全国ヘモフィリアフォーラム 201551
全国ヘモフィリアフォーラム 2015 特別話題提供 新規製剤 治療の動向 松本剛史 TAKESHI MATSUMOTO ( 三重大学医学部附属病院医師 ) はじめに 三重大学病院の松本です 顔馴染みの方も大勢おられて 非常に楽しく過ごさせていただいています 本会も4 回目ということで だんだんと馴染んできたというか 良い感じで進められるようになってきました 企画実行委員の一人として 非常に嬉しく思っております 私に与えられたテーマは 新規薬剤について ということですが 去年から今年にかけていろいろな新しい薬が出てきています その中でも特に皆さんによく 気になる と言われるのが長時間作用型製剤です すでに承認 販売されていて 現在使用されている方も多いと思いますが この長時間作用型製剤の話題を中心にお話をしていこうと思います 血友病の補充療法 まず一般論的なお話になりますが 血友病の補充療法についてです スライド1にあるような流れで 今に至るまで いろいろな補充療法の種類が開発されてきました まずは 出血をした時に補充をするというオンデマンドと呼ばれる補充の方法です 出血した時に欠乏した第 Ⅷ 因子や第 Ⅸ 因子を補充します 元々 対症療法的にされていた補充の方法です 次に 出血しやすい あるいは出血をさせてしまうと良くないようなイベント 例えば旅行や遠足などの時に予備的な補充をするという方法もあります これも従来からよく行われてきた補充療法だと思います そして これを後押ししたのが 1983 年から我が国でも行われるようになってきた家庭療法 ホームインフュージョンと呼ばれるものです 皆さんも在宅自己注射として普段から行っていると思います 目 52
スライド 1 スライド 2 的としては 出血した時の早期の補充や通院回数の減少が挙げられます また 関節症の予防になるのではないかとも考えられて導入されました ところが 家庭療法による出血時の早期補充だけでは関節症をまだまだ防ぎ切れていないことが分かってきましたので 我が国では 2000 年頃から小児に対する定期補充療法が導入されました そして ここ数年で成人にも対象がどんどん拡大されています 定期補充療法は 出血に関係なく定期的に補充する という方法で 元々の目的は関節症の予防です また それに付随して 致死的出血 例えば頭蓋内出血といった頭の中の出血の予防のためにも定期補充療法が進められています もう少し詳しく言いますと 出血があってもなくても週 1 回以上は注射を行うことを定期補充療法と定義されることが多いと思います そして 重症血友病患者の凝固因子活性の最低値を中等症のレベル つまり1% 以上に維持しようというのがいちばん最初のコンセプトです 定期補充療法は 一次定期補充と二次定期補充に分けられています 一次定期補充は 2 歳未満で かつ関節内出血の経験がないか あるいは1 回だけ関節内出血を起こしたことのある児が 2 回目の関節内出血を起こさせないために始めます 二次定期補充は 2 歳以上 あるいは何回か関節内出血を繰り返した人が始める定期補充療法のことです 最近は一次定期補充をしている子どもさんが非常に多くなっています 成人の方が定期補充療法を始めると二次定期補充になるのですが これもどんどん広がっていて 定期補充療法をされている人は近年どんどん増えているという現状にあります ( スライド2) 定期補充療法と関節症 定期補充療法をすると関節症が防げるのではないかと期待されているのですが まだ長期のデータがないので はっきりとしたことは分かりません 7 8 年前のデータになってしまうのですが 次頁スライド3は瀧先生を中心にした QOL のアンケート調査から引用しました 成人患者の肩 肘 股関節 膝 足関節などに障害を持っている割合ですが 30 ~ 40 代から非常に多くなっています 40 代以降はまだ家庭療法が子どもの頃にはありませんでしたし 30 代までは定期補充療法も行われていなかったことが原 53
スライド 3 スライド 4 因として考えられます 今後はこのグラフの山が右にシフトしてくると予想されますが 右に寄ると同時に山も小さくなることが期待されています 定期補充療法によって関節症を減らすことが今の血友病治療の目標だと思っています スライド4の図は 血友病性関節症の悪循環を表しています 関節内出血が起こると関節が腫れて痛いので安静にします 場合によっては固定をして しばらく様子を見るのですが そうすると筋力が落ちて関節が拘縮し 動きづらくなってきます また 血友病の患者さんは出血をさせないために手足をあまり使わなくなる傾向があります そういった活動性の低下によっても より筋力の低下が増します そして 関節の周りの筋肉が痩せてくることによって関節の支持性が低下する つまりグラグラするようになって捻挫しやすくなり それでまた新たな関節内出血が起こることになります これが悪循環となって関節症が進行していくと言われています スライド 5 54
