24 京都教育大学教育実践研究紀要 第17号 内容 発達段階に応じてどのように充実を図るかが重要であるとされ CAN-DOの形で指標形式が示されてい る そこでは ヨーロッパ言語共通参照枠 CEFR の日本版であるCEFR-Jを参考に 系統だった指導と学習 評価 筆記テストのみならず スピーチ イン

Similar documents
平成28年度 小学校外国語活動 2_研究の実際(1)方向性

第 9 章 外国語 第 1 教科目標, 評価の観点及びその趣旨等 1 教科目標外国語を通じて, 言語や文化に対する理解を深め, 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り, 聞くこと, 話すこと, 読むこと, 書くことなどのコミュニケーション能力の基礎を養う 2 評価の観点及びその趣旨

平成29年度 中学校英語科教育 理論研究

PowerPoint プレゼンテーション

平成 28 年度全国学力 学習状況調査の結果伊達市教育委員会〇平成 28 年 4 月 19 日 ( 火 ) に実施した平成 28 年度全国学力 学習状況調査の北海道における参加状況は 下記のとおりである 北海道 伊達市 ( 星の丘小 中学校を除く ) 学校数 児童生徒数 学校数 児童生徒数 小学校

平成16年度小学校及び中学校教育課程研究協議会報告書

H30全国HP

Présentation PowerPoint

1 高等学校学習指導要領との整合性 高等学校学習指導要領との整合性 ( 試験名 : 実用英語技能検定 ( 英検 )2 級 ) ⅰ) 試験の目的 出題方針について < 目的 > 英検 2 級は 4 技能における英語運用能力 (CEFR の B1 レベル ) を測定するテストである テスト課題においては

<4D F736F F D2088C9938C8EA18CC890E690B6434F5389F090E D DCF82DD94C52E646F63>

教科 : 外国語科目 : コミュニケーション英語 Ⅰ 別紙 1 話すこと 学習指導要領ウ聞いたり読んだりしたこと 学んだことや経験したことに基づき 情報や考えなどについて 話し合ったり意見の交換をしたりする 都立工芸高校学力スタンダード 300~600 語程度の教科書の文章の内容を理解した後に 英語

自己紹介をしよう

平成 30 年 6 月 8 日 ( 金 ) 第 5 校時 尾道市立日比崎小学校第 4 学年 2 組外国語活動 指導者 HRT 東森 千晶 JTE 片山 奈弥津 単元名 好きな曜日は何かな? ~I like Mondays.~ 本単元で育成する資質 能力 コミュニケーション能力 主体性 本時のポイント

英語教育の在り方に関する有識者会議について < 委員一覧 50 音順 ( 平成 26 年 2 月 26 日現在 )> 座長 副座長 石鍋浩大津由紀雄佐々木正文髙木展郎多田幸雄藤村徹 松川禮子松本茂三木谷浩史安河内哲也 吉田研作 足立区立蒲原 ( かばら ) 中学校校長明海大学外国語学部教授東京都立町

小学生の英語学習に関する調査

回数テーマ学習内容学びのポイント 2 過去に行われた自閉症児の教育 2 感覚統合法によるアプローチ 認知発達を重視したアプローチ 感覚統合法における指導段階について学ぶ 自閉症児に対する感覚統合法の実際を学ぶ 感覚統合法の問題点について学ぶ 言語 認知障害説について学ぶ 自閉症児における認知障害につ

グリーン家の人々

いろいろな衣装を知ろう

<4D F736F F D20819A90568B8C91CE8FC6955C81698FAC8A778D5A81458A4F8D918CEA8A8893AE816A2E646F6378>

目次 教員養成 研修外国語 ( 英語 ) コア カリキュラム ダイジェスト版 について p. 1 教員養成 研修外国語 ( 英語 ) コア カリキュラムの位置付けについて p. 1 小学校教員養成課程外国語 ( 英語 ) コア カリキュラム構造図 p. 2 学習項目と到達目標 p. 3 中 高等学校

