酵母 Lipomyces による油脂大量生産の可能性 酵母での油脂生産の研究は 19 世紀にはじまった先駆的研究であったが, 戦後コスト的な意義を問われ, 一時衰退する 著者らはそのような状況の中地道に研究を続け, 発酵 により燃料油脂を生産する第一人者となった Lipomyes を用いた油脂生産では, バイオエタノールのようなエネルギーを使う蒸留工程がなく, 非食原料である木質糖化液に多く含まれる五炭糖やバイオディーゼル生産の副産物グリセロールをそのまま油脂に変換できるメリットを持つ 斜陽といわれた研究を地道に続け, 現代に花開かせた著者に敬意を表すとともに, 事業の成功を祈っている 長沼孝文 1. はじめに植物油脂は食料や工業製品の原料として重要であるが, 我が国における自給率はカロリーベースで 2% と極めて低い 現在は, 量 質 価格のいずれにおいても満足できるものが輸入されているが,2011 年には世界人口が 70 億人を突破し, 今後の開発途上国における植物油脂利用を鑑みるといつまでもこの状況が継続できるという保証はない 他方, 我が国のエネルギーについてみてみると自給率は 4%( 原子力発電を除く ) と低く, 順次入手が困難になると推定される化石燃料に大きく依存している そのため, 太陽光や水力などの再生可能 ( 自然 ) エネルギー生産に掛かる期待は大きく, 再生可能エネルギーの使用が増えることで CO 2 による地球温暖化への負荷も低減できる バイオマスエネルギーは, 再生可能な生物由来の有機性資源からエネルギー生産をおこなうもので,EU 諸国における菜種などの油料作物から得た油脂をバイオディーゼル (BDF) として利用するのもその類である 1) 日本においては, 油料作物を栽培してそこから油脂を得て, これを BDF に利用することは作付面積的にも気候的にもたやすいことではない しかも, 冒頭で述べたように, 植物油脂は輸入に大きく依存しており世界人口の著しい増加によって食料としての供給がおぼつかない状況が容易に想定されるのに, さらに燃料として植物油脂を使うことな どかなり難しい それ故, 油料作物に代わって植物性油脂が生産できる手だてがあれば, 植物油脂やそれを原料とする BDF の供給に役立てられる 日本が世界に誇れる技術は多いが, その一つに発酵がある これを利用して微生物に油脂を作らせられれば, 広い土地を必要とせず, 気候条件の影響を受けにくく, 通年的に植物油脂代替品を得ることが可能になる 本稿では, 酵母 Lipomyces における油脂生産研究のなかで 最近おこなった油脂大量生産に関する実験の成果と実証試験への取り組みについて記述した 2.Lipomyces( 個々の菌体 ) における油脂生産 1878 年に端を発した微生物油脂の研究 2) は, 第一次 第二次の世界大戦時には油脂不足を補うための緊急用として工業生産を目指しての検討がなされた そして, これを契機として油脂生産微生物の探索や油脂合成のメカニズム解明もおこなわれたが, 油脂の需給が安定してくるのに従って微生物油脂に関する研究は衰退した 3) Lipomyces 酵母 ( 第 1 図 ) は 1946 年に文献上に登場した偏性好気性菌で, 顕微鏡下において明瞭に観察できる菌体内脂肪球として, 中性脂質 ( 主構成脂肪酸 : オレイン酸, パルミチン酸 ) を蓄積する特性を持つ これ以外にも菌体外に保水性や保肥性に富む粘性多糖を生産する性質もある また, 菌体表面において Challenge to Fat Mass-Production of Yeast Lipomyces Takafumi Na g a n u m a(department of Biotechnology, Faculty of Life and Environmental Sciences) 884 醸協 (2012)
