Microsoft Word - IFRS news JulyAugust IFRS 3R and IAS 27Rrr.doc

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IFRS第3号「企業結合」修正案及びIAS第27号「連結及び個別財務諸表」修正案に対する

1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

IFRS基礎講座 IAS第11号/18号 収益

無断複写 転用 転記を禁じます 国際財務報告基準 (IFRS) 連結財務諸表シリーズ シリーズ <5>IAS 第 31 号 ジョイント ベンチャーに対する持分 ( 平成 22 年 7 月 31 日現在 ) 1. ジョイント ベンチャーの対する持分 ( 総論 ) 本シリーズでは ジョイント ベンチャー

1. 国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 抜粋 翻訳 ) 国際財務報告基準に準拠した財務諸表の作成方法について当行の国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 以下 IFRS 財務諸表 という ) は 平成 27 年 3 月末時点で国際会計基準審議会 (IAS B) が公表している基準及び解釈指針に

念.pwd

IFRS基礎講座 IAS第37号 引当金、偶発負債及び偶発資産

日本基準基礎講座 資本会計

2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

スライド 1

従って IFRSにおいては これらの減価償却計算の構成要素について どこまで どのように厳密に見積りを行うかについて下記の 減価償却とIFRS についての説明で述べるような論点が生じます なお 無形固定資産の償却については 日本基準では一般に税法に準拠して定額法によることが多いですが IFRSにおい

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03-08_会計監査(収益認識に関するインダストリー別③)小売業-ポイント制度、商品券

平成29年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

IFRSにおける適用上の論点 第27回

平成 29 年度連結計算書類 計算書類 ( 平成 29 年 4 月 1 日から平成 30 年 3 月 31 日まで ) 連結計算書類 連結財政状態計算書 53 連結損益計算書 54 連結包括利益計算書 ( ご参考 ) 55 連結持分変動計算書 56 計算書類 貸借対照表 57 損益計算書 58 株主

コニカミノルタ ( 株 ) (4902) 2019 年 3 月期決算短 4. 連結財務諸表及び主な注記 (1) 連結財政状態計算書 資産 流動資産 前連結会計年度 (2018 年 3 月 31 日 ) ( 単位 : 百万円 ) 当連結会計年度 (2019 年 3 月 31 日 ) 現金及び現金同等物

野村アセットマネジメント株式会社 平成30年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

新しい連結基準 IASBは グループの連結に係る問題およびオフバランスシート活動について取り扱っている以下の5 つの新基準を公表しました IFRS 第 10 号 連結財務諸表 IFRS 第 11 号 ジョイント アレンジメント IFRS 第 12 号 他の企業に対する持分の開示 IAS 第 27 号

IASB、IFRS第16号「リース」を公表

Microsoft Word - Q&A 第22回 2892号2008年11月08日.doc

念.pwd

2018 年 8 月 10 日 各 位 上場会社名 エムスリー株式会社 ( コード番号 :2413 東証第一部 ) ( ) 本社所在地 東京都港区赤坂一丁目 11 番 44 号 赤坂インターシティ 代表者 代表取締役 谷村格 問合せ先 取締役 辻高宏

野村アセットマネジメント株式会社 2019年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

新旧対照表(計算書類及び連結計算書類)

連結貸借対照表 ( 単位 : 百万円 ) 当連結会計年度 ( 平成 29 年 3 月 31 日 ) 資産の部 流動資産 現金及び預金 7,156 受取手形及び売掛金 11,478 商品及び製品 49,208 仕掛品 590 原材料及び貯蔵品 1,329 繰延税金資産 4,270 その他 8,476

日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

第 298 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (2)-4 DT 年 10 月 23 日 プロジェクト 項目 税効果会計 今後の検討の進め方 本資料の目的 1. 本資料は 繰延税金資産の回収可能性に関わるグループ 2 の検討状況を踏まえ 今 後の検討の進め方につ

IASB、最終版のIFRS第9号「金融商品」を公表

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IFRS_14_03_12_02const.indd

適用時期 5. 本実務対応報告は 公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する ただし 平成 28 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には 当該事業年度に本実務対応報告を適用することができる 議決 6. 本実務対応報告は 第 338 回企業会計

