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輸送機器の軽量化に向けた軽量金属材料の挑戦 航空機用アルミニウム合金展伸材の歴史 株式会社UACJ 技術開発研究所 八太 秀周 吉田 英雄 この合金は従来の合金よりも強度が高いために 1 はじめに 早速ツェッペリン飛行船の骨組みに採用され そ アルミニウム合金の時効硬化現象がウィルム 1 Alfred Wilm によって発見 されて以降 アル のツェッペリン飛行船は第一次世界大戦ではロン ドンなどの空襲等に用いられた ミニウム合金の大幅な高強度化が可能となり 輸 送機器用の構造体としても用いられるようになっ 100 た アルミニウム合金を用いた軽量化によって 90 輸送機器の高速化 燃費向上や快適性等の向上が 80 かたさ 図られてきた 特に航空機用構造体として用いら れてきたアルミニウム合金は ジュラルミン 超 70 ジュラルミン 超々ジュラルミンというように 60 まさにアルミニウムの高強度化の歴史でもある 50 ここでは これらの材料開発の歴史を振り返り 将来のアルミニウム合金の開発について考える ホール C.M.Hall とエルー P.L.Heroult に 110 90 かたさ 2 ジュラルミンの発明2 4 8 12 16 時効時間 hr 20 24 (b) 4日時効後 50 400 420 440 460 480 れ3 その後 アルミニウムの本格的な工業生産が 元素を添加して焼入れを行えば鋼のように硬さが増 0 70 よって1886年にアルミニウムの電解精錬法が発明さ 始まった 1903年頃からドイツのウィルムは適当な (a) 焼入直後 500 520 540 焼入温度 図1 銅及びマグネシウムを含むアルミニウム合金の 時効硬化 Cu3.5 Mg0.5 Al残 Wilm 1 すのではないかと考え 試験を繰り返したものの全 く硬くはならなかった ところが1906年9月のある 一方 日本国内では 1916年ロンドン駐在の海 土曜日に 銅を4 マグネシウムを0.5 含むアル 軍監督官が墜落したツェッペリン飛行船から骨材 ミニウム合金を焼入れして硬さの測定を午後1時ま を入手し 海軍が住友伸銅所に調査依頼したとこ で行い その続きを翌々日の月曜日に行ったとこ ろから航空機用アルミニウム合金の開発が始まっ ろ 著しく硬くなっていた これが時効硬化現象の た この入手した材料の分析結果や英国金属学会 発見である 図1に示すような時効硬化が発表され 誌の文献をもとに試作研究が行われ 1919年には 1 ている これをデュレナ メタルヴェルゲ社に 工場試作が完了したと言われている そのツェッ よって Al-4.2 Cu-0.5 Mg-0.6 Mnの組成の合 ペリン飛行船の残材の一部は 現在も図2に示す 金として製品化した合金がジュラルミンである よう形で 株 UACJの技術開発研究所で保管さ 28 J FA 2014 JANUARY No.45

