2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

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150130【物価2.7%版】プレス案(年金+0.9%)

資料1 短時間労働者への私学共済の適用拡大について

社会保障 税一体改革大綱(平成24 年2月17 日閣議決定)社会保障 税一体改革における年金制度改革と残された課題 < 一体改革で成立した法律 > 年金機能強化法 ( 平成 24 年 8 月 10 日成立 ) 基礎年金国庫負担 2 分の1の恒久化 : 平成 26 年 4 月 ~ 受給資格期間の短縮

生活福祉研レポートの雛形

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いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

2. 特例水準解消後の年金額以下では 特例水準の段階的な解消による年金額の変化を確認する なお 特例水準の解消により実際に引き下げられる額については 法律で定められた計算方法により年金額を計算することに加え 端数処理等の理由により203 年 9 月の年金額に所定の減額率を乗じた額と完全に一致するもの

公的年金制度について 制度の持続可能性を高め 将来の世代の給付水準の確保等を図るため 持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく社会経済情勢の変化に対応した保障機能の強化 より安全で効率的な年金積立金の管理及び運用のための年金積立金管理運用独立行政法人の組織等の見直し等の

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

平成25年4月から9月までの年金額は

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

2019年度はマクロ経済スライド実施見込み

や 給付の重点化 効率化等に関する改革項目が挙げられている 今後 社会保障 税一体改革の関連法案が国会へ提出される予定である 2011 年度の社会保障給付費は107.8 兆円となる見込みである 内訳は 年金 53.6 兆円 ( 社会保障給付費全体の49.7%) 医療 33.6 兆円 ( 同 31.2

金のみの場合は年収 28 万円以上 1 年金収入以外の所得がある場合は合計所得金額 2 16 万円以上が対象となる ただし 合計所得金額が16 万円以上であっても 同一世帯の介護保険の第 1 号被保険者 (65 歳以上 ) の年金収入やその他の合計所得が単身世帯で28 万円 2 人以上世帯で346

260401【厚生局宛て】施行通知

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2018年度の公的年金額は、なぜ据え置かれるのか?-年金額の改定ルールと年金財政への影響、見直し内容の確認

問 28 高年齢雇用継続給付との調整難度 A 70 問 29 特例老齢年金難度 B 72 問 30 経過的加算難度 B 74 問 31 老齢厚生年金の支給の繰下げ難度 B 76 問 32 老齢厚生年金の支給の繰上げ難度 B 80 問 歳以後の在職老齢年金難度 A 84 問 34 障害厚生

年金改革の骨格に関する方向性と論点について

みずほインサイト 政策 2018 年 10 月 18 日 ideco 加入者数が 100 万人超え加入率引き上げへさらなる制度見直しを 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 naoko. ideco( 個人型確定拠出年金 ) の加入

( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

消費税増税等の家計への影響試算

< 参考資料 目次 > 1. 平成 16 年年金制度改正における給付と負担の見直し 1 2. 財政再計算と実績の比較 ( 収支差引残 ) 3 3. 実質的な運用利回り ( 厚生年金 ) の財政再計算と実績の比較 4 4. 厚生年金被保険者数の推移 5 5. 厚生年金保険の適用状況の推移 6 6. 基

わって浮上したのが デフレ時に凍結した部分を翌年以降に持ち越し 14 年のように賃金 物価が伸びたときにまとめて実施するという考え方だ ただ 複数年分の調整をできるのは1% を上回る上昇率があった場合 過去 20 年で物価上昇率が1% を超えたのは3 回しかない ( グラフB) 成長シナリオで差マク

年の家族 2-1 世帯モデル設定本章では 3 つの社会変化をもとに世帯モデルを以下のように設定する 1 専業主婦世帯 ( 標準モデル世帯 ) 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加入した夫と 45 年間専業主婦の夫婦 2 生涯単身男性世帯 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加

図表 1 年金改革関連法案の概要 国民年金法改正案 ( 未成立 ) (1) 主要改正項目 2012 年度及び13 年度について 国庫は 年金特例公債 ( つなぎ国債 ) により基礎年金国庫負担割合 2 分の1と36.5%( 現在財源が手当てされている国庫負担割合 ) の差額を負担する 2012 年度

