表 1 防衛分野における主な宇宙開発利用の例 情報収集 警戒監視 ( 画像情報収集機能 電波情報収集機能 早期警戒機能 ) 情報通信測位気象観測 以下では用途別の利用状況を政府公表資料に基づき整理する まず 1 情報収集 警戒監視の画像情報収集機能については 1982 年の政府答弁で

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目 次 1. 改訂の趣旨 1 2. 宇宙開発利用の特性 意義及び課題 1 3. 昨今の防衛省の取組 2 4. 防衛省の宇宙開発利用に関する基本方針 3 ⑴ 宇宙空間に対する考え方 3 ⑵ 統合機動防衛力 の構築に資する宇宙開発利用のあり方 3 ⑶ 今後の重点的な取組 4 ア.3 つの視点に係る取組

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として本件対象文書にかがみを加えたものを特定した 本件開示請求に対しては, 法 11 条に規定する開示決定等の期限の特例を適用し, まず, 平成 27 年 4 月 20 日付け防官文第 6779 号により, かがみについて開示決定を行った後, 同年 9 月 3 日付け防官文第 号により

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宇宙空間と安全保障 ば 地球上のあらゆる地域の観測や通信 測位などが可能となる このため主要国は C 4 ISR 2 機能の強化などを目的として 軍事施設 目標偵察用の画像偵察衛星 軍事通信 電波収集用の電波情報収集衛星 軍事通信用の通信衛星や 艦艇 航空機の航法や武器システムの精度向上などに利用す

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各府省からの第 1 次回答 1. 災害対策は 災害対策基本法に規定されているとおり 基礎的な地方公共団体である市町村による第一義的な応急対応と 市町村を包括する広域的な地方公共団体である都道府県による関係機関間の総合調整を前提としている を活用してもなお対応できず 人命又は財産の保護のため必要がある

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ている このうち センサ局は 屋外に設置された方探用アンテナ 制御装置等 当該制御装置等を収納する方探舎等で構成されている ( 注 1) 5 総合通信局等 北海道 関東 北陸 九州各総合通信局 沖縄総 合通信事務所 そして これらの電波監視施設は 耐用年数を考慮するなどして更新が行われている (2)

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JEGS は英語版が正文である JEGS 仮訳中の用語が日本の関係法令上の用語と同一だとしても その定義は必ずしも一致するとは限らない 2018JEGS バージョン 1.1 日本環境管理基準 国防省 日本環境管理基準 2018 年 4 月 バージョン 1.1 ( 改訂 :2018 年 12 月 )

U2. 北朝鮮のミサイルについて Q3. 北朝鮮によるミサイル発射の現状はどうなっているのか 北朝鮮は 過去に例を見ない頻度でミサイルを発射しており 平成 28 年 8 月以降 ミサイルが日本の排他的経済水域 (EEZ) 内に落下する事例も起こっています Q4. ミサイルは 発射から何分位で日本に飛

Transcription:

日本の防衛宇宙利用 宇宙基本法成立前後の継続性と変化 政策研究部グローバル安全保障研究室福島康仁 はじめに 2008 年の宇宙基本法成立は日本の防衛宇宙利用の転換点であったと広く評価されている 同法成立前 自衛隊に認められていたのは 利用が一般化している衛星及びそれと同様の機能を有する衛星 の利用のみであった ( いわゆる一般化理論 ) しかし 基本法の成立により 国際約束と憲法の範囲内で一般化理論を超える利用が自衛隊に許されるようになった これを受けて防衛省は 2009 年に 宇宙開発利用に関する基本方針 ( 以下 防衛省の基本方針 ) を決定し 具体的な利用のあり方について検討を開始した 本稿では宇宙基本法の成立が防衛宇宙利用の実態面に与えた影響を考察する 基本法の成立から 10 年近くが経過する中 同法成立前後の防衛宇宙利用を比較することで 実際のところ何が変わり 何が変わっていないのかを明らかにする 1. 宇宙基本法の成立前宇宙基本法の成立前 防衛省 自衛隊は衛星を保有していなかった一方で 他者が保有 運用する衛星を利用していた 利用していたのは 企業が保有 運用する衛星 ( 商用衛星 ) 他省庁 機関が保有 運用する衛星( 民生衛星 多目的衛星 ) 他国政府 軍隊が保有 運用する衛星( 他国の民生衛星 軍事衛星 ) である その用途も幅広いものがあった 次頁表 1 のとおり 防衛省の基本方針 は防衛分野における主な宇宙開発利用の例として 1 衛星を利用した情報収集 警戒監視 ( 画像情報収集機能 電波情報収集機能 早期警戒機能 ) 2 衛星を利用した情報通信 3 衛星を利用した測位 4 衛星を利用した気象観測を挙げている このうち1 情報収集 警戒監視の電波情報収集機能以外は基本法成立前から活用していた 1

