ォローアップ情報収1. 車いす シーティングの適合評価の流れ 評価に必要な構成要素 車いす シーティングの適合評価については 図 1 に示す一連の手順にそってすすめる必要性があります もう一度 この適合評価の手順 プロセスにそって 実際に行えていること 行えていないことを再確認して 何が問題で適合支援が良好にすすめられていないのかを把握してみてください ( 実施している項目の 欄にチェックしてください ) 問題が認識されれば改善できるように努力してください また この適合評価の支援プロセスは 他の福祉用具においても同様のことが言えるでしょう 図 1 車いす シーティング供給サービスの流れミュレー集評価仕定用定シショ方指練フン処導 訓様決具選1) 情報収集車いす シーティングに関する基礎情報 ( 身体寸法 身体機能 ) の収集 2) 評価 1 身体測定 2 姿勢評価 3 移動 移乗動作評価 4ADL 評価 5 環境評価 3) 仕様決定 1 評価結果に基づいた仕様の決定 2 仕様内容間の調整 設定方法の決定 4) 用具選定 1 仕様決定に基づいた適正な用具の選定 2 々の設定 5) シミュレーション 1 選定された用具を試用した確認 2 利用者のイメージづくり支援 6) 処方 1 身体機能 ( 構造 機能 ) に応じた適正な寸法 2 々適正な設定 3 使用上の注意事項などの提示 7) 指導 訓練 1 基本的使用についての知識 技術獲得 2 応用的使用についての知識 技術獲得 3 保守 管理方法の習得 8) フォローアップ 1 利用状況の確認 2 疾患 障害の変化の確認 3 状況変化に応じた設定変更 調整等 P 1
次に 車いす シーティングの適合評価をすすめるにあたって 評価の目的 対象をどのように考えるべきかといったとらえ方を基本概念として4つの要素に分けて認識しておくことが大切です その上で どのような内容について どのような方法で評価を行えばよいかといった適合技術を具体的に習得し 実施できるようにしておかなければなりません ( 図 2) 図 2 適合評価に必要な要素 基本概念 適合技術 姿勢 身体計測 姿勢評価 移動 移乗動作評価 移乗 移動 ADL 評価 環境因子評価 制御 同封の CD-R には 車いす シーティング クリニックチャート ( ファイル名 :Seating.xls) が含まれておりますので 印刷して内容を確認するとともに 一連の流れにそって評価をすすめてみてください 構成は 図 3 のようになっています 実際に 臨床現場でお使いの場合は 必要事項を修正 追加して使用していただいて結構です 図 3 車いす シーティングクリニックチャート 重度障害のある人へのアシスティブ テクノロジー 大阪市職業リハビリテーションセンター援助技術研究室 基礎情報 身体計測 身体機能評価 移乗 移動評価 ADL 評価 環境因子評価 人的介助の有無 方法 P 2
身体計測 企業 メーカー等へのアンケート調査では 医師や療法士などの適合支援者からの具体的な処方が行われていない事実も判明しています その中でも 身体計測についてはほとんど企業 メーカー任せになっているのが現状のようです 車いす シーティングにおいて 身体寸法と車いすの寸法 形状との関係性は最も重要であり 処方の中でも重視されなければならない事項です 適合支援者は 処方において必ず身体計測を行うようにしてください 車いす シーティングの適合評価に必要な身体計測は 国際的にも定められている基準に基づいて計測を進めてください ( 図 4) 図 4 身体計測 実際に測ってみられていかがでしたか 一般的なメジャーや角度計では 少し測定しにくい箇所があったかと思います このあたりを少し確実にできるような便利な測定器具もありますので 一度試してみてください ( 図 5) 図 5 パシフィックサプライ株式会社車いすメジャーセット 10,290( 税込み価格 ) http://www.p-supply.co.jp/kuruma/measure/index.html P 3
