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地磁気観測所テクニカルレポート第 6 巻第 1 号 1-9 阿蘇火山における岩石磁気の調査頁平成 21 年 3 月 1 TechnicalReporofheKakiokaMagneicObservaoryVol.6,No.1,pp.1-9,March2009 阿蘇火山における岩石磁気の調査 伊藤信和 ( 気象庁地球環境 海洋部海洋気象課 ) 澤田正弘( 地磁気観測所観測課 ) 山本輝明 ( 地磁気観測所女満別出張所 ) 重野伸昭 ( 札幌管区気象台技術部地震火山課火山監視 情報センター ) 2009 年 2 月 6 日受付,2009 年 3 月 13 日改訂,2009 年 3 月 17 日受理 要 旨 阿蘇火山の岩石磁気的性質の基礎資料を得るため,2003 年から 2004 年にかけて阿蘇中岳火口付近を構成している 3 つの地質体 ( 最新期火砕丘, 新期山体, 古期山体 ) の試料 47 個を採取して岩石磁気の調査を行った. その結果は以下の通りであった. (1) 中岳火口付近で採取した試料の残留磁化を常温で測定したところ数 A/m~ 数 10A/m の値が得られた. このことから測定した試料は一般的な玄武岩の磁化値 (10A/m~) に近いものと考えられる. また, 磁化の値は地質体ごとに異なる傾向を示すこと, 岩石試料の種類によっても異なる傾向を示すこと, 同じ露頭の岩石でも同じ磁化の値を示すとは限らないことも判った. (2) 段階熱消磁による残留磁化の変化を調べた結果からは地質体の異なる試料は異なる熱消磁の傾向を示すことが判った. (3) 今回初期帯磁率の測定を行い誘導磁化の量を見積もったところ, 中岳火口付近の試料の誘導磁化はおよそ 1 A/m であった. また一部の試料の初期帯磁率が 400 をこえたあたりから変化するという結果を得た. また, 帯磁率の温度変化を調査したところ, 一定温度までは緩やかに, 一定温度以上になると急激に帯磁率が変化する傾向がみられた. 1. はじめに地磁気観測所では阿蘇中岳周辺で地磁気全磁力観測を行い, 火山内部の熱消磁現象の調査及び解析を行っている. 全磁力観測から磁気モーメントの消失量が推定されるが, 磁気モーメントの消失量は, 温度上昇と岩石の磁気的性質に起因するため, 磁気的性質の把握は地下の熱的状態の推定に有用である. Tanaka(1993) は, 岩石の磁化測定はキュリー点以下では火口についての温度計としての機能を果たすと述べている. 本調査では阿蘇火山の岩石磁気的性質の基礎資料を得るため,2003 年から2004 年にかけて阿蘇中岳火口付近を構成している3つの地質体を対象に試料を採取して, 岩石磁気の調査を行った. 2. 岩石試料の採取阿蘇山はいくつもの火山から構成される複合火山 体で, 地磁気観測所では現在活動中の中岳火口付近で地磁気の全磁力観測を実施している. 中岳火口は噴出年代の異なる2 種類の溶岩流とその上位に堆積している火山砕屑岩層から構成されている. 本調査ではこの3つの地質体から試料採取した. 図 1に阿蘇山の中岳火口付近の地質及び試料の採取地点を赤丸で示す. 試料は, 岩石ハンマーで風化の進行していない 20cm 四方のブロック状に採取した. さらに, 二次的に磁気が付加されたかどうかを確認するためクリノメータで採取した試料に方位付けを行った. また,1 つの地点で10 個前後を目安に採取した. 採取した試料は石膏で固定した後 ( 図 2, 写真左 ), 岩石ドリルで直径 25mm の円柱状にくり貫き, 岩石カッターで高さ22mm に切断したものを磁化測定用の試料とした ( 図 2, 写真右の右側試料 ). また, 直径 7 mmの円柱状にくり貫き, 高さ15 mmに切断し

2 伊藤信和 澤田正弘 山本輝明 重野伸昭 図1 阿蘇の地質及び試料採取地点 赤丸 小野 渡辺 1985 より抜粋 白い破線は中岳第一火口の位置を示す 図2 石膏で固定した試料 写真左 及び整形した測定用試料 写真右 写真右について 円柱試料の直径の大きい方が磁化測定用試料 直径の小さい方が帯磁率測定用試料である

