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Transcription:

アニマルウェルフェアの向上を目指して (1)EU やアメリカの現状 アニマルウェルフェア ( 以下 AW とする ) に先進的に取り組んでいるEUでは AW に関する最低基準がEU 指令としてすでに施行されており 乳用牛に関する基準では 2007 年から8 週齢以降の子牛の単飼禁止や子牛の体重に応じた1 頭あたりの必要飼育面積が規定されています 他の家畜では採卵鶏での従来ケージ飼育の禁止や養豚での一定期間を除く妊娠豚のストール飼育の禁止など 既存の飼養管理方式の変更が必要となる法律等が制定されています アメリカでは 一部の州においてAWに係る法律が制定され 乳用牛では断尾についての項目があります また IDF( 国際酪農連盟 ) といった生産者団体が飼養管理や乳用牛の取り扱いに関するガイドラインを作成し AWへの対応を行っています (2) 加速する国際機関での動き 世界の動物の健康 公衆衛生及びAWの向上を目的とした政府間機関のOIE( 国際獣疫事務局 ) では 動物の健康とウェルフェアの間には強い関連性があるということから 2004 年に AW 規約の原則を採択しました その後 輸送 食用のためのと畜などに関する規約を作成し 2012 年にAWと肉用牛生産システム 2013 年にAWとブロイラー生産システムに関する規約を作成して 他の家畜 ( 乳用牛 採卵鶏 豚など ) についても順次検討が進められています ISO( 国際標準化機構 ) でもAWの技術仕様書の作成に関する検討を始めるなど 国際機関においてAWに関する検討が積極的に進められています (3) 国内の動き 我が国では 平成 22 年 3 月に アニマルウェルフェアの考え方に対応した乳用牛の飼養管理指針 が公表され 平成 25 年 6 月の 動物の愛護及び管理に係る法律 の改正の際に 産業動物の飼養及び保管に関する基準 の中で快適性に配慮した飼養管理が謳われるようになりました このような背景の中 我が国においてもAWへの注目が急速に高まっており 一部では E U 同様の規制を求め 生産者に対して既存の飼養管理方式の禁止を求める運動も行われているなど 今後 より一層 注目が高まることが予想されています そのため AWの考え方を再度確認していくことが必要となります 乳用牛飼養管理指針 第 1 一般原則 3 国際的な動向 (1 頁 ) 参照 2

日常の飼養管理の充実で AW を向上させよう乳用牛 Animal Welfare は 日本語では 動物福祉 や 家畜福祉 と訳されている場合がありますが 本来の 幸福 や 良く生きること という考え方を十分に反映させるため アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針において 畜産におけるAWは 快適性に配慮した家畜の飼養管理 と定義されています なお 酪農分野では乳用牛の飼養管理に関する考え方の1つとして カウコンフォートという言葉が広く浸透しています コンフォートとは 肉体的な清新さ 持続性 痛みや病気などの除去 精神的苦痛 苦悩の除去を意味します 用語は異なりますが 管理者に求めている内容は アニマルウェルフェアと同じで 世界的にはアニマルウェルフェアが用語として使われています 5 つの自由 ( 国際的に認知されたアニマルウェルフェアの概念 ) 1 飢餓と渇きからの自由 新鮮な餌及び水の提供 2 苦痛 傷害又は疾病からの自由 疾病等の予防及び的確な診断と迅速な処置 3 恐怖及び苦悩からの自由 心理的苦悩を避ける状況及び取り扱いの確保 4 物理的 熱の不快さからの自由 適切な飼育環境 ( 温度 湿度等 ) の提供 5 正常な行動ができる自由 動物が実行したいと思った自然な行動がとれる機会 乳用牛飼養管理指針 第 1 一般原則 1 本指針でのアニマルウェルフェアの定義 (1 頁 ) 参照 3

