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146 理学療法科学第 23 巻 1 号 I. はじめに 膝前十字靭帯 (Anterior Cruciate Ligament;ACL) 損傷は, スポーツ外傷の中で発生頻度が高く, スポーツ活動を続行するためには靭帯再建を余儀なくされることが多い 近年,ACL 損傷を予防することの重要性が認識されるようになってきた ACL 損傷の発生はジャンプからの着地動作, ストップ動作, 方向転換という3つのスポーツ動作に集約される Noyesら 3) によると, 非接触型 ACL 損傷の多くがジャンプ着地時に発生しているとある したがって着地動作を解析し,ACL 損傷受傷のメカニズムについて明確にすることは重要であると考える また, 非接触型 ACL 損傷は, 男性と比べ女性に多く発生することが報告されている Gwinnら 4) は, サッカー, バスケットボール, ラグビーについて男性に比べ女性は4 倍多く発生していると述べ,Hustonら 5) は, バスケットボールで約 8 倍であったと述べている 以上のことより, これまで男性に比べ女性にACL 損傷が多い要因を解明するための研究がなされてきた 1,6) Olsenら 7) によると,ACL 損傷時のビデオ画像分析では ACL 損傷は着地初期に発生し, 受傷肢位に関しては, 膝関節軽度屈曲位, 膝関節外反, 外旋位であるとしている Devitaら 8) も同様に, 受傷時に膝関節屈曲 0 ~30, 膝関節が外反位であると報告している このように, ACL 損傷の受傷肢位に関しては, 膝関節の屈曲が不十分で, 膝関節が外反しているという共通点がある 解剖学的にACLは大腿に対して下腿が内旋することで緊張し, これが断裂の直接的な外力になると考えられる しかし, 膝関節外反という肢位は, 大腿に対して下腿が外旋しているとするのが一般的である この場合,ACLの緊張が高まっていないことが予測されるが, 大腿骨外側顆にACLが衝突することでルーフインピンジメントという状態が起こり, 断裂にいたるという考え方がなされている 3) したがって,ACL 損傷が発生するときに膝関節 ( 大腿骨に対する脛骨または下腿 ) が内旋するのか外旋するのかを明らかにすることは興味のある課題である 本研究では, 大腿部と下腿部の回旋を個別に測定できる装置を作製することで, これまで明確になっていなかったスポーツ動作中の膝関節の回旋運動を捉えることを目的に行った スポーツ動作として着地動作について, 特にACL 損傷が発生しやすいとされる着地動作初期に注目し, 膝関節運動を解析した ACL 損傷は女性の発生率が高いため, 健常な女性の膝関節運動が男性と異なっているかを本研究によって検討した 図 1 膝関節動作解析装置 ( 右 ) A: ロータリエンコーダ (A- 1~A- 5) B: リニアエンコーダ II. 対象と方法 1. 対象対象は下肢に既往のない健康な学生 30 名とした 男性 15 名 ( 年齢 21.5±1.0 歳, 身長 171.7±3.9 cm, 体重 60.8± 5.4 kg), 女性 15 名 ( 年齢 22.0±2.3 歳, 身長 158.0±5.0 cm, 体重 53.6±8.0 kg) であった 全ての対象には, 研究の目的と内容を十分に説明し, 同意を得た なお, 本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った ( 承認番号 050 2. 方法膝関節動作解析装置を使用して大腿回旋角度, 下腿回旋角度および膝関節屈曲角度を測定した 装置は Komdeurら 9) の装置を参考に独自に開発し,( 有 )ADAPTEX に作製を依頼した 装置は5つのロータリエンコーダおよび1つのリニアエンコーダをアルミニウムのプレートに取り付けた構造になっている ( 図 装置は大腿ベルトと下腿ベルトにより, 対象の下肢に装着する 装置は膝関節の外側に取り付けられているため, 膝関節の運動を阻害せずに着地動作の測定を行うことが可能である 大腿ベルトと下腿ベルトは筋収縮の動きに影響されないように柔軟な素材で作られている 装置はエンコーダの変位からエンコーダカウンタボードPCI- 6205C(Interface Co. 日本 ) を用いて座標変換計算することにより, 大腿回旋角度, 下腿回旋角度, 膝関節屈曲角度を算出することができる 静止立位で膝関節 0 伸展時に大腿回旋角度と下腿回旋角度が0 になるように装置をキャリブレーションした

