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上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014) 38. 非肥満 2 型糖尿病患者の基質酸化適応能 大河原一憲 Key words: 非肥満 2 型糖尿病患者, 基質酸化, エネルギー代謝適応能, 食事療法 電気通信大学情報理工学部共通教育部健康 スポーツ科学部会 緒言欧米諸国において2 型糖尿病患者の多くは肥満を伴い, インスリン抵抗性の増大が主たる発症の要因といわれている. 一方, 日本人は遺伝的にインスリン分泌能が低く, インスリン分泌不全を由来とする肥満を伴わない2 型糖尿病患者が多くみられる. 糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法であるが, 非肥満 2 型糖尿病患者に対する治療法のエビデンスは十分に得られておらず, 主に肥満 2 型糖尿病患者を対象とした欧米の研究成果に基づいてガイドラインは提唱されている. 糖尿病患者の治療において体重コントロールは重要なファクターである. 特に肥満を伴う場合は食事制限による減量が糖尿病の改善に大きく貢献する. しかしながら, 国内において糖尿病患者のエネルギー必要量は標準体重 25~30 kcal/ 日など簡易な方法で推定されており, 十分なエビデンスはない状態である. また, 体重変動が摂取と消費のエネルギー収支で説明されることから理解できるように, エネルギー必要量の決定にはエネルギー代謝 ( 消費 ) の視点からも考えなければいけない. 特に, 糖尿病患者は健常者と比べて糖代謝機構の働きが低下していることに配慮する必要がある. そこで, 肥満タイプと発症メカニズムの異なる非肥満 2 型糖尿病患者の基質酸化適応能について明らかにすることを目的に研究を開始した. 方法本研究では,2 型糖尿病を有する非肥満成人男性 8 名 ( 年齢 ; 52.8±6.0 歳,body mass index; 22.3±2.2 kg/m 2 ) と健常な非肥満成人男性 9 名 ( 年齢 ; 54.3±6.9 歳,body mass index; 23.0±1.7 kg/m 2 ) を分析対象とした. 対象者は, 前日の夕食摂取後から絶食状態で来所し, 安静空腹時, 食後 30 分,60 分,90 分,120 分において, 呼気ガス分析計 (AR-10, アルコシステム, Kashiwa, Japan) を用いたエネルギー代謝の測定および採血を行った. 血液検査項目は, インスリン, グルコース, 遊離脂肪酸, 中性脂肪とした. 安静空腹時のエネルギー代謝量は, 仰臥位にて 30 分間の安静をした後, その姿勢を保持した状態で 15 分間の測定をして得られた値から算出した. また, 食後 30 分ごとのエネルギー代謝の測定は,30 分に1 回,10 分間の測定を実施した. 本報告では, 脂肪と糖質の燃焼比率の指標として呼吸商を用いた. 呼吸商は, 呼気ガス分析計から得られた二酸化炭素産生量を酸素消費量で除することで算出した. 対象者には同一の食事 (E460F18, キューピー, Tokyo, Japan) を提供し, すべて残さず食べるよう指示した. 提供食のエネルギーおよび三大栄養素の構成は,460 kcal,18 g( たんぱく質 ),18 g( 脂質 ),56.5 g( 炭水化物 ) であった. 身体組成 ( 体脂肪量および除脂肪量 ) は2 重エネルギー X 線吸収法 (QDR-4500A scanner, Hologic, MA, USA) を用いて測定した. なお, 対象者に, 安静空腹時から食後 120 分までの測定中はできるだけ安静を保つよう指示した. また, 各ポイントにおける採血は, エネルギー代謝の測定結果に影響を与えないよう, 毎回代謝測定後に実施した. 結果および考察本研究の分析対象であった2 型糖尿病を有する非肥満成人男性群 (8 名, 以下 DM 群 ) と健常な非肥満成人男性群 (9 名, 以下 C 群 ) との間において, 年齢, 身長, 体重,body mass index, 体脂肪量, 除脂肪量に有意な差は認められなかった. 1

血中グルコースおよびインスリン濃度の経時的変化を図 1に示した. 血中グルコース濃度は, 両群間に有意な交互作用が認められ, いずれのタイムポイントにおいても DM 群の方が高かった.C 群の血中グルコース濃度は食後 30 分でピークを迎え, その後徐々に低下していき, 食後 120 分では安静空腹時に近い値まで戻った. 一方,DM 群は C 群に比べてやや遅く, 食後 60 分でピークを迎えているが, 食後 120 分が経過してもピーク時の値とそれほど変わらずに高値を維持したままであった. 血中インスリン濃度についても, 同様に両群間に有意な交互作用が認められた.C 群においては, 食後 30 分で顕著な上昇が認められ, その後速やかな低下がみられている. しかしながら,DM 群は食後 30 分から安静空腹時よりも上昇が認められているものの,C 群と比べると低く, そのレベルをその後食後 120 分まで維持していた. 図 1. 安静空腹時および食後 120 分までの血中グルコース, インスリン濃度の変化. a) 安静空腹時との比較, b) 食後 30 分との比較, c) 食後 60 分との比較, (p < 0.05, One-way ANOVA with Bonferroni post hoc test). *, 各タイムポイントにおける健常者との比較 (p < 0.05, Unpaired t-test). 血中中性脂肪および遊離脂肪酸濃度の経時的変化を図 2に示した. 脂質関連マーカーである両項目ともに, 群間の交互作用は認められず, 近似した変化を示した. 中性脂肪については, 食後 120 分まで上昇傾向が認められた. 一方, 遊離脂肪酸は食後に低下を始め, 両群ともに食後 90 分で最も低い値となった. これらの結果は, Ohkawara et al. (2013) 1) 2

