主な末梢性めまい ~メニエール病、BPPV~

Similar documents
第192回市民医学講座

Microsoft Word - 蝸牛型メニ_H10_

失神のアプローチ

Part 1 症状が強すぎて所見が取れないめまいをどうするか? 頭部 CT は中枢性めまいの検査に役立つか? 1 めまい診療が難しい理由は? MRI 感度は 50% 未満, さらには診断学が使えないから 3

Microsoft Word - めまい講演エッセンス

イコール耳性めまいと早合点していないか? 4 振り返りポイント4 真剣に神経学的所見は探したか? 5 振り返りポイント5 頭部 CT や MRI を過信しすぎていないか? 6 振り返りポイント6 安易に BPPV とゴミ箱診断していないか? 7 振り返りポイント7 患者は歩けるか? 経口摂取ができる

中耳疾患とめまい・平衡障害

到達目標 家庭医療専門医プログラム ( 研修手帳第 2 版 p.8) I 一般的な症候への適切な対応と問題解決 項目めまい 達成段階 1: 基本的な知識を得た 5: 複雑な病態 状況下で 自らが中心となって対応できた 臨床研修の到達目標 Ⅱ 経験目標 B 経験すべき症状 病態 疾患 11) めまい

な問診とはいえない 前者は末梢性 後者は中枢性 ( 意識中枢のある脳幹毛様体が虚血を起こす 脳幹 小脳などの中枢性の平衡障害 ) の傾向がいくらかあるという程度 まれに中枢性でも回転性めまいは起こる おかしいと思ったらアンカーを引き上げる それでも問診の入り口では めまいの性状を評価することが多いが

脳卒中とめまい

スライド 1

平成 25 年度 PBLユニット8 運動 感覚器 MEQ 試験問題 ( 症例 ) 本試眼科症例 65 歳男性 右眼視力障害を主訴に外来を受診した 今朝から急に右眼が見えなくなった 左眼はこれまで通り良く見える と述べた 問 1. この患者の右眼の眼底検査で黄斑部に出血がみられた場合にはどの様な疾患が

補聴器販売に関する禁忌 8 項目 の解説 はじめに 難聴の方が 最近 聞こえが悪くなった と感じて補聴器店を訪れたとき しばしば 補聴器をあわせる より先に 診断と治療 が必要な場合があります このような時には できるだけ早く診断と治療を受けることが望ましく まずは耳鼻咽喉科専門医である補聴器相談医

Microsoft PowerPoint - 疾患と治療1218解答.pptx

06: 耳鼻咽喉 頭頸部外科コース 1. 耳鼻咽喉 頭頸部外科コースの概説このコースでは 聴器 平衡器 鼻 副鼻腔 口腔 咽頭 喉頭 気管 食道および唾液腺 甲状腺を含む臨床解剖 生理を知り これら器官の疾患の診断および治療法についての概念を習得することにあるが さらにこれら疾患と他臓器疾患との関連

Microsoft Word - tohokuuniv-press _01.docx

saisyuu2-1

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2


医療連携ガイドライン改

第2次JMARI報告書

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

二 聴覚又は平衡機能の障害

兵庫大学短期大学部研究集録№49


10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

  遺 伝 の は な し 1

回転性めまいを主訴とする  小脳梗塞の一例


32:134 脳卒中 32 巻 2 号 (2010:3) 図 1 代表的 7 症候の有無の割合嘔気 嘔吐, 四肢失調, めまいは半数以上が呈している. 頭痛はわずかに 2 例と少ない. 域の梗塞はなかった.Stroke team 診察時に記載された症状 徴候から, 嘔気 嘔吐, 失調, めまい, 眼

Ø Ø Ø

聴覚系

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

四消化器系 ( 口腔及び歯牙 を除く ) 五血液及び造血器系六腎臓 泌尿器系及び生殖器系 ( 二 ) 心筋障害又はその徴候がないこと ( 三 ) 冠動脈疾患又はその徴候がないこと ( 四 ) 航空業務に支障を来すおそれのある先天性心疾患がないこと ( 五 ) 航空業務に支障を来すおそれのある後天性弁

