博第265号

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第 1 章では ヒトESCの脱落膜化におけるEpacの関与について検討した 増殖期と分泌期のヒト子宮内膜組織において Epac1 とEpac2 は 間質 腺上皮 管腔上皮細胞に発現していた 初代培養 ESCを用いた検討において Epac 選択的 campアナログ (CPT) の単独処置は脱落膜マーカー (PRL IGFBP1) と campシグナルの活性化により発現が亢進するfoxo1 のmRNA 発現に影響しなかったが CPTはPKA 選択的 camp アナログ (Phe) または卵巣ステロイド ( プロゲステロン :P 4, エストラジオール : E 2 ) の処置により誘導されるPRLや IGFBP1 の mrna 発現を相乗的に増加させた (Fig. 1) Epac1 Epac2 またはRap1 の発現をsiRNAでノックダウンすると camp アナログや卵巣ステロイドによるPRLとIGFBP1 のmRNA 発現上昇が有意に抑制された また Epac2 ノックダウンはFOXO1 mrna 発現も抑制した さらにESCの脱落膜化に伴う形態を調べた結果 卵巣ステロイド処置は 線維芽細胞様の形態から敷石状の脱落膜細胞様の形態へと変化させ CPT と卵巣ステロイドの共処置はこの形態変化をさらに促進させた Epac1 Epac2 またはRap1 のノックダウンは この形態変化を阻害した ESC における Rap1 の活性化を調べたところ 未分化の ESC に CPT を処置しても Rap1 は活性化されなかったが Phe を前処置した ESC では CPT 処置により Rap1 が活性化され この活性化は Epac1 または Epac2 ノックダウンにより抑制された 一方 Phe 処置は PKA シグナルの下流因子 camp responsive element binding protein (CREB) を活性化させたが CPT はこれに影響しなかった また Phe による CREB の活性化は Epac1 Epac2 または Rap1 のノックダウンによっても影響されなかった そこで Epac シグナルによる PRL の転写活性機構を明らかにするため転写因子 CCAAT/enhancer binding protein (C/EBP) βに着目してレポーターアッセイで解析した Phe と CPT との共処置で上昇する PRL 転写活性の上昇が C/EBPβの結合配列の変異で消失した 以上の結果は ヒト ESC において Epac/Rap1 シグナルが CREB ではなく 一部 C/EBPβを介して PKA シグナルと協調して脱落膜化を促進することを示している 第 2 章ヒトESCの脱落膜化に対する新規 Epac2 下流因子の同定とその機能第 2 章では Epac2 の新規下流因子を同定し この因子の脱落膜化への関与について解析した Epac2 ノックダウンにより発現が減少する因子として calreticulin (CRT) をプロテオーム解析により同定した (Fig. 2A) なお CRT の発現は Epac1 や Rap1

ノックダウンでは影響を受けなかった Phe または CPT を処置しても CRT 発現量は変化しなかった CRT ノックダウンは Phe 卵巣ステロイドまたは CPT との共処置による脱落膜マーカー (PRL と IGFBP1) の mrna 発現を抑制した (Fig. 2B, C) さらに 卵巣ステロイドまたは CPT との共処置による脱落膜細胞への形態変化を CRT ノックダウンは阻害した また Epac2 や CRT のノックダウンにより SA-β-Gal 活性と p21 発現の増加 p53 発現の減少を指標とした細胞老化が誘起された 以上の結果は ヒト ESC の機能的かつ形態的な脱落膜細胞への分化には Epac2 を介した CRT 発現が必須であること また Epac2 と CRT が ESC の老化に関与することを示している 第 3 章早期妊娠ラットの子宮内におけるEpacの発現と役割第 3 章では 着床周辺期のラットの妊娠子宮におけるEpac 及びその関連因子の発現と役割について検討した Epac1 Epac2 Rap1 並びにCRTは妊娠 3 5 日目では管腔 腺上皮細胞に局在し 着床後の妊娠 7 9 日目では脱落膜細胞で強い発現がみられた 着床遅延モデルラットを用いた検討では 妊娠 4 日目に卵巣切除 (OVX) した群とOVX 群にP 4 を投与した群と比べて P 4 とE 2 の投与により着床を誘起した群では 脱落膜細胞でEpac1 Epac2 Rap1 並びにCRTの発現が上昇した また OVXした非妊娠ラットにP 4 とE 2 をそれぞれ単独または共処置しても Epac1 Epac2 Rap1 及びCRT 発現は変化しなかった このことから Epac1 Epac2 Rap1 並びにCRT 発現は卵巣ステロイドによる直接的な調節ではなく 着床により起こる脱落膜化の際に上昇することが明らかとなった さらに 偽妊娠子宮にゴマ油を注入し 人為的に脱落膜化を誘起したモデルにおいて 脱落膜細胞でEpac1 Epac2 Rap1 並びにCRT の発現がみられた また 妊娠子宮の脱落膜化部位において

