講義:アジアモンスーン

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(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

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2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

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Taro-40-11[15号p86-84]気候変動

日本の海氷 降雪 積雪と温暖化 高野清治 気象庁地球環境 海洋部 気候情報課

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梅雨 秋雨の対比とそのモデル再現性 将来変化 西井和晃, 中村尚 ( 東大先端研 ) 1. はじめに Sampe and Xie (2010) は, 梅雨降水帯に沿って存在する, 対流圏中層の水平暖気移流の梅雨に対する重要性を指摘した. すなわち,(i) 初夏に形成されるチベット高現上の高温な空気塊

資料 1 平成 30 年 7 月豪雨 に関する大気循環場の特徴 平成 30 年 8 月 10 日 気象庁気候情報課 1

図 1 COBE-SST のオリジナル格子から JCDAS の格子に変換を行う際に用いられている海陸マスク 緑色は陸域 青色は海域 赤色は内海を表す 内海では気候値 (COBE-SST 作成時に用いられている 1951~2 年の平均値 ) が利用されている (a) (b) SST (K) SST a

( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )


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電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

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9 報道発表資料平成 29 年 12 月 21 日気象庁 2017 年 ( 平成 29 年 ) の日本の天候 ( 速報 ) 2017 年 ( 平成 29 年 ) の日本の天候の特徴 : 梅雨の時期 (6~7 月 ) は 平成 29 年 7 月九州北部豪雨 など記録的な大雨となる所があった梅雨の時期

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第 41 巻 21 号 大分県農業気象速報令和元年 7 月下旬 大分県大分地方気象台令和元年 8 月 1 日

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資料6 (気象庁提出資料)

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また 積雪をより定量的に把握するため 14 日 6 時から 17 日 0 時にかけて 積雪の深さは と質 問し 定規で測っていただきました 全国 6,911 人の回答から アメダスの観測機器のある都市だけで なく 他にも局地的に積雪しているところがあることがわかりました 図 2 太平洋側の広い範囲で

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委 44-4 TRMM の最近の成果と これからの展望について 第 44 回宇宙開発委員会平成 14 年 11 月 20 日 ( 水 ) 宇宙開発事業団独立行政法人通信総合研究所

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3) 解析範囲は日本および東アジア域 ( 北緯 20~50 度 ; 東経 110~150 度 ) とし, 日本については 10km スケール, 東アジア域については 0.5, 降水量予測値を算出した 観測降水量として, 日本域については農業環境技術研究所作成の AMeDAS メッシュ値 1) を,

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2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 平成 21 年 (2009 年 ) の月別累年順位更新表 ( 横浜 ) 23

正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1


2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 横浜地方気象台月別累年順位更新表 横浜地方気象台冬日 夏日 真夏

4

An ensemble downscaling prediction experiment of summertime cool weather caused by Yamase

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IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書概要 ( 気象庁訳 ) 正誤表 (2015 年 12 月 1 日修正 ) 第 10 章気候変動の検出と原因特定 : 地球全体から地域まで 41 ページ気候システムの特性第 1 パラグラフ 15 行目 ( 誤 ) 平衡気候感度が 1 以下である可能性

報道発表資料


三重県の気象概況 ( 平成 30 年 9 月 ) 表紙 目次気象概況 1P 旬別気象表 2P 気象経過図 5P 気象分布図 8P 資料の説明 9P 情報の閲覧 検索のご案内 10P 津地方気象台 2018 年本資料は津地方気象台ホームページ利用規約 (

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III

風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し

2

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理科学習指導案指導者海田町立海田西中学校教諭柚中朗 1 日時平成 30 年 1 月 24 日 ( 水 ) 2 学年第 2 学年 1 組 ( 男子 14 名女子 18 名計 32 名 ) 3 単元名天気とその変化 ~ 大気の動きと日本の天気 ~ 4 単元について (1) 単元観本単元は, 学習指導要領