れている その後 1921 年に初めて住友伸銅所でジュラルミンの工業生産が行われ 1922 年には 中島式ブレゲー型飛行機 B-6 型の構造体に国産ジュラルミンが使用され この飛行機は 軽銀 と命名された 1930 年以降の全金属製の機体となってからジュラルミンが本格的採用された の24Sは焼入れ後 室温時効でジュラルミンを超える強度に達する合金であり 人工時効を施さずとも高強度が得られた ジュラルミンの17S-T4 は代表値で引張強さ44kg / mm2 耐力 28kg / mm2に対し 24S-T3は引張強さ49kg / mm2 耐力 35kg / mm2であり 17Sに比べ耐力が20% 高い合金である さらに焼入れ後矯正あるいは残留応力を最小限にするために1.5 3% の引張加工をすることで強度も向上する この合金は17Sに比べて強度が高いために すぐに17S-T4に替わって航空用材料として採用された 現在では 一般にこの24Sが超ジュラルミンと呼ばれている そして 耐食性の良好な純アルミニウムを皮材としたクラッド材 Alclad24S-T3が開発され 図 3に示すDC-3などの胴体用材料として採用された 5) 現在の航空機にもAlclad24S-T3は使用されている 4) 3. 超ジュラルミンの開発 その後さらに高強度が求められ ジュラルミ ンの強度を超えるいわゆる超ジュラルミンの開 発が進められた 1928 年にケイ素を添加した 14S (Al-4.4%Cu-0.4%Mg-0.9%Si-0.8%Mn) をアルコ ア社が開発した この 14S は焼入れした後に人工 時効処理 (T6 調質 ) することで耐力 42kg/ mm2が得 られ 17S の耐力を上回った しかし 伸びが 13% と低いために 板材としてよりも鍛造品とし て多く用いられるようになった 当時はジュラル ミンの強度を超える合金は どれも超ジュラルミ ンと呼ばれ 14S のようにケイ素を多く含有した 超ジュラルミンは含ケイ素型超ジュラルミンと言 われていた 1931 年には アルコア社がジュラル ミンのマグネシウム量を 1.5% まで増加した 24S (Al-4.5%Cu-1.5%Mg-0.6%Mn) を開発した こ 24 3 3 5 日本国内でも 1931 1932 年頃になり飛行機が 全金属製の機体になると 同じように軽く しか もさらに強度の高い材料が要求された 当時の住 友で 1935 年には 24S 型超ジュラルミンの SD その 合わせ板は SDC と称される材料が開発され SDC の皮材はアルコア社の 24SC よりも高強度の 合わせ板となったと言われている 4) 4. 超々ジュラルミンの開発 将来 戦闘機の性能を飛躍させるには 軽く しかももっと強力な引張強さ 50 60 kg / mm2を有す るアルミニウム合金が必要ということで海軍から の要請を当時住友では受けている 住友において 材料の開発を担当した五十嵐博士は 強度と加工 JFA 2014 JANUARY No.45 29

輸送機器の軽量化に向けた軽量金属材料の挑戦 性から予備検討を行ない 最終的には表1に示す を同様に添加して 7075合金を完成させ 現在で ようにサンダーのS合金 超ジュラルミンのD合 も航空機用材料として用いられている 金 そして英国ローゼンハインのE合金をベース に合金成分が検討された 最大の懸念事項である 応力腐食割れに対して 図4に示すような各種試 験方法を確立し6 クロムの微量添加が非常に有 効であることを明らかとしている 表1 開発に用いた合金の組成 D Duralumin Alcoa 24S 超ジュラルミン S Sander合金 W. Sander氏の開発 E Zinc Duralumin W. Rosenhain博士の開発 図5 図4 超々ジュラルミンESDの特許7 応力腐食割れの各種試験方法6 その結果 新合金のAl-8 Zn-1.5 Mg-2 Cu0.5 Mn-0.25 Crとなった この合金は1936年6 月に 鍛錬用強力軽合金 として出願され 図5 に示すように1940年2月に特許になっている7 1936年5 6月頃にはベースとなったE合金 S 合 金 D 合 金 の 頭 文 字 を と っ てESD ExtraSuper-Duralumin 超々ジュラルミンと命名され た 超々ジュラルミンESDの押出形材は図6示 す 零式艦上戦闘機 いわゆる零戦の主翼桁材に 適用された 零戦は各型合計すると約10400機生 産された その後 アルコア社でも 超々ジュラ ルミンにおいて応力腐食割れに効果があるクロム 30 J FA 2014 JANUARY No.45 図6 零戦の翼構造と超々ジュラルミンの使用部位

8) 5. 戦後の高強度アルニムニウム合金 戦後しばらくは日本国内では航空機の研究開発および製造が禁止されたことから アルミニウム産業においても民需転換が進んだ しかし1950 年頃には朝鮮戦争と関連して 米国極東空軍からの発注で再び24S 75S 等の航空機用高強度合金が生産されるようになった 戦後 欧米および日本国内とも さらに高強度アルミニウム合金の材料特性の改良が行われた 75Sでは応力腐食割れを防ぐために微量のクロムが添加されているが 図 7に示すように焼入れ感受性がクロムより低く 応力腐食割れの抑制にも効果的な元素としてジルコニウムの添加が有効であることが明らかとなり 9 10) 鉄道車両などの分野でAl-Zn-Mg 三元合金系にジルコニウムを添加したAA7003が実用化された また銅を含むAl-Zn-Mg-Cu 系合金においてもAA7050やAA7150 等のジルコニウムを添加した合金がアメリカで開発され 現在の航空機にも多く使用されている さらに応力腐食割れを抑制する熱処理方法として過時効処理が有効なことが見出され適用されてきたが 過時効処理ではピーク時効に比較して強度が低くなることから 最近ではRRA(Retrogression and Re-Aging) 処理を用いたAA7055-T77511のような材料も実用化されている 6 1 8 9 10 一方 加工熱処理方法の工夫もいくつか行われ ている 例えば ボーイングの B767 機体の製造 では 7075 のストリンガーの重量を低減するため に 板材を圧延により長手方向で肉厚を変動させ る必要があった しかし 弱加工およびその後の 熱処理によって結晶粒の粗大化が生じ 疲労強度 の低下が懸念されたため その対策として図 8 に 示すように連続焼鈍炉を用いた急速加熱および急 速冷却で結晶粒を 50μm 以下に微細化し その後 適正な析出処理による軟化を施すことによって 結晶粒の粗大化を抑制するプロセスが見出された 11) このように合金組成のみならず 加工方法の検討 11 JFA 2014 JANUARY No.45 31

