インスリン治療 をよく知るために 監修 横浜市立大学大学院医学研究科 分子内分泌 糖尿病内科学教室 教授 寺内 康夫 先生
糖尿病と治療の目的 糖尿病とは 糖尿病とは 体内でインスリンというホルモン p.3参照 が不足したり はたらきが悪くなったりすることによって 血液中に含まれる糖 血糖 の値が高い状態が続く病気です 糖尿病 患者さんの 場合 健康な 人の場合 インスリンによって糖が細胞に取り込まれ 血液中の糖が使われています インスリンが少なかったり はたらきが 弱かったりするため 糖が細胞に取り込まれず 血液中の糖の濃度が高くなります 糖尿病治療の目的 糖尿病は血糖値が高くても それだ けでは具体的な症状はみられません しかし 血糖値の高い状態が続くと 次第に細い血管の障害 網膜症 腎症 神 経 障 害 や 太 い 血 管 の 動 脈 硬 化 心疾患 脳血管障害 などの合併症 が起こります も う ま く し ょ う 網膜症 脳血管障害 心疾患 じんしょう 腎症 神経障害 えそ こ れら の 合 併 症 が 起 こったり 悪くなったりするのを防ぐには 血糖値 体重 血圧 血液中のコ レステロールや中性脂肪などを 適切に管理することが大切です 糖尿病の治療では 健康な人と変 わらない 日常生活の質 の維持 と 寿命 の確保を目指します 1
糖尿病の治療 糖尿病の治療では まず 食事や運動の習慣を見直して生活を改善します それでも血糖値が十分に下がらない場合に お薬による治療が行われます 食事療法 朝 昼 夜 栄養バランスのよい食事を できるだけ規則的に摂ることが大切です 炭水化物 脂質 たんぱく質などの三大栄養素 ミネラルやビタミンをバランスよく摂りましょう 食べすぎにも注意が必要です 運動療法 自分にあった運動や運動量を主治医と相談し 無理せず 適度な運動を続けましょう 散歩やジョギングなどの有酸素運動を 週 3 日以上行うようにしましょう 薬物療法 お薬による治療には 内服薬と注射薬があります すいぞう内服薬には 膵臓からのインスリンの分泌を促すお薬 分泌されたインスリンのはたらきを高めるお薬 糖の吸収を遅らせたり 排泄を促したりするお薬などがあります また 注射薬にはインスリンそのものを補うお薬などがあります (p.3 ~4 参照 ) 2
インスリン治療について インスリンとは インスリンとは 膵臓のランゲルハンス島にある β 細胞から分泌されるホルモンで 血液中の糖が多くなり過ぎないようにはたらきます インスリンの分泌パターンと血糖値の変化 1 日中ほぼ一定の量が分泌される 基礎分泌 と 食後に血糖が上がるのに応じて分泌される 追加分泌 があり 両者によって血糖値が抑えられています 1 日のインスリン分泌パターン 1 型糖尿病患者さんでは 基礎分泌 追加分泌がともにうまく行われなくなっています 2 型糖尿病患者さんでは 主に追加分泌が減りますが 病気が進むと基礎分泌も減ってきます また インスリンのはたらきが不十分になり 血糖をうまく抑えられなくなるため 1 日を通して血糖値が高くなります 血糖値の変化 3
インスリン注射薬の種類 インスリン治療は インスリン ( インスリン製剤 ) を注射で補う治療法です インスリン注射薬は インスリンの作用があらわれるまでの時間や作用が続く時間の違いによって いくつかの種類に分かれます これらを単独または組み合わせて 健康な人のインスリン分泌パターンに近づけるようにします 超速効型 食直前に注射します 追加分泌を補い 食後の血糖値の上昇を抑えます 速効型 食前に注射します 追加分泌を補い 食後の血糖値の上昇を抑えます 混合型 一度の注射で基礎分泌と追加分泌を補います 中間型 作用を持続させるために 薬液に工夫を加えています 持効型 1 日 1( ~2) 回注射します 基礎分泌を補い 空腹時の血糖値上昇を抑えます 4
インスリン治療を始められる方へ インスリン治療を適切に行うには 以下の 3 点に注意することが大切です インスリン注射薬の使い方 (p.6 参照 ) 毎日 決められた用法 用量を正しい手技で注射します ご自身の判断で注射をやめたり 量を調節したり 自己流の打ち方をしたりしないでください インスリン注射薬の保管と捨て方について (p.7 参照 ) インスリン注射薬を適切に保管し 使用後は医療機関から指導された方法で捨ててください 低血糖とシックデイについて (p.8 9 参照 ) 低血糖やシックデイの対応には ご家族や周りの方のサポートも大切です 5
