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別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

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インフルエンザ(成人)

Microsoft Word - 届出基準

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

す ウイルスの中で検出頻度の高いものはライノウイルス コロナウイルスが多く これに続くのが RS ウイルス インフルエンザウイルス パラインフルエンザウイルス アデノウイルスです また これらのウイルスには季節的流行の特徴があり ライノウイルスは春と秋 RS ウイルス コロナウイルス インフルエンザ

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

耐性菌届出基準


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第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

図 1 鼻炎診療の手順とポイント鼻汁や湿性咳嗽を認める小児では 急性鼻副鼻腔炎がある可能性も念頭に置き 丁寧な問診と鼻腔観察を行う まず いつから どのような症状があるのかを問診で聴取する 鼻水の色や量 性質 ( 水っぽいか ねばねばしているか ) のほか いびきの有無についても聞く 鼻が詰まってい

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

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1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

減量・コース投与期間短縮の基準

スライド 1

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

Microsoft Word - todaypdf doc

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2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 第 50 週の報告数は 前週より 39 人減少して 132 人となり 定点当たりの報告数は 3.00 でした 地区別にみると 壱岐地区 上五島地区以外から報告があがっており 県南地区 (8.20) 佐世保地区 (4.67) 県央地区 (4.67) の定点当たり報告数は

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2009年8月17日

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Microsoft Word - WIDR201839

1

案1 抗微生物薬適正使用の手引き 第一版

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PowerPoint プレゼンテーション

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

Microsoft Word - WIDR201826

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Microsoft PowerPoint - 指導者全国会議Nagai( ).ppt

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

Microsoft Word - CDDP+VNR患者用パンフレット doc

サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

己炎症性疾患と言います 具体的な症例それでは狭義の自己炎症性疾患の具体的な症例を 2 つほどご紹介致しましょう 症例は 12 歳の女性ですが 発熱 右下腹部痛を主訴に受診されました 理学所見で右下腹部に圧痛があり 血液検査で CRP 及び白血球上昇をみとめ 急性虫垂炎と診断 外科手術を受けました し

48小児感染_一般演題リスト160909

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

で言われています このような 副鼻腔炎と喘息の合併のことを 同一の気道で起こるので One airway one disease と呼ばれ久しくなっています それぐらいに 上気道と下気道の関連が密接であることが 広く認識されています また 副鼻腔炎に下気道の慢性炎症を合併する疾患としては 副鼻腔気管

検査項目情報 インフルエンザウイルスB 型抗体 [HI] influenza virus type B, viral antibodies 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F410 分析物 インフルエン

医療連携ガイドライン改

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い


割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま


5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

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花粉症患者実態調査(平成28年度) 概要版

Microsoft Word _ソリリス点滴静注300mg 同意説明文書 aHUS-ICF-1712.docx

彼を知り己を知れば 百戦殆うからず 彼 = 感染症 己 = カラダの仕組み取り巻く環境など 百戦殆うからず は少し言い過ぎですが 感染症を未然に防ぐことや重症化を防ぐには非常に重要です

後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

インフルエンザ定点以外の医療機関用 ( 別記様式 1) インフルエンザに伴う異常な行動に関する調査のお願い インフルエンザ定点以外の医療機関用 インフルエンザ様疾患罹患時及び抗インフルエンザ薬使用時に見られた異常な行動が 医学的にも社会的にも問題になっており 2007 年より調査をお願いしております

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

インフルエンザ施設内感染予防の手引き

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

案1 SIDMR

インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症

日本内科学会雑誌第98巻第12号

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改訂後改訂前 << 効能 効果に関連する使用上の注意 >> 関節リウマチ 1. 過去の治療において 少なくとも1 剤の抗リウマチ薬 ( 生物製剤を除く ) 等による適切な治療を行っても 疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与すること 2. 本剤とアバタセプト ( 遺伝子組換え ) の併用は行わな

熊本県感染症情報 ( 第 31 週 ) 県内 170 観測医の患者数 (7 月 28 日 ~8 月 3 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 0 1 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 7 0 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

BD( 寛解導入 ) 皮下注療法について お薬の名前と治療のスケジュール ( 副作用の状況を考慮して 抗がん剤の影響が強く残っていると考えられる場合は 次回の治療開始を延期することがあります ) 薬の名前作用めやすの時間 1 日目

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

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2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