入校糸でんわ indd

がん登録実務について

様式第 1 号 (2)( 第 2 条関係 ) 総括表 身体障害者診断書 意見書 聴覚 平衡 音声 言語又はそしゃく機能障害用 氏名年月日生男 女 住所 1 障害名 ( 部位を明記 ) 2 原因となった交通 労災 その他の事故 戦傷 戦災 自然災害疾病 外傷名疾病 先天性 その他 ( ) 3 疾病 外

karada003

医療が変わるto2020

くろすはーと30 tei

Microsoft PowerPoint 千里救命救急講義 .pptx [ユーザーが前回保存済み]

図表 リハビリテーション評価 患 者 年 齢 性 別 病 名 A 9 消化管出血 B C 9 脳梗塞 D D' E 外傷性くも幕下出血 E' 外傷性くも幕下出血 F 左中大脳動脈基始部閉塞 排尿 昼夜 コミュニ ケーション 会話困難 自立 自立 理解困難 理解困難 階段昇降 廊下歩行 トイレ歩行 病

ER・ICU 100のdon'ts−明日からやめる医療ケア

<955C8E862E657073>

盗血症候群について ~鎖骨下動脈狭窄症,閉塞症~

診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

<4D F736F F D F90D290918D64968C93E08EEEE1872E646F63>

には他の病態も考慮すべきである 3) めまい発作が週に 1 回 あるいはそれ以上頻回に起こる場合もあり そのような発作の群発は cluster( クラスター ) と呼ばれている 3) いったん病気が完成してしまうと めまいと難聴を繰り返し 平衡障害や難聴が不可逆的に進行し 日常の生活の質 (QOL)

Microsoft Word - 中耳炎3例2_H12_

330 先天性気管狭窄症 / 先天性声門下狭窄症 概要 1. 概要気道は上気道 ( 鼻咽頭腔から喉頭 ) と下気道 ( 気管 気管支 ) に大別される 指定難病の対象となるものは声門下腔や気管に先天的な狭窄や閉塞症状を来す疾患で その中でも先天性気管狭窄症や先天性声門下狭窄症が代表的な疾病である 多

医療が変わるto2020

実地医家のための 甲状腺エコー検査マスター講座

ここが知りたい かかりつけ医のための心不全の診かた

イ聴取距離測定の検査語は良聴単語を用いる 大声又は話声にて発声し 遠方より次第に接 近し 正しく聴こえた距離をその被検査者の聴取距離とする ウ両検査とも詐病には十分注意すべきである 2 平衡機能障害 (1) 平衡機能の極めて著しい障害 とは 四肢体幹に器質的異常がなく 他覚的に平衡機能障害を認め 閉

2 部位はまず本人に痛む場所を説明してもらう. 多くのケースでは罹患臓器の直上の部位を痛がるが, 必ずしも本人が説明する箇所が疾患部位とは限らない. 典型的なのが 急性虫垂炎. 本人は 胃が痛い! と上腹部痛であることを訴えたので, 上腹部のみ診察したところ圧痛も反跳痛もないため 急性胃腸炎 と診断

インフルエンザ定点以外の医療機関用 ( 別記様式 1) インフルエンザに伴う異常な行動に関する調査のお願い インフルエンザ定点以外の医療機関用 インフルエンザ様疾患罹患時及び抗インフルエンザ薬使用時に見られた異常な行動が 医学的にも社会的にも問題になっており 2007 年より調査をお願いしております

スライド 1

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

身体障害者診断書 意見書 ( 聴覚 平衡 音声 言語又はそしゃく機能障害用 ) 総括表 氏名 年月日生 ( ) 歳 男女 住所 1 障害名 ( 部位を明記 ) 2 原因となった 交通 労災 その他の事故 戦傷 戦災 疾病 外傷名 自然災害 疾病 先天性 その他 ( ) 3 4 疾病 外傷発生年月日年