現役時代に国民年金 厚生年金に加入していた者は 一部を除き6 歳以上で老齢基礎年金 老齢厚生年金を受給することができる 4 老齢基礎年金の額は 年度は満額で年額 78, 円 ( 月額 6,8 円 ) であるが 保険料を納付していない期間があればその期間に応じて減額される 一方 老齢厚生年金の額は現役

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要 旨 2009 年の年金財政検証によると 標準的な厚生年金世帯 であれば 世代間格差はあるものの 将来世代においても 平均寿命 (60 歳時点の平均余命 ) まで生存すれば 負担した保険料の 2.3 倍の給付が受けられる見通しであることが明らかにされた これはこの倍率の分母である負担に事業主負担が

資料 2-2 公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案の概要 ( 参考資料 ) 厚生労働省年金局 平成 28 年 4 月 21 日

政策課題分析シリーズ16(付注)

強制加入被保険者(法7) ケース1

2. 女性の労働力率の上昇要因 М 字カーブがほぼ解消しつつあるものの 3 歳代の女性の労働力率が上昇した主な要因は非正規雇用の増加である 217 年の女性の年齢階級別の労働力率の内訳をみると の労働力率 ( 年齢階級別の人口に占めるの割合 ) は25~29 歳をピークに低下しており 4 歳代以降は

第 9 回社会保障審議会年金部会平成 2 0 年 6 月 1 9 日 資料 1-4 現行制度の仕組み 趣旨 国民年金保険料の免除制度について 現行制度においては 保険料を納付することが経済的に困難な被保険者のために 被保険者からの申請に基づいて 社会保険庁長官が承認したときに保険料の納付義務を免除す

そこで 本稿では 単独世帯に着目して217 年の賃金水準から年金額を算出し 高齢単独世帯の平均的な支出額と比較することにより 超高齢社会における所得基盤確保のあり方の課題を確認する 2. 単独世帯の年金額と支出額の比較 (1) 月額の年金額と支出額の比較厚生労働省 賃金構造基本統計調査 (217 年

稲垣氏講演資料

この改正は 1 企業に勤務していながら厚生年金 健康保険の恩恵を受けられない非正規労働者に厚生年金 健康保険を適用し セーフティネットを強化することで 社会保険における 格差 を是正することや 2 社会保険制度における 働かない方が有利になるような仕組みを除去することで 特に女性の就業を促進して 今

( 参考 ) 平成 29 年度予算編成にあたっての財務大臣 厚生労働大臣の合意事項 ( 平成 29 年 12 月 19 日大臣折衝事項の別紙 ) < 医療制度改革 > 別紙 (1) 高額療養費制度の見直し 1 現役並み所得者 - 外来上限特例の上限額を 44,400 円から 57,600 円に引き上

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

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要 旨 政府の社会保障国民会議は 2008 年 5 月 19 日の雇用 年金分科会で 公的年金制度に関する定量的なシミュレーションを公表した 主たる注目点は 基礎年金の財源を全額税方式とした場合の必要財源の規模と消費税率換算のシミュレーションである 基礎年金の税方式化を行うにあたっては 制度移行前の

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年金額の改定について 公的年金制度は平成 16 年の法改正により永久に年金財政を均衡させる従来の仕組みから おおむね ( 100 ) 年間で年金財政を均衡させる仕組みへと変わった この年金財政を均衡させる期間を 財政均衡期間 という これにより 政府は少なくとも ( 5 ) 年ごとに財政の検証をおこ

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1-3. 想定問題 2 (1) 老齢基礎年金の支給要件問 1. 老齢基礎年金は 保険料納付済期間又は保険料免除期間 ( A の規定により納付することを要しないものとされた保険料に係るものを除く ) を有する者が 65 歳に達したときに その者に支給する ただし その者の保険料納付済期間と保険料免除期

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2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

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問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

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平成 27 年 10 月から全国市町村職員共済組合連合会 ( 以下 市町村連合会 1 ) が年金の決定 支払いを行います ~ 各種届出等の手続き及び各種相談は 今までどおり共済組合で行います ~ 平成 24 年 8 月 22 日に公布された 被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部

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また 保険料の納付対象月数に占める納付月数の割合 ( 納付率 ) は 低下傾向が続いており 2012 年度時点で59.0% となっている ( 図表 1) 保険料は過去 2 年分の納付が可能であるため 最終的な納付率は多少上昇するが 過去の傾向からみても2012 年度の最終納付率は60% 台半ば程度に