これを予防するためには 定期補充療法によって出血の回数を減らすことが非常に大事になってきます 現在の定期補充療法の実施率ですが スライド5は凝固異常症の全国調査で4 5 年前のデータになります 定期補充療法をしている血友病 Aの小児は 70% と低いのですが これは中等症や軽症の患者さんも入ったデータなので低めに出ています 重症の患者さんだけのデータだと 現在では 90 ~ 95% 以上になると思います また 2 歳以上の小児患者さんで非常に多くなっています 赤ちゃんの頃は出血することが少ないので やはりなかなか一次定期補充までされる方は少ないのですが 2 歳を超えて活動も活発になってくると定期補充療法を積極的に行う方が多いということが我が国の現状になっています また 血友病 Aに比べてBの方が若干実施率は低くなっています Bの方がAよりも少しだけ凝固因子活性が高い人が多くて 出血症状も軽いことが原因だと考えられます ただ 今はもっとスライドのグラフの黒いバーは上に伸びていると思います これらのデータは 日本でも定期補充療法が血友病の標準治療になってきているということを表しています 既存製剤と長時間作用型製剤の比較 スライド 6 既存製剤と長時間作用型製剤を比べると 長時間作用型製剤の方が半減期は長くなっています 第 Ⅷ 因子の既存製剤を週 3 回打っていると 2 日に一度 凝固因子活性のピー 55
クができます そして低いところも2 3 日に一度出てくるのですが これが長時間作用型製剤になると 低いところがまとめて長い期間出てくることになります 血友病 A で週 3 回 血友病 Bで週 2 回打っていると 山が適当にできるのが既存製剤です 回数を減らすと山も少なくなるし 低いところが長時間続くのが問題です ( スライド6) スライド 7 スライド 8 56
半減期は人によって かなりバラつきがあります スライド7のバーは そのバラつきの大きさを表していて 黒の横線が平均です これは年代別で示していて いちばん左のバーは小さい子ども その隣はもう少し大きくなってから 右の2つは大人なのですが 半減期は大人になるほど長くなる傾向にあります そして 子どもの方が半減期は短いので 子どもの方が薬は長く効かないというデータが出ています あと個人差も結構大きいので 患者さん一人ひとりの凝固因子活性をきちんと測ってモニターをすることが必要になってくると予想ができます そういう意味では 一口に定期補充療法と言っても 患者さん一人ひとりの環境によって やり方も異なってきます ですので まずは患者さんの病状として 凝固因子活性がどれくらいか 遺伝子の異常はどうか 凝固の検査はどうか 薬物動態はどうか 関節症が今どういう状況にあるのか そして年齢や社会的な状況 また運動や活動性なども含めて きちんと総合的に評価して 病状や生活スタイルに合わせた投与計画の設定が必要になってきます ですので 一概に週 3 回打っていればいい あるいは長時間作用型製剤なら週 2 回でいいというものではないとお分かりになると思います ( スライド8) たろうくん という血友病 Aの架空の少年の1 週間を例に挙げて考えてみたいと思います ( スライド9) たろうくんは月 火 木曜日に体育の授業があります そして土曜日に少年団でサッカーをしています このような場合にどのような投与計画を立てればいいでしょうか 例えば 単に月 水 金で週 3 回やっていればいいと考えた場合 体育などで運動をする日に合わなくなります ですので この場合はやはスライド9 りもう少し投与日の調整をした方がいいと指導することになります できるだけ運動をする日に投与日はもってきた方がいいということで 月 木 土と運動のある日に合わせて週 3 回打てば上手くいきそうです 火曜日の体育の前には打たないですが 前日に打っていますので なんとか凝固因子活性が残っていて大丈夫かなという感じで計画を立てることになります そこに長時間作用型製剤が出てくるとどうなるでしょうか 長時間作用型製剤の種類 長時間作用型製剤は次頁スライド 10 にある通り いろいろな会社から出ています このスライドは私が1 月にまとめたものなので 今はもう少し進んでいるものや新しいものが出てきているかもしれません 現在も各社競って長時間作用型製剤の開発が進められています 57