4 単元の評価規準 コミュニケーションへの関心 意欲 態度 外国語表現の能力 外国語理解の能力 言語や文化についての知識 理解 与えられた話題に対し 聞いたり読んだりした 1 比較構文の用法を理解 て, ペアで協力して積極 こと, 学んだことや経 している 的に自分の意見や考えを 験したことに基づき

17 石川県 事業計画書

(Microsoft Word - \207U\202P.doc)

事業概要

英語科学習指導案 京都教育大学附属桃山中学校 指導者 : 津田優子 1. 指導日時平成 30 年 2 月 2 日 ( 金 ) 公開授業 Ⅱ(10:45~11:35) 2. 指導学級 ( 場所 ) 第 2 学年 3 組 ( 男子 20 名女子 17 名計 37 名 ) 3. 場所京都教育大学附属桃山中

楽しい外国語活動を目指して

平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料

英語教育改善プラン

平成 28 年度埼玉県学力 学習状況調査各学年の結果概要について 1 小学校 4 年生の結果概要 ( 平均正答率 ) 1 教科区分による結果 (%) 調査科目 羽生市 埼玉県 国語 算数 分類 区分別による結果 < 国語 > (%) 分類 区分 羽生市 埼

資料10 外国語科・外国語活動における目標、指導内容等

ホームページ掲載資料 平成 30 年度 全国学力 学習状況調査結果 ( 上尾市立小 中学校概要 ) 平成 30 年 4 月 17 日実施 上尾市教育委員会

授業科目名英語科教育基礎論 a (Basics of English Language Education a) 科目番号 授業形態講義単位数 1 単位標準履修年次 2 年次実施学期春 AB 曜時限水曜 2 時限対象学群 学類担当教員 ( 連絡先 ) 斉田智里 ( 非常勤講師 ) オ

英語教育改善プラン

Ⅰ 小学校外国語活動の基本的な考え方 小学校ではコミュニケーションの素地を養いましょう 社会や経済のグローバル化が急速に進展し 異なる文化の共存や持続可能な発展に向けて国際協力が求められるとともに 人材育成面での国際競争も加速していることから 学校教育において外国語教育を充実することが重要な課題 小

教職研究科紀要_第9号_06実践報告_田中先生ほか04.indd

目 次 1 学力調査の概要 1 2 内容別調査結果の概要 (1) 内容別正答率 2 (2) 分類 区分別正答率 小学校国語 A( 知識 ) 国語 B( 活用 ) 3 小学校算数 A( 知識 ) 算数 B( 活用 ) 5 中学校国語 A( 知識 ) 国語 B( 活用 ) 7 中学校数学 A( 知識 )

ICTを軸にした小中連携

4 研究成果物 小学校外国語活動学習指導要領 ( 案 ) 1 目標外国語を通じて 言語や文化について体験的に理解を深め 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り 外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら コミュニケーション能力の素地を養う 2 内容 第 1 学年および第 2 学

結果からの考察 中学校 高校の英語の授業では音声指導や文法指導などが多く 話す 書く を含めた言語活動がまだ十分に行われていないという課題が明らかになりました 中高生の英語によるコミュニケーション能力の向上のためには 従来の文法中心の指導からの脱却が求められます 英語教員の多くは 英語で表現する機会

2 教科に関する調査の結果 ( 各教科での % ) (1) 小学校 国語 4 年生 5 年生 6 年生 狭山市埼玉県狭山市埼玉県狭山市埼玉県 平領均域正等答別率 話すこと 聞くこと 書くこと

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

2 全国 埼玉県 狭山市の平均正答率 ( 教科に関する調査の結果 ) ( 単位 %) (1) 小学校第 6 学年 教科ごとの区分 教科 狭山市 埼玉県 全国 国語 A 国語 B 算数 A 算数 B 学習指導要領の

