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平成 29 年度連結計算書類 計算書類 ( 平成 29 年 4 月 1 日から平成 30 年 3 月 31 日まで ) 連結計算書類 連結財政状態計算書 53 連結損益計算書 54 連結包括利益計算書 ( ご参考 ) 55 連結持分変動計算書 56 計算書類 貸借対照表 57 損益計算書 58 株主

第4期 決算報告書

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計算書類等

連結貸借対照表 ( 単位 : 百万円 ) 当連結会計年度 ( 平成 29 年 3 月 31 日 ) 資産の部 流動資産 現金及び預金 7,156 受取手形及び売掛金 11,478 商品及び製品 49,208 仕掛品 590 原材料及び貯蔵品 1,329 繰延税金資産 4,270 その他 8,476

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第 16 回ビジネス会計検定試験より抜粋 ( 平成 27 年 3 月 8 日施行 ) 次の< 資料 1>から< 資料 5>により 問 1 から 問 11 の設問に答えなさい 分析にあたって 連結貸借対照表数値 従業員数 発行済株式数および株価は期末の数値を用いることとし 純資産を自己資本とみなす は

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科目 期別 損益計算書 平成 29 年 3 月期自平成 28 年 4 月 1 日至平成 29 年 3 月 31 日 平成 30 年 3 月期自平成 29 年 4 月 1 日至平成 30 年 3 月 31 日 ( 単位 : 百万円 ) 営業収益 35,918 39,599 収入保証料 35,765 3

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消費者余剰の損失分は 780 ドルとなる 練習問題 13.2 の解答公式を導出する際に重要なことは, 課税のよる価格の変化, 取引量の変化, 逆供給曲線と逆需要曲線の傾きを正しく図で描写することである これが正しくできればその他の公式は簡単である 残りの 2 つの公式を導出するために, 図 13.1

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-2-

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貸借対照表 平成 28 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 千円 ) 科 目 金 額 科 目 金 額 資産の部 負債の部 流動資産 (63,628,517) 流動負債 (72,772,267) 現金及び預金 33,016,731 買掛金 379,893 売掛金 426,495 未払金 38,59

第1章

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 資 料 2 

1. 概要直近 5 ヵ年売上高 ROE 推移 3,000,000 2,500,000 2,000,000 1,500,000 1,000, ,000 40% 30% 20% 10% 0% -10% -20% 左表は 直近 5 ヵ年の売上高及び ROE 推移である 2007/3 期にボーダ

Ⅱ. 資金の範囲 (1) 内訳 Ⅰ. 総論の表のとおりです 資 金 現 金 現金同等物 手許現金 要求払預金 しかし これはあくまで会計基準 財務諸表規則等に記載されているものであるため 問題文で別途指示があった場合はそれに従ってください 何も書かれていなければ この表に従って範囲を分けてください

3. その他 (1) 期中における重要な子会社の異動 ( 連結範囲の変更を伴う特定子会社の異動 ) 無 (2) 会計方針の変更 会計上の見積りの変更 修正再表示 1 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 無 2 1 以外の会計方針の変更 無 3 会計上の見積りの変更 無 4 修正再表示 無 (3)

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1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

CC2: 連結貸借対照表の科目と自己資本の構成に関する開示項目の対応関係 株式会社三井住友フィナンシャルグループ ( 連結 ) 項目 資産の部 イロハ 公表連結貸借対照表 (2019 年 3 月末 ) 現金預け金 57,411,276 コールローン及び買入手形 2,465,744 買現先勘定 6,4

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貸借対照表 (2018 年 3 月 31 日現在 ) 科 目 金 額 科 目 金 額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) Ⅰ. 流動資産 8,741,419 千円 Ⅰ. 流動負債 4,074,330 千円 現 金 預 金 5,219,065 未 払 金 892,347 受 取 手 形 3,670 短

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貸借対照表 ( 平成 29 年 12 月 31 日現在 ) 科目金額科目金額 ( 資産の部 ) 流 動 資 産 現金及び預金 売 掛 金 仕 掛 品 前 払 費 用 未 収 入 金 そ の 他 貸 倒 引 当 金 固 定 資 産 有形固定資産 建物附属設備 工具器具備品 無形固定資産 ソフトウェア

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第10期

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貸借対照表 平成 27 年 3 月 31 日現在 会社名 : NHK 営業サービス株式会社 資産の部負債の部 ( 単位 : 千円 ) 科目金額科目金額 流動資産 8,930,928 流動負債 6,339,212 現金及び預金 2,615,847 買掛金 56 売掛金 5,927,917 短期借入金

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~ 復習 ~ 社債保有者は 株主に有限責任の価値として プットオプションを提供している ペイオフ 安全な社債の価値 =K T exp(-rt) 株主プットオプションの価値 =P 0 (X 0, K T ) K 社債 ~ 復習 ~ XT<KT のとき 債権者 = 満額の元本償還 株主 = 社債償還後の