スライド 10 半減期を長くするための技術にはいろいろな種類があるのですが 長時間作用型製剤は遺伝子融合型製剤になります 免疫グロブリン Fc 領域やアルブミン遺伝子と凝固因子蛋白の遺伝子を融合させて作った蛋白質を凝固因子と結合させて半減期を長くするという技術です つまり Fc 領域やアルブミンの蛋白が第 Ⅷ 因子や第 Ⅸ 因子といった凝固因子にくっついているという製剤になります バイオジェン アイデックスライド 11 から出ているイロクテイトやオルプロリクスは Fc 領域融合型の製剤です 他にも CSL ベーリングがアルブミン融合型の製剤を開発中ですが このように凝固因子に蛋白をくっつけて半減期を伸ばすという製剤が開発されています ( スライド 11) その他に PEG 化製剤というものがあります 血友病ではインターフェロンでもお馴染みかと思います インターフェロンも PEG 化することによって 週 3 回打っていたのが週 1 回になりました PEG とはポリエチレングリコールという化学物質の略称で この化学物質をくっつけることによって薬物を体の中に長く留めさせる技術です PEG というと インターフェロンを始めとしていろいろな種類の薬が出てきていますので 一応 58
スライド 12 スライド 13 安全性には一定の評価があると言えると思います 問題点としては 大量投与に伴って PEG に対する抗体が出現することがあると言われています また 長期投与の時に PEG が組織内に蓄積することも指摘されています 大丈夫だとは言われていますが 体に PEG のような化学物質を排泄するような経路は元々備わっていないので PEG が体の中に溜まってしまうのは問題なのではないかという懸念はあります 今はまだそのことが実際に問題になってはいませんが 血友病では一生使い続けることになりますので そういったことが問題になってくる可能性がゼロとは言えないので注意をする必要があると思います PEG 化製剤はバイエルやバクスターが開発しています ( スライド 12) このように 各社がいろいろな製剤を開発していますが 第 Ⅷ 因子製剤の半減期は既存製剤の 1.4 ~ 1.6 倍ぐらいになっています 糖鎖 PEG 化製剤も同じような形です 凝固因子蛋白に結合している糖鎖に PEG を付けたというもので 第 Ⅷ 因子の半減期は 1.6 倍です 第 Ⅸ 因子の半減期はオルプロリクスよりもさらに 10 ~ 20 時間長く 93 時間続きます これはノボ ノルディスクファーマが開発しています 第 Ⅶ 因子の糖鎖 PEG 化製剤も開発していたのですが 効果が目に見えては良くなかったということで開発中止になっています ( スライド 13) 患者によって治療を個別化する 長時間作用型製剤の半減期については すでに上市されているもので説明するのがいちばんだと思いますので 第 Ⅷ 因子製剤のイロクテイトと第 Ⅸ 因子製剤のオルプロリクスの2つを基に半減期がどう長くなっているのかをお示ししたいと思います 他の会社の製剤でも同じような考え方になると思うのですが まずはバイオジェン アイデックのイロクテイトです ( 次頁スライド 14) これは半減期が 19 時間で 従来型の 12 時間程度の半減期のものよりは少し長くなっています 凝固因子活性が3% や1% になるまでには少し時間がかかるということで 出血症状が少し良くなる あるいは注射の回数を減らすことができると期待されています 59
スライド 14 スライド 15 60
イロクテイトの臨床試験をする時に言われていたことは 個別化の治療です 患者さんによって投与量や投与回数の設定を変えていくことが理想的だとされて 過剰投与や過少投与などを防ぐために この臨床試験でも行われました まずイロクテイトを1 回打って薬物動態を見てみます これは大事なことで この患者さんにはどのくらい効くのかということをまず見ます 1 日目 例えば月曜日に 25 単位 /kg を打って 4 日目の木曜日に 50 単位 /kg を打つという週 2 回のメニューで始めるとします 4 日目に 50 単位 /kg と2 倍量に上げているのは その後 3 日間投与しない日が続くからですが まずはこのスケジュールで投与を行い 薬物動態のパラメーターとして凝固因子活性を測ります 患者さんによっては やはりこれでも出血する人はいますし 全く問題ないという方もいると思うのですが それを客観的に見ていきます 凝固因子活性が1% 未満になると出血のリスクが高くなりますので そういう場合には3 日ごとに投与するなどと切り替えて 凝固因子活性が最低でも1~3% は常にあるように投与量を設定します 例えば 50 単位 /kg 打てば4 日目にもまだ十分凝固因子活性が残っているので5 日ごとにできるのではないかという患者さんもいるでしょうし 今の投与量でちょうどいいという人はそれを継続するという形で 患者さんによって投与量や投与間隔を調整するということが臨床試験で行われていました ただ こういうことを行っていても出血をする人はいますので その場合にはやはり投与間隔を短くしたり 投与量を増やしたりしなければいけません 出血が酷い場合には 最高 65 単位 /kg で3 日ごとという投与量で 凝固因子活性を5% ぐらいまで上げていく必要があります このように 出血の具合を勘案して 患者さんによって治療を個別化することが 投与計画を立てていく上で今後非常に重要になってくると思います ( スライド 15) スライド 16 61
第 Ⅸ 因子製剤のオルプロリクスの場合は 半減期が 82 時間ということで 相当長くなっています 血友病 B では半減期が従来の3~5 倍という製剤が今後も出てくると思われるのですが 凝固因子活性が 3% を切るまでに5 日以上 1% を切るまでには 10 日ぐらいかかると言われています 注射も1 週間に1 回 10 日に1 回でいいのではないかと期待されていて 添付文書にも 50 単位 /kg を週 1 回 100 単位スライド 17 /kg を 10 日に1 回という記載がされています これで初期の投与を始めて 薬物動態や出血の具合を見ながら調整するということになります これは出血時に投与することも認められていて 軽度から中等度の出血の場合には 30 ~ 60 単位 /kg を 48 時間ごとに投与すると記載されています 血友病 B の場合だと 今までは 24 時間ごとに投与するのが目安になっていたのですが これは半減期が長くなっているので 48 時間ごとということで そんなに毎日は打たなくてもよくなりました 重症の出血に対しては 100 単位 /kg を投与すると記載されていますので この辺りは従来型の製剤と同じです ( スライド 16 17) 長時間作用型製剤は既存製剤に取って代われるのか? こういった長時間作用型製剤は既存製剤に取って代わるものなのでしょうか 長時間作用型製剤のメリットとしては 効果の持続時間が長いので 定期補充の回数を減らせるのではないかと期待できます また 出血時補充の追加が必要なくなります 2 回打たなければいけないのが1 回になったり 3 回打たなければいけないのが2 回になるなど 少し投与の回数が減るのではないかと思います デメリットとしては 先スライド 18 ほども申しあげましたが 定期補充で低い血中濃度の持続時間が長くなってしまうということがあります また モニタリングが通常方法でできません 一般的に日本で行われているのは凝固一覧法という検査方法なのですが これが使えない製剤も今後たくさん出てくるのではないかということで問題になってきています それから 長時間作用型製剤は高価です 非常に高い薬価の付いた製剤も今後出てくると思います ( スライド 18) 62
スライド 19 スライド 20 スライド 21 スライド 19 は先ほどもお示ししたグラフですが トラフ ( 最低値 ) が長く続くと その間に出血しないのかという懸念が出てきます 先ほどの たろうくんの1 週間 で考えてみますと 長時間作用型製剤の場合はいつ注射すればいいでしょうか 体育がある日がいいということで月 木の週 2 回投与をした場合 少年団のサッカーをする日は土曜日なので投与の2 日後になってしまいます これで大丈夫なのかと言われれば 非常に悩ましいところがありますので こういった活動性の高い 運動をするお子さんは 週 2 回投与では少し不安があるのではないかと思います ( スライド 20) 次に じろうくんの1 週間 ということで 血友病 B の場合です 運動をする日は たろうくん と同じだとして 従来型の製剤では 運動をする月 木の週 2 回投与でなんとか上手くいっています この場合に長時間作用型製剤を使うと 週 1 回投与で済むということになるのですが 月曜日に投与するとした場合 少年団のサッカーをする日 63