表 1 防衛分野における主な宇宙開発利用の例 1 2 3 4 情報収集 警戒監視 ( 画像情報収集機能 電波情報収集機能 早期警戒機能 ) 情報通信測位気象観測 以下では用途別の利用状況を政府公表資料に基づき整理する まず 1 情報収集 警戒監視の画像情報収集機能については 1982 年の政府答弁で米国の民生用光学地球観測衛星 LANDSAT の撮影画像を利用していると明らかにしている これは宇宙開発事業団 ( 以下 名称は全て当時のもの ) 経由で無償提供を受けていたものである 1984 年度には商用衛星画像を用いた画像情報業務を開始している この点に関連して 1986 年版の防衛白書には LANDSAT の撮影画像 (1985 年から 2001 年まで米 EOSAT 社に販売委託 ) を購入しているとの記述がある 1994 年の政府答弁ではフランスの光学地球観測衛星 SPOT( 国立宇宙研究センターが保有 運用し スポットイマージュ社が画像販売 ) の利用を行っていることも明らかにしている 2001 年には画像情報支援システム (IMSS) の運用を防衛庁は開始した IMSS は 1999 年の光学地球観測衛星 IKONOS( 米スペースイメージング社 ) の打上げにより商業的に入手可能となった 1m 級の高分解能画像に対応可能なシステムとして整備された 2003 年の政府答弁では 合成開口レーダーを搭載した地球観測衛星 RADARSAT( 加 MDA 社 ) の撮影画像も購入していると明らかにしている このような民生 商用の衛星画像に加えて 2003 年に情報収集衛星 (IGS) の打上げが開始されて以降は 同衛星が撮影した画像も利用してきた IGS は 1998 年のいわゆるデポドン ショックを契機として導入された多目的衛星である 衛星の開発 運用は内閣官房の内閣衛星情報センターが担っている つぎに1 情報収集 警戒監視の早期警戒機能については 1996 年に米軍から早期警戒情報 (SEW) を入手するようになった これは米軍とその協力国の早期警戒衛星や地球配備レーダーなどで探知した弾道ミサイル発射情報を準リアルタイムで伝達してもらうものである 2 情報通信については 1977 年に商用衛星通信回線の借上げを始めてい 2