平成29年度 中学校英語科教育 B校の実践

「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて

平成 年度佐賀県教育センタープロジェクト研究小 中学校校内研究の在り方研究委員会 2 研究の実際 (4) 校内研究の推進 充実のための方策の実施 実践 3 教科の枠を越えた協議を目指した授業研究会 C 中学校における実践 C 中学校は 昨年度までの付箋を用いた協議の場においては 意見を出

○○○

งานนำเสนอ PowerPoint

p.1~2◇◇Ⅰ調査の概要、Ⅱ公表について、Ⅲ_1教科に対する調査の結果_0821_2改訂

ている それらを取り入れたルーブリックを生徒に提示することにより 前回の反省点を改善し より具体的な目標を持って今回のパフォーマンスに取り組むことができると考える 同に そのような流れを繰り返すことにより 次回のパフォーマンス評価へとつながっていくものと考えている () 本単元で重点的に育成をめざす

プロジェクト型外国語活動におけるインプット増強のためのカリキュラムの提案

①H28公表資料p.1~2

平成29年度 小学校教育課程講習会 総合的な学習の時間

考え 主体的な学び 対話的な学び 問題意識を持つ 多面的 多角的思考 自分自身との関わりで考える 協働 対話 自らを振り返る 学級経営の充実 議論する 主体的に自分との関わりで考え 自分の感じ方 考え方を 明確にする 多様な感じ方 考え方と出会い 交流し 自分の感じ方 考え方を より明確にする 教師

2 各教科の領域別結果および状況 小学校 国語 A 書くこと 伝統的言語文化と国語の特質に関する事項 の2 領域は おおむね満足できると考えられる 話すこと 聞くこと 読むこと の2 領域は 一部課題がある 国語 B 書くこと 読むこと の領域は 一定身についているがさらに伸ばしたい 短答式はおおむ

(6) 調査結果の取扱いに関する配慮事項調査結果については 調査の目的を達成するため 自らの教育及び教育施策の改善 各児童生徒の全般的な学習状況の改善等につなげることが重要であることに留意し 適切に取り扱うものとする 調査結果の公表に関しては 教育委員会や学校が 保護者や地域住民に対して説明責任を果

教授用資料 新しい学習指導要領の方向性小学校英語光村図書 新しい学習指導要領のポイント 東京家政大学教授小泉仁 I. はじめに 2017 年 3 月, 幼稚園 小学校 中学校の新学習指導要領が告示された 小学校では 外国語活動 を3 4 年生で扱い,5 6 年生の英語は 外国語 ( 英語 ) 科 と

2019 年 2 月 12 日株式会社ベネッセホールディングス代表取締役社長安達保 進研ゼミ 受講費内で英語検定試験対策や入試対策も! 学年を超え英語 4 技能を学ぶ 12 段階習熟度別トレーニンク 導入 ~2019 年 4 月号教材から小中高講座で提供開始 ~ 株式会社ベネッセホールディングスの子

(2) 国語 B 算数数学 B 知識 技能等を実生活の様々な場面に活用する力や 様々な課題解決のための構想を立て実践し 評価 改善する力などに関わる主として 活用 に関する問題です (3) 児童生徒質問紙児童生徒の生活習慣や意識等に関する調査です 3 平成 20 年度全国学力 学習状況調査の結果 (

今年度の校内研究について.HP

愛媛県学力向上5か年計画

平成 30 年 1 月平成 29 年度全国学力 学習状況調査の結果と改善の方向 青森市立大野小学校 1 調査実施日平成 29 年 4 月 18 日 ( 火 ) 2 実施児童数第 6 学年 92 人 3 平均正答率 (%) 調 査 教 科 本 校 本 県 全 国 全国との差 国語 A( 主として知識