3 大気の安定度 (1) 3.1 乾燥大気の安定度 大気中を空気塊が上昇すると 周囲の気圧が低下する このとき 空気塊は 高断熱膨張 (adiabatic expansion) するので 周りの空気に対して仕事をした分だ け熱エネルギーが減少し 空気塊の温度は低下する 逆に 空気塊が下降する 高と断

(1) 継続的な観測 監視 研究調査の推進及び情報や知見の集積〇気候変動の進行状況の継続的な監視体制 気象庁では WMO の枠組みの中で 気象要素と各種大気質の観測を行っている 1 現場で観測をしっかりと行っている 2 データの標準化をしっかりと行っている 3 データは公開 提供している 気象庁気象

佐賀県気象月報 平成 29 年 (2017 年 )6 月 佐賀地方気象台

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黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 日数 8~ 年度において長崎 松江 富山で観測された気象台黄砂日は合計で延べ 53 日である これらの日におけるの頻度分布を図 6- に示している が.4 以下は全体の約 5% であり.6 以上の

2.1 の気温の長期変化 の 6 地点の 1890~2010 年の 121 年間における年平均気温平年 差の推移を図 2.1-2に示す の年平均気温は 100 年あたり1. 2 ( 統計期間 1890~2010 年 ) の割合で 統計的に有意に上昇している 長期変化傾向を除くと 1900 年代後半と

鳥取県にかけて東西に分布している. また, ほぼ同じ領域で CONV が正 ( 収束域 ) となっており,dLFC と EL よりもシャープな線状の分布をしている.21 時には, 上記の dlfc EL CONV の領域が南下しており, 東側の一部が岡山県にかかっている.19 日 18 時と 21

気象庁技術報告第134号表紙#.indd

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資料1-1 「日本海沿岸域における温暖化に伴う積雪の変化予測と適応策のための先進的ダウンスケーリング手法の開発」(海洋研究開発機構 木村特任上席研究員 提出資料)

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過去約 130 年の年平均気温の変化傾向 (1891~2017 年 ) 図 緯度経度 5 度の格子ごとに見た年平均気温の長期変化傾向 (1891~2017 年 ) 図中の丸印は 5 5 格子で平均した 1891~2017 年の長期変化傾向 (10 年あたりの変化量 ) を示す 灰色は長期

IPCC 第 5 次報告書における排出ガスの抑制シナリオ 最新の IPCC 第 5 次報告書 (AR5) では 温室効果ガス濃度の推移の違いによる 4 つの RCP シナリオが用意されている パリ協定における将来の気温上昇を 2 以下に抑えるという目標に相当する排出量の最も低い RCP2.6 や最大

今年 (2018 年 ) の夏の顕著な現象 平成 30 年 7 月豪雨 記録的な高温 本から東海地 を中 に 広い範囲で記録的な大雨となった 東 本から 本を中 に 各地で記録的な高温となった 2

平成21年度実績報告

また 台風 18 号が九州から北海道へ縦断した 17 日 18 日は 全国から 41,000 通以上の写真付きのウェザーリポートが寄せられ 各地の被害状況を詳細に把握することができました 記録的大雨となった大分県からは道路の損壊や大規模冠水のリポートが届き 断続的に強い雨が降った岩手県沿岸からは大規

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第 12 章環境影響評価の結果 12.1 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果

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種にふくまれているものは何か 2001,6,5(火) 4校時

委員会報告書「気候変動への賢い適応」

地球温暖化に関する知識

2. 背景わが国では気候変動による様々な影響に対し 政府全体として整合のとれた取組を総合的かつ計画的に推進するため 2015 年 11 月 27 日に 気候変動の影響への適応計画 が閣議決定されました また 同年 12 月の国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議で取りまとめられた 新たな国際的な

データ同化 観測データ 解析値 数値モデル オーストラリア気象局より 気象庁 HP より 数値シミュレーションに観測データを取り組む - 陸上 船舶 航空機 衛星などによる観測 - 気圧 気温 湿度など観測情報 再解析データによる現象の再現性を向上させる -JRA-55(JMA),ERA-Inter

