耳鼻咽喉科 篠森裕介
症例 : 主訴 : 現病歴 : 既往歴 : 生活歴 : 78 歳女性 めまい 平成〇年〇月〇日 23 時頃より回転性めまい 嘔気 嘔吐が出現 持続するため〇〇病院を受診し 入院加療を受けた 〇月〇日心窩部痛が出現し 当院救急外来に紹介され 入院 頭部 CT MRI では特記所見なし 〇月〇日頭位変換時の回転性めまいが持続するため末梢性めまいを疑われ耳鼻咽喉科紹介 めまいに伴う難聴 耳鳴 耳閉感の自覚なし 意識消失 眼前暗黒感なし 高血圧 狭心症 喘息 肝疾患 SAH 白内障飲酒 喫煙なし
鼓膜所見 : 両側とも瘢痕あり 穿孔なし 周波数 (Hz) 聴力レベル (db) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 難聴の既往なし めまい発症後も難聴の自覚なし
診断 : 末梢性めまい 1 BPPV-Hc( 患側不明 ) 回転性めまい 頭位性に出現 耳症状を伴わない 意識消失や眼前暗黒感なし BPPV らしい 内科診察や MRI で中枢神経疾患なさそう 方向交代性下向性眼振 持続時間が長い BPPV-Hc( 軽いクプラ結石?) 中枢性めまいの除外要 2 右メニエール病低音障害型難聴 メニエール病合併? 方向交代性下向性眼振 メニエール病発作による眼振ではない 難聴の程度の割に自覚症状に乏しい メニエール病が合併しているとしても陳旧性か?
第 16 病日 周波数 (Hz) 聴力レベル (db) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 眼振はほぼ消失した
耳鼻咽喉科で取り扱うめまい疾患 良性発作性頭位めまい症メニエール病前庭神経炎突発性難聴内耳炎側頭骨骨折 外リンパ廔聴神経腫瘍ハント症候群薬物中毒性めまい
体性感覚とその制御 深部知覚 複数の感覚情報のアンバランス めまい
体性感覚とその制御 視覚 大脳 小脳網様体賦活系錐体外路系 空間識 眼球運動の制御 深部知覚 姿勢制御 平衡覚 運動の制御 これらの経路のどこが障害されてもめまいがおきる
めまい 気が遠くなりそうなめまい はっきりしないふらつき感 ぐるぐる回るめまい Pre-syncope dizziness vertigo 心血管性めまい不整脈など 起立性調節障害 電解質薬剤その他 中枢性めまい小脳梗塞など 末梢性めまい
Ⅰ. メニエール病確実例難聴 耳鳴 耳閉塞感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する Ⅱ. メニエール病非定型例下記の症状を示す症例をメニエール病非定型例と診断する 1 メニエール病非定型例 ( 蝸牛型 ) 難聴 耳鳴 耳閉塞感などの聴覚症状の増悪 軽快を反復するが めまい発作を伴わない 2 メニエール病非定型例 ( 前庭型 ) メニエール病確実例に類似した めまい発作を反復する 一側または両側の難聴などの蝸牛症状を合併している場合があるが この聴覚症状は固定性で めまい発作に関連して変動することはない この病型の診断には めまい発作の反復の状況を慎重に評価し 内リンパ水腫による反復性めまいの可能性が高いと判断された場合にメニエール病非定型例 ( 前庭型 ) と診断すべきである 原因既知の疾患の除外メニエール病確実例 非定型例の診断にあたっては メニエール病と同様の症状を呈する外リンパ瘻 内耳梅毒 聴神経腫瘍 神経血管圧迫症候群などの内耳 後迷路性疾患 小脳 脳幹を中心とした中枢性疾患などの原因既知の疾患を除外する必要がある
メニエール病の特徴 めまいは典型例では回転性である しかし, 発作時のめまいが浮動性の例も約 % 存在する めまいの持続は 数分 ~ 数時間 ( 発作性 ) である 一過性 ( 数秒 ~ 数分 ) のめまいのみではメニエール病は否定的である めまい発作に伴い耳鳴 難聴が変動する