第28期貸借対照表

Transcription:

1 ファイナンス応用研究 第 12 回 2014 年 9 月 20 日 畠田

2 資本構成 - その 1- 文献 BMA 第 9 章, 第 17 章, 第 18 章, 第 19 章 Berk, Jonathan and DeMarzo, Peter, 2013, Corporate Finance, Third Edition, Pearson, Chapter 14,15,16 ( 久保田, 芹田, 竹原, 徳永, 山内訳, コーポレートファイナンス : 入門編, 第 14 章, 第 15 章, 第 16 章, 丸善,2014 年 )

3 12.1 はじめに 企業の純負債, 株主資本の相対的な割合を企業の資本構成という 企業は投資家から資金を調達するとき, 企業はどのような形態で調達するかを考えなくてはならない ここでは, 自己資本による資金調達と負債と自己資本の組み合わせによる資金調達に限定し, 企業の資金調達の決定問題 ( 最適な資本構成の問題 ) について議論する 我々は, 資金調達と企業の資産 ( 営業 ) 価値との間にどのような関係があるに注目して, 企業の資金調達の決定問題について議論する すなわち, 企業の資産価値を最も大きくする資金調達( 資本構成 ) は存在するのか? 借金経営は悪であるのか? という主張について議論する

4 12.2 アンレバード企業とレバード企業 1アンレバード企業 (Unlevered firm) 資産の価値 V U = 株主資本の価値 U 貸借対照表 r V U 資産 (V U ) 株主資本 (U) r E U アンレバード企業の資産の資本コストを r V U, 株主資本の資本コストを r E U とすると, 次式が成立する (1) r V U = r E U

5 12.2 アンレバード企業とレバード企業 2 レバード企業 (Levered firm) 資産の価値 V L = 純負債の価値 D + 株主資本の価値 E 貸借対照表 純負債 = 負債合計 - 現金 r V L 資産 (V L ) 純負債 (D) 株主資本 (E) r W = D V L r D + E V L r E L レバード企業の資産の資本コストを r V L, 株主資本の資本コストを r E L, 負債の資本コストを r D とする 加重平均資本コスト (WACC) を r W で表すと, 次式が成立する (2) r V L = r W = D V L r D + E V L r E L

6 12.3 Modigiliani and Miller(MM) の命題 以下の条件 ( 完全資本市場 ) が成り立っている 1. 証券が取引される市場は競争的, あるいは, 裁定機会が存在しない 2. 証券の取引において, 税金, 取引費用 ( 例 : 証券の発行費用 ) は存在しない 3. 企業の資金調達の意思決定は, 企業の実物投資から得られる FCF を変えず, またそれについての新しい情報も提供しない MM 命題 完全資本市場では, 企業が保有する資産の価値は, その資産が生み出す将来の FCF の現在価値に等しく, 企業の資本構成の選択に影響されない 同様に, 資産の資本コストも企業の資本構成の選択に影響されない レバード企業の株主資本の資本コストは, レバレッジとともに増加する

7 12.4 支払い利息の税控除 完全資本市場の仮定が成立しないとき,MM 定理の主張はどうなるのか? まず, 税金が存在する状況での主要な帰結をあらかじめ示す 税の存在は, 投資家が受け取る FCF を減少させる効果をもつので, 企業の資産価値 ( 営業価値 ) を低下させる 税の存在を考慮した場合, 株主資本による資金調達と異なり, 負債による資金調達には節税効果が存在する 節税効果が存在するとき,MM 定理は成立しない すなわち, 資金調達手段で企業の資産価値 ( 営業価値 ) が異なる

8 12.4 支払い利息の税控除 法人税率 :t, 税引き前利益 :X, 減価償却費 :DEP とする このとき, 株主資本による資金調達を行う企業 : アンレバード企業 (Unlevered Firm) と負債による資金調達も行う企業 : レバード企業 (Levered Firm) の税引後 FCF を比較する アンレバード企業の税引後 FCF: FCF U (3) FCF U = 1 t X + DEP レバード企業の税引後 FCF: FCF L (4) FCF L = 1 t X r D D + DEP + r D D = FCF U +tr D D tr D D: 負債による税金の支払い控除額 ( 節税効果 )