Microsoft Word - 44-第4編頭紙.doc

2

Microsoft Word - 02tyoukakuheikoukinou

日本内科学会雑誌第98巻第12号

( 別添 ) インフルエンザに伴う異常な行動に関する報告基準 ( 報告基準 ) ( 重度調査 ) インフルエンザ様疾患と診断され かつ 重度の異常な行動を示した患者につき ご報告ください ( 軽度調査 ) インフルエンザ様疾患と診断され かつ 軽度の異常な行動を示した患者につき ご報告ください イン

平成 29 年度九段坂病院病院指標 年齢階級別退院患者数 年代 10 代未満 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代以上 総計 平成 29 年度 ,034 平成 28 年度 -

5 直腸診 : 消化管出血による貧血からの起立性失神を疑う場合に施行 6 外傷の有無 : 失神して転倒した際に外傷を合併していないか全身を評価する 検査 12 誘導心電図検査を全例に行う その他に必要に応じて血液検査 心エコー 胸部 X 線写真 頭部単純 CT 大血管造影 CT 脳波 妊娠反応 抗け

136 東京医科大学雑誌第 74 巻第 2 号 東医大誌 74 2 : , 2016 Horizontal semicircular canal benign paroxysmal positional vertigo Yasuo OGAWA 東京医科大学 医 科 科 Departme

< E682508FCD816091E682558FCD81698F4390B382A082E8816A2E786477>

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

h29c04

アトピー性皮膚炎の治療目標 アトピー性皮膚炎の治療では 以下のような状態になることを目指します 1 症状がない状態 あるいはあっても日常生活に支障がなく 薬物療法もあまり必要としない状態 2 軽い症状はあっても 急に悪化することはなく 悪化してもそれが続かない状態 2 3

PowerPoint プレゼンテーション

頭頚部がん1部[ ].indd

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

17_504

題目(主題)

249 グルタル酸血症1型

ブラッシュアップ急性腹症 第2版

目次 1. 地域医療連携パスとは 肝疾患医療連携パスの運用方法について... 3 (1) 特長 (2) 目的 (3) 対象症例 (4) 紹介基準 (5) 肝疾患医療連携パスの種類 (6) 運用 3. 肝疾患医療連携パス... 7 (1) 肝疾患診断医療連携パス ( 医療者用 : 様式

医療関係者 Version 2.0 多発性内分泌腫瘍症 2 型と RET 遺伝子 Ⅰ. 臨床病変 エムイーエヌ 多発性内分泌腫瘍症 2 型 (multiple endocrine neoplasia type 2 : MEN2) は甲状腺髄様癌 褐色細胞腫 副甲状腺機能亢進症を発生する常染色体優性遺

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

心房細動1章[ ].indd

外科学

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

124 皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症

2017 年 9 月 画像診断部 中央放射線科 造影剤投与マニュアル ver 2.0 本マニュアルは ESUR 造影剤ガイドライン version 9.0(ESUR: 欧州泌尿生殖器放射線学会 ) などを参照し 前マニュアルを改訂して作成した ( 前マニュアル作成 2014 年 3 月 今回の改訂

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

第 2 再審査請求の理由 第 3 原処分庁の意見 第 4 争 点 本件の争点は 請求人に残存する障害が障害等級第 14 級を超える障害等級に該当する障害であると認められるか否かにある 第 5 審査資料 第 6 事実の認定及び判断 1 当審査会の事実の認定 2 当審査会の判断 (1) 請求代理人は 本

幻覚が特徴的であるが 統合失調症と異なる点として 年齢 幻覚がある程度理解可能 幻覚に対して淡々としている等の点が挙げられる 幻視について 自ら話さないこともある ときにパーキンソン様の症状を認めるが tremor がはっきりせず 手首 肘などの固縮が目立つこともある 抑うつ症状を 3~4 割くらい

2011年度版アンチエイジング01.ppt

1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

第1 総 括 的 事 項

めまいの起源を求めて

<4D F736F F F696E74202D E8BA689EF89EF88F58E968BC68F8A92F188C48E9197BF>

<4D F736F F D E937892CA926D81698E7B8D7394C CA8E86816A2E646F63>

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

Transcription:

耳鼻咽喉科 篠森裕介

症例 : 主訴 : 現病歴 : 既往歴 : 生活歴 : 78 歳女性 めまい 平成〇年〇月〇日 23 時頃より回転性めまい 嘔気 嘔吐が出現 持続するため〇〇病院を受診し 入院加療を受けた 〇月〇日心窩部痛が出現し 当院救急外来に紹介され 入院 頭部 CT MRI では特記所見なし 〇月〇日頭位変換時の回転性めまいが持続するため末梢性めまいを疑われ耳鼻咽喉科紹介 めまいに伴う難聴 耳鳴 耳閉感の自覚なし 意識消失 眼前暗黒感なし 高血圧 狭心症 喘息 肝疾患 SAH 白内障飲酒 喫煙なし

鼓膜所見 : 両側とも瘢痕あり 穿孔なし 周波数 (Hz) 聴力レベル (db) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 難聴の既往なし めまい発症後も難聴の自覚なし

診断 : 末梢性めまい 1 BPPV-Hc( 患側不明 ) 回転性めまい 頭位性に出現 耳症状を伴わない 意識消失や眼前暗黒感なし BPPV らしい 内科診察や MRI で中枢神経疾患なさそう 方向交代性下向性眼振 持続時間が長い BPPV-Hc( 軽いクプラ結石?) 中枢性めまいの除外要 2 右メニエール病低音障害型難聴 メニエール病合併? 方向交代性下向性眼振 メニエール病発作による眼振ではない 難聴の程度の割に自覚症状に乏しい メニエール病が合併しているとしても陳旧性か?

第 16 病日 周波数 (Hz) 聴力レベル (db) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 眼振はほぼ消失した

耳鼻咽喉科で取り扱うめまい疾患 良性発作性頭位めまい症メニエール病前庭神経炎突発性難聴内耳炎側頭骨骨折 外リンパ廔聴神経腫瘍ハント症候群薬物中毒性めまい

体性感覚とその制御 深部知覚 複数の感覚情報のアンバランス めまい

体性感覚とその制御 視覚 大脳 小脳網様体賦活系錐体外路系 空間識 眼球運動の制御 深部知覚 姿勢制御 平衡覚 運動の制御 これらの経路のどこが障害されてもめまいがおきる

めまい 気が遠くなりそうなめまい はっきりしないふらつき感 ぐるぐる回るめまい Pre-syncope dizziness vertigo 心血管性めまい不整脈など 起立性調節障害 電解質薬剤その他 中枢性めまい小脳梗塞など 末梢性めまい

Ⅰ. メニエール病確実例難聴 耳鳴 耳閉塞感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する Ⅱ. メニエール病非定型例下記の症状を示す症例をメニエール病非定型例と診断する 1 メニエール病非定型例 ( 蝸牛型 ) 難聴 耳鳴 耳閉塞感などの聴覚症状の増悪 軽快を反復するが めまい発作を伴わない 2 メニエール病非定型例 ( 前庭型 ) メニエール病確実例に類似した めまい発作を反復する 一側または両側の難聴などの蝸牛症状を合併している場合があるが この聴覚症状は固定性で めまい発作に関連して変動することはない この病型の診断には めまい発作の反復の状況を慎重に評価し 内リンパ水腫による反復性めまいの可能性が高いと判断された場合にメニエール病非定型例 ( 前庭型 ) と診断すべきである 原因既知の疾患の除外メニエール病確実例 非定型例の診断にあたっては メニエール病と同様の症状を呈する外リンパ瘻 内耳梅毒 聴神経腫瘍 神経血管圧迫症候群などの内耳 後迷路性疾患 小脳 脳幹を中心とした中枢性疾患などの原因既知の疾患を除外する必要がある