IFRS 新リース会計基準 公開草案の概要 社団法人リース事業協会 本稿は 国際会計基準審議会 (IASB) 及び米国財務会計基準審議会 (FASB) が 2010 年 8 月 17 日に公表した公開草案 リース ( 以下 リース ED という ) の概要である リース ED の原文は英語であるが

平成 30 年 4 月 24 日 各 位 会社名楽天株式会社 代表者名代表取締役会長兼社長三木谷浩史 ( コード :4755 東証第一部 ) 連結子会社 ( 楽天証券株式会社 ) の決算について 当社連結子会社の楽天証券株式会社 ( 代表取締役社長 : 楠雄治 本社 : 東京都世田谷区 以下 楽天証

[2] のれんの発生原因 企業 ( または事業 ) を合併 買収する場合のは 買収される企業 ( または買収される事業 ) のおよびを 時価で評価することが前提となります またやに計上されていない特許権などの法律上の権利や顧客口座などの無形についても その金額が合理的に算定できる場合は 当該無形に配

念.pwd

新日本有限責任監査法人東京都千代田区内幸町二丁目 2 番 3 号日比谷国際ビル Tel: Fax: 年 5 月 9 日 公表されているが 未だ適用されていない米国会計基準の一覧 (

会計上異なる結果が生じる可能性があるとしていま す イセンス付与に関しても 約定の性質の定義に係る ガイダンス等 IASB がの必要なしと決定した論 点についてを加えています 両審議会は 以下の論点については同じ修正を行っています a. 履行義務の識別 b. 本人か代理人かの検討 c. 売上高ベース

085 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 新株予約権 少数株主持分を株主資本に計上しない理由重要度 新株予約権を株主資本に計上しない理由 非支配株主持分を株主資本に計上しない理由 Keyword 株主とは異なる新株予約権者 返済義務 新株予約権は 返済義務のある負債ではない したがって

日本基準基礎講座 収益

株式会社 2019 年 5 月 13 日山陰合同銀行 自己資本の構成に関する開示事項 (2019 年 3 月期自己資本比率 ) 1. 自己資本の構成 連結 ( 単位 : 百万円 %) 項目 当四半期末 経過措置による不算入額 前四半期末 経過措置による不算入額 コア資本に係る基礎項目 (1) 普通株

IFRS 第 15 号の定めの表現の置換え 4. 下表では IFRS 第 15 号の基準本文 ( 適用指針を含む ) の日本語訳を左の列に示し 表現を見直した文案を右の列に示している (1) 表に用いられている色は 以下を表す ( ) は IFRS 第 15 号における項番号を表す 青色 : 企業会

連結会計入門 ( 第 6 版 ) 練習問題解答 解説 練習問題 1 解答 解説 (129 頁 ) ( 解説 ) S 社株式の取得に係るP 社の個別上の処理は次のとおりである 第 1 回取得 ( 平成 1 年 3 月 31 日 ) ( 借 )S 社株式 48,000 ( 貸 ) 現預金 48,000

修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)の公開草案の概要

マツダ株式会社

IASB Update 2019 年 4 月 IASB Update は 国際会計基準審議会 ( 審議会 ) の予備的決定を示している IFRS 基準 修正及び IFRIC 解釈指針に関する審議会の最終的な決定は IFRS 財団及び IFRS 解釈指針委員会 デュー プロセス ハンドブック に示され

(訂正・数値データ訂正)「平成25年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について

有償ストック・オプションの会計処理が確定

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平成 30 年 3 月末 負債の時価評価により生じた時価評価差額であって自己資本に算入される額 退職給付に係る資産の額 15,162 3,790 5,815 3,877 自己保有普通株式等 ( 純資産の部に計上されるものを除く ) の額 意図的に保有している他の金融機関等の対象資本

リコーグループサステナビリティレポート p

IFRSへの移行に関する開示

審議事項 (2) 年 7 月 ASBJ/EFRAG のスタッフがのれんと減損に関する定量的調査の付属資料として作成した付録付録 1: 定量的調査の概要付録 2: 主要なデータ セット 参考訳 財務会計基準機構の Web サイトに掲載した情報は 著作権法及び国際著作権条約をはじめ