身体機能評価 : 姿勢評価 ( 観察 ) 姿勢評価は 姿勢の観察とマット評価に分けて行います 姿勢観察においては 一般的には 側面からみた骨盤 脊柱のアライメント 前方からみた脊柱の側わんなどの部分が集中的に評価されることが多いようですが まずは 全身をとらえた上で どのような機序でその姿勢がつくられているのかを把握することが大切です 車いす シーティングクリニックチャート では それぞれの身体部位を 3 次元的に観察し 全身をとらえていきます 各部位ごとに 該当する姿勢の状態をチェックしてください さらに 前面 側面 上面 全身をとらえた ( 通常 左斜め上方向からみた状況 ) 写真あるいはスケッチを記録して残しておいてください ( 図 6) 図 6 身体機能評価 P 4
身体機能評価 : 姿勢評価 ( 観察 ) 演習 : 写真をみながらスケッチあるいは 車いす シーティングチャート に基づいて観察評価を行ってみてください ( 図 7) 図 7 身体機能評価 : 姿勢評価 スケッチする 運動方向についても記載しておく 各部位別に観察評価してください P 5
身体機能評価 : 姿勢評価 ( マット ハンドリング評価 ) マット上において 重力の姿勢に及ぼす影響 ( 姿勢反射 平衡反応 筋力 バランスなど ) と徒手 ハンドリングによる姿勢調整力 可動域制限の有無及び度合いを評価します ( 図 8 表 1) 図 8 姿勢評価 マット評価 ハンドリング評価 制限 抵抗などを徒手的に評価する 抗重力肢位の中で姿勢反射 立ち直り反応 平衡バランスなどを評価する ステップ1 ステップ2 ステップ3 ステップ4 ステップ5 ステップ6 ステップ7 ステップ8 骨盤 / 腰背部の可動性体幹の可動性股関節の可動性膝関節の可動性足関節 足部の可動性頭部 頸部の可動性肩周囲筋郡の可動性上肢の可動性 表 1 姿勢評価 a. 後方傾斜方向への可動性 b. 前方傾斜方向への可動性 c. 側方傾斜方向 ( 片側挙上 ) への可動性 d. 回旋の可動性 a. 前方への彎曲方向可動性 ( 後わん度の確認 ) b. 側方への彎曲方向可動性 ( 側わん度の確認 ) c. 回旋の可動性 d. 伸展方向への可動性 a. 屈曲方向への可動性 ( 左右分離運動 ) b. 内転方向への可動性 c. 内旋の可動性 d. 外転方向への可動性 e. 外旋方向への可動性 a. 屈曲方向への可動性 b. 伸展方向への可動性 a. 背屈方向への可動性 b. 底屈方向への可動性 c. 内反方向への可動性 d. 外反方向への可動性 a. 肩甲帯挙上方向への可動性 b. 肩甲帯前方回旋方向への可動性 c. 肩甲帯後方伸展方向への可動性 a. 屈曲方向への可動性 b. 伸展方向への可動性 P 6
移動 移乗動作評価 移動 移乗動作は 目的 場所 介護条件などによって大きく異なることが多くあります まずは 何人の介助で またどのような方法で移動 移乗補助を行っているかを把握しなければなりません ( 図 9) 図 9 移動 移乗動作評価 また 同時に使用する福祉用具についても記録しておくとよいでしょう ( 図 10) 図 10 さらに 一日の生活の中で どのような場面で移動 移乗動作を行い どのような介助方法を用いているかなどを評価して記録しておくことをおすすめします 移動性を把握することは その対象者の生活導線を把握し 生活基盤の大きな要因となっていることが認識できるでしょう ( 図 11) 図 11 住環境評価 介助者が 車いすをベッドサイドまで運ぶ 別室に保管する 介助者が ベッドから車いすまで 車いすからベッドまでを抱えて移動 移乗する P 7