第 2 学年 1 組英語科学習指導案 日時平成 30 年 11 月 2 日 ( 金 ) 5 校時 (14:00~14:50) 場所第 2 学習室指導者教諭天津貴志 1. 育成する能力 学習指導要領内容 (4) イ 身近な話題について 事実や自分の考え 気持ちなどを整理し 簡単な語句や文を用いてまとま

4 学習の活動 単元 ( 配当時間 ) Lesson 1 ( 15 時間 ) 題材内容単元の目標主な学習内容単元の評価規準評価方法 Get Your Goal with English より多くの相手とコミュニケーションをとる 自己紹介活動を行う コミュニケーションを積極的にとろうとしている スピー

(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

生徒の活動

コミュニケーションを意識した授業を考えるーJF日本語教育スタンダードを利用してー

各教科 道徳科 外国語活動 総合的な学習の時間並びに特別活動によって編成するものとする 各教科 道徳科 総合的な学習の時間並びに特別活動によって編成するものとする

平成 21 年度全国学力 学習状況調査結果の概要と分析及び改善計画 調査実施期日 平成 21 年 10 月 2 日 ( 金 ) 教務部 平成 21 年 4 月 21 日 ( 火 )AM8:50~11:50 調査実施学級数等 三次市立十日市小学校第 6 学年い ろ は に組 (95 名 ) 教科に関す

スライド 1

(2) 国語科 国語 A 国語 A においては 平均正答率が平均を上回っている 国語 A の正答数の分布では 平均に比べ 中位層が薄く 上位層 下位層が厚い傾向が見られる 漢字を読む 漢字を書く 設問において 平均正答率が平均を下回っている 国語 B 国語 B においては 平均正答率が平均を上回って

平成 年度言語活動の充実促進モデル校事業の研究より 豊かな表現力を培う 各教科等における言語活動の充実 伝え合う力 の育成

文部科学省作成 新学習指導要領対応 外国語教材’We Can!’(小学校高学年用)説明資料

2017 年 9 月 8 日 このリリースは文部科学記者会でも発表しています 報道関係各位 株式会社イーオンイーオン 中学 高校の英語教師を対象とした 中高における英語教育実態調査 2017 を実施 英会話教室を運営する株式会社イーオン ( 本社 : 東京都新宿区 代表取締役 : 三宅義和 以下 イ

資料5 親の会が主体となって構築した発達障害児のための教材・教具データベース

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

45 宮崎県

37 香川県

TOMIYA CAN-DO LIST ( ) TOMIYA Junior High School 中学校で身につけてほしい4つの力 1 コミュニケーションを図ろうとする力 2 4 技能を身につける力 3 自分から進んで家庭学習を取り組む力 4 高校入試に必要な学力 TOMIYA CA

Small Talk の理論と実践 ~8月6日の講義を踏まえて~

平成 29 年度 全国学力 学習状況調査結果と対策 1 全国学力調査の結果 ( 校種 検査項目ごとの平均正答率の比較から ) (1) 小学校の結果 会津若松市 国語 A は 全国平均を上回る 国語 B はやや上回る 算数は A B ともに全国平均を上回る 昨年度の国語 A はほぼ同じ 他科目はやや下

スライド 0

123

第4章 道徳

資料3 平成28年度京都府学力診断テスト 質問紙調査結果 28④ 28中① 27④ 27中① 平成28年度京都府学力診断テスト小学4年質問紙調査結果 平成28年度京都府学力診断テスト中学1年質問紙調査結果 平成27年度京都府学力診断テスト小学4年質問紙調査結果 平成27年度京都府学力診断テスト中学1

難聴児童の伝える力を 高めるための指導の工夫 -iPadを活用した取り組みを通して-

スライド 1

情報コーナー用

Microsoft PowerPoint - syogaku [互換モード]

1. はじめに 日本の小学校外国語活動の大きな目標は コミュニケーション能力の素地を養う ことである 英語の 4 技能の視点から見てみると, 文部科学省の作成した Hi, friends! は 聞くこと 話すこと を重視した構成となっている しかし, 果たして小学校の段階において 読むこと 書くこと