第 1 図 Lipomyces starkeyi CBS 1807 アミラーゼ活性を有するため 4), でんぷんの資化が可能である この酵母の研究を始めてから 40 年以上になるが, 本稿の主題である 酵母 Lipomyces による油脂大量生産の可能性 を記述する前に, 約 35 年間に亘って研究してきた油脂生産について述べる この期間における油脂生産とは, 個々の菌体当たりの油脂生産 蓄積量 ( 油脂量 / 10 8 菌体, 脂肪球の大きさと見なしても良い ) を指していた ここにおける油脂生産と菌体増殖の関係は菌が取り込んだグルコースを代謝上拮抗的に利用するとみなして, 培地や培養条件のような菌を取り巻く環境要因, 特に培地成分がこれらの代謝におよぼす影響を調べた この過程で 生物の代謝は環境によって制御される, 能力を引き出すために我々がやるべきことは を強く意識するようになり, この理念は今の油脂大量生産に関する研究の根底となっている 第 2 図に Lipomyces starkeyi の増殖と油脂生産量におよぼす培地 C / N 比と Zn 濃度の影響を合成培地で調べた結果を示した 5) C / N 比を変化するよりも Zn 量をわずかに変える方が油脂生産は強く影響された 油脂生産代謝に関係する酵素を選び,Zn の影響を粗酵素実験で調べ, それを基に描いたのが第 3 図である 培地への Zn 添加量の増加は菌体内の Zn 濃度を高める 油脂生産に必要な NADPH を合成する 6-phosphogluconate dehydrogenase, クエン酸を開裂してアセチル CoA を生成する ATP citrate lyase, 脂肪酸の相手となるグリセロールを供給する Glycerol-3- phosphate dehydrogenase(g3pdh) は Zn 存在下で活性低下が引き起こされた 特に G3PDH は Zn 濃度を高くすると著しく活性が阻害され 6), これが培地 Zn 濃度を高くしたときに, 個々の菌体当たりの油脂 第 2 図培地の C/N 比と Zn 濃度が油脂量 /10 8 菌体に及ぼす影響 ( グルコース濃度 3%) 第 3 図 Lipomyces starkeyi の油脂生産代謝におよぼす Zn の影響生産量が抑制される最大の代謝要因となっていることが分かった 3. 油脂大量生産への方向転換とその成果 酵母による木質系バイオマスの軽油代替燃料変換に関する研究開発 で NEDO 技術開発機構の委託研究 ( 酒総研 : 家藤治幸 正木和夫研究グループと共同, 第 107 巻第 12 号 885
後半に不二製油参加 )( 平成 19-22 年度 ) を受け, それまでの個々の菌体当たりの油脂生産量 ( 油脂量 / 10 8 菌体 ) を対象とすることからの方向転換が必要となった 即ち, 菌体が消費した糖をどれだけ油脂に変換したのかを表す油脂生成率 ( 油脂生産量 / 糖消費量 ) が 20% で, 含油量 ( 菌体油脂量 / 乾燥菌体量 ) が 50% に達することが NEDO 受託の必須条件であった また, 大量生産を考えると, これら以外に, 一定培養液量当たりの油脂生産量 ( 油脂量 / 1L 培養液 ) [ 菌が添加した糖を十分に消費してそれを油脂に効率良く変換する能力 ] が高くなることも重要項目とした 1) 油脂酵母の選定これまでは,Lipomyces starkeyi を対象として研究をおこなってきたが, 油脂の大量生産を目指していくにあたって, はたしてこの酵母に未来を託して良いのかが疑問となった そこで, これまでに報告 7) されている油脂生産酵母の幾つかを選んで油脂生産量を調べた ( 第 1 表 ) この場合, それぞれの酵母における油脂生産のための最適培地組成や最適培養条件が異なるであろうことは十分に考えられたが, ここでは各対象菌とも同じ条件で実験をおこなった 木質に多く含まれるグルコースとキシロース ( 木糖 ) からの油脂生産は酵母間で違いがあった Lipomyces 属の kononenkoae はグルコースとキシロースの両方で,starkeyi と tetrasporus はキシロースで油脂生産量が多かった 一方,japonicus は両糖からの油脂生産は活発でなく, 対照として用いた Saccharomyces cerevisiae と殆ど同じレベルでしかなかった Rhodosporidium toruloides はグルコースとキシロースから,Rhodotorula glutinis はグルコースからの油脂生産量が多かった この実験結果およびこれまでの研究成果が活かせることや, 