camp/pkaシグナルの活性化を示唆するcrebの強いリン酸化が観察された さらに 培養 ESCにおいて ラットの脱落膜マーカー (PRLとDTPRP) の mrna 発現は CPT 処置で変化しなかったものの Phe 処置で上昇した Epac1 Epac2 Rap1 及びCRT のノックダウンは メドロキシプロゲステロン (MPA) とcAMPアナログ (db-camp) 共処置によるPRLとDTPRP mrnaの発現を有意に抑制した (Fig. 3) 以上の結果は Epac1 Epac2 Rap1 並びにCRTはラットにおける脱落膜化に関与していることを示している 第 4 章ヒト子宮内膜腺の成熟におけるEpac2/CRTの役割第 4 章では 前章までの脱落膜化過程に加えて 子宮内膜腺の成熟におけるEpac2 とCRTの役割をヒト内膜腺細胞株 (EM1) を用いて解析した ESCと同様 EM1 においてもEpac2 ノックダウンはCRT 発現を減少させた これは 内膜腺におけるCRT 発現がEpac2 により調節されていることを示している Epac2 とCRTの腺機能への関与を調べるため 着床関連因子であるLIF 並びにCOX2 の発現とPGE 2 の産生を調べた LIFとCOX2 mrnaの発現及びpge 2 分泌はPhe 処置で上昇し CPT 処置では影響しなかった ForskolinまたはPhe 処置によるLIFとCOX2 mrnaの発現並びにpge 2 分泌の増加は Epac2 またはCRTノックダウンにより抑制された (Fig. 4A-C) さらに Epac2 またはCRT をノックダウンしたEM1 では SA-β-Gal 活性とp21 発現の増加 p53 発現の減少を伴う細胞老化が誘起された 以上の結果は ヒト内膜腺細胞における着床関連因子の産生調節と細胞老化にEpac2 を介したCRT 発現が重要であることを示している 総括本研究より 増殖期と分泌期のヒト子宮内膜組織において 間質と腺上皮細胞に Epac が発現していることを明らかにした ヒト ESC において Epac シグナルの活性化や Epac とその下流因子の発現抑制が機能的かつ形態的な脱落膜化に影響を与えることから Epac は脱落膜化と密接に関連していることを見出した また 着床後のラット子宮の脱落膜細胞で Epac とその下流因子の発現が上昇し その発現抑制は脱落膜化を阻害したことから 脱落膜の形成機構に Epac シグナルは必須であることも示した さらに 腺上皮細胞における着床関連因子の発現が Epac2 または CRT のノックダウンにより抑制されたことから 腺細胞の成熟にも Epac2 を介した CRT 発現が重要であることを明らかにした さらに Epac2 や CRT のノックダウンは間質 腺上皮細胞の老化を促進したことから これらは妊娠に向けたヒト子宮内膜の成熟機

構の調節と維持に重要な因子であると考えられる (Fig. 5) 以上 申請者は妊娠成立の新しい分子機構として Epac の意義を明らかにした これら知見は不妊症のメカニズムの解明に繋がる可能性があり 生殖補助医療への応用が期待される 研究結果の掲載誌 1Placenta 34, 212-221 (2013) 2 Endocrinology 155, 240-248 (2014)