5 主体的 対話的で深い学びの視点 (1) 主体的な学びとしての視点主体的な学びとして 本単元ではプレゼンテーションを作成する段階で 聞き手の関心を最大限ひきつけることができるようなテーマの設定を生徒たち自身に行わせたい このことにより 教師から与えられたテーマではなく 自分たち自身もより興味 関心

Microsoft Word 英語科紀要

平成24年度 英語科 3年 年間指導計画・評価計画

Taro-自立活動とは

2 調査結果 (1) 教科に関する調査結果 全体の平均正答率では, 小 5, 中 2の全ての教科で 全国的期待値 ( 参考値 ) ( 以下 全国値 という ) との5ポイント以上の有意差は見られなかった 基礎 基本 については,5ポイント以上の有意差は見られなかったものの, 小 5 中 2ともに,

Microsoft PowerPoint - H29小学校理科

保健体育科学習指導案

も徐々に英語の単語で答えるようになり 文章で答えようとする児童も現れてくるようになった 音声を大切にしながら繰り返し聞かせることの成果を感じている 本単元では 授業のウォームアップとして Sit Down Game を行う 担任と児童のやりとりにおいて 職業を表す単語を繰り返し聞かせていく 歌の間に

Microsoft Word - ★41_東海中 _学力向上に向けた取組(再提出)

「外国語活動」と「小学校英語」をつなぐ,評価のあり方について

<4D F736F F D AA90CD E7792E88D5A82CC8FF38BB5816A819A819B2E646F63>

Transcription:

京都教育大学教育実践研究紀要 第17号 2017 23 小学校英語における児童の方略的能力育成を目指した指導 泉 惠美子 京都教育大学 Developing students strategic competence in elementary school English classes Emiko IZUMI 2016年11月30日受理 抄録 小学校外国語活動においては 体験的な活動を通してコミュニケーション能力の素地を育成すること がねらいとなっており 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度 の育成も目標の1つである しかし 語彙や表現が限られ 英語のスキルも十分ではない小学生にとって 意味を中心としたコミュニケ ーション活動において 自分の考えや情報を伝えたり 相手の気持ちを理解したりすることは難しい そこ で 困った時に聞き返しや確認 つなぎ語やジェスチャーなどを使用して相手とコミュニケーションを行う といった方略的能力は 小学校段階で育成すべき重要な構成概念である 本稿では 小学校で指導すること が望ましいコミュニケーション ストラテジーの指導について考え 授業で用いられる優れた教師発話の特 徴を分析し 児童の英語理解の手助けになるとともに やりとりのモデルにもなる可能性について考察した い キーワード 小学校英語 方略的能力 コミュニケーション ストラテジー 教師発話 Ⅰ はじめに 2020年より小学校中学年で外国語活動が また高学年で英語が教科として導入されるが 実際には移行措置と して2018年から開始される 現行の学習指導要領における小学校外国語活動の目標は 外国語を通じて 言語 や文化について体験的に理解を深め 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り 外国語の 音声や基本的な表現に慣れ親しませながら コミュニケーション能力の素地を養う とあり 体験的な活動を通 してコミュニケーション能力の素地を育成することがねらいとなっている また 積極的にコミュニケーション を図ろうとする態度 の育成も目標の1つである しかし 語彙や表現が限られ 英語のスキルも十分ではない 小学生にとって 意味を中心としたコミュニケーション活動において 自分の考えや情報を伝えたり 相手の気 持ちを理解したりすることは難しい そこで 困った時に聞き返しや確認 つなぎ語やジェスチャーなどを使用 して身体で伝えたり 相づちや反応を返しながら表情豊かに相手とコミュニケーションを行うといった方略的能 力は 小学校段階で育成すべき重要な構成概念である そこで 本研究では 小学校で指導することが望ましい コミュニケーション ストラテジーの指導について考え 授業で用いられる優れた教師発話の特徴を分析し 児 童の英語理解の手助け scaffolding になるとともに やりとりのモデルにもなる可能性について考察する Ⅱ 小学校英語におけるコミュニケーション能力の素地の育成とは 1 外国語 等における国の指標形式の目標と小学校英語の特徴 文部科学省の教育課程部会による 次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて 報告 2016年8月26日 によれば 児童 生徒の学びを円滑に接続させるため 小 中 高等学校で一貫した目標

