後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

Similar documents
はじめに 海外に出国する日本人の数は年々増加しており 2006 年には 1700 万人に達しています この中には現地で感染症にかかり 医療施設を受診するケースも少なくありません こうした海外でかかりやすい感染症の予防対策として 旅行者への予防接種の普及が提唱されているところです このパンフレットは

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

感染予防_16p.indd

2. 海外の感染症発生状況 (1) 三大感染症の発生状況世界保健機構 (WHO) は 世界的規模での対策が必要とされる HIV 感染症 / AIDS 結核 マラリアを 三大感染症 とし 基金を設立するなど対策に取り組んでいる 中でもマラリアの感染者数は多く 世界全体では 2010 年には約 2 億

卸-11-2.indd

海外勤務者の健康管理ハンドブック

1 ジカウイルス感染症の認知度 問 1 あなたは, ジカウイルス感染症, いわゆるジカ熱を知っていますか この中から 1 つだけお答えください どのような病気か詳しく知っている 9.1% どのような病気かある程度知っている 44.9% 名前だけ知っているが, どのような病気かは知らない 37.7%

Microsoft Word - H300717【プレスリリース】夏休みの感染症対策について


Microsoft PowerPoint 最近の性感染症の動向

旅の健康ガイド

Microsoft Word - 届出基準

ように いわゆる渡航者 に推奨されているワクチン (Recommend vaccines) 次に黄熱ワクチンのように一部の国に入国する際 接種証明書の提示を要求されるワクチン (Required vaccines) そして麻しんや風しんワクチンのようにわが国で通常に接種されているワクチン (Rout

PowerPoint プレゼンテーション

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾


(2) 注意すべき病気等 消化器感染症食べ物や飲み物から感染する消化器感染症は 東ティモールで最もかかりやすい病気の一つです 生水 氷 生野菜 刺身 カットフルーツ フレッシュフルーツジュースなどには十分注意してください デング熱シマカ ( 日本では一般にヤブ蚊と呼ばれる ) という 日中 特に明け

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

pdf0_1ページ目

救急小冊子_予防できる海外での感染症03.indd

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

世界保健機関 (WHO) による緊急事態宣言 WHOは 2016 年 2 月 1 日に開催された ジカウイルス感染症に関する国際保健規則 (IHR) 緊急委員会 ( 第 1 回 ) 会合の勧告を踏まえ 最近のブラジルにおける小頭症やその他神経障害の急増について 国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事

pdf0_1ページ目

渡航先 ( 国 地域 ) や渡航先での行動によって, 感染する可能性のある感染症は大き く異なりますが, 世界的に蚊を媒介した感染症が多く報告されています 特に熱帯 亜 熱帯地域ではマラリア, デング熱, チクングニア熱などに注意が必要です (1) マラリア毎年世界で約 2 億人の患者が発生し, 約

ジカ事務連案(自治体) (結核)

東京大会と感染症サーベイランス ~ 普段とどこがちがうのか ~ 疾患疫学が変化する可能性 多数の訪日外国人の流入 多くのマスギャザリングイベント 事前のリスク評価に基づいたサーベイランスと対応の強化の必要性を検討する 体制構築の観点から 行政と大会組織委員会の責任範囲と協力体制の構築が必要 国内移動

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効

Microsoft Word - 01沖縄県蚊媒介感染症対策行動計画(第3版)

pdf0_1ページ目

pdf0_1ページ目

アジア地域で感染が拡大している国を追加 ( 以下 2(1)) ブラジルにおける小頭症例の報告数の更新 ( 以下 1(3)) 厚生労働省のホームページにおいても関連情報が提供されていますので, こちらも併せ てご確認ください

(案)

Microsoft Word - デング熱診療マニュアル案 doc

国際的な人の移動の活発化に伴い 国内での感染があまり見られない感染症について 海外から持ち込まれる事例が増加している デング熱などの蚊が媒介する感染症 ( 以下 蚊媒介感染症 という ) についても 海外で感染した患者の国内での発生が継続的に報告されている 我が国においては 平成二十六年八月 デング

23158-本文.indd

ミニカ共和国 エクアドル エルサルバドル グアテマラ ガイアナ ハイチ ホンジュラス ジャマイカ メキシコ ニカラグア パナマ パラグアイ サモア スリナム トンガ ベネズエラ フランス領 ( グアドループ サン マルタン ギアナ マルティニーク ) オランダ領 ( アルバ キュラソー島及びボネール

2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

針刺し切創発生時の対応

161013_pamph_hp

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

<89FC B9E93738E7382B182DD292E786C7378>

デング熱の


イ プエルトリコ サモア スリナム トンガ ベネズエラ 米領 ( バージン諸島及びサ モア ) フランス領 ( グアドループ サン マルタン ギアナ マルティニーク ) において ジカウイルス感染症の感染例が報告されています 3. ジカウイルス感染症と小頭症等との関連 2015 年 11 月 28


