記 者 発 表(予 定)

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報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

平成14年度研究報告

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

生物時計の安定性の秘密を解明

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概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

共同研究報告書

論文発表の概要研究論文名 :Interaction of RNA with a C-terminal fragment of the amyotrophic lateral sclerosis-associated TDP43 reduces cytotoxicity( 筋萎縮性側索硬化症関連 TD

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

核内受容体遺伝子の分子生物学

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手


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研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

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博士学位論文審査報告書

平成24年7月x日

汎発性膿庖性乾癬の解明

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本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移する

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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4. 発表内容 : 研究の背景 国際医療福祉大学臨床医学研究センター郭伸特任教授 ( 東京大学大学院医学系研究科講師 ) らの研究グループは これまでの研究の積み重ねにより ALS では神経伝達に関わるグ ルタミン酸受容体の一種である AMPA 受容体 ( 注 4) の異常が運動ニューロン死の原因で

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

スライド 1

CiRA ニュースリリース News Release 2014 年 11 月 20 日京都大学 ips 細胞研究所 (CiRA) 京都大学細胞 物質システム統合拠点 (icems) 科学技術振興機構 (JST) ips 細胞を使った遺伝子修復に成功 デュシェンヌ型筋ジストロフィーの変異遺伝子を修復

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

研究最前線 HAL QCD Collaboration ダイオメガから始まる新粒子を予言する時代 Qantm Chromodynamics QCD 1970 QCD Keiko Mrano QCD QCD QCD 3 2

第6号-2/8)最前線(大矢)

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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解禁時間 ( テレヒ ラシ オ WEB): 平成 29 年 8 月 9 日 ( 水 ) 午後 6 時 ( 日本時間 ) ( 新聞 ) : 平成 29 年 8 月 10 日 ( 木 ) 付朝刊 平成 2 9 年 8 月 8 日 科学技術振興機構 ( JST) 東 京 農 工 大 学 首 都 大 学 東 京 ポイント 筋萎縮性側索硬化症原因遺伝子産物 TDP-43 の新機能を発見 ~ 難治性の脳神経変性疾患などの治療薬の開発に期待 ~ 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 発症の原因となる約 20 種類の遺伝子が同定されているが 原因遺伝子の変異が選択的に運動ニューロン死を誘導する分子機構は不明だった TDP-43 は ミトコンドリア DNA から合成される RNA 産物の形成制御によってミトコンドリア機能を調節し その異常が細胞死を誘導することを明らかにした TDP-43 を標的とした ALS 治療薬の開発が期待できる JST 戦略的創造研究推進事業の一環として 東京農工大学の泉川桂一特任助教 石川英明特任助教 高橋信弘教授 首都大学東京の礒辺俊明特任教授らのグループは 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 注 1) の原因となる TDP-43 が標的とするミトコンドリア RNA を特定するとともに その結合がミトコンドリア DNA 注 2) から合成される RNA 産物の形成制御を通じてエネルギー代謝を始めとするミトコンドリア機能を調節し その異常が細胞死を誘導することを明らかにしました 細胞は遺伝情報をもとに作られた RNA とたんぱく質の相互作用を制御することでその働きを維持していますが 難治性の脳神経変性疾患などの RNA 代謝異常症注 3) の多くは この相互作用の調節ができなくなることで発症します そのため RNA とたんぱく質の相互作用の実態とその調節機構を理解することは RNA 代謝異常症の発症機構の解明から治療薬の開発につながると期待されています また TDP-43 は家族性ならびに孤発性 ALS の主要な原因遺伝子だけでなく その他の原因で発症した約 9 割の ALS 患者の病巣部の神経細胞に蓄積していることから 今回の成果は 多くの ALS 患者に共通した発症機構の解明や早期診断 さらには治療薬の開発につながることが期待されます 本研究の成果は 平成 29 年 8 月 9 日午前 10 時 ( 英国時間 ) に Scientif ic Reports 誌のオンライン版に掲載されます 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 研究領域 : ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術 ( 研究総括 : 田中啓二東京都医学総合研究所理事長兼所長 ) 研究課題名 : RNA 代謝異常症のリボヌクレオプロテオミクス解析と構造生命科学への展開 研究代表者 : 礒辺俊明 ( 首都大学東京大学院理工学研究科特任教授 ) 研究期間 : 平成 25 年 4 月 ~ 平成 31 年 3 月 1