野外から分離した菌株の多くが starkeyi であったことを踏まえて, グルコースとキシロースからの油脂大量生産を検討する基本菌株は,Lipomyces starkeyi CBS 1807(Type strain) とした 2) 培地環境要因の中で最も影響が大きいものとして, 培地に関する検討をおこなった 8) 油脂生成率, 含油量, 油脂生産量, そして糖の資化能力が低いと糖濃度を上げても油脂生産量は多くならないので糖を消費できる能力 ( 糖消費率 = 消費糖量 / 培地添加糖量 ) の,4 つをメルクマールにしたレーダーチャートを作成し, 培地間で比較した ( 第 4 図 ) グルコース 3% において R. L. Starkey の培地 3) と LS 培地 9) は油脂生成率と含油量は高かったが, 油脂生産量とそれの基になる糖消費率がかなり低く, 糖濃度をこれ以上高くしても油脂生産量の増大は見込めないと判断した グルコースを 10% にまで上げると,W 培地 10) は油脂生産のポテンシャルの低さが現れた YEPD 培地 11) と S 培地 10) では何れの測定項目とも高い値を示したが, 特に YEPD 培地で糖消費率が,S 培地で油脂生成率と含有量が高かった 両培地は調製が簡単な天然培地や半合 第 1 表グルコース キシロースからの油脂生産 グルコース キシロース 油脂量 (g/1l 培養液 ) (Saccharomyces cerevisiae NBRC 0378 0.4 0 ) Cryptococcus albidus NBRC 0378 1.0 1.1 Geotrichum andidum NBRC 4601 0.2 0.2 Guehomyces pullulans NBRC 1232 1.0 0 Lipomyces japonicus JCM 7254 0.2 0.1 Lipomyces kononenkoae IFO 10375 4.0 3.5 Lipomyces lipofer CBS 944 2.6 2.8 Lipomyces starkeyi CBS 1807 2.1 4.5 Lipomyces tetraspous CBS 5910 2.0 3.3 Rhodosporidium toruloides NBRC 8766 3.5 2.4 Rhodotorula gulutinis JCM 5949 2.9 1.3 ( 糖濃度 :3%) 886 醸 協 (2012)
第 4 図各培地の特徴とグルコース濃度 3,10% における油脂生産 ( フラスコ振とう培養 (120rpm,25 ),Lipomyces strkeyi CBS 1807) 成培地であるが, 構成成分コストを計算すると S 培地 [(NH 4 ) 2 SO 4 :5g,KH 2 PO 4 :1g,MgSO 4 7H 2 O: 0.5g,NaCl:0.1g,CaCl 2 2H 2 O:0.1g, 酵母エキス : 1g / 培地 1L] のほうが遙かに安価である 将来油脂の工業的生産を行うことを考慮すると S 培地は利用しやすいと考えられる 第 4 図中には各培地に含まれる窒素 (N) 量も示した R. L. Starkey の培地は窒素無添加であるのに対して,LS 培地は N を 1.1 g 添加してあるが, 油脂生産に関してほぼ同じ様相を呈した また,S 培地と LS 培地は共に N 1.1 g 添加であるが,S 培地の方が油脂生産性に優れていた 先の第 2 図に示した個々の菌体当たりの油脂生産量 ( 油脂量 / 10 8 菌体 ) のみならず, この第 4 図の一定培養液量当たりの油脂生産量 ( 油脂量 / 1L 培養液 ) においても, 油脂生産に大きな影響を与えるのは培地 C / N 比ではなくて, 培地構成成分の質と量であることが明確に示された S 培地を構成している成分について, 油脂生産量を多くする要因を検討したところ, 酵母エキスの添加量や種類 ( メーカー ) に影響を受けた また, 糖源がグルコースの場合には培地の浸透圧を高くすることで, キシロースの場合には培地の Fe(3 価 ) 濃度を高くすることで, 油脂生産量は多くなった 3) 培養条件イ )ph Lipomyces を初発 ph 