IAIS における G-SIIs 監督規制の検討 一般社団法人日本損害保険協会国際企画部 (2018 年 2 月作成 ) ( ) 本資料を利用することにより発生するいかなる損害やトラブル等に関して 当協会は一切の責任を負いません 1
経緯 保険監督者国際機構 (International Association of Insurance Supervisors: IAIS) では G20 および FSB の委託を受け システム上重要なグローバルな保険会社 (Global Systemically Important Insurers:G-SIIs) の選定基準および適用規制を策定している 2012 年 5 月から選定基準 ( 案 ) に関する市中協議が 2012 年 10 月から適用規制 ( 案 ) に関する市中協議が実施された これらを踏まえて 2013 年 7 月 IAIS は選定基準および適用規制を策定し 両文書が FSB に承認された 同時に FSB が同基準に則って選定した G-SIIs のリストを公表した 2014 年以降 毎年 11 月に G- SIIs のリストを更新することとされたが 2017 年の公表は見送られた (P.7 参照 ) 2015 年 11 月から選定基準の改定案および G-SIIs 選定等に関わる重要な概念である非伝統的保険 非保険 (Non-traditional Non-insurance:NTNI) 活動 商品に関する市中協議が実施された これらを踏まえて 2016 年 6 月 IAIS は選定基準の改定版 (2016 選定基準 ) および 保険商品特性のシステミックリスク に係る文書 (NTNI 活動 商品に関する市中協議文書を変更 ) を公表した ( 次頁以降参照 ) 2017 年 11 月からシステミックリスク対応における事業活動ベース手法の中間市中協議が実施された (P.5 参照 ) これまでの市中協議に際して損保協会が提出したコメントは以下を参照 http://www.sonpo.or.jp/efforts/international/regulations/iais/gsiis.html 2
2016 選定基準の概要 ( 参照 :2016 年 6 月 IAIS 公表文書 ) G-SIIs 評価プロセスとして 次の 5 つの段階 ( フェーズ ) が提案されている フェーズ Ⅰ:IAIS の基準を満たす保険者 (50 社程度 ) を対象に毎年データを収集する フェーズ Ⅱ: データの品質を確認したうえで 定量的な 17 指標 ( 下図参照 ) に基づく保険者のスコアリングを実施する その後 定量的閾値を設定し 保険者を 2 つのグループに区分する フェーズ Ⅲ: 定量的閾値を超過した保険者および IAIS 関連当局の裁量により加えられた保険者について 追加的な定量的および定性的分析により潜在的な G-SIIs を選定する 再保険の補足的評価を実施し 保険者の再保険活動が金融システムに与えるリスク等も評価 フェーズ Ⅳ: 潜在的な G-SIIs との情報交換を行う フェーズ Ⅴ:G-SIIs のリストを FSB に推薦する 指標ベース評価 : 次の各指標に設定されたウェイトに基づき計算 評価される カテゴリー指標指標ウェイト ( 合計 ) 規模 総資産 総収入 2.5%(5%) グローバルな事業母国外で発生する収入 事業を行う国数 2.5%(5%) カウンターパーティー 金融内資産 金融内負債 再保険 デリバティブエクスポージャー 6.7%(26.8%) 相互関連性 マクロ経済エクスポージャー デリバティブ取引 (CDS/ 類似したデリバティブ商品 ( 売建 )) 金融保証 変額保険商品の最低保証 7.5%(22.5%) 保険契約者以外に対する負債および非保険収入 短期資金調達 負債流動性 7.5%(22.5%) 資産流動化レベル3 資産 ターンオーバー 6.7%(13.4%) 代替性特定保険種目の保険料 5%(5%) 基本的に スコアは各保険者の指標ごとの数値をサンプル保険者の合計値で割り ウェイトを乗ずることで算出される ただし 再保険 デリバティブ取引 (CDS/ 類似したデリバティブ商品 ( 売建 ) 金融保証 については指標スコアの計算に市場全体の規模や発展等の影響を反映させる目的で絶対参照値 (absolute reference value) を分母に導入する 3
保険商品特性のシステミックリスク に係る文書の概要 ( 参照 :2016 年 6 月 IAIS 公表文書 ) IAIS は 2013 年版の選定基準における保険者のシステム上の重要性を評価する主な要素である NTNI 活動 と 相互関連性 には概念上の重複があること 2015 年の NTNI に関する市中協議においてステークホルダーから NT の定義は混乱を招くとの見解が示されたこと等を踏まえて G-SIIs 評価における NTNI 商品の定義の使用を止め より粒度が高く微妙な差異に対応した商品特性評価を行うことを決定した 本文書では 潜在的にシステム上の重要性を有する保険商品特性が説明されている ( 保険者をエクスポージャー 資産流動化の波及経路を通して 重大なマクロ経済リスク ( 保険者の財務状況が広範な経済と密接に相関しているエクスポージャー 信用保証を含む ) あるいは流動性リスク ( 契約者取付リスクへのエクスポージャー ) にさらす特性を有する商品が 保険者の潜在的なシステム上の重要性を高めるとされている ) 評価枠組 ( 簡略図 ) 潜在的なシステミックな特性を示すリスク波及経路システミック イベント マクロ経済エクスポージャー 重大な流動性リスク エクスポージャー 資産流動化 ドミノ効果および損失のカスケード ( 累積 ) 契約者取付および投げ売り マクロ経済エクスポージャーに関しては 契約特性に基づくエクスポージャーの測定手法 ( 保険者のバランスシート全体から発生するマクロ経済リスクに対応するために 手法を今後のレビューでどのように発展させるかの検討を含む ) 等が示されている 重大な流動性リスクについては G-SIIs 選定のためのリスク測定に係る主要事項 ( 入手の遅延 勘定価格に関係する経済上のペナルティ ) 等が説明されている 4