は投与の5 日後になってしまいます これは果たして本当に大丈夫なのでしょうか 大丈夫であればいいのですが やはり凝固因子活性が低い時に運動をするのは非常に不安があります そういう意味では 従来型の製剤で上手くいっている人で 特に活動性の高い子どもさんなどにとっては 長時間作用型製剤に切り替えるのかということは非常に悩ましい問題ではあります ( スライド 21) スライド 22 スライド 23 スライド 24 また 定期補充療法をしている中で出血してしまった時に 長時間作用型製剤を使うのか 従来型の製剤を使うのかということも非常に悩ましい選択になると思います 特に 血友病 B の長時間作用型製剤は半減期が従来型の製剤に比べて非常に長くなっています 例えば 定期投与の翌日や翌々日に出血をしてしまった場合には 凝固因子も1 日目 2 日目とある程度は下がってきてしまうので追加の投与が必要なのですが 長時間作用型製剤と従来型の製剤のどちらを投与すればいいのかということは考えさせられ 64
るところです 薬価で見てみますと 1000 単位製剤で従来型のベネフィクスは 10 万円ですが 長時間作用型のオルプロリクスは 20 万円で倍の値段になっています これは非常に悩むところで この場合に次の輸注日をずらすこともなかなか難しいと思いますし 出血時にオルプロリクスをドンと使うと非常に薬価がかさむことになってしまいます その上 いったい何単位打てばいいのだろうということも分かりづらくて 非常に悩ましいところがあります このように 実際に出血があった時にどのような追加投与をするのかは 医療者側にとっても患者側にとっても悩ましい問題です 特に在宅自己注射をしている人は どの製剤を何単位打とうかということで悩まれると思います ( スライド 22 23 24) 出血に悩まされることのない時代が来る? 遺伝子治療のお話ですが 最近の話題としては 実際に血友病患者 10 人に投与されたという報告がありました AAV というウィルスに遺伝子を乗せて運ばせるというもので 一応血友病 B の重症患者で1~ 6% ぐらいまで第 Ⅸ 因子活性が上がったというデータがあります 特に毒性もないし 出血症状も改善したので効果があったという報告だったのですが まだ 10 例という本当に少ない数にしか投与されていませんスライド 25 ので 一般の患者さんに導入されるには まだ相当な時間がかかるのではないかという印象を持っています 歩みは遅いのですが やっと人にきちんと投与されたということで 研究は着実に進んでいるということになります 血友病 A に関しては やはり分子量が血友病 B よりもかなり大きいということもあって なかなか進んでいないというのが実情です ( スライド 25) インヒビターについても新しい製剤が最近出ました なかなか止血が難しいインヒビターの方の製剤の選択肢が増えたのは喜ばしいことです インヒビターの説明をしますと 補充療法を続けているとインヒビターという抗体が作られ それが第 Ⅷ 因子あるいは第 Ⅸ 因子にくっついて 中和して効き目をなくしてしまいます 血友病患者は元々第 Ⅷ 因子や第 Ⅸ 因子を持っていないわけなので 投与された第 Ⅷ 因子や第 Ⅸ 因 スライド 26 65
スライド 27 スライド 28 子を免疫が異物だと認識してしまい 自分の身を守るためにその第 Ⅷ 因子や第 Ⅸ 因子をインヒビターという武器を使って攻撃して中和してしまうのがインヒビターの発生メカニズムです ( スライド 26 27) 66
こういった状況になった患者さんの出血をどう止めるのかということで バイパス製剤というものが開発されています これには第 Ⅶ 因子や第 Ⅱ 因子 第 Ⅹ 因子などいろいろな凝固因子が含まれていて 第 Ⅷ 因子や第 Ⅸ 因子がなくても血を止められるようになっています このバイパス製剤にはファイバという薬が今は使われていて インヒビター製剤の中ではいちばん古い製剤です もう一つは 活性化第 Ⅶ 因子を大量に入れると凝固反応が進むということが分かっていまして ノボセブンという薬が使われています ( スライド 28) スライド 30 昨年までインヒビター製剤はファイバとノボセブンだけだったのですが 今年新たにバイクロットという薬を化血研が開発して承認を受けました これは遺伝子組み換えではなくて血漿由来の製剤なのですが ノボセブンの活性化第 Ⅶ 因子に第 Ⅹ 因子を程良くブレンドしてあるもので こうすると少し効果が上がるのではないかというコンセプトで開発された薬です ただ 第 Ⅶ 因子と第 Ⅹ 因子で半減期が少し違います 第 Ⅶ 因子は半減期が非常に短いのですが スライド 29 67