5 の培地で培養を始めると, 培養経過に伴って ph は下がり定常期には 2 以下にまで低下する この ph 低下は菌体内酵素の活性低下の要因であり, 油脂代謝にも悪影響をおよぼしているとして, 培養を通して一定の ph が保てるように水酸化ナトリウム添加による ph コントロールをおこなった ( 第 5 図 ) 糖源をグルコース 10% およびキシロース 7% にした何れの培地においても,pH を 3.8 にコントロールすることで油脂生成率, 油脂生産量共に高い値となった 12) ロ ) 溶存酸素濃度偏性好気性の Lipomyces の油脂生産には, 溶存酸素濃度は重要な因子として作用することが容易に推定できる 生育に伴って減少する溶存酸素が培地中に多く残存, 少なく残存, 残存しないもの三つの場合についてジャーファーメンター培養により検討した 油脂生成率も油脂生産量も高かったのは溶存酸素が培地中に残存しないものであったが, この系では油脂生産速度がかなり低下した この欠点を補うために, 飽和溶存酸素量の 10% が維持されるよう制御する培養をおこなったところ, 溶存酸素が残存しない系よりも, 約 4 日間も早く油脂生 第 107 巻第 12 号 887
第 5 図培地 ph を 3.8 にコントロールした場合の油脂生産 ( ジャーファメンター条件 : 通気量 1L/min, 撹拌数 100rpm) 産量が最高となり, 量的にも遜色なかった 12) 4)Lipomyces による油脂生産の評価第 2 表に,Lipomyces starkeyi CBS 1807 を培養する条件と, その条件下での油脂生産について示した キシロースは培地濃度が高いと lag phase が現れるため 7% としてある 両糖共に, これらの条件で 200 時間の培養をおこなえば油脂生成率 20%, 油脂含量 60% になり,NEDO 受託時の数値目標がクリアできた 油脂含量 60% は大豆の 17%, パームの 20% 13) よりも高い値である 培養液 1L 当たりの油脂生産量はグルコース 10% 培地で 20 g, キシロース 7% 培地で 14 g の値を示した Lipomyces starkeyi CBS 1807 の全菌体脂質脂肪酸の組成比は色々な培養系で得られた値を平均した場合で, パルミチン酸 32%, ステアリン酸 10%, パルミトレン酸 5%, オレイン酸 49%, リノール酸 3% であ った 不飽和脂肪酸全体では, パーム油の 49% 14) よりも高い値であった 得られた成果を総合的に評価すると,Lipomyces による油脂の大量生産の可能性が高いことは示唆されたが, 生産コストを考慮すると現在輸入されている植物油脂の価格や市販の軽油と比べて, 現状では採算が取れるレベルにはない しかし, はじめに に書いたように植物油脂も, ディーゼル燃料の原料である化石燃料の石油も, 現在のように安価で容易に輸入できる保証はない それゆえ,Lipomyces のような油脂微生物を用いた植物油脂代替品の工業的生産システムを構築しておくことは必要である 4. 油脂大量生産を可能にする Lipomyces の能力 Lipomyces による植物性油脂の生産を産業として成り立たせるためには, 再生可能な安価あるいは余剰の 第 2 表 Lipomyces による油脂生産の見積 糖源 グルコース, キシロース 培地 無機塩 酵母エキス培地 培養方法 ph,do 濃度制御通気撹拌ジャー培養 培養時間 200 時間,36 回 / 年 油脂生成率 ( 油脂生産量 / 消費糖量 ) 20% 含油量 ( 菌体油脂量 / 乾燥菌体量 ) 60% 油脂生産量 ( 油脂量 /1L 培養液 ) 20g(Glc10%),14g(Xyl7%) 888 醸協 (2012)
