トランプ政権、税制改革案を公表

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1 1. 課税の非対称性 問題 1 年をまたぐ同一の金融商品 ( 区分 ) 内の譲渡損益を通算できない問題 問題 2 同一商品で 異なる所得区分から損失を控除できない問題 問題 3 異なる金融商品間 および他の所得間で損失を控除できない問題

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平成 27 年度税制改正要望項目 1. 働く者のより豊かな生活の実現に向けて (1) 企業年金等の積立金に対する特別法人税の撤廃 (2) 財形非課税限度額の引き上げ等 (3) 給与所得者に対する選択納税制度の導入 2. 損保グループ産業の健全な発展に向けて (1) 損害保険業に係る消費税制上の課題解

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(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

2. 改正の趣旨 背景の等控除は 給与所得控除とは異なり収入が増加しても控除額に上限はなく 年金以外の所得がいくら高くても年金のみで暮らす者と同じ額の控除が受けられるなど 高所得の年金所得者にとって手厚い仕組みとなっている また に係る税制について諸外国は 基本的に 拠出段階 給付段階のいずれかで課

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トランプ政権と共和党指導部は 税制改革の統一案を発表トランプ政権と共和党指導部は 9 月 27 日 税制改革の統一案を発表した ( 第 1 表 ) 所得税と法人税の税制改革は トランプ政権と共和党の当面の最優先政策課題となっている 今回発表された統一案は これまでトランプ政権と共和党が発表してきた内

握の問題 執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する 複数税率の導入について 財源の問題 対象範囲の限定 中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する 施策の実現までの間の暫定的及び臨時的な措置として 簡素な給付措置を実施する つまり 低所得者対策として 給付付き税額

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4. 附加価値への試みと挫折 現行事業税へ昭和 24 年 (1949 年 ) 第一次シャウプ勧告事業税の課税標準について 原料等 他の事業から購入したものの価値に その企業が附加したところの額である とし 課税標準を事業の所得によるのではなく 附加価値を採用すべきである旨勧告昭和 25 年 (194

注 1 認定住宅とは 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう 注 2 平成 26 年 4 月から平成 29 年 12 月までの欄の金額は 認定住宅の対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が 8% 又は 10% である場合の金額であり それ以外の場合における借入限度額は 3,000 万円とする

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所得控除 雑損控除 医療費控除 社会保険料控除等 旧生命保険料控除 旧個人年金保険料控除 ( 実質損失額 - 総所得金額等の合計額 10%) 又は ( 災害関連支出の金額 -5 万円 ) のうち いずれか多い方の金額医療費の実質負担額 -(10 万円と総所得金額等の 5% のいずれか低い金額 ) 限

目 次 最近における相続税の課税割合 負担割合及び税収の推移 1 地価公示価格指数と基礎控除(58 年 =100) の推移 2 最近における相続税の税率構造の推移 3 小規模宅地等の課税の特例の推移 4 相続税負担の推移( 東京都区部のケース ) 5 ( 補足資料 ) 相続税の概要 6 相続税の仕組

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予算編成、税制改革の動向-未だ詳細は不明。議会共和党からの支持が鍵だが、政策協調の可能性は低い。

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2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

平成 28 年度税制改正要望項目 1. 働く者のより豊かな生活の実現に向けて (1) 企業年金等の積立金に対する特別法人税の撤廃 (2) 財形非課税限度額の引き上げ等 (3) 給与所得者に対する選択納税制度の導入 2. 損保グループ産業の健全な発展に向けて (1) 火災保険等に係る異常危険準備金制度

Q1 法人事業税の負担変動の軽減措置とは どのような制度ですか? A. 平成 27 年度税制改正により導入された 外形標準課税の拡大 ( 所得割の税率引き下げ及び付加価値割 資本割の税率引き上げ ) によって生じる税負担の変動の影響を緩和する措置で 付加価値額が一定以下の法人を対象に税負担の増加につ

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Transcription:

