考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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膚炎における皮膚バリア機能異常の存在を強く支持する結果が得られています ダニアレルゲンの性質即ちドライスキンの状態では 皮脂膜や角層 角層間物質に不都合があるため アレルゲンや化学物質が容易に表皮深部ないし真皮に侵入し炎症を惹起し得るうえ 経表皮水分喪失量も増加することが容易に想像されます ではダニ

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

ス化した さらに 正常から上皮性異形成 上皮性異形成から浸潤癌への変化に伴い有意に発現が変化する 15 遺伝子を同定し 報告した [Int J Cancer. 132(3) (2013)] 本研究では 上記データベースから 特に異形成から浸潤癌への移行で重要な役割を果たす可能性がある

報告にも示されている. 本研究では,S1P がもつ細胞遊走作用に着目し, ヒト T 細胞のモデルである Jurkat 細胞を用いて血小板由来 S1P の関与を明らかにすることを目的とした. 動脈硬化などの病態を想定し, 血小板と T リンパ球の細胞間クロストークにおける血小板由来 S1P の関与につ

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 端本宇志 論文審査担当者 主査烏山一 副査三浦修 森尾友宏 論文題目 Protective Role of STAT6 in Basophil-Dependent Prurigo-like Allergic Skin Inflammation ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > 痒疹とは激しい瘙痒を伴った丘疹や結節を主症状とする頻度の高い皮膚疾患であり, 糖尿病や慢性腎不全, 内臓悪性腫瘍, さらにはアトピー性皮膚炎などに随伴して生じることが多い 痒疹の病態は明らかではなく, いまだ有効な治療も確立していない 我々は, 抗原特異的 IgE の存在下に抗原を反復してマウスの皮内に投与すると, ヒトの痒疹に類似した, 瘙痒を伴う丘疹ないし結節性の病変を誘導できることを見いだした この病変は病理組織学的に表皮が不規則に肥厚するとともに, 好酸球や単核球, 好塩基球が真皮に浸潤し, 表皮内には神経線維が伸長していた さらに, マウス個体内から好塩基球を除去すると痒疹類似病変は減弱し, 好塩基球依存性の反応であることが示唆された 炎症部位では Th2 型サイトカイン産生がみられたが,IgE 存在下であれば Th2 反応の伝達シグナルである STAT6 はこの反応には必須ではなく, むしろ STAT6 の欠損や阻害により反応は増強してしまった これは, 抗炎症作用をもつ M2 マクロファージが産生されないためであることが確認された これらの研究結果により痒疹の発症機序について新たな知見が得られた この痒疹類似反応は好塩基球依存性であるが,STAT6 により伝達される Th2 免疫応答は防御作用をもつと考えられ,Th2 免疫応答をターゲットとした治療は炎症を悪化させる可能性がある < 緒言 > 痒疹とは瘙痒を伴う丘疹ないし結節で特徴づけられる頻度の高い疾患群であり, 糖尿病や慢性腎不全, 内臓悪性腫瘍, さらにはアトピー性皮膚炎などに随伴して生じることが多い, など, 多様な臨床形態と病因論をもち, いまだ確たる治療方法はない 瘙痒性皮膚疾患に一般的に用いられるヒスタミン受容体阻害薬内服やステロイド薬の外用も有効でなく, 効果を示したとしても再燃することが多い 痒疹の病理組織学的な反応として, 真皮に好酸球やリンパ球が浸潤するととともに, 浮腫や滲出も生じている 加えて, 好塩基球も病変部に浸潤することが明らかになってきた 好塩基球は近年,IL-4 や IL-13 といったサイトカインを産生し Th2 有意のアレルギー性免疫応答を誘導することが知られており, 痒疹でも好塩基球を介在した Th2 免疫応答が病因の一つである, と - 1 -