第 6 図 Lipomyces 野外菌の各糖における油脂生産 ( 糖濃度 3%) バイオマス資源の活用が要求される そしてこれらからの油脂大量生産に対応できる菌株の探索と, これとリンクさせながら各種糖原料から短期間で多量の油脂が得られる培養条件の開発が必要である 木質由来の糖を基質にする場合, 糖化処理をおこなうとセルロースやヘミセルロース由来の多種類の糖が糖化液中には存在する これらの単糖やオリゴ糖から油脂が生産できれば, 糖化液を無駄なく利用でき, コスト低減につながる 野外から分離し研究室に保存してある数百の菌株の一部について, これらの糖からどのくらい油脂を生産するのかを調べて第 6 図に示した それぞれの単糖やオリゴ糖に対する菌株間の違いは大きく, 各糖に対応する菌株の選定は重要であることが分かった 第 6 図には, でんぷん ( 溶性 ) やグリセリンからの油脂生産についても示してある でんぷんからの油脂生産は多くの菌株でみられ, でんぷんを含む余剰農産物や農産廃棄物の利用が可能であることが分かった また, 植物油脂をエステル化する際に生じる副成物のグリセリンに対しては, 試薬レベルではあるが多くの油脂を生産する菌株が存在した この結果は, 植物油脂をエステル化して BDF にした際に発生する副成物グリセリンからの,Lipomyces による油脂生産の可能性を強く示唆した 5. 実証試験を見据えた油脂大量生産への挑戦山梨県西部に位置する南アルプス市は, 交流 6 次産業化の一つとして, 農産廃棄物から微生物を利用して 油脂を生産する取り組みが必要であるとの中込博文市長の決断により 山梨大学との共同研究を開始した 酵母 Lipomyces による油脂生産メリットとしては, イ )BDF 製品原料 食料など広範囲に利用できる植物性油脂が得られる, ロ ) 油料作物栽培のように広大な農地を必要としない, ハ ) 天候に影響を受けない発酵タンク培養が可能なため安定供給ができる, ニ ) 短期繰り返し培養が可能なため油料作物に比べて生産性が高い 14), ことである 第 7 図に山梨大学, 南アルプス市および企業が JST の支援を受けて平成 24 年 10 月から研究を開始し数年後の実証試験を目指している 低価値な再生可能資源を利用した油脂酵母 Lipomyces による植物性油脂の生産 システム図を示した このシステムが完成するためには1 利用価値が低いために安価となった糖原料の利用とそれに効率良く対応する菌株の探索, および低コストで簡単な原料処理方法の開発,2 短期間で多量の油脂が得られ, 簡便かつ低運転コスト培養条件の開発,3 効率良い菌体回収方法と油脂抽出 回収方法の開発, などが必要である 南アルプス市は桃やぶどうなどの果樹の生産が盛んで 例えばすももの生産量は全国第一位である 出荷できないものは廃棄されてしまうが, 廃棄果実中に含まれる糖を Lipomyces が効率良く油脂に変換できれば,BDF の原料となる植物性油脂を作りだすことができる また,Lipomyces は木質に含まれる糖から油脂が生産できるので, 糖化処理を必要とはするが果樹 第 107 巻第 12 号 889
第 7 図 低価値な再生可能資源を利用した油脂酵母 Lipomyces による植物性油脂の生産 システム の剪定枝も有望な糖源となる 一方, 同市は遊休農地化率 ( 耕作放棄地 / 地目 ) の高さが全国的にも有数であり, 此処でじゃがいもを生産し食料としたり緊急用として備蓄をおこなうものの, 余剰分や出芽して非食品化してしまったものは糖源のでんぷんとして供給し,Lipomyces による油脂生産を行わせることも想定している さらに, 栽培が容易でオリゴ糖が豊富な健康野菜のヤーコン, 残飯, 精米時にでる米糠などを糖源として考えている 第 8 図にじゃがいもでんぷん ( 馬鈴薯でんぷん試薬を使用 ) からの油脂生産を幾つかの菌株で調べた結果を示した 菌株間での差は大きく, ほとんど油脂を生産しない菌株から添加じゃがいもでんぷんの 10% を油脂に変換するものまでが存在した この結果を踏まえて, 生じゃがいもを用いて保存状態などによる品質の変化が油脂生産におよぼす影響を調べたり, そのような糖源から油脂が活発に生産できる菌株の探索や培養条件の開発をおこなっている また, 発酵タンク培養における運転コスト低減のために, 厳密な殺菌をしなくてもバクテリアのコンタミを抑えられるような低 ph 培養でも油脂が生産できる菌株や, 広い培養温度範囲で油脂が生産できる菌株の探索なども行なっている 第 8 図じゃがいもでんぷんからの油脂生産 ( 馬鈴薯でんぷん試薬 5%) 6. おわりに安価で不自由なく容易に植物油脂が入手できるため, 微生物油脂の研究は脂肪酸組成や代謝に関するものが散発的おこなわれてきたに過ぎず, 大量生産に関する本格的研究は殆どみられない しかし, 植物油脂の自給率の低さや世界的人口増加による輸入制限に対する 890 醸協 (2012)