平均株価は 東証が公表する当該企業普通株式の終値の算術平均値を基準とした値とする 調整取引の結果 経済的には自社株を平均株価で取得したのと同様の結果となる 企業は株価上昇時の支払いのために 証券会社に新株予約権を割り当てる ステップ 3 : 株価上昇時は 新株予約権が権利行使され 差額分に相当する株


(訂正・数値データ訂正)「平成30年4月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について

参考資料 日本語粗訳 このペーパーは IASB による公開会議での討論のために IFRS 財団のスタッフによって作られたものであり IASB または IASB のメンバー個人の見解を表していているものではありません IFRS の適用に関するコメントは それが受け入れ可能な見解であるか否かを定める目的

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の概要

営 業 報 告 書

IFRS 第 11 号および IFRS 第 12 号は 不動産業界におけるジョイント アレンジメントの会計処理について重要な影響を及ぼす可能性がある ジョイント アレンジメントは 例えば リスクの共有 資金調達 付加的な専門的ノウハウを取り入れる手段といった様々な理由により 不動産業界では一般的であ

ならないとされている (IFRS 第 15 号第 8 項 ) 4. 顧客との契約の一部が IFRS 第 15 号の範囲に含まれ 一部が他の基準の範囲に含まれる場合については 取引価格の測定に関する要求事項を設けている (IFRS 第 15 号第 7 項 ) ( 意見募集文書に寄せられた意見 ) 5.

第4期電子公告(東京)


新しい収益認識基準が収益以外に及ぼす影響

平成 29 年 6 月末 負債の時価評価により生じた時価評価差額であって自己資本に算入される額 退職給付に係る資産の額 6,274 4,182 5,815 3,877 自己保有普通株式等 ( 純資産の部に計上されるものを除く ) の額 意図的に保有している他の金融機関等の対象資本調達

平成28年度 第144回 日商簿記検定 1級 会計学 解説

負債の時価評価により生じた時価評価差額であって自己資本に算入される額 退職給付に係る資産の額 5,815 3,877 自己保有普通株式等 ( 純資産の部に計上されるものを除く ) の額 9 6 意図的に保有している他の金融機関等の対象資本調達手段の額 少数出資金融機関等の対象普通株式等の額 特定に係


(2) サマリー情報 1 ページ 1. 平成 29 年 3 月期の連結業績 ( 平成 28 年 4 月 1 日 ~ 平成 29 年 3 月 31 日 ) (2) 連結財政状態 訂正前 総資産 純資産 自己資本比率 1 株当たり純資産 百万円 百万円 % 円銭 29 年 3 月期 2,699 1,23

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CC2: 連結貸借対照表の科目と自己資本の構成に関する開示項目の対応関係 株式会社三井住友フィナンシャルグループ ( 連結 ) 項目 資産の部 イロハ 公表連結貸借対照表 (2019 年 3 月末 ) 現金預け金 57,411,276 コールローン及び買入手形 2,465,744 買現先勘定 6,4

科目 期別 損益計算書 平成 29 年 3 月期自平成 28 年 4 月 1 日至平成 29 年 3 月 31 日 平成 30 年 3 月期自平成 29 年 4 月 1 日至平成 30 年 3 月 31 日 ( 単位 : 百万円 ) 営業収益 35,918 39,599 収入保証料 35,765 3

CL23 PwCあらた監査法人 平成 28 年 5 月 31 日 企業会計基準委員会御中 PwC あらた監査法人品質管理本部アカウンティング サポート部 収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集 に対するコメント 拝啓時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます さて 貴委員会から

念.pwd

添付資料の目次 1. 連結財務諸表 2 (1) 連結貸借対照表 2 (2) 連結損益計算書及び連結包括利益計算書 4 (3) 連結財務諸表に関する注記事項 6 ( セグメント情報等 ) 6 2. 個別財務諸表 7 (1) 個別貸借対照表 7 (2) 個別損益計算書

計 算 書 類

日本基準基礎講座 退職給付

別添質問に対する回答質問 1 Tax Basis( 税務基準額 ) 及び Temporary Difference( 一時差異 ) の定義について本公開草案では Tax Basis( 税務基準額 ) の定義を変更することを提案しており これにより Tax Basis が資産の回収や負債の決済について