る 具体的には南極地域観測を支援する砕氷艦 ふじ による MARISAT の利用である MARISAT は 1976 年に米 COMSAT 社が打上げたばかりの海事通信衛星であった 1982 年に国際海事衛星機構が INMARSAT の運用を開始して以降は 海外派遣部隊等が同衛星を利用するようになった 1984 年には本土と硫黄島の間で 通信 放送衛星機構が運用する さくら 2 号 (CS-2a CS-2b) の利用を始めた 両機は 1983 年に打上げられた日本初の実用静止通信衛星であった 日本電信電話公社の公衆電気通信役務に関する無差別公平原則に基づき利用していた さらに海上自衛隊は 1985 年度予算に米海軍の通信衛星 FLTSAT の放送受信装置を艦艇に装備する経費を計上した これは米海軍主催の多国間共同訓練リムパックへの参加を 1980 年から開始した海上自衛隊が 米海軍との相互運用性を確保するうえで FLTSAT の利用が必要であると認識したためである 加えて宇宙通信社 (1985 年の電気通信事業法の施行を受けて設立 ) の衛星 SUPERBIRD を利用した X バンド衛星通信を 1990 年から始めている 防衛省は SUPERBIRD に搭載された専用の通信中継器をエム シー シー社から借り上げる形式で利用してきた 2006 年には X バンド衛星通信を覆域と情報量の両面から補完するために 艦艇向けに Ku バンド衛星通信回線の借上げを開始している 3 測位については 遅くとも 1986 年に米軍の航法衛星 TRANSIT の利用を始めている TRANSIT の後継である全地球測位システム (GPS) が初期運用能力を獲得した 1993 年からは同システムの利用を始めている 4 気象観測については 航空自衛隊府中基地において 1974 年から気象衛星受画装置の運用が始まっている 1982 年には気象庁が運用する衛星 ひまわり のデータ取得を始めた また 1986 年版の防衛白書には米国政府の民生用気象衛星 NOAA の利用に関する記載がある 以上は網羅的なものではないが 防衛省 自衛隊が宇宙基本法の成立前から 他者の衛星を通じて幅広い用途に宇宙を利用していたことは確認できる 2. 宇宙基本法の成立後 2008 年の基本法成立後も防衛宇宙利用の用途に変化はない ( 次頁の表 2 参照 ) 防衛省 自衛隊は すでに基本法成立前から多様な用途に宇宙を利用していたため そもそも変化の余地は小さかったといえる なお 1 情報収集 警戒監視の電波情報収集機能については 基本法成立後も具体的な利用はみられない 同機能に関しては 防衛省の基本方針 で 技術的な可能性 収集可能な電波情報等について調査を行うことが必要 との記載や 2009 年の 宇 3

宙基本計画 ( 宇宙開発戦略本部決定 ) で 宇宙空間における電波情報収集機能の有効性の確認のための電波特性についての研究を着実に推進する との記述があるのみである 2013 年以降に策定された第 2 次及び第 3 次 宇宙基本計画 や 2014 年決定の改訂版 防衛省の基本方針 には同機能への直接的な言及がない 表 2 宇宙基本法の成立前後における防衛宇宙利用 用途成立前成立後 1 情報収集 警戒監視 商用衛星 (IKONOS) 商用衛星 ( WorldView-4) 他国の民生衛星 ( LANDSAT) 画像情報収集 民生衛星 ( アスナロ 1 号 ) 多目的衛星 ( IGS) 多目的衛星 ( IGS) 電波情報収集 早期警戒 他国の軍事衛星 ( 米 SEW) 他国の軍事衛星 ( 米 SEW) 防衛省保有の実証センサ : 予定 2 情報通信 商用衛星 (SUPERBIRD) 民生衛星 ( さくら 2 号 ) 他国の軍事衛星 ( 米 FLTSAT) 商用衛星 ( SUPERBIRD) 民生衛星 ( きずな ) 他国の軍事衛星 ( 米国 ) 防衛省保有衛星 ( きらめき ) 3 測位他国の軍事衛星 ( 米 GPS) 他国の軍事衛星 ( 米 GPS) 4 気象観測 他国の民生衛星 ( 米 NOAA) 民生衛星 ( ひまわり ) 他国の民生衛星 ( 米 GOES) 民生衛星 ( ひまわり ) カッコ内は例 その一方で 宇宙関連機能の提供者には部分的な変化が起きている これまで各種機能の提供は企業や他省庁 機関 他国政府 軍隊に依存していた防衛省 自衛隊であったが 1 情報収集 警戒監視の早期警戒機能と2 情報通信については自立的な能力を一部整備し始めた これは宇宙基本法の成立により 防衛省 自衛隊による衛星の開発 保有 運用が明示的に可能となったことを受けたものである 早期警戒機能については 2015 年度の防衛省予算に 宇宙空間での 2 波長赤外線センサの実証研究 に関する経費 (48 億円 ) が計上された 2020 年度に宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が打上げる先進光学衛星に赤外線セン 4