環境因子評価 ( 住環境との関係性 ) 環境因子として図 12 に示すような項目について評価を行っていきます 環境とは 住環境や介助用品 関連用品なども含めて考えていきます 図 12 環境因子評価 また それぞれの生活行為において設備 用具との関係性において どのような影響を受けるのか あるいは障壁になっていないのかなどを確認しておかなればなりません ( 図 13) 図 13 さらに 現在あるいはこれからの住環境との関係性において 車いすの外寸及び回転軌跡 半径なども確認しておいてください ( 図 14) 図 14 高さ 回転半径 巾 奥行き P 8
2. くらしにおける生活動作と支援技術の適合性 ~ 活動分析を通じて ~ くらし の中では それぞれの要素が複雑に重なり合っています その活動を組み立てるものとして各生活動作が要求されます その生活動作とは 個々バラバラにあるのではなく 連続性をもち また環境の変化や心身機能の変調 変動にともなって 組み合わせが異なってくるものです さらに その結果として 日々のくらしの導線が成り立っているのです ここで 排泄行為のためのトイレ動作を取り上げて見てみましょう 一般的に 歩行できる機能を有しておれば 尿意 便意を感じてから起居し 移動の準備 ( 立ち上がりなど ) を始めます 次に 目的地であるトイレまでの移動を行い トイレのドアを開け中に入り ドアを閉め 服 下着を脱いでから便器にしゃがみます 排泄が終われば 後始末をして水洗を流し 立ち上がって服 下着を着ます その後 手を洗うかトイレから出て次の移動目的場所へと移動します ( 図 15) では 次に頸髄損傷 パーキンソン病による 2 つの例をみてみましょう 勿論 家屋環境 人的介助の条件などによって 個人差はありますので ここで述べる例は 疾患 原傷病による一定のパターン化を示すものではありません どこに問題が生じ どの部分で支援技術の適合が行われているのかを確認してみてください ( 図 16, 17) このように 生活の導線をとらえておくことは 評価において重要なポイントとなります 個人因子 環境因子の変化によって この連続性が中断したり 組み合わせが変わったりすることがあることも念頭においておかなければなりません テキストに同封してある CD-R の中にあるファイル (katudoubunseki.pdf) を印刷してご利用ください パソコン上で作成していただいても構いません 利用者の方との検討あるいはケース検討会議などにおいて 各動作をカードに記入し それぞれを生活の導線に応じて結び付けてみてください その上で どこに どのようにアシスティブ テクノロジーを適用していくのが望ましいのかを検討してみてください OT ドアを開け 人の活動を動作別に区分し それぞれの動作内容 方法を記載する 生活の導線を結ぶ P 9
図 15 トイレ動作の活動分析 尿意 便意を感じる トイレから外に出る トイレのドアを閉める 起居する移動の準備 トイレのドアを開ける 次の目的の場所へ移動する トイレまで移動する 手を洗い乾燥させる トイレのドアを開ける 手洗い場に移動する トイレの中に入る 服 下着を着る トイレのドアを閉める 便座から立ち上がる 服 下着を脱ぐ 水洗を流す 便座にしゃがむ 後始末をする 便座に坐る 排便 排尿をする P 10
図 16-1) トイレ動作 ( 活動分析 ) 例 : 頸隋損傷 C7 レベル 車いす自走可能 1 尿意 便意を感じる トイレから外に出る 19 20 トイレのドアを閉める 2 起居 移動の準備をする 18 トイレのドアを開ける 21 次の目的の場所へ移動する 3 車いすに移乗する トイレまで移動する 17 手を洗い乾燥させる 4 トイレまで移動する 5 トイレのドアを開ける 16 手洗い場に移動する 6 トイレの中に入る 服 下着を着る 15 車いすに移乗する 7 トイレのドアを閉める 8 車いすから便器に移乗する 便座から立ち上がる 14 服 下着を着る 服 下着を脱ぐ 9 便座に坐る 13 水洗を流す 便座にしゃがむ 10 服 下着を脱ぐ 12 後始末をする 便座に坐る 11 排便 排尿をする P 11