アニマルウェルフェアの向上を目指して AWの向上を図るためには 日常の飼養管理において家畜をよく観察し 家畜が健康で 快適に生活できているかどうかを常に把握する必要があります そのためには 飼育者や管理者が家畜の行動やAWの考え方に関する知識を身に付け AW 的な飼養管理ができているかを確認することが重要です 家畜の状態を観察して適切な状態かどうかを判断することや 日常の飼養管理の中で家畜にとって 健康を害する要因 や 快適ではない環境 等を見つけた際に 少しでも環境等を改善して対応していくことが最も身近で効果的な方法となります また AWと生産コストの関係を考えた場合 飼料や温度環境 飼養密度等の改善といった家畜の健康性に直結する最低限のAWを保証することは 疾病のリスクが減り 治療コスト等を低減させることができ 更に 健康な家畜であることにより生産性の向上にもつながります 日常の飼養管理の中で比較的容易にAWの向上につながることもありますので 一度 確認をしてみて下さい なお 乳用牛の精密な個別管理を行いながらも 牛群全体としての群管理という視点で 自身の経営体でできることからAW 対応の取り組みを始めることが重要です 乳用牛飼養管理指針 第 1 一般原則 2 わが国の畜産とアニマルウェルフェア (1 頁 ) 参照 乳用牛のAWの状態を判断するための指標としては 下表の項目が挙げられます それぞれの項目が 乳用牛にとって快適で好ましい状態であるか等を観察しながらチェックすることが求められます 評 区分 A 動物 1BCS( ボディコンディションスコア ) 配慮すべき項目 a 餌 水 b 物理環境 c 痛み 傷 病気 d 正常行動 e 恐怖 1 起立動作 1 葛藤 異常行動 1 逃走反応 2 牛体の清潔さ 2エンリッチメント利 3 飛節の状態 用行動 1 尾の折れ 2 蹄の状態 3 外傷 4 皮膚病 5 傷病事故頭数率 6 死廃事故頭数率 価 対 象 B 施設 1 飼槽寸法 2 飼槽幅 3 水槽の寸法と給水能力 C 管理 1 飼槽の清潔さ 2 水槽の清潔さ 3 哺乳子牛への初乳給与 4 哺乳子牛への給水 5 離乳時期 6 哺乳子牛への粗飼料給与 1 暑熱対策 2 牛舎内照度 3 騒音 4アンモニア濃度 5 休息エリアの寸法 6 繋留方法 7カウトレーナー 8 通路幅 9 横断通路 10 通路の状態 1 牛床の軟らかさ 2 牛床の滑りやすさ 3 牛床の清潔さ 4 設備の不良 1 人間用踏み込み槽 2 分娩房 1 断尾 2 除角 3 副乳頭 4 削蹄回数 5 ダウナー牛への対応 6 装着器具 7 哺乳道具の洗浄 11 頭あたりの牛床数飼養スペース 2 エンリッチメント資材の有無 3 屋外エリア 1 哺乳子牛へのミルク給与 2 哺乳子牛の社会行動 3 哺乳子牛の群飼 4 哺乳子牛の繋留 1 袋小路がある放し飼い牛舎 1 取扱い 4

日常の飼養管理の充実で AW を向上させよう乳用牛 1) 防疫措置と動物衛生 (1) 防疫措置と衛生管理 乳用牛を常に健康な状態で飼養するため 病原体が農場や牛舎に侵入するリスクや病原体の拡散を防止する防疫措置や衛生管理体制等を整備することが 苦痛 傷害又は疾病からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 病原体の発生源や侵入経路は 牛 その他の動物 人間 器具 自動車 空気 給水 餌等であることから それらの制御を考慮することが必要です なお 防疫対策等については家畜伝染病予防法に基づいて制定された家畜の飼養衛生管理基準を遵守する必要があります 乳用牛飼養管理指針 1 管理方法 9 牛舎等の清掃 消毒 (5 頁 ) 10 農場内における防疫措置等 (5 頁 ) 参照 対策の一例 繋ぎ飼い牛舎の通路にも消石灰散布 牛がミルキングパーラーから戻る通路にも消毒槽を設置 管理者等が日常から防疫対策等に関する意識を持ち 疾病等のリスクを減らすことがウェルフェアの向上につながります また 防疫対策の効果により 疾病等が減少すれば治療費の削減等にもつながります (2) 動物の健康管理 乳用牛の健康管理を適切に行うため 管理者等が日常的に乳用牛を観察し 乳用牛の健康状態 (BCS 栄養状態 疾病 傷の有無 行動変化や外貌等) やストレス状態に異常等がないかを把握するとともに 観察した状況等を管理者間で確認できるように記録を付けておくことが 苦痛 傷害又は疾病からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 5