10年分の主要財務データ

新収益認識基準に関するFASB及びIASBの改訂案

平成 22 年 4 月 1 日現在の法令等に準拠 UP!Consulting Up Newsletter 無対価での会社分割 バックナンバーは 当事務所のホームページで参照できます 1

包括利益の表示に関する会計基準第 1 回 : 包括利益の定義 目的 ( 更新 ) 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめに企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 以下 会計基準 ) が平成 22 年 6 月 30 日に

Microsoft Word - IFRSコラム原稿第2回 H doc

Transcription:

IFRS news supplement July/August 2009 IFRS 第 3 号改訂版および IAS 第 27 号改訂版 Q&A 企業結合および連結に関する改訂基準 (IFRS 第 3 号 ( 改訂版 ) IAS 第 27 号 ( 改訂版 )) により 企業結合および非支配持分との取引に関する会計処理が大幅に変更されます これらの変更により複数の課題が発生し 経営者が交渉や取引の組み立て方法が変わる可能性があります 今回の IFRS news supplement は 当該改訂基準に関する Q&A シリーズの第一回目となります 今回の連載では のれんに影響を与える 資産 負債の認識および測定 また対価の測定に係る変更について考察します 包括利益計算書 キャッシュ フロー計算書の開示や 非支配持分との取引に関連するその他のトピックについては今後の連載で取扱う予定です 当該改訂基準に関する全面的な考察は PricewaterhouseCoopers の Global Guide to Accounting for Business Combinations and Noncontrolling Interests( 企業結合および非支配持分の会計処理に関するグローバル ガイド ) と IFRS Manual of Accounting ( IFRS 会計マニュアル ) に掲載しています 資産および負債 当該基準の改訂により 取得貸借対照表における資産 負債の認識および測定にいくつかの変更が加えられました 被取得企業の全ての識別可能資産 負債の認識を行う現行規定は継続され ほとんどの資産 負債が公正価値で認識されます 注意が必要なのは リストラ費用関連 ならびに被取得企業の年金制度 補償資産および競業禁止契約の修正です リストラ費用および被取得企業の年金制度の修正 多くの企業結合では 被取得企業の大規模リストラや 被取得企業の株式報酬制度や従業員給付制度の変更が即座に行われます 当該改訂基準には 被取得企業の株式報酬制度の変更に対応する特別のガイダンスが含まれており これは買収契約によりもたらされた変更を含みます 取得企業が被取得企業の株式報酬制度を置換える義務を有する場合 その置換えられる報酬制度を市場に基づき測定し その全てまたは一部を対価の測定に含める必要があります 取得企業がその義務を有するのは 従業員に株式報酬制度を置換えを主張する資格がある場合です これは たとえば 買収契約条項により置換えが求められる場合や 当該株式報酬制度自体に 既存の 支配権の移動にかかわる条項 (change of control clause) が含まれ置換えが求められる場合などに生じます IFRS 第 3 号 ( 改訂版 ) の株式報酬に関するガイダンスを類推適用して 取得企業が被取得企業の年金制度の修正を行う義務や リストラ計画を実施する義務自体を自らに課すことができるのか また これに従い関連債務を取得会計の一部として含めることができるのかという疑問が生じています 以下の Q&A は これらの状況を取り扱います 1. 確定給付年金制度の改訂による債務に関して 当該改訂が買収契約書に記載されており 取得企業の義務とみなされる場合は 当該債務を企業結合の購入対価に含めることができるか? 買収契約書に記載される年金制度の改訂は 一般的には企業結合とは別に取扱われます IFRS 第 3 号 ( 改訂版 )51-52 項では 企業結合の一部でない複数の取引について たとえ当該取引が企業結合と同時に締結された場合であっても 別個に会計処理することを求めています 52 項では 主に取得企業に対して便益をもたらす取引は 別の取引となる可能性があると明記しています また 将来の勤務に対する取得企業の従業員への報酬についても 個別の取引として取扱うことを示唆しています 1