図 16-2) トイレ動作 ( 活動分析 ) 例 : 頸隋損傷 C7 レベル 車いす自走可能 動作番号技術要素利用目的用具 3 ベッドから車いすへの移乗 トランスファーボード 4 16 21 移動 手動車いす 5 6 18 19 トイレ出入り口の段差解消 トイレのドアの開閉 住宅改修 ( フローリング ) ( 引き戸 ) 7 20 8 15 車いすから便器への移乗 便器から車いすへの移乗 住宅改修 ( 手すり設置 ) 9 10 14 服 下着を脱ぐ 服 下着を着る ズボン 下着の改良 11 排尿をする 排便をする バルーンカテーテル 座薬挿入器 12 13 後始末をする 水洗を流す 住宅改修 ( ウォシュレット設置 ) ( リモコン設置 ) 16 17 洗面所まで移動する 手を洗い 乾燥させる ( 拭く ) 住宅改修 ( 洗面台の設置 ) ( フローリング ) 移動系コミュニケーション操作 制御系認知系 P 12
図 17-1) トイレ動作 ( 活動分析 ) 例 : パーキンソン病介護者による一部要介助 1 尿意 便意を感じる トイレから外に出る トイレのドアを閉める 2 介護者を呼ぶ 起居 移動の準備をする トイレのドアを開ける 次の目的の場所へ移動する 3 服 下着を脱ぐ トイレまで移動する 手を洗い乾燥させる トイレのドアを開ける 4 起居 ベッドからの移乗の準備 手洗い場に移動する 介護者による排泄物の処理 トイレ清掃 5 ポータブルトイレに移乗する トイレの中に入る 服 下着を着る 10 服 下着を着る 6 便座に坐る トイレのドアを閉める 便座から立ち上がる 9 ポータブルトイレベッドに移乗する 服 下着を脱ぐ 水洗を流す 便座にしゃがむ 8 後始末をする 便座に坐る 7 排便 排尿をする P 13
図 17-2) トイレ動作 ( 活動分析 ) 例 : パーキンソン病介護者による一部要介助 動作番号技術要素利用目的用具 2 介護者を呼ぶ 呼び鈴 入力スイッチ 3 10 服 下着を脱ぐ 服 下着を着る 要介助 工夫した服 下着 4 起居 ベッドからの移乗の準備 ギャッジベッド 要介助 5 9 ベッドからポータブルトイレへの移乗 ポータブルトイレからベッドへの移乗 リフタ 要介助 6 便座に坐る 一部介助あるいは要監視 ポータブルトイレ 移動系コミュニケーション操作 制御系認知系 P 14
機器の評価データベース 車いす シーティング適合評価において 人と機器 ( 車いす シーティングユニット ) との適合をみていくためには 機器の基本情報を得ておかなければなりません 近年 モジュラー式車いす 姿勢保持機構付き車いすなどの調整機構 機能性の優れたものが多く利用されるようになってきました 福祉機器展示会などにおいても さまざまな機器の展示紹介がなされていますが カタログや試乗などを介して収集した情報では 不十分な場合があります 各機器に関する基礎情報を表 2 を用いてまとめておくようにしてください ( 表 2 図 18) 表 2 機器評価データベース 図 18 機器データベース 機種別の特徴 仕様をデータベースとしてまとめておく P 15