アニマルウェルフェアの向上を目指して また 牛の蹄は 起立や伏臥を正常に行うために重要な部分であり 正常な行動や蹄病等を予防するため 日常的に観察し 定期的に削蹄することで正常な状態に保つように管理することが必要です 乳用牛飼養管理指針 1 管理方法 1 観察 記録 (3 頁 ) 5 蹄の管理 (4 頁 ) 7 分娩 (5 頁 ) 8 病気 事故等の措置 (5 頁 ) 11 管理者等のアニマルウェルフェアへの理解の促進 (6 頁 ) 付録 Ⅰ 動物の殺処分方法に関する指針 (12 頁 ) 参照 指標となる事例 健康状態をチェックする指標として ボディコンディションスコア (BCS) 体の汚れ具合 跛行 外皮の変性 ( ハゲ 損傷 腫れ ) 咳 鼻水 涙 (3cm 以上 ) などの項目が挙げられます 体の汚れ頭 頸 飛節以下の肢 関節を除く部分が 鎧や水溶性の汚れで 1/4 以上汚染されている場合は注意が必要です 清潔な状態を保つことができる環境を整えることが必要となります 外皮の変性直径 2cm 以上の傷がある場合はウェルフェア上 問題があると判断できます 原因となるものを特定し 対処することが必要となります 対策の一例 蹄の管理 削蹄前 削蹄後 牛の立ち姿や歩行の状態を観察し 蹄の変調の早期発見に努めましょう 蹄病に罹ったりした場合 伏臥時等に乳房や乳頭を傷つけやすくなり 乳房炎の原因にもなります また フリーストール牛舎では 群内の跛行が多い場合 AI 回数や空胎日数が平均より悪い成績となる傾向がうかがわれているため ウェルフェアの改善が繁殖成績を向上させる可能性も示唆されています 6

日常の飼養管理の充実で AW を向上させよう乳用牛 2) 環境 (1) 温度環境 乳用牛の快適性を確保するため 乳用牛の飼育ステージ等に応じた適切な温度環境を維持することが 物理的 熱の不快さからの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 牛は広い温熱環境に適応できますが 気象の急激な変化や暑熱 寒冷ストレスに注意し パンティング ( 熱性過呼吸 ) や震え等の行動が生じた場合には原因を特定し ストレスを軽減できるように対処することが必要です 乳用牛飼養管理指針 4 牛舎の環境 1 熱環境 (10 頁 ) 参照 対策の一例 天井から吊るした扇風機 牛舎に続く運動場に設置した庇蔭舎 対応策として 環境との温度差 ( 顕熱 ) による熱交換 ( 放射 伝導 対流 ) と 水分の蒸散 ( 潜熱 ) による熱交換があります 具体的には 暑熱時に日陰の場所を用意したり 寒冷時に太陽光が当たる工夫やヒーターを設置したりするなどの方法 ( 放射 ) や 敷料 マットなどの利用 ( 伝導 ) 扇風機や送風機などの利用( 対流 ) 指標となる行動 スプリンクラーの利用 ( 潜熱 ) 等がありますので状況に応じて適切な対応を行いましょう 扇風機を適切に設置することで 夏季における 15% 程度の乳量低下を抑えることができます また 屋外運動場を併設しても 屋外環境が暑すぎる場合 牛は利用しません 寒冷紗等を使用して 庇蔭舎を設置しましょう カーフジャケットの使用 温熱ヒーターを付けた水槽 (36 を維持 ) 子牛は成牛よりも適温域が高く 寒冷時には体を維持するエネルギー要求量が餌による摂取エネルギーを上回り 発育を阻害することがあります カーフジャケット等の利用で寒冷ストレスを緩和しましょう 寒冷時は 牛の飲水量が低下します 飲水量が減少すると 乳牛の乾物摂取量が抑えられるので 温熱器を水槽につけることで 十分な飲水量を確保しましょう 7