税制 A to Z 2017 年 5 月 10 日全 5 頁 トランプ政権 税制改革案を公表 ニューヨークリサーチセンター主任研究員鳥毛拓馬 [ 要約 ] 2017 年 4 月 26 日 ( 米国時間 ) トランプ政権は税制改革案を公表した 連邦所得税及び連邦法人税共に 米国史上最大の税制改革と銘打っており ほぼ減税項目ばかりが並ぶ内容となった ただし トランプ大統領が選挙期間中に主張していたものより簡素な内容となっている 今後 5 月に公表される予定の予算教書に盛り込まれるであろう税制改革案の詳細を見なければ その評価は難しい 個人の連邦所得税に対する改革案については 最高税率を現行の 39.6% から 35% に引き下げ 税率構造 ( ブラケット ) を現行の 7 段階から 10% 25% 35% の 3 段階にして簡素化するとともに 基礎控除を 2 倍にするとしている 連邦法人税については 世界で最も高いとされる現行の 35% から 世界で最も低いとされる 15% に引き下げるとしており パススルー事業体に対する課税についても 同様に 15% に引き下げるとしている なお 税制改革案には 共和党が主張するいわゆる法人税の国境調整 (border adjustment) は盛り込まれていない ただ これをもって国境調整の導入がなくなったと考えるのは尚早である 今後 共和党が提出する税制改革案に わが国企業にも影響がある国境調整が盛り込まれる可能性もあり 引き続き注視しなければならない 1. 税制改革の目的 2017 年 4 月 26 日 ( 米国時間 ) トランプ政権は税制改革案を公表した 1 連邦所得税及び連邦法人税共に 米国史上最大の税制改革と銘打っており ほぼ減税項目ばかりが並ぶ内容となっている ただし トランプ大統領が選挙期間中に主張していたものより簡素な内容となってい 1 ホワイトハウスウェブサイト Briefing by Secretary of the Treasury Steven Mnuchin and Director of the National Economic Council Gary Cohn https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/04/26/briefing-secretary-treasury-steven-mnuchinand-director-national 株式会社大和総研丸の内オフィス 100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号グラントウキョウノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが その正確性 完全性を保証するものではありません また 記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります 大和総研の親会社である 大和総研ホールディングスと大和証券 は 大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です 内容に関する一切の権利は 大和総研にあります 無断での複製 転載 転送等はご遠慮ください

2 / 5 る 今後 5 月に公表される予定の予算教書に盛り込まれるであろう税制改革案の詳細を見なければ その評価は難しい いわゆるハネムーン期間といわれる 大統領就任 100 日間終了を目前にして 税制改革について何ら実績がないという批判を防ぐため 詳細を詰めきれないうちに税制改革案を公表した感が否めない そもそも 税制改正の権限は議会にあることからすれば 今回の改革案は あくまでトランプ政権の考え方を示す たたき台 にすぎないものといえる ( もっとも 改革案公表前には 議会共和党とすり合わせが行われたもようであり 実際に 共和党が従来主張してきた案も 今般の改革案には盛り込まれている ) 税制改革案では 改革の目的として以下 4 点を掲げている これらの内容は トランプ大統領が選挙期間中から主張してきた内容であり 特段目新しいものではない 図表 1 税制改革の目的 経済を成長させ 数百万の雇用を創出する 複雑な税法を簡素化する 米国民 特に中間層に対して税制上の恩典を与える 世界で最も高い法人税率を 世界で最も低い法人税率に引き下げる ( 出所 ) ホワイトハウス資料より大和総研作成 2. 個人の税制 ( 連邦税 ) 改革 個人に対する税制 ( 連邦税 ) 改革案については ほとんどが減税項目となっている 具体的には 連邦所得税の最高税率を現行の 39.6% から 35% に引き下げるとしている また 税率構造 ( ブラケット ) については 現行の 7 段階から 10% 25% 35% の 3 段階にし 簡素化するとしている 最高税率については トランプ大統領が選挙期間中に主張していた 33% よりは高い税率となっている 2 もっとも 今回の改革案では 単に新たな税率のみを示しているにすぎず それぞれの税率が適用される具体的な課税所得金額については示されていない 基礎控除 (standard deduction) については 現行の 2 倍にするとしており 夫婦合算の場合 24,000 ドルにするとしている 子供と被扶養者のケア費用がかかった世帯に対しては 税負担を軽減 するとしているにすぎず 共和党が主張している現行の税額控除制度を拡大することを想定しているのか それとも トランプ大統領が主張していた新たな所得控除制度なのかについては 現段階では不明で 2 トランプ大統領の選挙直後の所得税改革案については 是枝俊悟 トランプ氏の税制改革案 所得税編米国は所得税の再分配機能を弱める方向に (2016 年 11 月 29 日付大和総研レポート ) を参照 http://www.dir.co.jp/research/report/law-research/tax/20161129_011449.html