内リンパ水腫
( 大阪大学耳鼻咽喉科山川例 ) 内リンパ水腫
内リンパ水腫の原因 ( 説 ) 障害の部位 内リンパ嚢における吸収障害 内耳 ( 血管条 ) における産生過剰 障害の機序水調節ホルモンの異常 (ADH アクアポリン) 解剖学的異常ウイルスの再活性化
メニエール病の聴力 蝸牛症状はめまい発作と一致して現れたり悪化したりし めまいの寛解と共に正常に復したり軽快したりする めまい発作の始まる前に 蝸牛症状が先行して現れることもしばしばある 難聴の程度は病気の初期には軽度の低音障害型であるが 発作を繰り返しているうちに難聴は高度になり 全周波数にわたって聴力が悪化する
63 歳女性主婦 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 90 90 初診時 0 3d 後 0 1Y6M 後 1 1 1 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 90 90 1Y7M 後 0 2Y6M 後 0 3Y 後 1 1 1 1
47 歳男性公務員 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 90 90 初診時 0 2w 後 0 3M 後 1 1 1 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 90 90 6M 後 0 1Y 後 0 3Y 後 1 1 1 1
メニエール病の眼振 発作時には水平あるいは水平回旋混合性の定方向性眼振が出現する 眼振は発作時患側に向かい, 発作が軽減すると健側に向かうことが多い 間歇期は自発眼振を認めないことも少なくない
メニエール病の治療 薬物治療利尿剤ステロイド循環改善剤ビタミン B12 抗酸化剤抗めまい薬重曹水トランキライザー 手術 処置内リンパ嚢手術 GM 注入療法前庭神経切断術迷路摘出術 ストレス ( 過労 睡眠不足 心労 ) を避け 規則正しい生活を!
厚生省特定疾患前庭機能調査研究班による 良性発作性頭位眩暈症の診断基準 特定の頭位変化をさせた時に誘発される回転性めまい めまい出現時の眼振は次の性状を示すことが多い 1. 眼振の出現に潜時がある 2. めまい頭位を反復すると眼振は軽快ないし消失する 3. 回転性要素の強い頭位眼振 めまいと関連する蝸牛症状や中枢神経症状を認めない
耳石 耳石の迷入
右側頭骨 頭側 尾側
BPPV の分類 2 外側半規管型 3 前半規管型 ( まれ ) 1 後半規管型
BPPV の分類 半規管結石 canalolithiasis クプラ結石 cupulolithiasis
BPPV の症状 1. 特定の頭位をとると, 回転性 ( 症例によっては動揺性 ) のめまいが起こる 実際には, 起床 就寝時, 棚の上の物を取る上向き, または洗髪のような下向き頭位, 寝返りなどで誘発されることが多い 2. めまい発現まで若干の潜時があり, 次第に増強した後に減弱, 消失する めまいの持続時間は概ね数秒 ~ 数 秒である めまい発現時にはめまい症状に伴って増強 減衰する眼振が観察される 3. 引き続き同じ頭位を繰り返すと, めまいは軽減または起きなくなることが多い 4. めまいには難聴や耳鳴などの聴覚症状を随伴しない また, 嘔気 嘔吐をきたすことがあるが, めまい以外の神経症状を随伴することはない 5. これらの頭位誘発性めまいと眼振は, メニエール病, めまいを伴った突発性難聴, 前庭神経炎などの経過中に発現することがある
BPPV の眼振の特徴 頭位性 潜伏時間 反復による減衰現象 回旋性眼振 頭位変換で眼振の回旋方向が逆転
BPPV の眼振 頭位眼振検査 半規管結石 外側半規管型 BPPV クプラ結石 頭位変換眼振検査 右患側 後半規管型 BPPV 左患側