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第 4 章感染患者への対策マニュアル ウイルス性肝炎の定義と届け出基準 1) 定義ウイルス感染が原因と考えられる急性肝炎 (B 型肝炎,C 型肝炎, その他のウイルス性肝炎 ) である. 慢性肝疾患, 無症候性キャリア及びこれらの急性増悪例は含まない. したがって, 透析室では HBs

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Microsoft PowerPoint - 冨岡先生HP用スライド.pptx

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

Microsoft Word - 感染症と予防接種について doc

( 別添 ) インフルエンザに伴う異常な行動に関する報告基準 ( 報告基準 ) ( 重度調査 ) インフルエンザ様疾患と診断され かつ 重度の異常な行動を示した患者につき ご報告ください ( 軽度調査 ) インフルエンザ様疾患と診断され かつ 軽度の異常な行動を示した患者につき ご報告ください イン

Q&A(最終)ホームページ公開用.xlsx

背景 ~ 抗菌薬使用の現状 ~ 近年 抗微生物薬の薬剤耐性菌に伴う感染症の増加が国際的にも大きな課題の一つに挙げられている 欧州及び日本における抗菌薬使用量の国際比較 我が国においては 他国と比較し 広範囲の細菌に効く経口のセファロスポリン系薬 キノロン系薬 マクロライド系薬が第一選択薬として広く使

「             」  説明および同意書

Transcription:

抗微生物薬適正使用の手引き第一版ダイジェスト版 対象 : 基礎疾患のない学童期以降の小児と成人 Ⅰ. 急性気道感染症 Ⅰ-1 感冒 Ⅰ-2 急性鼻副鼻腔炎 Ⅰ-3 急性咽頭炎 Ⅰ-4 Ⅱ. Ⅲ. 厚生労働省健康局結核感染症課

急性気道感染症急性鼻副鼻腔炎急性咽頭炎 Ⅰ. 急性気道感染症とは 急性気道感染症は 急性上気道感染症 ( 急性上気道炎 ) と急性下気道感染症 ( ) を含む概念であり 一般的には 風邪 風邪症候群 感冒 などの言葉が用いられている 風邪 は 狭義の 急性上気道感染症 という意味から 上気道から下気道感染症 を含めた広義の意味まで 様々な意味で用いられることがあり 気道症状だけでなく 急性 ( あるいは時に亜急性 ) の発熱や倦怠感 種々の体調不良を 風邪 と認識する患者が少なくないことが報告されている 患者が 風邪をひいた といって受診する場合 その病態 が急性気道感染症を指しているのかを区別することが鑑別診断のためには重要である 急性気道感染症の病型分類 病型鼻汁 鼻閉咽頭痛咳 痰 感冒 急性鼻副鼻腔炎 急性咽頭炎 : 主要症状 : 際立っていない程度で他症状と併存 : 症状なし ~ 軽度 急性気道感染症の診断及び治療の手順 本図は診療手順の目安として作成したものであり 実際の診療では診察した医師の判断が優先される 風邪 をひいたと訴えて受診した患者 気道感染症以外を考慮 気道症状なし 気道症状あり バイタルサインの異常 ( 頻呼吸 意識障害 低血圧 ) あり 敗血症を考慮 インフルエンザ流行期に高熱 筋肉痛 関節痛あり インフルエンザを考慮 感冒 : 鼻 喉 咳症状が同程度 急性鼻副鼻腔炎 : 鼻症状がメイン 急性咽頭炎 : 喉症状がメイン : 咳症状 (3 週間以内 ) がメイン Red Flag: 肺炎の鑑別のために考慮する所見 : 軽症例 中等症以上 人生最悪の痛み 唾も飲み込めない 開口障害 嗄声 呼吸困難 扁桃周囲膿瘍 急性喉頭蓋炎 咽後膿瘍などを考慮 突然発症 嘔吐 咽頭所見が乏しい 急性心筋梗塞 くも膜下出血 頸動脈 椎骨動脈解離などを考慮 バイタルサインの異常 ( 体温 38 以上 脈拍 100 回 / 分 呼吸数 24 回 / 分のいずれか 1 つ ) または胸部聴診所見の異常 Red flag なし Red flag あり 上記所見なし 上記所見あり GAS 迅速抗原検査または培養 精査 胸部レントゲン撮影を含む精査 陽性 陰性 抗菌薬考慮 抗菌薬不要 GAS:A 群 β 溶血性連鎖球菌 1 対象 : 基礎疾患のない学童期以降の小児と成人対象 : 基礎疾患のない学童期以降の小児と成人 2

