ナイロン 66 の合成 ~ 代表的な合成繊維 ~ 繊維の燃え方と反応繊維の染色 1 繊維について繊維には 天然の植物繊維 動物繊維に加えて 加工を加えた半合成繊維 モノマーから合成した合成繊維がある 繊維の種類による燃え方や薬品との反応 染色の違いについての実験と 衣料 ( 繊維 ) は高分子化合物でできていることを学ぶナイロン 66 の合成の実験を取り上げた 植物繊維 ( 綿や麻の主成分セルロース ) -β-グルコース-β-グルコース-β-グルコース-β-グルコース-βグルコース- 動物繊維 ( 羊毛や絹の主成分タンパク質 ) - アミノ酸 - アミノ酸 - アミノ酸 - アミノ酸 - アミノ酸 - 合成繊維 ( ナイロン ポリエステルなどのポリマー ) - モノマー - モノマー - モノマー - モノマー - モノマー - 2 実験結果 実験 4 繊維の燃え方と反応結果例 綿羊毛 ( 毛糸 ) 絹ナイロン 1 燃え方燃える 燃える 燃える 燃えずに融ける 炎の色橙色の炎橙色の炎橙色の炎 ( 炎は見えない ) におい 紙の燃えたにお い 毛の燃えたにおい 毛の燃えたにおい 特殊なにおい 灰の様子ほとんど残らない 黒い塊 容易につぶれる 黒い塊 容易につぶれる 融けて 熱いうちに引き伸ばすと糸状になる 2 リトマス紙変化なし赤から青赤から青赤から青 3 水酸化ナトリウム変化なし絹より溶ける 溶ける 変化なし 酢酸鉛変化なし黒色に変化した 変化なし ( 絹は S を含まない ) 変化なし 4 希硫酸変化なし変化なし変化なし変化なし 考察例 1 綿 2 羊毛 絹 3 繊維 : 羊毛 絹 ナイロン 気体 : アンモニア 元素 : 窒素 ( ナイロンも タンパク質と同様にアミド結合 -CONH-をもつのでアンモニアを 発生する タンパク質のアミド結合は 特にペプチド結合と呼ばれる ) 4 酸に弱い : 羊毛 絹は酸にも弱いが 今回の実験では確認できなかった 1
塩基に弱い : 羊毛 絹 5 繊維 : 羊毛原因 : 硫黄を含み 硫化鉛 (Ⅱ) の黒色沈殿が生じたため 羊毛以外の繊維については はじめに Pb(OH)2 の生成によって白く濁るが NaOH が多いと その後 [Pb(OH)4] 2- となり白濁は消える 発展例 1 羊毛 絹 ( ナイロンは色の変化はないが とけてしまう ) 参考 希硫酸との反応繊維と酸 塩基との反応として 希硫酸との実験を入れたが 全て変化がなく 繊維による違いが見られないので 時間がなければ省略してもよい キサントプロテイン反応羊毛 絹がタンパク質からできていることを示す実験としては 発展に示したキサントプロテイン反応 ( ベンゼン環の検出 ) が最もよい 簡単で反応も明確である 酢酸鉛との反応タンパク質の構成元素は C H O N が共通で 構成アミノ酸の種類によって硫黄 S を含むものがある ケラチンは 硫黄 S を含むアミノ酸であるシステインの含有量が多く フィブロインは硫黄 S を含むアミノ酸であるシステインやメチオニンを含まない したがって 羊毛のタンパク質であるケラチンは S を多く含むが 絹のタンパク質であるフィブロインは S を含まない アミノ酸の構造 H Rの種類のよって約 20 種類のアミノ酸 がある R-C-COOH NH2 リトマス紙の反応アンモニアを発生させて窒素を検出する実験であり タンパク質 ( 羊毛 絹 ) ナイロンが反応する ナイロンがタンパク質と同じアミド結合をもつことの確認になる ビウレット反応( ペプチド結合の検出 ) タンパク質の呈色反応の1つで 追加実験として紹介する 実験方法 試験管に繊維片を入れ 1mol/L-NaOH5mL を加えたのち 0.1 mol/l- CuSO4 を1~2 滴加える 羊毛と絹は赤紫色になる 発色するのに時間がかかる 羊毛は黒っぽくなり赤紫色に見えにくいが 羊毛を減らすと赤紫色に見える 実験 5 繊維の染色結果例綿羊毛 ( 毛糸 ) 絹ナイロン ナイロンは 綿よりはよく染まるが 羊毛や絹ほどは染まらない 考察例 1 ( 動物 ) 繊維がよく染まる ( 動物 ) 繊維が結び付きやすい 2 含まれる金属が異なるから 3 染料の色落ちを防ぐ 2
参考 実験方法について 1 媒染液の調製は 事前にしておくと時間を短縮できる 塩化鉄 (Ⅲ) 六水和物は潮解性があるので ビーカーに直接入れて量る 使う媒染液の量は それぞれ 10mL 程度でよい 2 時間があれば 綿以外に羊毛や絹 ナイロンについても 同様に媒染液による発色実験を行うと 様々な色が楽しめる 3ドライヤーがなければ キッチンペーパーで水気をとる 色素( 染料分子 ) についてタマネギの表皮に含まれる主な色素はケルセチンである 草木染めの色素成分は分子量 200 以上のポリフェノールという特徴をもつ ポリフェノールとは ベンゼン環に結合しているヒドロキシ基 -OHを2 個以上もつ化合物の総称 ( ポリマーではない ) で 比較的水に溶けにくい 植物の液胞に含まれているアントシアンもタマネギの皮に含まれるケルセチンもこれである ポリフェノールは 体内の酸化を防ぐ抗酸化物質であるとされ ポリフェノールを含む食品への関心が高くなっている 染色の難易と媒染剤ケルセチン繊維の染色は 繊維のケルセチン分子と染料の分子とが 化学的に結び付くことによって起こるため 染料の分子の官能基が 繊維の分子の官能基と結び付きやすい場合 その繊維は染色されやすい 