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付加退職金の概要 退職金の額は あらかじめ額の確定している 基本退職金 と 実際の運用収入等に応じて支給される 付加退職金 の合計額として算定 付加退職金は 運用収入等の状況に応じて基本退職金に上乗せされるものであり 金利の変動に弾力的に対応することを目的として 平成 3 年度に導入 基本退職金 付

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持続可能な公的年金制度における

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時効特例給付制度の概要 制度の概要 厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律 ( 平成 19 年 7 月 6 日施行 ) に基づき 年金記録の訂正がなされた上で年金が裁定された場合には 5 年で時効消滅する部分について 時効特例給付として給付を行うこととされた 法施行前

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みずほインサイト 政策 2013 年 2 月 20 日 希望者全員を 65 歳まで雇用義務化高齢者が活躍できる職場の創設と人材育成が課題 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 年 4 月 1 日に高年齢者雇用安

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質問 1 11 月 30 日は厚生労働省が制定した 年金の日 だとご存じですか? あなたは 毎年届く ねんきん定期便 を確認していますか? ( 回答者数 :10,442 名 ) 知っている と回答した方は 8.3% 約 9 割は 知らない と回答 毎年の ねんきん定期便 を確認している方は約 7 割

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年金と経済 Vol. 37 No. 2 国名 日本 公的年金の体系保険料財源税財源企業年金 被保険者 20 歳以上 60 歳未満の全国民 ( 国民年金に ) ( 強制 任意 非加入 ) 60 歳以上 70 歳未満の被用者 ( 厚生年金に ) 60 歳以上 65 歳未満か在外邦人で他制度に非加入 (

板書ノート 1 労働編 6 頁 公務員関係等の適用 の表を, 次の表に差し替 える 改正労働 ( が改訂箇所 ) 公務員等 労基法の適用 労災法の適用 一般職の国家公務員 適用しない 適用しない 行政執行法人の職員 適用する 適用しない 行政執行法人以外の独立行政法人の職員 適用する 適

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ることにより 例えば 掛金の年払いや半年払いが可能になるほか 賞与の支給月に通常月より多く拠出することも可能になる (2) ライフコースの多様化への対応働き方の多様化が進むなか 生涯にわたり継続的に老後に向けた自助努力を行う環境を整備するため 以下の改正が行われる a. 個人型 DCの加入対象者の拡

日本の年金制度 福山圭一 ( 年金シニアプラン総合研究機構専務理事 ) 1. 制度の特色 20 歳以上の全国民が国民年金制度に加入する国民皆年金 ただし, 自営業者などは国民年金保険料を, 被用者は厚生年金保険料を納付する 厚生年金の適用者に関しては, 全国民共通の基礎年金, 所得比例の厚生年金,

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Web 版 Vol.69( 通巻 714 号 ) 図表 1 年金生活者支援給付金の概要 高齢者への給付金 ( 老齢年金生活者支援給付金 ) 何回かご覧になっている資料だと思いますので 支給要件 や 保険料納付済期間に基づく給付額 など制度の概要 ( 基本的事項 ) につ