着地動作における膝関節運動の解析 147 回転軸の中心は, 膝蓋骨中央を通る前額面への垂直線と大腿骨外側上顆を通る矢状面への垂直線の交点とした 大腿回旋角度, 下腿回旋角度に関しては外旋がプラス, 内旋がマイナスで表記され, 膝関節屈曲角度に関しては屈曲がプラス, 伸展がマイナスで表記される 膝関節回旋角度は下腿回旋角度から大腿回旋角度を減ずることにより算出した これにより大腿に対する下腿の回旋方向が示される 測定値は接続したコンピュータ上に表示される 本装置は ( 有 )ADAPTEXにより, キャリブレータ上での計測精度は ±1.0 であることが確認されている また, 装置の再現性を確認するために,10 回の施行における再検査法にて変動係数を求めた 大腿回旋角度, 下腿回旋角度, 膝関節屈曲角度の変動係数は7~9% であり, 本研究における測定値はばらつきがある程度抑えられ, 一定の再現性を得られることが確認できた 運動課題は,Hewettら 10) の方法を参考に,30 cmの高さの台から両脚着地動作を行わせた 測定肢は右下肢とした 両手を腰にあて,30 cmの高さの台から前方へ降りるように指示した 着地動作は練習を行ったのち,2 回施行した 測定項目は着地動作における足尖接地および踵接地の大腿回旋角度, 下腿回旋角度, 膝関節回旋角度, 膝関節屈曲角度, 膝関節外反角度とした 足尖接地および踵接地を確認するために, 右矢状面よりデジタルビデオカメラDCR-PC300(Sony Co. 日本 ) を用いて, サンプリング周波数 60 Hzで撮影した 膝関節動作解析装置では, 前額面方向での膝関節内反, 外反角度を測定できないため, 膝関節外反角度は加藤ら 1 の方法を参考にして反射マーカーを上前腸骨棘, 膝蓋骨中点, 足関節前面中央の3 点に貼付し, 前額面方向からデジタルビデオカメラを用いて撮影し, 得られた画像から画像解析ソフトウェアScion Image Beta 4.03 (Scion Co. 米国 ) を用いて角度を測定した 膝関節外反角度は, 上前腸骨棘と膝蓋骨中点を結ぶ線の延長線, 膝蓋骨中点と足関節前面中央を結ぶ線のなす角度とした 右矢状面方向のデジタルビデオカメラにより静止立位時, 足尖接地時, 踵接地時を確認し, 膝関節動作解析装置により測定された大腿回旋角度, 下腿回旋角度, 膝関節回旋角度より, 静止立位から足尖接地までと, 足尖接地から踵接地までの2つの期間における大腿回旋角度, 下腿回旋角度, 膝関節回旋角度の変化量を求めた これに加え,2つの期間における大腿, 下腿, 膝関節の回旋方向について男女別に確認した 膝関節屈曲角度も同様に右矢状面方向のデジタルビデオカメラにより静止立位時, 足尖接地時, 踵接地時を 確認し, 膝関節動作解析装置により測定された角度より, 静止立位から足尖接地, 足尖接地から踵接地, 静止立位から踵接地の3つの期間での変化量を求めた 膝関節外反角度については前額面方向のデジタルビデオカメラより静止立位から足尖接地, 足尖接地から踵接地, 静止立位から踵接地の3つの期間での変化量を求めた 全ての項目について2 回測定の平均値を採用した 統計学的検定には統計用解析ソフトウェアStat View 5.0(SAS Institute Inc. 米国 ) を用いた 全ての項目について男女間で比較し, 統計学的検定にはMann-Whitney's U testを用い, 危険率 5% 未満を有意とした III. 