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はじめに 東京の観測値 として使われる気温などは 千代田区大手町 ( 気象庁本庁の構内 ) で観測 気象庁本庁の移転計画に伴い 今年 12 月に露場 ( 観測施設 ) を北の丸公園へ移転予定 天気予報で目にする 東京 の気温などの傾 向が変わるため 利 者へ 分な解説が必要 北の丸公園露場 大手町露

平成 30 年 2 月の気象概況 2 月は 中旬まで冬型の気圧配置が多く 強い寒気の影響を受け雪や雨の日があった 下旬は短い周期で天気が変化した 県内アメタ スの月降水量は 18.5~88.5 ミリ ( 平年比 29~106%) で 大分 佐賀関 臼杵 竹田 県南部で平年並の他は少ないかかなり少なか

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Multivariate MJO (RMM) 指数 ( Wheeler and Hendon, 2004) を用いた 西日本の気温偏差データは気象庁ウェブページから取得し用いた すべての変数について, 解析には DJF 平均したものを用い, 解析期間は 1979/80~2011/12 の 33 冬と

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平成 2 7 年度第 1 回気象予報士試験 ( 実技 1 ) 2 XX 年 5 月 15 日から 17 日にかけての日本付近における気象の解析と予想に関する以下の問いに答えよ 予想図の初期時刻は図 12 を除き, いずれも 5 月 15 日 9 時 (00UTC) である 問 1 図 1 は地上天気

要旨 昨秋 日本に多大な被害を与えた台風 15 号は静岡県浜松市に上陸し 東海大学海洋学部 8 号館気象台では過去 3 年間での最高値に相当する 1 分平均風速 25 m/s を記録した また 西日本から北日本の広範囲に暴風や記録的な大雨をもたらし 東京都江戸川区で最大風速 31 m/s を記録する

漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査地域検討会

結果を用いて首都圏での雪雲の動態を解析することができました ( 詳しい解説 は別添 ) こうした観測事例を蓄積し 首都圏降雪現象の理解を進め 将来的に は予測の改善に繋げていきたいと考えています 今回の研究成果は 科学的に興味深く 新しい観測研究のあり方を提案するものとして 日本雪氷学会の科学誌 雪

Wx Files Vol 年4月4日にさいたま市で発生した突風について

平成14年4月 日

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Transcription:

( モンスーン季のチベット高原の雨 ) 2009 年度環境学研究科水の環境学 アジアモンスーンと気候変動 http://mausam.hyarc.nagoya-u.ac.jp/~yasunari/index.html 安成哲三 ( 名古屋大学地球水循環研究センター ) 1. 水惑星地球の気候システム 2. 水循環系としてのアジアモンスーン 3. モンスーンと砂漠ーチベット高原の役割 4. アジアにおける最近の降水量変動 5. 地球温暖化 でアジアの降水はどう変化するか?

5 月 20 日 : アジアモンスーンと気候変動 私たちは アジアモンスーン気候が卓越する地域に住んでいる アジアモンスーンは ユーラシア大陸と太平洋 インド洋のあいだに季節的に生じる熱的コントラストにより形成される巨大な大気と水の循環系である このアジアモンスーンは 東 東南 南アジア地域に 豊かな水をもたらし 稲作を中心とする農業と さまざまな産業活動を可能にし この地域に世界の総人口の 60% の人々が居住することを可能にしている このアジアモンスーンとその変動は 一方で 洪水や旱魃をもたらし 大きな自然災害をもたらしている この講義では アジアモンスーンの変動がどのような機構で生じているか その変動の予測はどこまで可能か また 進行しつつあるとされる 地球温暖化 で今後のアジアモンスーン気候はどう変化する可能性があるか などについて講義をおこなう

なぜアジアモンスーンか? 地球気候システムにおける巨大な水 エネルギー循環系であり グローバルな気候とその変動に大きな役割を果たしている アジアモンスーン気候影響下に 地球人口の 約 60% が集中し 豊富な水資源を利用する一方 水災害に苦しんでいる 地球温暖化 はアジアモンスーンをどう変化させるか? ( 大きな不確定性 )