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みずほインサイト 政策 2017 年 2 月 1 日 2017 年度の年金改定率は 0.1% 物価下落により 3 年ぶりのマイナス改定 政策調査部上席主任研究員 堀江奈保子 03-3591-1308 naoko.horie@mizuho-ri.co.jp 2017 年度の年金改定率が 0.1% と発表された 年金改定率は物価や賃金の変動率に応じて決定されるが 2017 年度は物価変動率に応じた改定となり 年金額は 3 年ぶりの引き下げとなった 2016 年に成立した年金制度改革法では 制度の持続可能性を高め 将来世代の給付水準を確保することを目的として 受給者世代の年金額の抑制につながる年金改定ルールの見直しが決定された 年金カット法 との批判もあるが 高齢者世帯は所得や資産の格差が大きいことを踏まえれば 改正の影響が大きい低年金者等に対する給付金の支給等の対応を検討すべきであろう 1.2017 年度の年金改定率は 0.1% 2017 年度の年金改定率が 0.1% と2017 年 1 月 27 日に発表された 2014 年度以来 3 年ぶりのマイナス改定である これにより2017 年度の年金額 ( これから年金を受給する 新規裁定者 (67 歳以下 ) の年金額 ) は 1 国民年金のみに加入し老齢基礎年金を満額受給する場合は月額 64,941 円 2 夫が会社員で厚生年金に加入し妻が専業主婦の世帯は夫婦で同 221,277 円となる なお 3 厚生年金に加入していた男性単身世帯は同 156,336 円 4 同女性単身世帯は同 127,081 円となる ( 図表 1) 以下では 年金額改定の仕組みとこれまでの改定の推移を確認するとともに 今後の年金改定に関する課題を検討する 図表 1 2017 年度の新規裁定者 (67 歳以下 ) の年金額の例 2016 年度 ( 月額 ) 2017 年度 ( 月額 ) 差 1 国民年金 ( 老齢基礎年金 ( 満額 ):1 人分 ) 65,008 円 64,941 円 67 円 2 厚生年金 ( 夫婦 2 人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額 ) 221,504 円 221,277 円 227 円 3 厚生年金 ( 男性単身世帯の老齢基礎年金を含む標準的な年金額 ) 156,496 円 156,336 円 160 円 4 厚生年金 ( 女性単身世帯の老齢基礎年金を含む標準的な年金額 ) 127,211 円 127,081 円 130 円 ( 注 )2は夫が平均的年収( 平均標準報酬 ( 賞与を含む年収の12 分の1) が42.8 万円 ) で40 年間就業し 妻がその期間全て専業主婦であった世帯が年金を受け取り始める場合の給付水準 3は平均標準報酬 42.8 万円で 4は同 29.1 万円で40 年間就業した場合 3と4はみずほ総合研究所が算出 ( 資料 ) 厚生労働省 平成 29 年度の年金額改定について (2017 年 1 月 27 日 ) より みずほ総合研究所作成 1

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少子高齢化に対応するため 現役世代の減少と平均余命の伸びに基づいて年金改定率を抑制する マクロ経済スライド を行う調整期間となっている このため 物価変動率や賃金変動率から スライド調整率 を控除した改定率により年金額が改定される なお スライド調整率は 公的年金被保険者数の変動率と 平均余命の伸びを勘案した一定率 (0.3%) により算出される ( 図表 2 下 ) マクロ経済スライドは 物価や賃金がある程度上昇した場合にはそのまま適用されるが 物価や賃金の伸びが小さく 適用すると年金額が下がる場合には 調整は年金額の伸びがゼロになるまでにとどめられる ( 年金額が前年度を下回らない ) また 物価や賃金の伸びがマイナスの場合には 物価や賃金のマイナス分のみの改定が行われ マクロ経済スライドによる調整は行われない 2017 年度はマクロ経済スライドによるスライド調整率は0.5% となるが 物価と賃金の伸びがマイナスであったためマクロ経済スライドによる調整は行われない マクロ経済スライドによる年金額の抑制は その後の年金の財政検証 1 で 年金財政の均衡を図ることができる ( マクロ経済スライドによる調整がなくても収支のバランスが取れる ) と見込まれる場合に終了することとされており 直近の2014 年の財政検証では2043 年度 ~2044 年度に終了する見込みとなっている 2 通常時 既裁定者 図表 2 年金額の改定ルールの概要 物価変動率 ( 前年 ) で改定 名目手取り賃金変動率 で改定 新規裁定者 名目手取り賃金変動率 = 実質賃金変動率 物価変動率 可処分所得割合変化率 (2~4 年度前の平均 ) ( 前年 ) (3 年度前の変化率 ) マクロ経済スライドを行う調整期間 物価変動率 ( 前年 )- スライド調整率 で改定 既裁定者 スライド調整率 = 公的年金被保険者数の変動率 平均余命の伸びを勘案した率 (2~4 年度前の平均 ) (0.3%) 新規裁定者 名目手取り賃金変動率 - スライド調整率 で改定 ( 注 ) 既裁定者は年金を受給している者 新規裁定者は年金を受給し始める者 賃金変動率よりも物価変動率の方が大きい場合には新規裁定者 既裁定者ともに賃金変動率で改定される等の例外もある ( 資料 ) 厚生労働省 平成 29 年度の年金額改定について (2019 年 1 月 27 日 ) 等より みずほ総合研究所作成 2