考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent chronic allergic inflammation あるいは IgE-vLPR: IgE-dependent very late-phase response) が生じる このマウスの免疫学的反応とヒトの痒疹反応は類似しているが,IgE-vLPR は必ずしも長期間持続せず, 丘疹や結節を作ることはない そこで本研究では,IgE-vLPR を改変することにより痒疹のモデルマウスを作成した また, 作成したモデルマウスを用いて,STAT6 により伝達される Th2 免疫応答の役割を検証した < 方法 > TNP-IgE マウスの耳介に TNP-OVA を day 1, 4, 7 に投与し, 耳介腫脹を測定した Day 14 にマウスをビデオ撮影し, 腫脹した耳介に対する掻破行動を測定した マウスの背部皮膚にも day 1, 4, 7 に TNP-OVA を投与し, 丘疹病変を作成した この病変を day 14 で切除して病理組織学的に検討し, 局所のサイトカインを ELISA 法や定量的 RT-PCR 法を用いて測定した さらに好塩基球依存性の確認のために, 好塩基球除去抗体 (Ba103) を経静脈的に投与した STAT6 ( / ) マウスとその野生型マウスである C57BL/6 マウスに TNP 特異的 IgE を day 0, 3, 6 に腹腔内投与し,day 1, 4, 7 に TNP-OVA を投与して耳介腫脹を測定した さらに, 野生型マウスに STAT6 sirna を投与して STAT6 を阻害し, 同様に耳介腫脹を測定した 加えて, 背部皮膚にも同様の日程で TNP-OVA を投与して丘疹病変を作成し, 病理組織学的な検討と, ELISA 法と定量的 RT-PCR 法を用いた局所のサイトカイン測定を行った STAT6 ( / ) マウスと野生型マウスの痒疹類似病変部における M2 マクロファージの測定については, 免疫組織学的に浸潤細胞数を測定し, さらに腫脹した耳介から細胞を分離しフローサイトメトリーで M1/M2 マクロファージのマーカー発現を確認した また, 腫脹した耳介組織のマクロファージ分化を定量的 RT-PCR 法でも確認した 野生型マウス, あるいは STAT6 ( / ) マウスの骨髄から MACS 磁気分離システムを用いて CD115 陽性細胞 ( 炎症性単球 ) を採取し,STAT6 ( / ) マウスの耳介腫脹部位に局所投与して, 耳介腫脹における炎症性単球と STAT6 との関係についても検証した < 結果 > TNP-IgE マウスの耳介に TNP-OVA を 3 回反復投与したところ, 耳介は高度に腫脹し,4 週間以上の長期間にわたって腫脹は持続した 対照的に, 野生型マウス (BALB/c) に TNP-OVA のみを投与しても耳介腫脹が生じず,IgE 依存性の反応であった 次に,TNP-IgE マウスの背部皮膚に TNP-OVA を反復投与したところ, 持続性の丘疹 結節性病変が出現した 病理組織学的に表皮の不規則な肥厚とともに, 真皮へのリンパ球や好酸球, 好塩基球, 組織球の浸潤が確認された また,STAT6 が表皮細胞と真皮浸潤細胞の核に染色されていた この病変のサイトカインプロファイルは,IL-4, 13, 17, 22 が増加しており,Th2, 17 の免疫応答が優勢であることが判明した さらに,IL-18, 33, TSLP の発現も増強していた - 2 -

耳介腫脹をきたしたマウスの掻破行動を確認すると,PBS(-) のみを投与した TNP-IgE マウスにくらべて有意に掻破行動が確認され, 局所で瘙痒に関連する IL-31 mrna の発現が増強し, NGF 産生量も増加していた 組織学的には表皮内に神経が伸長し, その部位に一致して神経伸長因子である NGF と amphiregulin の発現が増強し, 神経反撥因子である semaphorin 3A の発現が減少していた これらが複合的に瘙痒をきたしている, と考えた TNP-IgE マウスに好塩基球除去抗体を投与したところ, 2 回目の抗原投与時 (day 4), あるいは 3 回目の抗原投与が終了した時点 (day 8) のいずれか 1 回の投与でも反応は減弱し, 組織学的にも好塩基球が病変部から消失していることが確認された この実験系での STAT6 の役割を確認するために,STAT6 ( / ) マウス, および野生型マウス (C57BL/6) に TNP-IgE を投与して受動免疫し TNP-OVA を投与したところ,STAT6 ( / ) マウスでは反応は著明に増強していた 野生型マウスに STAT6 sirna を投与しても反応が増強しており,STAT6 はこの炎症反応に防御的な役割を果たすことが判明した 病変部のサイトカインを確認すると, 野生型マウスにくらべて STAT6 ( / ) マウスでは IL-4, 13, IL-33, TSLP の産生が著明に増加していた 近年の報告では, 好塩基球由来の IL-4 により炎症性単球は M2 マクロファージへと分化し, IgE-vLPR を抑制することが知られている 野生型マウスに比べて STAT6 ( / ) マウスでは, 病変局所に CD163,CD206,Arg1 陽性の M2 マクロファージ数が減少していることが, 免疫組織学的検討およびフローサイトメトリーによる検討で明らかになった さらに, 病変局所の mrna 発現を確認すると,M1 マクロファージに発現される inos mrna は増加し,M2 マクロファージで発現する Arg1 mrna は減少していた また, 炎症を惹起した STAT6 ( / ) マウスの局所に野生型マウスの CD115 陽性細胞を移入すると,STAT6 ( / ) マウスの炎症は減弱したが,STAT6 ( / ) マウス由来の CD115 陽性細胞の移入では炎症は減弱しなかった このことから,STAT6 ( / ) マウスでの炎症反応の増強の一因として,STAT6 欠損のため,IL-4 による M2 マクロファージへの分化誘導がなされないことが考えられた < 考察 > 痒疹の病態については不明な点が多く, その原因の一つとして, 適切な動物モデルが存在しないことが挙げられる 今回我々は IgE と好塩基球により誘導される痒疹に類似した病変をマウスに作成することに成功した 痒疹の症状に瘙痒がある 我々の作成した動物モデルでは瘙痒を惹起するサイトカインである IL-31 の増加や,NGF と amphiregulin の発現増強を伴った神経線維の増生 伸長が確認された ヒトの痒疹でも同様の機序が確認されている また, 動物モデルでは IL-4, 13, 17, 22 の産生が増加していた ヒト痒疹でも同様のサイトカインプロファイルが確認されており, 動物モデルはヒトの痒疹と同様の免疫環境にある, と考える Th2 免疫応答はアレルギー反応において重要な役割を持つ STAT6 シグナルを阻害することでアレルギー反応は減弱すると考えられており, 実際に STAT6 デコイを用いたアトピー性皮膚炎の治療方法も開発されている 痒疹の動物モデルでは好塩基球由来と思われる IL-4, 13 が増 - 3 -

