資料 1 抗がん剤の血管外漏出の予防と対策マニュアル 2013 年 4 月 1 日化学療法委員会 Ⅰ. 目的近年 外来で化学療法を受ける機会が増え 短時間でより安全 安楽ながん化学療法を提供することが求められている がん化学療法の合併症の中でも起壊死性抗がん剤 (vesicant agents) の血管外漏出 (extravasation:ev) は重大な問題である EV はいったん生じてしまうと 組織の潰瘍 壊死などから機能障害が生じ 二次的に日常生活へ影響を与える危険性がある 起壊死性抗がん剤の投与のうち1~6% の頻度で EV が発症していると推定され 疼痛やしびれ 重症の際には壊死などの苦痛をもたらす 起壊死性抗がん剤は日常的に投与されており 抗がん剤が投与されるたびに EV のリスクがあるといえる よって がん化学療法に携わる看護師は 安全 確実にがん化学療法を実施するためにも EV の予防 早期発見 対処を適切に遂行する責務がある Ⅱ. 血管外漏出 (extravasation:ev) の定義患者の自覚症状 他覚症状から抗がん剤が血管外に漏れているのか 判断に迷うことは多い とくに EV と類似する症状 兆候が生じている場合 静脈炎やフレア反応との識別 見極めが難しい ( 表 1 参照 ) 1. 血管外漏出 (extravasation:ev) 投与中の抗がん剤が血管外へ浸潤 (infiltration) あるいは血管外へ漏れ出て (extravasation) 静脈内投与溶液が血管から周囲の軟部組織に染み出ること そしてこれによって周囲の軟部組織に障害を起こし 発赤 腫脹 疼痛 灼熱感びらん 水疱形成 潰瘍化 壊死などなんらかの自覚的および他覚的な一連の症状を起こすこと 2. 静脈炎 (phlebitis) 静脈の炎症であり 症状 兆候は1 静脈の流れに沿ってあるいは カテーテルの挿入部に痛みがある 2 血管に沿ってカテーテルの先端を触れたり 軽く押すことで圧痛がある 3カテーテル挿入部の炎症性の腫脹や発赤がある 3. フレア反応局所の疼痛を伴わないアレルギー反応である 何らかの処置を施さなくても 30 分以内で消失する 表 1 血管外漏出と他の反応に関するアセスメント
アセスメン EV( 即時性 ) EV( 遅延性 ) 静脈の炎症 フレア反応 ト 痛み 激しい痛みや灼熱感 通常 48 時間以 静脈に沿っ なし が数分から数時間以内に生じる 通常 薬剤投与中に刺入部周囲に起こる 内に発現する て硬結や痛みがある 発赤 針刺入部周囲に発赤が生じる 必ずしも EV が生じる時に発赤が発現するとは限らない 遅くに発現する 静脈に沿って発赤もしくは黒ずむ ( 色素沈着 ) 紅斑や線状に蕁麻疹が生じる 治療をしなくても発現後 30 以内に消失する 潰瘍 潜在的に進行 遅くに発現す 通常は起こ 通常は起こらない 通常 48 時間から 96 時間に発現する る らない 腫脹 腫れる( 通常すぐに 通常 48 時間以 大抵はみら 大抵はみられない 腫脹が生じる ) 内に発現する れない 血液の逆流 血液の逆流はない 血液の逆流を認める 血液の逆流を認める その他 滴下の状態が変化する 局所のヒリヒリした感覚や感覚障害 蕁麻疹 がん化学療法 バイオセラピー看護実践ガイドラインより引用 改変 Ⅲ. 抗がん剤の EV の危険因子 1. 静脈構造 1) 細くて脆い血管 2) 弾力性や血流量が低下した静脈 ( 高齢者など ) 3) 輸液などですでに使用中の血管ルートの再利用 4) 抗がん剤を反復投与している血管 5) 同一血管に対する穿刺のやり直し例 2. 穿刺部位 1) 関節運動の影響を受けやすい部位 2) 腫瘍浸潤部位 3) 静脈疾患や局所感染 創傷 瘢痕がある部位 4) 循環障害のある四肢の血管 ( 上大静脈症候群や腋窩リンパ節廓清後 リンパ浮腫など )