取得企業は一般的に 自社の便益のために年金制度の改訂を行います また通常 当該改訂は従業員の将来の勤務に関連するため 将来の報酬費用の調整として計上する必要があります B50 項には 何が企業結合の一部であるのかを判断する際の検討要因について更なる解釈指針が記載されています 年金制度の改訂を企業結合と別に取扱うことは IFRS 第 3 号 ( 改訂版 ) における株式報酬制度の置換えに関するアプローチと理論的に整合しています 対価には 置換えられた報酬のうち受給権が確定している部分の公正価値が含まれます このような取扱いが行われるのは 当該権利確定部分が株主としての従業員の行為に関連するものだからです ただし 権利確定していない部分の公正価値は 従業員の将来の勤務に関連するため 将来の報酬費用となります 同様に 改訂した年金制度は従業員の将来の勤務に関連します 2, リストラ活動が買収契約書に記載されており 取得企業の義務とみなされる場合は リストラ費用を企業結合の購入対価に含めることができるか? IFRS 第 3 号 ( 改訂版 )11 項には リストラ費用の取扱いに関する明確な記載があり 全てのリストラ費用を取得後の費用として取扱うことになることを前提としています これらの費用は 経営者の義務よりも経営者の意図により生じます また 買収契約書の中にリストラ計画を含んでいたとしても 取得日に被取得企業の負債が生じることはないためです リストラ引当金については 当該引当金が取得日時点において被取得企業の負債である場合にのみ 被取得企業の負債として計上することが可能となります これは 計画したリストラが企業結合以前に IAS 第 37 号における被取得企業の推定的債務の条件を満たし かつ 取得企業の便益のために行われなかった場合にのみ生じます 取得企業の便益のために行われた場合は 経営者は当該リストラを別個の取引として会計処理しなければなりません 補償資産 (Indemnification assets) 企業結合において 売手が契約上取得企業に対して 特定の資産または負債 ( 補償項目 ) の全てまたは一部に関連する偶発性や不確実性の結果に関して補償する場合があります 取得企業は IFRS 第 3 号 ( 改訂版 )27 項に従い 補償項目の認識と同時に 補償項目と同一の基準で測定された補償資産を認識します 以下は 当該改訂基準における補償会計の適用に関する Q&A です 1. 補償資産会計を一般的な表明および保証条項に適用することは可能であるか? 補償資産会計は 特定の資産 負債に関連する偶発性や不確実性の結果に関する補償契約にのみ適用されます 当ガイダンスは通常 一般的な表明および保証条項には適用されません 2. 補償項目が取得日または測定期間中に認識されていない場合 補償資産会計は IFRS 第 3 号 ( 改訂版 ) のガイダンスに準拠するか? 当該補償は取得資産または引受負債に係る場合や 取得日に認識されないものである場合があります たとえば 公正価値が取得日に信頼性をもって測定できないために 補償が取得日に認識されない偶発負債に関連する場合があります この場合 補償資産も取得日には認識されません むしろ当該補償資産は補償項目と同時に認識し 回収可能性や補償金額に係る契約上の制約に従い 補償項目と同一の基準で測定します これは 取得日であるか または 測定期間中や測定期間後であるかに係らず 補償項目を認識する際には常に適用されます 3. 補償会計を適用するために 補償契約を買収契約書の中に明記する必要があるか? 補償契約が個別契約に基づく場合であっても 補償会計を適用できます また 当該契約が取得日に締結されたもので これが取得企業と売手間で締結された契約で かつ 企業結合の一部である特定の偶発性や不確実性に基づくものである限り 補償会計が適用されます 2