頭位変換眼振検査 (Dix-Hallpike 法 )
BPPV の治療 保存的治療 理学療法 ( 耳石置換法 非特異的理学療法 ) 薬物療法 ( 対症療法 ) 手術治療 半規管遮断術前庭神経切断術
良性発作性頭位眩暈症の治療
Epley 法 ( 耳石置換法 ) 1 4 2 3
Semont 法 ( 耳石置換法 ) 1 4 2 3
52 歳男性 主訴 : 回転性めまい 左耳鳴 現病歴 : チェーンソーを使用した翌朝 左耳鳴に気づいた 2 週間後 夕方 突然に左耳鳴の増悪と回転性めまいをきたしたので入院 経過 : 入院の翌日 左聴力の悪化と右向きの水平回旋性の自発眼振を認めた 小脳症状はなかった 3 日後 自覚的にめまいは軽快したが 大打性の眼振は持続
脳幹梗塞
症例 : 主訴 : 現病歴 : 既往歴 : 家族歴 : 63 歳 男性 回転性めまい 平成〇年〇月某日 ( 第 1 病日 ) 鼻閉を自覚 耳抜きを行った際 回転性めまいが出現した 同日当院救急外来を受診 いったん帰宅するも再度めまい有り 当院内科へ入院となる 第 2 病日より右難聴 耳閉 耳鳴 ( キーン ) を自覚 第 3 病日当科紹介受診となる 高血圧 糖尿病 紫斑病性腎炎特記事項なし
頭部単純 CT ( 第 1 病日 ) 当科初診時所見 ( 第 3 病日 ) 鼓膜所見 : 両側とも正常 第 Ⅷ 脳神経以外の脳神経症状無し 意識清明四肢麻痺 しびれ :(-) 構音障害 :(-) 頭蓋内に明らかな病変を指摘できない
聴力検査 ( 第 3 病日 ) 眼振検査 ( 第 3 病日 ) (db) - 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 左向き水平回旋混合性眼振 125 250 500 00 00 4000 8000 (Hz)
治療経過 臨床経過からは外リンパ瘻が考えられたため 第 3 病日に当科へ転科し 突発性難聴に準じた投薬を開始 およびベッド上安静を保つ 第 6 病日 : 右顔面 (V₂ 領域 ) のしびれ感 PSL 60mg/day 40mg/day 30mg/day mg/day mg/day メコバラミン ATP ニコチン酸トコフェロール ファモチジン 0 1 2 3 5 6 7 8 11 14 17 めまい 内科入院 耳症状出現 当科受診 転科 三叉神経症状 M R I 検査
頭部 MRI ( 第 7 病日 ) T1WI: 小脳脚部にわずかな低信号域 ( 矢印 ) T2WI: 小脳脚部に不均一な高信号域 ( 矢印 ) DWI: 小脳脚部に高信号域 ( 矢頭 )
めまいをきたす小脳梗塞 後下小脳動脈 (posterior inferior cerebellar artery:pica) 梗塞 小脳梗塞の原因として最も多い回転性めまいと歩行障害が多い一般に聴力障害は無い 前下小脳動脈 (anterior inferior cerebellar artery:aica) 梗塞 AICAは迷路動脈を分枝して内耳へ血液を供給する AICAは橋下部 延髄上部へ血液を供給する難聴 耳鳴を認める 上小脳動脈 (superior cerebellar artery:sca) 梗塞 めまいは少ない構音障害 四肢失調を示すことが多い
(db) - 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 聴力検査 ( 第 38 病日 ) 眼振検査 ( 第 38 病日 ) 125 250 500 00 00 4000 8000 (Hz)
めまい 気が遠くなりそうなめまい はっきりしないふらつき感 ぐるぐる回るめまい Pre-syncope dizziness vertigo 心血管性めまい不整脈など 起立性調節障害 電解質薬剤その他 中枢性めまい小脳梗塞など 末梢性めまい