精神科救急情報センターの機能等

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3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

賀茂精神医療センターにおける精神科臨床研修プログラム 1. 研修の理念当院の理念である 共に生きる 社会の実現を目指す に則り 本来あるべき精神医療とは何かを 共に考えて実践していくことを最大の目標とする 将来いずれの診療科に進むことになっても リエゾン精神医学が普及した今日においては 精神疾患 症

愛知県アルコール健康障害対策推進計画 の概要 Ⅰ はじめに 1 計画策定の趣旨酒類は私たちの生活に豊かさと潤いを与える一方で 多量の飲酒 未成年者や妊婦の飲酒等の不適切な飲酒は アルコール健康障害の原因となる アルコール健康障害は 本人の健康問題だけでなく 家族への深刻な影響や飲酒運転 自殺等の重大

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資料 3 全国精神保健福祉センター長会による自殺予防総合対策センターの業務のあり方に関するアンケート調査の結果全国精神保健福祉センター長会会長田邊等 全国精神保健福祉センター長会は 自殺予防総合対策センターの業務の在り方に関する検討チームにて 参考資料として使用されることを目的として 研修 講演 講

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)各 職場復帰前 受入方針の検討 () 主治医等による 職場復帰可能 との判断 主治医又はにより 職員の職場復帰が可能となる時期が近いとの判断がなされる ( 職員本人に職場復帰医師があることが前提 ) 職員は健康管理に対して 主治医からの診断書を提出する 健康管理は 職員の職場復帰の時期 勤務内容

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13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

2 保険者協議会からの意見 ( 医療法第 30 条の 4 第 14 項の規定に基づく意見聴取 ) (1) 照会日平成 28 年 3 月 3 日 ( 同日開催の保険者協議会において説明も実施 ) (2) 期限平成 28 年 3 月 30 日 (3) 意見数 25 件 ( 総論 3 件 各論 22 件

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助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

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どのような便益があり得るか? より重要な ( ハイリスクの ) プロセス及びそれらのアウトプットに焦点が当たる 相互に依存するプロセスについての理解 定義及び統合が改善される プロセス及びマネジメントシステム全体の計画策定 実施 確認及び改善の体系的なマネジメント 資源の有効利用及び説明責任の強化

緩和ケア研修会における e-learning の導 について 市 札幌病院精神医療センター副医 上村恵 ( 特定 営利活動法 本緩和医療学会委託事業委員会委員 )

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目次 1 目的 1 2 医療機関及び行政機関等との協力関係の確保 1 3 事業主体 1 (1) ドクターヘリ 1 (2) 防災消防ヘリ 1 4 定義 1 (1) ドクターヘリ基地病院 1 (2) 地域救急医療体制支援病院 1 (3) ヘリ救急搬送体制支援病院 2 (4) 出動区分 2 5 ドクターヘ

1 発達とそのメカニズム 7/21 幼児教育 保育に関する理解を深め 適切 (1) 幼児教育 保育の意義 2 幼児教育 保育の役割と機能及び現状と課題 8/21 12/15 2/13 3 幼児教育 保育と児童福祉の関係性 12/19 な環境を構成し 個々 1 幼児期にふさわしい生活 7/21 12/

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平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

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平成 30 年 ( 受 ) 第 269 号損害賠償請求事件 平成 31 年 3 月 12 日第三小法廷判決 主 文 原判決中, 上告人敗訴部分を破棄する 前項の部分につき, 被上告人らの控訴を棄却する 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする 理 由 上告代理人成田茂ほかの上告受理申立て理由第

11総法不審第120号

回数テーマ学習内容学びのポイント 2 精神医学の概念 精神医学の方法論と 精神障害の成 因と分類を理解する 3 精神疾患の診断法 診断の手順と方法 症状把握 検査 法について理解する 4 精神疾患の理解 1 症状性および器質性精神疾患 5 精神疾患の理解 2 精神作用物質による精神障害 6 精神疾患

認定看護師教育基準カリキュラム

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Transcription:

日本精神科救急学会医療政策委員会 ( 埼玉県立精神保健福祉センター ) 塚本哲司

2

トリアージ (triage) 疾病性および事例性を勘案し 精神科救急医療の対象となる事例を的確に選別し 適切な医療機関を紹介する なお 本人にとって最善の対応 でなければならないということは言うまでもない 非精神科救急事例 直ちに外来受診すべきか 任意入院の可能性 * 任意入院は入院治療の原則形態であることを忘れてはならない! 非自発入院治療の必要性 身体合併症事例として医療機関調整すべきか 身体科治療を優先すべきか 自傷他害の有無

地域生活支援本人や家族等からのクライシスコールを受け 問題への対応について助言することにより 相談者の不安を軽減させるとともに 緊急性を回避する

受診前相談の役割は 精神障害者の地域生活を支援することであり 単にその場の問題解決を支援することに止まらず 相談者の問題対処能力を高めるような対応することが求められる この対応こそが 精神科救急事例を減らすこと につながる

自殺対策への寄与 早期介入 ( 精神病未治療期間 (DUP) 短縮化 ) への寄与 精神障害者のアドヒアランス (adherence) 向上への寄与 家族への疾病教育機能 地域精神医療に対しインパクトを与える 地域精神保健福祉従事者へ危機介入に関する知見を還元するという教育的機能 災害時精神医療体制の基幹的機能

精神科救急医療の対象 非自発入院治療を要する 急性かつ重度の患者 すなわち 精神疾患による現実検討 (reality testing) の損傷と社会的不利益が最近 1 ヵ月以内に急速に生じており 改善のために急速な医学的介入が必要かつ有効な患者 および向精神薬による副作用が急に出現した事例や不安感や焦燥感が著しい事例など 外来治療が最適の選択肢であと判断された事例 なお 精神科救急医療施設への入院基準は 精神科救急医療ガイドライン 第 1 章 Ⅴ 節参照のこと

対応ガイドラインを整備する 相談電話機はナンバーディスプレー機能を活用する ( 一貫性のある対応をするためにも ) 相談電話機は録音機能を活用する ( 職員研修 にも活用できる ) リスクマネージメントについて検討し 対応手順等をあらかじめ定めておく

説明責任 (Acountability) を明らかにするため にも 業務実績をホームページ等で情報公開 すべきである 情報公開を行うためには 日々の業務統計作業をしっかり行う必要がある

広報 精神障害者やその家族が 必要な時に受診前相談にアクセスできるよう 市町村等の協力を得るなどして 相談電話の電話番号の広報に努める 精神科救急事例を減らすため 精神障害者やその家族が急性増悪時に対処できるよう あらかじめ備えておくスキルを提案する広報媒体を作成し配布する

業務統計 相談事例のデータベース化をすることで 対応に一貫性をもたせることができる 事業評価や説明責任 (accountability) を明らかにするためにも 業務統計作業は欠かすことができない

対応の質を維持するためにも 内部評価 ( 事例レビュー ) を定期的に行うべき 外部評価 ( 精神科救急医療体制連絡調整委員会や他の精神科救急医療体制を検討する会議等 ) を定期的に受けるべきである 常時対応型施設や病院群輪番型施設等の職員を対象とした事業報告会の開催を推奨する

機関相互の連携を図るためには 他機関の機能 ( その限界も含め ) やミッションを理解することが重要である 連携を確立するためには 精神科救急情報センターの職員が代わっても 事業や支援哲学の継続性 連続性が担保されることが前提となる

身体科医療機関および身体科救急医療相談機関と連携する際 精神科医療においては 事例を 疾病性 と 事例性 との 2 軸から検討するが 事例性 という視点が身体科医療にはなじみがないことが 身体科医療と精神科医療との間で摩擦を引き起こす大きな要因である 身体科医療機関と連携を図るためには この点に留意する必要がある