競業禁止契約 (Non-compete agreements) 競業禁止契約とは一般的に 企業の前所有者や主要な従業員がビジネスの競合となることを禁止する契約です 当該契約は通常 支配の変更後または雇用の終了後から開始する特定期間を対象とします 競業禁止契約は 投資管理など主要顧客との関係が極めて重要なサービス事業で最も普及しています 以下の Q&A では 企業結合時に締結した競業禁止契約の会計処理を取り扱います 1. 競業禁止契約は 企業結合の一部または個別の取引として取扱うか? 企業結合時に設定された競業禁止契約は これが取得企業または取得企業の代理人により締結された場合 または 主に取得企業の便益のために締結された場合には 一般的に個別の取引として認識されます (IFRS 第 3 号改訂版 52 項 ) 企業結合の一部として交渉される競業禁止契約は通常 取得企業および結合後企業の利益を守るために取得企業により行われます 競業禁止契約が 企業結合以前に締結された雇用契約や株主間契約の一部である場合は 当該契約は被取得企業の無形資産となる場合があります 2. 個別に取扱われる競業禁止契約の会計処理は? 競業禁止契約は一般的に 資産取得に係る契約上の規定やその他の法律上の権利規定を満たすことにより IAS 第 38 号における無形資産として個別に認識するための要件を満たします この場合の会計処理については 下記質問 3 を参照下さい ただし 結合後企業は 競業禁止の結果として行われる支払いが 実際に IAS 第 19 号に基づき会計処理される将来の勤務に対する報酬なのか検討する必要があります 被取得企業での一定期間の雇用後に結果として支払いが行われる 競業禁止 は 通常 報酬の要素を含みます 3. 無形資産として認識する競業禁止契約のその後の会計処理は? 通常 競業禁止契約には期限があり 資産の償却が求められます 償却期間には競業禁止契約による便益が生じる期間を反映します 当該期間の決定は判断を要する事項であり 契約の法的強制力への制約を含む全ての条件の検討が必要となります 減価償却は通常 定額法で行われます 対価およびのれんの測定 当該改訂基準では譲渡対価の測定方法の変更について紹介しています 譲渡対価の測定には変更があるものの のれんは引続き残余とされるため 改訂基準により異なる残余金額が生じる可能性があります 最も重要な差異の一つは 改訂基準での条件付対価の取扱いにより生じる可能性があります また 譲渡対価やのれんの金額に影響を及ぼすことになる説明が IASB によって行われてています 条件付対価 (Contingent consideration) 分類 条件付対価は その支払可能性が高いかどうかに係らず取得日に公正価値で認識および測定されます 条件付対価は譲渡対価に含まれるため 取得日ののれんの金額に影響を与えます ただし取得日以降の会計処理は 条件付対価が資産 負債または持分商品のどれに分類されるかにより異なります また 取得日以降の会計処理はのれんに影響を与えません 以前は 条件付対価は支払可能性が高い場合にのみ認識され 取得日以降の条件付対価の変動は のれんの調整として計上されていました 当該改訂基準では 負債に分類される条件付対価は 各報告日に損益計算書を通じて公正価値で再測定されます 資本に分類される条件付対価は 翌期以降 再測定されません 当該改訂基準の課題の一つが 株式により決済される条件付対価契約の分類を 負債および資本のどちらにするのかという判断です 以下は この課題に関する Q&A です 3

1. 株式決済される条件付対価はいつ負債として分類するか? 発行される株式数が変動する場合 負債の分類が求められます (IAS 第 32 号 11 項 ) 以下は 株式数が変動するために一般的に負債に分類される契約の特徴です 固定金額の支払い ( 特定金額の支払いのために調整される発行株式数 ) 複数の業績目標 累積的な業績目標 以下に 負債に分類される契約についての例を 2 つ提示します 例 1: 業績目標とする純利益 C100(C: 任意の通貨 ) が 1 年目に達成される場合 100 株が追加発行される または 最低業績目標の純利益 C75 に対して 比例した株式数が発行される 複数ある業績目標 (C75 から C100 の範囲の内の ) どの数字が達成されるかにより 発行される株式数が変動するため 負債として分類される 例 2: 結合後企業の株価 C50 が達成された場合 株価 C100 の株式が追加発行される 株価 C100 で発行される株式数が変動するため 負債として分類される 2. 株式決済される条件付対価はいつ資本として分類するか? 固定数の株式が発行される場合 条件付対価は資本に分類されます (IAS 第 32 号 16 項 ) 以下は一般的に資本に分類される契約の特徴です 契約条件に固定数の株式発行が明記されたもの 全ての株式が発行されるか または 株式が全く発行されないもの ( 契約には発行される株式数が変動する旨の記載がない ) 株式発行の決定に単一の業績目標が用いられる 以下に 資本に分類される契約についての例を 2 つ提示します 例 1: 業績目標である純利益 C100 が 1 年目に達成される場合 100 株が追加発行される 当該業績目標が達成されなかった場合は 株式の追加発行は行われない 4