結果静止立位から足尖接地までの大腿回旋角度変化量は男女ともプラスであり, 大腿は外旋位であった 下腿回旋角度変化量も男女ともにプラスであり, 下腿は外旋位であった 膝関節回旋角度変化量は男性が外旋位であったのに対し 女性は 0.1±13.5 となり平均値では内旋位を呈していたが, 標準偏差の13.5 にみられるように中間をはさんで両方向の運動にばらついていた 足尖接地から踵接地までの大腿回旋角度変化量は男女ともに大腿は内旋位であった 下腿回旋角度変化量, 膝関節回旋角度変化量は男女ともプラスであった ( 表 静止立位から足尖接地までの膝関節屈曲角度変化量と, 静止立位から踵接地までの膝関節屈曲角度変化量は女性が男性よりも有意に大きい値を示した ( それぞれ p<0.01,p<0.05)( 表 膝関節外反角度変化量はすべての期間において女性が男性よりも有意に大きい値を示した (p<0.0 女性は全ての期間において全ての対象で膝関節が外反していた ( 表 3) 大腿の回旋方向については, 男性は15 名中 11 名が外旋方向から内旋方向に運動しているのに対し, 女性は15 名中 5 名が外旋方向から内旋方向に運動していた また,5 名が反対方向の内旋方向から外旋方向,3 名が外旋方向から外旋方向,2 名が内旋方向から内旋方向となっており, 女性の回旋方向の運動変化は4つのパターンに分かれていた 下腿の回旋方向については, 男性は足尖接地時までに内旋方向に運動している対象がいなかったのに対し, 女性は2 名が内旋方向から外旋方向に運動していた 膝関節の回旋方向については, 男性は7 名が外旋方向から外旋方向に運動していたのに対し, 女性は7 名が内旋方向から外旋方向に運動していた ( 表 4)

148 理学療法科学第 23 巻 1 号 表 1 膝関節の回旋角度変化量 ( ) 大腿回旋角度変化量 下腿回旋角度変化量 膝関節回旋角度変化量 男性 女性 男性 女性 男性 女性 静止立位 足尖接地 7.6 ± 7.7 6.7 ± 11.3 12.5 ± 2.7 6.6 ± 6.3 5.0 ± 9.2 0.1 ± 13.5 足尖接地 踵接地 4.2 ± 3.3 1.3 ± 5.0 4.6 ± 4.6 1.6 ± 4.0 8.8 ± 7.6 2.8 ± 8.3 mean ± SD 表 2 膝関節屈曲角度変化量 ( ) 男性 女性 静止立位 足尖接地 10.0 ± 3.8 14.2 ± 4.1** 足尖接地 踵接地 5.3 ± 6.4 7.8 ± 7.4 静止立位 踵接地 15.3 ± 8.9 22.0 ± 9.7* mean ± SD,**p<0.01,*p<0.05 表 3 膝関節外反角度変化量 ( ) 男性 女性 静止立位 足尖接地 1.0 ± 2.6 7.1 ± 4.2** 足尖接地 踵接地 1.1 ± 3.0 4.7 ± 3.4** 静止立位 踵接地 2.1 ± 5.2 11.8 ± 5.9** mean ± SD,**p<0.01 表 4 膝関節の回旋方向 ( 静止立位から足尖接地 足尖接地から踵接地 ) 外旋 外旋 外旋 内旋 内旋 外旋 内旋 内旋 大腿 男性 (15 名 ) 1 名 (7%) 11 名 (73%) 3 名 (20%) 0 名 (0%) 女性 (15 名 ) 3 名 (20%) 5 名 (33%) 5 名 (33%) 2 名 (13%) 下腿 男性 (15 名 ) 12 名 (80%) 3 名 (20%) 0 名 (0%) 0 名 (0%) 女性 (15 名 ) 9 名 (60%) 4 名 (27%) 2 名 (13%) 0 名 (0%) 膝関節 男性 (15 名 ) 7 名 (47%) 3 名 (20%) 5 名 (33%) 0 名 (0%) 女性 (15 名 ) 4 名 (27%) 3 名 (20%) 7 名 (47%) 1 名 (7%) IV. 考察本研究では, 着地動作の中でもACL 損傷が発生しやすいとされる着地初期の膝関節運動の解析に主眼をおいた検討を試みた 特に静止立位から足尖接地までの時期と足尖接地から踵接地の時期での解析を行ったが, 踵接地時には男性で15.3, 女性で22.0 というACL 損傷が生じやすい膝関節軽度屈曲位が確認できたことから, この 2つの時期での膝関節回旋運動を解析することは妥当であると考えた まず, 静止立位から足尖接地までの回旋方向に注目する 男性については大腿と下腿は対象の多くが外旋方向に運動しており, 結果として膝関節回旋は男性の対象の3 分の2が外旋方向に運動していた これに対して, 女性の下腿はほとんどが外旋方向に運動していたが, 大腿は8 名が内旋方向に運動していた 結果として女性の膝関節回旋は,0 を中心に13.5 という大きな標準偏差をもって内旋または外旋するというように運動方向が一定しない状態にある可能性が示された