阿蘇火山における岩石磁気の調査 たものを帯磁率測定用の試料とした 図2 写真右 の左側試料 3 測定した 残留磁化の温度依存性の調査について は 次 の よ う な 段 階 熱 消 磁 法 で 行 っ た 試 料 を TSD1で目的の温度まで上昇させた後 試料の内部 3 測定の概要 磁化及び帯磁率の測定は京都大学防災研究所附属 火山活動研究センター 旧桜島火山観測所 の施設 を利用して行った 同センターには磁気シールド ルームが設置されており 直流磁場を100nT以下に おさえることができ 2次的な残留磁化の原因とな る磁気ノイズを遮断できる 測定はこのシールド ル ー ム 内 で 行 い 磁 気 測 定 に は ス ピ ナ ー 磁 力 計 Sc ho ns e d SSM2A を使用した 図3写真上 3 SSM2Aは10 10 8 Am2までの磁気モーメントを 測定することができる また 熱消磁装置には夏原 技研製 TSD1を使用した 図3写真下 熱消磁装 置は同時に8個の試料を最高800 まで加熱するこ とができる 以上 当該測定施設 装置の詳細につ いては味喜 1995 を参照されたい 本調査の目的は常温での残留磁化の大きさを測定 することと 残留磁化の温度依存性を調べることで ある また 初期帯磁率の温度依存性と帯磁率の温 度変化も調べた 常温における残留磁化の大きさは直接 SSM2Aで 図3 2A 写真上 スピナー磁力計 Schons edssm及び熱消磁装置 夏原技研製 TSD1 写真下 までその温度の熱消磁を達成させるため約15分温度 を 維 持 し た そ の 後 常 温 ま で 冷 却 さ せ て か ら SSM2Aでその温度での残留磁化の大きさを測定し た 調査した温度ステップは100 200 300 350 400 450 500 520 540 5 50 560 580 600 である 温度上昇の際に試料が化学変化するかを監視する ため 磁気測定の直後に初期帯磁率測定を毎回行っ た 帯磁率の測定には Ba r i ng o ni ns r ume n s社製 の帯磁率測定装置 MS2を使用した また 初期帯 磁率測定とは別に 同じ MS2を用いて2つの試料 について帯磁率の温度変化を調査した 4 測定結果及び考察 4 1 常温での残留磁化 中岳の最新期火砕丘 Na 新期山体 Ny 古期 山体 No から採取した計47個の試料を測定した 内訳は最新期火砕丘試料18個 新期山体試料17個 古 期 山 体 試 料1 2個 で あ る 常 温 で の 測 定 結 果 を 図4 表1 3に示す 測定した結果を地質体ごとに見ると中岳の最新期 火砕丘で採取した試料が0 7 16 6A/ m 新期山体 で採取した試料4 2 48 4A/ m 古期山体で採取し た試料が4 3 16 2A/ mであった 図4 中岳の最 新期火砕丘の試料と古期山体の試料は磁化の値の分 布範囲が類似している 一方 新期山体の試料は他 の地質体の試料に比べて磁化の値の幅が広く 値の 大きさも他の2つの地質体よりも大きい傾向を示し ている 図4 残留磁化値の分布状況 中岳最新期火砕丘試料 中 岳新期山体試料 中岳古期山体試料

4 伊藤信和 澤田正弘 山本輝明 重野伸昭 表 1 中岳最新期火砕丘試料の残留磁化測定結果 表 2 中岳新期山体試料の残留磁化測定結果 表 3 中岳古期山体試料の残留磁化測定結果 表 1~3の値は測定した磁気モーメント ( 単位 :A m2 ) を円柱試料の体積 ( 単位 :m 3 ) で割って残留磁化に変換して求めたものである. 偏角 伏角は測定した磁気モーメントの X,Y,Z 成分から算出した. 偏角, 伏角の欄が空白の試料は転石であることを示す. また, 偏角は東を +, 伏角は鉛直下を + で示す. 次に, 測定した個々の試料について見てみると, 同じ地質体で採取した岩石でも残留磁化の値はある程度ばらついた. 主な原因として, 試料には多孔質なものが含まれているがその間隙を体積に反映させていないこと, 岩石を構成する粒子の大きさの違い, 磁性鉱物の変質などが考えられる. 