アニマルウェルフェアの向上を目指して (2) 照明 乳用牛に恐怖やストレスが及ばない状況や乳用牛の健康状態の把握等が適切に行える状況を確保するため 管理者が適切に観察や作業ができ 乳用牛の行動に影響を与えない明るさを保つことが 正常な行動ができる自由 苦痛 傷害又は疾病からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 乳用牛飼養管理指針 4 牛舎の環境 3 照明 (11 頁 ) 参照 (3) 空気の質 空気の質の低下は 呼吸の不快性や呼吸器病のリスク要因となるため 適切な換気等を行い良質の空気を確保することが 苦痛 傷害又は疾病からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 空気の質には ガス 塵 微生物が関係しており 飼育密度 牛の体格 床 寝床 糞尿の管理状態 建物構造 換気システム等に依存しています 特に アンモニア濃度が高い場合には 原因を特定し 対応することが必要です 乳用牛飼養管理指針 4 牛舎の環境 2 換気 (10 頁 ) 参照 対策の一例 対尻式の繋ぎ飼い牛舎 寒冷時は冷気を牛舎に入れないようにしようとして 密閉しがちになりますが 密閉された牛舎では肺炎などの呼吸器病を発生させる原因となります 天気の良い日は 短時間でも外気を取り入れましょう (4) 騒音 牛は 様々な種類 音圧の音に適応できますが ストレスを抱えたり 恐怖を覚えたりすることがないように突発的な音や大きすぎる音が発生することを避けることが 恐怖及び苦悩からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 換気扇や給餌器の音 牛舎内外からの音が可能な限り小さくなるように畜舎構造等を考慮することも必要です 乳用牛飼養管理指針 4 牛舎の環境 4 騒音 (11 頁 ) 参照 8

日常の飼養管理の充実で AW を向上させよう乳用牛 (5) 栄養 ( 飼料 水 ) 乳用牛の健康状態の維持や正常な発育等を促すため 乳用牛の発育段階等に応じた適切な飼料 ( 必要栄養量 ) と新鮮な水を給与することが 飢餓と渇きからの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 管理者は乳用牛の適正な状態を判断するためにボディコンディションに関する正しい知識を持つとともに 乳用牛が十分に摂食 飲水できるように 飼養頭数に見合った給餌器の幅や給水器の設置数等を検討し 不要な闘争等が起こらないように配慮する必要があります また 粗飼料の給与量が少ない場合 消化器系の不調 ( アシドーシス 鼓腸 肝臓膿瘍 蹄葉炎 ) のリスク要因となることがあるので注意が必要です 特に搾乳牛では 搾乳後に飲水行動が多くみられます ウォーターカップへ続く給水管が細い場合 搾乳後に集中する飲水行動に給水量が追い付かないことがあります 給水管を太くしたり 水道栓から給水管への導入管を増やしたり 給水方向が一方通行にならないように工夫しましょう なお 必要な栄養素の種類や量については 日本飼養標準 - 乳用牛 日本標準飼料成分表 等を参照して下さい 乳用牛飼養管理指針 2 栄養 1 必要衞容量 飲水量 (6 頁 ) 2 飼料 水の品質の確保 (7 頁 ) 3 給餌 給水方法 (7 頁 ) 参照 対策の一例 やや高い位置に設置したウォーターカップ 哺乳子牛への給水 清潔なウォーターカップ 径が太い給水管 9

アニマルウェルフェアの向上を目指して 牛は水分要求量が多い家畜であることから 給水器は 給水能力や飲水のし易さ等がウェルフェアを考える上で重要となります 床から高い位置にウォーターカップを設置すると 食べこぼしが入りづらくなると同時に 掃除もしやすくなり 清潔な環境を維持できます 給水能力や全ての牛が十分に利用できるように設置されているかを確認する必要があります ( ウォーターカップの場合は 13 頭に 1 基 水槽の場合は 1 頭当たり 6cm 程度が目安 ) 指標となる行動 舌遊び行動牛の中で強い行動欲求がある正常行動の 1 つに反芻があります 粗飼料の給与量が不足している場合 偽咀嚼行動が発現し さらには舌遊び行動という常同行動の発現も誘発されます 全ての個体が舌遊び行動をとるというものではありませんが 粗飼料不足の 1 つの指標となりますので この行動が見られた際には粗飼料給与量を増やすなどの対応策を考えることが望まれます この行動を多発する牛は 第四胃潰瘍を併発していることも報告されており 舌遊び行動の発現は 牛の健康性にも悪影響を与えます 粗飼料不足のサインである舌遊び行動 ( 下の牛 ) 隣接牛飼槽での盗食は要求量不足のサイン (6) 床と寝床の表面や屋根の状態 牛にとって排水の良い快適な休息場所を提供することは 苦痛 傷害又は疾病からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 床の全面が過度に湿っていたり 糞尿がたまっていたりする状態は 疾病や怪我の原因にもなることから 改善することが必要となります 乳用牛飼養管理指針 1 管理方法 9 牛舎等の清掃 消毒 (5 頁 ) 3 牛舎 1 飼養方式 (8 頁 ) 2 構造 (8 頁 ) 参照 指標となる行動 伏臥移行動作時間立っている状態から寝ている状態になるまでの所要時間 ( 伏臥移行動作時間 ) は 快適性評価の指標となります 時間がかかるほど快適性は低く 10 秒以上はかかる場合は問題があると判断されます 床が滑りやすい状態の場合は 立位から徐々に後肢を曲げて犬座姿勢となり その後 前肢を曲げて伏臥位姿勢となります 10