5) 24 時間以内に注射した側の遠位側 6) 放射線治療を受けた部位の血管 3. 全身状態 1) 糖尿病や皮膚結合織疾患 末梢神経障害を伴う患者 2) 栄養状態の不良な患者 3) 肥満者 ( 血管がみつけにくい ) 4) 多剤併用化学療法中の患者 4. その他 1) 未熟な穿刺技能 2) 過去に抗がん剤の EV を起こしたことがある部位 ( リコール現象 ) Ⅳ. 抗がん剤の組織障害性抗がん剤は皮膚などの組織に与える影響や危険度の違いによって次のように分類される ( 表 2 参照 ) 1. 起壊死性抗がん剤 (vesicant drug) 少量の漏出でも疼痛を伴う水疱性皮膚炎を生じ 難治性潰瘍を起こしやすい 漏出後 2~3 日あるいは 2~3 か月してから潰瘍形成が著明になることがあり 重篤な障害や後遺症をきたす可能性が高い抗がん剤である 2. 炎症性抗がん剤 (irritant drug) 局所の炎症を起こすが潰瘍形成までにはいたらない しかし 漏出量が多いと症状の重症度が増す 3. 非炎症性抗がん剤 (non-vesicant drug) 血管外漏出を起こしても 炎症や壊死を起こしにくい 表 2 血管外漏出時の組織障害の程度による抗がん剤の分類分類当院使用の抗がん剤 ( 商品名 ) 起壊死性抗がん剤ファルモルビシン アドリアシン カルセド ロゼウス (vesicant drug) タキソール タキソテール サイメリン ドキシル など炎症性抗がん剤トポテシン エトポシド カルボプラチン シスプラチン (irritant drug) アクプラ エルプラット エンドキサン ジェムザール 5-FU ハラヴェン など非炎症性抗がん剤ブレオ メソトレキセート アバスチン ハーセプチン (non-vesicant drug) アービタックス アリムタ など Ⅴ. 抗がん剤の EV の予防 1. 抗がん剤投与に適した血管を選択する 1) 表在血管が委縮している場合は事前に腕を温め血管を拡張させる 2) より末梢部位から選択する ( 手背や関節部位は避ける ) 3) 太くて弾力のある血管を選択する
4) 24 時間以内に穿刺した血管部位より中枢側を選択 ( 前回穿刺部位からの漏出を予防 ) 5) 下肢はできるだけ避ける 6) 漏出が起きて適切に対応ができる部位を選択する ( 前腕部 ) 2. 血管確保は抗がん剤で行わない 1) 血管穿刺時は生理食塩水または支持薬で血管確保を行う 2) 点滴ボトルを下げ 逆血を確認 開通性を確認する ( この時ルートを折り曲げたりして穿刺部位に不必要な圧はかけない ) 3) 中心静脈ポート (CV ポート ) に穿刺する時も同様に開通性を確認する 3. 留置針穿刺部位は透明ドレッシング (IV3000) で固定し常に穿刺部位を観察できるようにする 4. 血管に確実に留置されているか確認する 1) 点滴ボトル交換ごとに必ず血液の逆流を確認する 2) 滴下が遅くなる 穿刺部位の異常などの変化を察知し 察知すれば逆流の確認を行う ( 血液の逆流があるからといって血管外漏出を完全に否定できるわけではない ) 3) トイレ移動時や体動時など必要時に血液の逆流を確認する 4) 起壊死性抗がん剤 (vesicant drug) 投与時は頻回に逆血を確認する とくに潰瘍形成をきたしやすいロゼウス やカルセド ファルモルビシン 投与時は患者の側を離れず確実に血管内に投与されていることを確認する 5) 静脈注射は 2~5ml ごとに血液の逆流を確認する 5. 抗がん剤投与後 点滴ルート内を生理食塩水 (50ml ボトル ) につなぎフラッシュする ( 点滴ルート管内に残った薬剤を最後まで投与できること 留置針抜針時に穿刺部位周辺への抗がん剤漏出が予防できる ) 6. 抜針後は止血を確認 留置針穿刺部位の周囲の腫脹 発赤 疼痛の有無を確認する 7. 患者指導 1) 患者がいつでもナースコールを押せるように 手が届く位置にナースコールをセットしておく 2) 抗がん剤が血管外に漏れた時は痛みや腫脹 発赤を生じること 抗がん剤の種類によっては血管外に少量でも漏れると強い障害が残る可能性があることを事前に説明する 3) 起壊死性抗がん剤 (vesicant drug) 投与時はできるだけ穿刺部位を動かさないよう指導する ( 投与前にトイレなど済ませるように配慮る ) 4) 留置針穿刺部周囲が チクチク痛い ヒリヒリする あつい感じ 違和感がある など異常を感じたらすぐに看護師に知らせるように伝える