< 研究の背景 > 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋力が低下し 主に呼吸器不全で死に至る難 病で 現在に至るまで治療法がなく アイスバケツチャレンジとして知られるキャンペーンが世界的規模で行われたり 国際 ALS デーが設定されたりするなど 近年 社会的注目度が特に高まっている病気です ALS では脳と脊髄の運動ニューロンと呼ばれる神経細胞が選択的に死滅するため 全身の筋肉が麻痺する深刻な病状を呈します これまでの研究で ALS 発症の主因となる約 20 種類の遺伝子が同定されていますが それら異なる機能を持つ多くの遺伝子の変異が共通して運動ニューロン死を誘導する分子機構は不明で す TDP-43 の変異あるいはその他の遺伝子変異に起因するすべての ALS 患者の約 9 割では脳の病巣部の神経細胞で TDP-43 の蓄積が見られることから TDP-43 はさまざまな ALS に共通の発症機構に関与していると考えられています TDP-43 は主に細胞核に存在する RNA 結合たんぱく質で DNA から合成された mrna 前駆体のスプライシング反応注 4) を介した細胞のたんぱく質合成の制御に関わっていることが知ら れています 今までに TDP-43 の異常が ALS を引き起こす機構として 運動ニューロンで特異的に働くたんぱく質をコードするメッセンジャー RNA(mRNA) 前駆体のスプライシング反応の異常仮説 あるいは TDP-43 が運動ニューロン内に異常凝集して蓄積する たんぱく質沈着病 仮説などが提案されていますが その詳細は明らかにされていません また最近 ALS を引き起こす変異を持つ TDP-43 がミトコンドリア機能を阻害するとの仮説が提案されましたが ミトコンドリアでの TDP-43 の標的 分子は何か あるいはミトコンドリアにおける TDP-43 の本来の機能は何かなどの基本的な問題が解決されていませんでした < 研究の内容と成果 > 本研究では 独自に開発を進めてきた最先端の RNA 質量分析法を利用して TDP-4 3 と RNA の結合で生じる複合体を解析し TDP-43 が標的とする分子として ミトコンドリア DNA に由来する特定のトランスファー RNA 注 5) (mt-trna) mt- trna Asn mt-trna Gln mt-trna Pro を同定しました 正常な細胞では TDP-43 はミトコンドリアには存在しないと信じられていましたが 本研究では TDP -43 と mt-trna の架橋反応注 6) や TDP-43/mt-tRNA 双方の結合部位の決定解析 名古屋大学の西川幸希博士による免疫電子顕微鏡解析注 7) さらには東京都総合医学研究所の山野晃史博士らの生化学的解析によって TDP-43 が mt-trna とミトコンドリア内で結合していることを示しました 次に これらの mt-trna に TDP-43 が結合することで ミトコンドリアがどのような働きをしているかを明らかにしました まず TDP-43 が直接結合している mt-trna を安定化している可能性を調べたところ TDP-43 の発現量の増加に伴いこれらの mt-trna だけでなく ミトコンドリア DNA 由来のその他の mt-t RNA や mt-mrna も同時に増加することがわかりました この解析から TDP- 43 の発現量を増加させると ミトコンドリアに固有の DNA(mt-DNA) から転写される特定の RNA 中間体が増え 逆に TDP-43 の発現量を減少させるとこれらの中間体が減り TDP-43 はミトコンドリア DNA から転写される RNA 中間体を安定化 する働きをしていることがわかりました 2

これらの RNA 中間体は 核由来の mtrnasep 注 8) などの RNA 分解酵素で切断されてミトコンドリアのエネルギー代謝に関わるたんぱく質を合成するために必要な特定の mrna や mt-trna を生じることが知られています そこで TDP-43 が影響を与える RNA 中間体とこれらの RNA 分解酵素を人為的に欠失させて生じる RNA 中間体を比較すると mtrnasep の欠失で生じる RNA 中間体とよく一致していること から TDP-43 はミトコンドリアにおいて mtrnasep による RNA 中間体の切断を調節していると推定されました ミトコンドリアで RNA 中間体が蓄積するとたんぱく質合成に異常が生じてミトコンドリアが機能不全に陥り 最終的には細胞が死ぬことが知られています そこで TDP- 43 の発現量とミトコンドリア機能の関係を調べたところ TDP-43 の発現量を変化 させるとたんぱく質合成に異常が生じてミトコンドリア機能が低下し 細胞増殖が抑制さ れ mt-dna の転写を抑制した状態で TDP-43 の発現量を上昇させても細胞増殖には影響しないことから ミトコンドリアでの TDP-43 発現量の異常がそのまま細胞死につながることがわかりました ( 図 1) この研究で特筆できる発見の 1 つは mt-trna に結合しない TDP-43 変異体は発現量を上昇させても細胞増殖を抑制しないことです このことは TDP-43 と m t-trna との結合を阻害しても RNA 中間体の過剰な蓄積を抑制できれば細胞死を 防ぐことができること すなわち TDP-43/mt-tRNA 結合阻害剤の探索が AL S の治療薬の開発につながる可能性を示唆しています なお その後の研究で TDP-43 の変異を原因とする特定の ALS 患者由来の ip S 細胞で mt-dna 由来の RNA 中間体が蓄積していること ( 京都大学 ips 細胞研究所 井上治久教授らとの共同研究 ) また ALS 患者の脳組織に由来する蓄積物にミトコンドリア由来の RNA が存在すること ( 東京都総合医学研究所 長谷川成人博士らと の共同研究 ) を見いだしています < 今後の展開 > 本研究の成果を端緒として ALS の発症機序の解明から治療法の開発につながることが期待できます また この成果で有効性が証明された RNA の質量分析法を基礎とした研究方法が広く普及することで RNA の代謝異常に起因する多くのヒトの疾病の発症機序に関する理解が進み その予防や治療法の開発につながることが期待できます 3