3. 標準型車いすとモジュラー式車いす 最近 車いすの見直しが行われ モジュラー式車いすなどの個別対応性を重視した用具が普及してきています しかし 一般的に病院や老人保険施設などでは 施設の備品ともなるため 従来の標準型車いすがまだまだ多く用いられているのが現状のようです もう一度 標準型車いすの機能性 問題点 利用上の限界などを確認し どのような対処方法があるのかをまとめてみました まずは 図 19 表 3 に示すような JIS( 日本工業規格 ) 標準型車いすについて確認してみましょう 次に それぞれの部位において 適合上 身体機能 日常生活能力などに対し どのような影響を及ぼしているのかを表 4 を参考にまとめてみてください 図 19 標準型車いす 表 3 JIS 規格 JIS 寸法 大型 中型 小型 座面高 ( 前面 ) 450mm 400mm 300mm 座幅 420,400,300,360,330または300mm 座奥行 420mm 400mm 350mm アームレスト ( 肘掛け ) の高さ 220mm 200mm 190mm モジュラー式車いすとは? 図 20 身体状況 日常生活動作 生活環境 用途に応じた車いすの仕様が 各種部品による構成及び各部調整によって決定できる車いすの総称で モジュラー式車いすは モジュール機構とアジャスタブル機構を組み合わせたものです ( 図 20 21) モジュール : 部品を組み合わせて設定を行う機構 アジャスタブル : 調整機構を用いて設定を行う機構 P 109 16
モジュラー式車いすの各部位の名称と機能的役割における分類を表 4 に示します 図 21 モジュラー式車いすの各部名称と機能分類 姿勢保持に関する機構 移乗動作に関連する機構 2 3 14 15 19 1 4 5 18 13 6 7 17 16 姿勢保持に関する機構 移動性に関する機構 24 8 9 21 23 12 10 20 11 22 1 座幅 2 座奥行き 3 背もたれ高 4 アームレスト高度 5 アームレスト長 6 フットレスト長 7 フットプレート長 8 シートクッション 9 背もたれ 10 肘受けパッド 11 レッグレスト 12 フットプレート 13 車輪径 14 車輪幅 15 車軸位置 16 ハンドリム 17 キャスター径 18 キャスター軸位置 キャスターフォーク長 19 ディスクブレーキ 20 座面高 ( 床面からの高さ ) 21 ブレーキ 22 シート前面 : 移乗スペース 23 アームレスト 24 押し手 P 17
表 4 No. 部位適合への影響 1 座 幅 2 座奥行き 3 背もたれ高 4 肘受け ( アームレスト ) 高 5 レッグレスト長 6 座 面 7 フットレスト 8 背もたれ バックレスト 9 座面高 10 アームレスト 骨盤位置の偏移 脊柱の側方偏移 ( 側屈 側わん ) 上肢と駆動輪の位置関係 骨盤の前後傾 下腿後面と座面前縁との接触 脊柱の後方偏移 ( 後わん 伸展位 ) 肩甲帯の運動制限 圧迫 脊柱の後方偏移 ( 後わん 伸展位 ) 駆動時の上肢運動制限 摂食 駆動時の上肢運動制限 摂食 肩甲体 上肢保持部 机 洗面台などへのアプローチ 下肢の体重支持 股関節 膝関節 足関節角度 臀部 下腿部での支持 臀部 下腿部にかかる圧力 骨盤の支持性 下腿部の支持性 足部の支持性 足関節角度 膝関節角度 体幹部の支持性 骨盤の前後傾 体幹後面 肩甲帯にかかる圧力 移乗動作 机 洗面台などへのアプローチ 重心の高さ 安定性 立ちしゃがみ動作 上肢 ( 前腕部 ) の支持性 机 洗面台などへのアプローチ 11 移乗のための座面前縁 移乗動作 12 ブレーキ 制動 移乗動作 13 14 15 16 17 P 18