5) トイレなどの移動のたびに患者とともに点滴の漏れの有無を確認する 6) 服装は袖口のゆるいデザインのものを着用するよう説明する (CV ポートの場合は首まわりが広く開くデザインのものを着用 ) 7) 抗がん剤投与数日の間に発赤 腫脹 疼痛の症状が出現した場合は病院に連絡するよう伝える 8. 注意点 1) 抗がん剤の EV が発生した場合はマニュアルに従い対応する CV ポートの EV の場合も同様に対応する 2) CV ポートからの抗がん剤投与で滴下不良の場合は胸部レントゲンなどでカテーテルが確実に血管内に留置されているか確認後投与することが望ましい 3) 起壊死性抗がん剤 (vesicant drug) は輸液ポンプを使用せず自然滴下が望ましい 4) 薬剤 血管の状態に応じて留置針のゲージ ( 太さ ) や材質 ( 軟らかさ ) を選択する 5) 抗がん剤の特性を理解し 投与方法や投与時間などを厳守し点滴管理を行う Ⅵ. 抗がん剤の EV 時の対応抗がん剤が血管外に漏出した場合には 速やかに対応することが重要である 対応が遅れて皮膚障害が重症化すると切開 切除 移植などの外科的処置が必要となり 患者の QOL が著しく損なわれる 血管外に抗がん剤が漏出した際には医師および看護師とのコミュニケーションを十分にとり 適切かつ迅速に対処することが重要である がん化学療法を施行する部署には 血管外漏出時のマニュアル 血管外漏出対応キットを常備しておく必要がある ( 図 1 図 2 図 3 参照 ) 1. 血管外漏出を確認したらすぐに点滴を中止 2. シリンジを用いて血液や薬液を吸引しながら (3~5ml を目安に ) 留置針を抜針する 3. 抗がん剤の組織障害性の分類を確認する 4. 当番医 主治医に連絡する 5. 血管外漏出時対応マニュアルに従い対応キットを用いて処置を速やかに行う 6. 起壊死性抗がん剤 (vesicant drug) の場合 医師が以下の処置を行う 1) 同意を得て患部の写真撮影 ( 経過を見る際に必要 ) 2) 漏出部位に副腎皮質ステロイド剤と鎮痛薬を局所注射 例 :( ソルコーテフ 100mg or リンデロン 4mg)+1% キシロカイン を 10ml に調整し漏出部位の周囲から中心に向けて皮下注射
3) Strongest のステロイド軟膏 ( デルモベート など ) を塗布 4) ガーゼ保護 5) 記録 6) 必要時 皮膚科受診 7. 炎症性抗がん剤 (irritant drug) 非炎症性抗がん剤(non-vesicant drug) の場合は原則処置を必要とせず経過観察 あるいは対処療法を実施 しかし 炎症性抗がん剤 (irritant drug) が大量に漏出した場合は起壊死性抗がん剤 (vesicant drug) の処置に準ずる 8. 漏出部位の冷却や保温をする場合以下に注意する 1) ビンカアルカロイド系抗がん剤 ( ロゼウス ) の場合冷却しない ( 潰瘍形成を促進する ) 2) エルプラット 漏出時は冷却しない ( 末梢神経障害を誘発する ) 3) アドリアシン 漏出時は温めない ( 皮膚潰瘍を悪化させる ) 4) アクリノール湿布は接触性皮膚炎を起こすことがあるため使用しない 図 1 血管外漏出処置セット 1 血管外漏出時の組織障害性に基づく分類表 2 血管外漏出時対応のフローチャート 3 10ml 5ml 注射用シリンジ 4 25G あるいは 26G 注射針 ( 皮下注射用 )18G 注射針 ( 薬液調整用 ) 5 ステロイド注射薬 ( ソルコーテフ デキサート など リンデロン は冷所保管 ) 6 局所麻酔薬 (1% キシロカイン など ) 7 ステロイド軟こう ( デルモベート リンデロン など ) 8 軟膏ベラ 9 ガーゼ テープなど
図 2 血管外漏出時のフローチャート 図 3 局所皮下注射の例