このように着地 動作において身体が床面に最初に接触する時期に, 膝関節の運動方向が一定方向にあるとは限らないことが認められたことは, 特に女性についての膝関節運動を分析するときに注意を要すると考える 現在, 報告されているACL 損傷の受傷肢位が膝関節内旋か外旋かという議論 6,1 については, ここでは両方考えられるということであろう 浦辺ら 13) は, 着地動作の足尖接地から足底接地までの分析で, 膝関節回旋角度に個人差があることを報告し, その理由として足部の変化の影響をあげている また, 小林ら は,ACL 損傷の受傷肢位の要因として, 筋力, 関節可動性, 足部機能, 関節不安定性, 下肢アライメントなどを報告している 今後はこれらのことを考慮し, 本研究において女性の膝関節回旋運動が外旋と内旋に分かれた原因を明らかにすることが課題であると考える この期間での膝関節外反角度をみると, すでに足尖接地で女性は全員が明らかに外反位にあるという事実から, 膝関節の外反には必ずしも膝関節の外旋が伴うのではなく, 内旋を伴うこともあることが認められた 金森ら 14) は屍体膝関節を用いてACL 内に生じる張力

着地動作における膝関節運動の解析 149 を測定し, 膝関節軽度屈曲位での膝関節外反, 内旋によりACLの張力が高まると報告している さらにFleming ら 15) は荷重位での膝関節外反はACLに伸張ストレスを与えることが報告されている これらのことを考慮すると, 本研究において, 特に女性の対象において膝関節外反, 内旋という運動が認められたことは,ACL 損傷の発生と関係している可能性が考えられる 次に足尖接地から踵接地までの時期についてみると, 男性では大腿は内旋方向に運動し, 下腿は外旋方向に運動しており, 結果として膝関節回旋は多くの対象で外旋していた ここで注目したいのは, 男性では足尖接地をきっかけにして, 大腿の運動方向が外旋から内旋に変化するということである 女性についてみると, 大腿は外旋方向と内旋方向に対象数が二分され, 下腿は外旋方向へ運動する対象が多く, 結果として膝関節回旋が外旋方向へ運動する対象が多かった 男性と大きく異なるのは, 大腿の回旋方向が外旋 8 名, 内旋 7 名と分かれたことである 男性については大腿の外旋方向への運動は4 名に認めるのみであった 女性で外旋した8 名中 5 名が足尖接地には内旋しており, 足尖接地をきっかけにして男性とは反対の動きをしていた このような現象もACL 損傷の発生と何らかの関係を示す可能性があるかもしれない 本研究では,2つの期間に分けて分析を行った結果, 足尖接地の時点では女性の膝関節は内旋している対象と外旋している対象に二分され, 不安定な状態にあることが確認できた このことより着地動作初期の中でも, 特に足尖接地までの運動がACL 損傷の危険性と関係している可能性があり, 今後は着地動作の足尖接地までに注目して分析する必要があると考える さらに, 大腿と下腿の回旋運動を個別に捉えることができ, どちらの期間においても, 女性の大腿の運動方向が一定しないということが確認できた このことは,ACL 損傷の危険性は膝関節運動の中でも, 大腿の運動方向が主に関係しているのではないかと推測できる 女性の膝関節回旋運動が男性とは異なることでACL 損傷に結びつくとはいいきれないが, 女性については対象一人ひとりの運動に注目する必要があるということが示唆された 今後は今回の測定結果をもとにした prospective studyを行うことが必要と考える 謝辞本研究の一部は, 平成 16 年度柔道整復学研究費助成金の補助を得て行った 引用文献 Hewett TE, Lindenfeld TN, Riccobene JV, et al.: The effect of neuromuscular training on the incidence of knee injury in female athletes. Am J Sports Med, 1999, 27(6): 699-706. 小林寛和 : 膝関節における外傷発生の運動学的分析. 理学療法学,1994, 21(8): 537-540. 