水文陸面過程 (1) 水文陸面過程基礎 京都大学防災研究所水資源環境研究センター ( 池淵研 ) 田中賢治 今日の発表の内容 イントロなぜ陸面過程の研究をしているのか? 陸面過程の基礎水収支 熱収支 放射収支 地表面熱収支観測琵琶湖プロジェクトの例 陸面過程モデルの開発改良都市 水体 水田のモデル化の紹介 1
イントロ 防災研究所 水資源環境研究センターでなぜ陸面過程なのか? 1. 蒸発量を知りたいどれだけの水が利用可能かどれだけの水が必要か 2. 降水量を知りたい地表面での水 熱収支を正確に求めないと 気象予測はできない 3. 洪水も災害 渇水も災害降水量 蒸発量の正確な予測適切な水工施設の設置とその適切な操作 イントロ (2) 現状は? 将来は? 1. 気候変動等の外的要因の変化により流域の水循環はどう変化するのか? 2. 森林伐採 都市域の拡大等の流域改変により流域の水循環はどう変化するのか? 3. どのような流域の状態であれば気候変動下でも水がうまく回るのか? 4. 人間活動 ( 流水制御 灌漑排水 熱の放出 ) も流域の水 熱循環の一部である 現実的な流域条件を表現でき 物理過程に根ざした陸面過程モデルの開発の必要性 2
陸面過程の基礎 陸面過程は 3 つの収支式で構成されている 放射収支 水収支 熱収支 放射収支 全ての地表面は日中に短波放射を受け取り 常に大気と長波放射を交換している短波放射 < 波長 4 μm 以下長波放射 > 波長 4 μm 以上 純放射 ( 放射量の差し引き ) Rn = (1-α)Sd + Ld Lu (α: アルベド ) 下向き短波放射の成分 Sd = Svb + Svd + Snb + Snd 可視 / 近赤外 (0.72μm) 直達 / 散乱 3
熱収支 ( エネルギー収支 ) 純放射は顕熱 潜熱 地中熱に分配される この配分率は地表面特性 ( 植生タイプ 土地利用 ) や水分状態 ( 積雪 土壌水分 ) に強く依存する 地表面熱収支式 Rn = H + λe + G H : 顕熱 大気下層を直接加熱 λe: 潜熱 凝結時に大気中層を加熱 G: 地中熱 地表面を加熱 ( 放射収支と熱収支にタイムラグ ) 水収支 大気と地表面の間で 降水 蒸発 蒸散過程を通じて水は交換されている 陸面と海洋 ( 湖 ) の間で流出過程を通じて水は交換されている 地表面水収支式 ΔS = P - E - R P : 降水 ( 雨 / 雪 ) による大気からの入力 E : 蒸発および蒸散による水蒸気フラックス R : 河道系および地下水系による流出フラックス ΔS : 地表面貯留水および土壌水分の変化 4
様々な気候帯 ( 植生 ) における地表面水 熱収支の観測により季節変化の理解が進んだ いくつかの観測例を紹介 GAME-Tibet : Amdo (grassland) GAME-Tropics : Kogma (evergreen forest) MaeMoh (deciduous forest) Sukhothai (paddy field) Mongolia : Arvaikheer (grassland) GAME-HUBEX : Shi-Guan basin (paddy field, farmland, forest, lake) 神田 CREST : Tokyo (urban area) Arvaikheer Amdo Kogma Maetoh HUBEX Sukhothai Tokyo 5
PBL タワー 乱流フラックス Aug. 12, 2004 Surface energy fluxes (5day average) Sensible heat flux (30 minutes) Every 30 minute 6
チベット高原上の月平均地表面温度 (1998 年 ) a) Map of Thailand b) Topographic map of northern Thailand and study sites. 7
Result of Observation By 田中延亮さん KogMa Hydro-meteorology: H. Takizawa Canopy interception N. Tanaka Rain Transpiration Dry condition Wet condition Transpiration peak in the late dry season! Stomatal closure is open! Sap flow shows it! Simulation also shows it! Discharge Sap flow measurement N. Yoshifuji Stomatal Closure C. Tantasirin S. Piman N. Tangtham Numerical Simulation (by 田中克典さん ) Transpiration Interception Rainfall Sap flows Soil evaporation average soil depth = 4.5m Soil surface Depth (m) Water table Dry season Bedrock Deeper root can get water from the deeper soil layers 8
GAME-Tropics (Sukhothai Thailand) March : No-vegetation and dried surface period May : No-vegetation and starting rain fall period August : Beginning of rice planting, submerged period November : Before harvesting period Energy balance at Paddy field (Sukhothai) 7-year average seasonal cycle 25 By 小森大輔さん Heat balance(mj/daytime) 20 15 10 5 Rn G LE H Gw Bowen ratio & Crop factor 0 2 1.5 1 0.5 0 Jan Feb Mar Dry season Apr May Jun Jul Aug Sep Bowen Rainy ratio season Oct Nov Crop factor Dec Water level (cm) Soil Water Contents (%) 250 40 20 30 15 20 10 10 0 5 0 Jan Feb Water Level TDR-15cm RH Mar Apr Dry season May Jun Jul Aug Sep Rainy season Oct Nov Dec 100 80 60 40 20 0 Humidity & Soil Water Content (%) 9