表 5 臨床上よくみかける姿勢保持障害 パターン 姿勢の状態 脊柱 : 後わん 頚部 : 屈曲 ( 前屈 ) 肩甲帯 : 下制 上肢 : 内転 内旋 骨盤 : 後傾 下肢 : 股関節伸展 内旋 足関節 : 底屈 外反 脊柱 : 後わん 頚部 : 伸展 肩甲帯 : 下制 上肢 : 内転 内旋 骨盤 : 後傾 下肢 : 股関節伸展 内旋 足関節 : 底屈 外反 脊柱 : 前屈 ( 後わんを伴う ) 頚部 : 前屈 肩甲帯 : 下制 外転 上肢 : 内転 骨盤 : ( 後傾 ) 下肢 : 股関節内旋 膝関節屈曲 足関節 : 底屈 脊柱 : 左凸側わん 後わん 頚部 : 右側屈 右回旋 前屈 肩甲帯 : 左挙上 内転 右下制 外転 上肢 : 内旋 内転 骨盤 : 後傾 右回旋 左側傾斜 下肢 : 股関節右伸展 内旋 左伸展 外旋 足関節 : 底屈 脊柱 : 左凸側わん (S 字わん曲 ) 後わん 頚部 : 左側屈 (S 字わん曲 ) 肩甲帯 : 右下制 外転 左挙上 内転 上肢 : 内旋 内転 骨盤 : 後傾 右回旋 左側傾斜 下肢 : 股関節右伸展 内旋 左伸展 外旋 足関節 : 底屈 脊柱 : 後わん ( 左凸側わん傾向 ) 頚部 : ( 左側屈傾向 ) 肩甲帯 : 上肢 : 骨盤 : 後傾 右挙上 左回旋 下肢 : 股関節右外旋 左内旋 足関節 : 底屈 ( 右 : 内反傾向 左 : 外反傾向 ) P 19
4. 臨床上よくみかける姿勢保持障害の原因 誘引となる要因 臨床上よくみかける姿勢保持障害の原因あるいは誘引となる要因がどのような車いすの構造 不適合によって生じているのかを解説します ( 表 5) 前滑り姿勢 ( ずっこけ座り ) 標準型車いすでは 通常 座面シートは平面であり前方にすべりやすくなっています カンター式のように坐骨結節部分の形状に応じたものを使用するとこの前滑り姿勢を改善することができます ( 図 22) 図 22 平面 カンター式 骨盤の側方変移 ( スリングシートあるいはシートの幅によるもの ) 標準型車いすでは 通常 座面シートはスリングシートになっており 中央部が下方にたるみ ある意味お椀上の形状になります また 座面シートの幅が広かったりすると骨盤は側方に変移し 図 23 のように骨盤の側方傾斜にともない脊柱の変形を起こしたりします 図 23 股関節 大腿骨 前面図 車いすフレーム 幅広 前面 幅狭 股関節内旋 骨盤側方傾斜 脊柱側わん P 20
骨盤後傾をともなう前滑り姿勢 ( ずっこけ座り ) 車いすの座面奥行きが長すぎる場合 骨盤が後傾し 背もたれに上部に荷重がかかりすぎたり 脊柱の後わんを助長することがあります 標準型車いすでは 背もたれも布張りであることが多く 一点に荷重がかかりすぎるとたわみを生じ さらにこの体幹上部のみでの支持になってしまうことがあります ( 図 24) 図 24 骨盤後傾 骨盤後傾 + 脊柱後わん 車いすフレーム 座面支持面の減少 ( 座面シート奥行きの短さ ) による膝関節の不良姿勢 ( 荷重減少 ) 逆に 車いすの座面奥行きが短すぎると 下腿部への荷重が減少し 骨盤での支持率が高くなり 重心を後方へ移動しようとする動きから膝関節を屈曲してしまい フットレスト上に適切な荷重ができなくなってしまう場合 あるいは下腿部への荷重方向が前下方に向かうため 前方での支持に対する保護的な動きとして 膝関節伸展位をとってしまう場合があります ( 図 25) 図 25 車いすフレーム 膝関節屈曲 股関節伸展 P 21
5. 標準型車いす座面シートに対するシーティングユニット 座面シートのたわみの影響を軽減する目的で 表 6 に示すような各種シーティングユニットがありますので それぞれの特徴と機能を理解し 適正な選定を行ってください 表 6: 座面シートのたわみにに対するシーティングユニット 概略図 ( 例 ) 改善点名称と特徴 機能 スリングシート用エッジフォーム スリングシートのたわみとシートクッションの間の空間を埋め クッションに及ぶたわみの影響を軽減する (* 全体の支持性は弱い ) 座面前方型ソリッドシート スリングシートのたわみに対し 座面前方のたわみを減少させ 下腿部での支持性を高める (* シートクッションとのずれを生じやすい ) ソリッドシート 座面シート全面のたわみを軽減し シートクッション全体の支持性を高める (* 座面の支持性は高くなるが 座面高が高めの設定になることがある ) 座面中央型ソリッドシート スリングシートの中央部のたわみを解消し 座シートの全面的な支持性を高める (* ソリッドシートよりも座面高の影響を受けにくく ( やや低めに設定できる ) シートクッションとも安定した設定がしやすい ) アジャスラブル ソリッドシート 座面シートのかわりに支持性の高い座面を提供するとともに 座角 座面高 ( 床面からの高さ ) の調整を図りながら設定を行うことができる (* 全体の重量が重くなる ) P 22