日常の飼養管理の充実で AW を向上させよう乳用牛 正常な牛の起立動作 ( 左 ) 伏臥移行動作 ( 右 ) 搾乳牛の犬座姿勢 起立姿勢への移行 対策の一例 暑熱時 対尻式の繋ぎ飼い牛舎では 牛の尻が向かい合っている通路を扇風機の風が通るので バーンクリーナーが比較的乾燥しやすく 衛生的です 牛体と牛床の長さが合っていなかったり バーンクリーナーの外側に敷料がなかったりするいと 床が常に湿り 不衛生な状態となりますので注意が必要です 伏臥姿勢への移行 (Schnitzer, 1971の図から描く ) 対尻式の繋ぎ飼い牛舎 不衛生な床の例 (7) 社会的な環境 ( 動物同士の群内環境 ) 牛は 体格や齢の異なる牛同士の同時給餌 過密 不十分な飼槽幅等を原因として闘争や乗駕などを行うことがあります 管理者は群内で確立される社会的順位を理解し 混群による過剰な闘争等の危険性を避けることや 闘争等の要因となるものを少しでも取り除くように注意することが 恐怖及び苦悩からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 例えば群内で 非常に若い 又は小さい牛等がいる場合には 特に注意を払い 過度の闘争や乗駕によって被害を受けている牛がいる場合は隔離する等の対応が必要となります 乳用牛飼養管理指針 3 牛舎 1 飼養方式 (9 頁 ) 参照 指標となる行動 身繕い行動 敵対行動 親和行動の出現頻度敵対行動である頭突きや押し 追撃後の肉体的攻撃 闘争 ( 頭押し合い ) 等の出現頻度が多い場合は 不快な社会環境の指標となります 一方 身繕い ( 他個体を舐める ) や敵対的では無い角を絡める行動は 親和性を表す良い指標となるため これらの行動を観察して良好な社会的環境を整えることはウェルフェアの向上に役立ちます この行動は 繋ぎ飼い牛舎でも隣接牛間で見られます このような親和行動に基づく他個体との関係が多い個体では 乳量の増加が報告されています 11

アニマルウェルフェアの向上を目指して (8) 飼養密度 飼養密度が高い場合は 怪我等の発生 増体や飼料効率の低下等の原因となり 通常の行動 ( 移動 休息 摂食 飲水等 ) にも支障をきたすため 牛をよく観察し 適切な飼養密度となるように管理することは 物理的 熱の不快さからの自由 正常な行動ができる自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります また フリーストール牛舎においては 従来から飼育密度を高めると 牛群に様々な問題が発生することが知られています 牛床の数は 1 頭あたり1ストール以上を確保することがAWの基本となります 群 ( 飼養頭数 ) に対してストール数に余裕があるかどうかや 1 頭当たりの有効利用面積が 繁殖成績やラムネス ( 跛行 ) の発生度合と関連することも示唆されていますので 注意が必要です 乳用牛飼養管理指針 3 牛舎 3 飼養スペース (10 頁 ) 付録 Ⅲ 付録 Ⅳ (15 頁 ) 参照 (9) 外敵 ( 野生動物 ) からの保護 乳用牛を常に健康な状態で飼養し 恐怖等によるストレスを与えないため 畜舎内への野生動物の侵入を防ぐことが 苦痛 傷害又は疾病からの自由 恐怖及び苦悩からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 疾病に罹った状態や分娩時の母牛と子牛のような体力が弱った状態のときには カラス等からの目や肛門への攻撃を受けやすいことから注意が必要です また 放牧時には アブやサシバエ等の吸血昆虫からの防除を目的とした群がり行動が見られます また 断尾された乳用牛は飛来したアブやハエを追い払うことができず 心理的ストレスにより摂食や休息行動時間が短縮することが報告されています 牛体汚染を防ぐためには 断尾ではなく尾房トリミングで対応しましょう 乳用牛飼養管理指針 1 管理方法 10 農場内における防疫措置等 (6 頁 ) 参照 放牧の場合は 吸血昆虫の防除や寄生虫感染予防等の対策をとることが必要です 吸血昆虫を避けるために体を寄せ合い 頭を中に入れて円陣を組む群がり行動がみられる場合は 対策が必要です 近年 牛舎で保管している配合飼料や公共育成牧場の牧草を野生動物が摂食するといった獣害も発生しています 獣害を受けていることは 被害拡大の助長にもつながるので 早期の徹底した排除を心がけましょう 放牧地での群がり行動 12

