細菌の代謝と増殖 感染症学
微生物学概論 A. 微生物学の基本 d. 細菌の代謝 e. 細菌の増殖 6 細菌の主要な代謝経路を産物を列挙する 7 呼吸と発酵の違いを説明する 8 細菌の増殖曲線を説明する B. 感染症学 a. 微生物と宿主の関係 b. 宿主の防御因子 1 微生物と宿主の関係を列挙する 2 共生 偏共生 寄生の違いを説明する 3 感染と発症の違いを説明する 4 微生物の感染に対する宿主の防御因子を説明する
微生物の基本 細菌の代謝 / 増殖 / 主要な代謝経路とその産物
細菌はどうやって 運動エネルギーを得るか 細菌だけでなく 全ての生物の生命現象は利用可能な運動エネルギー (ATP) を蓄積し これを利用することの繰り返しで行われる 独立栄養菌 ; 無機物質 (H +, H 2 S, Fe 2+, NH 3+ ) を利用して ATP をつくる 従属栄養菌 ; 有機物質 ( 糖 脂肪酸 アミノ酸 ) を利用して ATP をつくる ヒトや動物に関わる常在菌と病原菌
細菌が必要とする栄養素 炭素化合物 ; 糖 糖の中間代謝産物 ( 乳酸 ピルビン酸 マロン酸など 窒素化合物 ; アミノ酸など 無機塩類 ;Ca 2+, Mg 2+, Na +, Fe 2+ ビタミン ; ビタミン B 1, ビタミン B 2, ビタミン B 6, ビタミン K( メナジオン ) ビオチン ヘミン 葉酸 ニコチン酸アミド ニコチン酸アミドヌクオレチド (NAD)
細菌の発育に必要な条件 1 1) 酸素 好気性 ; 酸素がないと発育できない 通性嫌気性 ; 酸素があってもなくても発育できる 嫌気性 ; 酸素があると発育できない この他 微好気性 酸素耐性 CO 2 要求性
細菌の発育に必要な条件 2 2)pH と塩濃度 ph; 一般的に至適 ph は中性から弱アルカリ性 ( ph7.4 付近 ) ただし 乳酸桿菌 ; 酸性を好む コレラ菌 ; ややアルカリ性を好む 塩濃度 ; 通常は塩濃度は浸透圧を等張にするために加える 例外的に腸炎ビブリオなど海水と同程度の塩濃度を好むものあるいはブドウ球菌や腸球菌のように塩濃度に耐性があるものも存在する
細菌の発育に必要な条件 3 3) 温度 ヒトや哺乳動物に常在する / 病原性のある細菌の至適温度は 37 付近 ただし 高温や低温で発育可能な細菌も存在する 4) 酸化還元電位 ph7 の酸化還元電位を標準にして値が小さいほど酸素が少ない状態 したがって 嫌気性菌は酸化還元電位が低い状態を要求し -200mV 以下で増殖可能となる
細菌の増殖
細菌の増殖 必要な栄養源と発育に適した条件が整うと細菌は発育 / 増殖する 培地 ; 人工的に増殖させるため 目的とする細菌に必要な栄養源を全て含む 実際の培養には目的とする細菌の求める条件を見たさねばならない
細菌の発育 ( 増殖 ) 曲線 菌数 ; 対数 定常期 対数増殖期 死滅期 濁度 生菌数 誘導期 時間 * 定常期の菌数 ; およそ 10 9 /ml
世代時間 1 個の細菌が 2 個になるのに要する時間 発育の早い菌 ( 大腸菌 );15 20 分 発育の遅い菌 ( 結核菌 ); 24 時間
細菌の代謝
細菌の代謝 代謝とは全ての生物が生きるために行う化学反応のことを指す 生体成分の生合成の過程 ( 同化 = 合成 ) エネルギーを調達する過程 ( 異化 = 分解 )
エネルギーの産生 酸化 還元反応によって作られ 作られたエネルギーはアデノシン 3 リン酸 (ATP) として蓄えられる 糖からのエネルギー産生の経路を例にとると まず解糖系 ( エムデン マイヤーホーフ回路 ) でピルビン酸までつくられる この後
解糖系のあとひきつづき 発酵 ; 酸素のない嫌気的環境で酸化する方法 = 放出された電子と水素によって有機物が還元される 呼吸 ; 有機物の酸化によって放出された電子と水素は無機分子 ( 酸素 ) に渡される
発酵 細菌によってバラエティに富んだ発酵経路がある アルコール発酵 乳酸発酵 酢酸発酵 コハク酸発酵など
呼吸 呼吸には 前半 ;TCA( クレブス クエン酸 ) 回路 後半 ; 電子伝達系 最終代謝産物は炭酸ガス (CO 2 ) と水になり 発酵のようなバラエティはない
発酵より呼吸の方が効率が良い エネルギー産生効率は発酵より呼吸の方が良い ブドウ糖 1 分子から作られる ATP 分子 呼吸 ;36 分子 発酵 ;2 分子 * 通性嫌気性菌の中には状況に応じて呼吸と発酵を使い分けることができるものがいる
感染症学
微生物とヒトとの関係は? ヒト ; 宿主 Host
微生物と宿主との関係 共生関係 常在微生物 偏共生関係 寄生関係 病原微生物 / 病原体
常在微生物と宿主との関係 共生関係 偏共生関係 原則としてヒトに有利に働くがしかし 例外もある! 日和見感染
感染症とは
感染症の成立 寄生体側 ; 病原性 ビルレンス 毒力 菌力 微生物 寄生体 ヒト 宿主 宿主側 ; 生体防御力 免疫力
感染と発症の違い 感染 ; 微生物が宿主に付着し その場に定着 増殖した状態 * 感染と汚染との違いは? 発症 ( 発病 ); 感染後に宿主に病的な変化や不都合が生じた状態 * 不顕性感染とは?