急性鼻副鼻腔炎 急性気道感染症 急性咽頭炎 Ⅰ-1 感冒発熱の有無は問わず 鼻症状 ( 鼻汁 鼻閉 ) 咽頭症状 ( 咽頭痛 ) 下気道症状 ( 咳 痰 ) の 3 系統の症状が 同時に 同程度 存在する病態 感冒に対しては 抗菌薬投与を行わないことを推奨する Ⅰ-2 急性鼻副鼻腔炎発熱の有無を問わず くしゃみ 鼻汁 鼻閉を主症状とする病態を有する急性気道感染症 成人では 軽症 の急性鼻副鼻腔炎に対しては 抗菌薬投与を行わないことを推奨する 成人では 中等症又は重症 の急性鼻副鼻腔炎に対してのみ 以下の抗菌薬投与を検討することを推奨する [ 成人に投与する場合の基本 ] アモキシシリン水和物内服 5~7 日間 学童期以降の小児では 急性鼻副鼻腔炎に対しては 遷延性又は重 2 症の場合を除き 抗菌薬投与を行わないことを推奨する 2 学童期以降の小児の急性鼻副鼻腔炎に対して 遷延性又は重症の場合には 抗菌薬投与を検討することを推奨する [ 小児に投与する場合の基本 ] アモキシシリン水和物内服 7~10 日間 急性鼻副鼻腔炎の重症度分類 臨床症状 鼻腔所見 なし 軽度 / 少量 中等以上 鼻漏 0 1 2 顔面痛 前頭部痛 0 1 2 鼻汁 後鼻漏 0 ( 漿液性 ) 軽症 :1~3 点中等症 :4~6 点重症 :7~8 点 2 ( 粘膿性少量 ) 4 ( 粘液性中等量以上 ) 2 小児の急性鼻副鼻腔炎に係る判定基準以下のいずれかに当てはまる場合 遷延性又は重症と判定する 1. 10 日間以上続く鼻汁 後鼻漏や日中の咳を認めるもの 2. 39 以上の発熱と膿性鼻汁が少なくとも 3 日以上続き重症感のあるもの 3. 感冒に引き続き 1 週間後に再度の発熱や日中の鼻汁 咳の増悪が見られるもの Ⅰ-3 急性咽頭炎喉の痛みを主症状とする病態を有する急性気道感染症 迅速抗原検査又は培養検査でA 群 β 溶血性連鎖球菌 (GAS) が検出されていない急性咽頭炎に対しては 抗菌薬投与を行わないことを推奨する 迅速抗原検査又は培養検査でGASが検出された急性咽頭炎に対して抗菌薬を投与する場合には 以下の抗菌薬投与を検討することを推奨する [ 成人 小児における基本 ] アモキシシリン水和物内服 10 日間 Red Flag 人生最悪の痛み 唾も飲み込めない 開口障害 嗄声 呼吸困難 扁桃周囲膿瘍 急性喉頭蓋炎 咽後膿瘍などを考慮 突然発症 嘔吐 咽頭所見が乏しい 急性心筋梗塞 くも膜下出血 頸動脈 椎骨動脈解離などを考慮 Ⅰ-4 発熱や痰の有無は問わず 咳を主症状とする病態を有する急性気道感染症 成人の ( 百日咳を除く ) に対しては 抗菌薬投与を行わないことを推奨する 肺炎の鑑別のために考慮する所見 バイタルサインの異常 ( 体温 38 以上 脈拍 100 回 / 分 呼吸数 24 回 / 分のいずれか 1 つ ) または胸部聴診所見の異常 急性気道感染症の病型分類のイメージ 急性鼻副鼻腔炎 鼻症状 感冒 急性咽頭炎 3 対象 : 基礎疾患のない学童期以降の小児と成人対象 : 基礎疾患のない学童期以降の小児と成人 4