メニエール病の特徴 めまいは典型例では回転性である しかし, 発作時のめまいが浮動性の例も約 % 存在する めまいの持続は 数分 ~ 数時間 ( 発作性 ) である 一過性 ( 数秒 ~ 数分 ) のめまいのみではメニエール病は否定的である めまい発作に伴い耳鳴 難聴が変動する

内リンパ水腫

( 大阪大学耳鼻咽喉科山川例 ) 内リンパ水腫

内リンパ水腫の原因 ( 説 ) 障害の部位 内リンパ嚢における吸収障害 内耳 ( 血管条 ) における産生過剰 障害の機序水調節ホルモンの異常 (ADH アクアポリン) 解剖学的異常ウイルスの再活性化

メニエール病の聴力 蝸牛症状はめまい発作と一致して現れたり悪化したりし めまいの寛解と共に正常に復したり軽快したりする めまい発作の始まる前に 蝸牛症状が先行して現れることもしばしばある 難聴の程度は病気の初期には軽度の低音障害型であるが 発作を繰り返しているうちに難聴は高度になり 全周波数にわたって聴力が悪化する

63 歳女性主婦 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 90 90 初診時 0 3d 後 0 1Y6M 後 1 1 1 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 90 90 1Y7M 後 0 2Y6M 後 0 3Y 後 1 1 1 1

47 歳男性公務員 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 90 90 初診時 0 2w 後 0 3M 後 1 1 1 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 1 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 聴力レベル (db ) 0 30 40 50 60 70 80 周波数 (Hz) 125 250 500 1,000 2,000 4,000 8,000 90 90 6M 後 0 1Y 後 0 3Y 後 1 1 1 1

メニエール病の眼振 発作時には水平あるいは水平回旋混合性の定方向性眼振が出現する 眼振は発作時患側に向かい, 発作が軽減すると健側に向かうことが多い 間歇期は自発眼振を認めないことも少なくない

メニエール病の治療 薬物治療利尿剤ステロイド循環改善剤ビタミン B12 抗酸化剤抗めまい薬重曹水トランキライザー 手術 処置内リンパ嚢手術 GM 注入療法前庭神経切断術迷路摘出術 ストレス ( 過労 睡眠不足 心労 ) を避け 規則正しい生活を!

厚生省特定疾患前庭機能調査研究班による 良性発作性頭位眩暈症の診断基準 特定の頭位変化をさせた時に誘発される回転性めまい めまい出現時の眼振は次の性状を示すことが多い 1. 眼振の出現に潜時がある 2. めまい頭位を反復すると眼振は軽快ないし消失する 3. 回転性要素の強い頭位眼振 めまいと関連する蝸牛症状や中枢神経症状を認めない

耳石 耳石の迷入

右側頭骨 頭側 尾側

BPPV の分類 2 外側半規管型 3 前半規管型 ( まれ ) 1 後半規管型

BPPV の分類 半規管結石 canalolithiasis クプラ結石 cupulolithiasis

BPPV の症状 1. 特定の頭位をとると, 回転性 ( 症例によっては動揺性 ) のめまいが起こる 実際には, 起床 就寝時, 棚の上の物を取る上向き, または洗髪のような下向き頭位, 寝返りなどで誘発されることが多い 2. めまい発現まで若干の潜時があり, 次第に増強した後に減弱, 消失する めまいの持続時間は概ね数秒 ~ 数 秒である めまい発現時にはめまい症状に伴って増強 減衰する眼振が観察される 3. 引き続き同じ頭位を繰り返すと, めまいは軽減または起きなくなることが多い 4. めまいには難聴や耳鳴などの聴覚症状を随伴しない また, 嘔気 嘔吐をきたすことがあるが, めまい以外の神経症状を随伴することはない 5. これらの頭位誘発性めまいと眼振は, メニエール病, めまいを伴った突発性難聴, 前庭神経炎などの経過中に発現することがある

BPPV の眼振の特徴 頭位性 潜伏時間 反復による減衰現象 回旋性眼振 頭位変換で眼振の回旋方向が逆転

BPPV の眼振 頭位眼振検査 半規管結石 外側半規管型 BPPV クプラ結石 頭位変換眼振検査 右患側 後半規管型 BPPV 左患側

頭位変換眼振検査 (Dix-Hallpike 法 )