GAME-HUBEX flux measurement at 4 landuse Paddy Field Farmland Forest Lake Paddy Field Farmland Forest Lake 水田は畑とも湖とも違う 10
FLUXNET( 世界フラックス観測ネットワーク ) の新領域 Urban Flux Networks 計画中 終了を含む (Grimmond et al., 2004) http://www.indiana.edu/~muhd/ 自然生態系に比べて観測点は圧倒的に少ない特にアジアは空白域 : 東京と北京のみ 測定項目 設置高度低層住宅街 ( 東京久が原 ) 東京での長期連続フラックス観測 太陽放射 赤外放射 平均建物高さ 7.3 m タワーの高さ φ0.32mm 30m 4cm φ0.05mm 気温 ( 熱電対 ) 乱流 フラックス ( 超音波風速計 CO 2 /H 2 O 計 ) 水蒸気 CO 2 11
都市植生のオアシス効果 (Wm -2 ) 800 700 600 500 400 300 200 100 0-100 -200 Rn H LE G July 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 Time (hour) 夏季の熱収支の日変化 ( 植生 + 土壌 ) 被覆率 30% 日中の潜熱輸送量は 200W/m 2 植生 土壌からの局所的蒸発は Rn に匹敵! オアシス効果 地表面熱収支観測の例 (2) 琵琶湖プロジェクト 20 km 森林 琵琶湖 20 km 水田 京都 名古屋 8 km 50 km 大阪 湖面 都市 50 km MapFan II PUE IPC MapFan II PUE IPC 8 km 12
琵琶湖プロジェクト常設熱収支観測システム 4 つの異なる土地利用条件 ( 水田 森林 湖面 都市 ) において熱収支観測システムが連続運用されている 放射収支 熱収支成分のフラックス および関連する気象要素 土壌水分等が観測されている 水田 森林は 1998 年から 湖面 都市は 1999 年に観測開始 都市 湖面 森林 水田 水田の熱収支 (99/8/9-00/8/17) 日平均値 田植え準備期間 31 日移動平均 ( 両側 15 日 ) 13
夏季の水田の水収支 (00/5/15-8/17) 水位と土壌水分は降雨と人為的操作により変動するが 基本的に高い土壌水分量を維持する 降雨がない場合にも水位は変動する 人為的な水深操作 NDVI は 7 月下旬に最大となる 湖面の熱収支 (99/7/25-00/7/24) 日平均値 31 日移動平均 ( 両側 15 日 ) 14
人間活動のモデル化. 何をどこまで表現すべきか? 目的による ( 当然 ) - 気象モデルの下面境界条件として熱収支 ( 蒸発 ) が合えば十分 - 流域水管理のツールとして流域内の水平方向の輸送積分過程 (routing) 水収支が合う必要がある 適用スケールによる - プロットスケール ( ポイント ) - 流域スケール ( 流域によっては多くのデータを期待できる ) - 全球規模スケール ( 多くの流域でデータを期待できない ) データの整備状況や求められる精度による - あまり細かなことを必要とする ( 結果を大きく左右するパラメータが多い ) モデルにしてしまうと 多くの場合役立たずになってしまう - データがないなら ないなりにできるようにしておくことが重要 人間活動を取り込んだ統合的モデルの全体像 熱 CO 2, エアロゾル 都市化 気象 土壌水分変化 灌漑 需要量 ( 要求 ) 開発 陸面過程地質植生地形 流出 取水 河川流量 ダム操作 流入 放流水のやりとり影響 花崎さん ( 東大生研 ) の図をベース 15
人間活動を取り込んだ陸面過程モデル (SiBUC の守備範囲 ) 熱 都市化 気象 土壌水分変化 灌漑 需要量 ( 要求 ) 開発 陸面過程 流出 地質植生地形 河川流量 水のやりとり影響 SiBUC 開発の歴史 1993 年 :SiB に水体のモデルと簡単な都市のモデルを追加当時 モデルのソースコードは公開されていないので 1 からのコーディングとなる 1994~95 年 : 集中観測のデータで各種地表面熱収支を検証土地利用スケールと領域平均フラックスの関係 1996 年 : 地形と土壌水分分布の関係 ( まだ反映されていない ) 1997 年 : 比較的詳細な都市キャノピーモデルの開発 1998 年 : 琵琶湖プロジェクト常設熱収支観測の開始 GAME プロジェクトの観測 ( 中国淮河流域 ) 数値気象モデル JSM との結合 (JSM-SiBUC) 1999 年 : 土壌水分データ同化システムの開発開始 2000 年 : 水深操作を反映した水田スキームの開発 2001 年 :RhoneAGG プロジェクト ( 積雪 融雪過程の導入 ) 2002 年 : 多様な農地を対象とした灌漑排水スキーム 2003 年 : 全球土壌水分プロジェクト GSWP2( 全球への適用 ) 2004 年 : 雲解像モデル CReSS との結合 (CReSiBUC) 16
陸面過程モデル発展の歴史 バケツモデル (Manabe 1969) 地表近くの土壌層は, 降水や融雪で水量が増加し, 蒸発や流出で水量が減少するバケツとしてモデル化されている バケツの水量がある限界値以下の場合に, 蒸発強度が水深に比例する 植物を陽に取り扱うスキーム (SiB, BATS など ) 1985~ 1 つまたは複数の植生層を持ち, 現実の葉の大きさからモデルグリッドの大きさ (GCM では 10 5 km 2 ) までスケーリング モザイクモデル (PLAID, SiBUC など ) 1991~ 陸面の不均一性 ( 複数の植生, 都市, 水面の存在 ) を表現 SiB2 (Sellers et al., 1994) 衛星データから植生状態の季節変化をより現実的に表現 現実的な光合成コンダクタンスモデルを導入 (CO 2 フラックス ) 17