医科学コラム No. 5(2015 年 1 月 ) スポーツ時の食事のあり方 身体づくりのための食事私たちの体は 食事からのエネルギーによって動き 食べた物を材料に作られています つまり食事は私たちにとって生きていくために欠かせないものです スポーツ選手にとっての食事とは ただ 食べる のではなく よりよい体づくりを目指して 食べる 必要があります また食べ物のことをよく知っておくことも大切です 一生懸命練習しても 食事をしっかりとらないと身につきません 強い体とベストなコンディションを維持するためにも しっかりとした食習慣を身につけましょう そして 3 食欠かさず食事をとるためには規則正しい生活習慣をおくることが基本です 食事の基本型栄養素をバランスよく摂るには 食事の組み合わせが重要です スポーツ選手の食事の基本型は 主食 主菜 副菜 ( 汁物 ) 乳製品 果物 を揃えることです 1 主食 ( ご飯 パン めん類 ) キーワードは パワーのもと 活動を支えてくれるエネルギー源となる炭水化物が多く含まれています 不足すると 疲れやすくなります 2 主菜 ( 肉 魚 卵 豆腐 納豆など大豆製品 ) メインのおかずであり キーワードは 体づくりの材料 筋肉や骨などの材料となるたんぱく質が多く含まれています 3 副菜 ( 野菜 いも きのこ 海藻類 ) キーワードは 体調を整える 主食 主菜の効果を活かすのも副菜の役割のひとつであり 毎食欠かさず いろいろなものを1 食で両手いっぱい分摂りましょう 4 汁物 ( みそ汁 スープなど ) 野菜やきのこ 海藻などで具だくさんにした汁物 は 副菜と同様にビタミンやミネラルの供給源となります 5 乳製品 ( 牛乳 ヨーグルト チーズなど ) 乳製品に豊富に含まれるカルシウムは体内で骨の形成や神経の働きにおいて重要な役割を果たします 6 果物ビタミンを多く含んでおり また果物に含まれる糖は 摂取後すばやくエネルギーに変わります そのため運動直後に果物を食べることは疲労回復に役立ちます ポー ツ選手の 食の本型 3 副菜 : 野菜を主としたおかず 6 果物 2 主菜 : メインのおかず 1 主食 : ご飯類 5 牛乳 乳製品 ス 事基 競技種目別の食事競技種目によって消費するエネルギーは違います 陸上長距離などの持久力系 陸上短距離 柔道などの瞬発力系 そして サッカーやバレーボールなど球技スポーツは持久力系と瞬発力系の両方が求められ エネルギー量も比較的多くなります 持久力系は炭水化物やビタミン B 1 瞬発系はたんぱく質がしっかりとれるような食事内容にするとよいでしょう 炭水化物の供給源としてご飯をしっかりとり また 競技中に接触することが多い場合は 肉 魚 卵 大豆製品などからたんぱく質を摂り いい筋肉を作ることも大事です ビタミンを豊富に含む果物もしっかりとりましょう ( 県サッカー協会医学委員吉岡美子 ( 青森県立保健大学健康科学部栄養学科 ))
医科学コラム No. 4 (2014 年 11 月 ) 肉離れ 肉離れはスポーツ障害の中でも関節捻挫に次いで多い傷害であるといわれています 肉離れとは強い瞬発的な筋の収縮や持久的な筋の収縮を繰り返すことによって 筋または筋膜に腫れや出血が起こり 場合によっては筋繊維の一部が部分断裂を起こした状態です 肉離れを起こす部位はサッカーの場合 ハムストリングス ( 大腿部後面の筋肉 ) が最も多く 次に大腿四頭筋 ( 大腿部前面の筋肉 ) 下腿三頭筋 ( ふくらはぎ ) その他の順になっています 主な原因として柔軟性の不足 筋力の低下 拮抗筋とのバランスの悪さがあげられます 寝不足や疲労 天候等も影響します 発生時期としてはスポーツ種目により多少異なりますが シーズン当初 (4 月がピーク ) が最も発生率が高く 次いでシーズン終了時期 (10 月頃 ) が高いと言われていますので この時期は充分なコンディショニングと注意が必要と思われます 肉離れ治療法 肉離れの主な症状 肉離れの症状は医学的に 3 段階症状の特徴をまとめたので 現在自分の肉離れがどの段階にあたるのかを確認してみましょう 肉離れでは この症状の段階によって治療方法も異なってきます 第 1 段階 = 軽症肉離れの症状は非常に軽く 部分的に小規模の断裂が生じているケースです 痛みはありますが自力の歩行が可能の状 況がこの 第 1 段階 にあたります 第 2 段階 = 中程度肉離れの症状は中程度の段階です 第 2 段階の症状では筋繊維の一部断裂 筋膜の損傷 皮下内出血が発症するのが通常で 自力歩行が難しくなってきます 第 3 段階 = 重症かなり重傷の肉離れの状況です 筋繊維に部分断裂が深く発症し 圧痛顕著 