中小企業のアジア進出状況 第 1 節 製造業の状況 1 製造業全体のアジア進出 中小企業のアジア進出の状況をみる前に まず日本の産業のなかでの製造業の海外 展開 さらにそのなかでのアジア進出の状況をみてみましょう 国際協力銀行の調査部門の実施した 2002 年度 2008 年度を対象にしたアンケート 調査によれば 海外生産比率と海外売上高比率は図表 2 1 のグラフのようになって います ( 対象企業 625 社 ) 全業種平均で海外生産比率 30% 台 海外売上比率 40% 台 と大幅に伸びていますが そのなかでもとくに自動車はそれぞれ 50% 60% にも達 していることがわかります また地域別にみても その海外進出先としてアジア地域 がほぼ 60% を占めています ( 図表 2 2) 図表 2 1 図表 2 2 製造業での海外部門の占める割合 製造業の地域別海外現地法人数 13
2 製造業のなかの中堅 中小企業のアジア進出 同調査では 調査対象 625 社のうち 資本金 10 億円未満の企業を中堅 中小企業と区分すると161 社 (25.8%) になりますが その保有する海外現地法人数 1,222 社 ( 全体の10.2%) のうちアジア地域の現地法人数は897 社と73.4% を占めます 業種別では自動車関連が21.1% 電機 電子が14.9% となっています ( 中小企業基本法では資本金 3 億円以下を中小企業と定義していますので 10 億円未満も含めるこの資料が他の調査と大きく異なる点に留意のこと ) 3 どこでどんな仕事を ( 中小企業の海外進出先と業種 ) 日本政策金融公庫が2010 年 10 月に作成した 中小企業事業取引先海外現地法人の業況調査報告 ( 回答企業数 819 社 ) によると 中小企業の進出地域は図表 2 3のようになっています 図表 2 3 中小企業の進出地域 その他 のなかに韓国 台湾 インドが含まれると推定されますので 中国が過半を占めるのをはじめ アジアの占める割合が圧倒的に高いことがわかります 業種についても 地域ごとの業種の比率は図表 2 4のようになっています 中国 ASEAN5か国ともほぼ同様の傾向になっていますが タイでは 自動車部品関係 その他の地域 国では 商業 サービス が多いのが目立ちます そして図表 2 1でみたように 2008 年の資料では全製造業のなかでの 自動車関係 が 60% に達しているのに比べ 直近のデータでは中小企業の 自動車部品 は10% 程度にとどまっており 08 年当時より多様化しているといえるでしょう ( 製造業以外の商業 サービスを除いて計算しても せいぜい13% 弱 ) 40% あまりを占める その他製造業 のなかには プラスチック製品 精密機械器具 一般機械 ( 組立部品 ) 食料品が含まれており 海外生産における中小企業の広い活動分野を示しているといえるでしょう 14
中小企業のアジア進出状況 図表 2 4 地域別業種別比率 4 どんなところに売り上げているか ( 現地法人の販売先 ) 製造業に限らず全業種の中小企業現地法人の販売先については 図表 2 5 2 6 のとおり 中国 ASEAN 域内とも現地の日本企業がトップになっており 次に日 本に輸出 あるいは地場企業への販売が多くなっています ( 複数回答可なので合計は 100 にならない ) 図表 2 5 中国の現地法人の販売先図表 2 6 ASEAN の現地法人の販売先 15
2 駐在員事務所設立における金融機関の役割前項で述べたとおり 駐在員事務所設立における金融機関のビジネスチャンスは次のとおりです アドバイザリー機能の提供 設立時および設立後の経費送金など外国為替 融資へ発展の可能性すでにここまで述べてきたとおり 駐在員事務所設立についても検討すべき事項が多々あります 中小企業にとっては 金融機関からの アドバイザリー機能提供 による情報提供がたいへん有効なことであるとおわかりですね 金融機関にとって アドバイザリー機能提供 は ビジネスチャンスであると同時に顧客支援の有力なツールなのです ⑵ 製造現地法人の設立前項で 製造現地法人設立にあたっては 基本的な事業性の検証を と述べました 組織人員 規模などがある程度決定できれば