とを考慮すると ( 症状を有する感染者の 5 倍の ) 約 1,000 人の感染者が既にシンガポール国内にいると推測される ジカウイルスは 1947 年にアフリカのウガンダでサルから発見 ( 参考 : ヒトへの最初の感染例は 1952 年 ) され アジア アメリカに伝わったとされているが これまで

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

二類感染症 1 結核平成 23 年は 291 件の届出があり 前年 (188 件 ) の約 1.5 倍に増加した 月別届出数は 16~43 件で推移した 症状別では 患者 198 件 ( 内訳 : 肺結核 143 件 その他の結核 42 件 肺結核およびその他の結核 13 件 ) 疑似症患者 1 件

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

センターたより4月号.indd

Q2 蚊媒介感染症 にはどんな病気があるの? A2 蚊媒介感染症は世界的に数多く存在しますが, 海外から日本国内へ持ち込まれ, 流行する可能性のある感染症としては, ウエストナイル熱, ジカウイルス感染症, チクングニア熱, デング熱, 日本脳炎, マラリアの6つがあります 海外から持ち込まれる可能

B型肝炎ウイルス検査

Microsoft Word _ソリリス点滴静注300mg 同意説明文書 aHUS-ICF-1712.docx

事務連絡 平成 28 年 9 月 23 日 都道府県 各保健所設置市衛生主管部 ( 局 ) 御中 特別区 厚生労働省健康局結核感染症課 ジカウイルス感染症に関する情報提供について 標記については 平成 28 年 8 月 10 日付け事務連絡でお知らせしたところです 今般 ジカウイルス感染症に関して

(CREST) 科学的発見 社会的課題解決に向けた各分野のビッグデータ利活用推進のための次世代アプリケーション技術の創出 高度化 ( 研究総括 : 北海道大学田中譲 ) における研究課題 大規模生物情報を活用したパンデミックの予兆, 予測と流行対策策定 ( 研究代表者 : 西浦博 ) の一環として行

Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

インフルエンザ(成人)

0426番号入り。HP用


IORRA32_P6_CS6.indd

会計 10 一般会計所管課健康推進課款 4 衛生費事業名インフルエンザ予防接種費項 1 保健衛生費目 2 予防費補助単独の別単独 前年度 要求段階 財政課長内示 総務部長 市長査定 最終調整 予算計上 増減 1 当初要求 2 追加要求等 3 4( 増減額 ) 5( 増減額 ) 6=

海外勤務健康プラザ 大阪(OHAP-OSAKA)のご案内      2001

pdf0_1ページ目

pdf0_1ページ目

<89FC89FC B9E93738E7382B182DD292E786C7378>

<89FC89FC B9E93738E7382B182DD292E786C7378>

<89FC89FC B9E93738E7382B182DD292E786C7378>

(9) シンガポールでの流行はアジア系のウイルス ヘイズとは インドネシア スマトラ島などにおける大規模な野焼きや森林火災により生じた煙が モンスーン ( 南西季節風 ) により シンガポール等に流されることによる煙害のことである 煙には 二酸化硫黄やオゾン等が含まれているが 主要なのは微小粒子状物

untitled

48小児感染_一般演題リスト160909

3 睡眠時間について 平日の就寝時刻は学年が進むほど午後 1 時以降が多くなっていた ( 図 5) 中学生で は寝る時刻が遅くなり 睡眠時間が 7 時間未満の生徒が.7 であった ( 図 7) 図 5 平日の就寝時刻 ( 平成 1 年度 ) 図 中学生の就寝時刻の推移 図 7 1 日の睡眠時間 親子

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

<4D F736F F D2093FA967B945D898A90DA8EED8DB782B58D5482A62E646F63>

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

1-11. 三種混合ワクチンに含まれないのはどれか 1 破傷風 2 百日咳 3 腸チフス 4 ジフテリア 疾患と症状との組合せで誤っているのはどれか 1 猩紅熱 コプリック斑 2 破傷風 牙関緊急 3 細菌性赤痢 膿粘血便 4 ジフテリア 咽頭 喉頭偽膜 予防接種が有効なはど

B型肝炎ウイルス検査

第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

1

さらに 職場における感染防止対策の検討を行うに当たっては 産業医等の助 言を受けることや 衛生委員会において対策を審議するなど 労働安全衛生法上 の安全衛生管理体制を活用し 実施していくことが望まれます Q2 発熱や呼吸器症状等のインフルエンザ様症状を呈した労働者にはどのような注意をすればよいですか