9 12.4 支払い利息の税控除 例 1: セーフウェイ社の利子支払前, 税引き前利益 (EBIT) は 18 億 5000 万ドル, 支払利息は 3 億 5000 万ドルであった 法人税率を 35% と仮定すると, レバレッジによるセーフウェイ社の利益への効果を考えよう 法人税率 35% レバード企業 アンレバード企業 利子支払前, 税引前利益 (EBIT) 1850 1850 支払利息 -350 0 税引前利益 1500 1850 税金 -525-648 純利益 975 1202 すべての投資家にとって利用可能な総利益額 1325 1202 支払利息節税枠 ( 節税効果 ) 123 = 1325-1202 すべての投資家 ( 株主 債権者 ) が受け取る総利益額は, レバード企業において 13 億 2500 万ドル, アンレバード企業において 12 億 300 万ドルであり,1 億 2300 万ドル [ 支払利息節税枠 tr D D = 法人税率 t 支払利息 r D D ] の節税効果が存在する 減価償却費を戻し入れた FCF で考えても, 節税効果分だけ FCF は増加する

10 12.4 支払い利息の税控除 レバード企業の資産の価値とアンレバード企業の資産の価値について,(4) 式と同様の関係式が成立する (5) V L = V U +PV of 支払利息節税枠 [tr D D] V L : レバード企業の FCF の現在価値 ( レバード企業の資産価値 ) V U : アンレバード企業の FCF の現在価値 ( アンレバード企業の資産価値 )

11 12.4 支払い利息の税控除 一定の負債額の下での支払い利息節税枠 ここで, 企業が一定の負債額 (D) を維持すると仮定する ( 古い社債と借入は満期を迎えると借り換えを行う ) このとき, 負債にリスクがなく, 無リスク利子率を r D とすると, 毎年, かつ, 確実に tr D D の支払利息節税枠が永久に発生するので, PV of 支払利息節税枠は (6) PV of 支払利息節税枠 = tr DD r D である また, 負債の価値は (7) 負債の価値 = D = td 毎期発生する支払利息の節税分 = tr D D PV of 支払利息節税枠 = tr DD + tr DD + 1+r D 1+r 2 D 毎期発生する支払利息 = r D D 負債の価値 = PV of 支払利息 = r DD + r DD + 1+r D 1+r 2 D = r DD r D = D = tr DD r D = td

12 12.5 税が存在する下での最適資本構成 税引き後 WACC 税を考慮すると, 負債権者が要求する資本コストは, 1 t r D である 株主資本の資本コストを r E, 負債の税引き前資本コストを r D, 法人税率を t とすると, 税引き後 WACC(r A,W ) は, 次式で表される (8) r A,W = D V L 1 t r D + E V L r E D: 負債の価値 E: 株主資本の市場価値 V L = E + D

13 12.5 税が存在する下での最適資本構成 MM 命題 ( 完全資本市場 ): 企業の資産価値を決めるのは投資政策であり, 資本構成は企業の資産価値に影響しない 税の存在 税は,Levered firm に利息の支払いが FCF に節税効果をもたらす FCF L = FCF U +tr D D 税は,Levered firm に資産の資本コストの低下をもたらす r W = D V L 1 t r D + E V L r E 負債の増加とともに, レバード企業の資産価値は上昇する V L = V U +PV of 支払利息節税枠 [tr D D] V L V U 企業は資金調達する際, 負債調達が株式調達よりも優先される

14 12.5 税が存在する下での最適資本構成 企業の資産価値 V L 図 12.1 V L = V U + PV of 支払利息節税枠 V U 0 D

15 12.5 税が存在する下での最適資本構成 実際に企業は負債による資金調達を優先しているか? 外部資金を調達するとき, 株式による資金調達より負債による資金調達を好む傾向があるが, すべての投資が外部から調達されているわけではない 現実においては, むしろ投資の多くの部分において, 留保利益 ( 内部留保 ) のように, 内部で生み出された資金を利用している 留保利益, 株式はともに株主資本である なぜ?

16 12.6 財務的危機 負債による資金調達には, 企業に負債の利息や元金の支払い義務が課されている 企業が負債の利息や元金を支払うことができないことを財務的危機 (Financial distress) の状態に陥っているという 財務的危機の状態に陥っている企業は, 倒産手続き ( 破産法, 会社更生法, 民事再生法 ) の適用について考慮することになる 企業が倒産した後, 債権者は企業の資産に対して一定の権利を取得する 極端のケースでは, 破産 の手続きを経ることで, 株主から債権者は企業の資産の法的な所有権を取得する 倒産とは, 債権者が企業の資産の法的な所有権を取得している状態をさす FCF の配分は財務的危機の状態にあっても, 倒産しても同じである それ故, 以下では, 財務危機 = 倒産と考える

17 12.6 財務的危機 完全市場における財務危機の影響 例 2: アーミン社 [Berk, and DeMarzo, 2013, Corporate Finance, 16.1] 留意点 : 財務的危機の状態に伴う追加的な費用 =0 単位 :100 万ドル Unlevered Firms Levered Firms 成功 (50%) 失敗 (50%) 成功 (50%) 失敗 (50%) 負債のFV( 将来価値 ) - - 100 80 株主資本のFV 150 80 50 0 資産のFV 150 80 150 80 資産の FV は, アンレバード企業とレバード企業で変化しない 財務的危機の事象は, レバード企業において起こりうる FV の減少は, 財務的危機によって発生するのではない 負債による資金調達は, 資産の FV の減少をもたらすわけではない