24 京都教育大学教育実践研究紀要 第17号 内容 発達段階に応じてどのように充実を図るかが重要であるとされ CAN-DOの形で指標形式が示されてい る そこでは ヨーロッパ言語共通参照枠 CEFR の日本版であるCEFR-Jを参考に 系統だった指導と学習 評価 筆記テストのみならず スピーチ インタビューテスト エッセー等のパフォーマンス評価 観察等 児童 生徒に英語を使って何ができるようになったかを自己評価させることの重要性が強調されている 特に技能については 4技能5領域 聞くこと 読むこと 話すこと やりとり 話すこと 発表 書 くこと で示され 本研究に関わる 話すこと やりとり の小学校段階では 以下のように示されている Pre-A1 挨拶やごく短い簡単な指示に応答することができるようにする 相手のサポート ゆっくり話す 繰り返す 言い換える 自分が言いたいことを表現するのに助 け船をだしてくれるなど があれば 自分に関することについてごく簡単な質問に答えることが できるようにする A1: 相手の発話を理解できない場合など 必要に応じて 聞き返したり意味を確認したりすること ができるようにする 相手のサポート ゆっくり話す 繰り返す 言い換える 自分が言いたいことを表現するのに助 け船をだしてくれるなど があれば ごく身近な話題について 簡単な表現を使って質疑応答を することができるようにする 下線は著者による 上記で読みとれるように まさに 繰り返す 言い換える 助けを求める 聞き返す 意味の確認をすると いった インタラクションや交渉に必要なストラテジーが要求されることになる 一方 小学校英語の特徴としては 意味を中心としたやりとりからコミュニケーション活動へ段階的に指導を 行うことが必要である しかしながら 児童が使用できる語彙や表現が限られ 英語のスキルが十分ではないた め 英語で自分の考えや情報をうまく伝えたり 相手の気持ちを理解したりすることは難しい また 相互の協 力や手助け(scaffolding)が重要であり 協働的対話が必要となる 協働的対話では 困った時に聞き返しや確認 つなぎ語やジェスチャーなどを使用して身体で伝えたり 相づちや反応を返しながら表情豊かに相手とコミュニ ケーションを行うといった方略的能力は 小学校段階で育成すべき重要な構成概念となるであろう 2 方略的能力とコミュニケーション ストラテジー コミュニケーション能力のモデルとして Bachman and Palmer 1996 は 言語能力を図1のように示し ている その中で コミュニケーションを修復する機能 を含めた機能能力は文法能力 談話能力 社会言語能力 と並んで大変重要な能力とされている 彼らによると 方略的能力は the ability to use metacognitive strategies in order to solve language-related difficulties for communicative purposes とされ コミュニケーション の目的のために言語に関連した問題を解決するためにメ 図1 Bachman and Palmer 1996 の 言語能力モデル タ認知を用いる能力と考えられる 一方 Canale 1983 によるコミュニケーション能 力 communicative competence は 音声 単語 文法の能力である 言語能力 linguistic competence と 一文以上をつなげる能力である 談話能力 discourse competence 社会的に適切な言語を使う能力である 社会言語学的能力 sociolinguistic competence と問題が起こった時処理する力である 方略的能力 strategic competence の4つの構成要素からなる 特に 方略的能力は コミュニケーションを維持し 故障が