を行うと 幹部には陥没が確認できます 圧痛顕著 ( あっつうけんちょ ) とは 患部と思われる部位を指で押しながら圧迫し 症状を確認する方法です この段階になると 自力歩行はほぼ不可能 となり 痛みも非常に激しい激痛を伴うようになります 損傷の程度はどうあれ初期治療 (RICE= R 安静 I 冷却 C 圧迫 E 挙上 ) が大切で これが適切に行われるかどうかがその後の回復に大きな影響が出ます なお RICE 処置は 1 日 ~2 日間継続すると効果的であると言われています 初期治療後は損傷の程度により早期から筋力トレーニングを開始するものから ある一定の固定期間 ( テーピングや弾力包帯など ) を経てから筋力トレーニングをするものまで様々です スポーツ復帰はだいたいの目安として関節の動き 筋力とも健 患側差なく正常となり ストレッチ痛が完全に消失してからスポーツを始め 期間としては軽症では受傷後 1~2 週間 中等傷では 4~5 週間 重傷では 6 週間頃から始めることができるといわれています ( 県サッカー協会医学委員笹川隆人 ( 笹川鍼灸接骨院 ))
医科学コラム No. 3(2014 年 9 月 ) スポーツにおける突然死 健康増進 メタボリック症候群の予防のため 日常的にスポーツが盛んに行われていますが 鍛え上げられた競技スポーツ選手においても練習中や競技中に急死したというニュースは時に耳にします 突然死全体の中でスポーツ中の突然死の頻度は多くありませんが 決して安全という訳ではありません 突然死によって東京都監察医務院で検屍あるいは行政解剖がなされた者のうち 特別な病歴がなく健康と考えられていた 679 例の検討では 男性が 471 例と多く 加齢とともに増加が見られました ( 図 1) 多くは安静 睡眠中に突然死は発症しており スポーツ 歩行などの運動中の突然死は 78 例 (12%) と頻度の高くありませんでした しかしながらこれらを生活活動時間で補正した危険率を算出すると スポーツで 4.1(/ 億人 時間 ) 排便 2.4 入浴 1.6 睡眠 0.8 歩行 0.6 休息 休憩 0.2 であり スポーツの危険率は最も高いものでした 表 1 運動による突然死の剖検所見 ( 文献 2より引用 ) どうすれば突然死を防げるのか? 多くは学校検診 メディカルチェックで突然死につながりやすい疾患を速やかに発見し 治療可能であれば治療してスポーツに復帰 治療による根治が困難であれば競技スポーツを制限 中止することでスポーツ中の突然死を回避できます しかしこれら検診やメディカルチェックでも発見が容易でなかったり 診断された例でも突然死を完全に予知しがたい場合もあり 発症例の適切な対応が重要となります 突然の心肺停止はいつでも起こりうるものと考え 競技スポーツの指導者や教員は常日頃より自動体外式除細動器 (AED) の使い方を含めた心肺蘇生法の習得や競技スポーツ前に AED がどこにあるのか など把握しておく必要があります 図 1 突然死の生活状況 ( 文献 1より引用 ) 運動中の突然死の死因としては 30 歳未満では先天性冠動脈奇形や肥大型心筋症が多く見られますが 30 歳以上では冠動脈硬化といった動脈硬化を原因とした疾患になってきます 文献 1. 高田英臣ら 日内会誌.1998;87:77-82 2.Waller BF ら Exercise and Heart,1995; P9 ( 県サッカー協会医学委員樋熊拓未 ( 弘前大学心臓血管病先進治療学講座 ))
医科学コラム No. 2 (2014 年 7 月 ) 腰椎分離症 ( 腰椎疲労骨折 ) 腰椎分離症とは腰椎 ( こしの骨 ) の後方部分に起こる疲労骨折です ( 図 1) スポーツを活発に行っている 10 歳代前半に運動時の腰痛として多く発生します 一番下の腰椎 ( 第 5 腰椎 ) に好発します 図 2. 1X 線 ( 分離終末期 ) 2MRI 図 3. CT 1 治療前 21 年後 ( 治癒している ) 図 1. 