急性気道感染症急性鼻副鼻腔炎急性咽頭炎 Ⅱ. とは 急性発症 ( 発症から 14 日間以内 ) で 普段の排便回数よりも軟便または水様便が 1 日 3 回以上増加している状態 胃腸炎 や 腸炎 などとも呼ばれることがあり 中には嘔吐症状が際立ち 下痢の症状が目立たない場合もある 治療方法 に対しては まずは水分摂取を励行した上で 基本的には対症療法のみ行うことを推奨する 日本感染症学会 / 日本化学療法学会の指針による抗菌薬投与を考慮する場合 血圧の低下 悪寒戦慄など菌血症が疑われる 重度の下痢による脱水やショック状態などで入院加療が必要 菌血症のリスクが高い場合 (CD4 陽性リンパ球数が低値の HIV 感染症 ステロイド 免疫抑制剤投与中など細胞性免疫不全者等 ) 合併症のリスクが高い (50 歳以上 人工血管 人工弁 人工関節等 ) 渡航者下痢症小児におけるの治療でも 抗菌薬を使用せず 脱水への対応を行うことが重要とされている の診断及び治療の手順対象 : 学童期以上の小児 ~ 成人, 本図は診療手順の目安として作成したものであり 実際の診療では診察した医師の判断が優先される 1 日 3 回以上の下痢 + 腸管症状 ( 吐き気 嘔吐 腹痛 テネスムスなど ) 水分摂取励行 ( 水分 ナトリウム カリウムを適度に含んだもの ): 果物ジュースやスポーツドリンクなど 水様下痢 血性下痢 ( 便に肉眼的血液が混じる ) 軽症 中等症 ~ 重症 軽症 中等症 ~ 重症 海外渡航関係なし 海外渡航関係あり 体温 <38 体温 38 Red flag: 血圧低下, 悪寒戦慄など菌血症を疑う場合 脱水, ショックなど入院加療が必要な場合 免疫不全状態 合併症リスクが高い場合(50 歳以上, 人工血管 人工弁 人工関節等 2 ) Red flag なし Red flag あり 精査及び抗菌薬投与を検討 対症療法のみ Red flag ( 同左 ) 3 Red flagなし Red flagあり精査及び抗菌薬投与を検討 下痢の重症度 : 軽症は日常生活に支障のないもの 中等症は動くことはできるが日常生活に制限があるもの 重症は日常生活に大きな支障のあるもの 2 他の合併症リスクには炎症性腸疾患 血液透析患者 腹部大動脈瘤などがある 3 EHEC(Enterohemorrhagic E. coli, 腸管出血性大腸菌 ) による腸炎に注意し 便検査を考慮する 5 対象 : 基礎疾患のない学童期以降の小児と成人対象 : 基礎疾患のない学童期以降の小児と成人 6

急性気道感染症 サルモネラ腸炎 カンピロバクター腸炎 健常者における軽症 のサルモネラ腸炎 カンピロバクター腸炎に対しては 抗菌薬を投与しないことを推奨する 軽症とは 日常生活に支障のない状態を指す サルモネラ腸炎において重症化の可能性が高く 抗菌薬投与を考慮すべき症例 3 カ月未満の小児又は 65 歳以上の高齢者 ステロイド及び免疫抑制剤投与中の患者 炎症性腸疾患患者 血液透析患者 ヘモグロビン異常症 ( 鎌状赤血球症など ) 腹部大動脈瘤がある患者 心臓人工弁置換術後患者 Ⅲ. 肯定的な説明を行うことが患者の満足度を損なわずに抗菌薬処方を減らし 良好な医師 - 患者関係の維持 確立にもつながる 患者への説明で重要な要素 1) 情報の収集 患者の心配事や期待することを引き出す 抗菌薬についての意見を積極的に尋ねる 2) 適切な情報の提供 重要な情報を提供する の場合咳は 4 週間程度 下痢は 1 週間程度続くことがある 急性気道感染症 の大部分は自然軽快する 身体が病原体に対して戦うが 良くなるまでには時間がかかる 抗菌薬に関する正しい情報を提供する 十分な栄養 水分をとり ゆっくり休むことが大切である ウイルス性の場合は対症療法が中心であり 完治までに時間がかかる 例 抗菌薬は効果なし 休養が重要 抗菌薬の使用は腸内の善玉菌を殺す可能性あり 糖分 塩分の入った水分補給が重要 感染防止拡大のため手洗いを徹底し 家族とタオルを共有しない など 3) まとめ これまでのやりとりをまとめて 情報の理解を確認する 注意するべき症状や どのような時に再受診するべきかについての具体的な指示を行う 3 日以上経過しても改善しない場合は再受診 例 日常生活に支障が出るほど悪化した場合や血性下痢になった場合は再受診 など 7 対象 : 基礎疾患のない学童期以降の小児と成人 抗微生物薬適正使用の手引き (PDF)