< 参考図 > 図 1 正常な TDP-43 の働きと ALS 変異を持つ TDP-43 の働きとの違い 正常な TDP-43 は主に核に存在するが 一部はミトコンドリアにも存在する ミトコンドリア内では 適正な量の TDP-43 が mtdna 転写物からプロセスされる RNA 中間体を適正量安定化し mtrnasep の働きを制御することでミトコンドリアを正 常に機能させるための mt-trna と mt-mrna を適正量産生し その翻訳によって合成されるたんぱく質によって正常な機能を維持している ALS 変異を持つ TDP- 43 はミトコンドリアでの存在量が増えることで RNA 中間体を過剰に安定化するため その後のたんぱく質合成に異常をきたしてミトコンドリアが正常に機能しなくなることで最終的に細胞が死滅する < 用語解説 > 注 1) 筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic lateral sclerosis:als) 重篤な筋肉の萎縮と筋力低下をきたす神経変性疾患で 筋肉の運動を支配する運動ニューロンが選択的に死滅することで発症する 1 年間に人口 10 万人当たり 1 2 人程度が発症するが 極めて進行が速く 半数ほどが発症後 3 年から 5 年で呼吸筋麻痺により死亡する ALS 患者の 90% 程度は遺伝性が認められない孤発性で 残り 10% 程度の遺伝 性 ALS の約 20% は 21 番染色体上のスーパーオキシドディスムターゼ 1 遺伝子に突然変異があることが知られている 現在までに遺伝性及び非遺伝性 ALS の原因とされる 2 0 種類以上の遺伝子が同定されているが TDP-43 はその主要な原因遺伝子であるだけでなく さまざまな原因で発症したほとんどの ALS 患者の神経細胞の細胞質に TDP -43 が異常に凝集して蓄積していることが明らかにされている 注 2) ミトコンドリア DNA 核 DNA とは独立して存在する細胞内小器官であるミトコンドリア内にある DNA で ミトコンドリアが分裂する際に複製される ヒトを含む高等動物のミトコンドリア DN 4

A は約 16,000 塩基対からなる単一の環状 DNA で構成されており 1 つの細胞に数千コピー存在し エネルギー代謝に関わる電子伝達系を構成する 13 種類の呼吸鎖複合体サブユニット 22 種類の trna 2 種類の rrna 遺伝子がコードされている 注 3) RNA 代謝異常症 RNA 代謝の異常に起因する疾病の総称 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) や骨髄性筋萎縮症 脊髄小脳変性症 ハンチントン病などの神経変性疾患のほか 先天性角化不全症や Treacher-Collins 症などの形態形成不全症 神経膠腫や悪性黒色腫などのガンなどが知られている 注 4) スプライシング反応 遺伝子から転写された mrna 前駆体からイントロンを除去してたんぱく質をコードするエクソンだけから構成される mrna を合成する過程のこと 注 5) トランスファー RNA 転移 ( トランスファー )RNA は 73 93 塩基から構成される低分子 RNA で リボソーム上でたんぱく質が合成される際に mrna の塩基配列 ( コドン ) を認識して対応す るアミノ酸を合成過程のポリペプチド鎖に転移するためのアダプター分子としての役割を持つ 注 6) 架橋反応分子間の相互作用 例えば RNA とたんぱく質の相互作用で生じる結合点を共有結合によって化学的に架橋する反応 この反応の生成物を解析することで 両者の結合点を正確に知ることができる 注 7) 免疫電子顕微鏡解析金の粒子を結合した抗体とたんぱく質の特異的な結合を利用して 電子顕微鏡下で目的とする抗原たんぱく質の存在部位を観察する実験法 注 8) mtrnasep ミトコンドリア DNA から合成された前駆体 mt RNA の mt trna 領域の 5 末端部分を切断することで mt-trna を切り出す働きを持つ < 論文タイトル > タイトル : TDP-43 stabilises the processing intermediates of mitochondrial transcripts (TDP-43 はミトコンドリア DNA 転写物のプロセシング中間体を安定化する ) d o i :10.1038/s41598-017-06953-y < お問い合わせ先 > 5

< 研究に関すること > 高橋信弘 ( タカハシノブヒロ ) 東京農工大学大学院農学研究院教授 ( グローバルイノベーション研究院兼務 ) 183-8509 東京都府中市幸町 3-5-8 Tel:042-367-5709 E-mail:ntakahas@cc.tuat.ac.jp <JST 事業に関すること > 川口哲 ( カワグチテツ ) 科学技術振興機構戦略研究推進部 102-0076 東京都千代田区五番町 7 K s 五番町 Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064 E-mail:crest@jst.go.jp < 報道担当 > 科学技術振興機構広報課 102-8666 東京都千代田区四番町 5 番地 3 Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432 E-mail:jstkoho@jst.go.jp 首都大学東京 URA 室 192-0397 東京都八王子市南大沢一丁目 1 番地 Tel:042-677-2728 Fax:042-677-5640 E-mail:ragroup@jmj.tmu.ac.jp 6