今回検討した火山砕屑岩の試料には塩基性のマグマが固結した黒色の多孔質の噴出物であるスコリアを含んでいるが, このうち最新期火砕丘から採取した試料 (Na3,4) は大きな残留磁化を示す. また, 数ミリ程度の礫を含む火山砕屑岩の試料 (Na8,16) は平均値と大きく外れる値を示した. 一方, 溶岩の試料についても残留磁化の値のばらつきが大きく, 試料の粒径の差異などから磁化値のばらつきを解釈するのは困難である. 残留磁化の値がばらつく要因については山体ごとの試料に含まれる磁鉄鉱などの磁性鉱物の種類や含有量の違いなど様々な要因が考えられる. また, いくつかの試料は風化しているが, 風化の程度と磁化の値との関係は明瞭にはできなかった. ちなみに過去の測定結果を見ると,Oa(1963) は阿蘇中岳試料が10A/m 程度,YasuharaandOa (1965) は阿蘇火山地域の試料 ( 俵山 ( たわらや ま ), 数鹿流 ( すがる ), 坂梨 ( さかなし ), 夜峰山 ( よみねやま ), 根子岳 ( ねこだけ ), 烏帽子岳 ( えぼしだけ ), 栃ノ木 ( とちのき ), 杵島 ( きしま ), 往生岳 ( おうじょうだけ )) が1 A/m 程度と報告している. 他にも Tanaka(1993) が溶岩及びスコリアの残留磁化を測定し, 溶岩試料は2 10-2 emu/g( 密度 2.5g/cm 3 とすると50A/m に相当 ), スコリア試料は 2 10-3 emu/g( 密度 2.0g/cm 3 とすると4A/m に相当 ) と報告している. 以上から, 測定した試料は一般的な玄武岩の磁化値 (10A/m~) に近いこと, 磁化の値は地質体ごとに異なる傾向を示すこと, 同じ地質体の岩石でも同じ磁化の値を示すとは限らないこと等が分かった. 4.2 段階熱消磁による残留磁化の変化上記の試料 47 個について段階熱消磁を行った. 測定結果を図 5~7, 表 4~6に示す. 縦軸には常温の残留磁化の値との比をとっている. ほとんどの試料が600 までに磁性を失った. 最新期火砕丘の試料は平均的に100 から600 までほぼ直線的に消磁された. 一方, 新期山体の試料は一部の試料を除いて200~300 までほとんど消磁されず, そこから急激に消磁された. 古期山体の試

阿蘇火山における岩石磁気の調査 5 図 5 中岳最新期火砕丘試料の段階熱消磁の結果 図 6 中岳新期山体試料の段階熱消磁の結果 図 7 中岳古期山体試料の段階熱消磁の結果

6 伊藤信和 澤田正弘 山本輝明 重野伸昭 表 4 中岳最新期火砕丘試料の段階的熱消磁の結果 ( 常温の磁化の大きさとの割合 ) 表 5 中岳新期山体試料の段階的熱消磁の結果 ( 常温の磁化の大きさとの割合 ) 表 6 中岳古期山体試料の段階的熱消磁の結果 ( 常温の磁化の大きさとの割合 ) 料は, 他の2つの山体の消磁曲線の中間のようなパターンを示した. 以上の結果から, 地質体の異なる試料は異なる熱消磁の傾向を示すと考えられる. 4.3 段階熱消磁に伴う初期帯磁率の変化帯磁率は物質を磁場中においた場合にその物質が磁化する割合をいい, 磁化した量/ かけた磁場の大きさ で表現される. 帯磁率の測定は磁性鉱物の変化の監視に有効である. 段階熱消磁による磁性鉱物の変化を監視するため各温度ごとに初期帯磁率を測定した ( 測定は常温に冷やしてから行った ). 結 果を図 8~10 に示す.400 前後から一部の溶岩試料の初期帯磁率が変化した. これは既存の磁性鉱物が別の鉱物に変化, あるいは変質したことなどが考えられる. しかし, 本調査では X 線回折等の分析を行っておらず, 磁性鉱物がどのように変化, 変質したかは不明である. また, 測定した初期帯磁率をもとに誘導磁化の量を見積もった. 常温における岩石の帯磁率がおよそ 0.01~0.05 であることから, 阿蘇山付近の平均的磁場 ( 約 47000nT) を用いた場合, その1~5%, 約 0.4~1.9 A/m となった.