6. 姿勢保持のための支持面構成方法 適切な姿勢保持を行うために用いるシーティングユニットには 2 通りの支持面を構成方法があります それぞれの特徴 機能にあわせて 使用上の問題点などについて学びます 支持面構成には 3 点支持理論に基づいた直線的な支持面で構成するリニア式と曲線的な支持面で構成し圧力分散を行いながら多面的な支持構成を行うカンター式に分けられます ( 表 7) それぞれの特徴 機能がありますが ( 表 8) シーティング ユニットには さまざまな機能 デザインのものがありますので 日常生活動作との関係性や移乗介助 排泄介助などとの関係性を十分に評価して適正な方法を選択しなければなりません 表 7 分類 リニア式 ( 直線的アプローチ ) カンター式 ( 曲線的アプローチ ) 概略 特徴 機能性 問題点 ( 身体に受ける影響 ) 問題点 ( 日常生活上の問題 ) 3 点支持理論に基づいて 身体運動の自由性も確保しながら 適切な支持面で姿勢保持を行う 支持面から受ける圧迫が強く 痛みや皮膚損傷の原因を生じやすい 移乗時に支持面に衝突したりして 皮膚損傷の原因を生じやすい 支持面を多面的に用いることで 荷重分散を行いながら 身体への圧迫を軽減しながら姿勢保持を行う 身体運動の自由性を失いやすく また 夏場などの通気性が悪く不快感や不衛生さを起こしやすい 移乗時に位置決めはしやすいが 座り直しや 身辺介助がしにくくなるまた 尿瓶などを用いた排泄介助がしにくくなったりする P 23
表 8 種類 除圧機能 姿勢保持機能 熱消費率 清潔さの保持 耐久性 価格 ゲル付きカンタークッション 良好 最良または良好 普通または良好 最良 最良または良好 高価 空気圧クッションセル タイプ 最良 不良または普通 最良または良好 最良 普通または良好 高価 ゲル状クッション 良好 普通または良好最良最良普通やや高価 発砲ウレタン製カンタークッション 普通または良好 最良 不良または普通 最良最良やや高価 ウレタンクッション 普通または良好 良好普通不良 普通または良好 やや安価 空気圧クッション 普通 最良または良好 普通または良好最良良好安価 P 24
7. 座位保持装置 機構付き車いす 最近 重度の障害のある人向けの座位保持装置 機構付き車いすが普及するようになてきていますが その適合が必ずしも十分にできているようには思われません 重度の障害のある人には 高機能 多機能性に優れた車いすが必要である といった認識のもとに 機器が選択されていることはないでしょうか 再度 各種機構の目的 特徴 機能性及び利用上の注意点 問題点などを再確認し 適正な処方のもとに利用されることをおすすめします ティルト & リクライニング機構付き車いす ( 図 26) 特に ティルト & リクライニング機構付きの車いすにおいてですが リクライニング機構は休息用に用い ティルト機構は座角をつけることで姿勢の安定性を図る目的で用いられているようです しかし 実際には この 2 つの調整機構が合わさると 介護者が誤操作をしてしまったり あるいは使わなかったりすることが多くあります 本来 ティルト機構の目的は リクライニング機構によって 姿勢反射を助長し筋緊張や異常姿勢パターンを出してしまうケース ( 特に 脳性まひなど ) に対するものでした 