サを相乗りさせ 2024 年度まで同センサの軌道上試験を実施する こうした防衛省と JAXA の協力は 宇宙基本法の成立を受けて 2012 年に JAXA 法が改正されたことにより可能となった なお 2016 年閣議決定の 宇宙基本計画 は早期警戒機能等について その要否も含めた検討を進め 必要な措置を講じる としており 早期警戒用の実用衛星やセンサの整備は今後の検討課題と位置付けられている 衛星通信については 2011 年度予算に X バンド衛星通信機能の向上 に関する経費 (230 億円 ) 2012 年度予算に X バンド衛星通信の整備 運営事業 の経費 (1,224 億円 ) を計上した これまで X バンド衛星通信を依存してきた商用通信衛星 SUPERBIRD-B2 と SUPERBIRD-D の設計寿命が 2015 年度に到来することに伴い 防衛省 自衛隊として後継衛星を 2 機 ( きらめき 1 号 きらめき 2 号 ) 整備する PFI 方式により民間企業 ( 特別目的会社ディー エス エヌ ) が衛星の調達 運用を担うが 保有者は防衛省である 2017 年 1 月に初打上げが行われ もう 1 機も 2018 年に打上げられる さらに 2020 年に運用期間が終了する SUPERBIRD-C2 の後継衛星についても 2017 年度予算に一部関連経費を計上しており 2021 年の打上げを目指している 自立的な能力の整備と並行して 宇宙利用を安定的に行うための取り組みを始めたことも大きな変化である 2014 年度の防衛省予算には 衛星通信システムの通信妨害対策に関する研究 や 防衛省 自衛隊の衛星防護の在り方に関する調査研究 を行う経費が計上された また 2014 年改訂の 防衛省の基本方針 は 宇宙監視機能の保持やそのための専従組織の設置に向けた検討を進めると明記した 2017 年度の防衛省予算には 宇宙監視システムの整備に係る基本設計等 や SSA 関連施設の整備及び運用要領の確立に向けた準備態勢のさらなる強化 に必要な経費が計上されている これらの取り組みを防衛省単独ではなく 他省庁 機関や他国政府と連携 協力しながら進める姿勢を明確にしたことも宇宙基本法成立後の変化である 前述のとおり赤外線センサは JAXA 衛星に相乗りすることで試験を行う 宇宙監視についても JAXA 等との連携に基づき運用体制の構築を進めている 米国との双務的な協力も進み始めた 2015 年 4 月改訂の 日米防衛協力のための指針 には宇宙に関する項目が初めて盛り込まれた この中では宇宙システムの抗たん性の確保や 宇宙システムが脅威にさらされた際の危険の軽減や被害の回避 実際に被害が生じた場合の関係能力の再構築などが協力事項として盛り込まれている 同月 防衛当局間での日米宇宙協力ワーキンググルー 5

プも設置された 2015 年には米戦略軍主催の宇宙状況認識 (SSA) に関す る多国間机上演習にオブザーバー参加し 2016 年からは本参加するなど 日 米防衛当局間の SSA 協力も進み始めている おわりに本稿では 宇宙基本法の成立が防衛宇宙利用に与えた影響を分析した 防衛省 自衛隊は 衛星の利用者として 40 年以上にわたる長い歴史を有している その用途も情報収集 警戒監視から気象観測まで幅広い 宇宙基本法の成立前後を比較した場合 防衛宇宙利用の実態面では変化よりも継続性の方が強い 他方 宇宙基本法の成立を受けた変化も明らかとなった 防衛省 自衛隊は自立的な能力の整備や 安定的な宇宙利用を確保する取り組みを始めており これらを他省庁 機関や他国政府との協力に基づいて行っている 今後 赤外線センサの軌道上試験や宇宙監視システムの運用が始まれば 宇宙基本法の成立を受けた変化は一層顕著となる (2017 年 3 月 1 日脱稿 ) 本稿の見解は 防衛研究所を代表するものではありません 無断引用 転載はお断り致しております ブリーフィング メモに関するご意見 ご質問等は 防衛研究所企画部企画調整課までお寄せ下さい 防衛研究所企画部企画調整課外線 : 03-3260-3011 専用線 : 8-6-29171 FAX : 03-3260-3034 防衛研究所ウェブサイト :http://www.nids.mod.go.jp 6