阿蘇火山における岩石磁気の調査 7 図 8 温度変化に伴う初期帯磁率の変化 (Na1~18: 中岳最新期火砕丘試料 ) 図 10 温度変化に伴う初期帯磁率の変化 (No1~12: 中岳古期山体試料 ) 図 9 温度変化に伴う初期帯磁率の変化 (Ny1~17: 中岳新期山体試料 ) 図 11 温度変化に伴う帯磁率の変化 (Na4-2: 火山砕屑岩 ( 中岳最新期火砕丘試料 )( 上図 ),Ny6-2: 火山砕屑岩 ( 中岳新期山体試料 )( 下図 ))

8 伊藤信和 澤田正弘 山本輝明 重野伸昭 4.4 温度変化に伴う帯磁率の変化 2つの火山砕屑岩試料 (Na4-2: 最新期火砕丘試料,Ny6-2: 新期山体試料 ) について帯磁率の温度変化測定を行った. なお, 測定は岩石を加熱したままの状態で行った. 測定結果を図 11 に示す. 帯磁率の大きい経路が温度上昇, 小さい経路が温度下降である. 測定結果からは, 熱消磁が急激に進行し始める温度で帯磁率が大きく変化しているものと考えられる. また上昇, 下降の経路の違いは磁性鉱物の変化が影響していると思われる. 5. まとめ阿蘇火山の岩石磁気的性質の基礎資料を得るため,2003 年から2004 年にかけて主に中岳火口を構成している3つの地質体を対象に計 47 個の試料の採取を行い, 岩石磁気の調査を行った. その結果, 中岳火口付近の試料の残留磁化は数 A/m~ 数 10A/m と, 一般的な玄武岩の磁化値 (10A/m~) に近いこと, 残留磁化の値やその温度依存性は, 地質体ごとに異なり, 同じ地質体でも異なる性質を示すことが判明した. なお, 一部の溶岩試料の初期帯磁率が400 をこえたあたりから変化しており, 既存の磁性鉱物の変化が考えられる. 今後の課題としては,X 線粉末回折などの方法で熱による鉱物の変化, 変質等の検討が必要となると思われる. また溶岩試料については残留磁化の値のばらつきが大きいが, これは山体ごとの試料に含まれる磁性鉱物の種類や含有量の違いなどさまざまな要因が考えられ, 岩石磁気以外の調査も必要となるであろう. 他研究機関では山体の磁化構造の推定を目的とした航空磁気測量が行われており ( 田中他,2001, 宇津木他,2003, 宇津木他,2006), 複雑な磁化構造の推定の一助となるよう, また火山内部の熱的状態を詳細に推定できるよう, 今後ともデータの解析, 蓄積を行っていくことが必要と思われる. 謝辞岩石試料の整形及び磁化測定, 帯磁率測定は京都大学防災研究所附属火山活動研究センターの施設を利用させて頂きました. 各種作業にあたっては京都大学の味喜大介助教にご指導して頂きました. また, 測定データの解釈にあたっては地磁気観測所の大和田毅主任研究官, 藤井郁子主任研究官をはじめ, 多くの方々から助言を頂きました. あらためてお礼を申し上げます. 参考文献味喜大介, 磁気シールドルームによる低磁場環境下での岩石残留磁化測定システムについて, 京都大学防災研究所年報, 第 38 号 B -1,183-193,1995. 小野晃司, 渡辺一徳, 阿蘇火山地質図, 火山地質図 4 通商産業省工業技術院地質調査所,1985. Oa, M., Geomagneic sudy of Aso volcano, Spec. Conrib. Geophys. Ins., Kyoo Univ.,2,199-203, 1963. Tanaka, Y., Erupion mechanism as inferred from geomagneic changes wih specialaenion o he 1989-1990 aciviy of Aso Volcano, J. Volcanol. Geoherm.Res.,56,319-338,1993. 田中良和, 宇津木充, 茂木透, 松島健, 橋本武志, 長谷英彰, 阿蘇火山における空中磁気測量 (Eq-P004) ( ポスターセッション )( 演旨 ), 地球惑星科学関連学会合同大会予稿集 (CD-ROM),2001. 宇津木充, 田中良和, 橋本武志, 松島健, 北田直人, 阿蘇 中岳火口周辺における高密度空中磁気探査 (D31-P002)( ポスターセッション )( 演旨 ), 地球電磁気 地球惑星圏学会講演会講演予稿集, 114,124,2003. 宇津木充, 田中良和, 結城洋一, 阿蘇火山, 磐梯火山における空中磁気観測 (O203-P008)( ポスターセッション )( 演要 ), 日本地球惑星科学連合大会予稿集 (CD- ROM),2006. Yasuhara,M.,andM.Oa,MagneizaionofAsovolcano, Spec.Conrib.Geophys.Ins.,Kyoo Univ.,5,109-115,1965.