加しており,STAT6 の阻害により反応が減弱することが予想されたが, 結果は逆に増強した これは M2 マクロファージの分化が阻害されることで炎症が沈静化しないためであることが示された 加えて, 本実験でのアレルギー性炎症は IgE と好塩基球に依存するが,Th2 免疫応答は必ずしも必要でないことも判明した しかしながら, この炎症反応のトリガーとなるものが何であるかは未だ解明されていない また, ヒトの痒疹のすべてで抗原特異的 IgE によってひきおこされるわけではない これらの点を解明するためには, 更なる研究が必要である < 結論 > IgE と好塩基球に依存するアレルギー反応を惹起することにより, 痒疹のモデルマウスを作成した このモデルマウスでは,STAT6 により伝達される Th2 免疫応答は防御作用をもつと考えられ,Th2 免疫応答をターゲットとした治療は炎症を悪化させる可能性がある - 4 -

論文審査の要旨および担当者 報告番号甲第 4859 号端本宇志 論文審査担当者 主査烏山一 副査三浦修 森尾友宏 ( 論文審査の要旨 ) 1. 論文内容本論文では 皮膚の痒疹のマウスモデルを樹立し その病態形成に好塩基球が関与し シグナル伝達分子 STAT6 が炎症抑制的に働いていることを明らかにした 2. 論文審査 1) 研究目的の先駆性 独創性これまで動物モデルが存在しなかった痒疹に関して 世界に先駆けてモデルマウスの樹立に成功し その解析から好塩基球の関与と STAT6 による炎症制御機構を明らかにした点で 独創性 先駆性がある 2) 社会的意義本研究で得られた主な結果は以下の通りである 1.IgE トランスジェニックマウスの皮膚に繰り返しアレルゲン投与することで 症状的にも病理学的にも掻痒に類似した皮膚病変を作り出すことに成功した 2. 好塩基球除去により掻痒病態が改善することから 好塩基球の関与が明らかとなった 3.STAT6 ノックアウトマウスでは 予想に反して掻痒病態の悪化が認められた これは 炎症性単球から M2 マクロファージへの分化がうまくいかないためであることが判明した したがって Th2 型免疫反応を抑制するための STAT6 標的療法が 痒疹の場合には逆効果になる可能性が考えられた 3) 研究方法 倫理観適切かつ正確におこなわれており 問題ない 4) 考察 今後の発展性本研究において 痒疹のマウスモデルが樹立されたことで これまで不明であった痒疹の病態解明がさらに進むとともに 新規治療法の開発に役立つことが大いに期待される 3. 審査結果 以上を踏まえて 本論文は博士 ( 医学 ) の学位を申請するのに十分な価値があるものと認めら れた ( 1 )