あとは進出地域の価格相場をあてはめることで 固定費用 が算定できます 続いて その経費を賄うだけの仕入販売が想定可能か否かの判断です 事例中国に製造現地法人を設立するケースここでは 中国での製造現地法人設立を事例として 現地法人の設立事案を説明してみましょう 1 中国進出の確認事項中国現地視察を行う場合 いろいろなチェック項目があります 基本的なチェック項目をまとめたものが図表 2-10です 進出地域の選択にあたっては 一部チェック表と重複しますが 下記項目の確認を行う必要があります 2 進出地選択のポイントイインフラと物流 投資インフラ( 七通一平 ) が整備されているか 製造現法と 販売先や港( 国際貿易 ) への距離はどのくらいかロ投資密度中国においては 新規で工場を設立する場合 開発区ごとに 面積に応じた投資額を規定するケースがあります 投資密度 = 投資資本金 ( 元 ) 工場面積 ( m2 ) 36
取引先のアジア進出サポートと金融機関の役割 図表 2-10 中国現地視察チェック表 例: 蘇州工業園区投資密度 2011 年 10 月現在 400 万元 / ムー 約 6,000 元 / m2 約 920 米ドル / m2 1m2当たり約 920 米ドル以上の投資額が必要 ( 注 )1ムー 667m2 1 米ドル 6.5 元で計算したがって 新規工場設立にあたっては中小企業にとっては負担感のある投資を求められるケースが多くあります ポイント レンタル工場に入居した場合は 投資密度の対象外となります ハ開発区対応 開発区内に日系企業があるか 開発区管理委員会に日本語対応可能な人材がいるか意外に重要な項目です 進出を想定している開発区に日系企業が進出している場合 面談対応を依頼して 経営の実情をヒアリングすることを推奨します 経済統計や報道に掲載されない経営環境情報を提供してもらえる機会となるでしょう ニ日本人駐在 日本人が駐在できる環境か( 日本料理店 レジャーがあるか ) 派遣社員の日常生活環境のチェックです 工場で泊込生活をする日本人派遣社員の事例を聞くこともありますが 慣れない海外駐在である以上 オン オフの可能な環境が派遣社員にも必要ではないでしょうか 37
3 中国における外資企業設立許認可について前項で述べたASEAN 諸国において外資系企業の設立に規制 認可があるように 中国にも外資系企業設立の認可について規制があります ポイントをまとめてみます 中国における外資系企業設立許認可制度 : 外国企業が中国で現地法人を設立する場合 中国当局 ( 商務部門 工商行政管理局 ) の許認可が必要 業種 取扱品目によっては 別途 管轄の政府機関の許認可が必要 外商投資産業指導目録 (2007 年改正 ) 改正予定中国当局は 外国企業が中国へ進出することを奨励している業種 制限している業種 禁止している業種をリスト化しています 奨励したい業種は 高い技術のある企業や環境に良い技術の企業など中国の発展に寄与できる業種 ( エネルギー消費が多い業種 環境に悪影響を及ぼす可能性がある業種は歓迎されない傾向 ) です 設立認可取得のスケジュールについては 図表 2-11のようになります 図表 2-11 中国における外資系企業設立認可取得スケジュールのイメージ 38
取引先のアジア進出サポートと金融機関の役割 4 設立手続きの留意点ここでは中国における設立手続きの留意点を説明します 中国に限らず ASEAN 諸国においてもそれぞれ規制などがありますので 進出アドバイスにおいては経営者に事前に情報提供しておきたいもののひとつです イ環境評価 製造現法設立の場合は 商務部門への申請前に 環境評価( 工場を設立したことで 環境に悪影響を及ぼさないか否か ) を実施 メッキ 塗装については 厳しい評価をされるケースが多数 ロ企業名称申請 構成: 商号 + 業種 + 地域名 + 企業形態または地域名 + 屋号 + 業種 + 企業形態など 地域名に 中国 を入れたい場合は 資本金 5,000 万人民元 ( 一部業種は 3,000 万人民元 ) が必要 同業種に類似名称がある場合は使用不可 商号に日本の地域名を使用するのは 使用不可の例が多数 ハ申請書類準備申請書類には 図表 2-12のようなものがあります 図表 2-12 申請書類 39