病原体 感染経路 侵入経路 感染が発症に至る経緯 潜伏期 感染の成立 不顕性感染 発 症 健康保菌者 * 治療 * 免疫 * 症状 * 排菌 死亡 慢性化 病後保菌者 治 癒
感染と発症に関わる因子 ; 宿主側 感受性 ; 年齢 性 種 ( 人種 ) 生体防御力 * 非特異的 : 自然免疫 ; 生まれつき持っているもの * 特異的 : 獲得免疫 ; 生後 罹患した感染症やワクチン接種などで獲得したもの
宿主の生体防御力 ヒトを含めた全ての多細胞生物はもともと微生物が存在する環境に生まれた その過程で自分自身 ( 自己 ) を守る システムを作りあげた 2 年生後期 ; 基礎免疫学 4 年生前期 ; 生体防御の仕組み
宿主の生体防御力の種類
第 1 のバリア 非特異的感染防御機構 ; 体表および体腔表面のバリア * 皮膚組織 / 粘膜上皮の物理的バリア * 涙 尿 唾液などの洗い流し作用 * 気道粘膜の繊毛による排除作用 * 常在微生物叢による排除作用
第 2 のバリア 非特異的感染防御機構 ; 自然免疫 * 細胞性因子 ; 食細胞 ( 好中球とマクロファージ ) * 液性因子 ; 体液中の抗菌 / 殺菌物質
自然免疫の細胞因子 おもに外来から侵入した異物に対応するのが食細胞 * 白血球 ; 好中球 好酸球 好塩基球 * マクロファージ 内部で異物化した細胞に対応する ; * ナチュラルキラー (NK) 細胞 *γ θ T 細胞
食細胞 リゾチーム ラクトフェリン ディフェンシン
食細胞に存在する特別な 異物認識機構 Toll 様受容体 (Toll-like receptor:tlr) は食細胞表面にある受容体の役目をもつタンパクで 種々の病原体を感知して自然免疫を作動させる機能がある TLR が認識するのは病原体に存在し しかも病原体に特異的な ( 宿主にはない ) パターン 例えば ぺぷチドグリカン LPS リポタンパク 鞭毛 ( フラジェリン ) ウイルス RNA/DNA などを認識する * もともと Toll 遺伝子はショウジョウバエの背腹軸の決定に必要な遺伝子として見いだされた ショウジョウバエではこの役目だけでなく真菌感染に対する免疫として重要な働きをもつ
自然免疫の液性因子 体液中の抗菌 / 殺菌物質 * 補体 * リゾチーム * ラクトフェリン / トランスフェリン * ディフェンシン 下線は唾液中の抗菌物質
補体 ; complement 血清中に存在する 9 種 (C1~C9) と 11 成分 合計 20 種類のタンパク 特異的 非特異的の両面から生体防御に関わる 病原体などを殺したり 炎症反応を起こす
第 3 のバリア特異的感染防御機構 ; 獲得免疫 非特異的感染防御機構を突破し 侵入してきた微生物に対して それを特異的に認識し 排除するシステム 細胞性免疫 ( 体 ) 液性免疫
獲得免疫に関わる細胞性 / 液性因子 細胞性因子 ; 樹状細胞/ マクロファージ リンパ球(T 細胞 B 細胞 ) 液性因子 ; 抗体 サイトカイン
細胞性免疫 T 細胞が中心となる免疫反応 ターゲット ; 寄生虫 真菌 ウイルス感染細胞 結核菌などの細胞寄生性細菌 移植片 比較的大きな微生物 異物化した宿主の細胞 細胞内寄生性細菌 ( 結核菌 チフス菌 リステリア菌 )
( 体 ) 液性免疫 抗原に対応して産生された抗体が中心となって起こる免疫反応 ターゲット ; 細菌毒素や酵素 細胞外寄生細菌 ( 結核菌 チフス菌 リステリア菌以外のほとんど全ての細菌 ) 低分子可溶性抗原 細胞外寄生細菌
抗体 = 免疫グロブリン IgA; 体液 ( 唾液 乳中 涙など ) に多い IgE; 花粉症などのアレルギーに関係する IgD; 働きが明確でない IgG; 血清中にもっとも多く生体防御の中心となる IgM; 感染初期に産生され 一部の活性は IgG より高い
プレ / ポストテスト ;4/15/15 正しいのは a 誤っているのは b にマークしてください 1 通性嫌気性菌は酸素があると発育できない 2 細菌の増殖曲線は誘導期 対数期 定常期 死滅期の順である 3 世代時間とは 1 個の細菌が 2 個になるのに要する時間である 4 発育の早い細菌が 1 個から 2 個になるのにおよそ 24 時間かかる 5 呼吸の最終代謝産物はアルコールである 6 発酵より呼吸の方がエネルギ 産生効率が良い 7 ヒトと常在微生物の関係は共生関係である 8 原則として常在微生物は感染症を起こさない 9 感染とは微生物によって病的な変化が起こった状態を指す 10 不顕性感染したヒトから他のヒトへ感染は起こらない 11 健康な皮膚や粘膜は感染防御のバリヤーになりうる 12 食細胞は自然免疫の細胞性因子である 13 食細胞には特別な異物認識機構が存在する 14 補体は獲得免疫にのみ関係する液性因子である 15 免疫グロブリンには 5 つのクラス (5 種類 ) がある