1 腰を後ろから 2 斜め後ろからみたところ 矢印の部分に ひび が入る 発生原因 : 腰をそらす動作とひねる動作が繰り返されると骨に ひび が発生するといわれています サッカーでは常にこれらの動作が繰り返されるため サッカー選手は分離症が発生しやすいといえます 治療 : 初期であれば治る ( 骨癒合する ) 可能性が高いので スポーツを休止または制限するとともにコルセット ( 図 4) で腰を固定し ひび に力がかからないようにします 症状の特徴 : 腰をそらす動作で腰痛が増すのが特徴です スポーツ中あるいはスポーツ後に腰痛を自覚します ただし 急性期では前かがみも制限されることがあります 画像診断 :X 線写真では 初期であれば異常がない ( 偽陰性 ) ことが多く 異常があればすでに進んだ分離症であるといえます ( 図 2) MRI は X 線や CT でまだ骨折がはっきりしない段階でも異常が指摘でき 早期診断に有用な検査といえます ( 図 2) CT では ひび ( 骨折 ) の状態を詳細に把握することができ 治療方法の決定や治り具合の判定に有用です ( 図 3) 図 4. コルセット : 後方に硬い支柱がはいっていて腰がそるのを防ぐ 時間がたったもの ( 終末期分離 ) は骨がくっつく ( 癒合する ) ことは期待できないので 痛みのコントロールやリハビリ ( 体幹トレーニング 下肢ストレッチなど ) が行われます 予防 : 確立した予防法はありませんが ストレッチにて下肢の柔軟性 ( 特にハムストリングス ) を獲得することと 体幹の筋力強化が分離症の予防や再発予防に重要といわれています ( 県サッカー協会医学委員山本祐司 ( 弘前大学整形外科 ))
医科学コラム No. 1 (2014 年 5 月 ) 膝前十字靱帯 (Anterior Cruciate Ligament: ACL) 損傷 膝関節は大腿骨 ( ももの骨 ) 脛骨 ( すねの骨 ) 膝蓋骨 ( お皿の骨 ) からなる関節です 大腿骨と脛骨の接触面は形が合わず適合性が不良なため それを補うために靱帯や半月板などの軟部組織が発達しています ( 図 1) しかしながらこれらの組織は比較的弱い外力でも損傷が生じやすく 膝関節は最もスポーツ傷害が起きやすい部位でもあります 置すると半月板や関節軟骨の損傷がすすみ 変形性関節症へと進行します 自然治癒しないため若年者では手術治療が一般的で 自分の体の中にある腱組織 ( 膝蓋靱帯や膝屈曲筋腱 ) を十字靱帯に置き換えて移植する再建術が行われます ( 図 3) 手術をしないで アスレチック リハビリテーションなどの保存的治療を行った場合 バスケットボール サッカーなどのジャンプ カット動作の多いスポーツ活動への復帰は困難とされています とはいっても ACL 損傷は生命に関わるような疾患ではないので 治療方針の決定は医師のみではなく 本人 さらに家族 チーム事情など意思疎通が必要です 図 3. ACL 再建材料 膝屈曲筋腱 ( 左 ) と再建 ACL( 右 ) 図 1. 膝 ( 右 ) 関節の解剖 膝前十字靱帯 (ACL) は膝関節内に存在し ( 図 1) 大腿骨に対して脛骨が前方にズレたり過度に捻れる動作制動の約 80 % を分担しています ACL 損傷はスポーツ傷害のなかでも最も高頻度に発生し ジャンプの踏み切りや着地 ステップ動作 ストップ動作など非接触型損傷が多く 女子に頻発します また サッカー ラグビー 柔道などのコンタクトスポーツでの受傷も多く 膝外反ストレス ( 膝が内側に入る knee in) にて損傷されるので 内側側副靱帯損傷の合併も多く見られます 受傷状況の問診や不安定性を診察することで診断は可能ですが MRI は ACL の状態に加え半月板や関節軟骨の合併損傷を確認でき有用です また 受傷後 12 時間以内に生じる骨折を認めない関節血腫 ( 関節内に血液が貯まること ) では 約 80~90 % が ACL 損傷といわれています ( 図 2) ACL 再建術後の移植腱は 動物実験では 3 週後から一度 壊死に陥り 約 3 カ月後より徐々に 再血行を生じて成熟していくことが分かっています 人間でも同様な経過が考えられ MRI では術後 3 週で壊死 11~20 カ月で正常側と同様所見となるとの報告もあり 術後 3~4 ヵ月での早すぎるスポーツ復帰は絶対に避けるべきことです 一般的には 手術後約 6 カ月でのスポーツ復帰が目安とされています アスレチック リハビリテーションを集中的に行うことで 筋力 バランス感覚など膝機能の修復を早期に獲得することは可能ですが 残念ながら 移植腱の成熟を早める方法は確立していません ACL 損傷に合併する関節内病変としては 半月板損傷と関節軟骨損傷があります 両損傷とも自然治癒が期待しにくい損傷であり 半月板に関しては 以前は損傷された部分を切除していましたが 変形性変化予防のために最近では可能な限り縫合することが薦められています 図 2. 正常 ACL( 左 ) と損傷 ACL( 右 ) ACL 損傷膝では 膝がガクッと折れるいわゆる 膝くずれ が頻発するためスポーツ復帰が困難で 長期間放 ( 図 4. 損傷半月板 ( 左 ) と半月板縫合 ( 右 ) ( 津田英一 ( 弘前大学整形外科 ) 岡村良久 ( 県立あすなろ療育福祉センター整形外科 ))