身体科を対象とする救急医療相談機関との相互理解を構築するよう努めるべく 意見交換等を定期的に行うことが望ましい 身体合併症事例の円滑な医療機関調整が図れるよう 身体科医療機関との相互理解を構築するよう努めることが望ましい

精神科救急事例への対応経験豊かな人材が 望まれる 精神科臨床経験の少ないスタッフで対応しなければならない場合には バックアップ体制の整備は必須である いずれにおいても 常時精神保健指定医等か らコンサルテーションが受けられる体制が必要 である

精神症状に関する知識 向精神薬とその副作用に関する知識 精神科医療機関の特性や機能に関する情報 近隣都道府県の精神科救急医療体制および精神科医療機関に関する情報 障害福祉サービス事業所等の社会資源に関する知識

身体疾患や検査データ 医学用語に関する知識 社会保障制度に関する知識 関係法令に関する知識 地理感覚

非精神科救急事例と判断した事例については 対応方法の助言や情報を提供するなどし 相談者の不安を軽減するとともに緊急性を回避する 単にその場の問題解決を支援することに止まらず 相談者の問題対処能力を高めるような対応することが求められる この対応こそが 精神科救急事例を減らすことにつながる

非救急事例においては精神科医療への依存が極めて高い事例 すなわち 医療で対処すべきでない問題 までも精神科医療にその解決を求める事例が散見される 必要以上に精神科医療への依存度が高いことが 結果として地域生活を困難なものにしているのかもしれない このような事例を生み出している背景として 相談員自身がもつ精神科医療への高い依存性があるのかもしれない

頻回相談事例への対応 ( 頻回相談事例化を防ぐ ) 不確実なものや未解決なものを受容する力 不確実な状況の中で わずかな希望をみつけるとともに その希望をたぐり寄せ掴む力 精神障害者のネガティブ ケイパビリティを高めることを 地域生活支援における課題として注目してもよいのではないだろうか

精神疾患の急性増悪に備えるということは 精神医療のコンシューマー (consumer) にとっ て アドヒアランス (adherence) の向上と表裏一体なこととして必要である このことに本人や家族 さらには精神保健医療福祉関係者も これまで十分な取り組みを行ってこなかったのではないか?

希死念慮を訴える事例への埼玉県精 神科救急情報センターの対応 受診前相談には 希死念慮を訴える相談が散見される これら事例の自殺切迫度を的確に評価し 自殺が切迫していると判断された事例に対し速やかに対応することが求められる 自殺リスクのアセスメント Saitama Suicide Intervention Scale & Guideline (SSISG) を作成し 相談者が希死念慮を訴えるすべての事例で評価を行っている

リスク低中高 精神疾患 あり 統合失調症 うつ病 AL 薬物 摂食障害 身体疾患 なし あり ( ) 自傷 自殺企図歴 あり 致死的 1 ヶ月以内 ( 企図頻回 自傷エスカレート ) 自殺の手段 考えていない 考えている 致死的手段 ( ) 自殺の準備 飲酒 薬物乱用 他者を巻き込む可能性 準備していない 準備している ( 致死的手段 遺書等 ) 酩酊 過量服薬 あり 家族 知人等 側にいる 側にいない 誰もいない 非協力 支援 求めている 求めていない 得られない 経済状況 困窮 借金 失業 家族 身近な人の死 なし あり 自死遺族 自殺意志の修正 可能 不可能

自殺に関する発言 即実行する 例 : 人生をやめたい 死ぬしかない とにかく楽になりたい 自殺したい理由 例 : リストラされた 自殺した家族の命日だから 本人の様子 例 : 淡々と話す 泣いている 投げやり 悲観的 精神科治療歴 あり なし 備考

事例 1 自殺の準備 準備している 自殺に関する発言 即実行する 自殺意志の修正 不可能 事例 2 自殺の準備 準備している 飲酒 薬物乱用 酩酊 過量服薬

相談者の個人情報を聴取する 相談者の承諾の有る無しにかかわらず 躊躇することなく警察署 消防署 家族に通報 ( 連絡 ) する 警察官等が到着するまで 出来る限り通話し続ける