Q&A(最終)ホームページ公開用.xlsx

<4D F736F F D208FAC8E A8B858BDB838F834E CC90DA8EED82F08E6E82DF82DC82B7312E646F6378>

目 次 1. 流行している感染症について 2. 旅行前の注意 a. 持病のチェック b. 予防接種 ワクチン接種を要求される場合 自分を病気からまもるため 3. 旅行中の注意 a. 食べ物からうつる病気について b. 昆虫からうつる病気について c. 動物からうつる病気について d. ヒトからうつる

( 症状および検査所見 ) 3~7 日の潜伏期間の後に 発熱 発疹 頭痛 骨関節痛 嘔気 嘔吐などの症状がおこる 日本国内で診断されたデング熱患者の症状や検査所見の出現頻度を表 1 に示す 3) 発熱は発病者のほぼ全例にみられ 時に二峰性となる 通常 発病後 2~7 日で解熱し そのまま治癒する 約

1. 世界保健機関 (WHO) による緊急事態宣言 (1)WHOは 2016 年 2 月 1 日に開催された ジカウイルス感染症に関する国際保健規則 (IHR) 緊急委員会 ( 第 1 回 ) 会合の勧告を踏まえ 最近のブラジルにおける小頭症やその他神経障害の急増について 国際的に懸念される公衆の保

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

2017 年 25 週 (06 月 19 日 ~06 月 25 日 ) 2 類感染症 3 類感染症 都道府県 結核 ジフテリア 重症急性呼吸器症候群 中東呼吸器症候群 鳥インフルエンザ (H5N1) 鳥インフルエンザ (H7N9) コレラ 細菌性赤痢 総数北海道青森県岩手県宮城県秋田県山形県福島県茨

PowerPoint プレゼンテーション

チームドクターが帯同しない海外遠征時の注意

2018 年 47 週 (11 月 19 日 ~11 月 25 日 ) 2 類感染症 3 類感染症 都道府県 結核 ジフテリア 重症急性呼吸器症候群 中東呼吸器症候群 鳥インフルエンザ (H5N1) 鳥インフルエンザ (H7N9) コレラ 細菌性赤痢 総数北海道青森県岩手県宮城県秋田県山形県福島県茨

事業報告

Transcription:

2017 年 5 月 3 日放送 海外渡航時に気をつけたい感染症とその対策 東京医科大学病院渡航者医療センター教授濱田篤郎はじめに旅行や仕事で日本から海外に渡航する人の数は年々増加しており その数は年間 1700 万人にのぼっています これは日本国民の 7 人に 1 人が毎年 海外渡航をしている計算になります 滞在国としては熱帯や亜熱帯の発展途上国が増えていますが こうした国々では感染症が日常的に流行しており 日本からの渡航者が罹患するケースも数多くみられます そこで 今回は海外渡航者の感染症について予防対策を中心に解説します 海外渡航者にリスクのある感染症まず 海外渡航者にリスクのある感染症を感染経路別に紹介しましょう ( 表 1) 第一にあげられるのが 経口感染症すなわち旅行者下痢症や A 型肝炎などで こうした感染症は最も頻度が高いものです たとえば 旅行者下痢症の発生頻度は 1 カ月の途上国滞在で 50% 近くに達するとの報告もあります 旅行者下痢症の病原体としては病原性大腸菌 サルモネラ菌 カンピロバクターなど細菌が多くみられます 通常は数日の経過で改善しますが 一日に 4 5 回以上の激しい下痢になることもあります また 帰国

後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で毎年雨期に流行が発生しており 日本人の感染例も数多く報告されています ( 図 1) デング熱は発熱と発疹を主症状とし 通常は約 1 週間の経過で改善しますが 感染を繰り返すと重症型のデング出血熱の状態に陥ることがあります 一方 マラリアの流行はアジアや中南米では特定の地域に限定されており 日本人が通常行動する範囲での感染リスクはかなり低くなります ( 図 2) しかし 赤道周囲のアフリカでは都市や観光地でも感染リスクがあるとともに 致死率の高い熱帯熱マラリアが流行しているため とくに注意を要します なお 最近になり中南米や東南アジアではジカウイルス感染症が流行しており この病気も蚊が媒介します 通常は軽い発熱や発疹で回復しますが 妊娠中に感染すると胎児の健康に影響を及ぼす可能性があるため 妊娠中の女性は流行地域への渡航を控えるように指導してください 三番目にリスクのある感染症は性行為で感染する疾患です これには梅毒や淋病といった古典的な性病だけでなく B 型肝炎や HIV 感染症などが含まれます 途上国の医療機関の中には 医療器材の消毒が十分に行われてない施設もあり 院内感染として B 型肝炎や HIV 感染症に罹患するケースもみられます 四番目に注意するのが 動物から感染する狂犬病です 狂犬病はアジア アフリカ 中南米などで流行しており 発病すると致死率は 100% に達します 2006 年にはフイリピンで犬に咬まれた 2 名の日本人が 帰国後に狂犬病を発病しました 海外の流行地域