と同様であり, その他の先行研究と比較しても, リーズナブルな結果といえる. 食後の血中中性脂肪および遊離脂肪酸 の動態については,DM 群と C 群に大きな差がないことが示唆された. 図 2. 安静空腹時および食後 120 分までの血中中性脂肪, 遊離脂肪酸濃度の変化. a) 安静空腹時との比較, b) 食後 30 分との比較 (p < 0.05, One-way ANOVA with Bonferroni post hoc test). 2 元配置の分散分析の結果,2 項目ともに, 有意な交互作用は認められなかった. また, いずれのタイムポイントにおいても有意な群間差は認められなかった (Unpaired t-test). 体格補正をした安静時代謝量において, 両群間に有意差は認められなかった ( 図 3).2 型糖尿病を有し,body mass index が平均 32.0±3.5 kg/m 2 2) および平均 24.2±5.0 kg/m 2 3) の日本人を対象とした先行研究において,2 型糖尿病患者は健常者に比べて基礎代謝量が高い, もしくは空腹時血糖値が高いまたはインスリン分泌能が低い人ほど基礎代謝量が高い傾向にあると報告されている, しかしながら, 本研究においては,DM 群と C 群の間に有意な差は認められず, 先行研究と一致しなかった. これは, 研究間で, 対象者の体格, 服薬を含む治療状況などの違いが関係しているかもしれない. 現時点では対象者数を十分に確保できていないため, 今後の検討課題としたい. 3

図 3. 両群間における安静時代謝量の比較. ANCOVA による群間比較. 体格による影響を補正するため,DXA で測定した体脂肪量および除脂肪量を調整 因子として用いた. 図 4. 安静空腹時および食後 120 分までの呼吸商の変化. a) 安静空腹時との比較, b) 食後 30 分との比較, (p < 0.05, One-way ANOVA with Bonferroni post hoc test). *, 各タイムポイントにおける健常者との比較 (p < 0.05, Unpaired t-test). 2 元配置の分散分析の結果, 有意な交互作用は認められなかった. 図 4は, 安静空腹時から食後 120 分までの呼吸商の変化を示したものである. 両群間に有意な交互作用が認められなかったものの,DM 群の方が C 群よりも高い傾向にあった. 特に, 食後 30 分,90 分,120 分においては, 両群間に有意な差が認められた. また,C 群は食後 30 分をピークに, その後は安静空腹時のレベルへ戻ろうとしているのが伺えるが,DM 群は食後 60 分以降 120 分まで高い値を維持している.Galgani et al., (2008) 4) は, 肥満 2 型糖尿病患者におい 4

て, 安静空腹時では健常者よりも呼吸商が高く, インスリンを負荷しても呼吸商はあまり上昇しないこと ( メタボリッ クインフレキシブル ) を報告している. しかしながら, 本研究の対象である非肥満 2 型糖尿病患者の呼吸商は, 健常者 と同様に食事摂取後に上昇がみられた. むしろ, 呼吸商が高い状態を食後 120 分後も維持しており, その傾向がメタボ リックインフレキシブル ( エネルギー代謝機構が衰弱した状態 ) として, 病態を増悪させる要因になるといえるかもし れない. 以上から,DM 群において, 食後 60 分から 120 分後まで呼吸商が高いことと, 血中グルコースおよびインスリン濃 度の動態とが一致していた. 本研究ではエネルギーに対する脂質の割合が比較的高い食事を提供したにも関わらずこ のような結果が得られた. この結果は, 非肥満 2 型糖尿病患者に推奨する食事の三大栄養素バランスを再検討する上で 参考になると考える. ただし, これまでに実施した対象者数では結論を得るために不十分であるため, 今後も本研究を 継続し対象者数を増やしていきたい. 共同研究者 本研究の共同研究者は, 独立行政法人国立健康 栄養研究所栄養教育研究部の髙田和子, 慶応義塾大学スポーツ医学研 究センターの勝川史憲, および熊本県立大学環境共生学部の吉村英一である. 本稿を終えるにあたり, 本研究にご支援 を賜りました上原記念生命科学財団に深く感謝申し上げます. 文献 1) Ohkawara, K., Cornier, M. A., Kohrt, W. M. & Melanson, E. L. : Effects of increased meal frequency on fat oxidation and perceived hunger. Obesity, 21 : 336-343, 2013. 2) Miyake, R., Ohkawara, K., Ishikawa Takata, K., Morita, A., Watanabe, S. & Tanaka, S. : Obese Japanese adults with type 2 diabetes have higher basal metabolic rate than non-diabetic adults. J. Nutr. Sci. Vitaminol., 57 : 348-354, 2011. 3) Ikeda, K., Fujimoto, S., Goto, M., Yamada, C., Hamasaki, A., Shide, K., Kawamura, T. & Inagaki, N. : Impact of endogenous and exogenous insulin on basal energy expenditure in patients with type 2 diabetes under standard treatment. Am. J. Clin. Nutr., 94 : 1513-1518, 2011. 4) Galgani, J. E., Heilbronn, L. K., Azuma, K., Kelley, D. E., Albu, J. B., Pi-Sunyer, X., Smith, S. R. & Ravussin. E. : Look AHEAD Adipose Research Group. : Metabolic flexibility in response to glucose is not impaired in people with type 2 diabetes after controlling for glucose disposal rate. Diabetes, 57 : 841-845, 2008. 5