事業活動ベース手法 中間市中協議案の概要 ( 参照 :2017 年 11 月 IAIS 公表文書 ) 現行選定基準 (2013 年策定 2016 年改定 ) は事業体ベース手法 (EBA) を採用しており 個別保険者が破綻した場合に広範な金融システムへ脅威をもたらすかどうかに焦点を定めている 一方 EBA では 特定のリスクに同時にさらされる複数の保険者が集合的に行動したり 経営難に陥ったりした場合に生じうるシステミックな影響を完全には評価できないとの指摘があり IAIS は別途 システミックリスクに係る事業活動ベース手法 (ABA) を検討している 中間市中協議案では 次の4 段階でABAを検討することとされている 1 システミックリスクをもたらす可能性がある活動の特定 2 1で特定された活動から生じうるシステミックリスクを軽減する既存政策措置の把握 3 既存政策措置の十分性評価 既存政策措置で十分に軽減されないリスクの特定 4 ( 予防的 是正的 ) 政策措置の強化 追加 中間市中協議文書に決定的な提案は含まれていない IAIS では 中間市中協議に寄せられた意見を参考に検討を進め 2018 年末に予定している次回市中協議にて ABA(EBA との関係性等 ) より詳細な政策措置案 G-SIIs 選定基準の改定案等を扱うとしている ( 全体の検討は 2019 年に完了し 改定されたシステミックリスク対応枠組みは 2020 年に導入される予定 ) 5
適用規制の概要 ( 参照 :2013 年 7 月 IAIS 公表文書等 ) G-SIIs は下表の監督規制の対象となる 加重監督 実効的な破綻処理 上乗せ資本 (Higher Loss Absorbency: HLA) IAIS の保険基本原則 (Insurance Core Principles: ICPs) および FSB の システム上重要な金融機関への監督の密度と実効性に関する勧告 に基づく措置を実施する 措置にはシステミックリスク管理計画 (Systemic Risk Management Plan: SRMP) の策定 流動性計画 管理の強化などが含まれる グループワイド監督者は連結 グループワイド監督のための直接的なアプローチが確実に適用されるよう 持株会社に直接的な権限を有する FSB の 金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性 に基づき 危機管理グループ (Crisis Management Groups: CMGs) の設置 再建 破綻処理計画 (Recovery and Resolution Plans: RRPs) の策定 破綻処理実行可能性評価の実施 金融機関ごとのクロスボーダーの監督協力合意などの措置が実施される NTNI 事業の伝統的保険事業からの分離に関する計画 ポートフォリオ移転およびランオフ アレンジメントの潜在的利用 既存の契約者保護 保証制度など 保険事業の特性が考慮される 初めに G-SIIs を対象とする HLA 要件の土台となるものとして 非保険子会社を含む グループの全活動に適用される簡明なベーシック資本要件が策定された (2014 年 10 月 ) HLA は BCR に上乗せして設定され G-SIIs の国際金融システムにおけるシステム上の重要性を反映した追加資本要件という意味を持つ G-SIIs には BCR および HLA の所要資本の合計を下回らない額の資本の保有が要求される HLA 要件は 2015 年 11 月に最終版が IAIS で採択され 同月 G20 によって承認された HLA 要件の適用開始時期は 2019 年 1 月が予定されている HLA BCR の詳細については 以下のページを参照 http://www.sonpo.or.jp/efforts/international/regulations/international/capitalstandard.html 6
G-SIIs 選定 ( 参照 :2016 年 11 月 2017 年 11 月 FSB 公表文書 ) G-SIIs 選定は毎年 11 月に実施される 以下の 2016 年版リストに前年版からの変更は無かった Aegon N.V.( 蘭 ) Allianz SE( 独 ) American International Group, Inc.( 米 ) Aviva plc( 英 ) Axa S.A.( 仏 ) MetLife, Inc.( 米 ) Ping An Insurance (Group) Company of China, Ltd.( 中 ) Prudential Financial, Inc.( 米 ) Prudential plc( 英 ) 2017 年 11 月 21 日 FSB は以下の内容を含む声明を発表した 2017 年版リストは公表しない 2016 年版リストに掲載された上記 G-SIIs は引き続き適用規制の対象となる FSB は IAIS による保険セクターのシステミックリスクに対する 事業活動ベースのアプローチ の開発を歓迎し 奨励する FSB は 2018 年 11 月にその時点の上記アプローチの開発に係る進展に基づいて 状況をレビューする 7