BPPV の治療 保存的治療 理学療法 ( 耳石置換法 非特異的理学療法 ) 薬物療法 ( 対症療法 ) 手術治療 半規管遮断術前庭神経切断術

良性発作性頭位眩暈症の治療

Epley 法 ( 耳石置換法 ) 1 4 2 3

Semont 法 ( 耳石置換法 ) 1 4 2 3

52 歳男性 主訴 : 回転性めまい 左耳鳴 現病歴 : チェーンソーを使用した翌朝 左耳鳴に気づいた 2 週間後 夕方 突然に左耳鳴の増悪と回転性めまいをきたしたので入院 経過 : 入院の翌日 左聴力の悪化と右向きの水平回旋性の自発眼振を認めた 小脳症状はなかった 3 日後 自覚的にめまいは軽快したが 大打性の眼振は持続

脳幹梗塞

症例 : 主訴 : 現病歴 : 既往歴 : 家族歴 : 63 歳 男性 回転性めまい 平成〇年〇月某日 ( 第 1 病日 ) 鼻閉を自覚 耳抜きを行った際 回転性めまいが出現した 同日当院救急外来を受診 いったん帰宅するも再度めまい有り 当院内科へ入院となる 第 2 病日より右難聴 耳閉 耳鳴 ( キーン ) を自覚 第 3 病日当科紹介受診となる 高血圧 糖尿病 紫斑病性腎炎特記事項なし

頭部単純 CT ( 第 1 病日 ) 当科初診時所見 ( 第 3 病日 ) 鼓膜所見 : 両側とも正常 第 Ⅷ 脳神経以外の脳神経症状無し 意識清明四肢麻痺 しびれ :(-) 構音障害 :(-) 頭蓋内に明らかな病変を指摘できない

聴力検査 ( 第 3 病日 ) 眼振検査 ( 第 3 病日 ) (db) - 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 左向き水平回旋混合性眼振 125 250 500 00 00 4000 8000 (Hz)

治療経過 臨床経過からは外リンパ瘻が考えられたため 第 3 病日に当科へ転科し 突発性難聴に準じた投薬を開始 およびベッド上安静を保つ 第 6 病日 : 右顔面 (V₂ 領域 ) のしびれ感 PSL 60mg/day 40mg/day 30mg/day mg/day mg/day メコバラミン ATP ニコチン酸トコフェロール ファモチジン 0 1 2 3 5 6 7 8 11 14 17 めまい 内科入院 耳症状出現 当科受診 転科 三叉神経症状 M R I 検査

頭部 MRI ( 第 7 病日 ) T1WI: 小脳脚部にわずかな低信号域 ( 矢印 ) T2WI: 小脳脚部に不均一な高信号域 ( 矢印 ) DWI: 小脳脚部に高信号域 ( 矢頭 )

めまいをきたす小脳梗塞 後下小脳動脈 (posterior inferior cerebellar artery:pica) 梗塞 小脳梗塞の原因として最も多い回転性めまいと歩行障害が多い一般に聴力障害は無い 前下小脳動脈 (anterior inferior cerebellar artery:aica) 梗塞 AICAは迷路動脈を分枝して内耳へ血液を供給する AICAは橋下部 延髄上部へ血液を供給する難聴 耳鳴を認める 上小脳動脈 (superior cerebellar artery:sca) 梗塞 めまいは少ない構音障害 四肢失調を示すことが多い

(db) - 0 30 40 50 60 70 80 90 0 1 聴力検査 ( 第 38 病日 ) 眼振検査 ( 第 38 病日 ) 125 250 500 00 00 4000 8000 (Hz)

めまい 気が遠くなりそうなめまい はっきりしないふらつき感 ぐるぐる回るめまい Pre-syncope dizziness vertigo 心血管性めまい不整脈など 起立性調節障害 電解質薬剤その他 中枢性めまい小脳梗塞など 末梢性めまい