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Transcription:

計測自動制御学会東北支部第 292 回研究集会 (2014.11.29) 資料番号 292-1 高速道路走行データに基づくドライバーの運転挙動の分析 Analysis of Driver Behavior Based on the Real Highway Data 山田進 *, 高橋信 *( 東北大 ) Susumu Yamada*, Makoto Takahashi* 東北大学 *Tohoku University キーワード : 高速道路走行データ (real highway data), 運転挙動モデル (Models of driver behavior), 視程 (visibility), 視覚情報 (visual information), 路面状況 (road condition) 連絡先 : 980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-11-907 東北大学大学院工学研究科技術社会システム専攻高橋研究室山田進,Tel: (022)795-7921,Fax: (022)795-7921,E-mail: susumu.yamada@most.tohoku.ac.jp -------------------------------------- 1. はじめに高速道路は地域をつなぐ重要な交通網として整備され多くの方々に利用されている 安全で定時性があり確実な移動を支える特長があるが 高速道路では 重大な事故や多くの車がかかわる多重事故などが起こることがあり 事故を防ぐための様々な対策が行われている これらの対策は主に事故発生件数に着目し 事故発生数を減少させるため 事故件数が多い区間について重点的に実施されている場合が多い このような事故発生件数に着目した対策は 一定の事故削減効果をあげているが 事故の更なる削減のためには別の視点での対策が求められている 東北地方の高速道路では 事故総件数が多い区間と 事故の発生率 ( 走行台数 距離あたり ) が高い区間は一致しておらず 車対車 あるいは道路環境のみの要因だけではないドライバーの運転挙動の側面までを含む事故要因の分析と対策が必要となっている 2. ドライバーの運転挙動モデル 2.1 研究の目的本研究は 高速道路の交通システムとしての安全性向上のため 東北道の実際の走行データと視程など道路環境の状況記録を用い 状況認識や行動を含むドライバーの認知的運転挙動のモデルを提唱し検証を行うことで 従来から行われている事故件数に基づいた 道路側の分析と対策だけではカバーしきれていない 事故要因を明確化し 安全な走行を支えるための方策につなげていくことを目的 -1-

Fig. 1 運転挙動モデル. としている 2.2 従来のドライバー認知モデル ドライバーが環境条件などをどのように認知 判断するかについては様々な認知モデルが提唱されている Wilde はリスクホメオスタシス理論 1) の中で ドライバーが運転に関して知覚するリスク水準の見積りとリスクの目標水準に基づいてリスク補償が行われると 2) 説明している Summala はゼロ-リスク理論 として ドライバーが知覚する閾値を超えた範囲でリスク補償が行われるとし 事故の要因を詳細な独立したレベルまで深め分析すべきと説明している Fuller は TCI(Task Capability Interface) モデル 3) として ドライバーは知覚する運転課題の困難度が能力を超えないように調整すると説明している 各モデルともドライバーが知覚する主観的なリス クの見積り 特に速度が重要な要素となっている これら各理論では 客観的な環境条件とドライバーの主観的なリスク見積りの関係は 統制された環境における実験に基づいて説明されており 実際の事故要因をカバーしていない領域がある可能性があり 実際的なデータを適用しモデル化する必要がある 2.3 運転挙動モデル本研究は ドライバーの基本的な処理を 状況の認知 判断 操作を基本プロセスとし 基本的な要因に適用しモデルを構成した ドライバーの認知を 実際の道路環境条件に対応付けて考えるため 他車との関係 道路線形 路面状況 -2-

Fig. 2 視覚情報と視程 走行速度の各要素に関するものとし 判断を 旅行計画 地理的な認知 交通情報に基づく巡航計画速度 道路状況にあわせた適応速度 安全停止速度の各速度基準に基づく機能に分け 再帰的な因果性のモデル記述化法 CLD(Causal Loop Diagram) 4) を用い 周囲状況 他車との関係など主として視覚情報により得られる情報については 気象 環境条件 特に視程の影響により認知できる情報量が変化するものとして Fig.1 に示すドライバーの運転挙動モデルを構成した 今回の報告では運転者の視覚情報に大きな影響を与える視程に着目し 視覚情報と速度の関係について行った検証結果について報告する 2.4 視覚情報と視程視覚情報は 目標物が存在するドライバー からの距離により 視程の影響を受けドライバーが得ることができる視覚的な情報量が変化する Fig.2に示すように 視程の低下に伴って まず 遠景など地理的な状況理解につながる巡航計画速度に関する視覚情報が減少する さらに視程が低下すると 安定した走行を保つための道路線形などの適応速度に関する視覚情報量が減少する 安全停止速度に関する視覚情報は 走行速度に関係する安全停止距離の範囲内の視覚情報であり 運転者が主観的に判断する安全停止に必要な距離以下に視程が低下するまで情報量の減少は少ない 2.5 高速道路走行データによるモデルの検証 2.5.1 交通状況の記録視覚情報がドライバーの運転挙動にどのように関係するか 実際の高速道路走行データを用いて運転挙動モデルの検証を行った 検証は 東北道 松尾八幡平 IC~ 安城 IC 間 552kp 下り線で2012.11.30~2013.11.26の記録のうち -3-