危惧の表面化, そして地球温暖化抑制や化石燃料枯渇に対応できる再生可能エネルギーの一つとして BDF の利用が取り沙汰されるようになり, 微生物による油脂生産も少しずつではあるが注目されてきている Lipomyces による植物性油脂の大量生産を目指す研究は, 約 5 年前に開始し, 基礎研究を経て産業化への道を, ほんの今歩み出したところである 簡単にいく話は一つもなく, 開発しなければならないことや解決しなければならない問題点は研究スタート時から山積状態であり, 更に次々と生じてきている それらに対応するためには先にも述べたが 生物の代謝は環境によって制御される, 能力を引き出すために我々がやるべきことは をモットーに,Lipomyces の大いなる能力を信じて, それらを引き出すべく不断の努力をしなければならない そして, 研究成果を逐次 低価値な再生可能資源を利用した油脂酵母 Lipomyces による植物性油脂の生産 システムの構築に利用し, 早期に実証試験をおこないたいと考えている 謝辞 Lipomyces による油脂大量生産の研究は NEDO 技術開発機構からの委託を受けたことが基点になっていますが, そのプロジェクトに誘って下さいました酒類総合研究所の家藤治幸先生および正木和夫先生の存在無くしては, 今はあり得ません また 両先生および山梨大学飯村穰先生から研究に対する取り組み方を学ばせて頂いたお陰で, 現在, 油脂大量生産への挑戦をおこなうことができています 心より感謝申し上げます 山梨大学生命環境学部生命工学科 文献 1) 松村正利 サンケファフューエルス ( 株 ) 編 : バイオディーゼル最前線,39, 工業調査会 (2006) 2) 岩本浩明, 微生物による脂質の合成, 脂質化学 2( 船橋三郎他編 ):143, 共立出版 (1958) 3) R. L. Starkey:Lipid Production by a Soil Yeast, J. Bacteriol., 51, 33(1946) 4) Guy-J. Moulin and P. Galzy: Agric. Biol. Chem., 43(6), 1165(1979) 5) T. Naganuma, Y. Uzuka and K. Tanaka: J. Gen. Appl. Microbiol., 31, 29 (1985) 6) 長沼孝文 : 生物科学,41(2), 90(1989) 7) 本江元吉, 微生物による油脂の生産, 微生物工業 ( 朝井勇宣編 :451, 朝倉書店 (1956) 8) 家藤治幸, 長沼孝文 : 平成 21 年度バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発 ( 先導, 要素 ) 成果報告会 ( 独立行政法人新エネルギー 産業技術開発機構 ),85( 平成 22 年 2 月 11 日 ) 9) 長沼孝文, 兎束保之, 田中健太郎 :Nippon Nougeikagaku Kaishi, 59(12), 1263 (1985) 10) 是永博, 長沼孝文, 兎束保之, 田中健太郎 : 農化,51(7), 449(1977). 11) R. M. Atlas, Microbiological Media(Ed. Lawrence C. Parks), 1011, CRC Press (1993). 12) 正木和夫, 家藤治幸, 長沼孝文 : 平成 23 年度バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発 ( 先導, 要素 ) 成果報告会 ( 独立行政法人新エネルギー 産業技術開発機構 ), 61( 平成 24 年 2 月 1 日 ) 13) 油生産型植物 (9 章 ): バイオマスブック,44, オーム社 (2009) 14) 正木和夫, 家藤治幸, 長沼孝文 : クリーンエネルギー,7(2010. 12) 第 107 巻第 12 号 891