3. 年金改定率の推移 現在の年金改定の仕組みは 2004 年の年金制度改正により導入された そこで 改正後の2005 年度以降の年金改定率の推移をみると 2015 年度を除き改定率はゼロかマイナスである ( 図表 3) また 1999 年から2001 年に物価が下落したにもかかわらず特例法で年金額をマイナス改定せずに据え置き その後物価の下落が続いたことなどにより 2013 年 9 月分までは本来の水準よりも2.5% 高い水準 ( 特例水準 ) の年金が支給されていた 2012 年に成立した年金改正法により 段階的にこの 特例水準 を解消することとされ 本来の年金改定に加えて 2013 年 10 月に1.0% 2014 年 4 月に1.0% 2015 年 4 月に0.5% の年金額の引き下げが行われた結果 2013 年 10 月と2014 年 4 月の年金改定率は大幅なマイナスとなった ( 図表 3) 4. 物価変動と賃金変動の推移 2005 年度以降の年金額改定の基礎となる物価変動率と賃金変動率 ( 前掲図表 2 参照 ) の推移を比較すると 2005 年度を除き物価変動率が賃金変動率を上回る状態が続いている ( 図表 4) 現行の年金額の改定ルールでは 給付と負担の長期的な均衡を保つ観点から 1 物価変動率 賃金変動率がともにプラスで物価変動率の方が大きい場合には新規裁定者 既裁定者ともに賃金変動率で改定すること 2 賃金変動率がマイナスで物価変動率がプラスの場合には新規裁定者 既裁定者ともにスライドなしとすること 3 物価変動率 賃金変動率がともにマイナスで賃金変動率が物価変動率を下回る場合には新規裁定者 既裁定者ともに物価変動率で改定することが規定されている 例えば 2015 年度は年金額改定に用いる賃金変動率が2.3% 物価変動率が2.7% であったことから新規裁定者 既裁定者ともに改定率は賃金変動率の2.3% とされ 2016 年度は賃金変動率が 0.2% 物価変動率が0.8% であったことから新規裁定者 既裁定者ともに改定率はゼロだった また 2017 年度は賃金変動率が 1.1% 物価変動率が 0.1% であったことから新規裁定者 既裁定者ともに改図表 3 年金改定率の推移 (%) 1.0 0.9 0.5 0.5 0.3 0.4 0.3 0.1 1.0 1.0 0.7 1.5 2005 06 07 08 09 10 11 12 13 4 月 10 月 14 15 16 17 ( 年度 ) ( 注 )2013 年度は 4 月の年金改定率は0% だったが 10 月に特例水準の解消として1.0% の引き下げが実施された 3

定率は物価変動率の 0.1% となった なお 2016 年に成立した年金制度改革法 3では 賃金変動が物価変動を下回る場合には 賃金変動に合わせて年金額を改定する考え方を徹底する という年金額の改定ルールの見直しを行うことが決定された ( 施行期日は2021 年 4 月 ) この改正により 例えば 物価下落率より賃金下落率の方が大きい場合には 年金額は既裁定者 新規裁定者ともに賃金下落率に応じた改定となる また 物価が上昇し賃金が下落した場合の年金額の改定は既裁定者 新規裁定者ともに賃金下落率に応じた改定となる 4 ( 図表 5) 5. 年金額改定と受給者世帯の負担感 年金受給者世帯の実質的な年金額の変化をみるために 年金改定率から物価変動率を考慮した 実質的な年金改定率 の推移を確認する 例えば 2014 年度は年金改定率が 0.7% で 消費税率引き上げの影響により物価変動率が+3.0% であったことから 年金受給者にとっては年金額が減額された上に物価が上昇した このため 実質的な年金改定率は 3.7% となり 年金受給者の生活実感は厳しかったとみられる ( 図表 6) 図表 4 年金改定率の基礎となる物価と賃金の変動率 (%) 3.0 2.0 物価変動率賃金変動率 1.0-1.0-2.0-3.0 2005 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 ( 年度 ) 図表 5 物価 賃金スライドの見直し (2021 年 4 月実施 ) 物価 > 賃金 >0 0> 物価 > 賃金物価 >0> 賃金物価物価賃金既裁定新規裁定新規裁定物価 改正後はを年金額改定に反映 賃金 既裁定 改正前 既裁定 賃金 新規裁定 改正前 ( 今回変更なし ) 4