この画像は 平成 20 年 4 月 6 日 ( 日本時間 ) に かぐや (SELENE) ハイビジョンカメラ ( 望遠 ) で撮影された動画の一部を静止画像として切り出したもので 上下をさかさまにしたもの 地球の右上には北アメリカ大陸 中央は太平洋が見えます

複雑な地球の気候システム 気候の変動 変化は 気候システム内の水循環と水の相変化がからむフィードバックプロセスに 強く依存している!

地球の水貯留と水循環 96.6% http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/oki/04/img/oki4_01.gif

日本の気候の特徴は? 湿潤な気候であるー雨 ( 雪 ) が多い 季節の変化が大きいー夏は暑く 冬は寒い 梅雨 太平洋高気圧 秋雨 冬の日本海側降雪 季節風の卓越 夏は南西 南東風 冬は北西風 天気の変化 夏と冬は持続性が強い ( 太平洋高気圧とシベリア高気圧 ) 春と秋は変わりやすい ( 移動性高低気圧 )

世界各地の気温と降水量の季節変化 ( ) a) ウラジオストック (mm) ( ) b) ボストン (mm) 30 400 30 400 20 300 20 300 10 0 200 10 0 200-10 100-10 100-20 0-20 0 1 3 5 7 9 11 ( 月 ) 1 3 5 7 9 11 ( 月 ) ( ) c) 台北 (mm) ( ) d) マイアミ (mm) 30 400 30 400 20 10 0-10 300 200 100 20 10 0-10 300 200 100-20 1 3 5 7 9 11 0 ( 月 ) -20 1 3 5 7 9 11 0 ( 月 )

アジアモンスーンとは? ユーラシア大陸と 周辺のインド洋 太平洋のあいだの温度差が大きな役割を果たしている

古典的なモンスーン循環の模式図 大陸と海洋のあいだの季節的な熱的コントラストで形成された気圧勾配が季節風を形成する 加熱された大気は下層が低気圧 上層は高気圧となる 地球の自転効果 ( コリオリ力 ) により 風系は変形する (Webster, P.J. in Fein and Stephens, 1987)

アジアモンスーンは巨大な大気 水循環系である 低高低高 高 低 高

地上の気圧分布と風系分布 [7 月 ] 地上気圧分布と風ベクトル (Jul, 1997) 対流圏上部 (200hPa ) の高度分布と風系分布 [7 月 ]

7 月の 850hPa 高度分布と風系 http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/20th/1_1_6.htm 1 月の 850hPa 高度分布と風系

http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/20th/1_1_6.htm 30-40N 沿いの 7 月降水量

モンスーンは季節変化そのものである

気圧 (950hPa 高度 ) の季節変化 5 月ー 4 月

気圧 (950hPa 高度 ) の季節変化 6 月ー 5 月

Global Precipitation (GPCP) JJA

Global Precipitation (GPCP) DJF

アジアモンスーンは大気 水循環の大きな季節変化である 降水量の季節変化 夏季(JJAS)ー冬季(DJFM)

夏季 (JJAS) 降水量の年降水量に対する比

降水量 ( 対流活動 ) の季節的な振幅と位相からみた夏季アジアモンスーン (Wang and Ho, 2002)

海陸分布だけではなく モンスーン の成立にとって重要な要素は 水 ( 蒸気 ) の役割である

水蒸気輸送ベクトルの分布 (6-8 月 )

全球の水蒸気フラックスと収束 (7 月 )

大気の非断熱加熱率 (Q1) 潜熱加熱率 (Q2) と対流活動の分布 ( 北半球夏 ) Q1 Q2 海洋から供給された水蒸気が陸周辺で凝結し 雲となり 雨を降らせると同時に潜熱を大気に放出し大気を加熱する OLR