単一の業績目標が達成された場合 固定数の株式 (100 株 ) が発行される 当該業績目標が達成されなかった場合は 株式が発行されないため資本として分類される 例 2: 一株当たりの目標株価 C100 が 1 年目末までに達成される場合 100 株が追加発行される 当該目標株価が達成されなかった場合は 株式の追加発行は行われない もし単一の業績目標が達成された場合は 固定数の株式 (100 株 ) が発行される 業績目標が達成されなかった場合は 株式は発行されない 従って この場合は資本に分類される 資本分類に必要な特性が存在すれば 市場における業績目標 ( 株価 ) の使用が資本分類の妨げになることはない 3. 複数の業績目標のある契約は資本に分類できるか? 複数の業績目標がある場合でも資本への分類は可能ですが 契約の特性について慎重な分析が必要となります 各業績目標が個別のもので 他の業績目標から独立しており かつ 累積的でない場合には複数の業績目標を含む契約を資本に分類することが可能となります 個別の独立した業績目標は 他の全ての目標から独立したリスクを有しなければなりません ( つまり 1 年目のリスクは 2 年目のリスクとは別で 独立したものである必要があります ) これらの種類の契約によって 各目標に関して固定数の株式が発行され それぞれ資本として分類されます 以下は 各年度の業績目標と関連リスクが個別であり 累積的でないと見なされるため資本に分類される 複数の業績目標を有する契約の例です 資本へ分類される場合 : 業績目標である純利益 C100 が 1 年目に達成される場合 100 株が追加発行される 当該業績目標が達成されなかった場合は 株式の追加発行は行われない 業績目標である純利益 C150 が 2 年目に達成される場合 (1 年目の目標が達成されたかどうかに係らず ) 120 株が追加発行される 当該業績目標が達成されなかった場合は 株式の追加発行は行われない 上記とは対照に 以下は負債に分類される複数の業績目標のある契約の例です 当該目標は累積的で 2 年目の目標達成に係る内在リスクが 1 年目のリスクに左右される例です これは 1 年目と 2 年目で実質的に 2 つの個別の独立契約を有する 資本に分類される例とは異なります 負債へ分類される場合 : 業績目標である純利益 C100 が 1 年目に達成される場合 80 株が追加発行される 当該業績目標が達成されなかった場合は 株式の追加発行は行われない 業績目標である累積純利益 C180 が取得日から 2 年目に達成される場合 100 株が追加発行される 当該業績目標が達成されなかった場合は 株式の追加発行は行われない 5