インスリン注射薬の使い方 インスリン注射薬の使い方 単位 とは? インスリン注射薬の用量は 単位 で示されます 主治医から指示された単位を注入器に設定して注射します 注射する場所 お腹 上腕部 腰 太ももの外側のうち 注射する部分を決めます そして 決めた注射部分の中で 毎日 2 ~3cm ずつずらして注射します これは 同じ場所に注射を続けると皮膚が硬くなってしまうためです 6
インスリン注射薬の保管と捨て方について インスリン注射薬の保管 使用前のインスリン注射薬は 凍らせないように冷気の吹き出し口の近くを避けて冷蔵庫 (2 ~8 ) に保管してください 使用中は室温 (30 以下 ) で保管してください 以下のような場所には保管しないでください 1 直射日光が当たる場所 2 極端に低温や高温になる場所 3 湿度が高い場所 4 ほこり ごみが付きやすい場所 5 汚れやすい場所 使い始めて 4 週間を過ぎたインスリン注射薬は 使わないでください インスリン注射薬と注射針の捨て方 必ず医療機関の指導に従って捨ててください 7
低血糖について 低血糖は 血液中の糖の量が低下した状態です 患者さんによって症状が異なるため ご自分の症状を知って予防や対処法を主治医と相談しておくことが大切です 低血糖が起こりやすいとき 食事に変化があった ( 内容が変わった 時間が遅れた いつもより量が少なかった ) いつもよりたくさん運動をした インスリンや飲み薬の種類 量を間違えたなど 低血糖の症状 どうき冷汗 動悸 手足のふるえ 不安感 頭痛 眼のかすみ 意識がもうろうとする といった症状があらわれることがあります 血糖値を測定できる場合は 測定してください 低血糖になったときの対処法 ブドウ糖 (10 グラムくらい ) やブドウ糖の入った飲み物 をすぐに摂ってください 冷汗動悸手 ( 足 ) のふるえ ブドウ糖などを摂っても症状が続く場合は もう一度同じ量を摂ってください それでも症状が改善しない場合や意識がはっきりしない場合は 医療機関を受診してください ブドウ糖やブドウ糖の入った食べ物を常に持ち歩くようにしてください ご家族や周りの方に 低血糖について知っておいてもらうことも大切です 8
シックデイおよび投与に注意が必要な方 シックデイの注意 糖尿病治療中に 風邪などによって体調を崩してしまう日を シックデイ といいます おうと病気 ( 発熱 下痢 嘔吐など ) のときは血糖値が上がりやすい状態になっています ご自分の判断で飲み薬やインスリン注射薬を中断したり 減らしたりせず 必ず主治医に相談してください また シックデイの対処法を事前に主治医と相談しておきましょう シックデイにはご家族や周りの方のサポートも大切です 普段から対処法について話し合っておきましょう インスリン注射薬を使用する際に注意が必要な方 下記の方は 特に血糖値が変動しやすいため インスリン注射薬を使用する際には主治医にご相談ください 妊娠の可能性がある方 妊娠中 授乳中の方 ご高齢の方 肝臓 腎臓 副腎や脳下垂体の病気がある方 血圧を下げるお薬を飲んでいる方など その他 気になることや心配なことがあれば 主治医や医療スタッフにご相談ください 9
バイオシミラー ( バイオ後続品 ) について バイオシミラーとは インスリンは 生物の細胞を利用してつくられるバイオ医薬品のひとつです 最近では 先に開発されたバイオ医薬品と同じ成分でつくられる バイオシミラー ( バイオ後続品 ) と呼ばれるお薬も治療に使われるようになってきました バイオシミラーは 特許が切れたバイオ医薬品と品質や効果が同等 同質で 安全性も類似していることが国の基準で示されています また 先に販売されたバイオ医薬品と同様に バイオシミラーの発売後も安全性について引き続き調査が行われます バイオシミラーの経済的メリット バイオシミラーの薬価 ( お薬の値段 ) は 先行のバイオ医薬品より安く設定されています バイオシミラーの特徴とメリット 先行バイオ医薬品と品質や効果が同等 同質で 安全性も類似していることが確認されています 発売後も 安全性について調査されます お薬代が安くなります 10
病医院名 連絡先記入欄 IGL12-01-1605 2016年5月作成 KOI 100 COL