論文審査の結果の要旨 妊娠の成立には 適切な胞胚の発達と子宮内膜の成熟による胞胚受容能の獲得が不可欠である この胞胚受容能の獲得には 子宮内膜間質細胞 (ESC) の脱落膜化と内膜腺の成熟化が必須であり camp プロテインキナーゼ A(PKA) シグナル伝達経路がこれらの過程で中心的な役割を担っている 本研究では もう1つの camp シグナル伝達因子の Exchange protein directly activated by camp (Epac) と Epac シグナル伝達系の下流因子の子宮内膜間質細胞の脱落膜化と内膜腺の成熟過程における役割について解析した 論文は 4 章より構成されている 第 1 章では ヒト子宮内膜組織における Epac サブタイプ (Epac1 と Epac2) の発現部位を明らかにし ヒト ESC の脱落膜化における Epac の関与について検討した 初代培養 ESC を用いた検討において Epac 選択的 camp アナログ (CPT) の処置が PKA 選択的 camp アナログ (Phe) または卵巣ステロイドの処置により誘導されるプロラクチン (PRL) やインスリン様成長因子結合タンパク質 1(IGFBP1) の発現を相乗的に増加させた Epac1 Epac2 または Epac シグナル伝達因子 Rap1 の発現をノックダウンすると この PRL と IGFBP1 の発現上昇が抑制された また CPT は卵巣ステロイド処置による脱落膜細胞への形態変化を促進し この形態変化は Epac1 Epac2 または Rap1 のノックダウンにより阻害された 以上の結果はヒト ESC において Epac/Rap1 シグナルが PKA シグナルと協調して脱落膜化を促進することを示している 第 2 章では ESC における Epac2 の新規下流因子を探索し 脱落膜化への関与について解析した Epac2 ノックダウンにより発現が減少する因子として calreticulin (CRT) を同定した CRT の発現をノックダウンすると脱落膜化誘導刺激による PRL と IGFBP1 発現と形態的分化が抑制された また Epac2 や CRT のノックダウンは細胞老化の指標である Senescence-associated β-galactosidase 活性と p21 発現の増加 p53 発現の減少を招いた 以上の結果はヒト ESC の機能的かつ形態的な脱落膜細胞への分化には Epac2 を介した CRT 発現が必須であること また Epac2 と CRT が ESC の老化に関与することを示している 第 3 章では 着床周辺期のラットの妊娠子宮における Epac 関連因子の発現調節と役割について検討した Epac1 Epac2 Rap1 並びに CRT は着床後の脱落膜細胞で強く発現しており 着床遅延モデル 人為的脱落膜化誘導モデル等を用いた検討から Epac 関連因子の発現が 卵巣ステロイドによる直接的な調節ではなく 着床により起こる脱落膜化に伴い上昇することを明らかにした さらに 培養ラット ESC において Epac1 Epac2 Rap1 及び CRT のノックダウンは脱落膜化刺激による PRL と

脱落膜 / 栄養膜 PRL 関連タンパク質 (DTPRP) の発現を顕著に抑制した 以上の結果 はラットの脱落膜化における Epac1 Epac2 Rap1 並びに CRT の重要性を示してい る 第 4 章では ヒト内膜腺細胞株 (EM1) を用い 腺の成熟におけるEpac2 とCRTの役割を解析した EM1 でも Epac2 のノックダウンによりCRTの発現量が減少した Epac2 またはCRTのノックダウンは 着床関連因子である白血病抑制因子 (LIF) 並びにシクロオキシゲナーゼ 2( COX2) の発現とプロスタグランジンE 2 の産生を低下させた さらに Epac2 またはCRTをノックダウンしたEM1 では ESCと同様に細胞老化が誘起された 以上の結果はヒト内膜腺細胞における着床関連因子の産生調節と細胞老化にEpac2 を介したCRT 発現が重要であることを示している このように本論文では Epac1 と Epac2 を介したシグナル伝達がヒト及びラット子宮内膜間質細胞の脱落膜化と密接に関連していること ヒト内膜腺上皮細胞の成熟に伴う着床関連因子の産生に Epac2 を介した CRT 発現が重要であること Epac2 と CRT は内膜間質細胞と腺上皮細胞の老化にも影響することが示唆された 以上 本研究は Epac が子宮内膜間質細胞の脱落膜化と腺の成熟に重要な因子であることを見出し 妊娠成立機構における Epac の生理的役割を初めて明らかにしたもので 博士 ( 薬学 ) の学位に十分に値すると判断する