脾臓細胞と培養し上清中の IL-17 を測定した. 3

図 3. CARD9 欠損マウスは自己免疫性脳脊髄炎 (EAE) に耐性である. WT および CARD9 欠損マウスに MOG(myelin oligodendrocyte glycoprotein) を完全フロイントアジュバントを用いて免疫し, 百日咳毒素を投与して EAE を誘導した.a.EAE の発症率.b.EAE の重症度のスコア (0 点, 症状なし ;1 点, 尾の麻痺 ;2 点, 後肢の麻痺 ;3 点, 前後肢の麻痺 ).c.mog 免疫後 7 日目の所属リンパ節の Th17 分化の比較. リンパ節より採取した CD4T 細胞を MOG をパルスした WT 脾臓細胞で刺激し, 培養上清中の IL-17 を測定した. 4

図 4. CARD9 欠損マウスは DSS 大腸炎が軽減する. WT および CARD9 欠損マウスに 1.5% デキストラン硫酸ナトリウム (DSS) 水を給水させて潰瘍性大腸炎を誘導した. a.dss 投与後の体重変化.b.DSS 投与後 9 日目の大腸の病理写真 (H&E 染色 ).WT では見られる潰瘍が CARD9 欠損マウスでは見られない.c.DSS 投与後 9 日目の大腸から RNA を採取し,real-time PCR 法にてサイトカイン (TNFα,IL-23,IL-17) の産生を比較した.*p<0.05, ***p<0.005 考察 本研究の共同研究者は, 佐賀大学医学部分子生命科学講座生体機能制御学分野の吉田 則である. 裕樹, 中谷真子および山崎雅 文献 1) Hara, H. & Saito, T.: CARD9 versus CARMA1 in innate and adaptive immunity. Trends. in immunol., 30: 234-242, 2009. 5