2015 年度は物価変動率は+0.2% と上昇したものの 年金改定率が+0.9% と物価上昇を上回るプラス改定になったことから実質的な年金改定率は+0.7% と2010 年度以来 6 年ぶりの実質プラス改定となった また 2016 年度は年金改定率はゼロであったが物価変動率は 0.1% の見通しであるため 実質的な年金改定率は+0.1% となったとみられる ( 図表 6) 2017 年度の年金改定率は 0.1% であるが 物価が上昇すれば実質的な年金改定率のマイナス幅が拡大することになり 再び年金受給者の生活実感が厳しくなる可能性がある 6. 年金改定の今後の課題 2004 年の年金制度改正によりマクロ経済スライドが導入されたものの これまで物価や賃金の上昇率が小さかったり マイナスであったことなどから 実際にマクロ経済スライドが発動されたのは 図表 6 物価変動率を考慮した 実質的な年金改定率 の推移 (%) 2.0 年金改定率物価要因実質的な年金改定率 1.0 1.0 2.0 3.0 4.0 2005 06 07 08 09 10 11 12 13 4 月 10 月 14 15 16 ( 年度 ) ( 注 ) 1.2013 年度は 4 月の年金改定率は0% だったが 10 月に特例水準の解消として1.0% の引き下げが実施された 2. 物価は当該年度の前年比 2013 年度は4~9 月 10~3 月の前年比 2016 年度の物価上昇率はみずほ総合研究所予測 ( 資料 ) 厚生労働省資料 総務省 消費者物価指数 より みずほ総合研究所作成 図表 7 マクロ経済スライドの見直し (2018 年 4 月実施 ) 5

2015 年度のみである このため マクロ経済スライドの終了見込時期が後ずれしており 2004 年時点では終了時期が2023 年度の見通しであったが 2009 年時点では2038 年度となり 前述の通り2014 年時点では2043~2044 年度とさらに遅れる見通しとなっている マクロ経済スライドによる調整が遅れると 現在の受給者は想定より給付水準が高くなる一方で 将来の受給者は想定より給付水準が低くなることから 世代間の年金格差の拡大につながる 2016 年の年金制度改革法により 2018 年 4 月からマクロ経済スライドの見直しも行われることが決定した これにより 年金額が前年度を下回らない措置は現行制度と変わらないが 賃金 物価が大きく上昇したときにはその上昇の範囲内で前年度までの未調整分を含めて調整が行われる ( 図表 7) 改正後は 現行制度よりはマクロ経済スライドによる年金額の調整が進むものの 将来世代の年金給付水準を確保するためにも早期にマクロ経済スライドの実施期間が終了するよう もう一段踏み込んだ改革を引き続き検討することが必要であろう また 現在の年金受給者世代の年金額の抑制につながる2016 年の年金制度改革法については 年金カット法 との批判もある しかし 高齢者世帯については所得や資産の格差が大きく 年金額が多少抑制されてもそれほど日常生活に影響がない世帯もあると考えられる スライドの見直しで現在の受給者世代の年金額を抑制した上で 生活に著しい影響が生じる可能性がある低年金者や低所得者等に対しては 給付金の支給等での対応を検討すべきであろう なお マクロ経済スライドを順調に毎年度発動させ 年金財政の健全化を早期に進めるためには 経済活性化による継続的な賃金上昇を実現するとともに 政府が推進する働き方改革の実行により就業意欲がある非就業者の労働参加率を引き上げる等の課題にも引き続き重点的に取り組むことが求められる 1 少なくとも 5 年ごとに 国民年金及び厚生年金の財政の現況及び見通しが作成される これを財政検証という 2 女性や高齢者の労働市場への参加が進むケースの場合 3 公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律 主な改正内容は 1 短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進 2 国民年金第 1 号被保険者の産前産後期間の保険料免除 3 年金額の改定ルールの見直し 4 年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF) の組織等の見直し 5 日本年金機構の国庫納付規程の整備 4 ほかに マクロ経済スライドの見直しも行われる 詳細は本文 6. 参照 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります 6