ではイヌなどの動物に接触しない注意をするとともに 動物に咬まれた場合は 狂犬病 の発病を予防するためのワクチン接種を迅速に受ける必要があります 予防教育さて こうした海外渡航者にリスクのある感染症の対策として 出国前の予防教育が最も大切です まずは リスクのある感染症の流行情報を 渡航者に提供していただきたいと思います 海外で流行している感染症の情報は 厚生労働省検疫所や外務省のホームページなどから入手できます ( 表 2) このような情報提供に加えて リスクとなる行動を回避するための指導も行ってください たとえば 旅行者下痢症の予防にはミネラルウオーターや煮沸した水を飲用すること 食品はなるたけ加熱したものを食べること などが重要なポイントになります 食事をする店も衛生状態の良い店を選ぶことが大切です また 旅行者下痢症のリスクが高い渡航者には 整腸剤などの下痢止めを持参させ 症状があれば服用させる指導も行ってください デング熱やマラリアを予防するためには 蚊の吸血を防ぐことが最も効果的な予防法です 蚊の発生しやすい場所では皮膚の露出を控え 皮膚には昆虫忌避剤を塗ります 昆虫忌避剤の中ではディートという成分が有効とされており この濃度の高い製剤を用いると持続時間が長くなります 屋内への蚊の侵入を防ぐためには 殺虫剤や蚊取り線香も有効です なお デング熱やジカウイウルス感染症を媒介するネッタイシマカは昼間に吸血し マラリアを媒介するハマダラカは夜間に吸血します このため 蚊の対策を実施する時間帯は それぞれの感染症の流行状況に応じて調整する必要があります 予防接種および予防内服海外渡航者にリスクのある感染症の中には ワクチンで予防できるものが数多くあります どのワクチンを選ぶかは 渡航者の年齢 滞在地域 滞在期間 滞在先でのライフスタイルなどを参考に判断します ( 表 4) 滞在期間は短期と長期に分けますが 短

期とは 1 か月未満の滞在で それ以上は長期として扱います たとえば アフリカのケニアに旅行で 1 週間滞在する渡航者には A 型肝炎と黄熱のワクチン接種を推奨します A 型肝炎は途上国で広く流行しており 海外渡航者が感染するリスクの高い病気です 黄熱は蚊が媒介する感染症で アフリカや南米で流行しており 発病すると高い致死率になります 流行国の中には入国時に予防接種証明書の提示を要求することもあります 海外渡航者は出国までの期間が限られているため できるだけ短期間のうちにワクチン接種を終了する必要があります 不活化ワクチンの場合は 最終的に 3 回の接種が必要な製剤が多く 出国前には一定の効果がみられる 2 回目まで終了します 出国まであまり時間がないケースでは複数のワクチンの同時接種も行われます 海外渡航者向けの予防接種はトラベルクリニックなどで接種を受けることができます どこにクリニックがあるかは 厚生労働省検疫所や日本渡航医学会のホームページなどを参照してください ( 表 2) なお 黄熱ワクチンの接種が受けられる施設は 検疫所およびその関連施設に限られていますので ご注意ください マラリアには有効な予防接種がないため 赤道周囲のアフリカなど 高度流行地域に滞在する渡航者には 治療薬を定期的に服用する予防内服という方法をとります ( 表 3) 日本では予防薬としてマラロンとメフロキンが販売されていますが 副作用の発生もあり 慎重に実施すべきです なお予防内服は健康保険の適用外ですので その点もご注意ください

帰国後の対応海外旅行後に発熱や下痢などの症状を呈している患者については 途上国特有の感染症を念頭におき 診療にあたることが必要です ( 表 5) 途上国から帰国後に発熱している患者であれば デング熱 マラリア 腸チフス ウイルス性肝炎などが鑑別疾患にあがります この中でもマラリアは迅速に治療しないと死に至る危険性があるため 少しでもマラリアの可能性があるケースは 専門医療機関に紹介することをお奨めします 帰国後に下痢をおこしている患者については まず細菌性の腸炎を考え 便の細菌培養を行います 症状が強い場合は キノロン系の抗菌薬などによる治療を開始します また 慢性の下痢を呈する患者につては ランブル鞭毛虫など原虫の検査が必要になります なお 海外で動物の咬傷を受けた患者については 狂犬病の発症を予防するため ワクチンの接種を早急に行う必要があります おわりに以上 海外渡航者の感染症対策について解説してきました 海外渡航者の健康問題としては 今回紹介した感染症だけでなく 航空機内の疾患や高山病など様々な種類があります こうした健康問題を総合的に扱う医学領域としてトラベルメディスンという分野が最近注目されています グローバル化が進む社会環境の中 一般臨床医の皆様にも 是非 この分野への関心を高めていただきたいと思います