も盛んに行われてきた 6. 最近の開発最近の航空機用材料の開発としては Al-Li 合金等の軽量で高剛性の材料 さらにAA2013 合金などのコスト低減に寄与できる材料がある Al-Li 合金の開発は 最近 欧米で復活しつつある 図 9にAl-Li 合金の開発の変遷を示す 12) 開発当初は リチウム添加量が比較的多く密度も小さい合金となっていた しかし靭性などの問題から工業的に広く使用されるには至らなかった 最近のAl-Li 合金ではリチウム添加量を2% 以下と少なくすることによって 多少密度は犠牲になるものの靱性などの材料特性の改善が行われ 実用化されている もう一つの傾向は AA2013 合金などのコスト低減 材の開発である 2024や2014などの2000 系合金ではポートホール押出が出来ないことなら それぞれの部品形状に押出し 機械締結するためコスト高になる しかし表 2に示す合金組成の AA2013 合金は その合金組成が調整され 押出性が改善されていることから 2000 系合金でありながらポートホール押出が可能な合金となっている そのため 図 10のようにAA2013 合金では組み立てコストが削減できるメリットがある 13 14) さらに今後の材料開発の方向性としては更なる高強度化高靭性化合金の開発である 航空機の軽量化による燃費向上や設計の自由度のさらなる向上を図るためには 現状のAA7150やAA7055の強度および靱性を超える材料の開発が必要である このような新しい材料を創成することで ますます輸送機器の性能向上も可能になるであろう 12 2013 32 JFA 2014 JANUARY No.45

10 2013 13 14 < 参考文献 > 1)A.Wilm:Metallurgie 8(1911) 225. 2) 吉田英雄 : 住友軽金属技報 53(2012) 60. 3) 大澤正 : よくわかるアルミニウムの基本と仕組み 秀和システム (2010) 12. 4) 吉田英雄 : 住友軽金属技報 54(2013) 250. 5)http://www.louisvilleartdeco.com/feature/Transportation/Planes/Douglas%20DC-3%201935.jpg 6) 五十嵐勇 北原五郎 : 高力 Al 合金の時期割れ其防止に就て 日本金属学会誌 3(1939) 531. 7) 特許第 135036 号 鍛錬用強力軽合金 五十嵐勇 北原五郎 昭和 15 年 2 月 28 日. 8) 吉田英雄 : アルトピア 1(2013) 14. 9) 寺井士郎 馬場義雄 : 住友軽金属技報 10(1969) 42. 10) 馬場義雄 : 金属学会誌 31(1967) 910. 11) 住友軽金属技報 : 新製品紹介 航空機ストリンガー用微細結晶粒 7075 合金板 23(1982) 120. 12) 航空機国際共同開発促進基金 解説概要 24-2 航空機用アルミリチウム合金および航空機産業の動向 http:// www.iadf.or.jp/8361/library/media/h24_dokojyoho/24-2.pdf 13) 日本航空宇宙工業会 : 航空機部品 素材産業振興に関する調査研究 高強度成形 6000 系新合金の研究 住友軽金属工業 川崎重工業 成果報告書 No.806(1994) No.904(1995). 14) 日本航空宇宙工業会 : 航空機部品 素材産業振興に関する調査研究 新 6000 系合金の航空機用鍛造 / 押出材の開発 住友軽金属工業 川崎重工業 成果報告書 No.1004(1996) No.1102(1997). JFA 2014 JANUARY No.45 33