熱帯の大気 水循環システム 大気加熱 Q1, Q2 大気の収束 発散 V 水蒸気輸送 収束 大気循環 発散循環 (χ) 非発散 ( 地衡風 ) 循環 (ψ)

アジアモンスーンと砂漠気候 チベット高原が作り出す 気候の東西のコントラスト

外向赤外放射(OLR からみた 雲の 全球分布 7月

年平均の放射収支 ( 正味太陽放射収支ー正味赤外放射収支

北半球夏の正味放射収支

33.5N に沿う平均気温の経度 高度断面図 北半球夏 北半球冬

チベット高原上のモンスーン季の活発な雲活動 大気を潜熱で加熱している

Change of surface level pressure (SLP) from M0 to M

Intensified Asian monsoon low (trough) Intensified Pacific (Atlantic) subtropical high in NH Intensified equatorial trough over the western Pacific

地上気圧分布と風ベクトル (Jul, 1997)

地上の気圧分布と風系分布 [7 月 ] 地上気圧分布と風ベクトル (Jul, 1997) 対流圏上部 (200hPa ) の高度分布と風系分布 [7 月 ]

モンスーン VS. 砂漠気候と 熱帯偏東風ジェット DRY WET (Koteswaram, 1958)

乾燥アジアと湿潤アジアの降水量の季節変化

梅雨 (Meiyu) ー特殊なモンスーン

梅雨前線の形成 変動に関わるいくつかの要素チベット高原とアジアモンスーンおよび太平洋高気圧 オホーツク高気圧 大陸性気団 乾いた大陸性気団 冷たいオホーツク高気圧 チベット高原 暖かい太平洋高気圧 湿った南西モンスーン気流

梅雨前線内の雲システムと豪雨の機構 ( 中国長江下流域 2001 年 6 月 ) 地球観測フロンティア研究システムと中国気象科学研究院の共同強化観測により解明 南アジアモンスーンと太平洋高気圧周縁からの湿った気流が合流して豪雨が発生

日本の降水量は どう変化してきたか? 異常気象レポート 2005( 気象庁 )

20 世紀における日本の年降水量の変化 長期的にはやや減少傾向? 年々の変動は大きくなっている? 全国 51 地点月降水量データ

日本の年降水量平年比と渇水発生地区数 1970 年代後半以降 渇水年が増加?

図 1.3.7 ( 上 ) 日降水量 100mm 以上および ( 下 )200mm 以上の日数の経年変化 1 地点あたりの年間日数 年々の値 ( 細線 ) と 11 年移動平均値 ( 太線 ) を示す 直線 ( 黒 ) は長期変化傾向

図 1 アメダス地点で 1 時間降水量が 50mm 80mm 以上となった回数 および日降水量が 200mm 400mm 以上となった回数

日本の降水強度の長期変化 (1898 2003) ( 時間降水量データにもとづく長期変化の解析 ) Fujibe et al.,2005

降水階級 1 3 8 10 における年間降水量 ( 全国の 4 年ごとの平均値 ) の長期変化図 1.3.10 強い雨 ( 階級 10) ほど増加傾向 弱い雨 ( 階級 1) ほど減少傾向にある

図 1.3.12 全国および地域別の各階級の降水量の経年変化率 ( 年平均 ) 全国および西日本について 95% 信頼幅を縦棒で示す

図 1.3.24 50mm 以上の日降水量の各期間における日数 ( 日 / 年 ) を ( 上段 ) 中国 ( 中段 ) 韓国 ( 下段 ) 日本で平均した時系列 東アジアでは どの国も春 ~ 秋を中心に強い雨 (50mm/day 以上 ) が増加している

地球温暖化 で アジアモンスーンはどう変化するか?

IPCC による 2100 年の降水量変化予測 (10 の気候モデルによる結果の平均 :B1 シナリオ ) 熱帯 アジアモンスーン地域の降水量は増加傾向だがモデル間のばらつきはかなり大きい

地球温暖化 に伴う日本付近 の降水変化の予測は?