18 12.6 財務的危機 完全市場における財務的危機の影響 例 2 において, 無リスク利子率が 5%, アーミン社の FV は景気循環と無関係である, そして, 財務的危機の状態に伴う追加的な費用が発生しないとする このとき, アンレバード企業の資産価値 [ 営業価値 ](V U ) とレバード企業の資産価値 [ 営業価値 ] (V L ) は? アンレバード企業の資産価値 (9) V U = 1 2 150+1 2 80 1.05 = 109.5 レバード企業の資産価値 負債価値 : D = 1 2 100+1 2 80 1.05 (10) V L = 85.7 + 23.8 = 109.5 (11) V U = V L MM 命題が成立 = 85.7, 株主資本の価値 : E = 1 2 50+1 2 0 1.05 = 23.8

19 12.6 財務的危機 完全資本市場においては, 財務的危機の可能性は負債を用いるデメリットとはならない 企業の資産の価値は変化しない (MM 命題 ) しかしながら, 現実の世界では, 財務的危機には, 様々な追加的な費用 ( 財務的危機費用 :Distress costs と呼ぶ ) がかかる 1 つは, 倒産手続き ( 破産法, 会社更生法, 民事再生法の手続き ) に直接かかわる法律コストや管理コストであり, もう 1 つは, 倒産手続きと直接的に関係ない間接的費用である 直接費用 : 法律や会計などの外部専門家に対する手数料や時間費用 間接費用 : 顧客や納入業者の信用の喪失, 従業員の損失 資産の投売りなど 間接費用は直接費用をはるかに超えると考えられている 摩擦が存在する資本市場 ( 不完全資本市場 ) では, 負債による資金調達には財務的危機費用 (Distress costs) が発生する

20 12.6 財務的危機 不完全市場における財務的危機の影響 例 3: アーミン社 [Berk, and DeMarzo, 2013, Corporate Finance, 16.1] 留意点 : 財務的危機の状態に陥ると, 財務的危機費用の将来価値として, 2,000 万ドル発生する 単位 :100 万ドル アンレバード企業 レバード企業 成功 (50%) 失敗 (50%) 成功 (50%) 失敗 (50%) 負債のFV( 将来価値 ) - - 100 60 株主資本のFV 150 80 50 0 資産のFV 150 80 150 60 レバード企業の FV は, アンレバード企業のそれより少ない FV の減少の一部 (2,000 万ドル ) は, 財務的危機によって発生する 負債による資金調達は, 資産の FV の減少をもたらす

21 12.6 財務的危機 不完全市場における倒産の影響 例 3 において, 無リスク利子率が 5%, アーミン社の FV は景気循環と無関係である このとき, アンレバード企業の資産価値 [ 営業価値 ](V U ) とレバード企業の資産価値 [ 営業価値 ](V L ) は? アンレバード企業の資産価値 (12) V U = 1 2 150+1 2 80 1.05 = 109.5 レバード企業の資産価値 負債価値 : D = 1 2 100+1 2 60 1.05 (13) V L = 85.7 + 23.8 = 100.0 = 76.2, 株主資本の価値 : E = 1 2 50+1 2 0 1.05 財務的危機に関する費用の価値 (PV of 財務的危機費用 ) は (14) PV of 財務的危機費用 = V U V L = 9.5 = 23.8

22 12.6 財務的危機 財務的危機費用 (DC) が存在する下でのレバード企業の資産価値 : (15) V L = V U PV of 財務的危機費用 PV of 財務的危機費用の決定要因 : 1 財務危機の発生確率 : 企業の負債額 (+) 企業が生み出すFCFや資産価値のリスク (+) 2 企業が財務的危機状況に陥ったときの費用 (Distress costs) の大きさ : 業種 ( 例えば, 人的資本, 非流動的な資産に依存している産業 ) 顧客, 納入業者, 従業員の損失による影響 (+) 3 危機費用に対する資本コスト高ベータ企業ほど低い資本コスト PV of 財務的危機費用

23 12.6 財務的危機 企業の価値 V L 図 12.2 V L = V U + PV of 支払利息節税枠 V U V L = V U PV of 財務的危機費用 0 D

12.7 最適資本構成 : トレードオフ理論 税の存在と財務的危機費用が存在する下で, レバード企業の資産価値 : (16) V L = V U + PV of 利払利息節税枠 PV of 財務的危機費用 24 PV of 財務的危機費用の大きさに依存大きくなるほど左にシフト ( 最適負債は小さくなる ) 最適負債水準