日常の飼養管理の充実で AW を向上させよう乳用牛 3) 管理 (1) 繁殖管理 乳用牛にとって 難産はウェルフェアを低下させるため 妊娠中の母牛のボディコンディションを適切に管理し 難産や代謝障害等のリスクを低下させることが 苦痛 傷害又は疾病からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります また 交配時期や種雄牛の選択を考慮することや 分娩時に介助が必要となった際にすぐに対応できる準備等を行っておくことがAWの向上を図るために必要です 乳用牛飼養管理指針 1 管理方法 7 分娩 (5 頁 ) 2 栄養 1 必要栄養量 飲水量イ繁殖牛 (7 頁 ) 付録 Ⅱ 栄養度判定要領について (14 頁 ) 参照 (2) 初乳 分娩直後の子牛にとって初乳は 子牛の健康を保つために重要な役割があるため 出生後可能な限り早く初乳を飲ませることや 飲んだことを確認することが ウェルフェア上 重要な事項となります 乳用牛飼養管理指針 2 栄養 4 初乳 子牛の給餌 (8 頁 ) 参照 (3) 離乳 離乳は 子牛及び母牛にとってストレスとなるため 牛の生理特性等を十分に理解し 子牛及び母牛への影響が最小限となるように考慮して行うことが 恐怖及び苦悩からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります また 離乳は 母牛との心理的関係の断絶 母牛からの世話行動の終了 液体飼料の絶食という3つの要因が重なり 子牛にとって大きなストレスとなります 除角 去勢等を同時に実施して更にストレスがかかった場合 獲得免疫系が抑制されて 病気になる危険性が高まりますので 十分に注意することが必要です 乳用牛飼養管理指針 2 栄養 4 初乳 子牛の給餌 (8 頁 ) 参照 指標となる行動 柵かじり行動子牛の柵かじり行動は 吸乳等に関わる欲求不満から発現し ウェルフェア上 好ましくない行動とされています この行動が見られた際には飼養方式の見直しを考えることが望まれます 欲求不満の発現としての柵かじり行動 13

アニマルウェルフェアの向上を目指して (4) 痛みを伴う処置 ( 除角 鼻環 断尾等 ) 痛みの伴う可能性のある処置 ( 去勢 除角 鼻環等 ) は 牛にとってストレスとなるため 痛みやストレス等を最小限にする利用可能な手法を用い 可能な限り早い時期に実施することが 苦痛 傷害又は疾病からの自由 恐怖及び苦悩からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります また 実施後は牛を注意深く観察し 化膿等が見られる場合は速やかに治療を行うことが必要です 乳用牛飼養管理指針 1 管理方法 3 除角 (3 頁 ) 5 断尾 6 鼻環 (4 頁 ) 参照 (5) 観察 乳用牛の健康管理を適切に行うため 管理者は少なくとも1 日 1 回は乳用牛を観察し 乳用牛の健康状態に異常がないかを把握することが 苦痛 傷害又は疾病からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります また 飼育環境が変化した後 分娩が予測される場合 新生牛 離乳直後の子牛 痛みを伴う処置をされた牛は より頻繁に観察する必要があります 乳用牛飼養管理指針 1 管理方法 1 観察 記録 (3 頁 ) 参照 (6) 取扱い 乳用牛に不要なストレスを与えたり 怪我をさせたりしないように 管理者は手荒な扱いを避け丁寧に扱うことが 恐怖及び苦悩からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります また 牛の取扱いの際に使用する道具は 鋭い角や先端がある等 牛に不要な痛みを与える可能性のあるものの使用は避け 施設等への追い込みの際は 無理な追い込みは行わず 牛にストレスを与えないよう静かに移動させることが必要です 乳用牛飼養管理指針 1 管理方法 2 牛の取扱い (3 頁 ) 参照 飼育している個体に名前を付けることによって その個体に対する観察力が高まります 海外の事例では 搾乳牛に名前を付けていた農家では 名前を付けていなかった農家に比べ 1 泌乳期あたりの乳量が 300 リットル多かったことが報告されています 全く費用は掛かりませんので ぜひ試してみましょう また 管理者が搾乳牛に対して怒鳴った回数と乳量等の生産形質との負の相関が報告されています 牛には常に優しい態度で臨みましょう 14