気候モデルの予測でも CO2 増加により 強い雨の頻度が増え 弱い雨の頻度が減る傾向が現れている (Allen and Ingram, 2002 Nature) 弱い雨 強い雨

図 1.4.6 約 100 年後の日降水量 100mm 以上となる日の年間出現日数の変化 ( 単位 : 日 ) 2081~2100 年平均値と 1981~2000 年平均値との差

冬の日本の気候を支配するシベリア高気圧 ( とアリューシャン低気圧 )

冬の季節風による降雪量 ( 降水量 ) は 地球温暖化 (?) でどうなっているか? GOES-VIS, IR 2004. 1. 15 13JST http://weather.is.kochi-u.ac.jp/fe/00latest.jpg

日本海側の最深積雪平年比の経年変化 1960 2005

北日本日本海側と東日本日本海側の年降雪量の経年変化各値は年々の変動を取り除くため 5 年移動平均をしている

金沢における過去 45 年の冬季気温と降水量 (1961-2004) 気温と降水量 ( 降雪量 ) が逆相関で変動している 87/88 平均気温が 3 以上では降水量 ( 降雪量 ) が激減している

世界各地の冬季気温と積雪 降水 量の関係 降水量 北陸地域はぎりぎりの気温条件で降水 が雪となっている世界でも珍しい地域で ある 北陸地域の冬季降水量 積雪水量 変動は 気温が低い 高い ほど多い 少ない という 世界でも特異な特性を示している 温暖化 により 冬季季節風も弱まると 積雪も降水も同時に減少する 低 高

(Panagiotopoulos et al., 2003 過去 80 年のシベリア高気圧の変動 1980 年代後半から ユーラシア大陸の温暖化によりシベリア高気圧が弱まり 日本海側の冬の雪が急激に減少! 87/88

図 54 約 100 年後の年降雪量の変化量予測 (mm) 温室効果ガスの人為的な排出量が比較的高水準で推移する場合 (A2 シナリオ ) の予測結果で 2081~2100 年平均値と 1981~2000 年平均値との差 降雪量を降水量に換算した

まとめ : 全球 アジア 日本における降水量変動 変化過去数十年の傾向と 地球温暖化 実験の予測の比較 地球温暖化 実験が示している全球的降水量増加やアジアモンスーン降水量増加の傾向は まだ観測からは検出されていない 中国では過去数十年 梅雨前線が活発化 その北側 ( 黄河流域 内モンゴル地域 ) では 対照的に乾燥化が進行している 地球温暖化 実験結果も類似の結果を示唆している? 日本では 1960 年頃から降水量の減少傾向と共に 大雨と干ばつの頻度が共に増加している ( 変動度が増大している ) 地球温暖化 実験では むしろ増加傾向であるが 変動度は大きくなっているモデルが多い 日本 ( および東アジア ) の強い雨 ( 豪雨 ) の頻度は過去数十年 ~100 年 増加傾向 弱い雨の頻度は減少傾向 ただし 1980 年代以降 地球温暖化 実験結果も 同様な変化を示している 冬季の季節風 ( モンスーン ) と寒気団の南下は 1980 年代以降 急激に弱まり 暖冬傾向が続き 日本海側の降 積雪は大幅に減少している 地球温暖化 実験でも 冬季モンスーンの弱まりは顕著で 日本海側の降雪 積雪は大幅に減少する予測となっている 冬季季節風の弱化はシベリア高気圧の弱化と関連しているが 地球温暖化 実験では むしろ北太平洋上の大気循環の変化が関係している

水資源確保 水災害防止の視点からみた 21 世紀の降水変化の特性と課題 梅雨期は増加の可能性もあるが 年降水量は減少か増加か微妙? 干ばつと洪水 ( 豪雨 ) の頻度が共に大きくなる可能性 夏季降水量変化の予測は非常に難しい ( 梅雨前線のわずかな位置のちがいで大きく傾向は変わる ) 冬季の積雪による水資源の激減の可能性 山岳地域での変化の量的予測 推定が重要?