座角をつけて前滑りを止めるだけの使用であれば 再度座面シートクッションと背もたれクッションの見直しを行い できる限りティルト機構なしで使用できる条件を整えてください これは ティルト機構を用いることで 下記に示すさまざまな弊害を防ぐためのものです ( ティルト機構による弊害 ) 1 折りたたみ機構が複雑になったり できなかったりするために収納性は悪くなる 2 全体の重量が重くなり 可搬性が悪くなる 3 操作手順が複雑になる 4 休息時のフルリクライニング機構が制限され 完全伸展位がとれなくなってしまう 5 ベッドなどからの平行移乗介助がしにくくなる 但し 以下の目的においては 必要性があるため 図 27~30 に示すような各種ティルト機構の特徴 使用するにおいて必要となる ( 介助 ) スペース 調整範囲などを理解した上で 適正な処方を行うようにしてください ( ティルト機構の適合となる対象範囲 ) 1 姿勢保持において姿勢反射 重力の影響を受けやすい場合 2 移乗の際に 座角を大きくつけることで介助が容易になる場合 ( 座る位置の確認 把握をしやすくするため ) 3 休息時の前後の ( 介護 ) スペースを確保したい時 4 シートクッション 背もたれクッション等での対応が難しい場合 5 快適性を確保するためにカンター式のような構造を簡素化し 姿勢変換機構を用いて対処する必要性がある場合 6 座面角度の前傾位あるいは後傾位を用いて立ち上がりをしやすくする場合 7 足部の浮腫軽減 改善を行うための足上げ機構が必要な場合 P 25
図 26 ティルト & リクライニング機構付き車いす また ティルト機構には 回転軸の位置により 回転軌跡と必要となる空間スペースに違いがあるため 機器の特徴として把握しておく必要性があります ( 図 27) さらに これまでの問題点などを改善した機能の付いた車いすも開発されてきていますので 十分機器情報を入手し 整理しておくようにしてください ( 図 29~30) 図 27 ティルト機構における回転軸の位置の違いによる機能性比較 回転軸が座面前方に位置する場合は 後方への空間スペースを大きく必要とする 食事介助の時などに 介助者が座位姿勢で行ったりと接近する場合は 介助を容易とするために 頭部の位置を低めに設定することができる 回転軸が座面後方に位置する場合は 後方への空間スペースを大きく必要とする 下腿 足部の挙上が高く設定できるため 足部の浮腫軽減などを目的とする場合は 有効である P 26
図 28 フルリクライニングを可能としたティルト機構連動式車いす 従来のティルト & リクライニング機構では得れなかったフルリクライニングを可能とした車いす 連動式のため ティルト機構を単独で使用することはできない 図 29 新たなティルト機構をもった車いす これまでのティルト機構の概念をかえ 特に腰部での支持性を高めながらの姿勢変換機構を持たせた車いす 但し フルリクライニング機構は得られない 図 30 前方スライド式ティルト & リクライニング式車いす ティルト機構の中に前方へのスライド機構を用いて 前後の重心移動を少なくし 空間スペースも少なくした 前傾位中間位後傾位 回転軸の位置移動 P 27
8. 私的交通手段 公共交通手段 図 31 私的交通手段 乗用車も 従来のリフト式のものよりもスロープ式 回転 昇降式座席シートなどの応用によって 重度の障害のある人も私的交通手段として 多く利用できるようになってきた 回転 昇降式座席シートの例 スロープ式の例 図 32 公共交通手段 公共交通手段としての 鉄道 バス 船舶 飛行機など まだまだ改善点はあるものの全国的にも整備がすすめられてきており 移動性の拡大が図られるようになってきている ワン ステップバスの例 コミュニティバスの例 バス車内 建築物のアクセシビリティ P 28