第 Ⅹ 因子はある程度半減期が長いので やや複雑な薬物動態になっています また 第 Ⅹ 因子が溜まって血栓を起こすかもしれないという問題がありますので 出血時には2 回までの投与しか今のところ認められていません そういった制限がありますので 初期の止血などには非常に使いやすいと思いますが 手術の時などにはまだまだ使えないであろうと考えています こういった新しい製剤が今回出てきたということで もう既に使用されている患者さんもいるかと思います ( スライド 29 30) スライド 31 最後になりますが バイスペシフィック抗体という 日本の中外製薬と奈良医大のグループで開発が進められている製剤があります 第 Ⅷ 因子は活性化された第 Ⅸ 因子と第 Ⅹ 因子を結び付ける酵素の役割をしているのですが その役割を抗体に担わせようという薬です 抗体は第 Ⅷ 因子とは全く違うものなのですが その抗体に第 Ⅸ 因子と第 Ⅹ 因子をくっつける役割をさせて第 Ⅹ 因子を活性化させることによって血が止まるというメカニズムで 今は臨床試験が進められているところです 実際に治験で使われているインヒビターの患者さんも今日お越しの皆さんの中におられるかもしれませんが 何年か後には発売されるのではないかと思われます これは週 1 回の皮下注射で済むという非常に楽な薬です 治験はインヒビターの患者さんに対して週 1 回の投与で行われているのですが インヒビターがあってもなくても効くということで 薬価もそれなりに安くなった場合 将来的にはインヒビターがあってもなくても これを週に1 回皮下注射をしておけば 血友病患者が出血に悩まされることはないという時代が来るかもしれません ( スライド 31) 68
質疑応答 松本 : 長時間作用型製剤によって定期補充の注射回数を減らせる可能性が増してきました ただ 先ほども申しあげたように みんながみんな 全員が注射回数を減らして大丈夫かというと なかなか難しいです そういう意味では 薬物動態をきちんと見極めながら 生活スタイルに投与日時を合わせる個別化治療がより必要になり 多岐にわたる治療方法の中から最も適したものスライド 32 を我々は選ばなければいけない時代になってくると思います また 出血時の追加補充の量や方法も考える必要が出てきていますので そういう意味でも個別化治療はより重要になってくると思います あとは補充療法以外の治療法 例えば先ほど申し上げたバイスペシフィック抗体やある種の飲み薬なども開発されてくるのではないかということも期待はされてきていますし 実際に治験が始まっている薬もありますので 十分期待できる治療になるのではないかと考えています ( スライド 32) 以上で発表としては終わらせていただこうと思いますが 何かご質問などあればお受けします 大西赤人 ( むさしのヘモフィリア友の会副会長 ): いろいろな形の製剤が出てきて 今までだったらほとんどどれを使っても変わりがないという雰囲気だったものが かなり選択肢として増えてきそうだというお話だったと思います そして もしかしたら個々の製剤の性格も違うのかもしれないという状況のように思います どの製剤が良いのか と言うと少し言い過ぎかもしれないのですが やはり医療者側である程度の共通認識のようなものが形作られてくる場や機会はあるのでしょうか? 松本 : もちろん今もいろいろな学会や研究会などで議論をしているところではあるのですが 先ほど申し上げたように 画一的な こうすればいいよ というようなものではなくて やはり今後は患者さんの生活スタイルや関節の状態などに合わせて 患者さん自身も 我々医療者もより考えて きちんとデータをとって治療を行っていく必要性が 今まで以上にあるのではないかと感じているところではあります 天野先生 何かコメントはありますでしょうか? 私が何か間違ったことを言っていたら 指摘をしていただけるとありがたいのですが 69
天野景裕 ( 東京医科大学病院臨床検査医学科医師 ): 日本血栓止血学会には学術標準化委員会というものがあって そのシンポジウムが毎年 1 回行われています そこは治療などの標準化をする委員会なので 新しい製剤が出てくると それに対してどういうふうにみんなが使っていけばいいのかということを専門家のレベルで考えます ただ それを専門ではない一般の先生方にどう伝えていくべきなのかということに関しては 専門家の意見を合わせた上でまずは発信していけるように その辺りの情報を揃えているところです まだそれほど新しい製剤に関するデータはたくさん揃っていないのですが 先ほど松本先生が言われていたように 半減期が長くなったのなら投与回数は減らしていいのではないかと安易に考えてしまうのは危険かもしれないので そういったことを発信していけるように調整をしているところです 松本 : ありがとうございました まだ長時間作用型製剤は使われ始めて日が浅いので こうだ ということは何も言えないのですが 今後もこういったフォーラムなどのいろいろな場で 我々医療者が皆さんに情報提供をしていくことが必要になってくると思います またこういったことをお話しできる場があればいいと思います ありがとうございました 70