羊毛 絹のタンパク質中のペプチド結合 ( アミド結合 ) やアミノ基 -NH2やカルボキシ基-COOHなどが染料の官能基と結び付く 木綿はヒドロキシ基 ナイロンはアミド結合によって染料の分子と結び付く 色素は金属イオンと結び付き水に不溶な物質となって繊維に固定されるため 色落ちしにくくなり 鮮やかに発色する 同じ色素でも結び付く金属の種類によってその色合いが異なる 実験 6 ナイロン 66 の合成結果例 1 ヘキサメチレンジアミン ( 無 ) 色の ( 固 ) 体融点は 42 であるが 純粋でないためか若しくは潮解性のためか 8 月に行ったときは少し褐色を帯びた液体であった 11 月には無色の結晶塊であった 事典などには ほとんど無色結晶塊であるが次第に着色して褐色になる とある 2 アジピン酸ジクロリド ( 無 ) 色の ( 液 ) 体空気に触れると変化しやすいので 使用する直前に試薬びんから取り出す 3 界面の様子 白い膜ができた 4 どのようなナイロンができたか 白い糸状のものができた 考察例 1 反応前後の物質の性質の変化は 分子のどのような変化によるものか 小さい分子 ( モノマー ) が重合して高分子化合物 ( ポリマー ) が生じたため 3
2 ナイロンは どのようなものに利用されているか ストッキング ウインドブレーカー 釣り糸 エアバッグなど 参考 ナイロン 66 の合成についてナイロン 66 は 2 つの単量体 ( ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸ジクロリド ) から 縮合重合によって合成される高分子化合物である ヘキサメチレンジアミンの分子 H2N-(CH2)6-NH2 -NH 2 アジピン酸ジクロリドの分子 ClOC- ClOC-(CH2)4-COCl -N-H H Cl-C- O * 塩化水素 HCl が取れる 生成したナイロンの化学式 -NH-CO-(CH2)4-CO-NH-(CH2)6-NH-CO-(CH2)4-CO-NH-(CH2)6-NH-CO- -NH-CO- ( アミド結合 ) 実験方法について 1 方法 1 で水酸化ナトリウム水溶液を加えるのは 縮合重合の際に生じる塩化水素を取り除くためである 平衡移動の法則により 反応がより進みやすくなる 2 方法 2 では アジピン酸の代わりにアジピン酸ジクロリドを用いる方が 加圧や加熱の必要がなく縮合重合を速やかに進行させることができる 3 方法 3 では ペンタン溶液をガラス棒を用いてビーカーの内壁を伝わらせて静かに加え 2 層の液が混じらないように注意させる 2 層の液は下が水層 上がペンタン層である 4 方法 5 では できあがった糸を水ではなくアセトンで洗い乾かす方法があるが アセトンを用いても乾燥が特に速くなることはない アセトンは蒸気を吸い込むと有毒なので用いなかった 5 発展として 実験で合成したナイロン 66 の燃焼を加えようとしたが 不純物のためか ナイロン特有の燃え方とならなかったため実験に加えなかった 6 保護眼鏡をかけて実験する 薬品が皮膚に付着した場合は すぐに大量の水で洗い流す アジピン酸ジクロリドやペンタンの蒸気を吸い込まないように十分に換気しながら行う ナイロン 66 の名称について 66 は モノマーであるヘキサメチレンジアミンの炭素数 6 アジピン酸の炭素数 6 を示す ナイロン は デュポン社のポリアミド繊維の商品名であるが 人類が最初に工業生産した合成繊維のためポリアミド系繊維の一般名になっている 4
3 まとめ 実験はやってみないとわからない! ビウレット反応はタンパク質の検出に用いられるが 羊毛では赤紫色になるはずが 黒っぽい色になった 繊維の量を減らすと赤紫色になったが 実験してみて分かることを改めて実感した 硫黄 S を含まないタンパク質がある! 絹のタンパク質であるフィブロインは 硫黄を含むアミノ酸を含んでいないため 硫黄の検出実験では反応しない 羊毛やヒトの毛のタンパク質であるケラチンは硫黄を含むシステインを多く含むため S-S 結合を作り パーマネントに利用されている ほとんどの草木染めの色素成分はポリフェノール! アントシアンも含め ほとんどの草木染めの色素成分はポリフェノールである 色素構造に共通の分子構造をもち 媒染剤 ( アルミニウム 鉄 銅イオン ) との配位結合によって発色する 花が様々な色調を示すのも媒染と同じ原理! 花が様々な色調を示すのも 植物の液胞中に含まれているアントシアンが カルシウムやマグネシウムなどの金属元素と種々の錯体をつくるためである また フェノール類の塩化鉄 (Ⅲ) による検出も同じ原理である 多くのことを学び それらが結び付いていく楽しさを生徒にも感じてもらいたい 他教科との協力は大切! この実験は 家庭科の教員とともに行った 生活文化科での生徒実験も好評であった 繊維について専門的に学ぶ人のための導入としてもよい実験である また 植物繊維のセルロース ( 語源 : 細胞セルと糖ロース ) は植物の細胞壁の主成分であり 食物繊維とも関係するので 理科だけでなく他の分野への興味 関心に広がっていく 科学と人間生活 は 身近なものを扱うため物質としては複雑なものが多く どこまで教えるかに悩むが 専門的になり過ぎて興味を失わせてしまわないように 実験によって興味 関心を高め 身の回りの物質に対して興味 関心をもち続けてほしいと願う 5