Fig.3 視程と走行速度 視程の変化や低下が著しい冬期の 2012.11.30 速度低下の傾向はみられなかった 但し 一 2013.02.03 について行った 記録は 交通 部視程 200m 以下の範囲で速度が低下してい 量計測装置により走行車両毎の時間 速度 る車両があり 速度低下時の条件を精査する 車種 大型 普通 気象センサにより 時 と 天候悪化の著しい特定日時に集中してい 間 視程 気温 湿度 風速 CCTV により ることがわかった 12/6,7,8,25,31,1/2,25 こ 環境条件 路面状況の各記録を用いた のうち特に視程と道路状況の変化が激しかっ た 12/25 のデータについて詳細に解析を行っ た結果を Fig.3 に示す 13:26 以降の視程低下 2.5.2 視覚情報量と走行速度 時には速度低下車両があるが 14:30 以降の 視程の変化に伴う視覚情報量がドライバー 同レベルの視程低下時には速度低下車両がな の運転挙動のうち 速度にどのように関係す く 同様の視程低下であっても運転挙動に差 るか分析した 環境条件を明らかにするため 異があることがわかる このケースについて 今回は 以下の条件に限定した CCTV 画像により環境 路面条件を確認した 追従など他車両の影響を排除 ものを Fig.3 下部に路肩を含む路面の輝度分 布の標準偏差をグラフ内に示している 13:26 前方走行車両との間隔 220m 以上 以降では 降雪により路面が白く走行軌跡な 昼間 どのコントラストが低くなっているが 14:38 照度 300lx 以上 従来研究の報告では 視程の低下とともに速 以降では 路面の軌跡 黒路面 が明確に見 度が低下すると報告されているが 本研究に え 路面の輝度分布の標準偏差の値は 13:26 おける分析結果からは視程の低下があっても 頃に比較すると高い この速度低下時の画像 4

情報の解析結果から 速度低下の要因の一つは路面積雪による軌跡を含むコントラスト低下によるものと推測される 視程と走行速度の低下について 路面積雪の特異条件に合致する走行データを除外すると Fig.4 に示すよ がなく 昼間の高速道路で 視程の低下があった場合では 警戒的に速度を漸減することはなく 安全停止できる距離範囲の視程までは 速度の低下は行われないことを示している 更に 路面に積雪などの視覚情報がある場合は 安全停止距離に影響を与える判断が影響し速度が低下することを示した 今後は 前方車両が存在する追従 追い越し走行 夜間の場合についてモデルの検証を進め 安全な走行を支えるための方策につなげていく予定である Fig. 4 視程と走行速度うになり 視程の低下が走行速度に関係していないことが明確に示されている 路面の積雪による速度低下の要因は 本研究で提唱するモデルでは 安全停止距離確保のため速度低下と解釈することができる 3. まとめと今後の展開ドライバーの運転挙動モデルを提案し 実際の走行データを用い モデルの一部について検証を行った 前方車両がなく 昼間の場合 視程による視覚情報量の変化があっても ドライバーの運転挙動に与える影響は少ないことを明らかにした これは提案しているモデルのうち 道路線形を認知し状況に適応した速度で走行する判断部分では 前方走行車 参考文献 1) Gerald J.S. Wilde: Target Risk Dealing with the danger of death, disease, PDE Publications, (1994) 2) Heikki Summala: Accident Risk and Driver Behaviour, Safety Science,Vol.22,No.1-3,p.103-117,(1996) 3) Ray Fuller: Towards a general theory of driver behaviour, Accident Analysis and Prevention, 37 p.461 472, (2005) 4) Sterman.J.D: Business dynamics: systems thinking and modeling for a complex world,(2000) -5-