日常の飼養管理の充実で AW を向上させよう乳用牛 (7) 人材育成 乳用牛の健康を維持するために 快適な飼養環境を整備することの重要性や必要性について十分理解することがウェルフェア上 重要な事項となります また 乳用牛の飼育管理に携わる者は 牛の基本的な行動様式や問題行動 快適性を高めるための飼養管理 衛生管理 病気の兆候 ウェルフェアを判断するための指標 ( ストレス 苦痛状態等 ) ウェルフェア改善方法等に関する知識の習得に努めることが必要です 乳用牛飼養管理指針 1 管理方法 11 管理者等のAWへの理解促進 (6 頁 ) 参照 (8) 緊急時の計画 災害等による飼料や水の供給の途絶や停電等 緊急事態の発生に備え 危機管理マニュアルを作成し 家畜の生命と健康を維持するために必要な環境が確保できる準備を行っておくことが 飢餓と渇きからの自由 苦痛 傷害又は疾病からの自由 恐怖及び苦悩からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります 危機管理マニュアル等を作成し 緊急時の影響が最小になるように準備することが重要です また 疾病が発生した際には迅速に獣医師等と連絡を取り 家畜伝染病予防法 等の法令を遵守する必要があります 乳用牛飼養管理指針 5 その他 2 緊急時の対応 (11 頁 ) 参照 (9) 農場の場所 建造物 設備 牛舎を建設する際には それぞれの農場の特徴を理解したうえで 牛舎内の環境が牛にとって快適になるよう十分配慮することがウェルフェア上 重要な事項となります また 牛舎や通路の破損や構造上の問題 ( 鋭利な角や突起 ) 通路表面を滑りにくい構造にする等によって牛にけがを発生させないよう 日頃から注意することが必要です なお 舎内で繋留する場合は 最低限 自由に横臥することができ 屋外で繋留する場合は 向きが変えられ 歩行できるようにすることがウェルフェア上 必要とされています 乳用牛飼養管理指針 3 牛舎 2 構造 (8 頁 ) 5 その他 1 設備の点検 管理 (11 頁 ) 参照 (10) 治療及び安楽殺 病気やけがをした乳用牛は 可能な限り隔離等を行い 迅速に治療をすることが 苦痛 傷害又は疾病からの自由 という観点からウェルフェア上 重要な事項となります また 回復する見込みのない場合は 適切な方法で安楽殺の処置を検討することも必要です 乳用牛飼養管理指針 1 管理方法 6 病気 事故等の措置 (5 頁 ) 参照 15

アニマルウェルフェアの向上を目指して (11) その他 ( 正常行動等の発現を促すための工夫 ) 1 身繕い器具の設置身繕い行動は 牛にとって強い行動欲求があります 牛舎内に身繕いのために利用できる器具を設置することで正常行動の1つである身繕い行動の発現割合が増加するため 正常な行動ができる自由 という観点からウェルフェア上 有効な方法になると考えられます 対策の一例 身繕い器具の設置牛舎 ( 左 : 電動式 右 :L 字型固定式 ) 2 運動場の併設運動は 牛にとって強い行動欲求があります 繋留している牛を3 日に1 回程度引き運動したり 運動場を併設して利用させたりすることが 正常な行動ができる自由 という観点からウェルフェア上 有効な方法になると考えられます 対策の一例 運動場併設牛舎 公共牧場の利用 本パンフレットは 国立大学法人北海道大学 国立大学法人東北大学 国立大学法人信州大学 学校法人麻布獣医学園麻布大学 公益社団法人畜産技術協会が共同で実施した アニマルウェルフェアに対応した飼養管理技術確立事業 ( 日本中央競馬会畜産振興事業 ) で作成したものです 問い合せ先 16 公益社団法人畜産技術協会 113-0034 東京都文京区湯島 3-20-9 TEL.03-3836-2301 FAX.03-3836-2302 ホームページ http://jlta.lin.gr.jp/ E-mail:info@jlta.lin.gr.jp