3 / 5 ある 税制の簡素化の観点から 富裕層の納税者に専ら有利になるような税制措置は廃止するとしているが 具体的な富裕層の定義についての言及はない 項目別控除については 住宅ローン金利及び寄附金 退職貯蓄控除以外の 例えば 州税 地方税や医療費の控除は廃止するとしているものの それ以外の所得控除や税額控除がどのような扱いとなるかについては触れられていない さらに 代替ミニマム税 3 (Alternative Minimum Tax:AMT) 及び遺産税についても廃止するとしている 米国への投資を促進すべく 長期キャピタル ゲイン及び配当に対する 3.8% の純投資所得税 4 を廃止するとしている この改革案が実現すると 長期キャピタル ゲイン及び配当に対する最高税率は現行の 23.8% から 20% に変更となる 図表 2 個人の税制 ( 連邦税 ) 改革案 現行制度 改革案 最高税率 39.6% 35% 税率構造 ( ブラケット ) 10% 15% 25% 28% 33% 35% 39.6% の 7 段階 10% 25% 35% の 3 段階 基礎控除 12,600 ドル ( 夫婦合算 ) 24,000 ドル ( 夫婦合算 ) 子供 被扶養者のケア費用 項目別控除 税額控除 (20-35%) 州税 地方税 医療費など 税負担の軽減 住宅ローン金利 寄附金 退職貯蓄控除以外は廃止 代替ミニマム税高額所得者に対する節税防止措置廃止 18%~40%(12 段階 ) 遺産税 配偶者 : 免税 基礎控除 :549 万ドル (2017 年 ) 廃止 純投資所得税 3.8% 廃止 ( 出所 ) ホワイトハウス資料などを基に大和総研作成 3 所得控除や税額控除等を過度に利用した節税防止措置 納税者は通常の税額計算とは別に 代替ミニマム税において認められた控除などを適用して税額を計算し その税額が通常の計算での税額を上回る場合に 上回る金額を代替ミニマム税として納付するもの 4 いわゆるオバマケアの財源確保のために課税されているものであり 純投資所得 ( 利子 配当 キャピタル ゲインなど ) あるいは一定金額 ( 夫婦合算申告 250,000 ドル 夫婦個別申告 125,000 ドル 単身者 200,000 ドル ) を超えた調整後総所得金額のいずれか少ない金額に対して 3.8% の税率を掛けて計算する

4 / 5 3. 連邦法人税制改革 連邦法人税率については 世界で最も高いとされる現行の 35% から 世界で最も低いとされる 15% に引き下げるとしている また パススルー事業体に対する課税についても 同様に 15% に引き下げるとしている また 米国企業の国際競争力を確保する観点からテリトリアル課税 ( 源泉地国課税 ) を採用するとしている これは いわゆる国外所得免除方式という考え方であり 所得の源泉地国でのみで課税されるというものである 米国では 全世界所得課税が採用されているものの 所得の発生時ではなく 米国外子会社が得た所得が配当として米国親会社に還流された時点で課税されるという仕組みを採っている すなわち 所得の源泉地国と米国とで二重に課税 5 される 米国企業はこれを回避するため 子会社が得た所得を親会社に配当しない傾向にあるとされ 2 兆ドル超の利益が海外に留保されているといわれる そこで この留保されている利益を米国内に還流させるべく テリトリアル課税を導入することを目指しているものと思われる もっとも テリトリアル課税の制度設計の詳細は不明である 一方 税制改革案では 海外に留保されている利益に対して 1 回限りの課税を行うとしている これは 税収確保のため これまで米国企業が留保してきた海外子会社の利益に対して課税するものと考えられる ただし その具体的な税率については言及されていない さらに 各種優遇税制も廃止するとしている ただし 廃止しようとする具体的な優遇税制については言及されていない なお 税制改革案には 共和党が主張する法人税の国境調整 6 (border adjustment) は盛り込まれていない ただ これをもって国境調整の導入がなくなったと考えるのは尚早である 今後 共和党が提出する税制改革案に わが国企業にも影響がある国境調整が盛り込まれる可能性もあり 引き続き 注視しなければならない 5 このような国際的な二重課税を排除するため 米国内で納付すべき税額から米国外で納付した税額を控除する外国税額控除制度が設けられている 6 国境調整の詳細については 神尾篤史 米国の法人所得税改革案 実現すれば劇的な変化が起きる (2017 年 3 月 2 日付大和総研レポート ) を参照 http://www.dir.co.jp/research/report/japan/mlothers/20170302_011783.html

5 / 5 図表 3 連邦法人税制改革案 現行 改革案 連邦法人税率 35% 15% パススルー事業体に対する税率 法人 (35%) 個人 (39.6%) 15% 米国外子会社に対する課税 米国外子会社留保利益への課税 全世界所得課税 ただし 子会社配当については 米国親会社に配当された段階で課税 米国内に還流されなければ原則として 非課税 ( ) テリトリアル ( 源泉地主義 ) 課税 1 回限り課税 ( ) いわゆるタックス ヘイブン対策税制 (controlled foreign corporation:cfc 税制 ) により 留保利益について課税される場合がある ( 出所 ) ホワイトハウス資料などを基に大和総研作成 4. 今後の見通し トランプ政権は 5 月中にステークホルダーから税制改革に関する意見聴取を行うとしている その後 上下院の協力の下 大規模な減税を提供し 雇用を創出し 米国の競争力を強化する税制改革案の詳細を定め 上下院の法案の通過を目指すとしているものの 具体的な時期については言及していない 今後については まずは 5 月に公表される予定の予算教書に 上記の意見聴取を踏まえた税制改革案が盛り込まれる可能性がある もっとも 具体的な税制改正の権限は議会にあり トランプ大統領も議会との交渉によっては今回示した税制改革案の一部を削除する意思があると述べており ( もっとも具体的な内容については述べていない ) 引き続き 税制改革に関するトランプ政権及び議会の動きに注目する必要があろう