4. 業績目標の期間の長さは分類に影響を与えるか? 条件付対価契約には 通常 年次の業績目標が含まれます ただし 適切に明示された場合には 一年超もしくは一年未満の期間が用いられる場合があり 各期および各目標が他の期間および目標から独立している場合は 資本に分類される可能性があります ただし 一年未満の期間を用いることが 実質的に発行される株式数の変動や負債契約につながるかどうかを確かめるために判断が必要となります 条件付対価 IFRS 第 3 号改訂前の取引 改訂前の IFRS 第 3 号においては 全ての条件付対価契約は IAS 第 39 号の適用範囲外でした この適用除外は 当該改訂基準に伴う改訂の一部として削除されました IAS 第 39 号の適用除外の削除後 改訂前の IFRS 第 3 号により会計処理された取引から起因する条件付対価契約をどのように取扱うのかが今まで明確になっていませんでした IFRS 第 3 号 ( 改訂版 ) の経過措置は明確であり 繰延税金会計の一部を除き 新規取引に対して将来に向けて適用されるとしています ただし IAS 第 39 号の改訂に関する明確な経過措置はありませんでした 1. IASB は IFRS 第 3 号改訂前の条件付対価契約の取扱いをどのように判断したか? 2009 年 5 月に IASB は暫定的に 金融商品に関する基準 (IFRS 第 7 号 IAS 第 32 号 IAS 第 39 号 ) を IFRS 第 3 号改訂前の条件付対価契約に適用しないことを明らかにしました 従って 当該改訂基準が発効される前に締結した企業結合における条件付対価契約は 引続き企業結合時の適用基準に従い処理されます 2. いつから ( 訳者注 : 上記 IFRS 第 3 号改訂前の条件付対価契約の適用に関する ) 明確化が適用されるのか? 明確化については 2009 年に公開される年次改善プロジェクトに含められ 2010 年に発行される予定です 年次改善は通常 翌年から強制適用となりますが 早期適用も可能となる場合があります ただし IASB は暫定的な明確化を行っており 当質問に関する我々の見解と沿うものとなっています 被取得企業における現行の条件付対価契約 IFRS には 被取得企業における条件付対価契約の会計処理について個別のガイダンスはありません IASB は 2009 年 6 月の会合で 当該契約が IFRS 第 3 号 ( 改訂版 ) の条件付対価とならないという結論を暫定的に出しました これは 当該対価が取得企業と被取得企業の前所有者との間の現在の取引から生じたものでないためです むしろ 被取得企業の条件付対価契約は被取得企業の負債 ( または 資産の場合もあり ) となります これらの取引は ほぼ常に契約で設定されたもので IAS 第 39 号の範囲に該当し 取得日に公正価値で認識されます その後の会計処理は IAS 第 39 号の資産または負債の分類により決定されます 企業結合における取得企業と売手の間の契約 2009 年の年次改善プロジェクトにより IAS 第 39 号における現行の適用除外の範囲が狭められました これらは 将来に被取得企業を売買するための取得企業と売手の間の企業結合契約に関連するものです IASB は IAS 第 39 号を改訂し 結果として 将来の企業結合となる (that result in a business combination at a future date) 取得企業と株式売却を行う株主の間の被取得企業の売買に関する先物契約のみが 適用除外の要件を満たすと明記しました これにより IAS 第 39 号の範囲に より多くの契約が含まれることになります 以下は この ( 訳者注 :IAS 第 39 号における適用除外範囲の ) 明確化による実質的な影響に関する Q&A です 6

1. ( 訳者注 :IAS 第 39 号における適用除外範囲の ) 明確化により どの種類の契約が IAS 第 39 号の適用範囲となり 公正価値会計の対象となるか? 一当事者に対して企業の支配権を与えるオプション ワラント 転換証券は IAS 第 39 号の範囲となる予定です 同等の条件を有するプットとコールは企業結合では頻繁に行われ 先物契約と同様の経済的影響があります しかしながら オプション契約ではオプションを行使するかどうかにより 一当事者が将来の企業結合の発生または非発生を支配することが可能となります 従って その企業結合は確固として約定されるものではなく 結果として 将来企業結合となる (that result in a business combination at a future date) という規準を満たしません サマリー 改訂基準の強制適用日が急速に近づいています (2009 年 7 月 1 日以降に開始する会計年度より ) この新しいガイダンスが 企業による企業結合の会計処理方法を変えることから 上記の Q&A でこの新しい課題を取扱いました 当連載記事のパート 2 では 財務諸表の開示に焦点を当てます お問い合わせ : あらた監査法人 ( ブランド & コミュニケーションズ ) 東京都千代田区丸の内 1 丁目 5 番 1 号新丸の内ビルディング 32 階 ( 100-6532) 電話 : 03-6858-0179( 直通 ) メールアドレス : aaratapr@jp.pwc.com あらた監査法人は 世界 153 カ国に 155,000 人のスタッフを擁するプライスウォーターハウスクーパース (PwC) のメンバーファームです PwC のメンバーファームとして 会計および監査において PwC の手法に完全に準拠した国際的なベストプラクティスを採用し PwC のグローバル ネットワークで培われた経験 専門知識 リソースを最大限に活用し 日本において国内企業および国際企業に対して 国際水準の高品質な監査を提供していきます 2009 PricewaterhouseCoopers Aarata. All rights reserved. PricewaterhouseCoopers refers to the Japanese firm of PricewaterhouseCoopers Aarata or, as the context requires, the PricewaterhouseCoopers global network or other member firms of the network, each of which is a separate and independent legal entity. 7