3) Noyes FR, Barber-Westin SD, Flenckenstein C, et al.: The dropjump screening test: difference in lower limb control by ender and effect of neuromuscular training in female athletes. Am J Sports Med, 2005, 33(: 197-207. 4) Gwinn DE, Wilckens JH, McDevitt ER, et al.: The relative incidence of anterior cruciate ligament injury in men and women at the United States Naval Academy. Am J Sports Med, 2000, 28(: 98-102. 5) Huston LJ, Wojtys EM: Neuromuscular performance characteristics in elite female athletes. Am J Sports Med, 1996, 24(4): 427-436. 6) Boden BP, Dean GS, Feagin JA, et al.: Mechanisms of anterior cruciate ligament injury. Orthopedics, 2000, 23(6): 573-578. 7) Olsen OE, Myklebust G, Engebretsen L, et al.: Injury mechanisms for anterior cruciate ligament injuries in team handball. Am J Sports Med, 2004, 32(4): 1002-1012. 8) Devita P, Skelly WA: Effect of landing stiffness on joint kinetics and energetics in the lower extremity. Med Sci Sports Exerc, 1992, 24(: 108-115. 9) Komdeur P, Pollo FE, Jackson RW: Dynamic knee motion in anterior cruciate impairment: a report and case study. Proc (Bayl Univ Med Cent), 2002, 15(3): 257-259. 10) Hewett TE, Myer GD, Ford KR, et al.: Biomechanical measures of neuromuscular control and valgus loading of the knee predict anterior cruciate ligament injury risk in female athletes. Am J Sports Med, 2005, 33(4): 492-501. 1 加藤茂幸, 浦辺幸夫 : バスケットボール動作における下肢ダイナミックアライメントコントロールの効果. 理学療法学, 2005, 32 (Suppl : 380. 1 三木英之, 増島篤, 成田哲也 他 : 非接触型 ACL 損傷受傷場面の3 次元的動作解析. 日本整形外科スポーツ医学会会誌, 2001, 21(3): 248. 13) 浦辺幸夫, 加藤茂幸, 酒巻幸絵 他 : 膝前十字靭帯損傷予防のリハビリテーション. 臨床スポーツ医学,2002, 19(9): 1027-1033. 14) 金森章浩 : 前十字靱帯に与えられる外力と非接触型前十字靭帯損傷. 臨床スポーツ医学,2002, 19(9): 1007-1010. 15) Fleming BC, Renstrom PA, Beynnon BD, et al.: The effect of weightbearing and external loading on anterior cruciate ligament strain. J Biomech, 2001, 34(: 163-170.