阿蘇火山における岩石磁気の調査 9 Invesigaionofrock magneism inasovolcano by NobukazuITOH 1,MasahiroSAWADA 2,TeruakiYAMAMOTO 3 andnobuakishigeno 4 1 GlobalEnvironmenandMarineDeparmen 2 KakiokaMagneicObservaory 3 MemambesuBranchO fice 4 SapporoDisricMeeorologicalObservaory (Received6 February2009;receivedinrevisedform13 March2009;acceped17 March2009) Absrac The magneic properies ofrock in he M.Aso volcano were invesigaed by colecingaoalof47 rock samplesfrom hreegeologicalunishaform an areanear heasonakadakecraer:ayoungespyroclasiccone;ayoungvolcanicedifice;andanold volcanicedifice.thiswasdone wih he objecive ofgahering basicmagneicperology daaforhevolcano.theresulsofhisinvesigaionwereasfolows. (1) The remnanmagneizaion values ofhe samples coleced near he Nakadake craer measuredaroom emperaurerangedfrom heorderofseverala/m oseveralensof A/m,suggesinghamagneicaly,hemeasuredsampleshavebasalicproperies.Furher, hemagneizaionvaluesendedodiferbeweenhegeologicalunisandalsovaryfrom one rock ype o anoher.we were also able o deermine harocks from he same oucropdononecessarilypresensimilarmagneizaionvalues. (2) Changes in he remnan magneizaion were sudied by progressive hermal demagneizaion,and he resuls sugges ha samples from diferen geologicalunis exhibidiferenrendsinhermaldemagneizaion. (3) We esimaedheamounofinducedmagneizaionbymeasuringheiniialsuscepibiliy, whichwasfoundobeabou1 A/m forhesamplesfrom henakadakecraer.iwasalso found hahe iniialsuscepibiliy ofsome ofhe samples changes aabou400 C. Furhermore,here ended o be agradualincrease in he iniialsuscepibiliy up o a cerainemperaure,abovewhichheiniialsuscepibiliychangedrapidly.